『ドリトル先生と姫路城のお姫様』




               第九幕  お姫様への提案

 日曜日になりました、するとです。
 先生はトミーと王子、動物の皆と一緒に姫路城に行きました。そしてすぐに本丸の天守閣に向かいました。
 するとです、動物の皆は先生に本丸の中を進みながら言いました。
「何度観ても奇麗な場所だね」
「そうだよね」
「白くて形も整っていて」
「本当に奇麗なお城だね」
「恰好もいいしね」
「そうだね、このお城自体がね」
 またこう言う先生でした。
「芸術品と言っていいね」
「本当にそうだよね」
「観ていて飽きないわ」
「じゃあ今からね」
「天守閣の中に入りましょう」
「そうしてね」
 先生は皆に穏やかな笑顔でお話しました。
「お姫様に会おうね」
「さて、お姫様にお会いするけれど」
 ここで言ったのは王子でした。
「あの人に提案してどうかな」
「お姫様がどう思われるかだね」
「どれも面白い提案だよ」
 洋食も花火もライトアップもというのです。
「センスのあるね、けれどね」
「それでもだね」
「あのお姫様がどう思われるか」
「それが問題だね」
「どうかと言う可能性もあるよ」
 先生もその可能性は否定しません。
「全部駄目だって言うこともね」
「有り得るね」
「うん、けれどね」
 それでもというのです。
「まずは提案をする」
「それが大事だね」
「そこからお姫様とお話をしてよりいいものを出すこともあるし」
「ああ、お話をしてだね」
「よりよい考えを出してもね」
「いいんだね」
「僕の考えが正しいか」
 それはというのです。
「そうとは限らないからね」
「だからだね」
「そう、それでだよ」
 ご自身の案はというのです。
「駄目でもね」
「いいんだ」
「そこからいい宴の案が出て実行に移されれば」
 それでというのです。
「僕はそれでいいよ」
「問題はいい宴になるかどうかだね」
「僕の案が通るかどうかじゃないんだ」
 先生はこう考えているのでした。
「設計図を出してもそれが正しいか」
「そこから改善したりするね」
「そうしたものだから」
「先生の案が通らなくてもいいんだ」
「いい宴になればね」
「その辺りも先生らしいね」
 王子は先生の言葉を聞いてしみじみと思いました。
「自分の考えよりもだね」
「そう、いいものになるか」
「それが第一だね」
「いいものになるんだったら」
 それでというのです。
「これ以上はないと思うよ」
「それじゃあ」
「そう、お姫様にお話しようね」
 いい宴にする為にとです、先生は言ってでした。 
 皆で天守閣に入りました、そうしてこの日も一階一階進んでいきますがその時に動物の皆が言うのでした。
「また天守閣からの景色を楽しめるね」
「それが出来るね」
「それで天守閣の最上階まで行く」
「このこともいいんだよね」
「いやあ、何度登ってもいい場所だね」
 老馬はとても楽しそうです。
「この天守閣は」
「外は奇麗で景色もいい」
「最高の場所だね」
 オシツオサレツも言うのでした。
「じゃあね」
「楽しみながら登っていこうね」
「このお城に住んでいると毎日登りたくなるかも」 
 こう言ったのはジップです。
「それで最上階からの景色を楽しむね」
「いいね、あそこからの景色が何といっても一番いいからね」
 トートーはジップのその言葉に頷きました。
「お城に住んでいると登りたくなるね」
「飛んだらすぐだけれど」
 ここでこう言ったのはポリネシアでした。
「それだと味気ないのね」
「最上階にこうして徐々に登ってそれぞれの階の景色も楽しむ」
「それが醍醐味よね」
 チープサイドの家族はこう考えました。
「何といっても」
「そうだからね」
「僕も最上階から観る景色が一番好きだけれど」
 ガブガブも言います。
「それぞれの階からの景色もいいからね」
「そうした景色を楽しみながら進む」
 ホワイティは実際に観ています。
「それがいいんだよね」
「じゃあね」
 それならと言ったのはダブダブでした。
「このまま登っていきましょう」
「お姫様のところには絶対に行くし」
 それならと言うチーチーでした。
「景色も楽しもうね」
