『ドリトル先生と春の花達』




          第三幕  寒いせいか

 学生さん達も先生に研究室によく来ます、教え上手な先生に教えてもらうだけでなく先生の人柄も慕ってです。
 それで、です。学生さん達は先生に医学のことで教えてもらって満足しました。ですがこんなことも言いました。
「最近寒いですね」
「まだですね」
「どうにもです」
「寒い感じがしますね」
「そうだね、例年に比べてね」
 先生も学生さん達に答えて言います。
「寒いよね」
「三月にしては」
「何か、ですよね」
「寒くて」
「洗いものをしていると手が心配になります」
 アカギレ等にならないかです。
「もう春だっていうのに」
「何でか今年の三月は妙に寒くて」
「関東じゃ雪も降りましたし」
「三月の終わりに」
「日本で三月は冬と春の間にあると言っていいよね」
 先生は学生さん達にこうも言いました。
「そうだね」
「はい、そんな感じです」
「春って言いましても実際はそうですね」
「冬と春の間にある」
「そんな季節です」
「そうだね、だから寒いのもね」
 冬みたいな感じでもというのです。
「有り得るし仕方ないかもね」
「そうですか」
「冬に近い寒さでもですか」
「今みたいな感じでもですか」
「有り得るんですね」
「それで仕方ないんですね」
「僕も家じゃまだどてらを着ているよ」
 先生は笑って学生さんにお話しました。
「寝る時は電気毛布で」
「それでコタツですか?」
「先生のお家コタツもありますよね」
「他の暖房器具もありますけれど」
「そっちもありますよね」
「そうなんだ、だからね」
 それでというのです。
「一旦コタツに入ると出られなくて困ってるんだ」
「先生って日本人みたいですね」
「何ていいますか」
「日本人より日本人になってません?」
「どてらにコタツって」
「あと電気毛布もなんて」
「お布団だとね」
 それで寝ていると、というのです。
「どうしてもね」
「電気毛布ですか」
「それを使わないと寒いですか」
「それで使われているんですか」
「あとお風呂もいいね」
 そちらもというのです。
「あったまるよ、あと食べるならおでんにお鍋におうどんだね」
「さらに日本的ですね」
「今も日本の緑茶飲まれてますし」
「しかも蜜柑もあって」
「先生って日本的ですね」
「何かと」
「うん、自分でもね」
 先生ご自身もとです、笑顔のまま言うのでした。
「日本的になったと思うよ」
「日本語も凄くお上手で」
「僕達より日本的ですよ」
「今も普通に日本語でやり取りしてますし」
「そうした風ですから」
「馴染んでるというかね」
 先生はこうも言いました。
「日本に入っていってるね」
「イギリスから日本ですか」
「そうなっていってるんですか」
「というと現在進行形ですね」
「今も日本に入っていっていますか」
「そうだと思うよ、四季もね」
 日本のそれもというのです。
「いいと思うしね」
「今みたいに寒くてもですか」
「どてらを着てですね」
「それでコタツもですね」
「うん、今もお家で着て入ってるよ」
 またそちらのことも答えます、そして。
 先生はあらためてです、学生さん達に言いました。
「それで四季だけれど」
「日本のですね」
「そちらのことで」
「うん、大体三ヶ月ごとだよね」 
 一年の十二ヶ月の中でというのです。
「それぞれの季節は」
「大体そうですね」
「春は三月、四月、五月で」
「夏は六月、七月、八月です」
「秋は九月、十月、十一月」
「それで冬は十二月、一月、二月です」
「そのうち寒い季節はね」
 先生がお家でどてらを着てコタツに入って温かいというか熱いものを楽しむ季節はです。
「十一月から三月だね」
「その五ヶ月ですね」
「十一月が秋から冬になってきていて」
「三月は冬から春になる」
「そんな感じですね」
「それで今寒いのもね」
 その三月がというのです。
「当然と言えば当然、有り得りと言えば有り得るよ」
