『ドリトル先生と牛女』




                第四幕  歯について

 先生達は牛女さんのお家でご馳走になってから口裂け女さんに送られてお家に戻りました、そこで口裂け女さんは先生に尋ねました。
「牛女さんは治るんですね」
「はい、ご心配なく」
 先生はにこりと笑って答えました。
「抜くこともなく」
「手術したらですか」
「ちゃんと治ります」
「そうなんですね」
「ですから」
 それでというのです。
「後は手術の時間が決まれば」
「先生がですね」
「手術します」
「牛の歯も治せるんですね」
「獣医なので」
 だからだというのです。
「そちらの免許も持っていますので」
「じゃあ牛女さんの歯は」
「完治します」
「間違いなくですね」
「ご安心を」
「ではお任せしますね」
 口裂け女さんはにこりと笑って応えました。
「牛女さんの歯は」
「虫歯は痛むだけでなく」
「健康にもですね」
「悪いので」
 だからだというのです。
「見付ければです」
「すぐに治した方がいいんですね」
「はい」
 実際にという返事でした。
「よく噛まなくなって痛みで寝られなくなったり物事に集中出来なくなったり」
「本当に怖いですね」
「ですから」
 それだけにというのです。
「虫歯は見付けましたら」
「早くですね」
「治すことです」
 何といってもというのです。
「本当に」
「では牛女さんも」
「見付けたからには」
「すぐに治療すべきなんですね」
「虫歯はそうしないと駄目です」
「じゃあ日のことは」
「そちらで、ですね」
 先生は牛女さんに尋ねました。
「決めてくれますね」
「そうさせてもらいます」
「ではそちらはお願いします」
「また連絡させてもらいますね」
「お願いします」
 こうしたお話をしてでした。
 先生は口裂け女さんに送ってくれたお礼を言ってから皆と一緒にお家に入りました、王子はそのまま執事さんと一緒にご自身のお家に帰りました。
 それで先生は動物の皆と一緒になりましたが。
 ちゃぶ台のある居間で作務衣姿になってからウイスキーをロックで飲んで干し肉を食べつつ言いました。
「歯はね」
「大事だよね」
「本当に」
「先生歯のことも言ってるけれど」
「実際にだよね」
「歯は大事だね」
「うん、今言った通り虫歯は放っておいたら駄目だし」
 健康面から言ってもというのです。
「歯槽膿漏もね」
「駄目だね」
「そちらも健康に悪いよね」
「そうだね」
「だからね」
 それでというのです。
「歯のことはね」
「すぐにだね」
「治すべきだね」
「見付け次第」
「そうしないと駄目ね」
「人間も生きものもね」
 誰でもというのです。
「勿論妖怪もね」
「だからああしてだね」
「牛女さんにお話したんだね」
「そういうことね」
「そうだよ、虫歯がどれだけ健康に悪いか」 
 それこそというのです。
「わかったものじゃないよ、健康な歯がね」
「健康な体を作る」
「そういうことだね」
「だから歯はいつも磨いて」
「それで奇麗にしないと駄目ね」
「牛女さんは奇麗にしていたよ」
 歯はよく磨いていたというのです。
「けれどやっぱりね」
「ライムジュースね」
「それをかなり飲んでいたっていうけれど」
「実際になんだ」
「かなり飲んでいたから」
「虫歯になったのね」
「うん、歯を磨いても」
 それでもというのです。
「やっぱりライムは歯に悪いから」
「飲み過ぎるとだね」
「虫歯になる」
「そうなるのね」
「そうだよ、ライムは確かにビタミン補給にはいいけれど」
 このことは事実でもというのです。
「どうしてもね」
「そこが問題ね」
「確かに滅茶苦茶酸っぱいし」
「酸性強いわね」
「しかも柑橘類だから糖分もかなり入ってるし」
「歯には悪いね」
「しかも牛女さんは元々甘いものが好きだそうだから」
 このこともあってというのです。
「余計にね」
「虫歯になりやすくなっていて」
