『ドリトル先生と学園の動物達』




                第三幕  動物達と日笠さん

 先生はこの日も講義の後で動物園に行ってそのうえでそこにいる動物達の虫歯を診ていました、この日診察した動物達はといいますと。
 シロクマ達です、先生はトミー達のお手伝いを受けながら彼等の歯を診察しました。そのうえでこう言いました。
「うん、やっぱりね」
「お菓子だね」
「それのせいなんだね」
「どのお菓子かはまだわからないけれど」
 こう動物達にお話するのでした。
「それでもね」
「シロクマさん達の歯にもなんだ」
「お菓子の食べカスがあるんだ」
「それでなんだ」
「ううん、シロクマ君達にもお菓子をあげるのはね」 
 ここで先生はシロクマ達のコーナーを見ました、この場所はシロクマ達の故郷である北極をイメージして岩場とお水、それに氷もあります。お水がそのままお堀にもなっています。
 そしてです、そのシロクマ達に聞きますと。
「僕達のところにもね」
「結構多いけれどね、お菓子を投げ込んで来る人は」
「その中にね」
「すっごく甘いお菓子があったよ」
「もうびっくりする位」
「成程、君達もだね」
 シロクマ達についてもでした、このことは。
「そのとんでもなく甘いお菓子を食べて虫歯になったんだね」
「とにかく凄く甘くて」
「食べてびっくりしたよ」
「どのお菓子かまでは覚えていないけれど」
「それでもね」
 とにかく驚く位甘かったというのです。
「あんな甘いお菓子ないよ」
「食べたことなかったよ」
「それでそれを食べて」
「僕達は虫歯になったんだ」
「そうだったんだ」
「うん、酷いことになっている子もいるよ」
 シロクマ達についてもこのことは同じでした。
「抜くしかない子もね」
「えっ、歯を抜くの?」
「そうなの?」
「大丈夫、麻酔があるから」
 シロクマ達にも言うことでした。
「それで痛みがない様にして抜いて差し歯を入れるからね」
「代わりの歯をだね」
「そうしてくれるんだね」
「だから大丈夫だよ、安心してね」
 先生は怖いシロクマ達にも優しいです、そして彼等のこともわかっています。
「それじゃあ今からね」
「うん、お願いするよ」
「先生、僕達の歯もね」
「治してね」
 シロクマ達もお願いします、そうしてでした。
 先生はシロクマ達の歯も治すのでした、それが終わってからです。
 先生は熊のところにも行きました、今度は日本のツキノワグマです。トミーはそのツキノワグマを見て先生に言いました。
「いつも思うことなんですが」
「どうしたのかな」
「はい、ツキノワグマは小型なんですね」
「あっ、そういえばそうだね」
 一緒にいる王子も言うのでした。
「ツキノワグマはシロクマに比べるとね」
「小さいよね」
「ずっとね」
 同じ熊であってもです。
「ヒグマは大きいよね」
「同じ日本の熊でもね」
「熊も種類によって違うよね」
「本当にね」
「大きさがね」
 王子はトミーに応えながらこうも言いました。
「それとアフリカにはね」
「ああ、熊はいないんだったね」
「いるんじゃないかって噂はあるけれど」
 それでもと言う王子でした。
「今のところ見付かっていないよ」
「そうだったね」
「いて欲しいけれどね」
 アフリカにも熊がいて欲しいと言う王子でした。
「折角色々な種類の生きものがいるからね」
「熊もだよね」
「いて欲しいね」
 こう言うのでした、そしてです。
 王子はツキノワグマ達を少しもの欲しそうに見ながらです、先生にはこうしたことを言いました。
「それで先生、この熊はね」
「ツキノワグマだね」
「小さいことも気になるけれど」
 それに加えてというのです。
「特徴あるよね」
「首のところにだね」
「うん、三日月みたいなね」
 その白い模様を見て言うのでした。
「それが名前にもなっているんだね」
「そうだね、日本の熊はね」
「ヒグマもいるよね」
「ヒグマがいるのは北海道だよ」
 日本は日本でもです。
「あそこにしかいないんだ」
「そうなのね」
「そう、それでツキノワグマがいるのは」