「そういうことですか」
「じゃあ特に嘆く必要もないですか」
「そうしたこともある」
「そう思えばいいですね」
「うん、まあ春はね」
 また言う先生でした。
「そういうものだってことでね」
「納得してですね」
「そうしてそのうえで、ですね」
「暖かくなるのを待てはいいですか」
「それだけですか」
「それでいいんじゃないかな、それにもうすぐね」 
 温かい緑茶を飲みながらの言葉でした。
「桜だね」
「はい、いよいよですね」
「桜が咲きますね」
「この学園でもです」
「桜が咲きます」
「そうだね、そのことも楽しみだよ」
 笑顔で言う先生でした。
「僕はね」
「はい、もうお水取りも終わりましたし」
「奈良の東大寺のそれも」
 関西ではこの行事から暖かくなってくると言われています、冬の完全な終わりになる時だと。
「それじゃあですね」
「後はですね」
「桜が咲くのを待つだけですね」
「もうそれだけですね」
「暖かくもなってくるよ、ただね」 
 こうも言った先生でした、微妙なお顔になって。
「今年はちょっとね」
「確かにですね」
「寒いですよね」
「例年と比べて」
「そうですよね」
「それは事実だね、桜が咲くのも」
 それもというのです。
「ひょっとしたらね」
「遅くなるかも知れないですか」
「ひょっとしたら」
「例年と比べて」
「そうなるかも知れないですか」
「そうも思ったけれどどうなるかな」
 先生は今度は考えるお顔になりました。
「どちらにしても桜をじっくりと見たいね」
「はい、それは確かですね」
「桜が咲いたらです」
「もうそのままですね」
「自然に散るまで咲いていて欲しいですね」
 学生さん達もこのお考えについては同じでした。そうしたお話をしてそのうえでなのでした。
 学生さん達が帰るとです。先生は動物の皆と一緒に外に出ました。そのうえで学園の中を見つつ言いました。
「何かね」
「何か?」
「何かっていうと」
「うん、さっき学生さん達にも話したけれど」 
 景色を見つつ微妙なお顔で言うのでした。
「やっぱり寒いね」
「日本の三月にしてはね」
「少し寒いね」
「確かにね」
「そうした感じだね」
「そうだね、神戸は大阪に比べて寒いけれど」
 それでもというのです。
「その中でもね」
「寒いよね」
「去年や一昨年に比べたら」
「どうにも寒くて」
「何かそれが嫌だね」
 見れば先生はスーツの下にセーターを着ています、コートも羽織っています。そのうえで皆と一緒に歩いています。
 その先生にです、老馬が言いました。
「先生寒くない?」
「少しね」
「ああ、やっぱりね」
「私達も寒いしね」
 ガブガブも言います。
「どうにも」
「うん、この寒さはね」
 ダブダブは先生を見て言いました。
「春には思えないところがあるね」
「日本の春にしては」
 ホワイティもその寒さを感じ取っています。
「確かに寒いね」
「もうそろそろ暖かくなっていいんじゃ」
 チーチーが思うにはです。
「それがまだだね」
「もう少しもう少しと思ってて」
「それで今に至るね」
 オシツオサレツも二つの頭で今の寒さについて語ります。
「もうすぐ四月なのに」
「あとほんの数日で」
「それでこの寒さは」
 ポリネシアもどうかといったお顔です。
「少しないわね」
「まだ冬だよ」
「朝は特にね」
 チープサイドの家族も微妙なお顔です。
「冬のままだよ」
「氷も張るしね」
「お花は咲いていても」
 トートー道の端の蒲公英を見ています。
「寒いのは変わらないね」
「ううん、桜も咲くの遅れる?」
 最後に言ったのはジップでした。
「ひょっとしたら」
「有り得るね」
「やっぱり?」
「うん、寒いとね」
 どうしてもというのです。
「桜は咲くのが遅れるからね」
「そうだよね、そうしたお花多いけれど」
「桜もだよね」
「寒いと咲くのが遅れるね」
「そうなるね」
「だからね」
 それでというのです。
