『ドリトル先生と森の狼達』




                       第五幕  変わったうんこ 

 先生達は朝起きるとまず御飯を食べてでした。
 テントを収めてです、そうしてまた調査を開始しました。その時間はといいますと。
「まだ四時半でね」
「暗いね、まだ」
「暗いから」
「ちょっと先に行くのはね」
「うん、止めた方がいいね」
 早朝といっても暗いからとです、先生も答えました。
「少しね」
「待とうね」
「そうしよう、ただここで」
「ここで?」
「まだ暗いから夜の生きものに会えたらいいね」
 先生はこのことを期待しました。
「是非ね」
「そうだね、それじゃあ」
 こうしてでした、王子はすぐに周りを見回しました。すると。
 すぐにです、傍の木のところにある生きものを見付けました。その生きものはといいますと。
「あれっ、ムササビ?」
「うん、あの生きものはムササビだね」 
 先生もその生きものを見て答えました。
「そしてモモンガも一緒だよ」
「あっ、確かにもう一匹いるね」
「うん、ムササビ君とモモンガ君に一度に会えるなんて」
「運がいいね」
「そうだね」
「いやいや、運がいいんじゃないわよ」
「そうよ」  
 そのムササビとモモンガが先生に言ってきました、それぞれの言葉で。とはいってもムササビの言葉とモモンガの言葉は種類が近いせいかとても似ています。
「私達先生に会いにきたから」
「ここまでね」
「お話をしにね」
「来たのよ」
「僕になんだ」
「そうなの」
「来たのよ」
 先生にも答えるのでした、そして。
 先生の両肩の上にそれぞれムササビが右、モモンガが左にきてでした。お話に入るのでした。
「まだ夜って言ってもいいし」
「お話しましょう」
「私達のことね」
「何でもお話するわよ」
「それは嬉しいね、僕も君達に会いたかったんだ」
 先生はにこりと笑ってです、二匹に応えました。
「丁渡いいよ」
「そうでしょ、それじゃあね」
「楽しくお話しましょう」
「知っていることは何でもお話するわよ」
「先生にね」
「それじゃあね、君達の最近の生活はどうかな」
 先生は早速二匹に尋ねました。
「困っているかな」
「ここは村の人達も来ないし」
「あまりね」
「道から離れていて」
「旅人なんて来ないし」
 二匹は先生ににこにことして答えました。
「平和よ」
「穏やかに過ごしてるわよ」
「狐さんや狸さんには気をつけてるけれどね」
「けれど基本的に私達穏やかよ」
「食べものにもあるし」
「平和よ」
 それがムササビやモモンガの生活だというのです。
「とてもね」
「いい暮らししてるわよ」
「普通にね」
「幸せに暮らしてるわよ」
 そうだというのです。
「この辺りは何もなくて」
「いい感じよ」
「皆と仲良くやってるし」
「昼はたっぷり寝てるし」
「満足してるわよ」
「夜は好きなだけ飛んでるし」
「成程、君達は平和に暮らしてるんだね」
 そして楽しくとです、先生も理解しました。
 ムササビさんやモモンガさんの暮らしを聞いてでした、先生は他にも聞きました。その聞いたことは何かといいますと。
「ここに山犬君達がいるね」
「ううん、いるけれど」
「何か昔と比べたら減った?」
「そう言われれるわよね」
「何かね」
「そうよね、結構ね」
 また答えた二匹でした。
「あまりね」
「それに何かね」
「犬の匂いとは違う犬さん達いない?」
「ええ、いるわよね」
「少し違う」
「そんな匂いの犬さん達いるわね」
「あれっ、匂いが違うんだ」
 先生は二匹の言葉を聞いて目を瞬かせました。
「そうなんだ」
「うん、そうなのよ」
「私達の気のせいかも知れないけれど」
「山犬さん達とは微妙にね」
「匂いが違う様な」
「そんな感じがね」
「するわよね」
 二匹はまた答えました。
「気のせいかも知れないけれど」
「森のもっと奥の方にね」
「いるわよね」
「そうなんだ、教えてくれて有り難う」
 ここまで聞いてでした、先生は二匹にお礼を言いました。
