『ドリトル先生と和歌山の海と山』




               第五幕  和歌山のお城

 先生達はこの日は和歌山城に来ました、和歌山城は石垣と城壁、それにお堀で囲まれていて櫓や天守閣も見えます。
 その三重三階の天守閣を見てです、王子は先生に尋ねました。
「このお城は三階だね」
「天守閣はね」
「何かあれだね」
「あれというと?」
「いや、日本のお城って五層七階とか五層五階の天守閣があって」
「このお城は三階だね」
「これって格なのかな」 
 こう考えた王子でした。
「お城の」
「格というかお城の規模に比例してだね」
「天守閣も大きいんだ」
「そうだよ、大阪城や姫路城はとても大きいお城だったね」
「名古屋城もね」
「だから天守閣も大きいんだ」
 先生は王子にその三層三階の和歌山城の天守閣を見つつお話をしました。
「お城が大きいからね」
「そういうことなんだ」
「あとお城に入る大名の人も格もあったかな」
「それも関係したんだ」
「やっぱり大きな藩だとね」
 大名が治めるそこがです。
「お城も大きくてね」
「天守閣も大きくなるんだね」
「名古屋城は尾張藩がとても大きな藩だったからね」 
「そういえばあそこは御三家だったしね」
 王子はこのこともお話しました。
「紀州藩もだったけれど」
「水戸藩と一緒にね」
「徳川家の親戚の人達で」
 幕府の将軍様のです。
「吉宗さんみたいにいざとなれば将軍になる」
「その筆頭だったから」
「親藩、そして御三家の」
「しかも尾張は豊かな国だったから」
 そうした条件が揃っていてというのです。
「名古屋城は大きくてね」
「天守閣も立派なんだね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「あそこはね」
「そうなんだね」
「あと水戸藩もいいお城だというけれどね」
 先生はまだ見ていないのでこうした説明になっています、見ていないのなら伝聞ということになるのです。本では読んでいても。
「あの水戸城も天守閣はあるけれど」
「大きくはないんだ」
「うん、確か三階だったよ」
「三層で」
「そうだったよ」
「ううん、大名のお家の格とか治める藩の大きさとか」
「色々あるんだ」
 お城の天守閣にもというのです。
「だから和歌山城の天守閣はこれだけの大きさなんだ」
「成程ね」
「しかもこのお城は実はね」
 このことは少し苦笑いになってお話をした先生でした。
「最初はもっと大きなお城にする予定だったんだ」
「そうだったんだ」
「最初に築いた徳川頼宣さんはね」
「確か幕府の初代将軍家康さんの息子さんだね」
「他の御三家の初代さん達と同じでね」
 そうしたお生まれだったというのです。
「二代将軍秀忠さんの弟さんだったんだ」
「その人が築いたお城だったんだ」
「その人がお城を築いたけれど」
 それでもというのです。
「当初の予定よりずっと大きくしようとしたんだ」
「それでどうなったの?」
「幕府からどうしてそんなに大きくするって思われたんだ」
 当初の予定よりずっと大きかったからです。
「若しや謀叛って思われて」
「ああ、兄弟同士でのそれってあるからね」
 王子もわかることでした、このことは。
「どの国でもね」
「日本でもあってね」
「頼朝さんなんか酷いよね」
「鎌倉幕府のね、あの人は極端だったよ」
 源氏のこの人についてはこうお話した先生でした。
「義経さんも他の身内の人もどんどん倒していったからね」
「平家と戦うよりまずだったね」
「この人もお父さんの義朝さんもお子さんとお孫さん達もそうでね」
 身内で争ってばかりだったからというのです。
「結局最後はね」
「源氏は誰もいなくなったんだよね」
「うん、身内でのいざかいばかりしていたせいでね」
「酷い話だよね」
「イギリスでも王位や爵位を巡って親兄弟親族の間でのいがみ合いはあったしね」
「シェークスピアの戯作でもありますしね」
 トミーはこの人の作品をここで思い出しました。
「それで日本もですね」
「うん、それで幕府も怪しんでね」
 和歌山城の築城にです。
「止めたんだ」
「大きくすることはですね」
「そうしたんだよ」
「そうした歴史があったんですね」
「うん、あとこの天守閣は三代目だよ」
 このこともお話した先生でした。
「初代は落雷で焼けて二代目は空襲でね」
「大戦中の」
「それで焼けてね」
「今は三代目ですか」
「そうだよ、コンクリート製だよ」
 木造ではなく、というのです。
「今の天守閣はね」
「大坂城と同じだね」
「それじゃあね」
 動物の皆はコンクリート製の天守閣と聞いてこう思って言いました、それならというのです。
「そういえばあのお城の天守閣も三代目だね」
「そうよね」
「初代は大坂の陣で焼けて二代目は落雷で」
「二代目が落雷で焼けたのも一緒じゃない」
「それで三代目がコンクリート製って」
「歴史が似てるね」
「僕もそう思うよ、何か因縁めいたものがあるね」
 先生もこう言います、動物の皆に。
「大阪城と和歌山城は」
「同じ関西にあるしね」
「何か似てるよね」
「そうだよね」
「どうにも」
「そうだね、もっとも今の大阪城の天守閣は運がいいのかね」
 先生はあのとても立派な、大阪の人達にとっては通天閣と並ぶ心の象徴であるあの天守閣を心の中に思い浮かべつつお話しました。
「大阪の空襲、特に大阪城には帝国陸軍の建物もあって周りは工業地帯でね」
「物凄い爆撃を受けたのね」
「そうだったのね」
「うん、東京の空襲が有名だけれど大阪もかなりやられたんだ」
 相当な爆撃を受けたというのです。
「長い間不発弾が見付かっていた位ね」
「戦争が終わっても」
「そうだったのね」
「そこまで凄い爆撃受けてたのね」
「大阪城の周りは」
「そうだよ、けれど周りが瓦礫の山になってもね」
 それでもというのです。
「大阪城の今の天守閣は無事だったんだ」
「それ凄いね」
「確かに物凄い強運だね」
「周りが瓦礫の山になっても天守閣だけは無事って」
「とんでもないお話だね」
「そこまで運がいいんだ、今の大阪城の天守閣はね」
