『ドリトル先生と森の狼達』




                        第十幕  神戸に戻って

 先生達は奈良県と和歌山県の境の生態系の調査を終えました、そうして神戸まで皆で無事に帰りました。
 そしてです、先生はお家に帰ってから皆に言いました。
「さて、調査が終わってお家に帰ったけれど」
「あらためてだね」
「狼さん達のことをどうするか」
「そのことをね」
「考えないといけないね」
「その通りだよ」
 皆に答えて言うのでした。
「あらためてね」
「発表する?ニホンオオカミがいたって」
「絶滅していなかったって」
「そのことを」
「狼さん達もいいって言ってたし」
「そうする?」
「学者としてはね」
 先生はお仕事の立場から答えました。
「やっぱりこうしたことはね」
「発表しないとだよね」
「いられないよね」
「とても」
「先生にしても」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「こうしたことはね」
「発表することが義務」
「学者のね」
「絶滅していなかった」
「それを確かに言うことは」
「あっ、それでだけれど」
 ここで王子が言いました、そして。 
 皆にあるものを見せました、それは。
「これね」
「あっ、ニホンオオカミの写真」
「撮ってたんだ、王子が」
「毛もあるね」
「それも手に入れてたんだ」
「狼さんのうちの一匹にお願いしてね」
 そしてというのです。
「毛を貰ってね」
「写真もなんだ」
「撮ってたんだ」
「いるっていうの確かな証拠」
「それを貰ってたんだ」
「それも二つも」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「だから先生が発表して嘘って言う人はいないよ」
「証拠があるからね」
「それも確かな証拠が」
「だったらね」
「それ見たら疑わないね」
「証拠を調べてもらってもいいし」
 その写真と毛をです、科学的に。
「確かだよ」
「では、だね」
「うん、後は先生次第だよ」
「発表するかどうかを決めることは」
 ニホンオオカミがまだ生きているということをです。
「僕がどうするかだね」
「そうだよ」
「ううん、それじゃあ」
「どうするのかな」
「ううん、難しいね」
 先生は王子にここでも考える、悩んでいる声で答えました。
「ここは」
「まだなんだ」
「決められないね」
「やっぱり狼君達のことが心配なんだね」
「日本のマスコミはパパラッチより酷いからね」
 とにかくです、先生はこのことを念頭に置いています。
「学者の人も変な人がいるから」
「何ででしょうか、日本の知識人と呼ばれる立場の人は」
 トミーも首を傾げさせて深刻に考えるお顔になっています。
「マスコミの人や学者さん、本を書く様な人も学校の先生も」
「酷い人が多いっていうんだね」
「何か普通の日本人と比べて酷過ぎません?」
「うん、僕もそう思うよ」
「言っていることもやっていることも滅茶苦茶で」
「どうもね、このことはね」
 日本の知識人についてです、先生はトミーにお話しました。
「終戦直後からだね」
「第二次世界大戦のですか」
「これから民主主義になった、何を言っても自由になってそれで処罰されないって思って」
「それはいいことですよね」
「けれど処罰されない、このことを責任を問われないって都合よく解釈した人が多かったんだよ」
「何を言ってもいいと」
「それこそどんな嘘を言ってもね」
 そうした悪いことをしてもというのです。
「責任に問われないって思った人が多かったんだよ」
「日本の知識人は」
「あと共産主義が一気に広まって」
 このこともです、先生は知っていました。
「それを広める為には何をしてもいいって人も多かったんだよ」
「いや、それは」
「違うって思うね、トミーも」
「幾ら自分が正しい、素晴らしいって思う考えでも」
「それを広める為に嘘を言ったりしてはいけないね」
「そうした嘘はよくないですよ」
「そうだよ、正しいことをしていると自分で思っても」
 ここで先生はトミーだけでなく皆に真剣なお顔で言いました。
「それで暴走したり嘘を言ったらね」
「それだけで駄目だよね」
「魔女狩りとかでもそうだし」
「戦争でもだよね」
「そこでもう正しくなくなるよね」
「正しいことをしているつもりでも」
「自分で正しいことをしていると思ったらもうアウトなんだ」 
 最早その時点で、というのです。
