『ドリトル先生と奈良の三山』




              第四幕  唐招提寺

 先生は動物の皆と一緒にまずは東大寺を離れてです、かつて平城京の正門があった場所に来ました。
 勿論今は正門は残っていません、ですが。
 動物の皆はそこに来てです、こう言うのでした。
「ここが、だよね」
「そうよね、平城京の正門があったのよね」
「奈良時代には」
「その頃にはね」
「うん、ここに正門があってね」
 それでとお話する先生でした。
「平城京が門から見て北にあったんだ」
「帝のおられる宮殿もあって」
「街もあったんだね」
「そして街が壁に囲まれていた」
「そうだったのよね」
「そうだよ、結構以上に広い街でね」
 その平城京はというのです。
「栄えてもいたんだ」
「今もこうして奈良市があるし」
「長い間結構人が多かったのね」
「平安時代も鎌倉時代も室町時代も」
「江戸時代だって」
「そう、ずっと古都であり続けた街だけれど」
 先生は皆にその奈良の街としての歴史もお話しました。
「全ては平城京からはじまるんだ」
「そうなのね」
「そしてそのはじまりの場所がこの正門」
「それがあった場所なの」
「そうだよ、全てがね」
 まさにというのです。
「ここからはじまっているんだ、そしてね」
「そして?」
「そしてっていうと?」
「今からここから行くんだ」
 この正門があった場所に来たのが目的ではないとです、先生は動物の皆にお話したのでした。
「実はね」
「あっ、そうなの」
「ここに来て終わりじゃなかったんだ」
「そうだったの」
「そう、明日は西大寺とかも行く予定だけれどね」
 それでもというのです。
「明日香村に行く前に。けれど今日はまだ時間があるからね」
「ここからなんだ」
「この平城京の正門があった場所からなんだ」
「他の場所に行くの」
「そう、唐招提寺に行くんだ」
 このお寺にというのです。
「行くんだ」
「ええと、唐招提寺って」
「確か鑑真さんって人のお寺だよね」
「中国から仏教を伝える為に来日したっていう」
「何度も失敗しながらも」
「そう、その人が日本に来てね」
 そしてというのです。
「もうけられたお寺だよ」
「それが唐招提寺なんだね」
「今から行くお寺なのね」
「そうなのね」
「そうだよ、そこに行って」
 そしてというのです。
「今からね」
「それじゃあね」
「一緒に行こうね」
 こう言ってでした、皆は先生に連れられて唐招提寺に向かうのでした。そのまま歩いていきますが。
 奈良の普通の市街地を歩きながらです、動物の皆はわかったことがありました。そのわかったことはといいますと。
「あれっ、何かね」
「ずっと一直線よね」
「まっすぐ歩いているね」
「そうだよね」
「あっ、皆気付いてくれたね」
 先生も皆も言葉に笑顔で応えました。
「実はそうなんだ」
「奈良の都から一直線だったんだ」
「唐招提寺のある場所は」
「そうだったんだ」
「そう、そして平城京は真ん中に大通りがあるね」 
 その造りのこともお話しました。
「そして左右に街があるね」
「右京と左京」
「平安京もそうよね」
「基本同じ造りだし」
「そうなっていたわね」
「そう、そして大通りに先に御所があるね」
 帝がおられ朝廷もあるそこがです。
「大通りも一直線でね」
「じゃあ御所や朝廷から一直線なんだ」
「唐招提寺までは」
「そうして行けたんだ」
「そうだったんだ」
「そうだよ、一直線でね」
 そしてというのです。
「唐招提寺に行けたんだ」
「そうだったんだ」
「御所から唐招提寺まで」
「今の僕達みたいに」
「そう、そして今は歩いて行っているね」
 奈良の街をです、奈良の人達が時折笑顔で歩いているのを見たりそうした人達とすれ違ったりしています。
「そうだね」
「うん、てくてくとね」
「歩いてるよね」
「何かこうして歩いていると」
「結構時間かかるわ」
「どうにもね」
「そう、歩いたらね」
 先生はここで老馬を見て言うのでした。
「けれど馬に乗ったらどうかな」
「あっ、そうだね」 
 その老馬が先生に応えました。
「御所や朝廷からすぐに行けるね」