「うん、そういえば急いで来いとはね」
 それはともです、先生は皆に応えました。
「言われていないし。道草は駄目だけれど」
「景色を楽しんでもいいわね」
「そちらを楽しんでも」
「別にね」
「うん、問題ない筈だよ」
 まさにと言ってです、そしてでした。
 先生は皆と一緒に一階一階登っていきました、立ち止まることはありませんでしたが足は止まりません。
 そしてです、皆ででした。
 天守閣の最上階に着くとすぐにお姫様が大勢のお付きの妖怪さん達を連れて出て来ました、そのうえで先生達に言うのでした。
「随分と早いのう」
「早いですか」
「もっと後で来ると思っておった」
 そうだったというのです。
「妾は」
「結構ゆっくり来たと思いますが」
「今日と言ったから夕方までに来ると思っておった」
「あっ、午前中に来たからですか」
「それでじゃ」
 その為にというのです。
「妾はこう言ったのじゃ」
「時間の感覚の違いですか」
「そうじゃな、妾は何百年も生きておる」 
 お姫様は妖怪です、その為人間よりもずっと長生きなのです。
「ならばな」
「その時間の感覚ですね」
「左様、そのせいであるな」
「僕達と時間の感覚が違っていて」
「それが為にじゃ」
 まさにというのです。
「こう思ったのじゃな」
「左様ですね」
「それでじゃが」
 お姫様は先生にあらためて言いました。
「宴の案は出たか」
「はい、ご馳走や催しについて」
「左様か。では聞かせてもらおう」
「それではのう」
 こうしてでした、先生はお姫様にご自身の宴の案をお話しました。その案を全部しっかりと聞いてからです。
 お姫様は先生に少し怪訝なお顔で言いました。
「茶はわかるが」
「他のことはですか」
「洋食とな」
「イタリアやスペイン、フランスの」
「海の幸を使ったじゃな」
「そうです」
 お料理のことから答える先生でした。
「そちらのお料理で。お酒もワイン等を考えています」
「ふむ。妾も南蛮の料理は知っているが」
「それでもですか」
「あまり食することはない」
 そうだというのです。
「嫌いではないが」
「そうですか。お嫌いではないですか」
「亀姫もな。しかし宴で出したことはな」
 それはというのです。
「ない」
「ではです」
「ここはか」
「はい、あえてです」
「南蛮料理を宴で出すか」
「そうされてはどうでしょうか」
「わかった、ではどうした料理を出すかもな」
 それもと言うのでした。
「後日先生の家に使いの者をやってな」
「そのうえで、ですね」
「話すとしよう」
「それでは」
「あと花火か」 
 お姫様は今度はこちらのことに言及しました。
「それか」
「はい、夜ですので」
「打ち上げてか」
「楽しまれてはどうでしょうか」
「人間達は冬にスキーを楽しみスキー場で花火も打ち上げておる」
 このことはというのです。
「妾も知っておるが」
「宴で打ち上げられたことはなかったですか」
「夏のみじゃ。冬の花火とな」
「これもいいかと思いまして」
「提案しておるか」
「左様です」
「ううむ、それはいいものであろうか」 
 お姫様は考えるお顔になって独り言の様に言いました。
「果たして」
「いいと思います、実際にです」
「スキーの場で、であるな」
「沢山打ち上げられているので」
 だからだというのです。
「僕はお勧めします」
「わかった、ではな」
「こちらもですね」
「やってみるとするか」
「それでは」
「そして天守閣をはじめとした城をじゃな」
 お姫様の言葉は続きます。
「灯りで飾るか」
「そしてイルミネーションもです」
「あれじゃな、十二月二十四日等に人間達が街を飾っておるな」
「あちらです」
「あれをか」
「このお城でしてみては」
「そうしたことも宴ですればよいのか」
 お姫様は深く考えるお顔のまま先生に応えます。
「これは考えたこともないわ」
「それで歌や舞やお芝居は」
「うむ、日本のものじゃな」
「そちらはどうかと。歌舞伎や能も入れて」
「おお、能か」
「こちらもどうでしょうか」
「先生はわかっておるのう」
 能についてはです、お姫様は先生に気品のある微笑みを見せて応えました。
「あれをとはな」
「いいとですか」