 そうだというのです。
「そこは和歌山城と違うね」
「そうなんだね」
「それで今のこの天守閣は三代目ね」
「空襲で焼けたけれど復活した」
「三代目なのね」
「そうだよ、その天守閣に今から入ろうね」
 そうしようというのです。
「皆でね」
「うん、じゃあね」
「今から皆で中に入ろう」
「あの天守閣の中にね」
「そうしようね」
 動物の皆も先生の提案に頷きます、そして王子もトミーも一緒にでした。その和歌山城の天守閣に入ってです。
 一番上の三階にまで登ってです、そこから景色を見てその見事さと奇麗さを楽しんでそのうえでなのでした。
 本丸の公園においてティータイムを取りました、今回のティータイムは何とドイツ風のティータイムでした。
 紅茶の上に生クリームをたっぷりと置いたクリームティー、またの名をウィンナーティーにレープクーヘンとシュネーバル、そしてザッハトルテの三段です。そのドイツ風のティータイムをはじめますと。
 チープサイドの家族は先生に首を傾げさせて尋ねました。
「ドイツ風のティータイムなの?」
「今回はそれなの?」
「何でドイツなの?」
「私達それがわからないけれど」
「美味しそうだけれどね」
 ダブダブは素直に感想を述べました。
「そちらもね」
「ええ、ただね」
 ポリンシアも言います。
「和歌山でドイツなのは」
「そこがわからないよね」
「どうしてもね」
 オシツオサレツもそこは、でした。
「何でかな」
「和歌山でドイツって」
「先生、どうしてなの?」
 トートーも先生に尋ねます。
「今ドイツなの?」
「和歌山ってドイツと何か関係あるの?」
 ホワイティはトートーの横から先生に尋ねました。
「あるとしたら何なの?」
「僕達そのことが気になるけれど」
 ジップもこのことは同じでした。
「だとしたら何かな」
「ドイツと和歌山ってどうもね」
 チーチーは腕を組んで首を傾げさせています、実に人間っぽい仕草で考えて疑問を述べているのがユーモラスです。
「関係ないと思うから」
「あるとしたら何かな」
 老馬もそこがわかりません。
「和歌山とドイツの接点って」
「先生が気分で飲んでるとか?」
 最後にガブガブが言いました。
「そうかも知れないけれど」
「ああ、実は和歌山駅のすぐ近くにいいドイツ料理のお店があるらしいんだ」
 先生は皆にお話しました、勿論皆の分のセットもありますし王子とトミーそれに王子の執事さんも一緒に楽しんでいます。
「ドイツのビールやソーセージを楽しめるね」
「ああ、そのお店のことを思って」
「それでなのね」
「今はドイツ風のティーセットなのね」
「そうだったんだ」
「うん、それにドイツのお菓子もこの紅茶の飲み方もね」
 クリームティー、とても甘いそれを楽しみつつお話する先生でした。
「とてもいいよ」
「ドイツは基本コーヒーだけれどね」
「紅茶はそうした飲み方になるのね」
「先生は断然お茶派だからね」
「特に紅茶がお好きだから」
「それでこうして飲んでるんだ」
 クリームティーにしてというのです。
「そしてお菓子もだよ」
「ザッハトルテとか出して」
「そうしてなんだね」
「お菓子も楽しんで」
「そうして飲んでるのね」
「そうだよ、皆も飲んで食べてね」
 そのドイツ風のティーセットをというのです。
「出してるからね」
「うん、そうさせてもらうよ」
「是非共ね」
「美味しそうなのは確かだし」
「それじゃあね」
「そうしてね、美味しいものは一人で楽しむよりもね」
 それよりもというのです。
「皆で楽しんだ方がいいからね」
「特にティーセットはね」
「皆で楽しんだ方がいいね」
「飲んで食べてお喋りして」
「そうしてね」
「これがないとね」
 十時と三時のこれがです。
「僕はどうも駄目だからね」
「そうだよね」
「先生は何といってもティーセットよね」
「お酒も好きだけれど」
「十時と三時にはお茶を飲まないと」
 そしてお菓子を食べるのです。
「先生は駄目だね」
「調子出ないよね」
「毎日そうだよね」
「そうなんだ、だから今もね」
 天守閣を登ってからというのです。
「こうして楽しんでいるよ」
「そうだよね」
「じゃあ楽しんで飲もうね」
「そして食べようね」
「ドイツのお菓子も」
「そうしよう、そして夜はビールかな」
 ドイツと聞いてこれも外せないと思った先生でした。
「それを飲もうかな」
「ビール、いいね」 
 ビールと聞いて笑顔で言ってきた王子でした。
「あのお酒もね」
「そうだね、王子もビール好きだね」
「うん、エールも好きだけれどね」
「ビールもだね」
「そちらも好きだよ」 
 実際にというのです。
「それでビールの時はね」
「ソーセージだね」
「枝豆や冷奴もいいけれどね」
「そこは日本に来てから知ったね」
 ビールと枝豆や冷奴との相性のよさはです。
「そうだよね、僕もだし」
「そうだよ、けれどソーセージはね」
「来日前から知ってるね」
「そうだよ、ビールとソーセージにね」
 それにというのです。
「ジャガイモ、あとベーコンやハムもね」
「素敵な組み合わせだね」
「うん、だからね」
 それでというのです。
「夜はビールならね」
「ソーセージだね」
「そちらを楽しみたいね」
「うん、じゃあ夜はね」
「ソーセージとビールかな」
「それもいいね」
 まんざらでないという先生でした、ですがここでトミーが先生に言ってきました。
「先生、今日から高野山ですよ」
「あっ、和歌山からね」
「はい、ですから」
「それじゃあお昼にしようか」
「お昼にですね」
「和歌山の駅の方まで戻ってね」
 そうしてというのです。
「そのお店に行こうか」
「それで、ですね」
「お昼はドイツ料理にしようか」
「ビールとですね」
「ソーセージ、ドイツ語で言うヴルストを食べてね」
 そうしてというのです。
「皆で楽しもうか。そしてね」
「そうしてですね」
「キャンピングカーでね」
「今日のうちに高野山に入るんですね」
「そうしようか」
 こうトミーに答えました、切られたザッハトルテをお口の中に入れながら。
「今日は」
「それじゃあ」
