『ドリトル先生と伊予のカワウソ』




               第七幕  カワウソさん達とも

 先生は仁左衛門さん達とお話をして狸側のことはわかりました、しかしこの件については両方の意見があるので。
 それで、です。旅館に帰ってから動物達に言いました。
「それでは今度はね」
「カワウソさん達にもだね」
「お会いしてだね」
「そう、会ってね」
 そうしてというのです。
「彼等のお話も聞こう」
「まずはお互いの話を聞いて」
「それからなんだね」
「どうしていくべきか」
「そのことを考えることは」
「そう、一方だけの意見を聞いても駄目だからね」
 先生はにこりとして動物達にお話します。
「双方の意見を聞いてね」
「そうしてお話をまとめていく」
「先生のいつものやり方だね」
「今回もそれでいくんだね」
「お互いの話を聞いてから」
「僕のやり方は時間はかかるけれど」
 両方の意見をじっくりと聞いて考えるからです、確かに先生のこのやり方は時間がかかります。ですがそれでもです。
「いい解決を導きやすいからね」
「じゃあ明日加藤さんとお会いして」
「それからだね」
「カワウソさん達のところに行くよ」
 実際にそうするとです、先生は言いました。
「それからね、ただ」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「いや、日本にはもうカワウソはいないみたいだからね」
 先生はここでもこのことを言うのでした。
「ニホンカワウソはね」
「本当に絶滅したのかな、日本のカワウソさん達って」
「どうなのかしら」
「いないんじゃないかっていうけれど」
「実際のところは」
「どうなのかしらね」
「僕はいて欲しいと思っているよ」
 先生はご自身の考えも言いました。
「だっていなくなったら寂しいよね」
「うん、そうだよね」
「動物も人間もね」
「いなくなると寂しいよ」
「それだけでね」
「そう、だからね」
 ニホンカワウソにしても、というのです。
「いて欲しいんだ、僕は」
「いるといいね」
 ジップが先生に応えました。
「本当に」
「そうだね、まあ明日会いに行くカワウソさん達はイギリスから来ているけれど」
「うん、その人達ともね」
「お話しよう」
 カワウソであることには変わりがありません、先生はそのことは喜んでいました。ニホンカワウソのことは絶滅していたら残念だと思いながら。
 その次の日です、朝に先生のところに長老さんが来ました。そうして先生にこう言いました。
「そのカワウソさん達の居場所じゃが」
「はい、それは何処ですか?」
「石手寺の近くに家がある」
「石手寺ですか」
「昨日わし等が会った道後温泉の近くにある寺じゃ」
 あの温泉の近くだとです、長老さんは先生にお話しました。
「松山の観光地の一つじゃよ」
「そのお寺もですか」
「うむ、ただな」
「ただ?」
「カワウソさん達は寺の中にはおらぬ」
「その近くでしたね」
「屋敷を建ててそこに住んでおるのじゃ」
 そうだというのです。
「イギリス風のな」
「イギリスですか」
「妙に景観が合っておる」
 松山に、というのです。イギリス風のお屋敷が。
「これも多分金之助先生のせいじゃな」
「漱石さんのですね」
「あの御仁はイギリスに行っておられたからな」
 その時のことも書いています、ただどうにもあまりいい思い出ではなかったみたいですが。当時はよくロンドンを漢字で書いていました。
「だからじゃな」
「それでなのですね」
「そもそも松山も洋風の趣が入っておるしな」
「日本全体がそうですね」
「うむ、だからな」
 松山に洋館があっても、というのだ。
「合っておるのじゃ」
「そしてそのお屋敷にですね」
「カワウソさん達がおる」
「では今日はそちらに」
「石手寺にも行くといい」
 そこにだというのです。
「あそこも観光名所じゃからな」
「わかりました、では」
「うむ、そういうことでな」
「石手寺に行けばすぐにお屋敷がわかりますね」
「目立つからのう、大きいし」
「大きなお屋敷ですか」
「日本ではそうない位にな」
 そこまでというのです。
「大きいしイギリス風じゃからな」