「今年は咲くのが遅れるかもね」
「じゃあ和歌会大丈夫?」
「その頃には咲いてる?」
「あの和歌会桜が必須だけれど」
「梅や桃もあるけれど」
「何といても満開の桜達の前でやるし」
「何といっても桜がないとね」
 それこそとです、皆で言います。
「本当に出来るものじゃないから」
「桜が咲いてもらわないと」
「どうしようもないよ」
「うん、僕もね」
 先生はまた言いました。
「咲いてくれないと困るよ、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「うん、あそこは温室の中だから」
 植物園のというのです。
「だから大丈夫だよ」
「あっ、温室の中は暖かいから」
「だからだね」
「お外が寒くても大丈夫だね」
「ちゃんと咲くね」
「いつも通りに」
「そうだよ、だから大丈夫だよ」
 このことについてはというのです。
「和歌会はね」
「ちゃんと出来るんだね」
「桜が咲く中で出来るんだ」
「それじゃあそっちは安心していいね」
「和歌会については」
「あれは少なくとも出来るよ、ただね」
 それでもと言う先生でした。
「やっぱりね」
「うん、他の桜はだよね」
「こうまで寒いとね」
「咲くのが遅れるかな」
「そうなるかな」
「そうなることもね」 
 どうにもというのです。
「覚悟しないといけないかな」
「早く見たいのに」
「それが遅れるなんて」
「残念よ」
「全く以て」
「まあ咲くのは確かだから」
 それはというのです。
「安心してね」
「うん、じゃあね」
「遅れても待つよ」
「咲くのは確かだし」
「それは絶対だからね」
「待っていればいいよ、しかし温暖化が言われてるけれど」 
 ふとこのことについても言った先生でした。
「この三月は寒いね」
「というか本当に温暖化?」
「温暖化って進んでるの?」
「かえって寒くなってない?」
「そんな気もするわね」
「そこは何とも言えないね、それに温暖化といってもね」 
 この問題もというのです。
「実は原因はまだはっきりしていないしね」
「あれっ、フロンガスじゃないの?」
「二酸化炭素のせいって聞いたよ」
「あと牛さんのゲップも問題だって」
「いや、排気ガスじゃないの?」
「色々言われているけれどね」
 それがというのです。
「原因となるとね」
「はっきりしていないんだ」
「実はそうなんだ」
「色々言われているけれど」
「それはなのね」
「そして温暖化は本当に進んでいるか」
 それ自体もというのです。
「今皆が言ったね」
「実は寒冷化している?」
「温暖化とは正反対に」
「実はそうなっているかも知れないんだ」
「温暖化していなくて」
「寒冷化かも知れないのね」
「そうかも知れないしね」 
 そこはわからないとです、先生は少し離れた場所にある紅い梅のお花を見つつ皆に言いました。
「これは」
「その辺りどうなのかな」
「実際のところね」
「温暖化してるの?」
「それとも寒冷化?」
「その辺りわからないんだ」
「実は」
「うん、よく日本のテレビじゃ温暖化って言うけれど」
 先生はそちらのお話もしました。
「あれはね」
「どうなの?」
「テレビが言ってることは必ずしも事実じゃないっていうけれど」
「温暖化についてもそうなの?」
「実際は」
「うん、イギリスもそうだけれど日本のテレビ番組は注意して視ないと」
 それこそというのです。
「とんでもないことになるよ」
「間違ったことを言ってたりするから?」
「だから?」
「意識しないで言うならいいけれど」
 その間違ったことをです。
「中にはわざとね」
「事実と違うことを言ったり?」
「そんなこともしてるの」
「視る人を最初から騙すつもりで」
「そんなこともするんだ」
「うん、そんなこともあるから」
 日本のテレビではです。
「余計に注意しないといけないんだ」
「ううん、悪質だね」
「何も知らない人を騙そうとするなんて」
「それって詐欺じゃないの?」
