『ドリトル先生と学園の動物達』




             第六幕  水族館の動物達

 先生は皆と一緒に水族館に来ました、するとです。
 ジップは大きな、しかもかなり怖いお顔で尚且つ身体に斑点模様があるアザラシを見てです、先生に警戒しつつ尋ねました。
「先生、このアザラシって」
「うん、ヒョウアザラシだよ」
 先生はそのアザラシの種類を答えました。
「南極にいるアザラシだよ」
「何か他のアザラシと違うね」
「このアザラシは特別なんだ」
「特別?」
「他のアザラシやペンギンを襲うアザラシだよ」
「えっ、他のアザラシも!?」
 ジップは先生からそのことを聞いてびっくりしました。
「襲うんだ」
「そしてペンギンもね」
「そんな怖いアザラシいたんだ」
 ジップは驚きながら言うのでした。
「シロクマさんみたいだね、それはまた」
「そうだね、南極にはシロクマはいないけれどね」
「このアザラシがいるんだ」
「本当に豹みたいなね」
 それこそ、というのです。
「怖いアザラシだよ」
「まさに猛獣なんだ」
「だから他のアザラシとは違うよ」
 それこそ、というのです。
 そしてです、先生は皆にこうも言うのでした。
「ほら、ヒョウアザラシのコーナーはかなり厳重だね」
「あっ、そういえば」
「外に絶対に出られない様にっていうか」
「水槽のケースがかなり厚くて」
「係員の人も」
 今コーナーの中に入って餌をあげている係員の人もです。
 オキアミやお魚を安全な場所からあげています、皆そのことも見て言うのでした。
「何か普段と違うっていうか」
「シロクマさんに対するみたいで」
「かなり安全に気を使っていて」
「本当に猛獣に対するみたいな」
「そんなのよね」
「噛まれたら大変なんだ」
「歯が鋭いよね」
 先生はヒョウアザラシのそのことを指摘しました。
「あれで噛まれたらね」
「確かにね」
「大変だよ」
「私なんかそれこそね」
 ダブダブはヒョウアザラシを見つつ言うのでした。
「一噛みで終わりよ」
「僕もだよ」
 ガブガブは怖がっています、それはそのままライオンや虎を見る時と同じです。まさに猛獣を見る時の目です。
「こんなアザラシに襲われたらね」
「それこそね」
「終わりよね」
「こんなアザラシもいるなんて」
 また言うガブガブでした、ダブダブに応えながら。
「今まで知らなかったよ」
「シロクマさんがいないからね」
 それで、とです。ホワイティが言うことはというと。
「南極は安心出来ると思ったけれど」
「自然の世界はそうはいかないんだ」
 先生はこのこともわかっているのです、自然の世界のことも。
「こうしたね」
「大型の肉食動物がいるんだね」
「そうだよ、日本でも狼がいたし」
 ニホンオオカミです。
「それに熊もいるからね」
「空で言うと鷲だね」
「そうよね」
 トートーとポリネシアにとってはこの鳥がそうした猛獣なのです。
「大きくてね」
「しかも強くて」
「僕鷲怖いよ」
「私もよ」
「そう、どの場所にもいるんだよ」
 このヒョウアザラシに限らず、というのです。
「南極でもね」
「アザラシっていっても色々なんだね」
 しみじみとして言ったのはチーチーでした。
「こうした怖いアザラシもいるんだね」
「そうだよ、そしてこのアザラシは」
 見ればヒョウアザラシもお口を大きく開けて歯を見せています、ですがその歯はどうなっているかといいますと。
 綺麗なものです、虫歯は一本もありません。チープサイドの夫婦がそのヒョウアザラシの歯を見て言いました。
「虫歯はないよね」
「うん、一本もね」
「お菓子を投げ込まれてないからだね」
「それで食べてないから」
「だからなんだ」
「歯が綺麗なんだ」
「そうだろうね、これだけ厳重だとね」
 厚いガラスで天井まで完全にガードされているからです。
「お菓子も投げ与えられないから」
「こうしてなんだ」
「このアザラシさんは歯が大丈夫なのね」
「鋭い歯が一本も欠けていなくて」
「虫歯もないのね」
「そういうことだね、やっぱり皆の虫歯はね」
 その原因はわかっているのでした。
「お菓子のせいだね」