 今先生達が診ている彼等はといいますと。
「それ以外の場所にいるんだ」
「日本の」
「そうだよ、本州と四国、九州にはね」
「へえ、そうなんだ」
「沖縄にはいないけれどね」
 そこにはいないけれど、というのです。
「その三つの場所にいるんだ」
「この子達は」
「そうなんだ」
「成程ね、日本っていっても住む場所によって生きものが違うんだね」
「そこはイギリスよりもね」
 先生達が前にいたこの国よりもというのです。
「その辺りは多彩かもね」
「ううん、日本の生態系って面白いんだね」
「そうだよ、本州四国九州とね」
 この三つを中心としてです。
「北海道、そして沖縄はね」
「生態系が違うんだね」
「北海道の動物は日本と同じ様でもね」
 本州や四国と北海道の動物達がどう違うかというのです。
「少し種類が違うんだよ」
「じゃあ実際どう違うのかな」
「それで」
「うん、例えば狐君や狸君だね」
 日本でとても愛されている彼等はといいますと。
「本州にいるのはホンドギツネ、ホンドタヌキと呼ばれているけれど」
「北海道の狐や狸は」
「そう、キタキツネ、エゾタヌキというんだよ」
「また違う種類なんだ」
「殆ど同じ種類だけれどね」 
 それでもというのです。
「亜種になるんだ」
「ううん、そうなんだ」
「鹿でもそうだよ、狼もそうだったんだ」
「日本に狼はもういないよね」
「そう言われているよ」
 実は先生はもう聞いているのです、ニホンオオカミがまだいるのではないかという噂があるということをです。
「そして栗鼠も」
「違うんだ、本州とかと北海道で」
「またね、北海道は寒いからね」
「亜種でもだね」
「違っているんだ、北海道の栗鼠はシマリスだよ」
 こちらの種類の栗鼠だというのです。
「そうしたところも見ると面白いよ」
「そうだね、僕も聞いていて面白くなったよ」
 こう言うのでした。
「日本っていっても場所によって生きものが違うんだね」
「多少の差だけれどね」
 そうなっているというのです。
「あと沖縄も違うからね」
「沖縄ってあの南の」
「そう、島だよ」
 そこもだというのです。
「また違うよ」
「そうなんだ、沖縄は蛇が特徴的なんだ」
「ああ、蛇は暑い場所に多いからね」
 沖縄が暑い場所にあることはです、王子も知っています。
「アフリカにも多いよ」
「そうだね、それでその沖縄の蛇達だけれど」
 彼等はといいますと。
「ハブという蛇が有名でね」
「ああ、毒蛇だよね」
「他にもヒャン、ハイという蛇もいるよ」
「何か色々いるんだね」
「そうだよ、ただヒャンやハイは数がとても少ないんだ」
 そちらの蛇はというのです。
「だから見付けられたら運がいいよ」
「ヒャン、ハイはだね」
「王子が沖縄に行った時はそうしたこともね」
「頭の中に入れておくといいんだね」
「是非ね、それで話を戻すけれど」
 ここでこう言った先生でした。
「ツキノワグマだけれど」
「この子達だね」
「熊の中ではかなり大人しいんだよ」
「うん、僕達はそうだよ」
「自分達でもそう思っているよ」
 そのツキノワグマ達の言葉です。
「食べるものも果物とかが多いし」
「山のね」
「特に蜂蜜が好きだよ」
「あれが一番だよ」
「そうだね、君達はそうした性格だよね」
 先生も目を細くさせてツキノワグマ達に応えました。
「大人しいね」
「そうだよ、それに小さいから穴も見付けやすいし」
「冬もぐっすり寝られるしね」
「人間さん達にもね」
「そんなの襲いかかることはないんだけれどね」
 それでもというのです。
「やっぱり縄張りに入られるとね」
「僕達も怒るから」
「そうしたこともあるけれどね」
「面白く過ごしているよ」
「この動物園でね」
「この子達とヒグマ君達はまた違うんだ」
 先生は王子に今お話したかったことをお話しました。
「亜種というよりも離れていてね」
「あっ、そうなんだ」
「特に大きさがね」
「そこが違うんだ」
「ヒグマは大きいよ、むしろ種類としてはね」
 熊のそれは、といいますと。
「グリズリーだからね」
「グリズリーは怖いよね」
「だから気をつけていてね」