「相手は間違っていると思って相手にどんな悪いことをしても平気になりかねないからね」
「それでなんだ」
「日本の知識人っていう人はおかしな人が多いんだ」
「マスコミにしても学者さんにしても」
「そうなんだね」
「そう、そうした人達をあそこに入れたら」
 先生は本当にこのことを心配しています。
「大変なことになるから」
「発表するかどうか」
「そのことを悩んでしまうんだね」
「どうしても」
「そういうことだね」
「そうだよ、どうしたものかな」
 先生は心からです、狼さん達のことを思って言うのでした。
「一体」
「だからね」
「ここはね」
「日笠さんに相談しようよ」
「是非ね」
 動物の皆は森の中にいた時に先生にお話したことをここでも言いました。
「あの人なら相談に乗ってくれるよ」
「先生のお願いならね」
「そうしてくれない筈がないよ」
「間違いなくね」
 それが何故かはあえて言わないです、先生が気付いてくれないことはわかっていますしここでお話すうるとややこしくなるからです。
「あの人ならだよ」
「絶対に先生の相談に乗ってくれてね」
「そして答えを出してくれるよ」
「間違いなくね」
「そうだね、じゃあ明日日笠さんに相談してみるよ」
 先生も皆のその言葉に頷いて明るいお顔になりました。
「それがいいね」
「うん、じゃあね」
「明日日笠さんと相談しよう」
「じゃあそういうことでね」
「まずはそういうことで」
 こうしてでした、先生はニホンオオカミさんのことについて日笠さんとお話することにしました。その次の日にです。 
 先生は自分から動物園の日笠さんを尋ねました、その先生にお会いして日笠さんはびっくりして言うのでした。
「あの、戻られたのは聞いてましたが」
「はい、実は」
「調査で何かあったのですか?」
「まずはご挨拶から」
「あっ、そうですね」 
 日笠さんも言われて気付いてでした、それで。
 まずは挨拶をしました。先生はそのうえで日笠さんに言うのでした。
「実は大事なお話でした」
「ここでは、ですか」
 皆がいる事務室にはというのです。
「お話出来ないですか」
「はい、お願い出来ますか」
「わかりました、では客室に入りましょう」
 日笠さんはこう先生に提案しました。
「そこでお話しましょう」
「それでは」
 こうしてでした、先生はです。 
 日笠さんに動物園の客室の中に入りました、そこでなのでした。 
 二人でお話することになりました、そのお話を聞いてです。 
 日笠さんはまたびっくりしたお顔になってです、先生に尋ねました。
「あの、本当のことですか」
「はい、こちらが証拠です」
 王子が取って来た写真とです、毛を出しました。
「写真と毛が」
「この写真は」
 日笠さんはその写真を手に持ってまじまじと見て言いました。
「やはり」
「ニホンオオカミですね」
「狼ですね」
「そして、ですね」
「狼といっても小型で」
 日笠さんにもわかります、このことは。
「それにです」
「はい、周りは日本の森林ですね」
「奈良ですね」
「勿論トリック写真と疑う人もいるでしょうが」
「この毛もですね」
 日笠さんは毛も見ました。
「こちらも」
「そう思われるのならです」
「科学的に検証してもいいと」
「僕は是非にと言わせて頂きます」
「では間違いなく」
「はい、僕も会いました」
 その狼さん達と、です。
「そしてお話しましたので」
「間違いないですね」
「はい、ニホンオオカミは奈良県と和歌山県にいます」
「その話は本当だったのですね」
「本当だったとは」
「実は以前から噂がありました」
 ここで、です。日笠さんは先生に言うのでした。
「ニホンオオカミが生息しているとです」
「まだ日本にですね」
「そう言われていました」
「そうだったのですか」
「目撃話もありましたが」
「真相は不明だったのですね」
「ニホンオオカミの赤ちゃんが見付かったという話もありました」
 日笠さんは先生にこのお話も紹介しました。
「ニホンオオカミのものではないかという糞も」
「毛が混ざっているうんこですね」
「ニホンオオカミは獲物を毛ごと飲み込むので」
 つまり丸呑みにするというのです、飲み込める獲物ならば。
「ですからそうした糞になるのですが」
「そうした糞も見付かっていたのですね」
「そうでした、ですが」
「それでもだったのですね」
「確かな目撃例はありませんでした」
「それが、ですね」
「先生が見付けられました」 