「お菓子って歯によくないからのう」
 老馬も言うのでした。
「だからこのアザラシさんは歯が大丈夫なのじゃな」
「そういうことだよ」
「しかし、本当に鋭い歯じゃ」
 老馬もヒョウアザラシの大きなお口とその中に生え揃っている歯を見ています、それで皆に言うのでした。
「こんなもので噛まれたら一大事じゃ」
「馬さんでもだよね」
「うむ、大怪我じゃ」
 老馬はジップにも答えました。
「傷口がえぐられていそうじゃ」
「僕だったら死ぬかもね」
 ジップは自分の大きさからこう考えるのでした。
「それこそ」
「けれどこうしたアザラシもいてね」
「アザラシも色々だってわかったよ」
 オシツオサレツオサレツもヒョウアザラシを見て言います。
「怖い、凶暴なアザラシもいるんだ」
「猛獣そのもののアザラシも」
「そうしてなんだ」
「油断したら襲われるんだ」
「南極にいる時はね」
 そうなるというのです。
「そういえば南極は僕達はまだ」
「行ってないよね」
「あそこには」
「うん、南極はまた特別だから」
 そうした場所だからだというのです。
「行くことが難しいんだよ」
「ああ、そうなんだ」
 王子は南極へ行くことが難しいと聞いてでした、それで目を瞬かせてそのうえで先生に対して尋ねました。
「南極って普通には行けないんだ」
「あそこはどの国の領土でもないしね」
「イギリスや日本も領土にしていないってことだね」
「そうだよ、あの場所はね」
「誰のものでもない」
「調査の人達がいるけれどね」
 それでもどの国のものでもどの人のものでもないというのです。
「あの場所は違うんだ」
「成程ね」
「うん、そしてね」
 それに加えてというのです。
「寒くて氷に覆われていて港もないからね」
「ああ、普通の船もね」
 王子もそのことがわかりました。
「行き来出来ないね」
「だから日本では自衛隊が特別な船を持っているんだ」
「南極に行く船を」
「うん、それに乗って行くんだ」
「そうなんだ」
「だからね」
 それで、というのです。
「あの場所には滅多に行けないんだ」
「先生も行ったことがない位に」
「一度行ってみたいけれどね」
 それでもなのです、先生も。
「縁がなかったから」
「行くことがなかったんだ」
「そうなんだ、とにかくね」
 あらためて言った先生でした。
「南極は他の場所とはまた違うんだよ」
「船にしても」
「そうだよ、あそこはね」
 南極、そこはというのです。
「だからこそ行きたいとも思っているんだけれど」
「縁がないから」
「まだ行けていないんだ」
 先生も残念そうです、そうしたお話をしながら。
 ヒョウアザラシは虫歯がないので先生の今回の診察の相手ではありません、それでヒョウアザラシに別れを告げて。
 ゴマフアザラシのコーナーに行きました、こちらのアザラシはです。
 とても大人しいです、それで動物の皆も笑顔でお話するのでした。
「このアザラシはね」
「うん、大人しいしね」
「優しいし」
「安心出来るよね」
「そうそう」
「ああ、ヒョウアザラシさんのところに行ったんだ」
 ゴマフアザラシは皆の言葉からそのことを察して言いました。
「あのアザラシさんはね」
「そうそう、怖かったよ」
「猛獣だったよ」
「お口も大きくて歯が鋭くて」
「危なかったよ」
「油断すればね」
 まさにその時はだったのです。
「一緒にいた時にそうすればガブリ、ってやられて」
「終わりだよ」
「アザラシっていっても色々なんだね」
「怖いアザラシもいるんだ」
「そうだよ、けれど僕達はね」
 ゴマフアザラシが言うにはです、見ればゴマフアザラシは他にも何匹かいて先生の診察をのんびりと待っています。
「あそこまではね」
「怖くないんだ」
「そうなんだ」
「うん、だからね」
 それで、というのです。
「僕達については安心してね」
「そうさせてもらうよ」
「ここでね」
「それで先生のお手伝いさせてもらうから」
「このままね」
「そうしてね」
「ううん、君達もね」
 先生が診察をしながら言うことはといいますと。
「虫歯が多いね」
「うん、それで痛くてね」
