『ドリトル先生と伊予のカワウソ』




             第一幕  坊ちゃん

 ドリトル先生の研究室にです、同じ大学で医学部の教授を務めている増岡教授が来てでした。先生にお仕事のお話をしてきました。
「学会ですか」
「はい、そうです」
 痩せてすらりとした外見の増岡教授がです、先生にお話します。
「この度先生にもです」
「学会に出て」
「論文を発表して頂きたいのです」
「左様ですか」
「先日論文を書かれましたね」
「はい」
 先生もお医者さんであり大学の先生です。論文も書いています。確かに最近書いていませんでしたがそれでもです。
 先生も論文を書きます、先日実際にご自身の専門分野について書いたのです。そして教授はその論文をというのです。
「それを発表して欲しいのです」
「そうですか、それでは」
「はい、是非です」
 教授は微笑んで先生に言います。二人で研究室の中にある席に向かい合って座って紅茶とティーセットを楽しみながら。
「そうして下さい」
「では今から」
「学会に出る準備をお願いします」
「出張ですね」
「そうなります」
 まさにというのです。
「宜しくお願いしますね」
「わかりました、それで出張先は」
「愛媛です」
 教授は紅茶を飲みつつ先生に微笑んで答えました。
「愛媛の松山です」
「松山ですか」
「松山のことはご存知でしょうか」
「坊ちゃんの舞台ですよね」
 先生は微笑んで教授にこの小説の名前を出しました。
「そうですよね」
「坊ちゃんはもう読まれたのでしょうか」
「はい」
 その通りとです、先生は教授に笑顔で答えました。
「先日」
「先生は文学も読まれていますか」
「日本語をより知ろうと思いまして」
「素晴らしい、それでは話が早い」
「あの作品の舞台ですよね」
「はい、とてもいいところですよ」
 教授は先生に笑顔でこうもお話しました。
「では是非」
「松山にですね」
「学会で論文を発表されると共に」
 それと一緒に、というのです。
「松山を楽しんで下さい」
「わかりました、それでは」
「温泉もあります」
「温泉、お風呂ですね」
「そちらも楽しんで下さい」
「それとですね」 
 先生からもです、教授にお話します。
「坊ちゃんは蕎麦を食べていましたね」
「天ぷらそばですね」
「あれも食べたいですね」
「それと蜜柑も」
「あれもありますか」
「松山はとてもいい場所ですので」
 それでだというのです。
「先生も楽しんで下さい」
「わかりました、ではそうしたことも楽しみにして」
「いらして下さい、あと」
「あと?」
「今回もでしょうか」
 教授は先生のその丸いお顔を見ながら先生に尋ねました。
「先生のご家族の」
「動物達ですね」
「彼等も一緒でしょうか」
「はい、彼等は私の家族なので」
「それではですね」
「はい、彼等もです」
 一緒だというのです。
「そうさせて頂きます」
「彼等も一緒ですと」
「駄目でしょうか」
「いえ、是非」
 いいとです、教授は微笑んで先生に答えてくれました。
「そうされて下さい」
「彼等も松山に連れて来ていいのですね」
「私はそこまで言いません」
 先生がどれだけ動物達と強い絆を持っているのかを知っているからです、教授も彼等の同行を止めないというのです。
「ですから」
「そうですか、有り難うございます」
「それでは松山まで」
「お願いします」
 こうしてです、先生は松山に行くことになりました。それはお仕事ですが。
 それでもです、お家に帰ってトミーと動物達にこのことをお話するとです。トミーは先生に対してこう言いました。
「僕は今回はです」
「行けないんだね」
「はい、ちょっと今勉強の方が忙しくて」
「学生と教授ではまた違うからね」
「先生のお手伝いはちょっと」
「そうなんだね」
「申し訳ありませんけれど」
 それでもだというのです。
「今回は先生と」
「僕達だけだね」
「行けるのは」
「そうなるよ」
 トミーは動物達にも答えました。皆でお家の居間の中でちゃぶ台を囲んでそのうえでお話をしています。
「残念だけれどね」
「松山はいい場所みたいだからね」
 先生も残念そうにトミーに言います。
「だからね」
「はい、本当に残念です」
「また機会があればね」
「その時にですね」
「松山に行こう」
「そうしましょう」
「王子はどうかな」
