『ドリトル先生と奈良の三山』




               第十一幕  白鹿にお話すること

 先生はあらためて三山を見て回りました、そのうえで皆に言うのでした。
「地質や植物のことは大学に戻って調べるけれど」
「やっぱりなんだね」
「三山は人工の山なの」
「古墳か何かね」
「何かの考えがあって二等辺三角形に配置されている」
「そうした山達なのね」
「そうとしか思えないね、何度も見て思ったよ」
 今は間近に香具山を見ています、そのうえでの言葉です。
「どの山も形もね」
「そういえばちょっと不自然かしら」
「山にも色々な形があるけれど」
「盆地にぽつんとだし」
「そのこともあって」
「そう、自然の山とも思えなくてね」
 しかもというのです。
「それぞれ形もだしね」
「ううん、古墳なのね」
「それで何か考えがあって三山を二等辺三角形に配置した」
「多分宗教的な考えで」
「そうしたのね」
「そうだろうね、考えれば考えるだけ」
 まさにというのです。
「謎が多いよ、そして僕はね」
「論文を書くのね」
「そうするのね」
「今わかって推測出来る限りはね」
 それを論文で書くというのです。
「それが今後三山の考察についての叩き台になればいいね」
「そうだね」
「白鹿さんが言われていた通りに」
「そこから研究が進めばいいね」
「三山について」
「そう思うよ、じゃあ次は畝傍山を見るけれど」
 今度はそちらの山をというのです。
「この奈良県の北は本当に開けてるね」
「そうね、確かに周りは山ばかりだけれど」
「山が見えない場所はないって言ってもいいけれど」
「広い盆地よね」
「奈良県全体で」
「そう、奈良市に大和郡山市に大和高田市に橿原市」
 こうした地域がというのです。
「平野にあるね、桜井市まではね」
「宇陀市は少し違うのよね」
「東の方のあちらは」
「あそこは盆地のさらに盆地だよ」
 そうなっているというのです。
「奈良の北にあってもね」
「あそこも北なのね」
「そうなのね」
「あそこも人が結構多いの」
「そう、奈良県といっても広いけれど」
 ここでもこのお話をするのでした、香具山から実際に畝傍山に向かいながら。
「あちらも結構人がいるんだ」
「そうした意味でも北なのね」
「あちらも」
「後は御所市とか王寺町もかな」
「北って言えるかな」
「大体吉野かな」
 先生はここでもこの地名を出しました。
「南になるのは」
「あそこが南の入り口で」
「それでそこから南が奈良県の南ね」
「奈良県の南部」
「そうなるのね」
「五條市は緯度では吉野と同じ位だけれど」
 この市の場合はといいますと。
「まだね」
「北の方に入るの」
「そういえば吉野って奈良県の真ん中位ね」
「真ん中にあるけれど」
「そこからまさに南が奈良県の南部」
「そうなるの」
「それで山ばかりなのは行った通りだよ」
 以前この奈良県に来てその自然を見た時と、というのです。
「本当にね、山と木ばかりで」
「凄かったから」
「同じ奈良県とは思えない」
「そんな場所だったわね」
「そうだったね、奈良県は」
 本当にというのです。
「北と南で違うよ」
「それで北はこうね」
「開けてて」
「昔から人も集まって」
「三山みたいな場所も造られていたのね」
「人工の山だと仮定して考えると」
 まだ結論は出ていないのでこういったのです、そしてです。
 ここで、です。こうも言った先生でした。
「かなり古くから日本の中で人が集まっていたね」
「この奈良には」
「それは本当に間違いないわね」
「どう考えても」
「だから日本の中心だったしね」
 その太古からです。
「ここは、他にも開けた場所があったし」
「京都も大阪もね」
「そうだったわね」
 チープサイドの家族がお話しました。
「関西はね」
「昔からそうだったのよね」
「あっ、そういえば暮らしやすい場所が多いね」
「そうだね」
 オシツオサレツも気付きました。
「京都だってね」
「お水も奇麗だし」
「だから昔から人が多くて」
 ダブダブも言いました。
「日本の中心にもなったの」
「愛媛もいい場所だったけれど」
 それでもと言うトートーでした。
「関西はまた別格な感じがするね」
「日本で一番農業に向いていて商業もしやすくて」
 人が多いだけじゃなくて交通の便や川もあってです、そうしたことから考えた老馬でした。
