『ドリトル先生と二本尻尾の猫』




                     第五幕  女の子の性格

 先生達は女の子がいい娘だということはわかりました、ですが先生は女の子のことをもっとよく知ることにしたのです。
「お静さんからもよく聞いて」
「そしてだよね」
「僕達もよく見て」
「そうしてね」
「どうすべきか考えていくべきだね」
「うん、それからだよ」
 どうするのかを決めることはというのです。
「それからでいいんだよ」
「それじゃあね」
「あの娘をもっとよく見ていこう」
「そして性格もね」
「把握して」
「それからだね」
 こう動物の皆にお話します、先生達は今は大学の先生の研究室にいます。そこで集まってそうしてお話しているのです。
 その中で、です。先生は言うのでした。
「ところで老馬君はお静さんに会ったけれど」
「それでもだね」
「うん、他の皆は会っていないね」
「尻尾が二本ある猫だね」
 ホワイティが先生に言ってきました。
「それはまたね」
「日本的だね」
「欧州の猫もそうだけれど」
「欧州の猫はね」
 それはそれで、というのです。
「魔女の使い魔だね」
「うん、あっちの猫も尻尾増えるよね」
「何かに変身する度にね」
「尻尾が増える理由が違うんだね」
「そうなんだよ」
 そこがというのです。
「また違うんだよ」
「そういうことだね」
「日本の猫の尻尾が増える理由は妖力だからね」
「妖力が強いとね」
「日本では尻尾が増える生きものがいるんだ」
「その猫や狐だよね」
「そうだよ」
「ううん、猫ってなると」
「そうそう、どうも」
 ここでチープサイドのご主人がホワイティに応えました。
「こっちに何もしてこないってわかっていても」
「怖いよね」
「怖いよ」
 本当にです、彼等にとっては。
「何かとね」
「狐も実はだったけれど」
「猫はね」
「特に怖いよね」
「どうしても」
「私もなのよ」
 オウムのポリネシアも言うのでした。
「猫は苦手に思う気持ちがあるわ」
「鳥類やげっ歯類はね」
 先生も言います。
「そうだね」
「天敵だから」
「蛇もそうだけれど」
「猫もね」
 そうした意味では蛇と猫は同じです、姿形も性格も全く違っていても。
「怖いよ」
「どうしてもね」
「苦手意識があるわ」
「そうだね、けれどお静さんはまた違うから」
 この方はというのです。
「長い間生きて妖力を備えたね」
「猫又だよね」
 チーチーが言ってきました。
「まさに」
「そうだよ、だから君達には何もしないよ」
「ホワイティ達にね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「安心してね」
「それじゃあね」
「お静さんが目の前に来てもね」
「安心して」
「それで待っていよう」
 こうお話するのでした、するとです。
 ジップがお鼻をくんくんとさせてからです、先生に言いました。
「先生、この前言ったけれど」
「匂いだね」
「うん、猫の匂いだけれど」
「それがとりわけ強い」
「そう、猫又の匂いだね」
 それがだというのです。
「それがするよ」
「うん、確かにね」
 ガブガブも言います。
「匂いがするね、あの匂いが」
「じゃあこっちに来るのね」
 ダブダブは少し姿勢をただした感じになっています。
「研究室に」
「それじゃあお茶の用意をしようかな」
 先生はここでこう言いました。
「そうしようかな」
「うん、それがいいね」
「そのお静さんが来るのならね」
 それでと言う老馬でした。
「お静さんの分もね」
「お茶を用意しないとね」
「僕達は僕達で淹れるから」
「自分達でね」
 オシツオサレツは先生が自分達に気遣いをするのを止めて言いました。
「だから気にしないで」
「気遣いはしないでね」
「そうそう、先生は二人分だけ用意してね」
 ダブダブもこう先生に言います。
「そういうことでね」
「わかったよ」