「うん、お昼に行こう」
 そのお店にというのです。
「そして暫くこの街でくつろいで」
「そうしてですね」
「高野山に行こう」
「そういうことで」
「さて、高野山はね」
 ここで今回の旅の最大の目的地であるこの山のお話をした先生でした。空海上人が開いたこの山のことをです。
「寒いよ」
「ああ、やっぱりね」
「山だからね」
「それも高い山よね」
「修行する場所でもあるし」
「だからね」
「うん、とにかく寒いからね」
 それでとです、先生は動物の皆にもお話します。
「暖かくしていこうね」
「僕達は毛皮があるから」
「それに冬だから脂肪も溜め込んでるよ」
「問題は先生達だよ」
「服着込んでいてね」
「そのつもりだよ、セーターにコートもあるし」
 見れば実際に先生はスーツの下に今はセーターを着ています、そしてコートの用意はトミーがしてうれています。
「暖かくしているよ」
「僕なんてカイロまで幾つも用意しているよ」
 王子に至ってはこうでした。
「イギリス程じゃないけれど日本も寒いからね」
「だからだね」
「冬になるとね」
 それこそというのです。
「服をいつも何枚も着込んでね」
「暖かくしているね」
「さもないとやっていけないよ」
 とてもというのです。
「日本の冬はね」
「それ以上にイギリスの冬は」
「そうそう、イギリスってね」
「寒いよね、冬は」
「ロンドンでもね、スコットランドまで行くと」
 グレートブリテン島の上のこの地域はといいますと。
「もうとんでもないよ」
「あそこは特に寒いね」
「北欧程じゃないけれど」
 それでもというのです。
「確かに寒いね」
「冬のネス湖なんてね」
 スコットランドでも世界的に有名になっているこの湖のお話もするのでした、あのネッシーがいるという湖のことも。
「いるだけでね」
「あそこは特にだね」
「景色は奇麗でも」
 それでもというのです。
「冬に行くと寒くて仕方ないね」
「こんなものじゃないから」
 幾ら日本が寒くてもというのです。
「これ位なら今の服装でね」
「充分だね」
「むしろ暑い位かな」
「和歌山市でそれ位だと高野山ではね」
 今日から行くその山のお話もする先生でした。
「あそこはここよりもっと寒いから」
「丁度いい位かな」
「そうなるよ、じゃあ今からね」
「うん、お昼に行こうね」
「そこでビールを飲んで」
「ドイツ料理も楽しもうね」
 こうお話してです、先生達は今はドイツ風のティータイムを楽しんで、でした。和歌山城の見学も再開しましたが。
 その中で、です。動物の皆は思うのでした。
「ここによね」
「吉宗さんがいたのよね」
「将軍になられるまで」
「そうだったのよね」
「そうだよ、殿様になってね」 
 紀州藩のというのです。
「それでこのお城に住んでね」
「そうしてだね」
「このお城にいてね」
「この場所も回っていたりするのね」
「そうだったのね」
「そうだよ、本当にここにね」
 今先生達が見て回っている和歌山城の中をというのです。
「歩いていたんだと思うよ」
「そうなのね」
「あの暴れん坊将軍がね」
「ここを歩いていたのね」
「そうだったのね」
「紀州藩からは二人の将軍様が出たけれど」
 吉宗さん以外にもというのです。
「十四代の将軍徳川家茂さんもね」
「その人はどんな人なの?」
「家茂さんって人は」
「吉宗さん以外にもここから将軍様が出ていたの」
「そうだったの」
「そう、幕末の人でね」
 吉宗さんが江戸時代の中頃の人でそれから百年以上後の人だったのです。
「幕府も日本も大変な時に将軍を務めていたんだ」
「そうだったの」
「そうした人だったの」
「じゃあその家茂さんもだね」
「ここを歩いていたのね」
「そうだよ、ただ今で言うまだ子供の時に将軍になってね」
 それでというのです。
「このお城にはあまりいなかったんだよ」
「吉宗さんと違って」
「このお城にはあまりいなかったんだ」
「そうだったのね」
「それで将軍になってもね」
 それでもというのです。
「身体があまり丈夫でなくてね」
「長生き出来なくて」
「若くしてお亡くなりになったの」
「そうなんだ、吉宗さんは比較的丈夫な人だったけれどね」
 家茂さんは違っていてというのです。
「若くして亡くなって、幕府もね」
「ええと、江戸幕府の次が明治時代だったね」
 こう言ったのはチーチーでした。
「じゃあその間にだね」
「幕府は終わったんだね」
 ジップは少し考えてから言いました。
「そうなったんだね」
「さっき先生幕末って言ったし」
 ホワイティはこのことから考えます。
「家茂さんからすぐに幕府の歴史は終わったのね」
「それで戦争もあって今になるのね」
 ガブガブがここで言う戦争はといいますと。
「二度の世界大戦ね」
「どっちもとんでもない戦争だったわね」
 ポリネシアはイギリスにとっては辛い戦争のことを思いました。
「本当に」
「日本は二度目の戦争が重要だったね」
 このことはイギリスから来たダブダブもわかっています。
「ここも空襲を受けてるし」
「それでだね」
「戦争の後の日本が今ね」
 チープサイドの家族はその二度目の戦争の後の日本が今の日本だと認識していてそれでお話をしています。
「あの戦争からかなり変わって」
「今に至ったね」
「何ていうかね」
 老馬が言うことはといいますと。
「江戸時代の日本と明治から戦争までの日本と戦後の日本って全然違うね」
「うん、お話を聞いているとね」
 トートーも老馬に応えて言います。
「同じ国なのに全然違う国かなって思う時もあるね」
「それでその幕末に将軍様になったのが家茂さん」
「そうなるね」
 オシツオサレツも言います、二つの頭で。
「幕府がいよいよ終わる」
「そうした頃の将軍様だったんだ」
「そうだよ、家茂さんの後は徳川慶喜さんが将軍になったけれど」
 先生はその動物の皆にお話しました。
「その義信さんの代で大政奉還となってね」
「幕府の歴史が終わるんだ」
「物凄く長い歴史だったみたいだけれど」
「明治時代になるんだね」
「いよいよ」
「そうなるんだね」