「もう完全にね」
「僕もそう思うよ、そんなことをしたら」
 紅色のとても奇麗な梅を見ても浮かないお顔になる先生でした。
「何が事実かわからなくなるね」
「嘘を放送したらね」
「そこから事実を知りたい人が嘘を信じるからね」
「絶対にやったら駄目よ」
「それは許されないことだよ」
「日本は普通に新聞や雑誌もそうしてくるから」
 意図的に嘘を書くこともです。
「だからね」
「余計に危険なんだね」
「日本のテレビや新聞については」
「視たり読む人を騙そうとしてくるから」
「そんなことをしてくるから」
「うん、どうもね」
 先生は今度は白い梅を観ました、こちらも凄く奇麗です。
「日本のマスコミは嘘を百回言えば真実になると思っているのか」
「嘘は嘘なのに?」
「そんな考えなの」
「それで何も知らない人を騙そうとする」
「そうした人達なんだ」
「嘘のゴリ押しだね、マナーも悪いしね」 
 マスコミの人達のです。
「日本は学校の先生とマスコミの質は物凄く悪いい」
「嘘吐きと犯罪を犯す人の集まり?」
「本当に酷いわね」
「そんな人達がテレビや新聞にいたら」
「とんでもないことになるじゃない」
「だからなっているんだ、日本では特にネットもチェックしないと」
 テレビや新聞だけでなくです。
「事実はわからないんだ」
「それないよ」
「もう何ていうか」
「酷過ぎるわ」
「温暖化にしてもそうだなんて」
「僕は学者だからね」
 その立場であるからだというのです。
「真実を書かないとね」
「そうだよね」
「さもないとどうしようもないから」
「学者さんは嘘を言ったらいけないね」
「先生もそのことは気をつけてるわね」
「うん、事実が違っていたらそれを認めるんだ」
 例え自分が発表したことでもです。
「このことも大事だよ」
「そうよね、人は間違えることがあるし」
「その時はしっかりと認めて」
「それでどうするか」
「問題はそこよね」
「うん、人は間違えることもあるよ」
 例え真実を書いて主張しているつもりでもです。
「そしてその時はね」
「自分の主張の間違いを認める」
「それが大事ね」
「例えば恐竜の姿はね」
 大昔のこの生きもの達にしてもというのです。
「色々変わるんだ」
「あっ、そうなの」
「恐竜の姿もなの」
「色々変わるの」
「そう、説によってね」
 そうだというのです。
「イグアノドンも二本足で立っていたのが四本足になったし」
「そうした姿の方が正しいんだ」
「二本足じゃなくて?」
「実は四本足だった」
「そう言われているのね」
「化石から骨格を考えていってね」
 そうしてというのです。
「調べて検証していくけれど」
「それでわかった姿は」
「実は四本足だった」
「そうだったのね」
「その恐竜にしても」
「こうしたこともあるからね」 
 だからというのです。
「自説に誤りがあるとはっきりしたらね」
「その時はその誤りを認める」
「それが大事なのね」
「うん、これは理系も文系も同じだよ」
 どの学問でもというのです。
「誤りは認めないとね」
「ましてやわざと嘘を言ったら駄目ね」
「絶対に」
「何があっても」
「そう、これはね」
 日本のマスコミの人達にはそうした人達もいますが。
「やったら学者ではなくなるよ」
「只の嘘吐きになる」
「そういうことね」
「そうだよ、僕は嘘吐きになりたくないから」
 白い梅のお花達を観つつ言うのでした。
「それは絶対にしないよ」
「うん、それでこそ先生だよ」
「まさにね」
「先生は嘘吐いたらいけないよ」
「何があっても」
「それは気をつけているから」
 くれぐれもです。
「何があってもね」
「それじゃあね」
「そこは気をつけてだね」
「これからも学問をしているんだね」
「あらゆる学問を」
「そうだよ、白い梅を紅い梅だって言うことはね」
 そうしたことはというのです。
「僕は絶対にしないよ」
「それでこそ先生」
「まさに先生ね」
「誰に対しても正直で嘘を言わない」