「じゃあもうすぐしたら明るくなるからね」
「出発ね」
「そうするのね」
「うん、そうするよ」 
 先生は二匹に答えました、するとムササビさんもモモンガさんもすぐにでした。
 先生の肩からそれぞれジャンプしてお空を滑ってです、木のところに行ってしがみついてです。そこから木に登ってから言いました。
「じゃあまたね」
「縁があったらお会いしましょう」
「その時にね」
「そうしましょう」
「うん、機会があったらまた会おうね」
 先生も笑顔で応えてでした、この場はお別れとなりました。
 先生達は周りが白くなってから出発しました、少し歩いていると今度は野兎の夫婦が先生の前に姿を現しました。
 野兎達にはジップが最初に気付きました、それで先生に言いました。
「先生、今度はね」
「どんな動物かな」
「野兎君達がいたよ」
「今度は彼等だね」
「うん、それでどうするのかな」
「勿論彼等からもお話を聞くよ」
 先生の考えはこの時も変わっていません。
「是非ね」
「それじゃあね」
「うん、彼等とも会おう」
 こうしてでした、先生は今回もです。
 そのジップが見付けた木の陰に隠れて耳だけ少し出している野兎達に自分から穏やか声をかけました。
「聞きたいことがあるんだけれど」
「ドリトル先生ですよね」
「そうですよね」
「うん、そうだよ」
 その通りだとです、先生は野兎達に笑顔で答えました。
「僕がね」
「そうだよね」
「先生よね」
「そうだと思ったけれど」
「ちょっとね」
「あっ、ジップは大丈夫だよ」
 兎はどうしても犬を怖がります、それで野兎達もこの時ジップを見て怖がっていたのです。ですがそれはというのです。
「この子は大人しいし賢いからね」
「僕達にもなんだ」
「襲ってこないのね」
「それじゃあね」
「先生の前に出て来ていいのね」
「いいよ」
 先生は野兎の夫婦に笑顔で答えました。
「むしろ出て来て欲しいんだ」
「それで僕達にもだね」
「お話をして欲しいっていうのね」
「そうだよ」
 まさにその通りだとです、先生は答えました。
「宜しく頼むよ」
「それじゃあね」
「これからね」
「先生の前に行くよ」
「そうさせてもらうわね」
 こうしてでした、野兎達はです。
 先生のところに来ました、見れば両方共茶色い毛です。その茶色の毛の野兎達が先生のところに来て言いました。
「はじめまして」
「この辺りに住んでいる野兎の夫婦よ」
「僕は十三っていうんだ」
「私はおみよっていうの」
「うん、僕はドリトルっていうんだ」
 先生は夫婦に笑顔で答えました。
「イギリスから来たよ」
「聞いてるよ、イギリスから来た僕達の最高の友達」
「そして最高の理解者よね」
「何時でも僕達のことを考えてくれる」
「その先生よね」
「今回は君達とこの森のことを調べに来たんだ」
 先生は夫婦にも礼儀正しく穏やかにお話しました。
「それでここに来たんだけれど」
「それで僕達のことも」
「聞きたいのね」
「僕達自身から」
「それで是非にってお声をかけてくれたのね」
「そうなんだ、君達は」
 先生は風雨婦にあらためて尋ねました。
「どんな感じかな」
「うん、天敵はいるけれどね」
「それ以外のことでは満足しているわよ」 
 狐とかがいてもというのです。
「夫婦で仲良くね」
「楽しく暮らしているわよ」
「食べものもあるし」
「隠れる場所も豊富で」
「ここはいい場所だよ」
「とてもね」
「そう、君達も幸せに暮らしているんだね」
 先生は二匹のお話も聞いて笑顔になりました。
「それは何よりだよ」
「子供が出来たらね」
「何かと賑やかになるけれど」
「今はね」
「二匹で楽しく暮らしているわ」
「それで天敵のことだけれど」
 王子が夫婦にこの存在のことを尋ねました。
「狐に狸、あと穴熊とかだね」
「熊さんもね」
「結構怖いよね」
「そうそう、だからね」
「いつも気をつけてるわよ」
「あと山犬」
「お鼻が特にいいから」
 夫婦は自分達から山犬の名前を出しました。
