『ドリトル先生の水族館』




                 第十二幕  学説として

 先生は再びダイオウグソクムシさんのところに来ました、するとグソクムシさんは先生に対して言って来ました。
「来ると思っていた」
「そうだったんだね」
「先生は学者だ」
「学者だからまた来たってことかな」
「そうだ」
 だからだというのです。
「真の学者なら興味を持ったならだ」
「もう一度来て、だね」
「再び調べるからだ」
 そうしたものだからというのです。
「先生は再び来ると思っていた」
「そういうことだったんだね」
「そして実際に来た」
 先生が、というのです。
「俺の予想通りだ」
「そういうことだね」
「それでだが」
「うん、また君のところに来た理由はね」
「もう一度だな」
「君を調べたくて来たんだ」
「そうだな、では調べてくれ」
 構わないとです、グソクムシさんは先生にクールな口調で答えました。
「今からな」
「それじゃあね、そうさせてもらうよ」
「それでどうして調べる」
「君を観察してね」
 そしてというのです。
「それから係員さんの人からもお話を効いてね」
「そうしてか」
「飼育日記も読んでね」
「徹底的に調べるか」
「そうさせてもらうよ」
「やはり先生は真の学者だな」 
 そこまで聞いてです、グソクムシさんは言葉で頷いてみせました。
「徹底している」
「真かな」
「そう思う、ではな」
「うん、これからね」
 先生はグソクムシさんに応えてでした、そのうえで。
「調べさせてもらうよ」
「そうしてくれ」
 グソクムシさんもいいと返してです。
 先生はグソクムシさんをじっと観察しはじめました、そして。
 動物の皆もです、先生に言いました。
「それじゃあね」
「僕達もグソクムシさん観るよ」
「そうしてね」
「皆で観てね」
「先生のお手伝いさせてもらうよ」
「悪いね、いつも」
 先生もこう応えてでした、皆にお礼を言います。
「学問のことでも手伝ってくれて有り難う」
「好きでやってるからね」
「僕達はね」
「だから気にしないで」
「僕達が好きでやってることだから」
「先生はね」
 こう言ってでした、皆はそれぞれです。
 その目でグソクムシさんを観るのでした、そして先生もグソクムシさんをじっくりと観察しながら色々とメモを取ってです。
 そのうえで、です。係員の人にもお話を聞きました。
「ダイオウグソクムシのことですが」
「はい、彼のことですね」
「色々と聞かせてもらいますか?」
 こう係員の人にお願いしたのです。
「出来れば飼育日記も読みたいですが」
「どうぞ。それに」
「それに?」
「私の知っていることならです」
 初老の係員の人は先生に笑顔で言うのでした。
「何でもお話させてもらいます」
「そうしてくれますか」
「はい、それに」
「それに、ですね」
「飼育日記だけでなくです」
「他にもですか」
「資料は全て御覧になって下さい」
 ダイオウグソクムシさんに関するものをというのです。
「それを」
「そうしてくれますか」
「それが先生の学問のお役に立てるのなら」
 笑顔のままお話する係員さんでした。
「どうぞ」
「有り難うございます」
「いえいえ、先生にはいつもよくしてもらってますから」
「そうでしたか?」
「親切にお話して下さいますよね」 
 まずはこのことからお話する係員さんでした。
「それに何かと助言をして下さいますし」
「水族館のことについても」
「この水族館、いえ学園で先生にお世話になっていない人はいませんよ」 
 それこそというのです。
「ですから」
「それで、ですか」
「はい、先生のお願いなら」
 それこそというのです。
「何でもです」
「有り難うございます、それでは」
「はい、今より」
 こうお話してでした、そのうえで。
 先生は係員さんから飼育日記だけでなくダイオウグソクムシさんに関する様々なデータや資料をお借りしました。
 そうしてじっくりと調べているとです、先生のところに皆が来て言ってきました。