 日笠さんは驚愕のお顔で先生を見つつお話しました。
「これは世紀の発見です」
「そうまで仰いますか」
「実際にそうです」
「そうですか、ただ」
「ただ、とは」
「このことを発表すべきでしょうか」
 先生はここで本題に入りました、先生にとっての。
「果たして」
「勿論ですが」
「当然のことですか」
「そうです、これは世紀の発見ですから」
 日笠さんは先生に即答しました。
「それこそ」
「そうですか、ただ」
「何かあるのでしょうか」
「おかしな人が奈良県と和歌山県の境に沢山入らないでしょうか」
 先生は日笠さんに真剣なお顔で尋ねました。
「マスコミや学者、それに密猟者」
「不安なのですね」
「かなり、本当に」
「そうですね、こうした場合は」
「何かお考えがありますか」
「はい、法整備ですね」
 日笠さんは先生にここでは表情を消してです、動物園の人というよりは法律家の様なお顔になってお話しました。
「やはり」
「法整備ですか」
「密猟禁止地区に指定しまして」
「ニホンオオカミの生息している地帯を」
「そしてニホンオオカミを特別保護指定動物にしましょう」
「ニホンカモシカの様にですね」
 先生はここでこの動物の名前を出しました。
「あの生きものもそうですから」
「そうです、同じです」
「天然記念物ですか」
「そうなって当然です」
 日笠さんははっきりと言いました。
「ニホンオオカミならば」
「では」
「このことは園長にお話しましょう」
「八条動物園の」
「そして学園長にもです」 
 八条学園の、というのです。
「学園長は八条家の方ですので」
「日本の環境保護のこともですか」
「一族に議員の方がおられ様々な慈善活動を一族全体でしておられるので」
「こうしたことにもですか」
「強い発言力を持っておられます」
「それでは」
「はい」
 日笠さんは先生にまた答えました。
「それではです」
「動物園の園長先生にお話されるのですね」
「私達の仕事は野生動物の保護も入っています」
「はい、生物学者として」
「ですからこのことはです」
「発表したうえで」
「保護しましょう」
 この二つを並行させようというのが日笠さんのお考えです。
「是非共」
「ではお力をお貸し下さいますか」
「とんでもない、先生がです」
「僕がですか」
「私達にお力を貸して欲しいです」
 これが日笠さんのお返事でした。
「是非共」
「そうですか、僕が」
「何しろ先生が発見されたのですから」
 そのニホンオオカミさん達をというにおです。
「ですから」
「僕が、ですか」
「私達にです」 
 お力を、というのです。
「お願いします」
「では」
「ニホンオオカミの生存を発表し保護も進めましょう」
「野生動物のままですね」
「そうです、それでは」
 日笠さんはその目をきらきらさせていました、そうしてです。
「動きましょう」
「法整備ですね、やはり」
「人の社会は法律で動いていますので」
 日笠さんはとてもしっかりとした口調で先生に言いました。
「この動物園にしましても」
「博物館法ですね」
「そうです、日本ではです」
「動物園は博物館になりますね」
「そのうちの一つです」
「だから僕も博物館の学芸員でもあるので」
 先生はこの資格も持っています。
「動物園で勤務も出来ますね」
「はい、それに」
「僕の場合はですね」
「図書館の勤務も出来ます」
「そちらの資格も持っているので」
「先生はです」
 まさにというのです。
「あらゆる資格を持っておられるのので」
「博物館関係も図書館も」
「そして学校の先生も出来てお医者様もです」
「どれも出来るのですね」
「そうです、先生なら」
「ううん、イギリスから来ましても」
「それでもです」
 先生がそうした資格を持っておられるからなのです。
「先生なら」
「左様ですか、そうしたことも法律で」
「野生動物を守るものです」
「法律ですね」
「あらゆるものはです」
「法律が守りますね」
「そうです、この場合はいい法律なので」
 だからだというのです。
「法律を頼りにしましょう」
「そうなりますね、確かに法律はです」
「いいものですね」
「なくては今回もです」
「ニホンオオカミを守れないですし」
「他のことも」
「若しこの世の中に法律がないと」
 どうなってしまうのか、日笠さんは先生に真剣なお顔でお話しました。
「無法状態になってします」
「まさに」
「そしてです」
 そのうえでというのです。