「実際に虫歯になった」
「そうなんだね」
「うん、これは僕も気をつけないとね」
 ウイスキーを飲みながら言いました。
「言っている自分自身もね」
「そう言って自分も虫歯になったらね」
「まさに医者の不養生」
「本末転倒だよ」
「まさに」
「そうなるからね」
 だからだというのです。
「気をつけないと駄目だよ」
「だから先生いつもしっかりと歯も磨いてるね」
 ジップはこのことを指摘しました。
「そうしているね」
「寝る前は絶対に磨いているね」
 チーチーも言います。
「歯を」
「大体一日二回か三回は磨いてるわよ」
 ポリネシアも指摘しました。
「基本毎食後ね」
「そうして磨いているからだね」
「先生は歯もお口の中も奇麗で」
 チープサイドの家族も言います。
「虫歯にならないのね」
「歯槽膿漏とかもね」
「若し歯を磨かなかったら」
 どうなるか、ホワイティは言いました。
「先生も虫歯になるね」
「それで大変なことになっているわよ」
 ダブダブの指摘は容赦のないものでした。
「先生も」
「いや、そう思うと歯磨きは大事だね」
 老馬の言葉はしみじみとしたものでした。
「お口の中も常に健康に」
「身体だけじゃなくてお口の中もだね」
 トートーの口調はしみじみとしたものでした。
「いつも奇麗に」
「さもないと虫歯になったり」
「歯槽膿漏にもなって」
 オシツオサレツはお互いの口の中の歯を見ながらお話しています。
「健康も害する」
「本当に怖いね」
「だから先生も歯を磨いてね」
 最後にガブガブが言いました。
「僕達もそうしているね」
「うん、本当にね」
 まさにとです、先生は皆に言いました。
「歯磨きは大事だよ」
「全くだね」
「毎日ちゃんと歯を磨かないとね」
「健康の為にも」
「虫歯になって痛みで苦しまない為にもね」
「実は日露戦争で活躍した児玉源太郎さんも虫歯だったんだ」 
 先生はこの人のお話もしました。
「それで苦しんだらしいよ」
「そうだったんだ」
「あの人虫歯だったんだ」
「それで苦しんだんだ」
「うん、あとね」 
 さらに言う先生でした。
「歯は迂闊に抜いたら駄目だよ」
「そうだよね」
「だから先生牛女さんの歯は抜かなかったんだね」
「手術で済むとわかったから」
「尚更だったのね」
「そうなんだ、歯が一本ないだけで」
 それだけでというのです。
「随分とね」
「違うんだね」
「歯が一本あるかないかで」
「それだけで」
「そうなんだ、だから歯は出来るだけ治療して」
 そしてというのです。
「抜くことはね」
「しないのね」
「出来るだけ」
「それで手術を選んだ」
「そうなのね」
「そうなんだ、昔の歯医者さんは抜くだけの人が多くて」
 それでというのです。
「よくなかったんだ」
「確かピョートル大帝?」
「ロシアの皇帝さんだったね」
「ロシアの近代化を推し進めた」
「あの人だったわね」
「あの人は興味があるものは何でも身に着けたがる人でね」
 そうした人でというのです。
「歯科のこともね」
「興味を持ったから」
「身に着けたんだ」
「そうだったんだ」
「船や大砲を造る技術も身に着けたから」 
 そうもしたというのです。
「あの人はね」
「何か凄いね」
「皇帝って畏まってると思っていたら」
「あの人は違ったんだね」
「そうだったのね」
「悪く言うと随分ガラッパチな皇帝さんでね」
 先生はこうした日本語も使いました。
「それでね」
「そうした技術を身に着けていたんだ」
「ご自身で」
「そんな人だったんだ」
「礼儀作法とには無頓着で」
 それでというのです。
「天衣無縫、我が道を行くで」
「うわ、遠くで見ているといいけれど」
「近くだと困る人?」
「そんな人かな」
「ひょっとして」
「うん、動く台風みたいな人で」
 実際にというのです。
「歯が痛い人を見たら大喜びでね」
「歯を治していたんだ」
「それはいいかな」