「困ってるんだ」
 アザラシ達も先生に言います。
「それで先生が来てくれてね」
「本当に嬉しいよ」
「先生が名医なのは僕達も聞いてるから」
「頼むよ」
「ううん、僕が名医かはともかく」
 先生は自分ではそう思っていないのです、それでそのことには自慢も嬉しがったりもせずにこう応えたのです。
「けれどね」
「うん、僕達の歯はね」
「かなり酷いんだ」
「抜かないといけない子もいるよ」
 この子達もそうなのでした。
「麻酔があるから安心してね」
「うん、お願いするね」
「虫歯は大変だよ」
「一旦なったら治らないし」
「どんどん酷くなるし」
「そうだね、しかし」
「しかし?」
「しかしっていうと?」
「君達もお菓子を食べたんだね」
 見ればアザラシ達のお口の中にもお菓子の食べカスがあります、先生はその食べカスも見て言うのです。
「そうだね」
「時々放り込んで来る人がいて」
「その中でもね」
「そうそう、物凄く甘いお菓子あったよね」
「びっくりする位ね」
 甘いものがあったというのです。
「あの甘さはないよ」
「はじめて食べたよ」
「あんな甘いものはね」
「後にも先にもね」
 なかったというのです。
「あのお菓子を食べたせいかな」
「僕達虫歯になったのかな」
「うん、そのことは間違いないよ」
 先生もゴマフアザラシ達にそうだと答えます。
「僕はこれまで他の動物達も診てきたけれどね」
「僕達の他にもあのお菓子を食べて」
「それで虫歯になったんだ」
「あのとんでもなく甘いお菓子を食べて」
「そうして」
「そうだよ、問題はそのお菓子を作った人だけれど」
 先生のお話が本題に入りました。
「君達覚えているかな」
「ううん、そう言われると」
「ちょっとね」
「思い出せないよ、悪いけれど」
 これがアザラシ達の返事でした。
「どんな人だったのか」
「この水族館行き来する人多いし」
「僕達のところもね」
「一杯人が来るしね」
 ゴマフアザラシは水族館の人気者の一つなのです、それで皆ゴマフアザラシを観に来るのです。
「だからね」
「誰が投げ込んだとかは」
「覚えられないよね」
「何か投げ込んで来る人も結構多いから」
「食べものもね」
 それも、というのです。
「日本からの人だけじゃなくて」
「他の国からの人達も多くて」
「あれやこれやとね」
「多くて」
「それでね」
「誰が投げ込んだとかは」
 彼等も覚えていないというのです。
 ですがそれでもです、ゴマフアザラシ達はこうも言いました。
「あのお菓子は日本の甘さじゃないね」
「そうよね」
「市販のものでもないわ」
「手作りだよね」
 彼等もそれはわかったのです。
「僕達日本の水族館にいるからね」
「日本の味に慣れてるからね」
 お魚にしても日本の味みたいです。
「それでよね」
「あの甘さはね」
「日本の市販のものの甘さじゃなくて」
「手作りでね」
「それでも日本の甘さじゃない」
「そうだったわ」
「成程ね」
 ここで聞いて頷いた先生でした。
「君達が市販まで理解していることも驚きだけれど」
「ああ、係員の人達が話してるから」
「だからわかったんだ」
「そのことはね」
「ちゃんとね」
 理解出来たというのです、アザラシ達も。
「わかってるんだ」
「そのことはね」
「そうだね、けれど」
 それでもと言う先生でした。
「これでまたわかったよ」
「お菓子を投げ込んでいる人が、ですね」
 トミーが先生に応えます。
「その人が」
「お菓子を作られる人でね」
「日本の甘さではないお菓子を作る人ですね」
「それも種類も色々だよ」
 一種類だけを作られる人ではないというのです。
「こうした条件が揃っているとね」
「人が限られますね」
「しかも動物園にも水族館にもね」
「しょっちゅう行き来している人で」
「そうだよ、だからね」
 それで、というのです。
「限られてきているね」
「そうですね、それじゃあ」
「ここはね」
 また言う先生でした。
「一つ考えたけれど」
「どういったことをですか?」
「日笠さんとお話した園内、館内の防犯カメラでね」
「映っている人の中からですね」