「僕達のことすぐに見付けて」
「追いかけてくるから」
「厄介だよね」
「一番ね」
「何か特に動きが速い山犬さんもね」
「いたわね」
「動きが速い。ドーベルマンみたいな感じかな」
 王子は夫婦のお話を聞いてまずはこう思いました。
「そういうと」
「ドーベルマン?」
「それはどんな山犬なの?」
「正確に言うと人間が飼っている犬なんだ」
 王子は野兎の夫婦にドーベルマンの説明もしました。
「黒くてすっきりした身体で顔が引き締まっていてね」
「その犬によるけれど獰猛なんだ」
 トミーも夫婦にお話します。
「そのドーベルマンが野生化したものかな」
「そうかも知れないね」
 王子とトミーは二人で顔を見合わせてお話もしました。
「若しかすると」
「山犬の中にいるかもね」
「ううん、こうなったらね」
 先生はここでも何か山犬の中に普通の山犬とは違うものを聞いてでした、そのうえでこう言ったのでした。
「山犬君達自身に聞いてみたいね」
「そうだね、それがいいね」
「当の山犬さん達に聞こう」 
 チーチーとガブガブが最初に賛成しました。
「ここはね」
「そうした方がいいよ」
「そうだね、ここはね」
 先生も二匹のその言葉に頷きました。
「それが一番だね」
「じゃあね」
「次はね」 
 今度はポリネシアとチーチーが先生に言います。
「山犬さん達とね」
「会おうね」
「それじゃあ今度は」
「山犬さん達を探そう」 
 ホワイティと老馬も言いました。
「何処にいるかはね」
「探すとして」
「ええと、いいかしら」
「君達にも聞きたいんだ」
「ちょっとね」
 ダブダブとオシツオサレツは野兎の夫婦に尋ねました。
「山犬さん達は何処にいるのかしら」
「君達も狙われているってことは」
「近くにいると思うけれど」
「うん、あっちの方にね」
「少しいった場所によくいるわよ」
 夫婦は北西の方にお顔を向けて先生達に答えました。
「だから僕達あっちの方にはあまり行かないんだ」
「凄く怖いから」
「よし、じゃあね」
「そっちに行きましょう」
「それで山犬さん達とね」
「直接お話しましょう」
 チープサイドの家族は実際にそちらを見て先生に提案しました。 
 そしてです、王子とトミーも先生に言いました。
「行こう、先生これからね」
「山犬さん達の方に」
「そして彼等から実際にお話を聞いて」
「実際を知りましょう」
「それが一番だね、じゃあ行こう」
「うん、じゃあね」
「私達とはこれでお別れね」
 野兎の夫婦は先生達のやり取りを聞いて述べました。
「僕達はこれで」
「これから二匹で御飯を食べに行くから」
「またね。ここに来たら」
「お会いしましょう」
「色々とお話してくれて有り難う」
 先生は夫婦にもお礼を言いました。
「お陰で色々と知ることが出来たよ」
「それじゃあね」
「またね」
 野兎の夫婦は先生達にお別れを告げて森の中にぴょんと跳ねて消えていきました、そして彼等とお別れしてです。
 先生は皆にです、北東の方を見つつ言いました、その野兎の夫婦が言った方を。
「今からね」
「うん、行こうね」
「あっちの方にね」
「山犬さん達がいるっていう」
「あそこにね」
「そう、行こう」
 是非にと言う先生でした。
「これからね」
「それにしても山犬は」
 王子が言うことはといいますと。一行は早速歩きはじめています。
「最初は飼い犬でも」
「うん、野生化するとね」
「完全に山の生きものになるんだjね」
「これは他の生きものもだよ」
「山犬に限らないんだね」
「ほら、ディンゴっているね」
「ああ、オーストラリアの犬だね」
「ディンゴは最初は飼い犬だったんだよ」 
 先生はこのことを王子にお話しました。
「アボリジニーの人が持ち込んだんだ」
「あの人達がなんだ」
「氷河期の頃にね」
「ふうん、大昔だよね」
「昔は昔だけれどね」
「人が持ち込んだのは確かなんだ」
「そう、家畜にしていた犬達をね」
 そのオーストラリアにというのです。
「それが彼等なんだよ」