 ヒグマと会った時はというのです。
「力がとても強いからね」
「機嫌が悪い時に会ったら」
「厄介なことになるからね」
「この動物園にもヒグマがいるよね」
「あそこの彼等は大人しいけれどね」 
 それでもというのです。
「野生の子にはね」
「うん、そうするよ」
 気をつけると答える王子でした、そうしたお話をしてです。
 先生はツキノワグマ達の歯の治療もしました、それが一段落して先生達がツキノワグマのコーナーから出て来た時にです。
 日笠さんが先生の前に来ました、そうして先生にこう言ってきました。
「あの、先生」
「あっ、日笠さん」
「そろそろお昼ですけれど」
 知的な微笑みと共に先生に言うのでした。
「お弁当は」
「はい、あります」
「そうですか」
「トミーが作ってくれてるんですよ」 
 左隣にいるトミーに顔を向けての言葉でした。
「そうなんですよ」
「そうですか、この人が」
「ですから」
「お昼はですね」
「大丈夫です」
 心配には及ばないというのです。
「お気遣いだけ受け取らせてもらいます」
「これから食堂にお誘いしようと思っていたのですが」
「動物園のですね」
「実はこの動物園の食堂は美味しいのです」
「そうなのですか」
「はい、これが中々」
 日笠さんはにこりと笑って先生にお話するのでした。
「特に丼ものが」
「丼がですか」
「他人丼が最高です」
「他人丼ですね」
「先生は他人丼は」
「はい、食べたことがあります」
 その丼もというのです。
「日本に来てからよく和食を食べていますが」
「他人丼も召し上がられたのですか」
「牛肉を卵でとじたものを御飯の上に乗せたものですね」
「はい、親子丼が鶏肉ではなく牛肉になったものです」
 それが他人丼だとです、日笠さんもお話するのでした。
「これがまたよくて」
「動物園の食堂では特に」
「そうです、実は私は元々丼ものが好きでして」
 ご自身のこともです、日笠さんは先生にお話するのでした。
「自分でもよく作ります」
「お料理もされるんですね」
「家ではいつも作っています」
 そうしているというのです。
「栄養バランスも考えて」
「そうなのですね、それでなのですが」
「それでとは」
「はい、今は作業服ですが」
 見ればそうでした、日笠さんはこれまで先生とお会いしてきた時のスーツではなく動物園の職員さん達が来ている作業服です、その作業服姿で先生の前に来たのです。
「診察に行っておられたのですね」
「そうです、その休憩にです」
「昼食をですね」
「お誘いしました、それと」
「それと?」
「私は仕事中は大抵は作業服です」
 この服を着てお仕事をしているというのですy。
「そうしています」
「左様ですか」
「そうです、それと」
「それと?」
「先生が昨日お話してくれたことですが」 
 日笠さんは今度はお仕事のことをお話するのでした。
「私は狼達を診てきましたが」
「彼等の歯からもですね」
「はい、お菓子の食べカスがありました」
「そうでしたか」
「ケーキやクレープといったものの」
 そうしたものの食べカスがというのです。
「ありました」
「そうですか」
「それで歯も抜きましたが」
 狼達のそれをです。
「その歯を調べてみようとです」
「考えておられるのですね」
「そこからも原因を調べてみようと思っています」
「それはいいですね、それでは」
「はい、その調査は私がします」
「僕も時間がありましたら」
 先生は日笠さんの言葉を受けてあらためて言うのでした。
「協力させて頂きます」
「そちらもですか」
「診察を優先させて頂きますが」
 それでも時間があればというのです。
「そうさせて頂きます」
「有り難うございます、その時は」
 日笠さんもこう返しました、そのやり取りからです。 
 日笠さんは先生達に一先ずのお別れの時を告げてです、そしてでした。
 そのうえでなのでした、先生は皆と一緒に動物園のベンチに座ってでした。そこでトミーが作ったお弁当を食べるのでした。
 王子は執事さんと一緒にご自身のお昼を食べに行きました、一緒にいるのはトミーと動物の皆です。お弁当は和食でした。