「怪しいっていう人を探そうか」
「何か本当に推理ものみたいになってきましたね」
 トミーは先生のお話を聞いて言いました。
「本当に」
「そうだね、僕の柄じゃないけれど」
「やっぱり探偵にはなりたくないんですね」
「興味がないというかね」
 こう言い換えた先生でした。
「タイプじゃないと思っているから」
「先生ご自身が」
「だからなんだ」
 それで、というのです。
「僕はそれでいいよ」
「そうなんですね」
「うん、それでね」
「これからもですね」
「僕は医者だよ」
 この立場に専念するというのです。
「大学教授にもなったけれどね」
「そうですか」
「うん、それとね」
 それに加えてというのです。
「皆ともね」
「仲良くですよね」
「ずっと一緒にいるよ」
「それはイギリスにいた時からですしね」
「だからね、僕はね」
「これからもお医者さんとしてですね」
「やっていくから」
 だから探偵やそうしたことはといいますと。
「言わないしやらないよ」
「じゃあ今回のことは」
「必要だからね」
 物事の解決をする為にです、虫歯の。
「考えているだけだよ」
「事件の原因を」
「それだけだからね」
 それで、というのです。
「僕は推理探偵にはならないよ」
「あくまでお医者さんですね」
「そういうことだよ。さて」
 先生はゴマフアザラシ達の歯を診察し終えてから言いました。
「次に行こう」
「そうだね、じゃあね」
「次行こうね」
 動物達も応えてでした、その次の場所に向かうのでした。次に向かったのはアシカのコーナーですが彼等はといいますと。
 その歯は確かに虫歯がありますがそれでもでした。
「この子達はあまり」
「はい、そうですね」 
 トミーが先生に答えます。
「虫歯がないですね」
「あることはあってもね」
「少ないですね」
 他の動物と比べてもです。
「随分と」
「そうだね、アシカは噛まないからね」
「食べるものをお口に入れて」
「引っ掛けてね」
 歯にです。
「それから飲み込むことがアシカですから」
「だからね、この子達もね」
「あまり虫歯はないですね」
「お菓子もね」
 その虫歯の原因もなのです。
「殆ど飲み込んでね」
「お口の中で噛むことが殆どないから」
「あまりね、虫歯はね」
「ないんですね」
「そういえばこの子達の歯って」
 アシカの歯を見てです、王子が言うことはといいますと。
「他の哺乳類に比べても」
「あまりないっていうんだね」
「牙があって後ろの歯があるけれど」 
 それでもだというのです。
「発達していない感じがするね」
「熊や象と比べるとだね」
「馬やゴリラと比べても」
 そして、と言う王子でした。
「同じ海の哺乳類でもシャチやさっきのヒョウアザラシと比べたら」
「そういえばマッコウクジラの歯って凄いですよね」
 トミーはこの鯨をお話に出しました。
「もう大きくて鋭くて」
「うん、あの鯨の歯も凄いね」
「ですがアシカの歯は」
「アシカは獲物を捕まえてね」
 そして、というのです。先生の説明では。
「そうして殆ど噛まずに飲み込むんだ」
「そうするからだね」
「そう、噛まないからね」
「あまり歯は発達していないんだね」
「そうだよ、だからお菓子もね」
「食べてもなんだ」
「あまり噛まないから」
 それで、というのです。
「虫歯とも縁がないんだ」
「噛まないと歯に食べカスも残らないし」
 虫歯の原因となるそれもです。
「いいんだよ」
「このことについては」
「そういうことだよ」
「味わってはいるよ」
「ちゃんとね」
 アシカ達はこう言うのでした。
「僕達確かに食べものは殆ど噛まないし」
「飲み込むだけだけれどね」
「それでもだよ」
「味わってはいるよ」
 ちゃんとそうしているというのです。
「そうしているからね」
「それでそのお菓子は」
「甘かったよね」
「凄くね」
 この子達もこう言うのでした。
「もうびっくりする位に」
「とんでもない甘さだったね」
「これまで食べた中で一番だったね」
「滅茶苦茶甘かったよ」
「成程、君達もそう言うんだね」
 先生もアシカ達の言葉に頷くのでした。