「先生、三時だよ」
「お茶の時間だよ」
「あっ、もうなんだね」
 水族館の係員さん達の研究室の席に座って調べていた先生は皆の言葉にふとお顔を上げて応えました。
「時間が経つのは早いね」
「好きなことをしているとね」
「どうしてもそうだよね」
「あっという間に時間が過ぎるね」
「そういえば小腹が空いて」
 そして、という先生でした。
「喉が渇いてきたよ」
「お茶の時間だからね」
「だからだね」
「お茶の時間になったから」
「身体が教えてくれたんだね」
「もう完全に身に着いてるね」
 笑って答えた先生でした。
「お茶の時間がね」
「三時になるとね」
「お茶が欲しくなる」
「そしてティータイムを楽しみたくなる」
「そういうことだね」
「そうだね、じゃあ今日のティータイムは」
「麦茶だよ」
 皆笑顔で先生に言ってきました。
「それだよ」
「暑いからね」
「そしてティーセットもね」
「日本の涼しいお菓子」
「それに果物よ」
 そうしたものだというのです。
「日本の夏のティーセット」
「どうかしら」
「いいね」
 先生は麦茶とそうしたものと聞いてです、笑顔で応えました。
「それじゃあね」
「うん、今からね」
「それを食べてね」
「そしてね」
「楽しもうね」
「それからだね」
「また働くよ」 
 こう応えた先生でした、そしてそのティーセットはといいますと。
 上段は切られた西瓜、中段は水饅頭でした。そして下段は。
「アイスクリームだね」
「そう、お豆腐のね」
「それとお抹茶のアイスだよ」
「和風アイスだけれど」
「どうかしら」
「どれもいいね」
 その三段セットを見てです、先生は目を細めさせて言いました。
「日本の夏はね」
「どれもだけれどね」
「いいおやつだよね」
「西瓜も水饅頭も」
「そして和風アイスも」
「うん、そういえばアイスクリームは」
 それはといいますと。
「日本に明治維新の頃に入っているね」
「ふうん、あの頃になんだ」
「アイスクリームは日本に入っていたんだ」
「というとお肉とか牛乳と一緒になんだ」
「日本に入っていたんだ」
「そうなんだ、明治天皇もお好きだったそうだよ」
 この方もというのです。
「とてもね」
「それでなんだね」
「今はだね」
「こうして日本のお菓子にもなった」
「そうなんだね」
「洋食、いや洋菓子の一つだね」 
 そちらになるというのです。
「これは」
「和風アイスもなんだ」
「洋菓子なんだね」
「日本のお菓子の一つ」
「そうなるんだね」
「洋菓子も日本のお菓子だと思うよ」
 先生はこの見方も言うのでした、よく冷えたとても美味しそうな麦茶がご自身の前に運ばれてくるのを見ながら。
「僕はね」
「洋食も日本のお料理のジャンルで」
「和食と一緒で」
「それで洋菓子もなのね」
「和菓子と一緒で」
「日本のお菓子の一つなんだ」
「そう思うよ、だからここにあることもね」
 日本の夏のティーセットとして、です。
「それもいいね」
「そうなんだね」
「日本人は外国から取り入れて自分のものにした」
「だからだね」
「いいんだね」
「そう思うよ、それじゃあね」 
 こう言ってでした、先生は皆だけでなくです。
 係員の人にもです、笑顔でお誘いをかけました。
「どうですか?」
「私もですか」
「はい、貴方も」
「宜しいのですか?」 
 係員さんはそのティーセットを見つつ先生に尋ねました。
「これだけのものを」
「はい、ティータイムは一人で楽しむものではありません」
「皆で、ですね」
「楽しむものですから」
 だからだというのです。
「どうでしょうか」
「それでは」
 係員さんもそこまでお誘いを受けてはです、断ることはしませんでした。そして、でした。
 先生達は係員さんも入れて皆でティータイムを楽しみました、その時にです。
 係員さんは上段の西瓜を食べて目を細めさせて言いました。
「いいですね」
「西瓜お好きですか」
「大好きなんです」 
 にこにことしてです、その三角に切られた西瓜を食べつつ言うのでした。