「そして間違いは認める」
「ずっとそうでありたいね」
 先生も自分自身に言い聞かせます、そうしてです。
 先生は梅から桃に目をやりました、文字通り桃色のそのお花達を観てでした。先生は今度はこう言いました。
「心が和むね」
「そうだね、梅も桃もね」
「観ているとそうなるわ」
 チープサイドの家族がお話しました。
「お花自体がね」
「観ているとね」
「そうだね、それで桃はね」
 チーチーは桃事態について言いました。
「赤と白の中間色だから余計に和むのかな」
「そうかも、中間色ってね」
 トートーも桃色について言及しました。
「そんな感じがするね」
「観ていると目に優しい?」
「そんな感じになるよね」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「赤や青や黄色といった色よりもね」
「そんな感じの色が多いね」
「はっきりした色よりも?」
 ガブガブはお顔を上げて言いました。
「そうした色の方が見ると落ち着くのかな」
「そうね、穏やかな感じになる色が多いから」
 中間色だととです、ダブダブはガブガブに応えました。
「目に優しいのかもね」
「だから観ていて和むのね」
 ポリネシアが桃を観る目も穏やかです。
「実際に」
「ううん、そういえば桜もだよね」
 老馬は今皆が待ちに待っているお花の色を思い出して言いました。
「淡い中間色だね」
「赤と白のね、桃色よりも淡い色で」
 ジップは老馬に応えて言いました。
「そうした色だね」
「桜の色も目に優しいし」 
 最後にホワイティが言いました。
「中間色自体がいいのかな」
「うん、白やそうした色は目に優しいからね」
 先生も言います。
「原色の派手な感じが抑えられてね」
「目に優しくて」
「心が和む」
「そうなのね」
「そうだよ、さてそれでね」
 また言った先生でした。
「桃も見ようね」
「うん、今からね」
「皆でそうしましょう」
「梅も桃も観ましょう」
「今日もね」
「そうしようね、こうして観ていると」
 目を細めさせてこうも言った先生でした。
「お花見で日本酒を出して」
「飲みたくなるのね」
「お花を肴に飲むのね」
「観るのを楽しみながら」
「そうしたいのね」
「そうも思うよ」
 実際にというのです。
「今実際にね」
「この前日本酒飲んだのに」
「あのお酒は飲み過ぎるとワインよりよくないんでしょ?」
「だからあまりって言ったのに」
「もうそう言うの?」
「うん、梅や桃に合うお酒っていうと」
 先生が思うにはです。
「日本酒だって思ったから」
「中国でも観るでしょ」
「だったら桂花陳酒はどう?」
「杏酒もいいでしょ」
「そういうのにしたら?」
「あっ、そうしたお酒もいいね」
 先生は皆が挙げた中国のお酒にも関心を向けました。
「どれも好きだよ」
「そうよね、だったらね」
「そうしたお酒の方がいいわよ」
「今日飲むならね」
「そうしたお酒にしましょう」
「そうだね、日本酒は前に飲んだしね」
 本当に数日前にです。
「だったらね」
「そうそう、日本酒はまた今度」
「この前一升開けたじゃない」
「一昨日かその辺りに」
「だからね」
「梅や桃は中国にもあるし」
「そうだね、桂花陳酒や杏酒もね」 
 先生はあらためてそうしたお酒について言いました。
「美味しいしね」
「あと紹興酒も?」
「あのお酒も?」
 皆はこの中国のお酒もお話に出しました。
「先生結構飲んでるわね」
「そうよね」
「うん、あのお酒も好きだからね」
 だからというのです。
「飲むよ」
「先生の味の好みは広いからね」
「学問と一緒で」
「だから色々なお酒も飲むのよね」
「世界中のお酒を」
「そうだよ、蒸留酒も飲むしね」  
 普通のお酒だけでなく、です。
「本当に何でも飲むね」
「ウイスキーもブランデーもね」
「バーボンも飲むし」
「本当に先生はお酒の守備範囲も広いわ」
「学問と同じでね」