「いいことだね」
「虫歯を治してあげていたら」
「怪力で歯をペンチで引っこ抜いていたんだ」
 それがピョートル大帝の歯医者さんでした。
「身長二メートルでいつも斧やハンマーを使っていた怪力でね」
「うわ、痛そう」
「そんな人に歯を抜かれたら」
「虫歯より痛そう」
「思い切り歯を抜かれるなんて」
「物凄い力で一気に抜くから」
 虫歯になった歯をです。
「後で腫れ上がった人もいるそうだよ」
「うん、そうだね」
「何といっても」
「それはね」
「そっちの方が怖いんじゃない?」
「虫歯よりも」
「だから皇帝さんの前では皆歯が痛そうな素振りは見せなかったんだ」
 そうだったというのです。
「本当に歯を抜かれていたからね」
「皇帝さんらしくない行いだけれど」
「そんな虫歯の治し方もあったんだ」
「虫歯は抜く」
「そうしたものが」
「そしてこれが普通だったんだ」
 歯科のというのです。
「かつてはね」
「虫歯は抜く」
「それで終わりだったんだ」
「そうだったのね」
「だから昔は歯が何本かなくなっている人も多くて」
 それでというのです。
「今みたいに口に歯が沢山ある人もね」
「少なかったのね」
「昔は」
「そうだったのね」
「うん、虫歯になったら抜いていて」
 その歯をというのです。
「歯磨き粉や歯ブラシも今よりレベルが低かったし」
「ああ、そういえばね」
「歯磨き粉とか歯ブラシっていつもCMで言ってるね」
「最新技術を使ったとか」
「お口の中を清潔にするとか」
「そうね」
「こちらも日進月歩だから」
 技術的にというのです。
「凄い技術になっていてね」
「逆に言うと昔はそちらの技術も拙くて」
「それでなんだ」
「その分虫歯の人もいたんだ」
「今より多かったんだ」
「歯を磨くことの大事さも今より普及していなくて」
 それでというのです。
「そしてね」
「そのこともだね」
「虫歯も多かったのね」
「そうなんだね」
「歯のない人も」
「そうだよ、だから今日露戦争のお話もしたけれど」
 先生のお話はこちらに戻りました。
「乃木希典大将は歯がかなりなくなっていたんだ」
「児玉さんは虫歯で」
「乃木さんはそうだったんだ」
「皆歯で苦労していたんだね」
「昔は」
「うん、僕は今のところ虫歯になったことはないけれど」
 それでもというのです。
「虫歯になったらね」
「大変だね」
「虫歯はまずならないこと」
「そのことが大事だね」
「何といっても」
「そうだよ、だから毎日磨いていくよ」
 歯はというのです。
「そうしていくよ」
「それが第一だね」
「歯のことは」
「本当に」
「酷いお話もあってね」
 先生はウイスキーをさらに飲みました、ボトルのそれを自分で入れてロックで楽しみ続けています。
「ルイ十四世だけれど」
「フランスの王様だったね」
「ブルボン朝の」
「太陽王だったね」
「あの人はとあるお医者さんが歯は万病の元と言い出して」
 それでというのです。
「その人の手術を受けて歯を全部抜いたんだ」
「全部って」
「それは凄いね」
「というか歯が万病の元とか」
「よくそんなこと言ったね」
「医学は色々紆余曲折もあって」
 ただ順調に進歩していた訳ではないというのです。
「色々珍説も出てね」
「それはもう珍説の中の珍説だね」
「何といっても」
「物凄い説もあったね」
「聞いていて驚いたわ」
「それでルイ十四世は歯を全部抜いたけれど」
 それでもというのです。
「麻酔なしでかも抜いた跡を埋める為に焼きゴテも入れたんだ」
「それって酷過ぎてね」
「逆にそのお医者さんに怒りたいわ」
「よくそんな学説出たね」
「出せたわね」
「しかも手術は失敗して」
 そしてというのです。
「お口とお鼻がつながったんだ」
「尚更酷いね」
「もう悪魔みたいな所業だね」
「麻酔なしで歯を抜いて焼きゴテって」
「しかも手術が失敗したって」
「これで終わりじゃなかったしね」