「そうだよ、明治政府の時代になるんだ」
 その大政奉還からというのです。
「そうなるからね」
「家茂さんは本当に最後の方だったのね」
「最後の方の将軍だったのね」
「何ていうか」
「大変な時代の人だったのね」
「その時に勝海舟さんもいたんだ」 
 丁度その時代にというのです。
「それでだからね」
「凄く苦労しただろうね」
「家茂さんは」
「吉宗さんも苦労したみたいだけど」
「また違う苦労をしたんだね」
「そうだよ、大変な苦労をしてね」
 そうしてというのです。
「幕府が終わろうとしている中で頑張ったんだ、けれどね」
「それでもなんだ」
「幕府は結局終わるんだ」
「大政奉還で」
「次の慶喜さんの代で」
「そうなってしまったんだね」
「うん、ただ戊辰戦争はあったけれどね」
 その明治戦争のこともお話した先生でした。
「比較的流れる血が少なく政権が移ったんだ」
「名誉革命みたいな感じ?」
「イギリスでいうと」
「そんな風なのかな」
「それで明治政府になった」
「そうだったのね」
「そうだよ、幕府から比較的スムーズに明治政府に移ったんだ」
 先生はこのこともお話しました、和歌山城の中で。
「そのことは日本にとって幸いだったよ」
「全くだね」
「そのことはよかったよね」
「平和に政権が移ったのは」
「革命になるから」
「うん、まさに革命だったよ」
 大政奉還、それはというのです。
「それが戦争があったし何年も混乱があったけれどね」
「幕末のね」
「黒船が来て色々あったのよね」
「新選組も出て来てね」
「長州、薩摩、土佐で色々あって」
「坂本龍馬さんも出たわね」
「そうして確かに色々な人が死んだけれど」
 その坂本龍馬さんも幕末の沢山の騒動の中で命を落としていきました。そうしてこう言ったのでした。
「日本って国、そして民衆の人達には殆ど被害がなくてね」
「凄く平和にだね」
「革命になって」
「明治時代になった」
「そうなのね」
「むしろあの戦争で日本は何百万も死んでるから」
 第二次世界大戦のこともお話します、そしてその時の空襲で焼けてしまってから再建された天守閣も見ました。
「明治から出来た日本が今の日本に変わる時の方がね」
「人が死んでるんだね」
「今の日本になるまでそうしたことがあったのね」
「何かそう思うとね」
「歴史があるわね」
「全くだよ、歴史だよ」
 本当にと言う先生でした。
「そうしたこともね」
「そうなんだね、吉宗さんと家茂さんのことも」
「そのこともね」
「全部含めて歴史だね」
「革命も戦争も」
「その中で人が死ぬことも」
「全部そうだよ、そして吉宗さんも家茂さんも」
 この人達もというのです。
「その中で生きていたんだよ、あの人達なりに必死で頑張ってね」
「ううん、何ていうかね」
「そう思うと深いよね」
「感慨があるね」
「本当にね」
 こうお話するのでした、そしてです。
 先生達は皆で、でした。和歌山城を見て回ってからお昼に先生がお話していたドイツ料理のお店に入りました。
 そうしてソーセージにジャガイモ料理、ビールを楽しみますがトミーはそのジャガイモ料理を食べて驚いて言いました。
「いや、これはかなり」
「美味しいね」
「はい」
 先生にも笑顔で応えます。
「和歌山でもドイツ料理が食べられるなんて」
「思わなかったね」
「まさかと思いました」
「僕もだよ、ソーセージもビールもいいけれど」
「ジャガイモも」
「いいね、この潰した感じがね」
 見ればジャガイモは確かに潰されています、先生はその潰しているジャガイモを食べてお話するのでした。
「いいよね」
「ドイツはそうしますよね」
「そうだよね、イギリスは茹でても焼いても切るね」
「そうして食べますね」
「けれどドイツは潰すね」
「マッシュポテトみたいね」
「そうするね、そしてそれがね」
 その潰したジャガイモがというのです。
「またいいんだよね」
「美味しんですよね」
「そうなんだよね」
「この潰したのがまたね」
 オウジもそのジャガイモを食べつつ言います。
「いいんだよね」
「そうだよね」
「切って食べるのもいいけれど」
「僕もそう思うよ」
「あと日本のジャガイモ料理もね」
 これもというのです。
「いいね」
「肉じゃがだね」
「あれは恐ろしいまでに美味しいよ」
 先生は笑ってお話しました。
「まさかあんなお料理があるなんてね」
「そうだね、というかね」
「どうしたのかな」
「肉じゃがって元々はビーフシチューだしね」
「そうそう、そうなんだよ」
 実際にとです、先生は王子に答えました。
「イギリスでビーフシチューを東郷平八郎さんが食べてね」
「確か日本に帰って食べたいと言ってね」
「体調を崩していて調理の水兵さんが心配してとの説もあるよ」
「とにかくそうしてだよね」
「食材だけ聞いて作ったけれど」 
 じゃがいもにお肉に玉葱等です。
「調味料を日本のものにしたらね」
「肉じゃがになったんだよね」
「そうだよ、凄いお話だよね」
「全くだね、肉じゃがのお話は」
「元々日本はじゃがいもよりも薩摩芋を食べていたんだ」
 お芋はというのです。
「吉宗さんにも縁があるね」
「それはもうお話したね」
「青木昆陽さんのことでね」
「そうだったね、それで江戸時代はジャガイモよりもだね」
「薩摩芋の方を沢山食べていたけれど」
「肉じゃがのこともあって」
「今はこうしてドイツ料理も入ったしコロッケもあるし」
 そちらのお料理のお話もした先生でした。
「ジャガイモも沢山食べているよ」
「そうだよね」
「今はそうなったよ」
「それも美味しくお料理して」
「今だってね」
「何かどんどん食べられるよ、ビールも美味しいし」
「そう、このビールもね」
 ビールも飲んでいる先生でした、そのビールはドイツのビールでそれを飲んでこうも言ったのでした。
「いいね」
「はい、ドイツビールまであるなんて」
「素敵だね」
「だよね、和歌山にいてだからね」
「ドイツのビールを飲めるのは」
「凄いよ」
 本当にというのです。
「想像もしていなかったよ」
「吉宗さんも驚いているかな」
「絶対にそうだよ」