 先生は皆の言葉に笑顔で応えました、そしてです。
 お茶を二人分用意しました、そのうえで。
 さらにです、皆もそれぞれのお茶を用意した時にです。
 兼休日の扉がノックされました、先生がどうぞと言いますと。
 お静さんが来ました、今日は割烹着姿です。その服で研究室に入って来てそれで先生に言ってきました。
「こんにちは、今日もお邪魔しに来たわ」
「うん、こんにちは」 
 先生はそのお静さんにまずは挨拶を返しました。
「今日は何の用件かな」
「先生またお店に来たみたいね」
「あっ、わかるんだ」
「気が残っていたからね」
 それでわかるというのです。
「お嬢さんと会ったのね」
「どんな人かその目で見たくてね」
「慎重ね、私のお話を聞いただけじゃなくて」
「この目でも見ないとね」
「先生の主義ね」
「人のお話を聞くことも大事だけれど」
 それでもというのです。
「自分の目で見ることも大事だから」
「そういうことね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「お店に行ったんだ」
「そうなのね」
 お静さんは先生の言葉を聞いてこう言いました。
「先生らしいわね」
「僕らしいかな」
「そこで私の言葉だけを聞いてたらね」
 それだけではというのです。
「ちょっとね」
「駄目だったっていうんだね」
「そう、百聞は一見に過ぎないから」 
 お静さんもこう言うのでした。
「そこで自分も、ってなったのは流石よ」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
「いえいえ、先生は学者でしょ」
 このことからです、お静さんは言うのです。
「学者ならね」
「自分で見ることも大事だっていうんだね」
「フィールドワークっていうのよね」
 お静さんはこの言葉も出しました。
「確か」
「そうだよ、実際に歩いて見て回ってね」
「調べるのね」
「それも学問の必須だから」
「そうでしょ、先生はそれをしただけだから」
 別にというのです。
「私の言ったことを信じてないとかそういうのじゃないから」
「いいんだね」
「私でもそうするし」
 お静さん自身もというのです。
「だから今相手の彼のことを調べているのよ」
「猫の皆と一緒にだね」
「そう、そうしてるから」
 同じだというのです。
「気にしないでいいわ、それでね」
「うん、これからのことだね」
「そうよ、今日ここに来たのは」 
 それは何かといいますと。
「相手の彼のことがわかったのよ」
「どういう人か」
「お嬢さんと同じクラスなのよ」
 通っている学校の、です。
「同じ高校のね」
「それで相手の人を見ているうちになのかな」
「いやいや、これがね」
「これが?」
「もっと縁が深いのよ」
 ただ同じクラスにいるだけではないというのです。
「これがね」
「というと」
「お嬢さんとその人何とずっと同じ学校で」
「小学校や中学校の時から」
「あと幼稚園の時からもなのよ」
「ああ、幼馴染みなんだ」
「その縁でね」 
「相手の人のことを想ってるんだ」
「そうなのよ、これが」
「それはまた深いね」
「長年ね」
 それこそというのです。
「一緒にいるうちに好きになっていって」
「そういう関係だね」
「イギリスでもこうしたことってあるわよね」
「うん、あるよ」
 先生は微笑んでお静さんの今の言葉にも答えました。
「そしてそれはね」
「日本でもなのよ」
「こうしたことはどの国でもあるね」
「そうね、それでだけれど」
 先生はこのこともお話してさらに言いました。
「その人は実は私も知ってたの」
「お嬢さんの幼馴染みだから」
「そういえばよく子供の頃一緒に遊んでたわ」
「それでどういう人かな」
「テニス部にいて性格は明るくてね」
 お静さんは先生にその人のことを細かくお話しだしました。
「理系の科目が得意で趣味はスマホでゲームをすることね」