「夏はこれですよね」
「はい、日本の夏は」
「こんな美味しい野菜はないです」
「はい、これ程甘くてあっさりしたお野菜はです」
「西瓜だけですね」
「僕もそう思います」
 先生もその西瓜を笑顔で食べています。
「日本の夏は西瓜も必要です」
「絶対にですね」
「麦茶もそうですが」
 先生は麦茶m飲みつつ言います。
「西瓜もですね」
「先生は日本の夏もお好きですか」
「はい、そうです」
 その通りだというのです。
「湿気が強いのが困りますが」
「イギリスの夏はあっさりしているそうですね」
「こうしたうだる様な暑さはありません」
「そうらしいですね」
「まだ神戸は楽ですが」
 先生が住んでいる神戸、八条学園もあるその町はです。
「大坂はかなりですね」
「確かにあそこは暑いですね」
「相当に」
「京都はさらに暑くて」
「あそこは盆地ですからね」
 日本の夏のお話にもなりました。
 そしてです、先生は今度は水饅頭を食べて言いました。
「しかしその暑さも」
「先生はお好きですか」
「それも含めてです」
 その暑さもというのです。
「大好きです」
「それは何よりですね」
「いや、夏も楽しめるのが」
「日本の夏ですね」
「まさしく」
 こうお話してでした、皆で。
 その日本の夏のティーセットを心ゆくまで楽しんで、でした。その後でまたグソクムシさんを見ました。その後で、でした。
 閉館時間が近くなってグソクムシさんにです、先生はこう言いました。
「明日も来させてもらうけれど」
「いい研究が出来ているか」
「うん、とてもね」
 こう笑顔で言うのでした。
「いい論文が書けそうだよ」
「それは何よりだ」
「君のことがかなりわかったよ」
「どうも俺は謎と思われているな」
「かなりね」
「深海にいるからか」
「そうだよ」
 まさにそれが理由だというのです。
「君も他の深海生物もね」
「住んでいる場所だけでか」
「人は自分が行けない、知らない場所を謎とするからね」
「それでだな」
「そう、君にしてもね」
「謎となっているか」
「君にしては心外だと思うけれどね」
 グソクムシさん自身にとってはというのです。
「そう思われていることは」
「そうだな、俺は特にだ」
「自分をそうは思っていないね」
「俺は俺だ」
 そうだというのです。
「まさにな」
「だからだね」
「謎に思われているとはな」
「やっぱり心外だね」
「どうもな、しかし調べたいのなら調べればいい」
「僕みたいにだね」
「俺はそれは止めない」
 決して、というのでした。
「誰に対してもな」
「そうなんだね」
「そうだ、先生でなくてもだ」
「成程ね」
「では明日もな」
「お邪魔させてもらうよ」 
 お別れの時にこう挨拶をしてでした、そして。
 そのうえでなのでした、先生はお家に帰ってです。
 晩御飯を食べてお風呂に入って次の日も皆でグソクムシさんのところに行って調べました。そうしたことをしてでした。
 それが終わってからです、先生はグソクムシさんに深々と頭を下げて言いました。
「有り難う」
「終わったか」
「これでね」
「充分調べられたか」
「お陰でね」
「ならいい」 
 これがグソクムシさんの返事でした。
「先生が満足しているのならな」
「そう言ってくれるんだね」
「俺はずっとここにいただけだ」 
 ただそれだけだというのです。
「何もしていない」
「そうなんだ」
「そう、だからだ」
 それでというのです。
「先生は気にしないでくれ」
「いや、けれどね」
「先生にしてはだな」
「君のことを調べさせてくれてしかも不満一つ言わなかったから」
 だからというのです。
「とても感謝しているよ」
「そうか」
「うん、それじゃあまた機会があれば」
「来てくれ」
「その時にね」
 こうお礼の挨拶をしてでした、そのうえで。
 先生はご自身の研究室に戻りました、その時にです。
 オシツオサレツがです、先生に言ってきました。
「研究室に帰ったら」
「それからだね」
「論文書くんだね」