 王子は先生に確信を以て答えました。
「こんなのとてもね」
「想像も出来ないね」
「吉宗さんはドイツ知らないよね」
「当時ドイツはまだなかったからね」
 吉宗さんの時代はです。
「鎖国していても海外の情報は入っていたからね」
「それでもなんだ」
「うん、ドイツじゃなくてね」
 今のドイツではありません、この国とは。
「神聖ローマ帝国の頃だね、しかもね」
「その神聖ローマ帝国の中でね」
「バイエルンとかザクセンとかプロイセンに分かれていてね」
「ドイツが沢山の国に分かれていたね」
「その頃だったよ」
 日本で吉宗さんが藩主や将軍様をしていた時のドイツはというのです。
「丁度ね」
「そうだったんだね」
「そしてね」
 さらにお話する先生でした。
「オーストリアもハプスブルク家の頃だったよ」
「皇帝だったね」
「そう、その頃でね」
「ドイツは存在すらしていなかった」
「今のドイツという国はね、ただオランダはあってね」
 この国は存在していたというのです。
「幕府が出来た頃から国としてお付き合いがあって」
「吉宗さんの前からだね」
「それで吉宗さんはオランダの本を日本に入れることを許したんだ」
「吉宗さんからだったんだ」
「日本でオランダ、西洋の本が読まれる様になったのはね」
「吉宗さんはそのことでも貢献しているんだ」
「そうだよ、ここから蘭学がはじまったんだ」 
 江戸時代のこの学問はというのです。
「西洋の医学も入ったしね」
「ターヘルアナトミアだね」
「その本も出来たんだよ」 
 先生はとても大きなジョッキでビールを飲みつつ王子にお話しました、先生の周りでは動物の皆もソーセージやジャガイモ料理を楽しんでいます。
「そしてさらにね」
「蘭学は発展していったんだね」
「そうだったんだ、平賀源内さんも出たし」
「ええと、その人は確か」
「吉宗さんの後の時代の日本の学者さんでね」
「色々やってなかった?エレキテルとか」
「していたよ、歌舞伎の脚本も書いていたし」
 そうしたこともしていたというのです。
「色々マルチな才能があってね」
「活躍していたんだ」
「そうなんだ」
 平賀源内という人はというのです。
「その人も出て来たんだ」
「吉宗さんからだね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「この人からね」
「そう思うと吉宗さんの功績って大きいね」
「全くだね」
「うん、僕も吉宗さんみたいにならないとね」
「立派な政治家にだね」
「王様になるからね」
 将来はというのです。
「だからね」
「そう思うことはとてもいいことだよ」
「素晴らしい人を見てその人を目指すことはだね」
「そう、目標を持って何かをすることはね」
 まさにというのです。
「こんなにいいことはないよ」
「だからだよ、僕もね」
「吉宗さんみたいにだね」
「立派な王様になるよ、この人は将軍様だったけれど」
 それでもというのです。
「僕は目指すよ」
「吉宗さんをだね」
「そうしていくよ、他にも目指すべき人は多いしね」
「立派な王様になる為にだね」
「明治帝、昭和帝はね」
 この方々はといいますと。
「もうそれこそね」
「君主としてだね」
「絶対にそうなりたいってね」
「思うね」
「そう思うからね」 
 だからだというのです。
「目指しているよ」
「うん、僕もあの方々はね」
「立派だと思うね」
「今の陛下も皇室の方々もね」
「君主、そして皇室の方々としてだね」
「凄く立派だよ、本当に」 
 こう言うのでした、先生も。
「本当にね、イギリスでもね」
「評判がいいんだね」
「そうだよ、あとイギリスの君主だと僕は」
「どなたがいいかな」
「やっぱりエリザベス一世、ビクトリア女王はね」
「別格かな」
「どうしても女王が目立つ国だね」
 先生のお国のイギリスはというのです。
「ジンクスかな」
「女王の時に栄える国だっていうね」
「今の女王陛下もそうだしね」
「あの方もね」
「王子から見てだね」
「素晴らしいね、立派な方だよ」
「ああありたいとだね」
「思うよ、タイの前の王様もそうだね」
 この方もというのです。
「プミポン国王も」
「あの方もね」
「ああなりたいって思うよ」
「そうした方を多く知ることはいいことだよ」
「手本にすべき方々をね」
「そしてね」
「そうなろうと努力していくことだね」
 王子は先生に応えて言いました。
「人としてそれが大事だね」
「人は努力してこそだからね」
「天才は努力の必要はないというけれど」
「いやいや、それはまた違ってね」
「努力を努力と思わない」
「それが天才なんだよ」
 こう呼ばれる人達はというのです。
「モーツァルトもゴッホもいつも作曲して絵を描いていたからね」
「いつもしていたからだね」
「それは努力だけれど」
「本人達はそう思っていなかったね」
「モーツァルトは作曲していないと苦しかったみたいだよ」
 つまりいつも作曲をしていないと駄目だったというのです。
「そうした人だったからね」
「また違うんだね」
「そうだよ、努力をね」
「努力と思わない」
「天才はそうなのかな」
「そうしたものだね、じゃあ僕も天才になりたいね」
 先生のお話を受けてこうも思った先生でした。
「王様のね」
「王様の天才?」
「そうした人にね」
 こう先生に言うのでした。
「なりたいね」
「ああ、そうなんだね」
「どうかな、この考え」
「面白いね、王様になる勉強もだね」
「その為の色々な学問もね」
「全部だね」
「息をする様にしてね」
 それこそしていないと苦しい位にです。
「なりたいな」
「ううん、そうなれた時王子はね」
「凄くいい王様になれるかな」
「なれると思うよ」
「吉宗さんみたいな、明治帝や昭和帝みたいな」
「王様になれるだろうね、もう昭和帝になるとね」
 この方のことを心から思ってお話する先生でした。
「君主としても私人としてもあまりにも立派だからね」
「何ていうかレベルが違うよ」
 昭和帝はというのです。
「君主としてね」
「王と皇帝の違いじゃないね」
「ううん、意識はしてるよ」