 ここでチーチーが先生に王子のことを尋ねました。
「一緒に来られるかな、松山まで」
「いや、それがどうもね」
「駄目なんだ、王子も」
「どうやらね」
 そうだというのです。
「王子は王子で祖国に帰っているんだ」
「あちらの用事で?」
「そうみたいだよ」
 だからだというのです。
「だから今日本にいないから」
「じゃあ今回の旅行は僕達だけだね」
「そうなるよ」
 先生はこうチーチーにお話します。
「残念だけれどね」
「旅は賑やかな方が楽しいからね」
 ジップも残念そうに先生に言います。
「トミーや王子がいないと」
「仕方ないよ。けれど君達は一緒だよ」
「僕達はだね」
「うん、だから今回の旅行はね」
「僕達が先生を助けるんだね」
「宜しく頼むよ、今回はね」
「一緒に楽しもうね」
 ジップは期待している顔で笑ってです、先生に応えました。そうしてです。
 先生は今回の旅行は動物達と一緒に行くことにしました。そのことが決まってからです、トートーがこんなことを言ってきました。
「ねえ先生」
「何かな」
「松山ってはじめて行くけれど」
「どうした場所かっていうんだね」
「うん、いい場所なのかな」
「とてもいい場所みたいだよ」
 実際にそうだとです、先生は坊ちゃんで読んだことやネットでも調べたことをトートーにも他の動物達にもお話しました。
「あそこはね」
「そうなんだね」
「そう、食べものも美味しいらしいし」
「それなら楽しみだね」
「そうだね、それと」
「それと?」
「愛媛県自体がそうみたいだけれど」
 松山市のあるその場所自体がだというのです。
「野球が盛んみたいだね」
「あっ、日本人が好きな」
「イギリスではようやく入ってきたね」
 そのスポーツがだというのです。
「松山市には野球がとても強いチームもあるらしいよ」
「ふうん、そうなんだ」
 ポリネシアもそのことを聞いてお話に入ってきました。
「愛媛も野球が盛んなんだ」
「プロ野球のチームはないけれどね、八条リーグのチームは別にして」
「そうなんだね」
「気候もいいし温泉もあって」
「蜜柑があって」 
 ダブダブは自分から楽しそうに言いました。
「美味しいものもあってだね」
「うん、いい場所だからね」
「じゃあ楽しみにしていいね」
「ダブダブもそうしていていいよ」
「わかったよ、じゃあ早く行こう」
 ダブダブはもう乗り気です、うきうきとした調子で先生に言います。
「松山までね」
「いやいや、厳密に言うと仕事で行くからね」
「すぐに行く訳じゃないんだ」
「行く日は決まっているんだ、帰る日もね」
「それじゃあまだなんだね」
「まだだよ」
 先生はダブダブを慰めるみたいに優しい声でお話します。
「だから少し待ってね」
「わかったよ、それじゃあね」
 ダブダブもそれで納得しました。こうしてです。
 先生達はまずは出張の準備をはじめました。ですが先生のことですからとてものんびりしています。動物達が殆どしている位です。
 ダブダブは持って行くシャツにトランクスの用意をしている時にです、一緒に下着を畳んでくれているホワイティにこんなことを言いました。
「先生は服を畳むことがね」
「上手じゃないわね」
「うん、だからね」
 それでだというのです。
「こうしてね」
「私達が畳まないとね」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「こうした洗濯ものもね」
「畳んでね」
「それでトランクに入れて」
「そうそう」
「先生って本当にこういうところは駄目だから」 
 とにかくです、一般生活のことには疎い先生です。このことは日本に入ってからも殆どというか全く変わっていません。
「だからね」
「私達がしてね」
「そう、それでね」
「他のことも用意して」
 そうしてだというのです。
「私達も一緒に行って」
「松山でも先生をフォローして」
「楽しくやっていきましょう」
 こうお話しながら服を用意していくのでした、下着だけでなく。
 馬もです、お庭で一緒にいるオシツオサレツにこんなことを言いました。
「僕達も松山に行くけれど」
「それでもだね」
「l松山でも」
「ただ普通に楽しい旅になるかな」
「どうだろうね、先生と一緒にいるとね」
「よく何かが起こるからね」
 オシツオサレツは前後の頭から馬に答えました。