「現代っ子っていうのかな、所謂」
「そうね、そう言っていいわ」
「その人とあの娘を一緒にするには」
「それよ」
 まさにと言うお静さんでした。
「お嬢さん子供の頃は闊達で男の子ともお話出来たけれど」
「今はなんだ」
「他の子とはお話出来ても」
「その人とはだね」
「ついついね、意識して」
 そうしてというのです。
「喋べることが出来なくなるのよ」
「そうなんだね」
「そうなのよ、これが」
「内気な娘なんだね」
「その彼には特にね」
「子供の頃はそうじゃなかったのに」
 闊達だったというのです。
「お嬢さん成長して内気になったのよ」
「それで彼は」
「別に内気じゃないわ、誰とでもね」
 それこそというのです。
「気さくにお話しているわ」
「正反対だね、そのことは」
「そうね、だからね」
「彼の方はいいとして」
「問題はお嬢さんよね」
「お静さんはお嬢さんから告白してもらうことを考えていたね
「ええ、今もよ」
 そうだと答えるお静さんでした。
「そう考えていたけれど」
「それでもだね」
「お嬢さんが内気だから」
 特にその彼にはです。
「無理よね」
「その娘からの告白はね」
「それじゃあね」
 また言う先生でした。
「お嬢さんが駄目なら」
「それならよね」
「彼の方からだね」
「告白してもらうといいわね」
「それがいいね」
 これが先生のお考えでした。
「やっぱり」
「そうね、それじゃあ」
「ただね、相手はどうかな」
「彼氏は」
「お嬢さんのことどう思ってるのかな」
「それがなのよ」
 ここで、です。お静さんは難しいお顔になって先生に答えました。
「それがまだなのよ」
「わからないの」
「そうなのよ」
 これがというのです。
「残念なことにね」
「ううん、じゃあさらに」
「ええ、調べるわ」
 その彼のことをというのです。
「そうするわ」
「僕もそうしようかな」
「あら、フィールドワークね」
 お静さんは先生の今の言葉にくすりと笑って返しました。
「今回も」
「そうなるかな」
「先生は動くタイプなのね」
「うん、何かあるとね」
 実際にというのです、先生ご自身も。
「足を使うね、馬にも乗るけれど」
「それでなのね」
「今もだよ」
 それこそというのです。
「自分の目でね」
「見るのね」
「そうしていいかな」
「先生の好きにしたらいいわ」
 そこはというのです。
「そこはね」
「そう言ってくれるんだね」
「そう、むしろそうしたことを頭に入れてね」
「僕のところに来たんだ」
「そうなのよ」
 こう先生にお話するのでした。
「私もね」
「成程、そうだったんだ」
「うん、けれどね」
「けれど?」
「いや、噂には聞いてたけれど」
 ここでお静さんは周りを見回しました、そうして動物達を興味津々といった目で見ながら先生にこうも言ったのです。
「色々な動物が一緒なのね」
「僕の友達であり家族だよ」
「皆そうよね」
「イギリスにいた時からのね」
「先生は動物の言葉がわかるからね」
「そうだよ、彼女に教えてもらったんだ」
 ポリネシアの方を見て説明するのでした。
「オウムだけでなく犬や猿の言葉もね」
「教えてもらってそれで」
「会話が出来るんだ」
「それで私ともね」
「いや、君は普通に」
「ええ、人間の言葉も喋られるわ」
 こう先生に答えます。
「ちゃんとね」
「それだよね」
 ここでジップがお静さんに問うてきました。
「貴女だけじゃなくて日本の長生きした動物ってよく人間の言葉喋るね」
「そのことね」
「やっぱり妖力が備わってから」
「そうよ、長生きしているとね」
「妖力が備わって」
「あとね、ずっと人間と一緒にいるとわかるのよ」
 このこともあるというのです。
「人間の言葉がね」
「それで喋られる様になるんだね」
「今じゃ文字も書けるわよ」
 お静さんは得意げにお話します。
「それが出来るから」
「そうなんだね」
「そうよ、しかもその字もね」