 海老を煮たものをおかずにして御飯を食べながらです、先生は作ってくれたトミーににこにこととしてお話しました。
「うん、お醤油の味付けがね」
「それが、ですか」
「絶品だよ」
 かなり美味しいというのです。
「お野菜のお浸しもね」
「それは何よりです」
「トミーどんどん和食の腕が上がってるね」
「いつもレシピを読んで作っているんです」
「和食のだね」
「他のお料理もそうですが」
 和食以外もというのです。
「レシピを読んで」
「そうしてだね」
「はい、作っています」
 そうしているというのです。
「日本のレシピの本は内容がいいんですよ」
「イギリスのものよりもだね」
「だからそれ通りに作りましたら」
「こんなに美味しいんだね」
「はい、そうなんです」
 こうお話するのでした。
「お弁当にしましても」
「お弁当もなんだ」
「日本ってお弁当も凄いんですよ」
 こちらのお料理もというのです。
「一杯ありまして」
「そしてその一つ一つがなんだね」
「とても美味しそうで作ってみたくなるんですよ」
 お弁当のレシピを読んでいると、というのです。
「ですから僕も」
「作ってだね」
「はい、楽しいんですよ」
 そのお弁当を作っていてというのです。
「それもかなり」
「そうなんだね」
「そうです、ところで」
 今度は日笠さんから言ってきました。
「さっきの方ですけれど」
「日笠さんのことかな」
「あの人お綺麗ですよね」
「そうそう、かなりね」
「綺麗な人だよね」
「知的でね」
「しかも礼儀正しくて」
 ここで動物達も言うのでした。
「先生のことも嫌いじゃないみたいだし」
「ひょっとするとね」
「あの人とね」
「仲良くなれるかもね」
「あれっ、そんなことはないよ」
 先生は言われてもこうした感じでした。
「日笠さんはただお仕事を依頼しに来ただけだから」
「仕事仲間っていうの?」
「ただの」
「そうした人じゃないし」
 それに、と言う先生でした。
「僕のことを好きでもないと思うよ」
「だからここでね」
「一気に前に出ないとね」
「だから先生は駄目なんだよ」
「そうそう、そんなのだからね」
「いつもね」
 動物の皆は少し小言めいて先生に言うのでした。
「女の人に縁がないんだよ」
「そんなのだからね」
「だからもっとね」
「前に出ないとね」
 女の人に対しても、というのです。
「駄目だよ」
「さもないと本当にね」
「ずっと独身だよ」
「結婚出来ないよ」
「奥手なんだから」
「そこ何とかしないと」
「だから別にね」
 本当にこのことについてはです、こんな調子の先生でした。
「日笠さんは特に」
「だから最初は皆そうだから」
「誰だってそうなの」
「そこから関係を発展させるものじゃない」
「だからなのよ」
 それで、というのです。
「先生から前に出て」
「もっと仲良くなってね」
「そうしてね」
「結婚してね」
 そうしてというのです、動物達は。
「僕達を安心させてね」
「本当に最近心配になってきたから」
「先生一生独身じゃないかって」
「只でさえ女の人と縁がないのに」
「このままずっととかね」
「本当に洒落にならないから」
「だから頼むよ」
 本当に心から言う動物の皆でした。
「日笠さんともね」
「あの人がいい人ならね」
「考えてよね」
「頼むよ」
「何か僕ってそこまで心配になるのかな」
「なるから言うのよ」
 ポリネシアが先生に言います。
「ずっと私達と一緒にいるつもり?」
「いや、それは」
「確かに私達は先生の友達で家族よ」
 ポリネシアもこのことは否定しません、他の皆もです。
「けれど奥さんは別だから」
「是非迎えてだね」
「そういうことでも幸せにならないと駄目よ」
「難しいね、幸せって」
 先生は少し苦笑いになってこうも言うのでした。
「皆がいて仕事とお家があって美味しいものを食べられるだけで充分じゃないんだ」
「結婚もそこに入るんだよ」
 ジップもぴしゃりとした口調です。
「先生、結婚しないと駄目だよ」
「そうなるんだね」
「そう、是非共ね」