「栄えるのも当然だね」
「東京の方も開けてるけれど」
 それでもとです、ジップが思うには。
「あそこは確かお水も地質もよくないから」
「あっちは長い間開けていなかったんだったね」
 チーチーは前から先生から聞いたことを思い出しました。
「江戸時代までは」
「そうそう、江戸時代から栄えて」
 ポリネシアも言います。
「それまではずっと関西の方がずっと開けていたのよね」
「今だと信じられないね」
 東京のことをこう言ったホワイティでした。
「あんなに賑やかなのに」
「変われば変るもの?」 
 ガブガブはこう思いました。
「場所も」
「というか横浜も全然開けていなかったなんてね」
 先生も同じ考えでした。
「僕にしてもだよ」
「信じられないわよね」
「東京も横浜も昔は人が少なくて」
「全然開けてなくて」
「街どころか草原だったなんて」
「それこそ見渡す限りの」
「それがああなったんだよ」
 世界屈指の大都市群が形成されたというのです。
「徳川家康さんが江戸に大きなお城を築いて幕府を開いてね」
「何か無理にあそこに移らされたんだよね」
「けれどその縁でああなったって」
「思えば凄いね」
「元々は愛知の人なのに」
「全くだよ、けれど奈良県はね」
 ここのお話に戻しました、皆の前に畝傍山が見えてきました。
「もう最初からだね」
「日本という国が出来て」
「その頃から人が多くて開けていた」
「農業も営まれていて」
「政権も出来たのね」
「そうだよ、本当にね」
 実際にというのです。
「それで三山もあるんだね」
「そういうことね」
「奈良市もあって」
「いや、あそこでも色々見たね」
「大仏さんにしても春日大社にしても」
「正倉院もね」
「唐招提寺も」
 このお寺もというのです、そしてです。
 動物の皆は先生にです、こう提案しました。
「先生もう少ししたら神戸に戻るけれど」
「明後日にはね」
「けれど明日まだ時間あるし」
「もう一度奈良市回ってみる?」
「学問は何度も同じ場所回るのよね」
「だったらね」
「そうする?」
 こう提案するのでした。
「ここは」
「そうする?」
「そうしない?」
「そうだね、いいね」
 先生も皆の提案に乗りました。
「もう一度ね」
「そうそう、気付いたところを論文に書けばいいし」
「まだ発表してないから訂正出来るよね」
「それじゃあね」
「じゃあそこを見て回って」
「そしてね」
「また新しいものを見付けられたらよしとしましょう」
「うん、行こう」
 先生は皆に答えました。
「明日はね」
「そうしましょう」
「じゃあ今日は耳成山も見て」
「あとは長谷寺に行くのよね」
「桜井市のあのお寺に」
「そうしよう、あそこに行って」
 そうしてというのです。
「色々見て回ろうね」
「あそこも有名なお寺よね」
「確か源氏物語とかにも出て来る」
「かなり古くて由緒あるお寺で」
「観光名所でもあるのよね」
「そう、あそこもね」
 長谷寺もというのです。
「学問をすべき場所だから」
「それじゃあね」
「あちらに行こう」
「そうしようね」
「耳成山の次は」
 こうしてでした、皆で。
 その長谷寺に入りました、長谷寺はとても険しい山といいますか山そのものがお寺と言っていい場所で。
 お寺の中の階段を登ってです、皆びっくりしました。
「うわ、凄いね」
「かなり険しいね」
「まさに日本のお寺ね」
「建物の様式も古くて」
「趣もあって」
「そうした意味でも凄い場所ね」
「そうだね、こうしていたら」
 本当にと言う先生でした、先生も階段を登っています。
「何か特別な場所に来た気分になるね」
「門前町もあるしね」
「あそこも昔からの町よね」
「長谷寺の前に昔からある」
「そうした場所ね」
「そうだよ、本当に源氏物語の頃からあるから」
 平安時代です、まさに千年は前です。
「それだけの歴史があるよ」
「ここに源氏の君も来たのね」
「物語でのことだけれど」
「この階段のところも登ったのかしら」
「それで景色も見たのね」
 周りの景色は山のとても奇麗で壮大なものです、まるでずっとそうであった様な自然の景色が皆の目の前にあります。
「緑が多くて」
「お寺の中にはお花も多くて」
「境内に色々な堂があって」
「昔から沢山のお坊さん達が修行していて」
「源氏の君も来ていたんだね」
「そうだよ、源氏の君はね」