「目立つのですね」
「そうじゃ、石手寺に行かれるといい」
「わかりました、それでは」
 こうしてです、先生は長老さんのお言葉に頷いてです、そうして。
 動物の皆と一緒に石手寺に向かいました、加藤さんとは石手寺の前で合流しようと連絡を取りました。そうして。
 石手寺の方を見ます、するとダブダブがこう言いました。
「あそこに入っても面白そうだね」
「そうだよね」
 ホワイティもダブダブに応えます。
「あのお寺もね」
「うん、けれど」
「それは後にしよう」
 先生が彼等にこう言いました。
「まずはね」
「うん、カワウソさん達とだよね」
「お話をして」
「それからにしよう、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「カワウソ君達は水辺にいるけれど」
 ここで、です。先生はカワウソさん達のこの性質のことを考えて首を傾げさせるのでした。
「温泉の近くにいるのはね」
「水辺じゃなくてね」
「温泉なのが気になるところね」
 トートーとポリネシアが先生に応えます。
「温泉好きなカワウソさん達って」
「どうにもね」
「そこが気になるね」
 どうにもと言う先生でした。
「そこが」
「確かに。言われてみると」
 ガブガブも言います。
「そこが気になるわね」
「そうだね、まあとにかくね」
「うん、お屋敷を見つけよう」
 チープサイドのご主人が言ってきました。
「まずはね」
「そうしてお話を聞こう」
「それではね」
「お屋敷でしたら」
 ここで、です。先生に加藤さんが声をかけてきました。
 そして、です。お寺の近くに見える大きな、それこそイギリスの田舎にある貴族のお屋敷そのままの見事な洋館を指差して言いました。
「あれでしょうか」
「あっ、あのお屋敷は」
「イギリスのお屋敷ですよね」
「はい、まさに」
 そのままとです、先生は加藤さんにやや驚きの声で応えました。
「あれは」
「凄いお屋敷ですね」
「イギリスの田舎にある感じですね」
「貴族の人達のですね」
「ビクトリア時代の趣ですね」
 そのお屋敷は、というのです。
「規模は公爵でしょうか」
「公爵さんですか」
「かなりのものですね」
 そこまで広いというのです。
「遠くから見ているだけですがお庭もお屋敷自体も」
「確かに大きいですが」
「あの大きさはそれだけのものです」
「ではかなりの数のカワウソさん達がいるでしょうか」
「そうかも知れないですね」
 先生は加藤さんに答えました。
「あれだけの大きさですか」
「果たしてどれだけのカワウソさん達がいるか」
「お会いして確かめたいですね」
「そうですね、では」
「はい、今から」
 こうお話して、でした。
 先生達はそのかなり大きなイギリス風のお屋敷に向かいました。玄関の前まで来てもお屋敷は遠くに見えます。
 老馬はそのお屋敷を見て言いました。
「ううん、松山城よりは狭いけれど」
「それでもだね」
「このお屋敷もね」
「うん、広いね」
 老馬はオシツオサレツの二つのお口に答えました。
「この目で見ると実際に」
「イギリスでもこんなお屋敷は滅多にないよ」
「ここまでの規模はね」
「本当に大きいよ」
「しかも立派で」
「それにだけれど」
 ここで言ったのはチーチーでした。
「どうやって中まで入ろうかな」
「そういえば門番の人もチャイムね」 
 ジップは玄関のところを見回しました、しかし。
 誰もいないしそういったものも見えません、それでなのでした。
 チーチーとジップは先生にお顔を向けてそのうえで言いました。
「ねえ先生、どうしよう」
「お屋敷の中にどうして入ろうか」
「門番の人いないしチャイムも見えないけれど」
「どうしたらいいかな」
「そうだね、ここが門だけれど」
 しかも正門です、見栄えの立派さからこのことはわかります。
 ですが確かに門番の人もチャイムも見えません、それで。
 先生も中にどうして入ろうかと考えました、しかしここで。
 門の柱の裏からです、柵越しに若い男の人、庭師の格好をした人が出て来ました。それで先生達にこう言ってきました。
「こんにちは、何か御用ですか?」