「上手とか?」
「書道五段よ」
 こうも言ったのでした。
「先生だって出来るわよ」
「何で書道までしてるのかな」
 トートーはお静さんにそのことを尋ねました。
「そもそも」
「だってうちはお酒屋さんだから」
「お酒屋さんだと字が上手になるの?」
「書くこともあるのよ、お祝いの言葉とかね」
「だからなんだ」
「そう、書道も勉強して」
 そして、というのです。
「今じゃ五段なのよ」
「伊達に長生きしている訳じゃないんだね」
「そういうことよ」
 トートーに答えたところで、です。お静さんは。
 ふと目の前に虫が飛んでいてです、その瞳を縦に細く糸みたいにさせて。
 頬にお髭も出しました、そうして手を出そうとしますが。
 ホワイティはそれを見てです、チープサイドの家族に言いました。
「何処からどう見てもね」
「うん、猫だね」
「猫よね」
 これがチープサイドの家族の返事でした。
「人間の姿でもね」
「すぐに猫の本質が出て来るね」
「何ていうか」
「習性は隠せないのね」
「目もお髭も」
 ホワイティは右手を猫の前足そのままの動きでしゃっ、しゃっ、と動かして虫を捕まえようとしているお静さんをじっと見ています。
「完全に猫だよ」
「どうしてもこうなるのよ」
 お静さんは虫をお顔を動かして見ながら答えました。
「私達はね」
「猫の習性には逆らえないんだ」
「安心して、あんた達を捕まえたりはしないから」
 このことは約束するのでした。
「私ずっとお魚を食べて来たから」
「鼠は捕まえないんだ」
「お家に来る鼠は昔は捕まえていたけれど」
「昔は?」
「そう、昔はね」
 ホワイティににこにことしてお話するのでした。
「普通の猫だった頃は」
「今は違うんだ」
「何か私に妖力が備わったら自然になのよ」
「鼠が近寄らなくなったんだ」
「そうみたいね、けれど貴方は」
「ああ、僕はね」
 ホワイティ自身はといいますと。
「そういうのは平気みたいだね」
「どうしてかしら」
「ううん、色々先生と回っているうちに色々耐性が出来たのかな」
「貴方も妖力が備わったとか?」
「それはないと思うよ」
 先生とお話が出来ても普通の鼠だというのです。
「別にね」
「そうなのね」
「ただ。先生と一緒にいる動物はそういうのは平気みたいだね」
 妖力やそうしたものはです。
「そのことはおいおいわかるのかな」
「ううん、月に行ったからかな」 
 老馬が言います。
「月には独特の力があるから」
「ああ、お月様はね」
 月と聞いてです、お静さんは頷いてこう言いました。
「そのものに強い力があるから」
「だからかな」
「その力を受けてかしらね」
「僕達は妖力に対して耐性があるのかも知れないね」
 老馬はこう言うのでした。
「そのせいで」
「そうかも知れないわね。まあ貴方達には何もしないわよ」
 お静さんはこのことを強く約束しました。
「猫又は嘘吐かないから」
「本当に?」
「嘘言わないの?猫又って」
「ええ、そうよ」
 お静さんはオシツオサレツにも答えます。
「だって。由緒正しい妖怪だから」
「由緒正しいだ、猫又って」
「そうだったの」
「そうよ、日本に昔からいる有名な妖怪なのよ」
 そのことが誇りだというのです。
「それにそれぞれの地域の猫の頭領だから」
「そのこともあってなんだ」
「猫又は誇り高くて」
「その誇りがあるから嘘は言わない」
「そうなんだね」
「そうよ、もう千年生きた九本尻尾の長老なんて神様みたいなものだから」
 猫又の中でもというのです。
「絶対に嘘は言わないわよ、二本の尻尾に誓ってね」
「その尻尾が独特なのよね」 
 ポリネシアは今は出していないその二本の尻尾について言いました。
「猫又の」
「そうよ、猫又の誇りでもあるのよ」
「尻尾もなのね」
「この尻尾にかけてもよ」
 それこそというのです。
「私達猫又は嘘は言わないから」
「信用出来るのね」
「そうよ」