「妾は思う。歌舞伎もよいが能もよい」
 こちらもというのです。
「あれは独特の美がある」
「幽幻ですね」
「それがある、妾も宴でよく催させてな」
「亀姫様もですね」
「好きじゃ、そして合間に落語もか」
「どうでしょうか」
「尚よい。笑いまで入れるとはな」 
 それが実にというのです。
「先生はわかっておる。英吉利生まれであると聞いたが」
「日本にいて暫く経って学んでもいますので」
「それでもそこまで日本のことがわかっておるのはな」
 そえこそというのです。
「稀じゃ、日本人でもな」
「そうなのですか」
「よし、能と歌舞伎と落語はな」
 この三つはというのです。
「是非じゃ」
「宴で、ですか」
「催そう」
「それでは」
「その様にな」
「それでは」
「うむ、ではな」
 是非にとです、お姫様は先生に答えました。
「これは決める。あとライトアップやイルミネーションもな」
「こちらもですか」
「考える、しかし花火はな」
 これはといいますと。
「少し考えさせてもらいたい」
「左様ですか」
「花火は夏に打ち上げるものじゃ」
 このことはどうしてもというのです。
「だからじゃ」
「それは第二次世界大戦までの日本の考えで」
「今は違うしか」
「他の国ではです」
 それこそというのです。
「また違うので」
「だからか」
「はい、ここはです」
「冬の花火でもじゃな」
「いいかと」
「わかった、ではな」
 それではとです、お姫様は花火のこともそれならと頷きました。そして最後に先生にお話するのでした。
「して料理はな」
「このことはですね」
「後日先生のお家に使いの者をやる」
 またこのことをお話したお姫様でした。
「そしてじゃ」
「そのうえでじっくりとですね」
「話してもらいたい」
「それでは」
「さて、話は終わりじゃな」
 お姫様はここで安心した様なえがおになって述べました。
「ではじゃ」
「先生はこの後どうする」
「はい、お家に帰り」
「そうしてか」
「論文を書こうと思っています」
 こうお姫様に答えました。
「その様に」
「学者の仕事をするのじゃな」
「はい」
 そう考えているというのです。
「その様に」
「わかった、ではな」
「そちらもですね」
「励むのじゃ、やはり学者は学んでこそじゃ」
 そうしてこそというのです。
「学者であるからな」
「では」
「うむ、足労であった」 
 先生と他の皆にも労いの言葉をかけました。
「案を出してくれたし褒美をやろう」
「褒美といいますと」
「持って行くがいい」
 こう言ってです、お姫様はぽんと手を叩くと控えていた一つ目小僧があるものを出しました、それはといいますと。
「少ないがのう」
「あの、これは」
 先生も皆もその出されたものを見て驚きました、何とです。
 それは小判でした、小判が十枚単位で重ねられています。お姫様はその膳の上に置かれた小判達を出させて言うのでした。
「百両じゃ」
「百両もですか」
「だから少ないがのう」
「いえ、少ないなんてとんでもない」
 先生は驚いたまま言いました。
「これは」
「そうなのか」
「これだけあれば」
 それこそというのです。
「今のお金に換えたら」
「これ凄い額ですよね」 
 トミーもこう言います。
「江戸時代は十両で一人が一年暮らせましたから」
「それで百両なんてね」
「凄い額ですよ」
「本当にね」
「妾の一日の暮らし分もないがのう」
 お姫様はごく自然のお顔でした。
「だからじゃ」
「少ないですか」
「妾にとってはな」
「そうですか」
「問題ない」
 お姫様にとってはです。
「だから遠慮せずにじゃ」
「それで、ですか」
「受け取っておくのじゃ」
「そうですか」
「何なら今の時代のお金に換えるか」
 こうも言うお姫様でした。
「これからな」
「そうして頂けるのですか」
「ならばこれ位か」
 こう言って出したのは札束でしたが。
「四千万あるぞ」
「四千万ですか」
「遠慮しては駄目であるぞ」
 つまり絶対に受け取ってもらいたいというのです。
「よいな」
「では」
「その様にな」
 こうしてでした、先生は四千万の謝礼を受け取りました。そのうえでお城を後にしましたが。