「ダイオウグソクムシさんについて」
「うん、そのつもりだよ」
 先生はオシツオサレツに笑顔で答えました。
「これからね」
「他にも論文書いてなかった?」
 ガブガブは先生にこう尋ねました。
「数学か何かの」
「ああ、数学の論文だね」
 先生も言われてです、ガブガブに応えました。実は先生は数学者でもありそちらの論文を書くこともあるのです。
「もう書いたよ」
「相変わらず書くの速いわね」
 ダブダブは先生のそのお言葉を聞いて言いました。
「調べるのも速いけれど」
「論文は学生時代から書いてるからね」
 だからと答えた先生でした。
「それに日本に来てからいつも書いてるから」
「いつも書いてるだけにだね」
 トートーも言います。
「余計に速くなったんだね」
「調べることもね」
 トートーにも応えた先生でした。
「速いって言われるね」
「先生って走ったら凄い遅いけれど」
 すばしっこさには定評のあるホワイティから見れば余計にです。
「学問については凄いね」
「好きなせいかな」
 先生はこのことに理由を求めました。
「好きでいつもしているからね」
「いやいや、先生はそっちの才能が元々凄いのよ」 
 ポリネシアはこう先生に述べました。
「学問の才能がね」
「そうなのかな」
「僕達の言葉だってすぐに覚えたじゃない」
 老馬はこのことを指摘しました。
「だったらね」
「僕には才能があるのかな」 
 学問について、とです。先生は老馬の言葉にその首を少し傾げさせてそのうえで応えたのでした。どうにもといった感じで。
「学問の」
「才能あるでしょ、普通に」
「だって博士号一杯持ってるじゃない」
 チープサイドの家族はこの現実を指摘しました。
「論文もそこまで書けて」
「いつも難しい本を読んで」
「そうなるかな」
 チープサイドの家族に言われても首を傾げさせている先生でした。
「僕は」
「僕もそう思うよ」 
 チーチーも言います。
「それはね」
「僕にはそっちの才能があるんだ」
「そして好きだから余計にだね」
 ジップはこのことにも理由を求めました、どうして先生が論文を書くことも調べることも得意でそしてあらゆる学問を出来るかを。
「興味があるから」
「元々才能があって」
「そして好きだからのめり込む」
「だからだよ」
「先生はあらゆる学問が出来るのよ」
 そうだとです、動物の皆で先生に言うのでした。
「文系も理系も」
「あらゆる学問がね」
「それこそ」
「運動神経は全然だけれどね」
「あと家事のことも世事のこともね」
「そういうのは全然だけれど」
「先生は学問の才能があるのよ」 
 このことは確かだというのです。
「本当にね」
「その才能はあるわよ」
「しっかりとね」
「だといいけれどね、とにかくね」
 先生は皆のご自身への分析を聞きながら言いました。
「研究室に戻ったら早速論文書くよ」
「今日はまだ時間があるし」
「それでだね」
「論文を書くんだね」
「帰る時間まで」
「そうするよ、それじゃあね」
 こうお話してでした、先生は実際に研究室に帰ってでした。
 ダイオウグソクムシさんについての論文を書くのでした、論文はすぐに書き終わって学会に提出しましった。
 その論文を提出した日にです、日笠さんが研究室に来て先生に言ってきました。
「本当に今回も」
「今回もですか」
「お疲れ様でした」
 深々と頭を下げての言葉でした。
「何かと」
「診察のことですか」
「それにダイオウグソクムシのことも」
「彼はまだ食べていませんね」
「はい、しかし色々調べてくれましたね」 
 日笠さんが言うのはこのことでした。
「これは大きなことです」
「グソクムシ君への研究について」
「論文を読ませて頂きましたが」
「それが、ですね」
「非常に素晴らしかったです」
 そうだったというのです。
「ですから」
「それが、ですね」
「ダイオウグソクムシの研究への大きな一歩となります」
「そこまでのものですか」
「そう思います、私は」 
 まさにというのです。