「甘過ぎるって」
「実際にそうだったからね」
「そう言うよ」
「本当に甘かったから」
「極め付けに」
「問題はそれが誰が作って君達にあげているのか」
 先生はここでもこのことについて考えるのでした。
「本当に誰なのかな」
「それを調べるだけですね」
 後は、というトミーでした。
「そして誰かを確かめて」
「その人に止めてもらうんだ」
 お菓子を動物達に与えることをです。
「食べものは皆ちゃんと貰っているしね」
「皆お腹を空かしていませんしね」
 この学園の中の動物園と水族館の皆はです、トミーも言います。
「むしろどの子も食べ過ぎていて」
「係員の人達は熱心に運動させているね」
「太り過ぎは動物にとってもよくないですからね」
「うん、だからね」
 それでだというのです。
「それ位食べているから」
「お菓子をあげなくても」
「皆お腹を空かせていないよ」
「そうですよね」
「だからね」
 それで、というのです。
「お菓子をあげないで欲しいね」
「かえって太って」
「しかもこうしてね」
「虫歯にもなりますし」
「そのことをお願いしよう」
 お菓子をあげている人を見付けてというのです。
「その人を見付けて」
「そうしましょう、これから」
「さて、アシカ君達の歯も治療して」
 あまりないにしてもあることはあるのです、虫歯が。
「それからだね」
「はい、別の子達のところに行きましょう」
「是非共」
 こうお話してでした、そのうえで。
 先生次の動物のコーナーに向かうのでした、ですがその前に。
 水族館の館員の人にです、こう言われました。
「あのお昼ですが」
「はい」
「うちの食堂に行かれてはどうでしょうか」
「水族館のですか」
「実はうちの水族館はシーフードが充実していまして」
「水族館だけにですね」
「勿論ここの子達ではありませんよ」
 水族館にいる動物が食材になっていることは絶対にないというのです。
「八条水産から仕入れたです」
「新鮮な海の幸ですか」
「はい、それが実に美味しくて」
 先生にもお勧めしているというのです。
「如何でしょうか」
「そうですか、しかし」
「しかしですか」
「実は今日はお弁当を持って来ていまして」
 それで、というのです。
「申し訳ありませんが」
「左様ですか」
「はい、そちらを頂きます」
 お弁当をというのです。
「そうさせて頂きます」
「わかりました、それでは」
「はい、また今度ご馳走になります」
 こう館員さんにお断りしてでした、先生は皆と一緒にお昼を食べるのでした。その場所は水族館の建物の外の席でした。
 憩いの場のその席に座ってです、先生が開いたお弁当はといいますと。
「今日は幕の内だね」
「はい、本を見て美味しいと思いましたので」
 トミーが先生ににこりと笑って答えました。
「それでなんです」
「作ってくれたんだ」
「先生もお弁当お好きですよね」
「日本に来てから特にね」 
 好きになったとです、先生も笑顔で答えます。
「好きになったよ」
「そのこともありまして」
「今日は幕の内なんだ」
「作りました」
「じゃあ今日はね」
「皆で食べましょう」
 その幕の内をとです、トミーとお話してでした。
 先生は皆と一緒にお弁当を食べはじめました、動物の皆もトミーが持って来たそれぞれの御飯を食べます。そして王子も。
 自分のお弁当を出して食べます、彼のお弁当はといいますと。
「サンドイッチだね」
「うん、野菜サンドに卵サンドにね」
 王子はサンドイッチを食べつつその味に満足しながら先生に笑顔で答えます。
「それとツナサンドもあるよ」
「ああ、あのサンドだね」
「そう、鮪を挟んだね」
 このお魚の肉をというのです。
「それもあるよ」
「ツナサンドも美味しいね」
「だからね」
 それで、というのです。
「シェフに頼んで作ってもらったんだ」
「今日のお弁当に」
「美味しいよ、ツナサンド」
 王子は野菜ジュースと一緒にツナサンドを食べつつ先生に言います。
「だから先生もどうかな」
「ああ、僕はいいよ」
 先生は王子が差し出した一切れのサンドイッチを見つつ左手で断りのポーズを入れながらそのうえで答えました。