 その四千万円分の札束をちゃぶ台の上に置いてです、先生は腕を組んでどうかというお顔で言うのでした。
「お金があるのは嬉しいけれどね」
「ううん、ちょっとね」
「これだけあるとね」
「困るよね」
「具体的にどう使うべきか」
「それはね」
「どうしようかな」
 動物の皆も考えています。
「これは」
「どうしようか」
「この四千万円ね」
「ぽんと出されても」
「嬉しいことは嬉しくても」
「どうしようかしら」
「先生、どうするの?」
 王子も先生に尋ねます。
「ここは」
「それがね、僕もね」
 先生は王子にどうかという顔のまま答えました。
「ちょっとね」
「困ってるんだ」
「うん、どうしようかってね」
「お姫様って凄いお金持ちなのはわかったけれど」
「それでもだね」
「先生にとってはね」
「いきなり四千万もの大金渡されるとね」 
 本当にというのです。
「困るよ」
「そうだよね」
「確かにお金を貰ったことは嬉しいよ」
 先生にしてもです。
「やっぱりね、けれどね」
「それでもだよね」
「どうするかはね」
「困るね」
「元々いつもお金がなかったから」
 イギリスにいた時はそうでした。
「今は困っていないけれど」
「それで充分だからね」
「僕はね」
 この辺り無欲な先生らしいです。
「だから余計にね」
「いきなりこれだけ貰うと」
「困るよ、どうしようか」
「貯金とか?」
 王子はふとこう言いました。
「そうしたらどうかな」
「銀行に預金だね」
「そうしたらどうかな」
「それも悪くないね」
 先生は王子の提案に少し頷きました。
「それも。ただね」
「貯金もなんだ」
「もっと違うかな、ここは」
「何か閃いたの?」
「僕達の為に使うよりも他の人の為に使ってもらおうかな」
 これが先生の考えでした。
「ここは」
「寄付するんだ」
「そうしようかな」
「寄付するんだ」
「そうしようか」
 こう言うのでした。
「四千万円ね」
「あっ、それでいいんじゃない?」
「僕達が持てあますんならね」
「他の人達に使ってもらうのがいいよ」
「それも寄付するならね」
「困っている人達が救われるし」
「先生の徳も積めるよ」
 動物の皆は先生の言葉に応えました。
「寄付はいいことだしね」
「人助けにもなるし」
「それいいかもね」
「じゃあ寄付してね」
「困っている人達を助けましょう」
「そうしましょう」
「八条グループは慈善事業も盛んにしているから」
 先生はこのことからも考えるのでした。
「それじゃあね」
「ここはだね」
「是非だね」
「寄付するんだね」
「そしてそのうえで」
「沢山の人に助かってもらうんだね」
「それがいいね、自分が持って困るのなら」
 それならというのです。
「人にあげるといいよ」
「そうしたらだよね」
「先生の徳も積めるから」
「先生天国に行けるよ」
「そうなるよ」
「先生は元々天国に行ける人だけれど」
 王子も言います。
「徳は積み過ぎるってことがないからね」
「僕も賛成です」
 トミーも言ってきました。
「先生、ここはです」
「寄付だね」
「四千万全額ですよね」
「うん、寄付してね」
 そうしてというのです。
「沢山の人達に助かってもらおう」
「それじゃあ」
 こうしてでした、先生はその四千万円をすぐに八条グループの慈善事業を行う部門にお話して寄付をしました。
 そのお話を聞いてです、次の日宴のお料理の打ち合わせで先生のお家に来たお姫様お付きの料理頭朱の盆は驚いて言いました。
「四千万全額ですか」
「はい、寄付をしました」
 先生はこう答えました。
「その様に」
「それはまた凄いですね」 
 朱の盆は驚いて言いました。
「全額とは」
「色々考えたんですが」
「使い道に困って」
「それならと思いまして」
 そうしてというのです。
「寄付をしました」
「そうでしたか」
「それで、です」
「はい、寄付をしたので」
「沢山の人が助かると思います」
「先生は徳を積まれたのですね」
「そうなりますね」 
 先生は朱の盆の真っ赤で大きなお顔を見つつ答えました、妖怪さんの着ている服は白い料理人のものです。
「この度は」
「実は先生がお金をどう使われるかはです」