 ルイ十四世の受難は続いたというのです。
「歯が全部なくなったから」
「ああ、噛めないね」
「歯がないから」
「それも一本もだから」
「噛めないね」
「相当柔らかくしたものしか食べられなくなってね」
 噛めなくなってというのです。
「消化不良と下痢にも苦しんで」
「ただ痛いだけでなくて」
「まだなんだ」
「まだ続いたんだ」
「本当に地獄だね」
「さらになんて」
「おトイレが極端に近くなって」
 下痢をしてです。
「お口と鼻がつながったから食べたものがお鼻から吹き出てね」
「それも嫌だね」
「どうにも」
「苦しいよ、それ」
「食べたものがお鼻にいくって」
「そうしたことあるけれど」
 それでもとです、皆も言います。
「それがいつもだとね」
「これまた地獄だね」
「地獄の苦しみだね」
「何といっても」
「しかもお口の隅から隅まで奇麗に出来なくなったんだ」 
 ルイ十四世の苦しみはまだありました。
「お鼻とつながったからね」
「ああ、お口だけだとね」
「歯磨きをしたらお口全体も奇麗になるね」
「歯磨き粉が歯を磨いているうちに泡になって」
「それでお口全体も奇麗になるね」
「そうなるわね」
「それもなくなってね」 
 お鼻とつながった結果です。
「お口の中を全部奇麗に出来なくなって口臭もね」
「酷くなったんだ」
「そうなったのね」
「噛めなくなって下痢にもなって」
「口臭も酷くなって」
「あとあまりにも酷い下痢で」
 また下痢のお話になりました。
「体臭もね」
「ああ、それもね」
「仕方ないね」
「下痢が酷いとね」
「まあそのね」
「おトイレに行く前にとか」
「口臭も体臭も酷くなったんだ」
 両方共というのです。
「本当に大変だったんだよ」
「歯を全部抜いたらだね」
「そこまで酷いことになったの」
「もう地獄の苦しみじゃない」
「いいことは一つもない」
「ルイ十四世も大変だったね」
「これが四十一歳の時でルイ十四世は七十九歳まで生きたけれど」
 それでもというのです。
「ずっとね」
「ルイ十四世は大変だったんだ」
「歯を全部抜いたせいで」
「あとの三十八年はそうだったのね」
「人生ではかなり長い期間だけれど」
「大食漢でもあったけれど」
 そちらでも有名な人だったというのです。
「本当にね」
「大変だったんだね」
「どれだけ歯が大事かわかったわ」
「そうしたお話を聞いたら」
「僕もそう思うよ、医学は紆余曲折もあって」
 順調に進歩しているのではなく、です。
「珍説も結構出ているけれどね」
「それはまた極端ね」
「歯が万病の元とか」
「どうしてそうした結論になったかわからないけれど」
「とんでもない珍説ね」
「今の医学からみればそうした説もあったんだ」
 昔はというのです。
「本当に医学も他の学問と同じでね」
「紆余曲折があったのね」
「そうなんだね」
「かつては」
「そして今もかな」
「うん、今もかもしれないよ」
 先生も否定しませんでした。
「人は間違えるもので時としてね」
「おかしなことも言うから」
「そしておかしなこともするし」
「だからなのね」
「今もなんだね」
「そうした説も出ていると思うよ」
 珍説、それがというのです。
「僕もね」
「あらゆることで言えますね」
 トミーも言ってきました。
「世の中では」
「うん、ちょっと考えればおかしなことでもね」
「そうしたことを言う人が」
「そこは冷静に考えてね」
「自分でも検証してですね」
「見極めないとね」
 そうしないと、というのです。
「僕達も間違えてしまうよ」
「そういうことですね」
「そう僕は思うよ」
 こうお話してでした。
 皆はこの日は寝ました、そしてです。
 八条病院で牛女さんの歯の手術の日と時間も決まって先生はその準備にも入りましたがここで、でした。
 動物の皆は研究室で論文を書いている先生に言いました。
「先生も色々あるね」
「その人生でね」
「アフリカに行ったり航海したりね」