「だから松山でもね」
「何か起こるかもね」
「先生はよく何か頼まれたりするから」
「そこから色々起こるからね」
「そうなんだよね、先生ってね」
 これまで先生とずっと一緒にいるから知っています、馬にしても。
「そうした星の下にあるんだよね」
「生粋の冒険家なんだよ、先生は」
「冒険が自分の方から来るんだよ」
 まさにそうした人だというのです。
「だから今回もね」
「何かあるかも知れないね」
「その何かが気になるんだよね」
 馬は考える顔で言いました。
「今回も」
「まあ何があってもね」
「いつも皆が力を合わせて切り抜けているから」
「今回もね」
「不安に思うことはないんじゃないかな」
「それはそうだね。何だかんだでいつも楽しい旅で終わってるから」
 馬も不安以上にです、楽しい思いを何度もしてきたのでそのことを思い出しながらオシツオサレツに答えるのでした。
「何があってもね」
「不安に思わずに」
「楽しいことが起こることを期待していようよ」
 オシツオサレツは二つの口でお話しています。そして二匹がいる厩の上のところにはです。チープサイドとベッキーの一家がいてです。
 そのうえで、です。一家でこんなことをお話していました。
「松山も楽しみだね」
「暖かい場所だっていうし」
「しかも食べものはとても美味しいんだよね」
「一体どんな場所かしら」
「私とても楽しみよ」
「僕もね」
 まずは子供達が言います、そしてです。
 奥さんのベッキーもです、こうチープサイドに言います。
「子供達が迷子になったりしない様に気をつけないといけないけれど」
「それでも旅自体はね」
「ええ、楽しみよね」
「今回のもね」 
 チープサイドも期待しているお顔で家族にお話します。
「楽しみにしていていいね」
「そうよね」
「旅はね」
 それはです、どういったものかといいますと。
「楽しむものだからね」
「そうよね、今度行く松山でもね」
「楽しもう、そうしよう」
「先生達と一緒にね」
「お米だよね」
 ここで子供達のうちの一羽がお父さんに尋ねてきました。
「お米松山にもあるよね」
「お米は日本なら何処にもあるよ」
「そうなの」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「お米は食べられるからね」
「そう、じゃあね」
「うん、皆でお米も食べよう」
「松山でもだね」
「松山でも皆と一緒にいるんだよ」
 チープサイドはこのことをです、ここで皆に念を押しました。
「絶対に家の誰かと一緒にいるんだよ」
「先生かジップか」
「誰かとだね」
「そう、はぐれないでいるんだよ」
「そうすれば安全だからだね」
「そうだよ」
 まさにその通りだというのです。
「だからいいね」
「うん、わかったよ」
 子供達もお父さんの言葉に素直に頷きました。
「誰かと一緒にいるよ」
「松山でもね」
「そのことは絶対に守るんだ」
 こう念押しをしてでした、チープサイドの一家もこれからのことを楽しみにしながら松山に行く準備をしていました。そうしてです。
 松山に出発する前日にです、先生は居間で皆に言われました。
「いい?先生明日だから」
「明日出発だからね」
「朝はちゃんと起こすからね」
「明後日じゃないよ」
「このことは忘れないでね」
「忘れないよ。けれど皆心配し過ぎじゃないかな」
 先生はおっとりとした表情で皆に言いました。今の格好はゆったりとした甚平姿です。
「僕もわかってるから」
「だって何かね」
「先生今回忘れそうだから」
「うっかり寝過ごしてとか」
「そういうこと先生あるからね」
「時々ね」
「大丈夫だよ」
 先生だけはこう言います、にこにことして。
「僕はちゃんとわかってるからね」
「本当に?」
「本当に大丈夫?」
「明日ちゃんと起きられる?」
「港まで行ける?」
 松山までは船で行くことになっているのです。それで船に乗る時間に遅れてはいけないのです。動物達はこのことも頭に入れています。
 だからこそです、先生が心配で言うのです。
「それ大丈夫だよね」
「ちゃんと起きられるならいいけれど」
「僕達そこが心配だから」
「先生のね」
「ううん、皆心配し過ぎだよ」
 先生だけです、心配していないのは。
「僕のことなら問題いらないから」
「どうでしょうか」