 この人はについて先生はさらにお話しました。
「矛盾していた人でもあったね」
「あれっ、そうなの」
「帝の御子で位人臣を極めた人じゃないの」
「政治家としても文人としても立派で」
「絶世の美男子でお洒落で」
「女性にももててもててで」
「そうだね、けれどね」
 皆の言ったことは事実でもです。
「それでいて女性との愛と俗世と信仰にも常に悩んでいてね」
「あれっ、そうだったの」
「華やかなだけじゃないの」
「そうだったの」
「華やかさと悲しさが一緒にあるんだ」
 先生は源氏の君が見てきたその景色を見ながらお話しました、木々の中に昔ながらの姿を見せる堂達もその緑の木々も花々も。
「源氏物語は」
「それで源氏の君も」
「そうだったの」
「その中心にいたね」
 栄華と悲しみ、その物語のです。
「あの人は」
「ううん、華やかなだけじゃなくて」
「悲しみもあって」
「それで源氏の君もその中にあって」
「苦しみ悩んでいたの」
「そうした人だったの」
「それで最後は出家するしね」
 俗世のことに悩み疲れ果ててです。
「そうなるから」
「そうだったの」
「だからお寺にもお参りしてたの」
「そうだったのね」
「この長谷寺にも」
「このことも前の皆に話した記憶があるけれど」
 それでもお話する先生でいた。
「折角源氏物語の所縁の場所に来たからね」
「お話してくれるのね」
「そうなのね」
「そうだよ、物語であるけれど」
 先生もこのことをよく認識しています。
「それでも意識してしまうね」
「物語だけれど」
「それでも現実に思える」
「何かそれも不思議なお話ね」
「物語なのに現実に思える」
「このことも」
「まあ現実と物語の区別は」
 それはといいますと。
「確かな様で実はね」
「曖昧なのかしら」
「その壁は薄くてすぐに行き来出来る」
「そうしたもの?」
「お互いの世界の違いは」
「そうかもね、源氏の君も物語の人でも」
 それでもというのです。
「その実はね」
「現実の世界にも影響していて」
「僕達も今考えている」
「源氏の君が来ていたこの場所に来て」
「そのうえで」
「そうかもね。現実と物語の壁は実は非常に薄いんだろうね」
 先生はこうも考えるのでした。
「だからひょっとしたら僕達も何かきっかけがあったら」
「物語の世界に行くかも知れない」
「何かしらの」
「そうかも知れないのね」
「そうも思ったよ、それぞれの世界は完全に分かれていないんだ」
 多くの世界はというのです、先生はパラレルワールドについても考えるのでした。
「非常に薄くて脆い壁で遮られているだけで」
「別の世界にも行ける」
「お互いに」
「僕達もそうで」
「そして源氏の君も」
「そうかもね、世界は一つじゃなくて」
 そしてというのです。
「お互いに行き来出来るのかもね」
「だから源氏の君もなのね」
「ここにいたのね」
「この長谷寺に」
「そう考えられるかな、少なくともこの景色を見ていたよ」 
 白い花々が緑の中に咲いています、沢山の緑の中に白くて奇麗なものが見えています。その対比がとても目に残ります。
「間違いなくね」
「千年前にね」
「そうしていたのね」
「そうだったよ」
 こう皆にお話します、そうして花達を見ていますと。
 ここでまた白鹿が出てきました、すると先生は白鹿に笑顔で言いました。
「今日は何かな」
「はい、三山を見終わりましたね」
「そのことだね」
「お疲れ様でした」
 白鹿は先生にこう言うのでした。
「この言葉をお伝えに来ました」
「そうなんだね」
「はい、それでなのですね」
「うん、三山についての論文を書くよ」
「地質や草木のことも含めて」
「書くからね」
「ではその論文の完成をお待ちしています」
 白鹿の言葉には笑みが入っていました、見ればお顔もそうなっています。
「是非」
「そうしてくれるんだね」
「はい、ご執筆頑張って下さい」
「発表すれば君達の目にも入るんだよね」
「そうです」
 その通りだというのです。
「ですからこのことはご安心下さい」
「それじゃあね」
「それと昨日おぢばに行かれましたね」
「天理市だね」
「あちらはどうだったでしょうか」
「とてもよかったよ」
 先生は白鹿に明るいお顔で答えました。
「あちらの神様も感じられたよ」
「それは何よりです、あちらの神様は神道の神々とはまた違う神様ですが」
「それでもだね」