「歩いてなら少しハードだけれど」
 ジップも言います。
「馬なら人だったら楽だね」
「楽にすぐに行き来出来るね」
 ガブガブも言うのでした。
「御所から唐招提寺まで」
「歩いても行けない距離じゃないみたいだけれど」 
 チーチーはもうすぐ目的地だと感じて言いました。
「馬だと本当にすぐだよ」
「じゃあ宗教とか政治のお話をしようと思ったら」
「すぐに馬で行けば」
 チープサイドの家族も言います、彼等は皆老馬の背中にいます。
「楽に行って」
「それでお話も聞けるね」
「ううん、そう思うと」
 ダブダブの声は考えるものでした。
「唐招提寺の場所ってかなり重要ね」
「宗教的、政治的な理由で場所を決めたんだね」
 ホワイティはオシツオサレツの背中から言いました。
「つまりは」
「そうだね、鑑真さんが来られて」 
 トートーも考えるお顔になっています。
「すぐにそう決めたみたいだね」
「鑑真さんが来日されたことってそんなに大きかったのね」
 ポリネシアの口調はしみじみとしたものでした。
「宗教だけでなく政治でも」
「そう考えると」
「先生が僕達を案内してくれる意味もわかるよ」
 最後に言ったのはオシツオサレツでした。
「唐招提寺まで歩いてね」
「わざわざね」
「これもまたフィールドワークなんだ」
 歩いて現場に学んでいるそれだというのです。
「実際にそうしたことを肌や足でわかることも」
「成程ね」
「学問は読んで書くだけじゃない」
「こうして歩いて実感することも」
「それもまた」
「そうなんだ、もう少ししたらその唐招提寺だけれど」
 目的地だというのです。
「わかるね」
「うん、じゃあね」
「今からね」
「その唐招提寺に行こう」
「曲がり角を右に曲がったらそこね」
「歩いてだと結構な距離だったけれどね」
 それでも馬に乗っていたらとです、皆は先生がお話したそのことを実感してそのうえでなのでした。
 曲がり角を右に行ってです、唐招提寺の前に来ましたが。
 動物の皆はその外観を見てこう言いました。
「歴史あるね」
「さすがに東大寺よりは小さいけれどね」
「あのお寺が大き過ぎるだけで」
「整った感じよね」
「歴史を思わせながらね」
「そうだよね」
「そう、このお寺は奈良時代の趣が残っているんだ」
 そのままというのです、
「今もね」
「そうなのね」
「それでこの外観なの」
「歴史を感じさせる」
「いいお寺ね」
「そう、そしてその唐招提寺にね」
 今からというのです。
「行こうね」
「わかったよ」
「それじゃあね」
「今からね」
「中に入りましょう」
 こうお話してでした、皆でです。
 唐招提寺に入りました、そのうえで皆でお寺の中をよく見てです。動物の皆はあらためて言うのでした。
「いや、ここにだね」
「鑑真さんがおられたんだ」
「唐から来てくれて」
「それでだね」
「そうだよ、ここに入ってね」
 そしてというのです。
「唐の仏教を直接伝えてくれて」
「政治のこともだね」
「お話してくれたんだ」
「そうだったの」
「どの国もそうだったけれ僧侶は知識人だったから」
 このことからというのです。
「政治も詳しくてね」
「それでだね」
「朝廷の人達にも政治を教えてくれていた」
「鑑真さんもだね」
「特に鑑真さんは唐でも有名な高僧だったから」
 つまりそれだけ深い学識を備えていた人だったというのです。
「それでなんだ」
「政治の知識も深くて」
「それでなんだ」
「そちらのことも教えてもらっていた」
「そうなのね」
「うん、そうだよ」
 その通りだというのです。
「そして何よりも仏教のことをね」
「教えてもらっていたんだ」
「日本の朝廷の人達は」
「何かと」
「そうだよ、そして日本の仏教の発展に物凄く貢献してくれたんだ」
 鑑真さんはそうした人だったというのです。
「日本に来るまでの苦難の中で目が見えなくなっていたけれど」
「うわ、それでもなんだ」
「日本に来てくれてなんだ」
「沢山の知識を伝えてくれたんだ」
「そうだったんだ」
「そう、日本の仏教は鑑真さんがいないと」
 若しもというのです。