「幕の内があるからね」
「それでなんだ」
「気持ちだけ受け取っておくよ」
 笑顔での言葉です。
「それをね」
「わかったよ、それじゃあね」
「うん、それにしてもツナサンドも」
「ツナサンドも?」
「日本の料理だね」
 それになるというのです。
「日本で生まれたね」
「あれっ、サンドイッチなのに?」
 先生の今の言葉を受けてです、王子は先生に目を瞬かせてそのうえで問い返しました。
「日本のお料理なんだ」
「そこは洋食と同じじゃないかな」
「日本のハンバーグやスパゲティと同じで」
「うん、だからね」
 それで、というのです。
「確かにサンドイッチはイギリスで生まれたお料理だけれど」
「ツナサンドは日本で生まれたから」
「そう、日本のお料理だよ」
「そう思っていいんだ」
「カルロス=クライバーという指揮者がいたけれど」
 先生はあまりクラシックには詳しくないといいますか今一つ音楽に疎いところがあります、ですがこのクラシックの指揮者のことは有名なので知っているのです。
「この人は日本に来日した時にね」
「ツナサンドを食べていたんだ」
「和食が大好きと言ってね」
「和食と思っていたんだ、ツナサンドを」
「そうみたいだね」
「日本で生まれたサンドイッチだから」
「そう、だからね」
 それで、というのです。
「僕もそうじゃないかなって思うんだ」
「ツナサンドは日本料理なんだ」
 王子はそのことが意外といったお顔です、そのお顔で首を傾げながらです。そのうえで先生に言うのです。
「サンドイッチだからイギリス料理と思っていたんだけれどね」
「イギリスにはツナサンドはないよね」
「うん、お魚自体ね」
「あまり食べないからね」
「鱈とか鮭位だね」
「僕も日本に来て色々なお魚を食べる様になったんだよ」
 ないものは食べられない、そういうことです。
「イギリスでは烏賊も蛸も食べないし」
「どっちも凄く美味しいけれどね」
「僕は特にたこ焼きが好きかな」
 先生は日本に来てからこのお料理も食べて魅了されているのです、それこそ大阪の人達がそうである様に。
「あれがね」
「烏賊や蛸もね」
「そういうものも食べないね」
「貝は食べるけれどね、牡蠣とかは」
 そうしたものは食べますが。
「日本程は食べないね」
「うん、だからね」
「そのツナサンドも」
「イギリスにはないし」
「日本人が考えたものだから」
「日本の料理だよ」
 そうなるのではというのです。
「和食ではないにしてもね」
「それじゃあ洋食かな」
「うん、日本の洋食は日本料理だよ」
 そう言っていいものだというのです。
「王子が今食べているツナサンドもね」
「成程ね、このツナサンドはね」
「美味しいね」
「かなりね」
 実際に今もぱくぱくと食べています、王子がどれだけツナサンドを気に入っているのかよくわかる光景です。
「最近朝もよく食べるよ」
「こうしたアレンジが本当に上手なんだよ、日本人は」
「自分達の好みにすることが」
「何でもね」
「お料理に限らずに」
「そのアレンジには脱帽するよ」
 先生にしても、というのです。
「僕も勉強になるよ」
「僕もそれを勉強しているけれど」
 留学に来ている王子もなのです、このことは。
「ただね」
「ただっていうと?」
「日本は勉強するべきことが多いから」
「アレンジについてはなんだ」
「まだあまり勉強していないかな」
 自分の勉強を振り返っての言葉です。
「他の国のものを日本に合わせていくことについては」
「いや、それはね」
「それは?」
「普通にあるから」
「その辺りになんだ」
「例えば日本語も」
 日本人が使っているこの言葉もというのです。
「漢字は中国から来たものだね」
「うん」
「それを日本に合うようにしたものがね」
「日本語の中にある漢字なんだ」
「そして片仮名や平仮名も」
 この二つの文字もというのです、日本語の中で漢字と一緒に使われているこの文字はといいますと。
「漢字から出来た文字だからね」
「じゃあ漢字をアレンジして」
「そう、日本語の文字が出来たんだ」
「そうだったんだ」