「しかも誰に対しても公平で優しいしね」 
 先生の美徳の一つです。
「きっといい人もね」
「すぐにでも見付かるわ」
「いやいや、もういるしね」
「そうよね」
「ははは、そちらの縁はないからね」
 先生は笑って皆のそうしたお話は否定しました。
「僕はね」
「それは果たしてどうか」
「ちょっと周りを見てみたら?」
「お花だけじゃなくてね」
「食べものやお酒を楽しむのもいいけれど」
「いやいや、いないよ」
 桃のお花を観つつ笑顔で言います。
「僕と恋愛は学問のことだけだよ」
「学問で恋愛を勉強しても?」
「文学に出て来るそれを」
「それでもなの」
「実際にはっていうの」
「ないよ、まあ僕には皆もトミーも王子もいるからね」
 だからだというのです。
「何もないよ」
「やれやれね」
「そこでそう言うから、いつも」
「先生みたいないい人いないのに」
「こんないい人は」
「僕はこんな外見だからね」 
 太っていて野暮ったくて冴えない、先生が自分で言う外見はこうです。もっとも確かにハンサムでもスマートでもないです。
「もてたことはないしね」
「あら、告白したこともないのに?」
「それも一度も」
「学生時代から誰にも告白してないでしょ」
「それこそ」
「そんなことしたことはないよ」
 本当に一度もというのです。
「それこそね」
「奥手だしね、先生」
「元々そうだし」
「それでなのね」
「そうしたこともしないの」
「女の子から誘われたことなんて」
 告白以上にというのです。
「ないよ」
「ああ、それはどうかな」
「果たしてどうかしら」
「だから先生周り見たら?」
「もう少しね」
「ははは、観てもね」
 あくまで先生の観た目です、これは。
「そうしたことは一度もなかったよ」
「実は何度もあったんじゃ」
「人間も他の生きものも顔じゃないから」
「顔や外見だけで判断する人は駄目」
「そこまでの人だから」
「先生の良さはすぐにわかるから」
「どういった人かね」
 こんないい人はいないとです、わかる人はわかるというのです。
「確かに家事とか世間のことはからっきしだけれど」
「全くの世間知らずだからね」
「スポーツは全く駄目なのも事実だけれど」
「それでもね」
 そうしたことがあってもというのです。
「先生みたいな人いないわよ」
「こんないい人は」
「気付く人なんて幾らでもいるじゃない」
「昔からね」
「ううん、そうは思わないよ」 
 何度皆に言われてもこのことだけは、な先生です。
「僕がもてることは天地がひっくり返ってもないよ」
「じゃあ天地がとっくにひっくり返ってるよ」
「そんなこと言ったら」
「だから先生はもてるの」
「嫌わることは絶対にないし」
 皆から見た先生はそうなのです。
「本当にね」
「先生嫌いな人はいないし」
「好きな人は凄く多いわよ」
「そしてその中には」
「そうなんだよ」
「好かれているなら有り難いよ」
 このことには素直に感謝する先生でした。ですがそれでも本当位こうしたことには気付かないのです。
「けれどそうした好かれ方はね」
「ないんだ」
「そう言うのね、あくまで」
「皆に好かれているならこれ以上のことはないよ」
 ここで無欲さも出した先生でした。
「もうそれで充分じゃないかな」
「いやいや、そこでそう言う?」
「そこで満足って」
「先生って無欲だから」
「それはいいことだけれど」
「嫌われてなくて」
 そしてというのです。
「好かれているならもうね」
「それで満足で」
「もうそれ以上は望まない」
「そうなのね」
「もうこれでいいのね」
「うん、只でさえ幸せなのに」 
 先生が今いる状況はです。
「いいお仕事とお家と食べものにお酒にお友達に家族に」
「それで好かれている」
「それならなんだ」
「もう最高だと思うよ」
 そうした幸せの中にいるというのです。
「だったらね」
「もうなんだ」
「そこから先は求めなくて」
「それで満足」
「そうなのね」
「実際に満足しているしね」 