「どうなっていたかわからないよ」
「そこまでの人なんだ」
「それが鑑真さんなんだね」
「そうだよ、日本の仏教の貢献度でいうと」
 先生はその鑑真さんを思いながら皆にお話するのでした、その唐招提寺の中で。
「同じ時代の行基さんや飛鳥時代の聖徳太子、平安時代の空海さんや最澄さんにも匹敵するだろうね」
「うわ、凄いね」
「聖徳太子と同じだけなんて」
「行基さんも有名よね」
「空海さんと最澄さんなんてね」
「もう仏教界のスーパースターだよね」
「そう、その人達と同じだけなんだ」
 まさにというのです。
「日本の仏教界で重要な人なんだ」
「そうなんだね」
「その鑑真さんがおられた人がこの唐招提寺なんだ」
「そしてここにおられて」
「日本の人達に仏教や政治のことを教えてくれたんだ」
「そうだよ、あとね」
 さらにお話した先生でした。
「鑑真さんは唐から来た人だから言葉はね
「あっ、日本語はご存知ないよね」
「喋ること出来なかったね」
「書くこともね」
「多分そうだよね」
「けれど日本の人達とやり取りは出来たね」
 このことをお話するのでした。
「そうだね」
「さもないと何かと教えられないしね」
「言葉が通じないと」
「それに文字だって」
「当時日本にはもう漢文が伝わっていてね」
 中国の言葉がというのです。
「それでやり取りをしていたみたいだよ」
「ああ、日本の人達が漢文を知ってたから」
「それでなんだ」
「やり取りが出来ていたんだ」
「そうだったんだね」
「そうだよ、当時の唐の言葉をお話出来る人もいたしね」
 日本の朝廷にというのです。
「やり取りが出来ていたんだ」
「そういえば遣唐使って送ってたね」
「その前には遣隋使とかね」
「そうした人達もいて」
「それでなんだ」
「そうだよ、日本の人達も漢文と言葉を知っていたから」 
 それでというのです。
「やり取りが出来たんだ」
「成程ね」
「言葉のこともクリアーされていたんだ」
「だから鑑真さんが来られても問題なかった」
「そうだったんだ」
「そうだよ、ただ当時の日本人の言葉は」
 そちらのお話もするのでした。
「今の日本語と変わらない筈だけれど」
「やっぱり何か違うの」
「昔と今じゃ」
「そうなの」
「発音が違うみたいだね、幾分か」
 そうだったみたいだというのです。
「だから意味は通じてもね」
「お話出来ても」
「それでもなんだ」
「細かいところが違う」
「同じ日本語でも」
「一三〇〇年違うからね」
 それだけ違うからというのです。
「やっぱりね」
「言葉も違ってくる」
「時代によって」
「それでなんだ」
「今の日本の人達が当時の人達とやり取り出来るか」
「それはわからないんだ」
「ちょっとね、あと関西弁はね」
 今度はこの奈良や先生達が今住んでいる神戸だけでなく関西全体で使われている言葉のこともお話しました。
「当時はなかったみたいだね」
「あっ、そうなんだ」
「じゃあ聖武帝は関西弁喋ってなかったんだ」
「そうだったんだ」
「関西弁は古典、平安時代の言葉がもとになっているみたいだから」
 その時代のものだというのです。
「それでね」
「ああ、それでなんだ」
「奈良時代はまだ関西弁なかったんだ」
「そうだったみたいなんだ」
「どうやらね」
 こうお話するのでした。
「もう戦国時代には今の方言が確立していたみたいだけれどね」
「織田信長さんは名古屋の言葉喋ってたんだよね」
「豊臣秀吉さんも」
「徳川家康さんもあっちの言葉よね」
「毛利元就さんは広島の言葉で」
「そうみたいだけれど」 
 それでもというのです。
「奈良時代はね」
「まだ方言もなくて」
「関西弁喋っていたかどうか」
「多分違うんだ」
「当時は」
「そうみたいだよ、まだそうした時代だったんだ」 
 言葉もというのです。
「日本が今みたいになっていく」
「その最初の頃だったんだね」
「奈良時代って」
「そう、大体古墳時代が古代日本の終わりで」
 そしてというのです。
「飛鳥時代が中間かな」
「それで奈良時代がはじまりなんだ」
「今みたいな日本みたいになる」
「そうした時代で」