「あっ、門番の方ですか」
「はい、本来は庭師の一人ですが」
 それでもとです、その若い男の人茶色の髪と鳶色の瞳の白人のお顔の人が先生達に応えてきました。
「順番で門番もしています」
「そうなのですか」
「見たところ貴方は」
 庭師、今は門番のその人は先生のお顔を見て言ってきました。
「日本の方ではないですね」
「はい、イギリスから来ました」
「ああ、イギリスの」
「はい、そうです」
「実は私もイギリスから来まして」
 門番の人は先生に対して明るい笑顔でこうも言いました。
「日本にこの前移住してきたばかりです」
「そうなのですね」
「はい、それで貴方は観光で」
「いえ、僕も日本に移住しました」
 先生はご自身のその事情をお話しました。
「お仕事の関係で」
「そのお仕事は」
「医者です、今は大学の教授です」
「それはいいお仕事ですね」
「神戸の方にいます」
 先生は門番さんにこのこともお話しました。
「あちらからお仕事で来まして」
「左様ですか」
「それでなのですが」
「それで?」
「このお屋敷の主の方に御用があるのですが」
 ここで先生は柵の向こう側にいる門番さんに言いました、ご自身の今の用件を。
「宜しいでしょうか」
「旦那様にですか」
「はい」
「それはまたどうして」
「とある方にお願いされまして」
 先生は門番さんに淡々と述べていきます。少し驚いている感じになった門番さんとは対象的にです。そして。
 門番さんは戸惑いながらもです、先生に言いました。
「それでは」
「案内して頂けますか」
「とりあえず今から連絡を取らせて頂きます」 
 こう言いながらです、門番さんは。
 ズボンのポケットから携帯を取り出してお話をはじめました、そして。
 暫くやり取りをしてからです、携帯を収めて先生に答えました。
「旦那様は今お時間があるとのことなので」
「お邪魔して宜しいのですね」
「異国で同じ国から来た人にお会い出来るのは喜ばしいことだとも」
「そうも仰って頂いていますか」
「はい、ですから」
 このこともあって、というのです。
「どうぞ」
「有り難うございます、それでは」
 こうしてです、先生達はお屋敷の中に案内してもらいました。左右対称で細かいところまで丁寧に切り揃えて整えられたお庭は歩いてみますと。
「うわ、かなりね」
「こうして歩いてみると実感するよね」
「本当に広いね」
「イギリスでもこんなお屋敷そうそうないわよ」
「公爵さん位だね、ここまで広いお屋敷に住めるのは」
「本当にね」
「そうですね、このお屋敷は」
 どうかとです、案内役の門番さんもお話します。
「相当な広さですね」
「そうだよね、本当に」
「かなりね」
「ええ、そうです。ただ」
「ただ?」
「ただって?」
「私は実は動物さん達の言葉がわかりますので」
 このことをです、門番さんは笑顔で言いました。
「それは先生もみたいですね」
「はい、実は」
「動物の言葉がわかるとは」
「この子に教えてもらったのです」
 自分の横をぱたぱたと飛んでいるポリネシアにお顔を向けてです、先生は門番さんににこりと笑って答えました。
「それで」
「そうですか、ただ」
「ただ?」
「先生はまさか、いえ」
 危うくご自身のことを言いそうになってです、門番さんは慌てて止めました。
「何でもありません」
「左様ですか」
「はい」
 こう言って誤魔化しました、そうして。
 お屋敷の門のところまで案内しました、とても大きな門は樫の木で出来ていてかなり重厚です。その門の前には。
 従者の人が一人立っていました、門番さんはその人のところに来てお話しました。
「この人達がね」
「うん、旦那様にだね」
「お会いしたいっていう人達だよ」
「では旦那様のところには僕が案内するよ」
「頼むよ」
「それではね」
 こうお話してでした、今度は。
 先生達にです、その従者の人が声をかけてきました。
「それでは中はです」
「貴方がですね」
「はい、案内させて頂きます」
 こう言ってきました。
「今から」
「お願いします」
 こうしてです、先生達はお屋敷の中に入れてもらいました、お屋敷の中もイギリスの趣で吹き抜けになっています。入るとすぐにロビーになっていて舞踏会も開けそうです。