 トミーもです、不安そうに言うのでした。
「明日僕が起こしましょう」
「いつも通りかい?」
「そうすれば問題ないですよね」
 こう提案するのでした。
「僕がいつもみたいにそうすれば」
「そうそう、トミーがいてくれるからね」
「今回の旅は一緒じゃないけれど」
「それだったらね」
「大丈夫だね」
 トミーならとです、動物達は彼に一斉に顔を向けて応えました。
「それなら」
「明日の朝もね」
「大丈夫だね」
「トミー、じゃあ頼むよ」
「僕達も起きるけれど」
「明日の朝はね」
「うん、朝起きて」
 そうしてとです、強い声で動物達に応えるトミーでした。
「それで朝御飯を作ってね」
「そして先生を起こして」
「それからだね」
「明日の朝は早いけれど」
「それでもね」
「うん、起きるから」
 そこは安心していいと答えるトミーでした。この人はしっかりしているので動物達も安心しているのです。むしろです。
「先生ってねえ」
「こうしたことには頼りないから」
「のんびりし過ぎていてね」
「世間のことには疎いし」
「朝だってね」
「寝坊したりするから」
「何か僕って信頼ないのかな」
 動物達の言葉を聞いてです、不安に感じて言う先生でした。
「普段は」
「いざって時はやっぱり先生だけれどね」
「普段はね、どうしてもね」
「僕達がいないと何も出来ないから」
「そういうところがあるのは事実だからね」
「やれやれだね。けれどね」
 先生は動物達の容赦のない言葉にです、困った笑顔になりながらもです。
 それでもです、こうも言うのでした。
「確かに僕は頼りないかな」
「そう、だからね」
「松山でも私達が一緒だからね」
「安心してね」
「何かあっても」
「うん、頼りにしているよ」
 先生は微笑んで動物達に答えました。
「松山でもね」
「例え何が出て来てもね」
「僕達が一緒だから」
「平気だよ」
「そうさせてもらうよ。そういえばね」
 動物達の言葉を受けながらです、先生はこんなことも言いました。
「確か四国は猿が多かったね」
「猿が?」
「そう、高知の猿が有名かな」
「それじゃあ僕だね」 
 チーチーは猿と聞いて自分を指差しました。
「そうだね」
「日本の猿だけれどね」
「四国は猿なんだ」
「うん、それと狸が有名だよ」
「だったら松山でもどちらかに合うかな」
「そうかも知れないね」
「仲良くなれたらいいね、松山で猿に会えても」
 チーチーはこのことは心から願いました。
「狸でもね」
「狸だと」
 ホワイティは狸について言いました。
「狐と一緒で化けたわね」
「日本の狸はね」
「そうだったわね」
「うん、けれど悪戯はしてもね」
 それでもだというのです。
「そんなに悪いことはしないから」
「怖くないんだね」
「日本の狐や狸は人間みたいというか」
 先生は彼等の性格をです、ホワイティにお話しました。
「親しみやすいみたいだね」
「人間みたいな性格なんだ」
「そう、そこまで気にすることはないよ」
「四国の狸もだね」
「そう、だから安心してね」
「わかったよ、じゃあ安心してね」
 そしてだとです、ホワイティは先生のその言葉に頷いて答えました。そうしてそのうえでなのでした。
 ホワイティはです、先生に期待している様に言いました。
「じゃあ松山でも楽しませてもらうよ」
「うん、お仕事で行くにしても」
「楽しむいことだね」
「それが第一だよ」
 先生はにこりとしてホワイティだけでなく他の動物達にも言いました。
「生きるにおいてはね」
「じゃあお仕事も楽しむ」
「そうあるべきなんだね」
「お医者さんの仕事は失敗は許されないけれど」
 それでもだというのです。
「楽しい仕事だよ」
「だから今もお医者さんをやっていられるのかな、先生も」
「だからかな」
 動物達も先生の言葉を受けてお話をします。
「これまで色々あったけれど」
「今もお医者さんだしね」
「日本にも医学部の教授として招かれたし」
「だからかな」
「そうかも知れないね、僕も何だかんだでお医者さんになれてよかったと思うよ」
 こうも言う先生でした。
「実際にね」
「そしてその医学の論文をですね」
 トミーが先生にその論文のお話をしてきました。
「発表されるんですね」
「うん、そうだよ」
「そういえば最近ずっと調べて書いておられましたね」
「英語だけじゃなくて日本語の論文も読んでね」