 こう言ってでした、そのうえで。
 先生は動物達に言われて日笠さんのことを意識しだしました、けれどそれはどういう人なのかと思っただけでした。
 それで、です。午後になってです。
 日笠さんにです、お聞きすることはといいますと。
「ところで日笠さんは」
「何でしょうか」
 二人は今はアナグマのコーナーにいます、そこでアナグマ達の歯を見ながらそのうえで隣にいる日笠さんに尋ねたのです。
「はい、ご出身は」
「神奈川です」
「あっ、関東の方だったのですか」
「はい、生まれはです」
 そちらだというのです。
「横浜生まれです」
「そうだったのですか」
「大学がこちらでして」
「それで大学は」
「八条大学です」
 日笠さんはにこりと笑って先生に答えました。
「こちらの農学部に進みまして」
「それで関西に」
「はい、他の農学部も受けたのですが」
 それでも、というのです。
「他は全て落ちまして」
「八条大学農学部にですね」
「はい、入りまして」
 そうしてというのです。
「それでこちらに」
「獣医さんになられてですね」
「この動物園で働いています」
 こう先生にお話するのでした。
「実は私獣医になりたくて」
「それで農学部を受けられて、ですね」
「残念ですが他の大学は落ちてしまったんです」
「ううん、そうだったのですか」
「他は全て関東の大学でした」
 日笠さんのおられた地域のです。
「東京や神奈川の方の」
「どうして関西の大学も受けられたのですか?」
「学力が丁渡それ位でしたし」
 それに、というのです。
「滑り止めといいますか。その意味もあって」
「受けられたのですね」
「そうしたらここしか合格しませんでした」
 笑ってこのことを言った日笠さんでした。
「いや、これも縁ですね」
「確かにそうなりますね」
「最初は関西にいるのかしてって思いますと」
「お嫌でしたか」
「想像出来ませんでしか」
 関西にいるご自身が、というのです。
「生まれも育ちも関東でしたから」
「横浜だったからですね」
「よく中華街や港で遊びました」
「あっ、横浜は港町ですね」
「そうです、そこから栄えて今に至ります」
「幕末に開港して、でしたね」
 先生は日本の歴史を勉強してこのことを知ったのです。
「他には横須賀もでしたね」
「そうです、あちらは軍港ですが」
「港町ですね」
「港と工業と」
 この二つで、というのです。
「栄えている街です」
「それと観光ですね」
「そうです、中華街もありまして」
 日笠さんは明るいお顔になってお話するのでした。
「面白い場所なんです、勿論中華料理も美味しくて」
「あの街の中華街は有名ですよね」
「何度も遊びました、今でも実家に帰った時は」
「あちらに行かれていますか」
「それで野球の試合がある時は」
 中華街の入口のところに球場があるのです、横浜DENAベイスターズの本拠地である横浜スタジアムです。
「観戦しています」
「野球はどちらのファンですか?」
「勿論横浜です」
 にこりと笑っての返事でした。
「高校三年生まであの場所にいましたので」
「だからですね」
「はい、横浜ファンです」
 そうだというのです。
「子供の頃優勝を見て感動しました」
「そうでしたか」
「先生は野球は、いえ」
 言ってすぐにです、日笠さんははっと気付いたお顔になって言葉を訂正しました。
「イギリスの方ですから」
「いえいえ、日本に来てから」
「野球がお好きになったのですか」
「そうです、とはいっても日笠さんには申し訳ないのですが」
「阪神でしょうか」
「ここに来て最初に観た野球チームで」
 そして、というのです。
「観ていて素晴らしいのね」
「そうですね、阪神は敵ですが」
 横浜から見ればです、同じリーグにあるまさに敵同士です。
「私も嫌いではないです」
「いいチームですよね」
「阪神には不思議な魅力があります」
 日笠さんは温かいお顔と目で言うのでした。
「華があります」
「はい、他のスポーツチームにないものが」
「横浜にもそれはないですか」
「そうですね、横浜は負ければ本当に悲しいです」