「その三つの文字を使うのが日本語だね」
「そうそう、日本語って一つの文字じゃないんだよね」
 そのことはとです、王子も応えます。
「そこれがまた難しくて」
「僕も困ったけれどね」
 その難しさにというのです。
「日本語は難しいね」
「僕も今も苦労しているよ」
 そのことは先生も同じでした、少し苦笑いになっての言葉です。
「わかりにくいね」
「何かとね」
「けれどその日本語もね」
「日本のアレンジなんだね」
「そうなんだよ」
 漢字をそうしていって形成されたものだというのです。
「お料理だけじゃないんだ」
「その他のこともなんだ」
「だから日本を学ぶこと自体がね」
「そのアレンジを学ぶことなんだね」
「うん、そうだよ」
 王子にです、先生は笑顔でお話しました。
「だからこのことについて難しく考えることはないよ」
「そうなんだね」
「そう、だからね」
「アレンジについては難しく考えずに」
「日本について勉強していけばいんだよ」
 アレンジが日本そのものの中にあるからというのです。
「そういうことだよ」
「成程ね、じゃあこのままいくね」
「そういうことでね、ただ」
「ただ?」
「日本はね」
 日本自体についても言及した先生でした。
「この国は本当に不思議な国だよ」
「うん、確かにね」
「物凄く変わった国だよね」
 動物達も言うのでした、日本について。
「文化だけじゃなくてね」
「何もかもが変わってるね」
「気候もその場所で全然違うし」
「神戸と京都、松山でもそれぞれ」
「かなり違うし」
 それにというのです。
「日本人の考え方もね」
「イギリスとも他の国とも全然違ってて」
「まるで別世界だよ」
「ここだけ違う世界にあるみたいな感じだよ」
「まるでお伽話の国みたいな」
 日本をです、先生はこうも表現するのでした。
「何もかもが不思議な」
「アリスの世界みたいな」
 トミーはこう表現しました。
「あの世界とはまた違いますけれど」
「ああして寓話めいていて次々に不思議なものが出て来る」
「そんな感じもします」
「そうかもね、昔と今が一緒にあってね」
「めまぐるしく変わりますけれど」
「変わらないものもちゃんとあってね」
 そして、というのです。先生も。
「そうした中でね」
「日本に入って来た色々なものもあって」
「日本じゃないようでいてそれでいて日本であるというものごともね」
「凄く多いですから」
「確かに日本はアリスみたいな国だね」
「不思議の国か鏡の国みたいです」
 アリスが行った二つの国です。
「ルイス=キャロルの」
「そうだね、この国は本当にね」
「この世にないみたいな国ですよね」
「それだけにね」
 先生はその日本のお弁当、幕の内弁当を食べながら言うのでした。
「学びがいもあるよ」
「先生は医学だけじゃないですからね」
「色々な学問が好きなんだ、僕は」
 理系に限らず文系もなのです、先生が好きな学問の分野は。
「それでね」
「日本も色々と勉強されてるんですね」
「勉強というか学ぶかな」
「そちらですか」
「うん、僕がしていることはね」
 学問、学んでいるというのです。
「学者だしね」
「その勉強と学問の違いがわからないんだけれど」 
 ガブガブがお顔を上げて先生に言って来ました。
「どうもね」
「うん、何かね」
「一緒じゃないかとも思うわよね」
 ジップとダブダブも言います。
「どっちも机に向かって本を読んで」
「ものを書くから」
「一緒じゃないかな」
「そう思うけれど、私も」
「いやいや、それがまた違うんだ」
 先生は動物達に優しい笑顔でお話するのでした。
「これがね」
「ううん、どう違うの?」
「やることは一緒じゃないの?」
「言葉で言うと難しいけれど学問は好きな分野を深く知っていって楽しむことなんだ」
「じゃあ勉強は?」
「どういうものなの?」
「教えてもらうことをね」
 好きなものではなく、というのです。
「深く知って役立てることなんだ」
「それが勉強なんだ」
「そう、そして僕がしていることはね」
「学問なんだね」
「学ぶことなんだ」
「そうだよ、僕は楽しんでるんだ」