「けれど。お静さんってね」
 ガブガブが言うことはといいますと。
「猫の習性強いよね」
「何か動くものがあったら」
 それこそというのです。
「習性が出るのよ」
「じゃあ猫じゃらしとかは?」
「目の前でふりふりされたらうずうずするわ」
 実際にというのです。
「どうしようもない位にね」
「それはかえって大変だね」
「習性だから仕方ないわ、猫には猫の習性があるのよ」
「抑えられないの?」
「これでもかなりましになったのよ」
 長生きしているうちにというのです。
「百年経ってね」
「そうなんだね」
「そう、だから今も」
 虫が少し離れるとでした。
「身体がうずかないわ」
「見ないんだね」
「そうなの、我慢出来る様になったのよ」
「そうなんだね」
「それとね」
 また言うお静さんでした。
「私が喋られる人間の言葉は日本語だけだから」
「ずっと日本にいるから」
「ええ、そうよ」
 そうだとです、ダブダブにも答えました。
「まだ他の言葉は知らないわ」
「うん、僕も英語じゃなくて日本語を使っているよ」
 先生もそうしています。
「最近日本語で喋ったり考えることが多いね」
「あっ、考える時に使う言葉でね」
 お静さんはその頭の中で考える時に使う言葉のことを受けてです、先生に対して強く頷きながら言いました。
「結論とか違うのよね」
「そうなの?」
「そう、色々違ってくるの」
 お静さんはチーチーにすぐに答えました。
「同じことについて考えても」
「ふうん、そうなんだ」
「私は猫語と日本語、それに動物の言葉はね」
「今みたいにだね」
「猿語も犬語も豚語もわかるわ」
 だから今も普通に皆とお話が出来るのです。
「それでそれぞれの言葉で考えて」
「結論が違ったりするんだ」
「そうなのよ」
「成程ね」
「面白いことでしょ」
「いや、これがまた凄いんだよ」
 先生はまた言いました。
「同じことについて考えても思考に使う言葉で色々違ってくるんだよ」
「そうなのよね」
「僕はイギリス生まれだから英語が一番得意だけれど」
 所謂ネイティブスピーカーです。
「けれどね」
「先生色々喋られるからね」
「書けるし」
 動物達も言います。
「日本語も中国語もね」
「ドイツ語やフランス語も」
「スペイン語だって使えるし」
「他の言葉もね」
 先生は語学にも堪能なのです。
「それでそれぞれの言語でなんだ」
「同じことを考えても結論が違ったりするんだ」
「他にも色々と違って来る」
「そうなんだね」
「言葉で違って来るんだ」
「そう、英語とフランス語でも違うよ」
 お隣同士であってもというのです。
「イタリア語とスペイン語でもね」
「あれっ、イタリア語とスペイン語って」
「そうだよね」
 ここで動物の皆は先生が前にお話していたことを思い出しました。
「先生かなり近いって言ってたけれど」
「殆ど方言みたいなものだって」
「だからお互いに会話も出来るって言ってたのに」
「それでもなんだ」
「頭の中でそれぞれ使うと」
「結論とかが違って来る」
「そうなのね」
 動物の皆はこのことも知って驚くのでした。
「いや、それは知らなかったけれど」
「また凄いことね」
「じゃあ先生もなんだ」
「色々結論が違ってくるんだ」
「そうだよ、けれど性格が一番大きいね」
 その結論に影響することはというのです。
「大事なのはやっぱりね」
「性格ですか」
「それが大事なんだね」
「うん、やっぱり僕が考えると」
 どんな言語を使って考えてもです。
「穏やかな結論になるみたいだね」
「先生凄く穏やかな人だから」
「それでだね」
「どんな言葉を使っても」
「それでもなんだね」
「出て来る結論はやっぱり穏やかになるんだ」
「そうみたいだよ、とにかくね」
 また言う先生でした。
「言葉もまた面白いよ」
「そうよね、まあとにかくお嬢さんのことと相手の人のことは」
「僕の方で見ていっていいんだね」
「ご自由に」