「しかし阪神は」
「勝っても負けてもです」 
 どうなってもというのです、このチームに限っては。
「華があります」
「僕もそう思います、あんなチームはないですね」
「イギリスでもですね」
「はい、ありません」
 本当にというのです。
「サッカーでもラグビーでも」
「左様ですか」
「はい、本当に」
「阪神は本当に特別のチームですね」
「では日笠さんもこちらに生まれておられれば」
「絶対に阪神ファンになっていましたね」
 野球チームは、というのです。
「サッカーはわかりませんが」
「サッカーはどのチームでしょうか」
「そちらも地元でして」
 そしてそのチームはといいますと。
「横浜マリノスです」
「あのチームですか」
「先生はサッカーは」
「そうですね、サッカーのプロチームでは」
 何処かといいますと、
「京都パープルサンガが面白いですね」
「神戸ではないのですね」
「そうですね、あのチームが好きでしょうか」
 京都パープルサンガ、このチームがというのです。
「サッカーは」
「そうですか、サッカーは」
「あのチームです、それと」
「それと?」
「イギリスはサッカーだけではなくて」
 このスポーツ以外にも盛んなスポーツがあるというのです。
「ラグビーやテニス、乗馬にポロもです」
「全てイギリスで盛んなものですね」
「こうしたスポーツも人気があります」
「そうなのですね」
「とはいっても僕はどれもしませんが」
 先生自身はとです、恥ずかしそうに笑って言うのでした。
「学生時代から」
「観られることはお好きですね」
「はい、しかし実際にすることはです」
 それはといいますと。
「馬には乗れますが」
「他にはですか」
「しません」
 そうだというのです。
「これといって」
「水泳等もですね」
「泳げることは泳げますが」
 それでもだというのです。
「スポーツとして楽しむことは」
「されないですか」
「スポーツをすることは苦手です」
 先生は日笠さんに素直にお話するのでした。
「学生時代、子供の頃から」
「そうでしたか、先生は」
「そうです、日笠さんはスポーツは」
「ソフトボールをしています」
 日笠さんが好きなスポーツはこれでした。
「中学の時からしています」
「あっ、あの大きなボールを使う」
「野球にとても似た」
「あれをされているのですね」
「中学、高校としていました」
 そうだったというのです。
「ポジションはセカンドとセンターでした」
「二塁手と中堅手ですね」
「足が速かったので」
 それでこの二つのポジションだったというのです。
「あと肩も買われました」
「センターにですね」
「センターは肩が必要ですから」
「外野からホームにボールを投げないといけないからですね」
「そうです、私が足が速くて強肩ということで」
 センターにも選ばれたというのです。
「そちらを守ることもありました」
「セカンドとセンターですか」
「どちらも全く違いますよね」
「そうですよね、内野と外野で」
 先生もこのことはよくわかってきています、野球を観ていてそうしているうちにわかってきたのです。
「守り方が違いますね」
「それに内野、外野でもそれぞれのポジションで」
「守り方が違いますよね」
「それで私も戸惑いました」
 その二つのポジションの違いに、というのです。
「それぞれ全く違いますので」
「セカンドはゴロと他のポジションとの連携ですね」
「そうです、ショートと並ぶ内野の要です」
 ソフトボールも同じです、このことは。
「ですから連携も重要です」
「それでかなりの守備力が要求されますね」
「そしてセンターは外野の扇の要でして」
「足が速くて、ですよね」
「肩が強いことが条件です」
「本当にそれぞれですね」
「そうです、中学高校と二つのポジションを掛け持ちしていました」
 セカンドとセンターを、というのです。
「打順はいつも六番でしたが」
「六番ですか」
「何故かいつもその打順でした」
 打つ方はというのです。
「それで特に悩みませんでした」
「打つ方は」
「ですが守備については」