「それで野生化してなんだ」
「ディンゴになったんだ」
「最初オーストラリアにはイヌ科の生きものはいなかったんだね」
「あそこは有袋類の島だからね」
 カンガルー等がそうです、お腹のところに袋があってそこに子供を入れて守って育てる哺乳類達がそれです。
「そうした生きものはいなかったんだ」
「それで犬がいるってことは」
「そう、わかるね」
「人間が持ち込んだものなんだ」
「最初は飼い犬でもね」
「野生化するんだね」
「そうなるからね」
 だからだというのです。
「この山でもね」
「山犬は野生化しているんだ」
「そうなんだ」
「ううん、飼い犬ではなくなっているんだ」
「その逆もあるね、野良犬や野良猫でもね」
「人が飼えば飼い犬、飼い猫になるね」
「そういうものだよ、動物は野生化して家畜化するんだ」
 先生は王子にこのことをお話するのでした。
「その境目はわりかし曖昧でもあるから」
「飼い犬も山で野生化して」
「山犬になってしまうんだ
「そういうことなんだね」
「そうなんだ、野生とそうでないかは」
 それこそとです、先生はお話します。
「実は曖昧なんだ、結構ね」
「はっきりしていなくて」
「少しのことでなんだ」
「野生になったりそうでなくなる」
「そうしたものなんだ」
「そうだよ、これは人間もだからね」 
 他ならぬ先生達もというのです。
「だから野生児や狼に育てられたとかいう話もあるんだ」
「狼に育てられた子供」
「そういえばそうしたお話もありますよね」
 王子とトミーがここで狼に育てられた子供のお話を受けて言いました。
「本当かどうかわからないけれど」
「実際狼は人を襲わないですし」
「野生化の中でもね」
「一番聞くお話の一つですね」
「他にも熊とかに育てられたっていうお話もあるね」
「そうだね、そうした子供もだね」
「野生ですね」
 二人も頷いて言います。
「人間も野生にになる」
「そのことは間違いないですね」
「そして野生は決して悪くはないよ」
 先生は否定しませんでした、こうしたことを頭ごなしに否定することは先生にとっては絶対にしてはいけないことなのです。
「文明イコール素晴らしいでもないしね」
「野生イコール駄目という訳でもない」
「善悪じゃないですね」
「そう、確かに僕達は文明の中にいるね」
「今もね」
「そうですね」
「そう、けれど文明は便利なものがあっても」
 それでもというのです。
「何もかもがいい訳はないね」
「自然を破壊したりもするね」
「文明自体が人を脅かすこともありますね」
「野生は確かに危険なことも多いよ」
 先生もよく知っています、これまで多くの冒険の中で。
「けれどこうしてね」
「空気は奇麗で」
「景色も素晴らしくて」
「沢山の動物の皆もいて」
「楽しい場所でもありますね」
「二つの世界の境界は曖昧でね」
 そしてというのです。
「どちらも素晴らしいものなんだよ」
「そういうことだね。それにしても」 
 ここで王子が言うことはといいますと。
「本当に狼が育てた人っているのかな」
「疑問も出ているね」
「狼に人間は育てられない」
「そう、身体の構造や生活の違いでね」
 こうしたものの違いによってというのです。
「無理なんじゃないかっていう説も出ているよ」
「やっぱりそうだね」
「確かに狼は人を滅多に襲わないけれど」
 それでもとです、先生はお話します。
「それでもね」
「人を育てるには」
「無理があるといえばね」
「あるね」
「生物学的に考えていくとね」
 生成は生物学者としても考えて言うのです。
「空想科学みたいには考えないけれど」
「何でもかんでも否定する?」
「それも自分の知識だけでね」
 これも先生が決してしないことです。
「しないよ」
「そこも先生らしいね」
「うん、何でもかんでも科学でとってつけて、しかもしたり顔でアニメや漫画のことを批判して無理だという行為はね」
「かえって科学的じゃないよね」
「僕はそう思うよ」
 だから空想科学はというのです。
「ああした考えには賛成出来ないね」