 太鼓判まで押すお静さんでした。
「先生にお任せするわ」
「それでじゃあね」
「そういうことでね、けれど先生って」
「今度は何かな」
「いや、日本語本当に上手いわね」
 このことも言うのでした。
「何かと」
「そうかな」
「英語の訛りが全然ないわ」
「日本人の日本語になっているんだ」
「それも関西のね」
「関西弁じゃないけれどね」
「言葉のニュアンスがね」
 そこがというのです。
「そうなっているわ」
「そうなんだね」
「ええ、それで阪神好きになったでしょ」
「阪神タイガースだね」
「そう、好きになったでしょ」
「あのチームはいいね」
 先生は目を暖かくさせてお静さんに答えました。
「華があるよ」
「そうそう、阪神はそうなのよ」
 お静さんは机をばんばんと左手で叩きつつ言うのでした。
「何があっても絵になるチームなのよ」
「そんなチームは阪神だけかも知れないね」
「あの華があるのがいいのよ」
「お静さん相当阪神好きなんだね」
「愛しているわ」
 お静さんも目を輝かせています、きらきらと。
「また優勝して欲しいわ」
「優勝だね」
「阪神の十連覇とかね」
 こうも言うお静さんでした。
「夢が適って欲しいわね」
「阪神の十連覇ね」
「先生もそうなって欲しいでしょ」
「いやいや、スポーツは楽しめばいいんじゃないから」
「あら、大人な考えね」
「スポーツは楽しんで何よりもスポーツマンシップを守って」
 そうしてというのです。
「正々堂々とすべきだよ」
「勝っても負けても」
「確かに勝てばそれに越したことはないけれど」
 それでもというのです。
「まずはスポーツマンシップだよ」
「真面目な考えね」
「僕はスポーツは苦手だけれどね」
 それでもというのです。
「スポーツマンシップ第一だよ」
「ううん、そう言われると弱いわね」
 お静さんは先生のそのお考えにちょっと困ったお顔になりました、そのうえでこうしたことを言ったのでした。
「私結構応援のマナー悪いから」
「そうなの?」
「お静さんマナー悪いの」
「自覚してるわ、よく阪神負けて暴れるから」
 こう動物の皆にも答えます。
「特に巨人に負けると」
「暴れるんだ」
「そうなんだ」
「何かっていうと」
「そうなんだね」
「阪神が勝ったら飲んで」
 そしてというのです。
「そして負けても飲むのよ」
「その飲み方が問題だね」
「負けた時にもう自棄酒とかだとね」
「それで暴れたら」
「ちょっと駄目だね」
「日本シリーズの時は暴れたわ」
 お静さんは少し遠い目になっています、そのうえでの言葉です。
「ロッテに惨敗してね」
「千葉ロッテマリーンズだね」
「いや、焼酎ラッパ飲みして騒いでご主人にこっぴどく叱られたわ」
「何処でそうしたのかな」
「甲子園の一塁側でよ」
 まさに阪神の本拠地のしかも阪神側です。
「負けたその瞬間にね」
「四連敗したんだったね」
「向こうは三十三点も取ってこっちは四点しか取れなくてね」
 四試合合わせてです。
「猫の身体は出さなかったけれどね」
「荒れてなんだ」
「一緒にいたご主人に怒られたわ」
「そこまで阪神が好きなんだ」
「だから愛しているの、けれどね」
 そのマナーはというのです。
「自覚しているわ」
「何か阪神ファンってね」
「そういう人多くない?」
「そうそう、日本人は穏やかだけれど」
「こと阪神のことになるとね」
「阪神ファンはね」
 この人達はなのでした。
「もう熱狂的で」
「負けると凄いよね、特に」
「勝っても暴れるけれど」
「負けた時はそれこそ」
「特に巨人相手には」
「巨人?大嫌いよ」
 お静さんは巨人についてはこれ以上はないまでにむっとしています。
「あんなチームはね」
「そういう阪神ファンの人多いね」
 先生も言います。
「巨人が嫌いな人が」
「もう習性ね」
 阪神ファンのです、猫のそれとは別の。
「阪神ファンは巨人が嫌いなのよ」
「まあ僕も阪神を応援していると」