 王子にしてもというのです。
「王と皇帝の違いはね」
「同じ君主でも違うからね」
「そうそう、王様は一つの民族、一つの宗教でね」
「その上の君主だね」
「皇帝は違うんだよね」
「複数の民族、複数の宗教の上にあってね」
 先生は王子に皇帝についてお話します、天皇陛下は英語ではエンペラー、皇帝となるので先生も王子も天皇は皇帝と考えています。このことはトミーも動物の皆も同じできその通りというお顔で聞いています。
「一つの文明の上にもあるんだ」
「それが皇帝だね」
「ローマ皇帝もそうだったね」
「そうだね、ローマ帝国っていうね」
「多くの民族、多くの宗教が存在する国家を治めていてね」
 先生はそのローマ皇帝のお話もします。
「そして欧州の文明の上にあった」
「皇帝だね」
「中国の皇帝もそうだったね」
「うん、インカ皇帝もムガール皇帝もね」
「トルコもそうだったよ」
 オスマン=トルコのことです、あまりにも強大でとても広い領土を持っていた大帝国として知られています。
「そういえば」
「それが皇帝でね」
「日本の天皇陛下もね」
「日本は実はね」
「日本人の他にだね」
「アイヌ系の人もいるしね、そもそも僕が思う日本人は」
「縄文人と弥生人の混血だよね」
 それが今の日本人だとです、王子も言います。
「そうだよね」
「そう、そしてね」
「そこに渡来系の人も加わって」
「元々多民族でね」
「混血もしているね」
「それが日本人で勿論アイヌ系の血も入っているよ」
 この人達とも混血しているというのです。
「一緒に住みながらね」
「それで多民族だね」
「混血しつつね」
「その混血がかなりだよね」
「日本人はそういうことはおおらかなんだ」
 別に差別はしないというのです。
「だからね」
「混血も進んでいるんだね」
「そうなんだ、そして宗教はね」
「仏教と神道がね」
「一緒にあるからね、今はキリスト教も入っているし」
「天理教や大本教もあるね」
「だからね、宗教はね」
 こちらはというのです。
「言うまでもないね」
「というか皇室の方がそのまま仏教も信じられているからね」
「今は神道の方が強いけれど」
「歴史的にはそうだしね」
「これで民族と宗教があるね」
「そうして文明も」
「日本は一つの文明という考えもあるし」
 アジアの中にある中国、インド、アラブと並ぶ文明だというのです。他にも北米と中南米、西欧、東欧、そして王子のお国もあるアフリカとなるのでしょうか。
「ハンチントンという人の考えだけれど」
「そして文明だから」
「日本の天皇はね」
「皇帝なんだね」
「王は文明の上には立たないね」
「うん、僕の父上もね」
 今の王様もとです。
「一つの民族でね」
「そして宗教もだね」
「基本一つだよ、勿論他の民族や宗教も国の中にあってね」
「差別はしない様にしていても」
「それでもね」
 あくまで基本はというのです。
「一つの民族、宗教の上にあって」
「文明の上にはだね」
「ないよ、そう思うとね」
「王であってだね」
「僕の家はね、皇帝じゃないよ」
 そこは全然違うというのです。
「本当にね」
「そしてその格をだね」
「僕はよくわかっているつもりだよ」
 王子自身もというのです。
「その違いは意識しているよ」
「いつもだね」
「格が違うと思っていないというとね」 
 それはといいますと。
「やっぱり違うよ」
「意識しているね」
「うん、そしてその王と皇帝の違いよりもずっとね」
「君主、国家元首としてだね」
「もうね」
 それこそというのです。
「昭和帝、そして明治帝とはね」
「格が違うとだね」
「今上陛下もだよ」
 この方もというのです。
「皇太子殿下ともね」
「同じ位を継承する立場として」
「あの方々みたいにはね」
 とてもと言う王子でした。
「なれないよ」
「そう思っているんだね、王子は」
「本当にね、けれどね」
「なれないと思っていても」
「それは今の時点でだからね」
 この辺りとても前向きな王子です。
「今は無理でもね」
「努力すればね」
「僕もきっと昭和帝みたいになれるよ」
 この方の様にというのです。
「あれだけの方にね」
「そう思うならね」
「努力だね」
「勉強をしていくことだよ」
「君主としての在り方を」
「そしてそのうちのお一人にね」
「吉宗さんもいるよ」
 王子は先生に微笑んで答えました。
「この将軍様もね」
「それは何よりだよ」
「何か悪い奴を自ら成敗しているイメージが強いけれど」
「それは時代劇だからね」
「あくまでだね」
「実際の吉宗さんは違うよ」
 先生は王子にこのこともお話しました。
「そこはわかっておいてね」
「くれぐれもだね」
「そう、本当に違うからね」
 現実の吉宗さんと時代劇の吉宗さんはです。
「本当の吉宗さんは日本と日本の人達の為に正しい政をした人だよ」
「日本の財政を立て直してね」
「税制も変えてね」
「年貢の収め方だね」
「それまではお米の取れ高によって農民の人達が収める年貢は変わっていたんだ」
 そうだったというのです。
「それを毎年一定の量のお米だけを収めてもらう方法にしたんだ」
「そうだったんだ」
「そうしてお米の取れ高によって経済の状況が上下して不安定になることを防いだんだ」
「お米の値段が変わるとね」
「当時の日本ではあらゆるものが変わったからね」
 その値段がです、お米が主体の国だったので。
「お米が即ちお金と言ってよくて」
「それでだね」
「それで幕府も日本の人達もね」
「物価の上下に困らない様にしたんだ」
「経済の状況もね」
「経済安定政策だね」
「それも行ったんだ」 
 こう王子にお話するのでした。
「吉宗さんはね」
「あれっ、けれど先生」
 先生のお話に最初に気付いたのはポリネシアでした。
「それだとね」
「うん、お米が不作ならね」
 ダブダブも食いしん坊であることから気付きました。
「収めるお米が多くて」
「収める農民の人達は困るね」
「凶作の時はね」
 チープサイドの家族も気付きました。
「豊作ならいいけれど」
「不作の時なんかはね」
「それってお百姓さんには辛くないかしら」