「そちらもですか」
「やっとね、日本語の文章もね」
 そちらもだというのです。
「わかってきたかな」
「読んでいくうちにですか」
「うん、今回の論文も日本語で書いたしね」
「えっ、英語じゃなくて」
「そうだよ。日本語の文章でね」
 書いたというのです。
「最初から最後までね」
「そうだったんですか」
 トミーは先生のそのお話を聞いて目を丸くさせていました。そのうえで先生にこうも言ったのでした。
「先生って本当に凄いですね」
「いやいや、僕は凄くなんかないよ」
「凄いですよ、日本に来て間もないのに」
 それでもだというのです。
「もう日本語の文章を書けるなんて」
「そんなにかな」
「先生って語学の才能凄いですよね」
「そういえば中国語もわかるよね、先生」
「書くことも出来るしね」
 動物達もここで先生に言ってきます。
「あとフランス語やドイツ語も出来るし」
「イタリア語やスペイン語も」
「フランス語fがわかればね」
 どうかとです、先生は動物達にお話します。
「イタリア語とスペイン語はわかるんだよ」
「同じラテン系だからですね」
「そう、それでだよ」
 トミーにも笑顔で答えます。
「ラテン系の言葉はどれか一つを覚えれば後は方言みたいなものだからね」
「喋れるだね」
「先生みたいに」
「そうだよ、けれど日本語はね」
 先生達が今いるこの国の言葉はといいますと。先生はどうにもという苦笑いになってそのうえでトミーと動物達に言うのでした。
「難しかったよ」
「僕も今勉強中ですけれど」
 それでもだとです、トミーは困ったお顔で言いました。
「物凄く難しいですよね」
「そう、僕も苦労しているよ」
「けれどもう普通に喋られていますし」
 日本人の様にです。
「論文まで書くことが出来て」
「だから凄いっていうんだ」
「本当に凄いですよ。先生語学者にもなれますよ」
 そこまで凄いというのです。
「先生でしたら」
「ははは、僕を褒めても何も出ないよ」
「そういう考えで言いはしませんよ」
「それじゃあ純粋な、かな」
「僕が思ったことですから」
 ただそれだけというのです。
「そういうのは求めないです」
「そこはトミーだね」
 彼らしいというのです。
「本当に」
「僕ですか」
「君らしいよ。じゃあ君らしく」
「はい、今回はですね」
「留守番を頼むよ」
「任せて下さい、お家の中のお掃除もしておきます」
 トミーが笑顔で先生にこう答えるとです、動物達がここぞとばかりに明るく言ってきました。
「そうそう、むしろトミーの方がなんだよね」
「お掃除とか出来るからね」
「家事だってね」
「先生そっちはさっぱりだから」
「そうしたことはやっぱりトミー」
「トミーは安心出来るから」
 だからだというのです。
「トミーだったらね」
「留守番も任せられるよ」
「私達がいなくても大丈夫」
「先生と違って」
「やれやれだね。僕は本当に頼りなく思われてるんだね」
 先生は動物達がまたこう言ったのを聞いて実際にやれやれといったお顔になってそのうえで言うのでした。
「そういえば一人暮らしをしたことなかったね」
「サラさんがいてくれてね」
「それで僕達やトミーもいてだから」
「家事なんてしたことないし」
「のんびりしているし」
 学生時代は動きの遅さでも知られていました。とかく世間のことや運動のことにはからっきしな先生です。
「僕達がいないと」
「本当に心配だから」
「今回の旅行もね」
「僕達がいつも一緒にいるから」
「任せてね」
 こう言ってです、むしろ動物達の方が先生の保護者みたいな感じでした。そうしたお話をしてです。次の日の朝でした。
 先生は朝早くトミーに起こされました。そうして朝御飯にです。 
 白い御飯とメザシ、納豆に海苔にです。
 お漬物と茸のお味噌汁を食べつつです、作ってくれたトミーに言うのでした。
「いい朝御飯だね」
「先生最近ずっと和食ですよね」
「うん、朝はね」
「ですから」
 それでだとです、トミーはちゃぶ台の向こう側から先生にお話しました。二人共もうちゃぶ台のところに座ってお箸を手にしています。
「今日もです」
「朝早かったのにかい?」
「夜のうちに用意しておいたので」
「だからなんだ」
「はい、御飯も炊いておいたので」
「それで朝早くから」
「そうです、すぐに朝御飯出せたんです」