 その中に入ってでした、従者の人はその大きな階段を登って。
 二階の奥に案内してくれました、そして扉を開けますと。
 その中に立派な身なりの老紳士がいました、白い髪を後ろに撫で付けていて黒い目は穏やかな感じです。お顔も整っています。
 その人がです、先生達に笑顔で挨拶をしました。
「ようこそ、我が屋敷に」
「はじめまして」
 先生が一礼してです、加藤さんと動物達も先生に動きを合わせて一礼します。
 そうしてでした、先生と加藤さんがソファーの席を勧められ動物達が周りにつきました。そうしてお互いの名前を名乗った後でお話をはじめました。
 先生はです、老紳士にこう言いました。
「実はある方からお話を伺いました」
「ある方とは」
「狸さんの」
「では」
 狸と聞いてでした、老紳士は。
 そのお顔をぴくりとさせました、そのうえで先生に言いました。
「私の、そしてこの屋敷にいる者達のことも」
「はい、聞いています」
「左様ですか」
「狸の長老さんの」
「仁左衛門さんというそうですね」
「あの方からお話を伺いました」
 このことを言うのでした。
「昨日のことです」
「そうでしたか」
「貴方達のことがわからないと」
「いえ、それは」
 老紳士、紳士とはいっても公爵を思わせるこの人はこう言ってきました。
「私達もです」
「狸さん達のことがですか」
「わからないです、どう考えているのか」
「そうなのですか」
「まず我々がイギリスから日本に来た理由ですが」
 このことをです、老紳士は先生達にお話するのでした。
「近頃イギリスの水が合わないと感じまして」
「硬水が、ですね」
「そうです、それで水がいい国を探しまして」
「それで、ですね」
「日本の水がいいと聞きまして」
 そして、というのでした。
「日本の、しかも」
「この松山にですね」
「一族全員で移住しようと決意しました」
「ではこのお屋敷の方々は」
「はい、全てカワウソで」
 そしてだというのです。
「我がカンタベリー一族です」
「そうでしたか」
「そして私がそのカンタベリー家の現当主エドワードです」
 こうお話するのでした。
「それが私なのです」
「かなり大きなお家ですね」
 加藤さんは老紳士にこのことを言ってきました。
「資産はおありですか」
「長い一族の歴史の中で人間達の中に入ることもあり」
「そして、ですか」
「この通り我々は人間の姿になれます」
 老紳士はこのこともお話しました。
「そして人間達の生活を知って」
「資産もですか」
「蓄えました、それでこの松山に一族の屋敷を手に入れて」
「移住されたのですか」
「そうです、カンタベリー一族二百人が」 
 まさにその全員が、というのです。
「この屋敷にいます」
「それでなのですが」
 ここで、でした。先生が老紳士に尋ねました。
「貴方達は別にマフィア等ではないですね」
「とんでもない、我々は由緒正しいカワウソの一族です」
「それではですね」
「悪事に手を染めたことは一度もありません」
「そうですか」
「日本でもそれは同じです」
 老紳士は先生にはっきりと答えました。
「我が一族は真っ当に生きることが家訓です」
「だからですね」
「日本でも既に生きるだけの、この屋敷に一族全員が生きられるだけの仕事を見付けています。もっとも我々人間の姿になれるだけの者達ならば」
 例えカワウソでも、というのです。
「術で金や宝石を造り出せますので」
「錬金術ですね」
「はい、それがありますので」
「資産には困らないので」
「悪事をすることはありません」
 少なくとも生きることに困ってそうしたことはしないというのです。
「全く」
「そうですか、このことはあちらにもお伝えしておきます」
「お願いします、ただ」
「あちらが、ですね」
「狸さん達は何もしませんね」
 ここでこう言うのでした、老紳士は怪訝なお顔になって。
「我々余所者に」
「はい、排他的かといいますと」
「違いますか」
「そうした方々ではないですか」
「むしろ友好的ですね」
 その狸さん達についてもです、先生はお話しました。
「あの方々はですか」