「弱い人は強い人に何をされるかわかりません」
「法律が弱い人を守ってくれないので」
「法律は弱い人を守ってくれて」
「強い人の横暴を防いでくれます」
「それが法律ですね」
「悪用する人もいますが」
 それでもというのです。
「そして悪法もありますが」
「法律は人と社会を守るものですね」
「自然も」
 今回のこともというのです。
「守ってくれます」
「まさにあらゆるものを守ってくれる」
「それが法律です、ニホンオオカミも守ってくれます」
「それでは」
「ここは園長先生とお話しましょう」
「そして学園長にもお話をして」
 そのうえでニホンオオカミを守ろうということになりました、先生は日笠さんとそこまでお話しました。そして。 
 そのお話の後で、です。先生は思うのでした。
「いや、本当に驚きました」
「ニホンオオカミのことは」
「絶滅したとです」
「先生も思われていたのですね」
「はい、ジステンパーで」
 主にこの病気によってというのです。
「そう思っていました」
「左様ですか、しかし」
「ニホンオオカミはいましたね」
「そうですね」
「僕はここで思いました」
「何とでしょうか」
「人の知っている物事はこの世で僅かです」
 まさにほんの、というのです。
「大海の中の匙一杯です」
「その程度ですね」
「僕達は全てを知っている様で」
 その真実はというのです。
「ほんの僅かです」
「その程度でしかありませんね」
「僕は学ぶ度にこのことを実感しています」
「今回の調査でも」
「はい、そうでした」
 まさにというのです。
「この世は本当に広いですね」
「そして人が見ているものは僅かですね」
「知っていることも」
「このニホンオオカミのことも」
「まさにそうですね、そして」
 先生は日笠さんにさらに言いました。
「法律、日本の法律のことも」
「学ばれますか」
「欧州の法律とはまた法体系が違いますね」
「どうもかなり違いますね」
「欧州の学問はまずキリスト教がありますので」
 その根幹、まさに根であり幹はなのです。欧州の学問はキリスト教があるのです。この宗教の存在がです。
「神学がありまして」
「キリスト教の教義ですね」
「そして他の学問が生まれています」
「法学もですね」
「欧州の法学はローマ法とです」
「キリスト教の教義が源流ですね」
「ですから日本のものとは違います」
 その源流となるものがというのです。
「近代法ということから日本は欧州の法律を積極的に取り入れましたが」
「キリスト教が入っていないので」
「また違います」
 そうしたものだというのです。
「そのことも実感していましたし」
「日本の法学もですか」
「学びたいと思っています」
「学者としてですね」
「はい」
 ここでも先生は学者でした、まさに生粋の学者です。
「そうです」
「そうなのですね、では」
「学ばせてもらいます」
「そちらも頑張って下さい」
「法学を学ぶといっても弁護士や裁判官になるつもりはありません」
「司法試験に興味はないのですね」
「別に」
 先生は日笠さんに穏やかな笑顔で答えました。
「そうしたことには」
「そうですか、ただお気をつけ下さい」
「何にでしょうか」
「日本の法曹界も問題がありますので」
「そうなのですか」
「弁護士も裁判官も」 
 こうした人達にも問題があるというのです。
「厄介なことに」
「そうなのですか」
「おかしな行動をする弁護士、おかしな判決をする裁判官がです」
「日本にはいますか」
「証言をした十四歳の女の子が嘘を吐くとは思えないと言って被告人を有罪にしたり」
「いえ、十四歳の女の子も嘘を吐きますよ」
 先生もこのことにはすぐに答えました。
「誰でも」
「そうですね、しかしです」
「その裁判官はですか」
「そうした判決を下したのです」
「それは近代法治国家の判決ではないですね」 
 先生も唖然となっています、あまりにも酷い判決に。
「推定無罪等という言葉を知らないのですか」
「そうとしか思えないですね、しかもです」
「しかもですか」
「この判決を下した裁判官は今は大学の客員教授です」
「生徒の人達に何を教えているのか」
「恐ろしいですね」
「全くです」
 先生も背中に寒いものを感じています。
「日本の知識人、特に学校の先生は違和感を感じていましたが」
「法曹界もです」
「恐ろしい状況なのですね」
「はい」
「では今回のことは」
「流石にそうしたことはありません」 