「そちらでもですか」
「少し話題になっていましたが」
「どうも僕は贅沢とは無縁で」
「派手に遊んだりですね」
「そうしたことは性分ではないので」
 それでというのです。
「四千万円もです」
「使い道に困られて」
「そうしました」
 寄付をしたというのです。
「その様に」
「左様ですか、これはです」
 朱の盆は先生のお話をここまで聞いてこう述べました。
「先生にとって非常に大きな徳になり」
「いいことですね」
「はい、十倍になって返って来るでしょう」
「四千万がですか」
「必ず。徳はそうしたものですから」
 それ故にというのです。
「そうなります」
「そうなのですね」
「はい、ですから」
「今回の寄付は、ですね」
「素晴らしいことです、それでお料理のお話ですが」
「はい、そのことですね」
「洋食とのことですが」 
 あらためてです、朱の盆は先生に言いました。
「私共も洋食は時折作っていまして」
「どの様なものを作られていますか?」
「カレーライスやハンバーグ、豚カツ等です」
「日本の洋食ですね」
「ソーセージも茹でますしベーコンエッグも作ります」
「それなりに作っている様に見受けますが」
「ですがあくまでメインはです」
 それはといいますと。
「和食です」
「やはりそうですか」
「姫様がお好きなので」
 それでというのです。
「そうなっています」
「左様ですか」
「はい、それで具体的には何を作るのでしょうか」
「そうですね、アクアパッツァに」
 まずはこのお料理を挙げた先生でした。
「ブイヤベース、アヒージョ、パエリアと」
「どれも知っています」
「作ったことはおありですか」
「はい、作れと言われましたら」
 そうすればというのです。
「作ることが出来ます」
「それではです」
「はい、そちらをですね」
「作ります」
 先生にこのことを約束するのでした。
「そうしたものを」
「あとはステーキやグリルですね」
 こうしたお料理も挙げた先生でした。
「これまでのものは海の幸でしたが」
「山の幸もですね」
「使っていきましょう」
「それで今度はステーキですか」
「そうです、他にはチーズもありますし」
「いいですね、ではお野菜はサラダですね」
「はい、そちらをです」
 是非にと言うのでした。
「用意しましょう」
「それでは」
「そしてです」
 さらにとです、先生はお話を続けます。
「デザートはケーキ等ですね」
「ケーキですか」
「そうした洋菓子ですね」
「では菓子職人に話しておきます」
「そちらも作れますか」
「ご安心下さい、作れと言われましたら」
 その時はというのです。
「作れます」
「どの様なお料理もですか」
「私共はそれが出来ますので」
 だからだというのです。
「ご安心下さい」
「それでは」
「そしてお酒はですね」
 朱の盆は自分からお話に出しました。
「そちらは」
「はい、洋食なのでワインですね」
「若しくはビールですね」
「そうなります」
「では両方用意しておきましょう」
 ワインもビールもというのです。
「そして魚介類には白で」
「肉料理には赤ですね」
「こちらも用意しましょう」
 ワインは二種類というのです。
「その様に」
「それでは。ただ」
 先生は朱の盆のお話を聞いて言いました。
「洋食に疎いということを言われましたが」
「知識があるとですね」
「そう見受けましたが」
「いえ、本当に和食がメインで」
「それで、ですか」
「造詣は薄いです」
 そうだというのです。
「私共は」
「そうなのですか」
「はい、そしてです」
 そのうえでとです、朱の盆は先生に言うのでした。
「中華料理もです」
「作られていても」
「やはりです」
「専門外ですか」
「そうなのです」
 作ることはあってもというのです。
「やはり和食が専門なので」
「だからですか」
「はい、ですが」
「作ることはですね」
「全て作ります、兵庫の山海の珍味を使い」
 そうしてというのです。
「多くのお料理を用意しましょう」
「そうしてですね」
「姫様にも亀姫様にもです」
「満足して頂くのですね」
「そうなって頂きます」
 こう先生に言うのでした。
「必ず」
「それでは」