「巨人嫌いになるでしょ」
「何かとね」
「どうしてもそうなるのよ」
 本当に習性として、というのです。
「ライバルっていうこと以上に」
「無性に敵愾心が湧くんだね」
「先生もそうでしょ」
「いや、それでもね」
「私程じゃないの」
「そう思うよ」
 お静さんのその言葉を聞いてのお返事です。
「僕は巨人は好きじゃないけれど」
「好きじゃない程度なのね」
「嫌いってところまでいかないかな」
「私大嫌いよ」
 お静さんの場合はそうです。
「ご主人一家代々そうよ」
「阪神ファン、虎キチなんだね」
「そう、そして私もなのよ」
 虎キチだというのです。
「いや、阪神の十連覇観たいわ」
「阪神連覇したことあった?」
「なかったんじゃないの?」
 皆首を傾げさせて言うのでした、動物の皆は。
「少なくとも二リーグになってからは」
「連覇してないよね」
「十連覇どころかね」
「連覇もね」
 二回目もというのです。
「ないよね」
「それで十連覇って」
「お静さんも無茶言うね」
「奇麗だけれど壮大過ぎるっていうか」
「物凄い夢じゃない」
「私は猫又、虎はネコ科よ」
 何故かここでこう言うお静さんでした。
「同族としてもよ」
「阪神を応援して」
「それでなんだ」
「十連覇を願うんだ」
「阪神タイガースの」
「そうよ、残念だけれど私の妖力じゃ阪神を優勝させられないわ」
 妖力とて万能ではないのです、だからこれは無理なのです。
「もっと大きな霊力、それこそ日本を護れるだけのね」
「いや、日本って」
「それはね」
「何ていうか」
「幾ら何でも」
「スケールが違うよ」
 動物達も言います。
「桁外れっていうか」
「阪神どころじゃないんじゃ」
「それこそね」
「そうでもないとなのよ」
 それこそというのです。
「阪神は優勝出来ないのよ」
「そうしたチームってね」
「ある意味凄いよね」
「本当にね」
「有り得ないね」
 動物の皆も呆れて言います。
「イギリスにもないよ」
「多分他の国にもね」
「国を護れるだけの力が必要って」
「そこまでしないと優勝出来ないなんてね」
「阪神って何かあるのかしら」
「悪魔でも憑いてるの?」
「キリスト教の悪魔は憑いていないわ」
 お静さんはこのことは否定します。
 ですがそれでもです、こうも言うのでした。
「けれどね」
「けれどなんだ」
「それでもなのね」
「そう、阪神はここぞという時に負けるジンクスがあるのよ」
 それがあるというのです。
「甲子園には魔物がいるともいうし」
「あと日本一になった時だね」
 ここで先生がこのことをお話します。
「カーネル=サンダースの呪いがかかったんだったね」
「そうなのよ、あの時調子に乗ってね」
 お静さんは阪神を愛する立場から先生に答えました。
「ケンタッキーのおじさんを道頓堀に入れたら」
「浮かんで来なかったんだったね」
「そうだったのよ、二十年位経ってから引き揚げたけれど」
 つまりその間ずっとケンタッキーのおじさんは道頓堀にいたのです。
「その呪いとも言われてるのよ」
「阪神が勝てないことは」
「実際に甲子園には禍々しいものを感じるわ」
 お静さんは真剣にです、先生達にお話しました。
「阪神を容易に勝たせない何かを」
「阪神って凄いね」
「そんなの憑いてるなんて」
「ちょっとないよ」
「普通のチームじゃないよ」
「そう、阪神には何かがあるのよ」
 お静さんはまた動物の皆に言い切りました。
「魔物にケンタッキーのおじさんに」
「そもそも何でケンタッキーのおじさんあそこに入れたのか」
「そのこと自体が訳がわからないね」
「ちょっとね」
「何でそんなことしたのかな」
「いや、バース様に似ていたからよ」
 お静さんは首を傾げさせていぶかしむ皆に敬称付きでお話しました。
「ケンタッキーのおじさんがね」
「ああ、当時阪神の外国人選手だった」
「そう、オクラホマから来られたね」 