「先生無闇な否定しないね」
「絶対にしたらいけないと思うよ」
「そこから最気に進めなくなるから」
「しないよ」
 本当に絶対にというのです。
「狼に育てられた話も」
「実際はどうなのかな」
「わからないね、けれどね」
「それでもだね」
「うん、僕も考察していっているよ」
「いるのかいないのか」
「そのことをね。ネッシーにしても」
 先生のお国で相当に有名な謎の生きものです。
「いるかどうか」
「いるんじゃない?」
「いや、いないよ」
 ここで動物達はこぞってネッシーについてお話しました。
「ネッシーはいるって」
「あんなのいないよ」
「ネス湖はあまり生きものが棲めない湖だよ」
「あんな大きな生きものがいる訳ないよ」
「一匹だけじゃいられないよ」
「最低でも二十匹はいるよ」
 その生物が存続していくには最低でもそれだけの数が必要なのです、このことは先生もよくわかっています。
 ですが今はです、先生は黙って動物の皆のお話を聞きつつ先に進んでいます。
「あんなところに何メートルもの生きものが何十匹もいたらいつも見られてるよ」
「ネス湖は海とつながっているから海から来てるんじゃないの?」
「近くにもそうしたお話があるじゃない、モラグとかいう」
「流木を見間違えたんじゃないの?」
「サーカスの象がお水飲んでたのを見間違えたんだよ」
「そもそもネッシーは恐竜じゃないんじゃない?」
「アザラシかもね、それか大きなお魚か」
 こうしたお話を皆でしますが。
 結局答えは出ませんでした、トミーがここで先生に言いました。
「あの、実際のところネッシーは」
「トミーはどう思うかな」
「いないかも知れないですけれど」
「否定しきれないね」
「見たっていう証言は確かに多いですし」
「偽の写真があってもね」
「他にも一杯写真はありますから。ただ」
 それでもというのです。
「ネス湖にはずっといないですね」
「僕もその可能性が高いと思うよ」
「じゃあ海から来た生きものですか」
「そうじゃないかな。海では不思議な生きものが多いからね」
「そうですよね。ですから」
「実際海に恐竜や昔鯨類、未知の生物もね」
「そうした生きものがいてもですね」
 トミーもしみじみとして述べます。
「不思議じゃないですね」
「人が今知っている知識はほんの少しのもので」
「そこから全てを判断してはいけない」
「科学でも生物学でもね」
「どういった学問でも」
「知っている知識で全てを決め付けることは学者のすることじゃないよ」
 先生はまたご自身の信条を語りました。
「そうしたものだよ」
「そうですね」 
 森の中を進みつつこうしたこともお話しました、そしてでした。
 森を先に先に進みつつでした。
 ふとです、先生は目の前に今度は穴熊を見付けました、その穴熊を見てです。 
 トートーは目を瞬かせてです、こう言いました。
「あれっ、穴熊だけれど」
「何かね」
 ポリネシアも応えます。
「違うわね」
「そうだね、狸?」
「狸さん達に似ていない?」
 チーチーとジップも応えます。
「そうした感じだね」
「イギリスの穴熊よりもね」
「ううん、本当にね」
「狸さんと見分けられないわ」
 ガブガブとダブダブも区別をつきかねています。
「注意して見ないと」
「わからないわ」
「うん、匂いもね」
「狸君達と似ているね」
 ホワイティと老馬はお鼻をくんくんとさせました。
「不思議なことに」
「同じ様な匂いがするよ」
「同じ森にいるから?」
「穴で暮らしているからかしら」
 穴熊も狸もとです、チープサイドの家族は考えました。
「だからかな」
「同じ様な匂いがするのかしら」
「これまで日本の狸さん達見たけれど」
「本当に穴熊さんと似てるね」
 オシツオサレツも二つの頭で穴熊を見つついぶかしむ感じになっています。
「違う生きものの筈なのに」
「似てるのがわからないよ」
「ははは、似てて当たり前だよ」 
 その穴熊君が笑ってです、いぶかしむ先生と一緒にいる動物の皆に言ってきました。それを当然と言うのです。