「それなら安心出来ますが」
「がい、ただ貴方達のことは」
「知らないと」
「そうです」
「左様ですか」
 老紳士は難しいお顔で先生に応えました。
「我々のことを知らなくて」
「警戒しておられます」
「そして我々もですね」
「そうですね」
 そうなるとです、先生も答えます。
「貴方達も狸さん達のことを警戒しておられますので」
「一緒ですね」
「そうなりますね」
「ではどうすればいいでしょうか」
「お互いを理解することかと」
 先生は老紳士にこう答えました。
「貴方達がただ日本に移住されただけで」
「狸さん達も排他的ではない」
「むしろ今日本にカワウソは残っていないかも知れません」
「あっ、そうなのですか」
 このことを聞いてです、老紳士は驚いた声をあげました。
「この国には」
「はい、ニホンカワウソは絶滅している可能性があります」
「それは残念なことですね」
「そしてです」
「そしてとは」
「狸さん達はそのことを寂しがっておられまして」
 もうカワウソさん達に会えないことがです。
「こうした事情もあります」
「そうなのですか」
「貴方達は日本で暮らしたいのですね」
「はい」
 その通りだとです、老紳士は先生に答えました。
「そう思って移住してきました」
「この松山に」
「そうです」
「ではこのことは渡りに舟ですね」
 狸さんがカワウソさん達に会えなくなって寂しかっていることはです。
「このことから受け入れて貰えるかも知れません」
「最初からこの街にいる人達に」
「そうです、しかも日本はです」
 この国自体がというのです。
「妖怪変化に寛容な国です」
「妖怪変化とは」
「妖怪はイギリスで言う妖精になりますね」
 先生は老紳士にわかりやすくこう表現しました。
「そうなります」
「妖精ですか、妖怪は」
「日本の風土がかなり影響していますので妖精とはかなり違うところもありますが」
「妖怪は妖精です」
「では変化とは」
「貴方達です」
 老紳士に直接言った言葉でした。
「そう考えて下さい」
「といいますと」
「はい、人間やあらゆるものに姿を変えられるものがです」
「変化ですか」
「そうです、日本では貴方達だけでなく」
 カワウソさんや狸さん達だけでなく、というのです。
「植物やものまでがです」
「人間等に姿を変えるのですか」
「そうです、長く使っている物も魂を持ったりします」
「そこはイギリスとは違いますね」
「そうですね、そこは」
「では最近書道に興味があるのですが」
 老紳士はふと先生にこうしたことを言いました。
「書道に使う硯や筆というものも」
「はい、長く使っていますと」
 先生はその書道の硯や筆はどうかと答えました。
「魂を持ちます」
「ああいったものまで、ですか」
「何でも百年使っている硯は」
 それは、といいますと。
「魂を持ち使っている人に素晴らしい字を書かせてくれるそうです」
「それは凄いですね」
「他にもあらゆるものが長く使っていますと」
「魂を持つのですね」
「そして手足が出て動いたりします」
「成程、それもまた変化ですね」
「はい、そうです」
 その通りだとです、先生は老紳士に答えました。
「日本の変化とは多彩です」
「お話を聞いているとそう思いますね」
「そうですね、そして日本という国はです」
「その妖怪変化にですね」
「極めて寛容です」
 そうした文化的風土だというのです。
「この国はそうです」
「左様ですか、では私達が日本にいても」
「受け入れてもらえます」
 風土的、文化的にというのです。
「今の日本の人達もそうした人が多いと思いますよ」
「万が一私達がカワウソだとわかっても」
「そうです、悪戯も化かされたと思うだけで」
「済みますか」
「そうです、ですから」
「我々にとって住みやすい国ですか」
「極めて、そうだと思います」
 先生は老紳士ににこりとしている笑顔でお話するのでした。
「ですから」
「楽しく暮らせますね、この国で」
「そう思います」
「わかりました、ではこのまま住みたいです」
 老紳士は先生にはっきりと答えました。
「私の目に狂いはなかった様ですし」
「それではですね」
「はい、ただ」