 おかしな弁護士や裁判官が関わることはというのです。
「ですからご安心下さい」
「わかりました、では」
 先生もここではほっとしました、そして。
 その先生にです、日笠さんは言うのでした。
「それでなのですが」
「それでとは」
「もうすぐお茶の時間なので」
「あっ、では」
「お茶をご一緒して宜しいでしょうか」
「はい、お願いします」
 お茶とくれば断る先生ではありません、そしてでした。
 先生は日笠さんと楽しくお茶の時間も過ごすことになりました。勿論紅茶だけでなくです。
 いつものティーセットもあります、そのティーセットを出してからです、日笠さんは先生に微笑んで尋ねたのでした。
「調査の間も」
「はい、ティーセットを楽しんでいました」
「紅茶もお菓子もですか」
「クッキーやビスケットを持って行きました」
「保存のきくものをですか」
「外で何日も過ごす時は持って行きます」
 そしてティータイムを楽しんでいるというのです。
「勿論紅茶も」
「成程、そうされていますか」
「はい、そうです」
 先生は日笠さんが淹れてくれたミルクティーを見つつ答えました。
「そうしています」
「今回もですね」
「そうでした、とにかく僕はです」
「ティータイムは絶対ですね」
「お茶とティーセットがありませんと」
 三段のそれがです。
「どうも駄目です」
「イギリスですね」
「最近は日本のティーセットも楽しんでいますが」
 この場合はお抹茶等の日本のお茶にです、そしてお饅頭や羊羹、お団子といった日本のお菓子での三段セットです。
「そうした意味で僕はイギリス人ですね」
「紅茶を欠かさないという意味で」
「はい、あとレモンティーは飲みませんが」
 それでもというのです。
「普通の紅茶でアメリカ風も楽しみますね」
「アメリカ風のティータイムですね」
「それと中国風も」
 こちらもあるというのです。
「ロシアのものも知りました」
「色々な国の感じのティータイムですか」
「そうです、僕はコーヒーではなくお茶派ですが」
 このことは外せません、先生は。
「それぞれのお国のお茶と一緒にです」
「それぞれのお国のお菓子をですね」
「三段のティーセットで楽しんでいます」
「そうなのですね」
「日本、この学園に来てから知りました」
「八条学園が世界中から人が集まる場所だからこそ」
「そうしたことを知りました」 
 各国の趣きのティーセットを楽しむことをというのです。
「面白いですね、それぞれのお国のティータイムも」
「イギリス風だけではなくなったのですね」
「そうなりました」
「先生はこちらに来られて変わられたのですね」
「そうした意味でもそうですね」
 三段セットの真ん中のエクレアを手に取りつつのお言葉です、一番上にはレーズン入りのクッキー、下段にはバウンドケーキがあります。
「僕は変わりましたね、そして」
「そしてといいますと」
「いや、このエクレアも紅茶もそうですが」
 そのエクレアの生地とチョコレート、中のクリームのお味まで楽しみつつです、先生は日笠さんにお話するのでした。
「とても美味しいです、他のどんなお菓子も」
「日本では、ですか」
「お茶も。まずお水がいいので」
 紅茶に使うそれがというのです。
「日本のお水は軟水ですね」
「はい」
「そこにまず大きな違いがあります」
「軟水の方が美味しいというのですね」
「そうです、僕はそう思います」
「硬水は問題があるのですか」
「お風呂に入っても洗濯をしても食器を洗ってもです」
 家事に使ってもというのです。
「違います」
「よく言われていますね」
「そして水が日本より少ないので」
 このこともお話する先生でした。
「イギリスではシャワーの時泡は落とさずに」
「拭くのですね」
「食器もそうです」
 洗剤の泡を落とさずにというのです、お湯やお水で。
「そうしています」
「そのお話は私も知っていますが」
「日本では考えられないですね」
「泡は絶対に落とします」
 お風呂、シャワーの時も食器を洗った時もです。
「そうしています」
「そしてですね」
「はい、そして紅茶に使うお水も」
「軟水だからこそ」
「味が違います」
 そうだというのです。
「尚且つカロリー控えめですね」
「日本人はカロリーに五月蝿いですから」
「お菓子のカロリーも低めですね」
「そこはかなり」
「はい、お陰で少しですが」
 先生はバウンドケーキも楽しみつつお話しました。
「痩せました」
「そうなのですか」