「同じ神仏ですので」
 だからだというのです。
「非常に素晴らしい方です」
「教祖さんも素晴らしい人だったね」
「はい、今もよくお見掛けします」
「あちこちをお助けに回っているらしいからね」
「奈良でもよくそうされているので」
「それでだね」
「お見掛けします、我が国ではあらゆる神仏が和しています」
 そうしたお国だというのです。
「キリスト教も然りですし」
「あっ、そういえばね」
「奈良にもキリスト教の教会があるね」
「そうだよね」
「それで何でもないよね」
「平和に共存しているよね」
「そうです、神父様も牧師様もおられて」
 神に仕える人達もです。
「神主や僧侶の方々ともです」
「仲がいいね」
「そうだよね」
「戦争とかなくて」
「欧州みたいにね」
「そうした国なので」
 白鹿は動物達にもお話します。
「私もおぢばにお邪魔することも多く」
「そこでもだね」
「天理教の神様とも仲良くしているんだ」
「宗教の垣根を超えて」
「そうです、そしてです」
 さらにお話する白鹿でした。
「あちらにも神社が多いです、お寺にしても」
「あっ、そうだね」
「確かにね」
「あっちで結構見たね」
「石上神社とかね」
「お寺もあって」
「神仏が和している国なので」
 だからと動物達にもお話します。
「だからなのですよ」
「あらゆる神様が一緒にいるなんて」
「天理教の神殿のすぐ近く、歩いて行ける場所に神社も普通にある」
「それが日本ね」
「まさに」
「そうだね、日本だね」
 先生も笑顔で言います、そして白鹿に笑顔のままこうも言いました。
「君にしても今ね」
「お寺にいますね」
「そうだよね」
「はい、ここは御仏の場所ですが」
「君みたいな神様の使いでもだね」
「出入りさせて頂いています」
 それが出来るというのです。
「この通り」
「それも神仏が和しているからだね」
「御仏のお使いも神社に自由に出入り出来ますし」
「神様の使いもだね」
「この様にです」
「行き来出来るんだね」
「そうです、それも親密に」
 ただ行き来出来るだけでなく、というおです。
「有り難いことに」
「そういえば違和感ないね」
「白鹿さんがここにいてもね」
「何か自然よね」
「お寺にいても」
「特にね」
「自分でもそう思います、こうしてです」
 実際にというのです。
「行き来出来るのは有り難いことです」
「むしろ先生よりも自然よ」
「ここにおられても」
「特にね」
「何の違和感もないから」
「神仏を同じとして考えるから」
 先生がここでまた言いました。
「こうしたこともあるし日本人の素晴らしい考えの一つだよ」
「神も仏も共に敬い間近にある」
 白鹿も先生に応えます。
「まさに日本ですね」
「南アジアから東のアジアでは結構あることだね」
「あらゆる宗教が共存共栄していることは」
「日本では特に顕著だけれどね」
「何しろ皇室の方々からです」
「神道のお家だけれどね」 
 何しろ天照大神の子孫なのですから。古事記にもこのことが書かれています。
「仏教も信仰されていてね」
「そうですね」
「法皇様もおられたし」
「そういえば法皇様って日本にもおられたね」
 トートーがふと気付いたお顔になりました。
「ローマ以外にも」
「そうそう、平安時代とかね」
 ジップはトートーのそのお話に応えます。
「おられたよね」
「確か上皇様が出家されたんだよね」
 ホワイティは先生に教えてもらったことをお話に出しました。
「そうだったね」
「神道のお家の方でも出家出来るのね」
 ポリネシアもこう言います。
「それが日本ね」
「皇室の方でも出来て」
「それが普通で」
 オシツオサレツも言うのでした。
「両方を同時に信仰出来る」
「そうでもあるのね」
「何ていうか」
 ダブダブが言うことはといいますと。
「これって何気に凄いことなのよね」
「日本独自だよ」
 ガブガブは断言しました。
「その宗教で一番尊い方が他の宗教の聖職者になるなんてね」
「それが日本の法皇様ってことだね」
 チーチーも腕を組んで考えるお顔になっています。
「カトリックの法皇様とは全く別だね」
「あと正教の場合は皇帝さんが一緒だったね」
「確か皇帝教皇主義だったわね」 
 チープサイドの家族のお話も以前先生が教えてくれたものです。
「そうだったわね」
「確かね」