 こう先生にお話するのでした。
「それじゃあこれを食べて」
「それからだね」
「もう松山に行く準備は出来ていますよね」
「皆が全部してくれたよ」
 一緒に行ってくれる動物達がです、全部してくれたのです。
「そちらもね」
「それじゃあ後は」
「食べて歯を磨いて顔を洗ったらね」
 そうすればというのです。
「すぐに港に行くよ」
「車出しますね」
「トミー車乗れたんだ」
「乗れる様になったんです」
 このことも笑顔でお話したトミーでした。
「免許も持ってますよ」
「日本でもだね」
「そうです、乗れます」
「それではだね」
「お顔も洗ったら」
 そうすればというのです。
「車出しますから」
「それに乗ってだね」
「はい、港まで」
「悪いね、起こしてもらっただけじゃなくて車まで出してもらって」
「いいですよ、先生と皆ですから」
「僕達だからなんだ」
「遠慮はいらないです、家族ですから」
 一緒に住んでいるだけでなくです、先生達はもうそうなっているのです。その中にはトミーもいるのです。
「それじゃあ僕も食べますから」
「朝をだね」
「三食しっかり食べないと」
「そう、よくないんだよ」
「そうですよね、食べることからですね」
「イギリスにいた時は食べることだけだったね」
 先生は白い御飯の上にお醤油とお葱、からしを入れて混ぜた納豆をかけながらトミーにこうしたことも言いました。
「食べて栄養を摂取出来ればいいと思っていたよ」
「味はですね」
「無頓着だったね」
 今よりもずっと、というのです。
「日本に来てそれが変わったよ」
「美味しい味もですね」
「求める様になったよ」
「栄養と一緒に」
「そういえば栄養も」
 それについてもというのです。
「イギリスにいた時はね」
「それ程、でしたね」
「あまり考えていなかったかな」
「今よりも」
「お腹に入れればいいとかね」
 そう思っていたのです、イギリスにいた時の先生は実際に。
「無頓着だったね」
「お野菜や果物も」
「あればいいとかね」
「それで食べて」
「ビタミンの種類も考えないで」
「けれど今は」
 日本に来てからはといいますと。
「それがね」
「変わりましたね」
「鉄分とかも考えてね」
「それにカロリーもですね」
「そうしたこともね」
 ちゃんとです、考えて食べる様になったというのです。
「考えて食べる様になったね」
「それですけれど」
 トミーはメザシを食べながら先生にお話しました。
「日本は色々な食べものやお料理があって」
「そうしたことを考えて作ることもだね」
「楽なんです。しかも楽しいです」
「イギリスにいる時よりも」
「はい、和食だけでなく」
 この国の本来のお料理だけではないのです、日本にあるお料理は。
「中華や欧州のお料理もあって」
「色々作られてだね」
「楽しいです、栄養も色々と摂りやすくてカロリーも低めで」
「そうそう、日本人ってあまり太っていないよね」
 先生はここでこのことも言いました、お味噌汁を飲みながら。
「イギリス人と比べても」
「お腹が出ている人もいますけれど」
「極端に太っている人はね」
「少ないというか殆どいませんね」
「アメリカみたいなことはないね」
 勿論イギリスよりもです。
「太っている人は凄く少ないね」
「カロリーが低めなんです」
 お料理にあるそれがです。
「実際に」
「そうなんだね」
「そう、ですから」
「日本人の食事はヘルシーなんだね」
「栄養バランスがいいですね」
 実際にそうだというのです。
「和食で朝御飯を作っても」
「こうした感じになって」
「はい、身体にいいですよ」
「そうだね、じゃあ美味しくて身体にいい朝御飯を食べて」
「松山ですね」
「行って来るよ」
 先生はにこりと笑ってトミーに答えました。
「楽しくね」
「そうして下さいね。あと松山でもお酒飲まれますよね」
「最近日本酒も美味しくてね」
 とても楽しみにしているお顔で答えた先生でした。
「お米で作ったお酒は最高だよ」
「先生どんどん日本的になってきていますね」
「ははは、国籍取ろうかな」
 日本のそれをというのです。
「そうしようかな」
「本当に日本人になられるんですか」
「もうイギリスの家も引き払ったし」
「日本に住んでおられて」
「日に日に入ってきているからね」
 日本にというのです。