「はい、先生にもです」
「僕もですか」
「勿論来て頂けますね。姫様のそのおつもりですし」
「何か悪いですね」
「悪くないです、このことはです」
 まさにというのです。
「当然のことなので」
「当然ですか」
「はい、宴の催しを考えて下さっているのですから」
 だからだというのです。
「是非です」
「そうですか、それでは」
「宜しくお願いします」
「姫路城に参上してですね」
「堪能して頂きます」
 お料理も宴全体もというのです。
「皆様が」
「それでは」
「その様に」
 こうしてです、先生も皆と一緒に宴に参加させてもらうことになりましたが朱の盆が去ってからです。
 それからです、動物の皆が先生に言いました。
「いや、凄いね」
「先生も僕達も宴にお呼ばれしちゃったね」
「まさかと思ったよ」
「こんなことになるなんて」
「嬉しいハプニングだね」
「うん、僕もね」
 本当にと言う先生でした。
「予想していなかったよ」
「そうだよね」
「こんなことになるなんてね」
「想像もしなかったよ」
「けれどいいことだね」
 食いしん坊のガブガブが言いました。
「このことは」
「美味しいものを好きなだけ食べられるね」
 ジップも楽しそうです。
「これはいいね」
「先生も僕達も一緒だから」
 チーチーも言います。
「本当に楽しみだよ」
「さて、どんな宴になるかをね」
 ホワイティも老馬の横から言いました。
「今から予想してみようかな」
「それだけでも楽しいからね」
 その老馬も言います。
「いいよね」
「能は僕達はあまり知らないけれど」
「そうしたものも観られるんだね」 
 オシツオサレツが二つの頭から言います。
「じゃあね」
「能も楽しみにしていようね」
「他に歌舞伎に落語に踊りね」
 ダブダブは演目を挙げていきます。
「そして音楽もね」
「日本の宴のそうしたものはね」
「独特の趣があるのよね」
 チープサイドの家族は時代劇からの知識をお話します。
「それを楽しめるなんて」
「滅多にないことだからね」
「ウィーン国立歌劇場のボックスから観るみたいな」
 こう言ったのはトートーでした。
「凄いものだね」
「お城の中での宴だから」
 最後にポリネシアが言います。
「余計に素敵ね」
「全くだよ、ライトアップにイルミネーションに花火もあるし」
 先生も笑顔でお話します。
「提案してよかったよ」
「そうだね」
「それじゃあね」
「宴が行われるのを待とう」
「そうしようね」
「今はね」
 皆も先生に応えます。
「よし、じゃあね」
「今は宴の日を指折りして待とう」
「僕達は羽根だったり前足だったりするけれど」
「蹄とかね」
「けれど指折りして待とう」
「そうしていようね」
「是非ね、それで宴の日はね」
 それは何時かといいますと。
「まだ決まってないね」
「あっ、確かに」
「どんなものにするかは決まったけれど」
「お料理にしても」
「その日は決まってないね」
「そうだよね」
「これがね」
 皆も先生のその指摘に応えます。
「それが決まってないのかな」
「というか僕達聞いてない?」
「これは困ったね」
「ちょっとね」
「どうしたものかな」
 また言う先生でした。
「このことは」
「ううん、どうしたものか」
「あちらから何時やるって言うかな」
「そうしてくれるかな」
「実際に」
「どうかしら」
「それも待つことになるかな」
 先生はこうしたことでは基本自分から動かない人です、それで今もこうしたことをおっとりとした口調で言うのでした。
「今は」
「まあ聞くにしてもね」
「ちょっとだしね」
「じゃあね」
「今は待っていよう」
「そうしていようね」
「とりあえずは」
「まあそれでいいんじゃないかな」
 王子もこう言います。
「僕もそう思うよ」
「ここで自分から聞くとね」
「日本ではね」
「どう持ってなるからね」
「そう、日本は奥ゆかしいというかね」
「そうしたことは自分からあまり聞かない」
「そうした国だから」
 それでと言うのでした。
「じゃあ今はね」
「待っていよう」
「また連絡が来るよ」
「招待状とかがね」
 皆でこんなお話をして待つことにしました、すると次の日先生が皆と一緒に大学の研究室にいて論文を書いているとです。