「ただ、とは」
「やはり狸さん達のことが気になります」
 このことはどうしてもとです、老紳士は先生にまたこのことをお話するのでした。そのお顔はどうにも難しいお顔になっています。
「どうしても」
「そうですか、やはり」
「あの人達がどんな人達かわからないですし」
「いい人達よ」
「だといいのですか」
「仲良く出来ると思います」
 先生はこのこともです、老紳士に答えました。
「極めて友好的に」
「しかしそのことは」
「確証が、ですね」
「持てないです、ですが」
 しかしだというのです。
「若しこの目で確かめられるのなら」
「その時はですね」
「松山でも住めると思います」
「そうですか、それではです」
「何か案を思いつかれましたか」
「はい、ここはです」
 是非にと言う先生でした。
「お互いに会われお話をして」
「そして、ですね」
「はい、親睦と相互理解を進められては」
「それが一番ですか」
「特に狸さん達に対して悪感情はありませんね」
「どうした方々か不安ですが」
 それでもだというのです。
「しかし」
「それでもですね」
「はい、悪感情はありません」
 それ自体はありません、このことはなのです。
「我々にとっても」
「左様ですか、では」
「ここはですね」
「会われるべきです」
 狸さん達と、というのです。
「そうされて下さい」
「わかりました、それでは」
 老紳士は先生のその提案に頷いて答えました。
「そうさせてもらいます」
「そうですか、それでは」
「私達は松山にずっといたいです」 
 そして暮らしたいというのです。
「是非共」
「それでは」
 先生も頷いてです、こうしてでした。
 カワウソさん達は狸さん達と会いたいとです、先生にお伝えしました。ですがここでこうしたことも言ったのでした。
 それでお話が済んだところで、でした。老紳士は先生達にこう言いました。
「さて、それでなのですが」
「?何か」
「はい、三時になりましたので」
 壁の古風な木造の時計を見ての言葉です。
「お茶はどうでしょうか」
「あっ、ティータイムですね」
「やはり三時になりますと」
「お茶ですね」
「先生には智恵を出して頂きましたし」 
 それでというのです。
「是非にと思いまして」
「ではお茶を」
「はい、皆さんもどうぞ」
 先生だけではなくです、加藤さんも動物達もというのです。
「ご遠慮なく」
「お言葉に甘えていいのですか」
「どうぞ」
 加藤さんにもです、老紳士は気品のある笑顔で答えました。
「お楽しみ下さい」
「何か悪いですね、私は只先生と一緒にいるだけですが」
「いえいえ、それはです」
「違いますか」
「はい、お客人ですから」
 だからだと答える老紳士でした。
「先生もご遠慮なく」
「左様ですか」
「はい、それでは」 
 こうしてでした、加藤さんも動物達も皆一緒にお茶を楽しむことになりました。すぐにミルクティーと三段のティーセットが出てきました。
 そのティーセットを見てです、先生は老紳士に笑顔で言いました。
「やはり三時はですね」
「ティーセットですね」
「日本にいてもこれは欠かせませんね」
「では先生は今も」
「はい、三時になれば」
 その時にはというのです。
「絶対に頂きます」
「お茶もお菓子もですね」
「そうしています」
「この三時のティーセットがなければ」
「どうにもしっくりいかないですね」
「この松山にいても」
 どうしてもと言うのでした、老紳士にしても。
「これは外せません」
「とてもですね」
「しかもです」
「しかもとは」
「日本のお茶はです」
 それはどうかといいますと。
「お水がいいせいか美味しいですね」
「そうですね、それは確かに」
「私の目に狂いはありませんでした」
「日本のお水はいいですね」
「はい、質がよく」
 しかもというのです。
「量も豊富で」
「貴方達にとってはですね」
「最高の場所です」
 カワウソさん達にとってはというのです。
「やはりずっといたい場所です」
「そう思われますね」
「お茶を飲んでいるとあらためて思います」
「それでは」
「はい、ではどうぞ」
 その日本のお水で淹れたお茶をというのです。