 それぞれ違うポジションだったからでした。
「悩みました」
「そうだったのですね」
「そうです、ですが今思いますと」 
 そうして悩んだことも、というのです。
「懐かしいいい思い出ですね」
「青春ですね」
「はい、今ではそう思います」
 こう先生にお話するのでした、知的でしかも明るい笑顔で。
「楽しかったです」
「そうでしたか」
「今も毎日ジムに通っています」
「ジムに、ですか」
「学園の中に職員用のジムがありまして」
「そこで汗を流されているのですか」
「はい、そうしています」
 先生にこのこともお話するのでした。
「健康の為にも」
「身体を動かすことはいいことですからね」
「ストレス解消にもなりますよね」
「だから余計にいいのです」
 身体に、というのです。
「ですから」
「それで、ですね」
「はい、いつも健康です」
 実際に日笠さんのお顔はとても血色がいいです、ストレスもない感じで爽やかな笑顔を先生にも見せています。
「先生もどうでしょうか」
「ジムにですか」
「学園の職員、先生もですが」
「使用出来るのですね」
「年額とても安価で」
 使えるというのです。
「使用出来ますよ」
「いや、ジムも」
「身体を動かすことはですか」
「僕はどうにも」
 先生のいつもの言葉でした、とにかく先生は身体を動かすことが苦手です。
「そうしたことは駄目でして」
「それでは」
「はい、折角のお誘いですが」
 それでもだというのです。
「そちらは」
「そうなのですね」
「身体を動かすことが健康にいいことはわかっています」
 先生にしてもです、伊達にお医者さんではありません。
「ですがそれでも」
「本当にスポーツは苦手なのですね」
「どんなものでも」
 スポーツは、というのです。
「駄目なんですよ」
「そうですか、ですがスポーツだけが人生ではないですね」
「だからですね」
「無理にと言うことは誰にも出来ないです」
 それはとても、というのです。日笠さんも。
「ですがジムは他にも設備がありまして」
「ジム以外にもですか」
「プールもありまして」
 泳ぐことも出来るというのです。
「お風呂もあります」
「お風呂もですか」
「それも大きな、スーパー銭湯の様な」
 それがあるというのです。
「サウナもあって立派ですよ」
「では日笠さんはそちらも」
「はい、利用しています」
 その通りとです、にこりと笑って答えた日笠さんでした。
「サウナでも汗を流しています」
「サウナはいいですよね」
「汗をかいて身体の中の毒素を出してくれますよね」
「はい」
 そちらもと答える日笠さんでした。
「それもいいので」
「だからサウナにもですね」
「入っています」
 そうだというのです。
「それで健康を維持しているつもりです」
「食事でもですね」
「そうです、とかく健康には気をつかっています」
「日笠さんはヘルシー志向なのですね」
「さもないと後々大変ですから」
 健康に、というのです。
「ですから気をつけています」
「わかりました、そうですか」
「はい、それと先生は」
 今度は日笠さんから先生に尋ねてきました、アナグマ達の歯を一匹一匹観てあげながらそのうえでのお話です。
「ご趣味は」
「読書と旅行ですね」
「その二つですか」
「それと動物達と一緒にいることです」
 これもまた先生の趣味だというのです。
「そして今は食事もです」
「そちらもですか」
「はい、好きです」
「そうなのですね」
「いや、イギリスの食事は有名ですよね」
「私も聞いています」
 そのイギリス料理についてというのです。
「お世辞にも、ですよね」
「はい、評判がいいものではないですね」
「私も一度イギリスに行きましたが」
「観光でしょうか、それともお仕事でしょうか」
「観光で行きました、オリンピックの時に」
 ロンドンオリンピックです、その時にイギリスに行ったというのです。
「噂には聞いていましたが」
「その味が、ですか」
「私には合いませんでした」
 言葉を選んで言う日笠さんでした。
「どうにも」
「左様でしたか」
「はい、どうにも」