「ですからです」
「とてもですか」
「本当にお疲れ様でした」
 こう先生に言うのでした。
「それでなのですが」
「それで?」
「実はとても美味しいステーキハウスを知っていまして」
 日笠さんは急に頬を少し赤くさせて先生に言ってきました。
「如何でしょうか」
「ステーキですか」
「はい、これからご一緒に」
「ステーキですか、では」
「行かれますか」
「実は今度妹夫婦が来日しまして」
 先生は濁りが全くない笑顔で日笠さんに言うのでした。
「四人で行きますか」
「これからではなく」
「食事は。ティータイムは特にそうですが」
 本当に濁ったものが全くない笑顔です。
「皆で食べた方がいいので」
「それで、ですか」
「はい、妹夫婦と四人でどうでしょうか」
「これからではなく」
「実は今夜はもう家に帰るつもりでして」
 つまり予定がないというのです。
「家族と一緒に過ごしますので」
「だからですか」
「そうです、今度で宜しいでしょうか」
「はい・・・・・・・」
 とても残念そうに応えた日笠さんでした。
「でしたら」
「今度ですね」
「はい、ご一緒に」
 こうお話してでした、日笠さんは仕方なく撤退しました。動物の皆はそんな先生を見て今日もやれやれとなりました。
 そしてサラとご主人と四人で、です。先生は日笠さんが紹介してくれたステーキハウスに行ってそうしてなのでした。
 サラとお家に意気揚々と帰りました、日笠さんをお家まで送ってから。
 ご主人はここで、でした。先生に遠慮している仕草で言ってきました。
「少し煙草を楽しんできて宜しいでしょうか」
「あれっ、喫煙されましたか」
「はい、実は」
 とても落ち着いた感じのダンディなお顔ですがその目を左に泳がせての返事でした。
「では」
「はい、どうぞ」
「それでは」
 ご主人はサラと目で合図をしてでした、そのうえで。
 ちゃぶ台がある居間を後にしました、お部屋には先生とサラの他は動物の皆だけとなりました。その状況になってです。 
 サラは完全に呆れたお顔で、です。先生に言いました。
「駄目なんてものじゃないわ」
「駄目だって?」
「その駄目よりもよ」
「さらになんだ」
「さらに駄目よ」
 そうだというのです。
「兄さん、源氏物語の論文書いたわよね」
「非常に素晴らしい作品だね」
「伊勢物語も更科日記もよね」
「和泉式部日記も読んだよ」
「それも日本語の方でもよね」
「原文でもね」
「しかもイギリス文学にも詳しくて」
 先生の生まれ故郷であるこの国のものもです。
「それでなの?」
「それでって?」
「だから、何で二人で行かなかったのよ」 
 今度は怒った顔で言ったサラでした。
「あの人と」
「日笠さんとかな」
「そうよ、どうしてなのよ」
「サラ怒っていないかい?」
「怒ってるわよ」
 その通りだとです、サラはすぐに言葉を返しました。
「見ればわかるでしょ」
「そうだよね、ステーキが口に合わなかったのかな」
「とても美味しかったわよ」
 むくれたお顔で返したサラでした。
「コースの他のお料理もね」
「うん、日笠さんのアドバイス通りね」
「凄くね。ただ」
「ただ?」
「兄さん私がどうして怒ってるかわかってないでしょ」
「どうしてなんだい?」
 実際にこうしたお返事でした、先生は。
「ステーキが口に合わなかったかっていったら違うし」
「だからよ」
「だから?」
「ここまで言ってもわからないことは」
「だから何がわからないのかな」
「兄さんがね」
 こう注意を入れるのでした。
「全くわかっていないじゃない」
「そうなのかな」
「いい、ヒントをあげるわ」
 怒って呆れながらも言うサラでした。
「ああしたお誘いの時は皆で行かないの」
「一人でかな」
「二人でよ」
 さらに怒ったサラでした。
「二人で行くものよ」
「というと日笠さんと一緒にだね」
「そうよ、いいわね」
「今度からだね」
「絶対にまたお誘いがあるから」
 サラはこのことを読み切っていました、そのうえで先生に言うのです。