「言葉もこれからなんだ」
「形成されていっていたんだ」
「奈良時代からね」
 こうお話する先生でした。
「まだ平仮名も片仮名もなかったけれど」
「そこからだね」
「徐々に日本が形成されていって」
「今の日本になっていく」
「そうした時代だったの」
「江戸時代にかなり確立されたけれど」
 今の日本の姿はというのです。
「やっぱりはじまりはというとね」
「奈良時代でだね」
「鑑真さんもその時代の日本に来られて」
「仏教の発展に貢献してくれたんだ」
「何度来日に失敗しても」
「嵐に襲われたりお役人に連れ戻されたり」
 鑑真さんの来日にはそうしたことがあったのです、本当に何度も失敗して苦労してだったのです。
「そうしてね」
「そしてだね」
「目が見えなくなってもだね」
「何とか日本に渡ろうとして」
「そして苦労して」
「何とかだね」
「来られてね」
 そうしてだったのです。
「やっとだったんだ」
「そして来日して」
「仏教を教えてくれた」
「一三〇〇年前の日本に」
「まだ平仮名や片仮名がなかった時代に」
 その日本にというのです。
「そしてだね」
「今もこうしてだね」
「鑑真さんの息吹が残っているんだね」
「この唐招提寺に」
「そうだよ、このお寺は歴史的なね」
 まさにというのです。
「場所でもあるんだよ」
「東大寺や正倉院と一緒で」
「そうした場所でもあるんだ」
「鑑真さんがおられて」
「そうしてだね」
「そうだよ、それとね」 
 さらにお話した先生でした。
「鑑真さんは目が見えなくなったって言ったね」
「うん、何度も来日に失敗している間に」
「数々の苦難の中でだね」
「目が見えなくなっていたんだよね」
「そうだよね」
「けれどその目にはあるものが見えていたらしいよ」
 皆にこうもお話するのでした。
「それでもね」
「へえ、そうなんだ」
「目が見ていなくてもなんだ」
「見えているものがあったんだ」
「そうだったんだ」
「そうだよ」
 皆に笑顔でお話しました、鑑真さん所縁の唐招提寺の中にある歴史的資料達を見て回りながら。
「仏様が見えていたそうだよ」
「ああ、そうなんだ」
「信仰心によってだね」
「目が見えなくなっていても」
「それでもだったんだ」
「仏様は見えていたんだね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「目が見えなくなっていてもね」
「凄いね」
「目が見えなくなっても見えるものがあった」
「それは仏様」
「信仰は見えていたんだね」
「目は不思議な場所だよ」
 身体の器官の中でもというのです。
「見えなくなっていてもね」
「鑑真さんみたいにだね」
「見えているものがある」
「そうしたこともあるんだね」
「そうだよ、それが目というものだというのです。
 そうしたお話をして奈良公園の方に戻るとすっかり夕方になっていました、その夕方を見てです。
 ふとです、先生は皆にこの場所のこともお話しました。
「実は奈良市には士官学校もあるんだ」
「えっ、そうなの!?」
「軍隊の学校もあるの」
「それも士官学校なんて」
「そんなものもあるんだ」
「そう、自衛隊の学校でね」
 それでというのです。
「正式な名前は幹部候補生学校っていうけれど」
「それは知らなかったわ」
「自衛隊の学校もあったなんて」
「士官学校、いえ幹部候補生学校があるなんて」
「意外だったわ」
「どうも知名度は低いけれどね」
 先生は少し寂しそうにお話しました。
「他の場所に比べて」
「ううん、奈良って色々な場所があるから」
「東大寺にしても春日大社にしても」
「さっき行った唐招提寺にしても」
「正倉院だってね」
 とにかく歴史ある場所が多いというのです。
「だからね」
「そうした場所には目が向かうけれど」
「それでもね」
「自衛隊の施設については」
「幹部候補生学校みたいな凄い場所があるなんて」
「思わなかったわ」
「どうにも」
 動物の皆もそうした場所があるとはと言います、ですが。
 自衛隊の学校についてはです、本当にはじめて聞いたといったお顔になって言うのでした。