 ガブガブもこう考えました。
「そのやり方だと」
「だよね、どうも」
「お百姓さんには辛い政策じゃないかな」
 オシツオサレツも皆と同じ考えに至りました。
「豊作とは限らないから」
「どうしてもね」
「吉宗さんってお百姓さんに厳しい人だったの?」
 ホワイティは先生に尋ねました。
「実は」
「じゃあ名君じゃないんじゃないかな」
 トートーはこの結論に至りかけました。
「お百姓さんに厳しいなら」
「昔だとお百姓さんがかなり多いし」
 ジップは昔の社会の仕組みから考えました。
「そのかなり多いお百姓さんが困るなら」
「吉宗さんは名君じゃなくて厳しい人だったんじゃないのかな」
 チーチーもこの結論に至りました。
「そうならない?」
「国を立て直したこととかは立派でも」
 それでもと言う老馬でした。
「ちょっと、とも思うよ」
「いやいや、収めるお米の量は低く定めたんだ」
 先生はここで吉宗さんのこのこともお話しました。
「それでその分ね」
「お百姓さんを楽にしたんだ」
「豊作でも凶作でも収めるお米の量は少ないから」
「それじゃあね」
「かなり楽かも」
「しかも新田を開発したらその取り分は全部お百姓さんのものだったし」
 幕府のものでなく、です。
「お米以外の農作物の売り上げは全部お百姓さんのものだから」
「あれっ、お米だけ!?」
「欧州や中国と随分違うね」
「お米だけでいいって」
「麦とか蕎麦とかお豆とかはね」
「あと綿とか絹とか菜種はいいんじゃ」
 そうしたものでの利益が全部お百姓さんのものになるならというのです。
「お百姓さんかなり儲かるわけ」
「幕府の取り分かなり少ないわね」
「肝心のお米まで低いんじゃ」
「それじゃあね」
「藩によって違いはあるけれど中心の幕府はそうだったんだ」
 吉宗さんが将軍になったそちらはというのです。
「伝統的にね」
「年貢は低くて」
「もう他の作物の利益は全部お百姓さんのもの」
「そんなにいい政治してたの」
「僕びっくりしたよ」
「私もよ」
「実際に幕府はそうした大判振る舞いが過ぎてね」
 その結果というのです。
「いつも善政をして諸藩の手本になっているという幕府の面子もあってね」
「幕府はお金がなかったのね」
「そうだったのね」
「吉宗さんも苦労していたっていうけれど」
「そのせいでお金がなかったんだ」
「年貢を上げたらましになってもね」 
 今で言る税率を上げることです。
「それをしたらね」
「面子だね」
「幕府の面子に関わるから」
「だからそれはしない」
「そうだったの」
「そうだよ、幕府の面子にかけてね」
 それはというのです。
「しなかったんだ」
「そうだったの」
「幕府の意地があるから」
「それで財政は危ないままだったんだ」
「そうだったのね」
「そうなんだ、幕府は面白い政権でね」
 徳川幕府はというのです。
「面子が本当に大事でね」
「その為には財政赤字もよかったんだ」
「いつもそれで苦しんでいても」
「年貢を上げなかった」
「他の藩の手本にもなっていたから」
「そうだったんだ、その面子と財政再建がね」
 この二つがというのです。
「幕府がいつも直面している問題だったんだ」
「吉宗さんもだね」
「他の人達もだね」
「そうなんだね」
「難しいことだね」
「そうしたことを学んでいるとよくわかったよ」
 江戸時代の日本のことをです。
「平和で安定していて面白い時代だよ」
「ううん、不思議なお話ですね」
 トミーはビールを飲んでいて徐々に赤くなってきているお顔で言いました、見れば先生も王子も徐々に赤くなってきています。
「江戸幕府は」
「そうだね、とてもね」
「面白い時代で面白い政権なんですね」
「そうなんだ」
 実際にというのです。
「それがとても面白くてね」
「学んでいてもですね」
「飽きないよ」
「時代劇だけの時代じゃないんですね」
「うん、時代劇も面白いけれどね」
 こちらはこちらで、です。
「それでもね」
「実際の江戸幕府も江戸時代もですね」
「面白いんだよね、そしてその江戸時代の中にね」
「吉宗さんもいたんだ」
「そうなんだ、二百六十四年もあって」 
 それはとても長い時代です、一体どれだけの人がこの二百六十四年の中で生まれて生きてきたでしょうか。
「平和で繁栄していた時代なんだ」
「政治も落ち着いていて」
「そうなんだ、幕末は物騒な時もあったけれど」
 それでもというのです。
「その殆どは平和だったんだ」
「そんな時代も珍しいですね」
「そうだね」
「僕もそう思います」
 お話を聞いていてです。
「江戸時代の日本人に生まれていたら」
「のどかで平和に生きていたかも知れないね」
「そう思いました、そしてそうしたことも思いながら」
「うん、この和歌山もね」
「回っていくといいですね」
「江戸時代もね、しかも和歌山は江戸時代だけじゃないからね」
 和歌山城、吉宗さんや家茂さんだけでないというのです。
「平安時代もあるしね」
「空海さんですね」
「この人もいるし」
 先生は今からこの人が開いた高野山に行くことを楽しみにしています、ビールやソーセージを食べつつ。
「それにね、戦国時代もね」
「和歌山にはあるんですね」
「そうだよ、戦国時代には根来衆がいたから」
「根来衆っていいますと」
「トミーも聞いたことがあるね」
「忍者ですよね」
「そうだよ」
 先生は笑って答えました。
「その一つの流派だよ」
「伊賀や甲賀と並ぶ」
「そうだよ」
 まさにその人達だというのです。
「その人達もいたんだ」
「根来衆の人達も」
「雑賀孫一という人もいたし」
「その人は聞いたことがあります」 
 トミーにしてもです。
「織田信長さんとも戦った」
「本願寺についてね」
「鉄砲隊を駆使してたんですね」
「それで強かったんだ」
「その人は確か雑賀衆でしたね」
「根来衆とはまた違うけれどね」
「本願寺の味方をした人達で」
「よく忍者と混同されたりもするけれど」
「違うんですか」
「僕はまた違う人達だと思うよ」
 今の時点ではです。
「忍者は根来衆でね」
「雑賀衆は鉄砲の人達ですね」
「そうだと思うよ、それで根来衆のね」