 学問、それをというのです。
「ううん、そうなんだ」
「先生は楽しんでるんだ」
「学問をして」
「それも色々なことについて」
「勉強と学問はね、似ていることは確かでも」
 それでもというのです。
「また違うものなんだ」
「その違いがね」
 どうかとです、チーチーが言います。
「今一つわからないけれど」
「先生が学問をしているこってことはね」
「わかったよ」
 ポリネシアとトートーも言います。
「そのことはね」
「何とかにしても」
「とにかく先生は学者さんだね」
「そういうことになるよね」
 オシツオサレツはこう考えるのでした、その二つの頭で。
「要するにね」
「そう考えていいよね」
「そういうことかな」
「うん、そうかものう」
 ホワイティと老馬はオシツオサレツの言葉に頷きました。
「学問する人だよね、先生は」
「学者さんじゃな」
「そうだよ、まあ今でも勉強はしているよ」
 そちらも続けているというのです。
「ちゃんとね、ただ」
「ただ?」
「それは学校の勉強でなくてね」
 同じ勉強であってもというのです。
「人生の勉強だよ」
「勉強といっても様々ですからね」
 トミーは先生の言葉を頷いて答えました。
「先生の今の勉強はですね」
「そうだよ、人生の勉強だよ」
「勉強をしてそして」
「学問もね」
 それにも励んでいるというのです。
「楽しんでいるよ」
「そうなんですね」
「そういえば結婚が、だよね」
 ここでまた王子が言います。
「人生最大の勉強っていうね」
「またそのお話なんだね」
 先生は王子のその言葉に困った笑顔で応えました。
「何か終わらないね」
「じゃあ結婚する?」
「やっぱりしないと駄目なんだね」
「先生にとってもいいことだからね」
「いい人生の勉強になるんだね」
「それは先生も聞いているよね」
「確かにね」
 その通りだと答えた先生でした、先生程の人ならこれ位のことはわかっています。けれどそれでもなのです。
「けれどね」
「実際にするとなると」
「学問は実践するもので勉強もそうだけれど」
「そっちの方の実践はなんだ」
「どうにもね」 
 はにかみ屋の先生にとってはです、しかも先生は相当な奥手で尚且つ女の人にも紳士ですが鈍感なところもあります。
 そうした人だからです、やっぱりこう言うのでした。
「中々出来ないね」
「本当に困るんだけれど」
「そんなことだと」
「全く、いつもいつも言ってるのに」
「先生ときたら」
 動物達もやれやれです。
「これじゃあ本当にね」
「どうなるのか」
「それが不安になってきたよ」
「一生独身とか嫌だからね」
「そんなこと絶対に駄目だよ」
「それは僕もわかっているんだけれどね」
 けれどやっぱり実践となるとです、このことについては。
「難しいね」
「先生のペースで行くしかないからね、じゃあね」
 王子はこうも言うのでした。
「今は御飯を食べてね」
「そうしてだね」
「また診察をしようね」
「うん、お菓子を動物達に与えている人のことも気になるけれど」
「それでも虫歯も治していってね」
「ことを解決していこう」
 こうしたことをお話してなのでした、そのうえで。
 先生達はお昼も食べてです、そしてまた診察をはじめるのでした。



水族館の方は被害が割と少な目なのかな。
美姫 「アザラシやアシカの特性みたいなものもあってね」
だとしても、完全にない訳じゃないと。
美姫 「ここでも原因は甘すぎるお菓子みたいね」
だな。虫歯になった動物に聞いても、当然ながら犯人は分からなかったか。
美姫 「まあ、人が多く出入りしているから仕方ないわね」
となると、防犯カメラの映像が頼りだな。
美姫 「そうね。で、今回もまた先生は」
皆に結婚、結婚と言われ続けているな。
美姫 「当の本人には未だにその気がないから仕方ないのかもね」
さて、こちらの方もどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



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