「そうした場所もあるなんて」
「この奈良市に」
「航空自衛隊、空軍だね」
 先生は微笑んでどの自衛隊かもお話しました。
「そこの学校なんだ」
「ああ、空なんだ」
「そちらの自衛隊なんだ」
「そこの学校なのね」
「自衛隊は三つあってね」
 自衛隊のお話をさらにする先生でした、夕刻の奈良公園の中で。鹿達もそろそろ公園を後にしようとしています。
「陸空海とあるんだ」
「そこは他の国の軍隊と同じだね」
「そうよね」
「三つの軍隊があるのは」
「そうだね」
「そして三つの自衛隊にそれぞれ幹部候補生学校があって」
 今度は学校のお話でした。
「陸自さんは九州の久留米、海自さんは広島の江田島にそれぞれあってね」
「空自さんはここ」
「奈良市にあるのね」
「そうなのね」
「そうだよ、ここにあってね」
 そしてというのです。
「日々立派な士官、自衛隊で言う幹部になる訓練と教育を受けているんだ」
「そうなの」
「僕達が奈良を巡っている間にもなんだ」
「訓練と教育を受けて」
「立派な幹部になろうとしているんだ」
「そうだよ、ただどうしてもね」 
 また少し残念そうにお話した先生でした。
「この奈良市ではね」
「有名な場所じゃないんだ」
「特に誰も行かない」
「そうした場所なのね」
「海自さんの方は観光スポットにもなっているんだ」
 こちらはというのです。
「江田島はね、かつては海軍兵学校だったしね」
「ああ、あの」
「帝国海軍の学校ね」
「我がロイヤルネービーをこてんぱんにやっつけた」
「あの物凄く強い海軍ね」
「あの海軍の学校だったしね」 
 それにというのです。
「今も学校として使っていて」
「観光スポットでもある」
「そうなんだ」
「また機会があったら」
 その時はというのです。
「江田島にも行こうね」
「そうだね、ただね」
「空自さんの学校には行かないのかな」
 最初にオシツオサレツが先生に尋ねました。
「そちらには」
「行かないの?」
「何か今回の予定にはないっぽいわね」
 ポリネシアは今回の先生の旅路について思い出しました。
「この奈良市以外には大和三山も行くけれど」
「空自さんの学校なんてはじめて聞いたし」
 ホワイティはこう言いました。
「この奈良市にあるなんてね」
「そうそう、何処にあるかとは考えてもいなかったし」 
 チーチ―はこの時点で、でした。
「まあ自衛隊にもそうした学校があるにしてもね」
「この奈良市にあるなんて」
 ダブダブも今はじめて知ったことでした。
「予想もしていなかったわ」
「行くにしてもね」 
 今からとです、トートーは言いました。
「もう少ししたら夜だよ」
「もう帰った方がいいよ」
「夜はゆっくり休みましょう」
 チープサイドの家族はこう勧めました。
「それに夜だと学校も閉まってるだろうし」
「アポなしみたいだし最初から入れそうにもないし」
「それで言ってもね」
 ジップも言いました。
「仕方ないし」
「やっぱり帰ろう、先生」
 老馬も先生に言いました。
「今日はこれでね」
「それでホテルに帰ってね」
 食いしん坊のガブガブが言うことはといいますと。
「美味しいものを食べようよ」
「うん、行く予定はないよ」
 先生は皆に答えました。
「空自さんの学校にはね」
「今回のフィールドワークではだね」
「行かないのね」
「そこ自体に」
「うん、論文を書く対象でもないし」
 それでというのです。
「特にね」
「行くこともなくて」
「それでだね」
「今日はもうホテルに帰って」
「ゆっくり休むんだね」
「今日は晩御飯を食べたらね」
 そうしたらというのです。
「奈良の昔ながらの街並みに出て」
「あっ、そこでだね」
「美味しいものを飲んで食べて」
「そうして楽しむのね」
「そうしよう、そうしたお店に予約を取っているしね」
 既にというのです。
「というか日笠さんが奈良に行くならってね」
「あっ、予約取ってくれてたんだ」
「もうそうしていてくれてたの」
「流石日笠さんね」
「こうした時も気遣ってくれるわね」
「やっぱり持つべきものは友達だよね」
 にこやかに笑って言う先生でした。