「そうだよ、あちらは聖俗の権力を一体化させて統治力を強める為の政策だったんだ」 
 先生はこちらのお話をするのでした。
「だから皇帝が教皇つまり法皇様でもあったんだ」
「それで日本の法皇様は出家された上皇様」
「そうだったよね」
「平安時代かなりおられたわね」
「後白河法皇もそうだったし」
「あの方ですね」
 後白河法皇と聞いてです、白鹿はこう言いました。
「あの方は有名ですね」
「平家物語でもね」
「はい、今様も詠われていましたし」
「今様?」
 そう聞いて動物の皆は首を傾げさせました。
「それ何かな」
「急に出て来たけれど」
「何なのかしら」
「和歌みたいなもの?」
「詠うっていうから」
「そうですね、歌なのは確かです」
 実際にとです、白鹿は動物の皆にお話しました。
「あの歌は」
「そうだったの」
「実際に」
「和歌とは別の歌で」
「その法皇様はそれがお好きだったの」
「その今様が」
「そうでした、色々と陰謀家とも言われていますが」
 平家物語では特に有名です、このお話の中では法皇様の行いに多くの人が振り回されて大変なことにもなっています。
「今様を謡われて気さくな一面もあられました」
「そうだったの」
「そうした方だったの」
「そんな昔のこともご存知なのね」
「流石に千年以上生きておられるだけはあるわね」
「あの方が二代目の大仏に目も入れられました」
 白鹿はこのこともお話しました。
「そうした意味でも覚えています」
「そうそう、二代目の大仏はあの法皇様が目を入れられたんだ」 
 実際にとお話した白鹿でした。
「初代が焼けてね」
「あの源平の争いで」
 白鹿はその時も思い出しました。
「そうなったけれど」
「それでもだったんだ」
「もう一度建立して」
「その法皇様が目を入れられた」
「一番大事なことをされたんだ」
「そうだったのです、ただ入道様も」
 白鹿はここで悲しいお顔になりました、その頃を思い出したお顔で。
「決して悪い方ではなかった、いえ」
「むしろだね」
「徳を備えた方でした」
 こう先生にお話するのでした。
「人としての」
「そうらしいね、実際は」
「はい、平家物語とは違い」
 そこで書かれている入道様つまり平清盛さんと実際の平清盛さんは違っていたというのです、白鹿は先生にこのこともお話しました。
「実はです」
「政治家としても平家の長としてもね」
「よい方でした」
「そうだったたね」
「はい、実は」
 そうだったというのです。
「誤解されていますが」
「あの大仏殿を燃やしたこともね」
「本意ではありませんでした」
 実はというのです。
「あの方にとっては」
「あの時は仕方なかったね」
「身分が低い人にもとても優しく」
 位人臣を極めた人なのにです。
「温厚な方でした」
「あれっ、随分物語と違うんだね」
「実際の清盛さんって」
「暴君ってイメージあったけれど」
「優しい人だったんだ」
「しかも政治力もおありで」
 そちらも備えていたというのです。
「あの方も素晴らしい方でした」
「そう言うと頼朝さんの方が悪い感じね」
「むしろね」
「あの人の方が」
「どうにも」
「私はあの人は好きではありません」
 白鹿は皆に頼朝さんをどう思っているのかもお話しました。
「どうにも」
「実際になんだ」
「あの人って暗いイメージ強いよね」
「義経さんのこともあるし」
「どうにも」
「はい、ですから」
 そのイメージが強くてというのです。
「私もです」
「頼朝さん好きじゃないんだ」
「どうしても」
「そうなのです、その頃は残念でした」
 源平の戦が行われていた時はというのです。
「戦の流れをこの大和、奈良で聞いていまして」
「何というかね」
 先生もそのお話を聞いて言うのでした。
「当時のお話を聞くと」
「それもまた、ですね」
「学問になるね」
「そうですね」
「それでそのことも」
「はい、油断していますと」
 かなり昔のことなので。
「忘れてしまいます」
「そうだね」
「八百年か九百年前のことですが」
「かなり前だから」
「文献を読んで」
 そうしてです。
「思い出してもう一度です」
「思い出すんだね」
「そうです、聖徳太子のことも」
 この方のこともというのです。
「どうにもです」
「記憶がだね」
「混乱しています」
 そうだというのです。
「本当かどうか」
「真実はだね」
「わからなくなっているところがあります」