「わかったわね」
「うん、じゃあね」
「そういうことでね。けれどね」
「けれど?」
「いや、兄さん深海にも行きたいのね」
「そうだよ」
「じゃあ行ってみたら?」
 この話題については怒らずに言う日笠さんでした。
「それならね」
「いや、そうもいかないんだよ」
「そうなの」
「深海艇に乗らないといけないからね」
 だからだというのです。
「あそこはね」
「そうそう簡単には行けないのね」
「流石にね」
「兄さん地球のあちこちに行って」
 そして、と言うサラでした。
「月にも行ったのに」
「海の底はね」
「まだなのね」
「そうなんだよ」
「それでこれから行くにしても」
「ちょっとね」
 行くことはというのです。
「難しいよ」
「頼んでみたら?誰か」
「それもね」
「だからそこで遠慮するのが駄目なのよ」
 サラは先生が遠慮したのを見て少しむっとして言いました。
「兄さんのよくないところよ」
「無欲っていうんだね」
「無欲は美徳だけれど」
 それでもというのです。
「兄さんみたいだと何も手に入れることは出来ないわよ」
「手に入れるって?」
「海の底に行くことも幸せもよ」
「僕は充分過ぎる程幸せだよ」
「幸せには限りがないのよ」
 無欲な先生への言葉です。
「それが誰にも迷惑をかけなかったらいいでしょ」
「だからなんだね」
「そう、兄さんはね」
 それこそというのです。
「もっと前に出て欲を張って」
「幸せを手に入れるべきっていうんだね」
「そうよ、もっとね」
「それで深海にもなんだ」
「行ける様にお願いするのよ」
 そうするべきだというのです。
「色々な人にもね」
「そうしてだね」
「海の底行きたいのよね」
「うん、行ってね」
 そしてと答えた先生でした。
「色々な生きものを調べたいよ」
「そうしたいのね」
「やっぱりね」
「じゃあお願いするのよ、自分からね」
 行きたいと、というのです。
「わかったわね」
「ううん、じゃあ一旦相談しようかな」
「そうしてね。ただ」
「ただ?」
「考えてみたら」
 ここでこんなことを言ったサラでした。
「海の底に潜水艇で行くのよね」
「そうだよ、深海用のね」
「それだと飛行機に似てるかしら」
「空を飛ぶことに?」
「飛行機も壁一枚外はお空で」
 それで、というのです。
「そしてね」
「そして?」
「潜水艇も壁一枚向こうは海で」
 そしてというのです。
「そこに出たら終わりよね」
「そういえばそうだね」
「普通の船もそうだけれどね」
「僕飛行機はね」
 使うことがあってもとです、先生は飛行機についてはあまり浮かない感じでサラにこう言ったのでした。
「サラも知ってるね」
「嫌いよね」
「嫌いっていうか苦手なんだ」
「そうよね」
「日本の野球選手で江川卓って人がいたけれど」
 今は引退しているその人の名前を出すのでした。
「その人と同じでね」
「兄さん飛行機は苦手よね」
「船や電車の方が好きだよ」
「月にも行ったのに」
「確かに月に行ったけれど」
 それでもというのです。
「あまり好きじゃないよ」
「お空を飛ぶことは」
「どうにもね」
「それじゃあね」
「深海に潜水艇で行くにも」
「兄さん大丈夫なの?」
 自分のお兄さんである先生にです、サラは尋ねました。
「そのことは」
「どうなのかな」
「そのことも考えてね、けれどよね」
「うん、一度でもいいから行きたいね」
 そうだと言うのでした。
「深海に」
「そうよね、じゃあ若し深海に行くことになったら」
「その時は」
「そのことは我慢してね」
「飛行機の時みたいに」
「そうしてね」
 こう先生に忠告するのでした。
「そのことはね」
「わかったよ、それじゃあね」
「そういうことでね。とにかくね」
 何についてもとも言ったサラでした。
「兄さんはもっと前に前に」
「自分から主張するんだね」
「幸せは跳んで掴み取るものよ」
「自分の手で」
「そうするものよ」
「サラもそうしたしね」
「そうよ、確かに兄さんのあんまりのことに怒ってね」 