「日笠さんにもお土産を買ってあげないとね」
「そうそう」
「まあお友達以上になるべきだけれど」
「日笠さんとは」
「先生が積極的になって」
「積極的って何にかな」 
 動物の皆のその言葉にはです、先生はどうしてもわからないものを感じてそうして言うのでした。
「一体」
「ああ、それはね」
「何ていうかね」
「まあ先生が一番苦手なことだけれど」
「スポーツ以上にね」
「僕がスポーツ以上に苦手って」
 そう言われてもわからない先生でした。
「何かな」
「ここでこう言うしね」
「先生は本当にやれやれの人だよ」
「全くどうしたものか」
「このことについては」
「皆が何を言っているのかわからないけれど」
 本当にわかっていないです、まさに何もかもが。
「まあとにかくね」
「うん、今夜はだね」
「ホテルでお食事を楽しんで」
「そしてだね」
「それからまた美味しいものを食べに行く」
「そうするんだね」
「今度は奈良にあるけれど」
 それでもというのです。
「山の幸だけでなく海の幸も出るよ」
「あっ、お刺身だね」
「それも出るのね」
「やっぱり和食はお刺身」
「それは欠かせないよね」
「そうだよね、それじゃあね」
 先程までの皆の言っていることがわからず不思議に思っているお顔から明るい笑顔になって言う先生でした。
「今夜も楽しもうね」
「今夜は海の幸も」
「昨日は奈良時代のご馳走で」
「今日はそちらになるのね」
「今の奈良の食事もね」
 それもというのです。
「いいんだよね」
「そうなんだ」
「奈良名物ってお素麺とか柿とか柿の葉寿司とか聞くけれど」
「あと昨日の奈良時代のお料理」
「あとお土産のお菓子ね」
「それに奈良漬け」
「天理ラーメンもあるわね」
「うん、天理ラーメンは食べる機会があるから」
 こちらはしっかりとあるというのです。
「期待していてね」
「それじゃあね」
「ラーメンも楽しみにしてるわね」
「それで今の奈良県のお料理も」
「そちらもなのね」
「そうだよ、じゃあ今夜も楽しもうね」
 美味しいものを食べてとです、こうお話してでした。
 先生達はまずはホテルで食べて少し飲みました、この日は洋食で奈良牛のステーキを食べました。
 そしてその後で、でした。
 江戸時代の趣が残る昔ながらの街並みの場所に出てでした、その中を歩いて。
 あるお店に入りました、そこはまるで料亭みたいな独特の趣がある気品のあるお店でした。そのお店の中で。
 先生は皆と一緒にお食事を楽しむのですが。
「うわ、これはまた」
「お豆腐にお刺身に天婦羅に」
「色々なお料理があって」
「これはね」
「かなり豪勢ね」
「お酒もあるし」
「うん、お酒はね」
 先生は杯の中の清酒を観つつ皆にお話しました。
「昨日は昔のお酒だったね」
「そうそう、奈良時代の」
「白酒や赤いお米のお酒で」
「あれもまた美味しかったけれど」
「今度は清酒ね」
「今のお酒ね」
「そうだよ、今の日本酒だよ」
 今現在の奈良市のお酒だというのです。
「このお酒を飲んでね」
「そしてだよね」
「お料理も楽しんで」
「今夜も最高の夜にする」
「そうなるのね」
「そうだよ、じゃあ皆で楽しもうね」
 勿論食べて飲んで、です。皆はお刺身やお豆腐、天婦羅といった日本のお料理を楽しんで清酒も飲みました、そうしてです。
 先生はにこにことしてです、皆で赤らんだお顔で言いました。
「いや、今日のお料理も美味しいね」
「お刺身もお野菜も新鮮で」
「お豆腐もいい味で」
「天婦羅の揚げ具合もよくて」
「お酒の味だって」
「いいね、日本それもね」
 先生はよく冷えた清酒を飲みつつさらにお話しました。
「今の日本にいる醍醐味だよね」
「僕達が今味わっているのは」
「それだよね」
「今の奈良市にいる」
「それね」
「そうだよ、日本の古都にいて」
 そうしてというのです。
「味わっているんだ」
「一三〇〇年前からあるこの街で」
「今のお料理も楽しんでいる」
「そういうことね」
「さっき食べたステーキもよかったね」
 先生はこちらのお話もしました。
「奈良牛ね」
「うん、あれもね」