「三時はこれです」
「そうさせて頂きます」
 先生はお屋敷でもでした、三時にはティータイムを楽しむことが出来ました。そうしてそのお茶を楽しんだ後で。
 お屋敷を後にしました、門番の人にお屋敷の門から玄関まで案内してもらってです。そこで門番さんにこう言われました。
「もう僕達のことはご存知ですね」
「はい」 
 先生は門番さんににこりと笑って答えました。
「カワウソさん達ですね」
「イギリスから来ました」
「実は狸さん達に言われて来ました」
「そうですか、しかし僕もです」
 今度は門番さんが不安そうなお顔で言うのでした。
「狸さん達がどんな人達か知らないので」
「怖いのですね」
「知らないとどうしても怖いですね」
「はい、どの様な方でも」
「ですから」
 それで、というのでした。
「狸さん達は怖いです」
「そうですね、しかし」
「解決案を旦那様とお話されたのですね」
「そうなりました、ですから」
「何とかなりますか」
「貴方達は悪い人達ではないですから」
 カワウソさん達のことからお話するのでした。
「それに狸さん達も」
「あの人達は悪い人達ではないのですか」
「はい、ですから」
 それでだというのです。
「きっと上手いきます」
「そうなればいいですね、では」
「はい、それではですね」
「このままずっと松山にいられることを祈ります」 
 門番さんは切実な声で言いました。
「日本にも」
「貴方も日本がお好きなのですね」
「いい国だと思います」
 門番さんは先生の問いに明るい笑顔で答えました。
「景色は綺麗で食べものは美味しいですし」
「暮らしやすい国ですね」
「しかも水はとても綺麗で凄く沢山あって」
「そうしたことから見ても」
「いい国です」
 先生にその笑顔で言うのでした。
「最高の国です」
「そうですか、それでは」
「はい、これからも」
 是非にというのでした、先生に。
「いたいです」
「それでは」
「はい、ではまた縁があれば」
「すぐにお会いすることになると思います」
「ではそのことも期待して」
 今はと言う門番さんでした、そうしたお話をしてです。
 先生達は門のところでお別れしました、そしてです。 
 先生は加藤さんにです、こう言いました。
「ではこれから」
「狸さん達のところに行ってですね」
「屋敷でカワウソさん達とお話したことをお伝えしましょう」
「そうですね、それでは」
「はい、是非」
 こうお話したのでした、これからの行動のことも決まりました。
 そうして先生達は今はです、狸さん達にお会いすることにしました。ですが肝心の狸さん達が何処にいるかといいますと。 
 先生はです、加藤さんにこう尋ねました。
「あの、狸さん達のおられる場所は」
「はい、この松山のあちこちに」
「おられるのですか」
「そうです、本当にあちこちにです」
「では何処にどなかがいるかは」
「これといって決まっていません」
 そうだというのです。
「何しろ狸の街でもありますから、この街は」
「そうなのですか」
「仁左衛門さんのお屋敷もありますよ」
「あっ、そうなのですか」
「ではお話をお伝えするには」
「そうですね、仁左衛門さんのお屋敷に行くといいですね」
 先生はこう加藤さんに答えました。
「今は」
「そうですね、それでは」
「それで何処にありますか」
 長老さんのお屋敷は、というのです。
「一体」
「はい、松山駅の近くに大きなお屋敷がありまして」
「そこが、ですね」
「仁左衛門さんのお屋敷です」
「それでは今からそちらに」
「行きましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 一行は仁左衛門さんのお屋敷に向かうのでした、しかしそのお屋敷に向かうバスの中で加藤さんは先生にふと尋ねました。
「先生の妹さんですが今はお一人ですか」
「サラのことですか」
「確かもう結婚されて」
「子供もいます」
「そうでしたね、それでご主人は会社を経営されておられるとか」
「お茶の売買を扱う会社をです」
 それを、というのです。
「経営しています」
「そうなのですか」
「いや、妹もですね」
「妹さんもとは」