「考えてみればイギリスにいた時は冒険の時以外はずっと病院の中にいました」
 患者さんが全く来なかったその病院にです。
「しかし今は大学に勤めていて毎日出勤して」
「研究室から講堂に行かれたりして」
「前よりもずっと歩いていますし」
「お菓子もカロリーが控えめなので」
「痩せました」
「体重が減られたのですね」
「そうなんです、まだまだこうした体型ですが」
 まだまだ先生は太めです、ですがそれでもというのです。
「健康診断で健康に問題があるとまではいかないと」
「言われたのですか」
「はい、そう言われました」
 診察のお医者さんにというのです、お医者さんがお医者さんに診察してもらってそう言ってもらえたというのです。
「無事に」
「それは何よりですね」
「健康第一ですからね」
「はい、是非健康を保たれて下さい」
 日笠さんもお菓子を食べつつ先生ににこりとして言いました。
「是非」
「そうさせてもらいます」
「私も健康には気をつけていますし」
「そうですね、男の人も女の人も」
 先生も笑顔で応えます、日笠さんのそのお言葉に。
「健康を保たないと」
「長い間一緒にいられないですからね」
「はい、日笠さんは僕の大切なお友達です」 
 ここでこう言ってしまうのが先生です、ですが先生はこのことがわかっていません。本当にこうしたことは駄目です。
 その先生がです、また言うのでした。
「くれぐれも健康にはです」
「お友達ですか」
「はい」
 そうだというのです。
「とても大切な」
「そうですか、まあそのことは」
 日笠さんは先生の今のお言葉に少しがっくりしながらもです、それでもすぐに気を取りなおしてあらためて言うのでした。
「少しずつ」
「少しずつ?」
「いえ、こちらのお話です」
「そうですか」
「はい、とりあえずこのティーセットは楽しんで頂いてますね」
 日笠さんはあらためて尋ねました、話題を変える為に。
「そうですね」
「とても」
「それは何よりです、そして」
「そしてですね」
「ニホンオオカミのことは」
「園長先生、学園長にお話して」
「そこからですね」
「そしてすぐに発表はしないのですね」
「すぐに発表しますと」
 それがというのです。
「問題が複雑になります」
「こうしたことはタイミングですね」
「そうです、タイミングや順番を間違えますと」
 こうした動物の生存の発表にしてもというのです。
「大変なことになりますので」
「注意しないといけないですね」
「順序よく、状況を見つつ慎重に」
 先生はまたお話しました。
「進めていきましょう」
「それでは」
 日笠さんとこうしたことをお話しつつ紅茶も楽しむのでした、ニホンオオカミのことはよしとなりましたがそれでもです。
 研究室で先生からのお話を聞いた動物の皆はやっぱり、というお顔になってそれぞれ先生に言うのでした。
「はい、半分はセーフ」
「けれど半分はアウト」
「そのアウトの方が問題」
「それもかなりね」
「あれっ、どうしてかな」
 先生は皆にそう言われて目を瞬かせるのでした。
「僕が半分アウトなのかな」
「それがわからないのがね」
「もうアウトなのよ」
 ガブガブとダブダブが先生に最初に言いました。
「あのね、一体ね」
「先生大切なことが全くわかっていないから」
「あの、小説とかで絶対出て来るよ」
「こうしたテーマはね」
 次に言ったのはジップとチーチーでした。
「イギリスの小説でも日本の小説でも」
「絶対じゃない」
「先生、この前源氏物語読んだよね」
「日本の長編小説ね」
 トートーとポリネシアも先生に言うのでした。
「古典を現代語訳したのも」
「原文でもだったわね」
「うん、名作だね」
 先生は源氏物語自体には目を輝かせてお話出来ました。
「日本が誇る一大小説、読み終えた後の満足感は例えようがないよ」
「それで、だけれど」
「主人公についてどう思ったかな」
 ホワイティと老馬は先生に尋ねました、それも強く。
「主人公の行動とかね」
「女の人達の気持ちとか」
「悲しいものを感じることが多いね、華やかな中にも無常なものがある」
 こうしたことはよくわかる先生です。
「日本人独特の人生観はあの時からあるんだよ」
「それだけ?」
「それだけなの?」
 チープサイドの家族は先生を囲んで尋ねました。
「あの、他には?」
「他に思うことはないの?」
「ううん、あの作品について語ったらね」
 先生は源氏物語の文学的価値、そして作品全体にある雅と無常についてはわかるのでした。それで動物の皆にお話するのでした。