「サーカスやキャラバンや郵便局やったろ」
「月にも行ったし」
「そして今は日本にいるし」
「日本でも色々あるね」
 先生自身言います。
「確かにね」
「何とかね」
「色々あったわね」
「狐さんや狸さんと会ったり」
「北海道や長野や琵琶湖にも行って」
「高野山に入ってね」
「沖縄でヒヤンやハイとも会ったし」
 本当にというのです。
「色々あったね」
「そうだね」
「日本に来てからも」
「姫路城で宴のセットもしたし」
「本当に色々あったね、そしてね」
 先生は論文を書きながらさらに言いました。
「今度は牛女さんの歯の手術だね」
「妖怪の歯の手術っていうのも」
「凄いね」
「こうした経験も滅多にないよ」
「そうそうね」
「先生の人生は本当に色々あるよ」
「それがまた楽しいね、ピンチがあっても」
 それでもというのです。
「皆がいるから何とかなってきたし」
「僕達がいてなんだ」
「トミーや王子も」
「それでなんだ」
「ピンチも乗り越えてきているし」 
 それでというのです。
「運もあるね」
「先生いつも言ってるね」
「本当に運がいいって」
「そうね」
「うん、僕は本当に運がいいよ」
 実際にというのです。
「有り難いことにね」
「それでピンチも何とかなって」
「僕達と一緒にいわれて」
「それで幸せに過ごせている」
「そうなのね」
「そうだよ、出会う人や生きものも性格がいい相手ばかりだしね」
 このこともいいというのです。
「僕は本当に幸せだよ」
「まあ悪人は何処でもいるし」
「残念なことに」
「けれど先生には実際に僕達がいるし」
「ピンチは何とかするし」
「悪い人が来てもね」
「いつも悪いね」
 先生は論文を書きつつ紅茶を飲みます、ミルクティーを飲んでいますが先生はやっぱりお茶では一番好きです。
 それでその紅茶についても言いました。
「しかも美味しいお茶も飲めるしね」
「紅茶飲むと頭が冴えるんだよね」
 ホワイティが言ってきました。
「先生は」
「だからよく飲むんだよね」
「論文を書く時もね」
 チープサイドの家族も言います。
「それで頭を冴えさせてね」
「飲んでいくのね」
「しかも目も覚めるし」
 このことはジップが指摘しました。
「そちらもいいんだよね」
「尚且つ美味しい」 
 ガブガブは食いしん坊だけあってこのことがお話しました。
「余計にいいね」
「紅茶とミルクの組み合わせは最高よ」
 ダブダブも言います。
「イギリスが生み出した最高の飲み方よ」
「そこにお砂糖も入れてさらに甘くする」
 老馬はこちらを忘れませんでした。
「これがいいんだよね」
「物凄く甘くして飲む」
 トートーはそのミルクティーを飲む先生を見ています、勿論そのミルクティーにはお砂糖が入っています。
「それがいいんだよね」
「何杯も飲んでね」
 こう言ったのはポリネシアでした。
「論文を書くのが先生のスタイルだね」
「論文どんどん書いているけれど」
 チーチーは先生の飲みながらも続いている速筆を見ています。
「それが先生の学問だね」
「先生の学問ってお茶が欠かせないね」
「読む時も飲んでるし」
 オシツオサレツも言います。
「その中でも特に紅茶だね」
「とりわけミルクティーだね」
「うん、ただね」
 先生は笑いながら言いました。
「甘いものを飲んでいるから」
「そうそう」
「先生もしっかり歯を磨いているね」
「虫歯にならない様に」
「そうだね」
「うん、虫歯の怖さは知っているから」
 だからだというのです。
「そうしているよ」
「そうだね」
「糖尿病にも気をつけてお砂糖は入れても少なくしてるし」
「沢山入れていないわよ」
「入れない時もあるし」
「ミルクの甘さだけでもいいしね」
 その味がというのです。
「だからね」
「飲んでるね」
「今もね」
「そうしているね」
「うん、ミルクティーは大好きだよ」
 何といってもというのです。