 まさにこの人達のというのです。
「所縁と思われる場所もあるよ」
「そうですか」
「根来寺という場所があるんだ」
 こうトミーそして他の皆にもお話しました。
「この和歌山市にはね」
「じゃあそこに行けば」
「そうだよね」
「根来寺に行けばね」
「忍者の人達がいるかも」
「ひょっとしたら」
 動物の皆がここで思いました、とても沢山のドイツ料理を食べつつです。ジャガイモもソーセージもベーコンも美味しいです。
「それじゃあね」
「あそこに行く?」
「時間があったら」
「そうする?」
「いいね」 
 先生は皆のお話に乗りました。
「それじゃあね」
「うん、次はね」
「根来寺だね」
「そこに行くんだね」
「忍者の場所に」
「そうしようね」
 是非にと言う先生でした。
「時間があればだけれど」
「あると思うよ」
 王子が先生に答えました。
「高野山に行くまでにね」
「そこにも行けるんだね」
「そうだと思うよ、あそこもね」
 その根来寺もというのです。
「行けるよ」
「そうなんだ、じゃあ」
「忍者のところにもだね」
「行こうね」
 笑顔で応えた王子でした。
「今度は」
「そうしようね、いや色々なところを巡って美味しいものを食べて飲んで」
「和歌山でもね」
「そうしていてね」
 本当にというのです。
「楽しいね」
「そうだよね、僕もね」
「王子もだね」
「楽しいよ、凄くね」
 こう先生に答えるのでした。
「楽しい学問だね」
「そう、学問は楽しいものだよ」
「難しいものじゃなくて」
「僕がいつも言っているね」
「そうだね、楽しいものだね」
「どの学問もね」
 この辺りあらゆる学問に励んでいる、それもご自身で言う通りに楽しくしている先生らしい言葉です。
「そうしているね」
「それで今もだね」
「楽しんでね、忍者のこともね」
 この世界の人達が大好きな日本のこの人達もです。
「学問になるよ」
「歴史のだね」
「うん、恰好いいよね」
「現実の忍者もね」
「戦う訳じゃないけれどね」
 忍ぶ人達です、あくまで。
「あの手裏剣や刀、忍者屋敷もね」
「忍者屋敷もだね」
「あの装束もね」
 忍者独特のそれもというのです。
「僕は大好きだよ」
「あれ嫌いな人いるかな」
「いないよね」
「見てるだけで恰好いいよね」
「何かもう独特でね」
「見ていて惚れ惚れするわ」
 動物の皆も同じ意見でした、忍者については。
「侍、陰陽師と並ぶ日本の代名詞よね」
「お公家さんもいいけれど」
「忍者はその中でもね」
「最高に恰好いいわ」
「その忍者の場所に行けるなら」96
「是非」
 むしろ先生以上にです、動物の皆は乗り気でした。それで先生にこうしたことも言ったのでした。
「いやあ、伊賀だけじゃないんだ」
「あと甲賀ね」
「忍者所縁の場所って」
「ここもだったんだ」
「根来衆もあったんだ」
「忍者は日本各地にいたしね」
 このことからお話する先生でした。
「だからね」
「和歌山にもいて」
「それでなんだ」
「その所縁かも知れない場所に行ける」
「今から」
「そうかもね、じゃあね」
 先生も乗り気です、忍者も学問のうちと考えているからです。
「行こうね」
「これからね、いや」
 ここで先生はふと思い出しました、そのことはといいますと。
「確か根来寺は和歌山市じゃなかったね」
「あれっ、違ったの」
「あのお寺じゃないの」
「根来衆のお寺よね」
「あの忍者の」
「違ったよ、それにあのお寺はね」
 その根来寺はというとです。
「真言宗のお寺で」
「根来衆とも関係ないの」
「あの忍者の」
「あの人達とも」
「そうだったよ、和歌山市の忍者はね」
 その人達はいるにはいるにしてもです。
「和歌山城で出ていたよ」
「さっき僕達がいたお城じゃない」
「まさにそのお城よ」
「けれど忍者いなかったよ」
「そんな人達は」
「今日は出ていないんだ」
 残念なことにです。
「その日じゃなかったんだよ」
「あれっ、そうだったの」
「今日は忍者が出る日じゃなかったの」
「そうだったの」
「残念なことに」
「そうだったんだ、だからね」
 それでというのです。
「残念だけれど」
「忍者にはお会い出来ないんだ」
「そうなんだ」
「忍者には会えないの」
「雑賀衆の人達には」
「そうだったよ、残念だけれどね」
 本当に残念そうに言う先生でした。
「もうこのままね」
「行く?高野山に」
「そうする?」
「本当に残念だけれど」
「そうする?」
「うん、そうしよう」
 とても残念そうに言う先生でした、そしてです。
 最後のビールを飲んでです、皆に言いました。
「高野山に行こうか」
「これからね」
「そうしようか」
「キャンピングカーに乗って」
「そのうえで」
「そうしようね」
 こう言ってそうしてでした、皆で高野山に向かうことにしました。忍者のことはとても残念に思いながら。
 そのお話をしてです、王子は先生に言いました。
「じゃあビールも飲んだし」
「今からね」
「高野山に行こうね」
「そうしようね」
「何か先生ってね」
 ここでこんなことを言った王子でした。
「忍者も好きだってわかるよ」
「うん、大好きだよ」
「ああ、やっぱりね」
「さっきも言った通りだよ」
「日本の歴史の中でもだね」
「あんなに楽しいものはないよ」
「スパイだしね、けれど普通のスパイ以上に」
 それこそとです、王子も言います。
「楽しい存在だよね」
「だから見られたらって思ってたけれど」
「それがだね」
「実現出来なかったから」
「今度は伊賀に行きたいよ」
 落胆しつつもこうも思った先生でした、今は残念と思っていても学問のことなら諦めない先生なのです。



今回は和歌山城に。
美姫 「食べ物に歴史、忍者と色んな話をしながらね」
本当に楽しそうだな。
美姫 「ええ。このまま高野山に行くみたいだけれど」
どうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



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