 どうにもというのです。
「文献を読みましても」
「肝心のその文献がね」
「はい、伝説も多く」
「そのせいでだね」
「聖徳太子に関しては」
「伝説とだね」
「混ざっています」
 史実がというのです。
「そうなっています」
「聖徳太子でそうだから」
「三山のことになると」
「もうそれこそなのね」
「記憶にない」
「完全に消え去っているんだ」
「そうです、ですから先生に論文を書いて頂けれると」
 そうしてくれると、というのです。
「そこからヒントを得られると思い」
「有り難いんだね」
「そうです」
 実際にというのです。
「私、そして奈良の他の神の使い達にとっても」
「神々もだね」
「まことに。本当に文献がありませんと」
 どうしてでもというのです。
「忘れてしまいます」
「その頃に生きていてもなのね」
「昔のことだから」
「人間みたいに忘れてしまうんだ」
「そうなの」
「全部忘れる訳ではないですが」 
 それでもというのです。
「大昔過ぎますと」
「成程ね」
「じゃあ卑弥呼さんのことは」
「ここって卑弥呼さんの町って言ってるけれど」
「邪馬台国とかね」
「どうだったか」
 首を傾げさせての返事でした、今の白鹿のそれは。
「わかっていません」
「確か三世紀位だよね」
「そうそう、卑弥呼さんってね」
「皇室の関係者だったとか言われてるよね」
「そうもね」
「どうだったでしょうか」
 本当に覚えていない感じの返事でした、今の白鹿のそれは。
「果たして」
「ああ、覚えてないんだ」
「三山のことと同じで」
「卑弥呼のことも」
「そうだったの」
「九州という説もありましたね」
 邪馬台国のあった場所はです。
「この近畿ではなく」
「うん、僕はまだそちらは本格的に研究していないけれど」 
 それでもとです、先生も言います。
「けれどね」
「それでもですね」
「うん、邪馬台国が近畿にあったかというと」
「否定されませんか」
「かなり有力な説みたいだね」
「そうですか」
「うん、ただ白鹿さんもその頃は」
 三世紀位はです。
「覚えていないというか」
「生まれていなかったですね」
「そうだよね」
「私は大体五世紀か六世紀に生まれた様です」
 その頃にというのです。
「そして弥生時代からです」
「記憶がはっきりしてきているね」
「そうですから」
「三山のことも邪馬台国のことも」
「記憶はかなり」
 実際にというのです。
「曖昧なのです」
「そうなんだ」
「はい」
 こう言うのでした。
「もっと言えばかなり忘れています」
「そういうことだね」
「ですから先生の論文を読ませて頂きたいのです」
「じゃあ頑張って書くね」
「宜しくお願いします、そして」
「そして?」
「奈良は如何でしたか?」
 先生にこうも聞いてきた白鹿でした。
「こちらは」
「素晴らしい場所だとしかね」
「言い様がありませんか」
「僕としてはね」
「学びがいがありましたか」
「そう、観光としてもね」
 こちらの見地からもというのです。
「素晴らしい場所だよ」
「食べものも結構いけるし」
「噂みたいに駄目じゃなかったわ」
「美味しかったわ」
「そちらも楽しめたよ」
「それは何よりです」
 白鹿は動物の皆にも応えました。
「私にしても」
「奈良の神様の使いとしては」
「とてもなんだ」
「そう思ってくれたら嬉しい」
「そうなのね」
「非常に。ただ一つ」
 ここで苦いお顔で言った白鹿でした。
「あのマスコットだけは」
「マスコット?」
 先生は白鹿のその言葉に目を瞬かせて返しました。
「っていうと」
「何といいますか平城京一三〇〇年記念からの」
「ああ、せんと君だね」
「あれはどうもです」
 白鹿は難しいお顔で言うのでした。
「私としましては」
「好きになれないんだ」
「マスコットキャラ、ゆるキャラというよりは」
 どうにもというのです。
「妖怪に見えます」
「ああ、あのマスコットはね」
「もうそうよね」
「あれ妖怪だよね」
「どう見ても」
「あの外見はね」
 動物の皆もこう言います。
「もう妖怪だよ」
「どう見ても」
「何であのマスコットにしたのかしら」
「センス疑うよね」
「知事さんが決められたのですが」
 白鹿は今度は苦いお顔になっています。
「そこから定着してしまいました」
「今もだからね」
「完全に奈良県の顔になってるよね」