「だから今の論文もね」
「書いていくんだね」
「どんどん」
「そうしていくのね」
「学者は論文を書くことだよ」
 これが仕事だというのです。
「何といってもね」
「学んでね」
「読んで検証して」
「フィールドワークもして」
「そうしていくことだよ、若ししないと」
 学んでそして論文を書かないと、というのです。
「学者としてね」
「よくないね」
「そうだよね」
「何といっても」
「そうだね」
「若しそれをしなかったら」
 その時はというのです。
「学者としてはね」
「よくないね」
「やっぱり学者さんならね」
「論文を書かないとね」
「読んで検証してね」
「フィールドワークもして」
「そうしないと駄目だよ」
 こう言いつつ論文を書きます、そして。 
 先生はロシア語の本を読んでまた言いました。
「実は今は歯科の本を読んでいるんだ」
「その歯だね」
「今度牛女さんの歯を手術するけれど」
「歯の論文を書いているんだ」
「歯科のそれを」
「そうなんだ」
 皆に笑ってお話しました。
「今はね」
「手術をしながら論文も書く」
「奇遇だね」
「それはまた」
「そうだね、ちなみに論文は鮫の歯だよ」
 この生きもののことだというのです。
「あのお魚のものだよ」
「あの歯が何列もあって」
「折れてもすぐに次の歯が出て来るっていう」
「あのお魚ね」
「それなんだ」
「うん、鮫の歯は面白いね」
 こうも言う先生でした。
「学んでいると」
「普通歯は一列でね」
「折れたら次はないけれど」
「それでもね」
「鮫の歯が違っていて」
「折れても次が生える」
「すぐにそうなるのよね」
「それが面白くて」
 それでというのです。
「学んでいてもね」
「学びがいがあるんだ」
「先生にとっても」
「そうなのね」
「実際に」
「面白いね、人間の歯はね」 
 先生は自分達の歯のお話もしました。
「乳歯と永久歯があるね」
「そうそう」
「それで乳歯は子供の頃に抜けて」
「その下から永久歯が出て来る」
「そうなるのよね」
「この乳歯が抜ける時がもどかしいんだよね」
 先生は笑って言いました。
「これが」
「皆そう言うね」
「人間の人達は」
「乳歯が抜ける時がもどかしいって」
「歯がぐらぐらと揺れて」
「その感触が」
「僕も経験したけれどね」
 人間だからです、当然先生も乳歯が抜けています。
「歯が揺れてね」
「その下から永久歯が出て来る」
「その感触がどうにもだね」
「もどかしいんだね」
「いい感触ではないね」
 どうにもというのです。
「それでレントゲンを取ったら」
「歯が縦に二列ある」
「そうだよね」
「人間の子供ってね」
「そうなのよね」
「うん、そうもなっていて」
 それでというのです。
「成長するとね」
「それでだね」
「徐々に歯が抜けていって」
「永久歯になって」
「後は生え代わらないんだよね」
「そう、けれど鮫はね」
 今論文に書いているこの生きものはというのです。
「何度でもね」
「生え代わるね」
「すぐに次の歯が出るね」
「歯が折れても」
「そうなるわね」
「かつてはプロトペランという鮫もいて」
 この鮫はといいますと。
「下顎に何列もね」
「もう歯があったの」
「そうだったんだ」
「既に」
「物凄い姿だったんだ」
 そのプロトペランという鮫はというのです。
「本当にね」
「そうだったんだ」
「鮫も色々だね」
「進化の過程でそんな鮫もいたんだ」
「かつては」
「そうだよ、そして今の鮫はね」
 その歯はというのです。
「それこそね」
「何度もだね」
「歯が生え代わる様になっている」
「そうだね」
「これだと虫歯になっても」
 それでもというのです。
「大丈夫だね」
「その歯が駄目になってもね」
「すぐに別の歯が生えるから」
「何の問題もないね」
「確かに」
「便利な歯ではるね」
 先生は笑って言いました。
「それは」
「うん、歯は抜けたら終わりだけれど」