 だからこそというのです。
「もう僕はいいよ」
「やれやれね」
「先生は無欲さもいいけれど」
「その無欲さも過ぎるとね」
「困るわ、私達も」
「本当にね」
「それに今だってな」
 桃も梅も見てのお言葉です。
「こうしてお花見も出来ているじゃない」
「梅や桃を」
「そのことも幸せだから」
「だからいい」
「そうも言うのね」
「うん、最高の幸せの中にあるから」
 だからだというのです。
「これ以上を望むつもりもないよ」
「そこを少しだけって思えば」
「また違うのに」
「自分をもっとよく観るのと併せて」
「ほんの少しそれを出せば」
 そうした欲をというのです。
「違うのに」
「先生は困った人だよ」
「どうしたものかしら」
「だから欲は出すものじゃないよ」
 先生の無欲さは変わりません、このことは確かにいいことなのですがよく悪くもそうなのです。
「だからいいんだ」
「やれやれだよ」
 また言った皆でした。
「そこを何とかって思っても」
「当の先生がこれじゃあ」
「困ったわね」
「これからも大変ね」
「僕達も苦労するね」
「そして日笠さんも」
「ああ、日笠さんっていうと」
 この人の名前を聞いてふと思い出した先生でした。
「一つ思い出したことがあったよ」
「何?思い出したことって」
「日笠さんと何かお約束してるの?」
「そうなの?」
「うん、今度の和歌会のことでね」
 まさにこれのことでというのです。
「相談したいことがあるらしいんだ」
「あっ、そうなんだ」
「じゃあ日笠さんとなのね」
「今度お話するのね」
「そうするのね」
「そうだよ、何かそれとね」
 さらにというのです。
「この学園の桜で千年桜があるね」
「あっ、高等部にね」
「あそこにね」
「そのお花についても相談があるらしいんだ」
 それでというのです。
「明日日笠さんとお会いするんだ」
「それは何より」
「日笠さんも頑張ってるわね」
「このまま頑張って欲しいね」 
「是非共」 
 先生のお言葉に笑顔になった皆でした。
「神様のご加護があらんことを」
「日笠さんにね」
「宗教違うかも知れないけれど」
「それでもね」
「うん、日笠さんみたいな人にはね」
 先生も日笠さんは好きです、ただしお友達と思っているのでその立場からこう言ったのでした。
「神様のご加護があらんことを」
「うん、先生以上にね」
「素晴らしいご加護があればいいね」
「先生はもう満足だっていうけれど」
「日笠さんには最高のご加護があって欲しいよ」
 動物の皆はかなり真剣に日笠さんのことを思いました、そうしたことをお話してそうしてでした。 
 ふとです、先生はこんなことも言ったのでした。
「そういえば日笠さんは和歌会に出られるそうだけれど」
「うん、それじゃあいいね」
「先生も参加するしね」
「いや、いいね」
「日笠さんも歌って」
「それで先生も参加する」
「これでいいと思うよ」
「一緒にね」
「先生の分までね」
 頑張って欲しいと言う皆でした、皆が思うことと先生が思うことは全く違いましたがそれでもでした。
 先生も皆も日笠さんには頑張って欲しいと思っていました、そんなことを思ったお昼でしたが。
 晩御飯の時にです、王子は先生のお家で御飯を一緒に食べていました。今晩のメニューはお鍋でした。
 お鍋の中の鶏肉をお箸で自分のお椀に入れてです、王子は先生に対してこんなことを言ったのでした。
「もうそろそろね」
「お鍋もだね」
「季節が終わりだね」
「そうだね、今年の三月は寒いけれど」
 それでもというのです。
「もうそろそろね」
「暖かくなるよね」
「そう思うよ」
「幾ら何でもね」
 王子は困り果てた様な顔で言うのでした。
「今年の三月は寒過ぎるよ」
「あれっ、イギリスの春はもっと寒いじゃない」
 トミーも一緒に食べています、三人でコタツを囲んでいます。
「そうだったよね」
「うん、けれどね」
「日本にいたら」
「そう、慣れてね」