 先生にまた言いました。
「あくまで私にはですが」
「いえ、そのお言葉は」
 先生はその日笠さんに言うのでした。
「よく言われます」
「今もですか」
「イギリスにいた時もそうですが」
「今もですか」
「はい、言われます」
 そうだというのです。
「イギリスの料理はどうしたものかと」
「左様ですか」
「実際私もイギリスにいた時はただ食べるだけでした」
 つまり健康の為だけに食べていたというのです。
「その栄養バランスもどうにも」
「よくなかったのですね」
「和食と比べますと」
 どうしても、という口調でのお言葉でした。
「そちらもです」
「よくないのですね」
「日本の食べものはただ味がいいだけではないです」
「栄養バランスもですね」
「見事です、ですから来日してから」
 その時からというのです。
「食事も楽しみになりました」
「そうなられたのですね」
「いや、和食も最高ですね」
 にこにことしてお話する先生でした。
「勿論洋食も中華も」
「日本で食べるお料理はどれもですか」
「素晴らしいものばかりです、全て」
「本当にお気に召されたのですね」
「日本に来て知りました」
 料理の素晴らしさをというのです。
「本当に」
「だからですか」
「食事も趣味になりました」
 こちらもというのです。
「食べ歩きも好きです」
「そうなられましたか」
「最初からティータイムは趣味でした」
 先生が毎日欠かさないこれは言うまでもありません。
「そちらも。ですが」
「ですが?」
「その紅茶もお菓子も」
 先生はいつも三段セットです、このティーセットも欠かせません。
「日本のものの方がです」
「いいのですか」
「僕はそう思います」
「日本の紅茶やお菓子の方が美味しいのですか」
「特に紅茶は」
 ティータイムにおいて最も重要なこれが、というのです。
「日本のものがですね」
「一番いいのですか」
「はい、そうです」
 こう言うのでした。
「日本のものの方が美味しいですよ」
「それは何よりですね」
「日本の方としてもですね」
「はい、とても」
「そうですか」
「特にお水がいいですから」
 日本のものが、というのです。先生はここで今診ているアナグマに対してこう言いました。
「ふむ、君の歯は治療で済むよ」
「抜かなくていいんだ」
「うん、そうだよ」
 にこりと笑ってアナグマに答えます。
「だから安心してね」
「それじゃあね」
「しかしこの子の歯にも」
 どうかといいますと。
「お菓子があるね」
「そうそう、驚く位甘いね」
 アナグマ達もでした、先生にこう言うのでした。
「そうしたお菓子あったよね」
「そうよね」
「お菓子の中にね」
「普段投げ込まれるお菓子とは違って」
「もう凄く甘いのが」
「それがあったよね」
「それのせいかな」
 こう先生にお話するのでした、そしてです。
 先生もでした、ここまで聞いてあらためて言いました。
「やはりお菓子だね、今回の原因だ」
「そのことは間違いないですね」
「はい、そこから調べていきましょう」
 日笠さんにも応えます、そして。
 三時になるとです、先生はこう言うのでした。
「ではお茶の時間ですので」
「一時休憩ですね」
「そうさせてもらいます」
 このことは絶対に忘れないのでした、先生にとってティータイムだけは欠かしてはいけないものなのです。



今日も一日、動物たちの診察と。
美姫 「どうやら、原因は物凄く甘いお菓子みたいね」
みたいだな。今後、それを予防する方法を考えないといけないだろうけれど。
美姫 「とりあえずは治療が先ね」
先生の方は診察以外にも興味が出てきたみたいだけれど。
美姫 「皆に背中を押されて、やっとって感じだけれどね」
しかも、今の所は本当に日笠さんに対する純粋な興味って感じだけれどな。
美姫 「この先、何か発展するのかしら」
今回の騒動も含めて、どうなるのか気になる所だな。
美姫 「そうよね。次回も待っていますね」
待っています。



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