「その時は」
「けれど鮫はね」
「そうしたことはないからね」
「いいね、まあ鮫は他にも色々あるよ」
 論文を書きつつ言いました。
「種類も多いし」
「かなり多いっていうね」
「鮫と一口に言っても」
「そうだね」
「この学園の水族館でもそうだね」
 鮫達がいるというのです。
「そうだね」
「ネコザメとかドチザメとかいるね」
「あと他にもね」
「鮫の仲間がいるね」
「ああした鮫達もいればホオジロザメやアオザメもいるね」
 こうした鮫達の名前も出しました。
「そうだね」
「人食い鮫だね」
「大きくて怖くて」
「いつも泳いでいないと死ぬんだったね」
「そうした鮫達もいれば深海にもね」
 そちらにもというのです。
「鮫達がいるね」
「ええと、ミツクリザメとか」
「あとラブタザメとかもいたかな」
「そうだったね」
「そちらにもね」
「本当に鮫の種類は多いよ」
 実際にというのです。
「何かとね」
「そうだね」
「一口に鮫といっても」
「種類が多いね」
「そうだよ、さっき人食い鮫って言葉が出たけれど」
 鮫といえばそれという言葉でした。
「ヨシキリザメみたいにスマートな鮫もいればイタチザメみたいに見るからに獰猛そうな鮫もいるよ」
「人食い鮫っていっても」
「ホオジロザメだけじゃないのよね」
「あの鮫映画にも出てるけれど」
「大きくてとても狂暴で」
「滅茶苦茶怖いけれど」
「あの鮫もいてね」
 そしてというのです。
「シュモクザメみたいな鮫もいるよ」
「あのトンカチみたいな頭の形の鮫ね」
「あの鮫も目立つよね」
「目がそのトンカチみたいな頭の左右にあって」
「一度見たら忘れられないよ」
「だから鮫の進化や生態も学ぶと面白いんだ」
 そうだというのです。
「これがね」
「成程ね」
「そして歯のこともなんだ」
「学ぶと面白い」
「そうなのね」
「そうだよ、だからね」 
 それでというのです。
「僕は今楽しんでいるよ」
「鮫のことを学んで」
「そうしているのね」
「そちらの学問のことも」
「そうなのね」
「学問は何でも好きだしね」
 学べるならです、それが先生なのです。
「今もだよ」
「先生鮫ともお話出来るしね」
「水族館でも出来るし」
「そうしたことも」
「だから水族館にも行って」
 そうしてというのです。
「そしてね」
「そこでだね」
「そちらの鮫さん達ともお話するのね」
「そうするんだね」
「歯のことを聞くよ」  
 鮫達に直接というのです。
「そうするよ」
「そして鮫語のこともだね」
「論文にも書く」
「そうするのね」
「そのことも書かないとね」
 鮫と鮫語で話すこともというのです。
「当然ね」
「そうだよね」
「学問は誠実に」
「それも先生のポリシーだね」
「若し学問が誠実でないと」
 その時はというのです。
「とんでもないことになるからね」
「学者さんが嘘吐くとね」
「誠実でないのならね」
「学問がどれだけ歪むか」
「そして悪影響が及ぶか」
「わかったものじゃないからね」
 だからだというのです。
「僕も気をつけてるよ」
「そうだよね」
「だから鮫語のことも書くね」
「そうするんだね」
「絶対にね」
 こう言ってです、先生は論文を書き続けます。そうしてでした。
 論文を書きつつ先生はこんなことも言いました。
「歯がどれだけ大事か」
「わかるね」
「何かと」
「そうした論文を書いていても」
「牛女さんのことでもね」
「本当にわかるわね」
「うん、じゃあ牛女さんの手術もね」
 これもというのです。
「しっかりとするよ」
「そうしてだね」
「そのうえでだね」
「牛女さんの虫歯を完治させる」
「そうするわね」
「絶対にね」
 こう言ってでした。
 先生は論文を書いていきました、そうして牛女さんのことも考えるのでした。








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