「かなりの時間がかかるけれど」
「肝心なところは?」
「源氏物語のテーマは?」
 オシツオサレツが二つの頭で尋ねました。
「何かな」
「それは」
「うん、それはね」
 先生は皆に源氏物語のことをお話しました、ですが。
 その全部を聞いてからです、動物の皆は先生が研究室から戻って来た時と変わらないお顔で言ったのでした。
「やっぱりねえ」
「先生は先生だね」
「そこでそう言うのが」
「じゃあ少女漫画読んでも駄目かな」
「日本の少女漫画読んでも」
「ああ、漫画も素晴らしいね」
 先生はわからないまま応えるのでした。
「日本の漫画も。その少女漫画もね」
「素晴らしい文化だっていうんだね」
「そうしたことはわかるんだね」
「登場人物の心情描写とか絵や演出のよさとか」
「そうしたことはね」
「わかるんだね」
「それがわかるものじゃないかな」
 少女漫画によくあるテーマには気付いていないままのお言葉です。
「僕は誰でも少女漫画も少年漫画も読んでいいと考えているけれど」
「だからそうしたことじゃなくて」
「だからね」
「あのね、そもそもね」
「先生肝心なことが抜けてるから」
「本当に」
「肝心なこと。源氏物語や少女漫画でも」
 先生は皆の言葉に首を傾げさせ続けます。
「心情描写やストーリー、文章や絵に演出に」
「だからね、もうね」
「そうしたことも勉強しないと」
「そっちも学問でしょ」
「そうじゃないの?」
 恋愛学だというのです、動物の皆が言うには。
「全く、困ったね」
「先生のこっち方面での駄目さは」
「狼さん達のことはいいとして」
「そのことは」 
 けれど、と言い続ける先生でした。ですが。
 そのお話の中で、です。ジップは壁の時計を見て言いました。
「先生、もう十二時だよ」
「お昼の時間だね」
「今日は何処で食べるのかな」
「食堂で食べるよ」
 そこでというのです。
「生徒の皆と約束しているんだ」
「ああ、先生をお食事に誘ってきたんだ」
「先生生徒の人達にも人気があるからね」
 優しく穏やかで公平な人だからです、しかも色々なことを知っていてお話してくれるのですから尚更です。
「だからだね」
「今日のお昼は食堂で」
「生徒の人達と食べるのね」
「うん、何を食べるかはまだ決まっていないけれど」
 それでもというのです。
「食べるよ」
「じゃあ僕達はここで食べるから」
「研究室でね」
「それでゴミとかは奇麗にお掃除しておくから」
「安心してね」
「うん、むしろ僕がお掃除するよりはね」
 不器用な先生よりはなのです。
「皆の方がずっと奇麗にお掃除するからね」
「日笠さんもお掃除得意だよ」
「あの人もね」
「そのことも覚えておいてね」
「それも絶対にね」
 皆は日笠さんのことをお話するのも忘れませんでした、そのうえで。
 先生が食堂に行くのを見送ることにしました、ここで先生は皆にこんなことを言いました。
「さて、おうどんがいいかな」
「ああ、あれね」
「おうどんね」
「きつねうどん、それとね」
 その他にもというのです。
「丼も食べようかな」
「天丼はどう?」
「先生最近天丼好きだしね」
「そっちも食べたら?」
「そうしたら?」
「そうだね、天丼もいいね」
 天丼を勧められてです、先生は笑顔で応えました。
「揚げたものだけれど案外カロリーも少ないしね」
「ダイエットにもいいね」
「先生も最近体重減ってきてるし」
「それじゃあね」
「きつねうどんと天丼楽しんできてね」
「生徒の人達と一緒に」
「そうさせてもらうよ」
 こう皆に言ってからでした、先生は生徒の皆と一緒にお昼御飯を楽しむ為に食堂に向かいました。大学に戻っても先生は先生です。



学園に戻った先生たちと。
美姫 「日笠さんとも相談して、とりあえずの案は出たわね」
だな。これである程度は安心できるかな。
美姫 「後は発表するタイミングね」
まあ、これも相談しながら決めれば大丈夫だろう。
美姫 「皆が心配する肝心な方は……」
こっちは先生らしいというか。
美姫 「日笠さんが少し不憫ね」
まあ、これも時間を掛けていくしかないんじゃないかな。
美姫 「そうね」
それでは、次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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