 日本の気候にというのです。
「日本の三月はこんなものと思っていたら」
「それがなんだ」
「今年の三月は寒くてね」
「それでなんだ」
「参っていたんだ」
 日本の三月にしてはというのです。
「本当にね」
「ううん、王子も日本に馴染んでるね」
 先生は王子のその言葉を聞いて言いました、お鍋の中の糸蒟蒻とお豆腐を取っています。お鍋には他には白菜や葱、茸類が入っています。春菊もぐつぐつと煮えています。
「僕より先に入ってるしね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「先生の馴染み方はまた凄いね」
「あっ、そう言うんだね」
「だってね、今もどてらと作務衣って格好だし」
 完全に日本的な恰好です、それがまた似合っています。
「寝ているのはお布団だしね」
「今もコタツだし」
「日本語も僕以上に上手だしね」
「実は今はね」
「今は?」
「考え方も日本的になってきた感じがするよ」
 ご自身でも思うというのです。
「徐々にね」
「そうかもね、見ていたら」
「僕は本当に日本的になってきたよ」
「むしろ日本人より日本的では」
 トミーが言うにはです。
「そうなってきていますよ」
「そうかな」
「はい、それだけ日本に合っているということでしょうか」
「和風なんだね」
「今の先生は」
「先生って動物も他の誰も一緒って考えてるから」
 王子は今度は春菊やお葱、白菜をお椀に入れています。
「そこが日本に合ってるね」
「ああ、そこだね」
「うん、日本人ってそうした考えあるよね」
「あらゆるものが同じで森羅万象に神様がいるっていうね」
「八百万の神様だね」
「そうした考えが先生にもあるからかな」
「日本に馴染んでいるのかな」
 こう言うのでした。
「それだけ」
「そうかも知れないね」
「キリスト教徒とかそういう垣根を超えて」 
「僕の考え方がだね」
「日本に合っていると思うよ」
「成程ね、言われてみればね」 
 実にというのでした、先生も。
「僕もそう思うよ」
「そうなんだね、先生自身も」
「自分でね」
 こうしたことをお話しつつです、先生達はお鍋を楽しみ最後はおうどんをそこに入れて食べました。そして食べつつです。
 焼酎を飲みますが先生はこうトミーに言われました。
「日本酒ではなくてですね」
「うん、今はね」
「そちらのお酒にされますか」
「こちらもいいからね、さてお風呂も入ったし」
 御飯前にです。
「今日は歯を磨いた後は」
「お休みになられますか?」
「いや、ライトノベルを読むよ」
 日本のそれをというのです、実は最近そちらにも凝っているのです。それでこちらを読んでから寝るとです。先生は焼酎を飲みつつ笑顔でお話しました。
「十二時までね」
「ライトノベルですか」
「日本の若い人向けの小説でね」
「面白いんですね」
「これがね」
「そういえば最近先生漫画も小説も読まれますね」
「何でも読むからね」
 本ならです、先生は本も区別せず何でも読みます。
「日本はそうした分野も面白いからね」
「よく読まれているんですか」
「そうなんだ」
「それで、ですね」
「うん、食べた後は歯を磨いて」
 そうしてというのです。
「ライトノベルを読むよ」
「わかりました、それじゃあ」
 トミーは先生に笑顔で頷きました、そうしてです。
 皆でお鍋を食べていきました、この日も楽しい一日でした。



こたつに鍋か。
美姫 「寒い時の定番よね」
だな。先生もすっかり馴染んでいるようで。
美姫 「堪能しているわね」
本当に。でも、日笠さんというか。
美姫 「女性に関しては相変わらずね」
今回は少しぐらいは進展するんだろうか。
美姫 「どうかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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