「僕達は一緒に暮らしてるからね」
「えっ、一緒に?」
「一緒に暮らしてるの」
「穴熊さんと狸さんは」
「そうなの」
「今の僕の穴にも一緒に住んでいるよ」
 その狸がというのです。
「与作君って言うんだけれどね。ちなみに僕の名前は茂助っていうんだ」
「そう、狸君達は自分で穴を掘ることが出来ないんだ」
 ここで先生が皆にお話しました。
「それで自分で穴を掘ってそこで暮らせる穴熊君のところにね」
「厄介になってなんだ」
「入ってそうしてなんだ」
「暮らしてるんだ」
「日本の狸さん達は」
「そうだよ、僕達も食べることは彼等が彼等でするからね」 
 それでとです、穴熊君もお話します。
「別に何とも思わないよ」
「一緒に住んでも」
「そうなんだ」
「特に何も思わずに」
「一緒に住んでいるのね」
「今も楽しく暮らしてるよ」
 その狸と一緒にというのです。
「一匹で住むより二匹の方が何かあった時いいし」
「同じ穴の狢という言葉があってね」
 先生は日本のこの言葉も出しました。
「狢とは穴熊君のことだけれど」
「同じ穴に住んでいる」
「だから一緒って意味なんだね」
「狸さんと穴熊さんは」
「そういうことね」
「そうだよ、実際に童話とかじゃ穴熊君も化けるしね」
「そうそう、それで狸君と一緒にされるんだよね」
 穴熊君も笑って言います。
「そこも同じ穴もだね」
「そうだね」
「いや、流石ドリトル先生だね」
 穴熊君も先生のことを知っていて笑顔でお話します。
「そう言ってくれて嬉しいよ」
「そうなんだ」
「うん、僕達のことを知っている」
 そのことがというのです。
「嬉しいよ、日本の生きもののことについても知っていてくれていることがね」
「まあ学者だからね」
「知っているんだね」
「そうだよ、学問をしているつもりだからね」
「本当の学者だね、先生は」
 さらに起源をよくした穴熊君でした。
 そして、です。こうも言いました。
「それで僕に聞きたいことは」
「いや、幸せに暮らしてるみたいだね」
「狸君と一緒にね」
「食べものにも困っていないね」
「この通り少し太ったよ」
 自分の身体を先生に向けての言葉です。
「冬眠前みたいにね。だから最近よく動いて」
「痩せる様にしているんだね」
「さもないといざという時動き鈍いと」
 それだけでというのです。
「命の危険があるから」
「山犬に襲われるね」
「うん、だからね」
 それでというのです。
「気をつけているんだ」
「それはいいことだよ」
「奥の方に行くとやたら動きの速い山犬さん達もいるから」
「またそのお話だね」
「他の生きものからも聞いたんだ」
「結構ね」
「うん、一回狸君と一緒にそこまで行ったんだ」 
 森のさらに奥の方にというのです。
「それで凄く動きの速い山犬さん達を見てね」
「逃げたんだね」
「与平君と一緒にね」
 狸の彼と、というのです。
「そうしたんだ」
「見付からないうちに。賢明だったね」
「お陰で二匹共助かったよ」
 穴熊君はそのことも喜びながら先生にお話します。
「本当にね」
「そうなんだね。あとこの近くにも山犬君達がいるね」
「ああ、この辺りの山犬さん達はあそこまで素早しっこくないよ」
 奥の方のその山犬達よりもというのです。
「何か体格も違うね」
「そうなんだね」
「まあ山犬さん達に会いたいのならすぐそこだよ」
 そこに彼等の縄張りがあるというのです。
「僕はそこに入るつもりはないからじゃあね」
「これでだね」
「うん、またね」
 こうしてでした、穴熊君は先生達とお別れしてでした。
 自分の巣の方に帰っていきました、そして先生はその山犬の縄張りに入りました。するとすぐに、でした。
 その山犬君達が出てきました、全部で十匹程いて中には子犬もいます。
 その山犬君の中からです、黒い山犬が出て来て先生に犬の言葉で尋ねてきました。
「ドリトル先生だね」
「うん、そうだよ」
「わしはこの群れの長老じゃよ」