「もうそうしようかなってね」
「思っておられるんですか」
「そうなんだ」 
 こうお話するのでした。
「どうかな」
「いいんじゃないですか、それも」  
 トミーは先生のそのお考えに微笑んで答えました。
「先生日本が合っているみたいですし」
「いい国だよ、何もかもが」
「日本大好きになられたんですね」
「この国の全てがね」
「それでしたら」
 そこまで、です。先生が日本に親しんでいるのならとです。トミーは先生ににこりと笑ってこう言ったのです。
「そうされて下さい」
「そうだね、真剣に考えておくよ」
「僕も」
 トミーもです、ここでこう言いました。お漬物を食べながら。
「日本が好きですし」
「日本人になることもだね」
「考えてみようと思います」
「そこはトミーが自分で考えることだね」
「そうですよね」
「うん、僕はここにお家があって仕事もあって皆もいてね」
 それにだというのです。
「サラも時々来てくれるから」
「そういえばサラさん結構日本に来られますね」
「そうそう、うちにも来てくれてね」
「あの人も日本お好きみたいですね」
「日本の紅茶に驚いていたよ」
 ご主人が経営している会社が扱っているそれにというのです。
「その種類の多さと美味しさにね」
「そういえば日本は紅茶も」
「凄いよね」
「紅茶の他にも一杯お茶があって」
「そのことにも驚いていたよ。それで日本のお茶をイギリスで売ったらね」
「どうなったんですか?」
「凄く売れているらしんだよ」
 そうなっているというのです。
「お陰でご主人の会社の業績は鰻登りだよ」
「日本の言葉ですね」
 その鰻登りという言葉がです。
「そうなってるんですね」
「そうなんだ、ただ日本の紅茶やお茶をそのまま輸入しているんじゃなくて」
「あれっ、といいますと」
「イギリスのお水に合わせているみたいだよ」
「イギリスのですか」
「ほら、日本のお水とイギリスのお水は違うよね」
 日本のお水は柔らかい軟水でイギリスのお水は硬い硬水なのです。お水といってもそのお国や場所で違うのです。
「だからね」
「イギリスのお水に合わせてですか」
「作られたお茶を売っているんだ」
「それを売ってですか」
「業績をあげているんだ」
「そこまで考えているんですね」
「ビジネスは大変だよね」
 このことについては先生はあまり詳しくありません。お医者さんなのでビジネスに関わったことはないからです。
「そうしたことも考えないと」
「そうですね、そのことは」
「とにかくね。サラもね」
「時々日本に来られてですね」
「そう、このお家にも来てくれるからね」
「イギリスにいた時と同じく楽しく過ごせるから」
「もう日本に入ろうかなってね」
 国籍まで取ってです。
「そう思っているんだ」
「そうですか」
「そうなんだ、そうもね」
 こうしたことをです、先生は旅立つ前にトミーにお話しました。一緒に美味しい朝御飯を食べながらです。そうして。
 食べ終わった後歯を磨いて顔を洗ってからです、出張の時の着替えや洗面用具等を入れたトランクを持ってです。
 動物達と一緒に車に乗り込んで、でした。皆で。
 トミーが運転する車に乗って港まで来ました、そして船の前で動物達と一緒にトミーに言いました。
「では今からね」
「はい、松山に」
「行ってくるよ」
「じゃあ留守の間は」
「頼んだよ」
「綺麗にしておきますので」
「トミーなら心配ないわよ」
 ガブガブが先生に言います。
「先生と違ってお掃除も得意だから」
「ううん、また僕なんだ」
「まあ先生には私達がいるから」
「安心して、っていうんだね」
「そうよ、じゃあ松山でもね」
「うん、楽しくね」
「楽しんできて下さいね」
 トミーもです、先生ににこりと笑ってこう言ってでした。
 一時のお別れをしてでした、先生は動物達と一緒に船に乗り込んで、です。そのうえで松山に向かうのでした。



今回も食の話題は尽きないな。
美姫 「堪能しているみたいで良かったわね」
さて、今度は出張だな。
美姫 「愛媛に向かうみたいね」
愛媛では一体どんな事が待っているのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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