「気持ち悪いって言われながら」
「それでもね」
「他のマスコットキャラやヒーロー達はともかく」
 そちらはいいというのです。
「あのキャラだけは」
「どうにかならないか」
「深刻な問題なのね」
「奈良県にしては」
「どうしても」
「今はそのことで悩んでいます」
 奈良の神の使いとしてです。
「他にいいキャラがいるといいますのに」
「僕はどうも言えないね」
 先生は白鹿に困ったお顔で言いました。
「どうにも」
「そうですか」
「奈良に住んでいないからね」
 だからだというのです。
「このことについては」
「左様ですか」
「白鹿さんには悪いけれど」
「いえ、悪くはありません」
 それは否定した白鹿でした。
「決して」
「そう言ってくれるんだ」
「はい、奈良におられないのならとです」
「意見を言わないことはだね」
「それもまた一つの判断です」
「だからなんだね」
「無論どうかと言われてもです」
 そしていいという意見もです。
「一つの意見ですが」
「それでもだね」
「言わないというのも判断です」 
 それになるからというのです。
「ですから」
「そう言ってくれるんだね」
「はい、それでは」
「うん、あのマスコットについてはね」
「先生のお考え承りました」
 こう先生に言うのでした。
「その様に」
「それじゃあね」
「我々としましては、ですが」
「どうしてもだね」
「他にいいものはなかったかと」
「今も思っているんだね」
「何しろ奈良県の県庁に正式に採用されています」
 つまり公式マスコットになっているというのです。
「恐ろしいことに」
「それないよね」
「普通にね」
「あれで正式採用って」
「何か職員さん扱いなのよね」
「奈良県の」
「全く以て理解に苦しみます」
 まだ言う白鹿でした。
「奈良県には他にもマスコットがあるのですが」
「あのマスコットが顔になってるね」
「グッズも一杯あるしね」
「持ったら呪われるかもね」
「あの外見だとね」
「嘆かわしいことです」
 白鹿の言葉は続きます。
「あのマスコットだけはどうにかならないのか」
「奈良県はいい場所だけれど」
「マスコットには恵まれていないのかしら」
「というかあのマスコットが顔になっている」
「それが嫌なのね」
「妖怪よりも怖いからね」
「奈良県も妖怪が多いですが」
 白鹿はこのことも知っています、古くから人がいて自然も豊かなので人と自然と共にある妖怪達も多いのです。
「その妖怪達よりもです」
「あのマスコット怖いね」
「とてもね」
「そうとしか見えないよね」
「どうにも」
「あのマスコットについては」
 どうにもというのです。
「そう思うばかりです」
「難しい問題だね」
「奈良県にとっては」
「県民の人達にとっても神仏にとっても」
「そして神仏の使いにとっても」
「私も角がありますが」
 鹿だからです、見れば確かに鹿の角があります。
「あのマスコットにも角がありますね」
「うん、しっかりとね」
「あの角は御仏としてはおかしいですから」
「そうそう、仏教では頭に角があるとね」
「鬼ですから」
「よくないんだよね」
「そこも気になりますし」
 神様の使いとしてもです、仏教ともお付き合いが深いので。
「どうしたものか」
「とにかくあのマスコットはだね」
「どうしても抵抗があります」
 そうだというのです、こうしたお話をしてからです。
 白鹿はあらためてです、先生達にお話しました。
「では下らないお話をもしてしまいましたが」
「あと一日だね」
「奈良をお楽しみ下さい、そして」
「まただね」
「いらして下さい」
 長谷寺でこう言うのでした、そうしてでした。
 白鹿と別れた先生は長谷寺の他の場所も巡ってそのうえで長谷寺を後にしました。そのうえでこの日もゆっくりと休みました。



三山の事はひとまずは終了と。
美姫 「後は戻って調べたりって感じみたいね」
調査しつつもあちこちを巡ったようで。
美姫 「本当に楽しんでいるわね」
本当に。のんびりできて良かったじゃないか。
美姫 「確かにね。でも、そろそろ帰宅ね」
だな。次回はどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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