「僕のことは聞いているんだね」
「もうね、それでわし等に聞きたいことは」
「森の他の生きものの皆と一緒だよ」
 その生活のことです。
「どうかな」
「見ての通りだよ、皆食べるものには困らずにね」
「暮らしているんだね」
「この辺りは村の人も旅人も滅多に来ないしね」
「僕達みたいなのは珍しいだね」
「調査で入る人はいるけれどね。あと木樵さんがね」
 こうした人がというのです。
「たまに来るね」
「それ位だね、山に住んでいる人は」
「わし等は見ないな」
 山犬の長老さんは首を傾げさせて答えました。
「そうした人は」
「そうなんだね」
「先生は山窩の人達のことを言ってるんだね」
「山窩の人を知っているね」
「聞いたことはあるよ、ただね」
「この辺りにはおられないんだね」
「見ないね」
 これが長老さんのお返事でした。
「ここには」
「そうなんだね」
「うん、まあわし等はってことで」
「まだわからないね」
「ここは鬱蒼としていて色々な生きものもいるからね」
「だからだね」
「わし等の縄張りの外はわからないよ」
 山犬の長老さんもというのです。
「それはね」
「そうなんだね」
「わし等のことはもう言ったがね」
「困っていることはないね」
「特にね、いい場所だよ」
 長老さんも落ち着いた感じで答えます、満足がそこに出ています。
「夏も冬も過ごしやすいしね」
「君達にとってはそうだね」
「そうだよ、凄くね」
 山犬さん達にとってはというのです。
「いい感じだよ」
「それは何より。それとね」
「それと?」
「奥の方に何か変わった君達のお仲間がいるらしいけれど」
「聞いてるよ、その連中の糞はね」
「うんこは?」
「それがどうもね」
 首を傾げさせつつです、長老さんが先生にお話することはといいますと。
「毛が混じってるらしいんだよ」
「えっ、それは」
 そのお話を聞いてでした、先生は。
 驚いたお顔になってです、長老さんに問い返しました。
「本当のことかな」
「そう聞いてるよ」
「それはちょっとないね」
「ないっていうと」
「うん、毛が混じっているうんこは」
 それはといいますと。
「山犬君達のうんこじゃないね」
「実際わし等は滅多に毛まで食べないからね」
「うん、そうだね」
「毛が混ざっている糞になると」
「君達のうんこじゃないね」
 先生は腕を組んで不思議なお顔になって述べています。
「ちょっとね」
「そうだね」
「そのうんこは」
 それはといいますと。
「まさか」
「まさか?」
「まさかって?」
「先生、急に様子が変わったけれど」
「どうしたの?」
「何かあったの?」
 動物の皆は先生の様子が変わったのを見て尋ねました。
「一体」
「どうかしたの?」
「そのうんこに」
「一体」
「奥に行こう、ひょっとしたら」 
 先生が言うことはといいますと。
「僕達は思わぬ生きものに会えるかもね」
「思わぬって」
「どんな生きもの?」
「まさかヒバゴン?」
「いや、あれは比婆山だよね」
「そうじゃないよ」
 そうした動物ではないとです、先生も言います。
「別にね」
「じゃあ一体」
「どんな生きものなのかな」
「一体ね」
「その生きものって」
「気になるね」
「是非行こう」
「ここからもっと奥だから」
 長老さんがまた先生達に言います。
「道中気をつけてな」
「有り難う、足元とかにもね」
「森の生きものは皆先生のことを知ってるし」
 それにとです、長老さんは先生にさらにお話しました。
「日本の生きものは別に凶暴でもないしな」
「そうした生きものは少ないね」
「蝮を踏んでいきなり噛まれたりしないとな」
「あと熊君を怒らせたりだね」
「ああ、先生はそんな人じゃないね」 
 熊を怒らせる様なことはしないというのです。
「そのことは見たらわかるよ、まあ足元にね」
「注意さえしたら」
「先生達は大丈夫だよ、まあ蝮君達も先生を知っているから」
「踏まれる前にだね」
「あっちで避けてくれるさ」
「蝮君達からもお話を聞きたいね」
「僕は蛇苦手だから」