 そしてというのです。
「家を出たけれど」
「その時に結婚して」
「そうよ」
 まさにというのです。
「今幸せになってるのよ」
「幸せになるには」
「自分から動くことよ」
 そうしないといけないというのです。
「まずはね」
「それが大事なんだね」
「そう、さもないとね」
 それこそというのです。
「兄さんずっと一人よ」
「独身のままだっていうんだね」
「そう、一人よ」
 まさにというのです。
「そうなるから」
「ううん、サラも皆もそう言うけれど」
「皆そう思ってるからよ」
 だからだというのです。
「兄さんも自分で動くのよ」
「どうしても苦手だけれど」
「苦手でもよ」
「まずは自分で動くこと」
「それが第一よ」 
 こう言ったサラでした、そして。
 お話が一段落したところで、です。先生に言いました。
「じゃあうちの人そろそろ煙草吸い終わるから」
「そういえばあの人煙草吸ってたかな」
「時々ね」
 こう返したサラでした。
「こうした時はなのよ」
「そうだったんだ」
「気を利かしてくれるのよ」
「そうなんだね」
「これから私大阪に行くけれど」
「あっ、行くんだ」
「通天閣と大阪城観に行くの」
 そうするというのです。
「色々と食べるつもりだし」
「それもいいね、大阪は美味しいものが一杯あるからね」
「そのことでも有名な場所だからね」
「是非行ってね」
 先生もサラに微笑んで言います。
「楽しんでくるといいよ」
「そうさせてもらうわ」
 サラとは楽しい会話をするのでした、そして。
 先生はサラを見送ってでした。
 そのうえで次の日ふと気がそちらに行ってでした、ダイオウグソクムシさんのところに行ってサラとお話したことをグソクムシさんにもお話しました。
 するとグソクムシさんは先生にこうしたことを言いました。
「難しいことだな」
「難しいって?」
「先生、もっとそうしたこともな」
「そうしたこと?」
「ああ、学問とか優しさの他にもな」
 そうしたこともというのです。
「身につけたらどうだ」
「どういうことかな」
「先生は本当にいい人だけれどな」
 それでもと言うグソクムシさんでした。
「もっとな」
「もっと?」
「世の中のことを勉強するんだな」 
 こう言うのでした。
「それも学問のうちだと思うからな」
「ううん、僕は世事のことに疎いって言われるけれど」
「独り身の俺にもわかった」
 それで、というのです。
「妹さんの言ってることがな」
「君にもなんだ」
「僕達もね」
「というかずっとわかってるから」
「わかってないのは先生だけ」
「先生だけよ」
 他の皆も呆れて言うのでした。
「本当にね」
「ずっと言ってるのに」
「それも結構はっきりと」
「それでもなんだよね」
「先生だけが気付かない」
「そうした状況なんだよね」
「参ったことだな」
 実にとも言ったグソクムシさんでした。
「先生のそのことについては」
「だからグソクムシさんもね」
「先生に何か言ってくれない?」
「びしっとね」
「幸せのことについて」
「まあな、先生もな」
 グソクムシさんは皆に言われてここで先生に言いました。
「自分の幸せのことを真剣に考えるんだな」
「考えてるよ」
「やっぱりこう言うんだな」
 グソクムシさんにもお手上げでした、ですが。
 先生はいつも通り気付いていません、この人だけはそうでした。


ドリトル先生の水族館   完


                        2015・9・11



ダイオウグソクムシに関する論文も書けて。
美姫 「先生としては満足で幸せなんでしょうね」
とは言え、いつもの如く日笠さんが少し可哀想な。
美姫 「まあ、それが先生らしいと言えばらしいけれどね」
他の皆も毎回言っているのに。
美姫 「こっちの方も少しは分かるようになるかしら」
今回も楽しませてもらいました。
美姫 「それでは」



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