 そこにある人が来ました、その人はといいますと。
 今度は手の目でした、手の目は手の平にある目で先生を見ながらお話しました。
「先生、宴の日をお知らせに来ました」
「それで何時ですか?」
「来月の第一日曜日です」
 この日にというのです。
「開かれます」
「そうですか、その時にですか」
「はい、開かれますので」
 それでというのです。
「その日の夜先生のお家に迎えの者が来ます」
「そうですか」
「ではその時に」
 まさにというのでした。
「宜しくお願いします」
「それでは」
「しかしです」
 ここで手の目は研究室の中を手の平を動かしてその目で見回してからこうしたことを言うのでした。
「紅茶のカップがあることが」
「イギリス的ですか」
「はい、紅茶の香りもしますし」
「よく僕は紅茶の匂いがすると言われます」
「いつも飲んでいるからですね」
「自分でもそうだと思います」
 先生は手の目に笑ってお話しました。
「このことは」
「そうですね、これが我々ですと」
「日本のお茶ですね」
「はい、姫様は抹茶がお好きです」
「では茶道も」
「お好きで」
 そうだといのです。
「この度の宴でもです」
「楽しみにされていますか」
「はい」
 まさにというのでした。
「普段からよく飲まれていますが」
「宴の時もですか」
「お酒の合間に。それに」
「茶道でもですね」
「よく飲まれています」
「日本のお茶といいますと色々ありますが」
 先生も日本のお茶をよく飲んでいるのでこのことはわかっています、もう紅茶だけの先生ではなくなっています。
「やはりです」
「まずはお抹茶ですね」
「ですから」
 それでというのです。
「何となくですがわかります」
「そうなのですね」
「はい、それではですね」
「宇治の葉を用意しておきますので」
「宇治のですか」
「それも最高級の」
 葉はそちらだというのです。
「そしてお水は六甲です」
「そうきますか」
「兵庫ですので」
 それだけにというのです。
「やはりお水はそちらかと」
「そして関西にいると」
「お茶の葉は宇治です」
 京都のそちらのというのです。
「これが一番ですから」
「だからですね」
「この組み合わせです、ただ」
「ただといいますと」
「姫様は色々な場所の葉のお茶も飲まれています」
「では静岡の方も」
「お好きです」
 京都と並ぶ日本緒お茶の産地のそちらもというのです。
「それもかなり」
「そうなのですね」
「はい、そしてです」
 手の目は先生が煎れてくれたミルクティーを受け取りました、そしてそのお茶を飲みながら言うのでした。
「いつも楽しまれています」
「本当にお茶がお好きなのですね」
「特にお抹茶が」
「そうですか、では」
「宴の時も飲まれるので」
「茶道もですね」
「楽しんで」
 そしてと言うのでした。
「過ごすことになります」
「それは何よりですね」
「勿論先生も、ですから」
 宴に呼ばれているだけにです。
「期待していて下さいね」
「お茶のこともですね」
「そうです、しかしこの紅茶も美味しいですね」
 手の目は右手にカップを持って左手の手の平にある目で口元を見ながらそのうえで飲んでいます、その左手でちらちらと先生も見ています。
「私は紅茶はあまり飲みませんが」
「そうなのですか」
「はい、私は玄米茶と麦茶が好きです」
 こうしたお茶が好みだというのです。
「それとコーヒーですね」
「コーヒーもお好きですか」
「文明開化の珈琲と呼ばれていた時にはじめて飲みまして」
「それからですか」
「今も飲んでいます」
「僕も最近は時々飲んでいます」
 コーヒーをとです、先生は手の目にお話しました。
「そうしています」
「そうされていますか」
「はい、そして」
「この紅茶もですね」
「飲んでいます、では」
「はい、これからもですね」
「飲んでいきます」
 こう言ってでした、先生は手の目から招待のことも聞いてそうしてでした、そのうえで一緒にミルクティーも楽しみました。








▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る