 ここで言ったのはホワイティでした、少し怯えた感じになって。
「老馬さんの背中か先生の肩のところにいるよ」
「うん、ホワイティはその方がいいね」
 先生もこうホワイティに言います。
「蛇は鼠の天敵だからね」
「うん、だからね」
 ホワイティはまた言いました。
「そうするよ」
「安全の為にね」
 ホワイティはそうするとなってでした、そして。
 一行は山犬の群れとも別れてでした、森のさらに奥に進みます。その中で。
 先生は前を見てです、その目を輝かせて言うのでした。
「本当に若しかしたら」
「また言うね、先生」
「目の色が違うよ」
「もうきらきらしててね」
「勇んでるね」
 動物の皆がその先生に言います。
「普段以上に」
「この目は珍しい生きものを見る目?」
「いや、新種の生きものを見に行く目かな」
「そうだね」
「むしろね」
「そちらだね」
「うん、僕達は本当にね」
 先生はその皆に言うのでした。
「世紀の発見をするかも知れないよ」
「世紀って」
「何、凄いこと?」
「世紀なんて言うと」
「何かここに?」
「凄い生きものがいるの」
「思わぬ再会と言うべきかね」
 先生はかなり真剣にです、皆に言うのでした。
「僕達を待っているかね」
「再会ねえ」
「再会っていうと」
「ちょっとね」
「わからないけれど」
「ええと、何かな」
 動物の皆もわかりません、王子もトミーもです。
 そう聞いてもわからなくて首を傾げさせています、そして王子はこう言いました。
「再会っていうと僕達が?」
「そうなるってことだよね」
「そうだよね」
「先生のお話の仕方だと」
 トミーも首を傾げさせつつ言うのでした。
「けれど再会っていってもね」
「色々なパターンがあるからね」
「どういった再会かっていうと」
「まだね」
「わからないね」
 二人も見当がつきませんでした、ですが。
 先生だけは目を輝かせてです、こう言うのでした。
「行こう、けれど焦らないでね」
「ゆっくりとだね」
「一歩一歩確かにだね」
「いつも通り」
「先に進んでいくんだね」
「先生がいつもそうしているみたいに」
「そう、僕は焦らないよ」
 例えです、先生が言う再会が待っていてもというのです。
「何時でもね」
「そうだね、それが先生のいいところの一つだよ」
「焦っても何にもならなしし」
「ましてやここは山の中」
「足場が悪いしね」
 だからこそ余計にとです、動物の皆も応えます。
「慎重にね」
「進んでいこうね」
「そうしよう、ただ慎重にとはいっても」
 先生はこうしたことも言いました。
「慎重に対応を検討するという言葉は信じちゃいけないよ」
「そうしたことを言う人は実は何もしない」
「日本ではそうだよね」
「結局何もしない」
「そうした人だよね」
「イギリスでもそうかも知れないけれど」
 先生はここでは微妙なお顔でお話しました。
「日本では特にね」
「そうだよね、前向きに善処するとかね」
「その慎重に対応を検討するとかね」
「そうしたことを言う人はね」
「実は何もしないのよね」
「そのこともわかってきたよ、だから慎重とはいっても」 
 例えそれでもというのです。
「しっかりと前に進まないとね」
「何もしないのはよくない」
「そういうことだよね」
「その通りだよ、じゃあ行こうね」 
 前に前にとです、こうお話してでした。
 先生も皆も前に進んでいくのでした、慎重ですが焦らず確かに一歩ずつ。



聞けばどんどん山犬の情報が。
美姫 「実際、山犬と会う事が出来たしね」
でも、彼らとの会話の中で更に奥に誰かが居ると。
美姫 「話を聞いて、先生が急に今まで以上にはりきりだしたわね」
だな。奥に居る動物に会う事が出来るのかな。
美姫 「次回が気になる所よね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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