「とても柔らかくて肉汁も多くて」
「味わいがいがあって」
「イギリスのお肉とはまた違ってね」
「独特のよさがあったわ」
「あのお肉もね」 
 まさにというのです。
「日本の味でね」
「そして奈良の味」
「今の奈良の」
「そういうことね」
「そうだよ、勿論奈良時代はなかったよ」 
 奈良牛のステーキなんてものはというのです。
「今食べているお料理だってね」
「海の幸なんてね」
「山の中じゃ食べられる筈ないし」
「今みたいに」
「とてもね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「そのステーキも食べられるなんてね」
「いいことよね」
「奈良時代のお料理も食べられて」
「そしてこうしたものも食べられて」
「ステーキまでだから」
「最高の美食だね、ただこうして楽しく飲んで食べていたら」
 ふとこんなことも言った先生でした。
「イギリスとは全く違うね」
「ステーキ一つ取ってもね」
「あんなステーキイギリスには絶対にないし」
「昔からステーキ食べてる国なのに」
「日本に負けてない?」
「お肉の質も調理の仕方も」
「どっちもね」
 動物の皆もこう思うのでした。
「あのステーキだけじゃないから」
「神戸牛なんかも凄いいし」
「滋賀の方もいいのよね」
「あと三重の松阪とかも」
「まあイギリスは料理についてはね」
 このことは苦笑いになるしかありませんでした、今のお料理の中に苦いものはなくてもです。
「日本と比べるとね」
「全然勝てない?」
「むしろ勝てる国がないっていうか」
「ことお料理については」
「イギリスは」
「スコッチは勝ってるかな」
 お酒、ウイスキーはというのです。
「これについては」
「まあウイスキーはね」
「流石に勝ってる?」
「幾ら何でもね」
「日本のウイスキーと比べたら」
「ティーセットも日本の方がいい感じだし」
 勿論紅茶もです、だから先生は今では日本の紅茶を毎日飲んでそのうえでこちらも楽しんでいます。勿論奈良にいる今もティータイムは何があっても欠かしていません。
「そう思うとね」
「ウイスキーだけは」
「これだけは勝たないとね」
「日本だけでなく他のお国にも」
「これだけはね」
「何でも駄目なものばかりだとね」
 口にするもので、というのです。
「嫌になるよね」
「うん、どうしてもね」
「僕達にしてもね」
「イギリス人にしても」
「ステーキでも紅茶でも負けてるなら」
「ウイスキーだけでも」
「そうも思うよ、まあ今の僕は」
 豆腐とお野菜をあえたものを食べてからお酒を飲んで言いました。
「清酒を飲んでいるけれどね」
「日本のお酒ね」
「それ飲んでるけれどね」
「けれどウイスキーについては」
「何としてもね」
「勝っておかないと」
「全敗はよくないわ」
「そう、全敗と一敗では全然違うよ」
 先生もこのことを言うのでした。
「一勝でもしているとね」
「阪神もそうだしね」
「三連戦三連敗よりもね」
「一勝でもしてると違うよね」
「それだけで」
「広島としてもね」 
 このチームと、というのです。どうも最近阪神にとって天敵になっていると言われているチームです。
「そうだね」
「そうそう、一勝してるとね」
「負け越していてもね」
「残念って思っても」
「気持ち的には楽ね」
「一勝した分だけ」
「例えその負け方が酷くてもね」 
 それでもと言う皆でした。
「まだね」
「ましだけれど」
「これが全敗だと」
「最悪よね」
「気持ちもげんなりして」
「全然よくないわ」
「そうなるね、だからね」
 それでというのです。
「まだね」
「ウイスキーだけでもね」
「勝っていたら」
「それでかなり救われるわね」
「他の国に対しても」
「そう、ウイスキーだけはいい」
 こうも言った先生でした。
「そう誇れるね」
「そうだね」
「スコッチ万歳だよね」
「スコッチに勝てるウイスキーなし」
「そうよね」
「その通りだよ、じゃあ神戸に帰ったら」
 その時のこともお話した先生でした。
「その時はね」
「スコッチね」
「それ飲むのね」
「そうするのね」