「結構日本に来まして」
「ご主人のお仕事の関係で」
「はい、今では結構な日本通です」
 こう加藤さんにお話するのでした。
「結婚して子供も出来ましたし何よりです」
「後は先生だけだね」
「そうだよね」
 動物達がこんなことを言ってきました。
「後はね」
「先生が結婚して子供が出来たら」
「もう言うことなしだよ」
「本当にね」
「いや、僕はね」
 どうかとです、先生はご自身のことには苦笑いでした。
「結婚はまだまだ先だよ」
「何言ってるのよ、もういい歳じゃない」
「そのままずっと独身でいるつもり?」
「本当にいい人見付けないと」
「駄目だよ」
「そうは言ってもねえ」
 ご自身の結婚のことはです、どうしても及び腰な先生です。加藤さんはその先生にこんなことを言ってきました。
「何でしたら私が」
「加藤さんがですか」
「いい人を紹介しますが」
 こう提案してくれたのです。
「そうしますが」
「いえ、それは」
「遠慮されますか」
「はい、そうしたことは」
「ううん、本当にいい人を知ってるのですが」
「折角ですが」
「妻の親戚でして」
 その人はというのです。
「二十五歳で美人で気立てがよく」
「あっ、いい感じだね」
「そうだよね」
 動物達は加藤さんの言葉を聞いて言いました。
「実際にね」
「そんな感じだね」
「しかも料理上手で」
 加藤さんは先生にさらにお話します。
「何かといい人ですよ」
「そうなのですか」
「趣味はテニスと水泳です」
「活発な方なのですね」
「はい、学生時代はテニスの選手でした」
 そうした人だったというのです。
「そうした人なので」
「僕にですか」
「どうかと思うのですが」
「いや、僕は運動音痴で」
 それにという先生でした。
「しかもこの外見ですから」
「人は顔ではないですよ」
「よくそう言ってもらえますが」
「先生のお人柄なら」 
 加藤さんも松山にいる間ずっと先生と一緒です、だからわかってきたことです。
「必ずいい人と一緒になれますよ」
「ですが」
「それでもですか」
「僕はまだそうしたことは」
「結婚にはまだ、はないですよ」
 加藤さんは先生にまだ言うのでした、先生のまだ、とは別のまだ、です。
「思えばその時こそです」
「結婚する時ですか」
「そうです、ですから」
「ううむ、しかしです」
「それでもですか」
「僕は結婚はまだいいです」
 やっぱりこう言うのでした。
「せっかくのお願いですが」
「左様ですか、ではこのお話も」
「はい、そういうことで」
 こう言ってでした、先生の結婚のお話は今は終わりました。ですが動物達はやれやれといったお顔で言い合いました。
「先生もねえ」
「奥手だしね」
「女の人には疎いし」
「しかもこんなのだから」
「話が全く進まないんだよね」
「結婚のことは」
 ことこのことについてはです。
「本当にね」
「どうしたものか」
「このままじゃ冗談抜きで一生独身だよ」
「早く結婚すればいいのに」
「誰か見付けてね」
「一刻も早く」
 こう言うのでした、しかしやっぱりこのことには奥手なままの先生でした。そうしたお話をしているうちにバスは松山駅に着きました。
 バスから降りてです、加藤さんは先生に言いました。
「では今から」
「はい、長老さんのところに行ってですね」
「お話しましょう」
 カワウソさん達とお話したことをです、そうしたことをお話してそれから新たな場所に入る先生ご一行でした。



今回はカワウソたちの所へ。
美姫 「カワウソの登場ね」
どうやら、こちらも良い人、もといカワウソみたいで良かったな。
美姫 「そうね。互いに相手の事を警戒はしていたみたいだけれどね」
それを今から解決させていかないとな。
美姫 「先生の言うように会うのが早いんだけれどね」
まあな。ともあれ、今回のカワウソとの会談内容を今度は狸の方に伝えないとな。
美姫 「仁左衛門の屋敷へと」
次回はどんな話になるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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