 お静さんは先生にここぞとばかりにお話します。
「あの偉大な方なのよ」
「あの人の活躍でその年阪神は優勝出来たんだったね」
「日本一になったのよ」
 まさにバースのお陰でというのです。
「だからね」
「お静さんも尊敬しているんだね」
「代々のご主人と阪神の為に貢献された方々をね」
 お静さんは尊敬しているというのです。
「それでバース様もなのよ」
「尊敬しているんだ」
「そうなの、大尊敬よ」
 それこそというのです。
「あの方がおられてこそだったから」
「阪神が優勝出来た」
「そういうことなのね」
「そこまでしてくれた人だから」
「お静さんも尊敬しているのね」
「それで、そのケンタッキーのおじさんがね」
 あのお店の前に飾られているお人形がというのです。
「バース様に似てるって言って一緒に飛び込もうと言って」
「それで道頓堀になんだ」
「沈んで出て来なくなって」
「それでなんだ」
「ケンタッキーのおじさんの呪いがかかって」
「阪神は優勝出来ない」
「そう言われているんだ」
 動物の皆もこれで納得しました。
「それって自業自得?」
「何かこの話前にもした気がするけれど」
「そんなことしたらね」
「そりゃ呪い位はね」
「普通にかかるかも」
「変なことするからよ」
「あそこの呪いは九尾猫様でも無理なの」
 どうにもならないというのです。
「強過ぎて」
「魔物とおじさんの呪いが」
「その二つが」
「あまりにも強過ぎてね」
 お静さんは腕を組んで困ったお顔でまた言いました。
「それこそ日本をどうにか出来る位の力じゃないと無理なのよ」
「阪神がずっと日本一になっていない理由はそれかな」
 先生も考えるお顔になって述べます。
「魔物とおじさんの呪いで」
「夏も怖いけれどね」
 お静さんはこのことにも言及しました。
「阪神の場合は」
「甲子園で高校野球が行われるからね」
「そう、そこで甲子園が使えなくなるから」
 本拠地であるその球場がです。
「その分疲れるのよ、暑い時にね」
「それで疲れが溜まってだね」
「結果として負けが込んで」
 肝心の後半にです。
「阪神は優勝出来なくなるのよ」
「あれもハンデだよね」 
 先生も阪神が好きなので他人事ではありません、これは先生がイギリスにいた時にはなかった悩みです。
「困ったことだよ」
「全くよね」
「けれどだね」
「そう、それで優勝出来ないから」
 それでというのです。
「それだけのご守護が必要なのよ」
「だからそこまで言うのね」
「阪神を好きなだけじゃなくて知ってるから」
「だからご守護が欲しい」
「そう言うんだ」
「そう、まあ阪神のことはここでお話しても仕方ないから」
 そこにある因縁や呪い、ハンデといったものがあまりにも大きいからです。
「置いておいてね」
「そうだね、まずは二人の恋のこと」
「それをどうにかして」
「幸せになってもらう」
「そういうことだね」
「まずは」
「そう、じゃあ先生もお願いね」
 お静さんは動物の皆に応えながら先生に声をかけるのでした。
「ご自身で動いてね」
「もっと言えば動物の皆が」
「そう、お任せするわ」 
 こう確かにお願いするのでした、そうしてです。
 先生達は娘さんとその想い人の恋路を適える為に自分達で積極的に動くのでした。そうしてなのでした。



とりあえずは互いに情報を交換みたいな感じかな。
美姫 「交換というよりは、お静が集めた情報を聞くって感じね」
まあ、娘さんの方はお静の方が詳しいだろうしな。
美姫 「ともあれ、まずは相手の気持ちを探る事からになりそうね」
だな。とは言え、それが難しいような。
美姫 「どうやってこの件を解決していくのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」


▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る