「そうしよう、是非ね」
 こうお話してでした。
 先生は清酒をさらに飲んでかなり酔ったところでお茶漬けを食べたのですがこちらを食べてでした。
 今度はです、こんなことを言いました。
「ううん、かなり飲んだ後は」
「お茶漬けね」
「それだっていうね」
「日本では」
「そして今の先生も」
「こんなに美味しいものはね」
 実にという感じで言うのでした。
「そうはないね」
「お茶漬けって日本のお料理でもね」
「かなり特別だよね」
「冷えた御飯にお茶をかける」
「お漬けものも乗せてね」
「御飯の上にお漬けものを乗せてお茶をかけるんだよ」
「そうして食べるんだよ」
 ここでこうした食べ方もお話するのでした。
「これが何故か日本人好きだよね」
「簡単なお料理なのにね」
「飲んだ時の最後とかよく食べるね」
「朝にもね」
「うん、簡単だけれどね」
 これから食べる先生もお話します。
「これがね」
「美味しいんだよね」
「不思議な位ね」
「簡単なお料理なのに」
「冷えた御飯に何か乗せてお茶をかけるだけなのに」
「それだけなのにね」
「昔から湯漬けもあるよ」
 お茶ではなくというのです。
「お茶が高かった時代とかね」
「ああ、戦国時代とかね」
「武将の人とか食べてたよね」
「織田信長さんとかね」
「出陣前に食べていたね」
「そうだよ、信長さんは桶狭間の前に湯漬けを食べていたんだ」
 そう言われています、この人は立ったまま食べるという大名らしからぬ食べ方をしたりもしていました。
「そして出陣してね」
「勝ったんだよね」
「今川義元さんに」
「それで天下人に大きな一歩を踏み出したんだよね」
「そうだよ、そこからね」
 まさにというのです。
「信長さんははじまったんだ」
「湯漬けを食べて出陣して」
「そうしてだったんだね」
「そう思うと面白いね」
「湯漬けには歴史もあるんだ」
「そうだよ、そして僕達は今からね」
 見れば皆の分もあります」
「お茶漬けを食べるんだ」
「あっ、これ奈良漬けね」
「奈良漬けね」
「奈良漬けのお茶漬けね」
「これを食べるのね」
「うん、じゃあ食べようね」 
 こうしてです、皆でその奈良漬けのお茶漬けを食べました。そのお茶漬けもとても美味しくてです。
 皆は最初から最後まで楽しめることが出来ました、それでホテルに帰ってもでした。
 動物の皆は先生にです、笑顔でお話出来ました。
「いや、美味しかったね」
「お茶漬けまでね」
「最後の最後まで堪能出来たよ」
「そうよね」
「本当にね」
「うん、じゃあ今からね」 
 先生はお酒で赤らんだお顔で皆ににこにことしてお話しました。
「寝よう、そしてね」
「それからだよね」
「朝はお風呂に入って」
「明日からは明日香だね」
「そこに行くよね」
「ホテルはこのままだよ」
 奈良市のままだというのです。
「けれどだよね」
「奈良市と明日香村は結構離れてるよね」
「同じ奈良県にあっても」
「それでもだよね」
「そうなんだ、だから朝は早めに出てね」 
 そうしてというのです。
「八条鉄道の明日香村駅まで行く特急に乗ってね」
「それでなんだね」
「明日香村まですぐに行って」
「そうして調べるのね」
「そうしていこう、実は八条グループのホテルは奈良にはここだけなんだ」
 今泊まっているこのホテルだけだというのです。
「だからね」
「ホテルはだね」
「ここから変わらないのね」
「そうなのね」
「そうだよ、ただ離れていても特急だと四十分位だから」
 奈良市から明日香村までというのです。
「安心して行こうね」
「うん、わかったよ」
「それじゃあ明日からは明日香村ね」
「そこに行って」
「それで調べていこうね」
「あちらでもフィールドワークをしましょう」
 動物の皆も応えてそうしてでした。
 この日はすぐに寝て朝早く起きてお風呂に入ってすっきりしてでした。
 特急に乗って明日香村まで行きました、今度はそちらで飛鳥時代の歴史を学んでいくのでした。






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