『ヘタリア大帝国』




                    TURN96  ランス=ハーン

 満州に突如として敵が来た、このことには今現在の満州防衛艦隊司令長官も兼任する伊藤も驚きを隠せなかった。
「何っ、西からか」
「はい、来ました」
「西からです」
 艦隊の部下達が応える。
「シベリアからではなく」
「そちらからです」
「そういえば蒙古がいた」
 伊藤もここで彼等のことを思い出した。
「正式な名前は元だったな」
「はい、あの騎馬民族ですね」
「彼等ですね」
「最近これといって動きがないので忘れていた」
 これは枢軸側も連合側もである。
「彼等もいたのだ」
「しかし騎馬民族は彼等の生活で満足していた筈だが」
 柴神が言って来た。
「それで私も彼等のことは気にしていなかったが」
「事情が変わったのでしょうか」
 伊藤はいぶかしみながら柴神に言って来た。
「だからでしょうか」
「ううむ、わからないな」
「元の星域は何処も食料も資源も困っていません」
 ここで言って来たのは宇垣だった。
「ですから彼等はこの戦争とは完全に中立でした」
「そうだったのだ」
 伊藤もこう認識していた。
「食料や資源の問題がなければ攻めて来ることはないからな」
「騎馬民族の場合は」
「かつてのチンギス=ハーンの頃とは違う」
 この頃は世界帝国を築いた、今のソビエトの辺りを席巻したのだ。
「あの頃の元は野心があったがな」
「今は違っていた筈です」
 宇垣は柴神に答えた。
「全く以てわかりませぬ」
「しかしあれこれ言ってもはじまらぬ」 
 伊藤は話を切り上げにかかった。
「敵が来た、ならばだ」
「迎え撃つしかないぞ」
 ギガマクロも伊藤に続いて言う。
「これからな」
「そうだな、では総員出撃だ」
 柴神も続く。
「それで敵の数はどれだけだ」
「はっ、十四個艦隊です」
 参謀の一人が敬礼をして応える。
「それだけです」
「それに対してこちらは六個か」
 今言ったのは山本だ、彼もまた今は満州にいるのだ。
「やれやれ、主力があらかたソビエトとの戦いでダメージを受けたからな」
「今は日本で修理に向かわせている」
 柴神も言う。
「戻って来るのは来月だ」
「他の防衛艦隊は全てインド洋方面に回しましたからな」
 エイリスへの備えだ、数多い筈の枢軸艦隊は全てそうしたのだ、これを決めたのは今言っている宇垣自身だ。
「ここにいるのは我等だけですからな」
「六対十四数では不利だな」
 伊藤がこう結論付ける。
「戦術と艦隊の質でカバーしようかのう」
「伊藤さん」
 その伊藤に誰かが声をかけてきた。
「何かあったの?」
「おお、お嬢ちゃんか」
 パルプナだった、伊藤はそのパルプナに顔を向けて応えた。
「どうしたのじゃ?」
「騒がしいから」
 それで気になって来たというのだ。
「まさかまた」
「何、大したことはない」
 伊藤はパルプナを安心させる為にあえてこう言った。
「この前の戦闘よりは楽じゃ」
「そうなの」
「そうじゃ、お嬢ちゃんは安心して休んでいてくれ」
「伊藤さん、優しい」
 パルプナは伊藤の言葉を聞いてこう言った。
「私にいつも」
「ははは、わしは可愛い娘には優しいぞ」
 伊藤はその顔を綻ばさせて応えた。
「それも存分にね」
「首相は昔は慣らしたからのう」
 山本もその伊藤のことを楽しげに話す。
「わしも首相を見習ってきたからな」
「いやいや、わしも提督には負けるぞ」
 伊藤は伊藤でこう返す。
「その遊びにも見せる見事さはのう」
「そういえば首相は遊びは女だけじゃな」
「うむ、博打には興味がない」
 こう山本に答える。
「そっちにはな」
「そうじゃったな」
「しかし食道楽の方はな」
 伊藤は楽しげな笑みを浮かべて話す。
「それに酒もじゃ」
「そっちもじゃったな」
「しかし贅沢でなくともよい」
 美食には興味がなかった、食道楽であっても。
「新鮮で美味ければな」
「刺身に梅干か」
「よいのう」
 こうしたものが伊藤の好物だった。
「特に河豚がな」
「河豚?」
 河豚と聞いてパルプナが怪訝な声をあげた。
「それ何?」
「魚じゃよ、これが美味い魚でな」
「美味しいの」
「うむ、美味いのじゃ」
 伊藤は河豚についても笑顔で話す。
「それもかなりな」
「そうなの」
「刺身に鍋に唐揚げにな」
 その料理の仕方もざっと挙げていく。
「かなりの美味じゃ」
「それだけ美味しいの」
「そうじゃ、今度お嬢ちゃんもどうじゃ」
 伊藤は優しい笑みでパルプナに言う。
「食べに行くか」
「私は」
 だがパルプナは怯えた顔で伊藤に返した。
「それは」
「いやいや、怖がることはない」
 伊藤は怯えるパルプナを安心させにかかった。
「特にな」
「そうなの?」
「わしは女好きじゃが食べ物で釣ることはしない」
 それはないというのだ。
「ただ一緒に食べたいだけじゃ」
「そうなの」
「そんなパワハラやセクハラはせぬ」
 このことを保障する。
「決してな」
「首相さんはそうなの」
「色々と言われておるがな」
 伊藤は憮然とした顔も見せる。
「おなごには節度を持っておるつもりだ」
「一度酷い濡れ衣があったな」
 柴神が言って来た。
「首相の若い頃にはな」
「全く、人妻を草陰でだと」
 実際にこうした話がありかなりのスキャンダルになった。
「わしはそうしたことはせぬわ」
「首相は遊ぶ相手は選ぶな」
「地方でも名の知られておらぬ風俗嬢を相手にしておる」
 そうしているというのだ。
「地元の有力者と縁のありそうなのは絶対に選ばぬ」
「ホステスもだな」
「確かに同伴やアフターは好きじゃ」
 伊藤の趣味でもある。
「しかしじゃ」
「そうだ、首相は節度を以て遊んでいる」
「パワハラやセクハラはせぬ」
「そのことは私も保障する」
 彼をよく知っている柴神もだというのだ。
「真面目だとな」
「柴神様は何でもわかっていてくれるからのう」
 日本が建国されてから国民と共にいる、それ故にだ。
「有り難いわ」
「首相とも長い付き合いだな」
「かれこれ半世紀ものな」
「それだけに言える、首相はそうしたことはしない」
 パルプナの心配する様なことは決してないというのだ。
「断じてな」
「そうなの」
「君はかなり酷い目に逢ってきたな」
 柴神にもわかることだった、それもよく。
「しかしそれもだ」
「もう大丈夫なの」
「この国では誰も君にその様なことはしない」
「誰も・・・・・・」
「そうだ、誰もだ」
 こうパルプナに言うのである。
「だから安心してくれ」
「それなら」
「ははは、わしもまた何処かに案内しようか」
 山本は右目を楽しげに瞑らせながらパルプナに言って来た。
「首相が河豚ならわしは鮟鱇にするか」
「鮟鱇?」
「これも魚じゃよ、外見は悪いが味はよい」
「それも美味しいの」
「かなりな。では戦いの後でじゃ」
「まずはわしが河豚をご馳走しよう」
 伊藤がこう言う。
「楽しみにしておいてくれ」
「ええ」
 パルプナは伊藤の言葉に小さく頷いた、そのうえで彼等の出撃を見送った。港に一人で何時までもいた。
 出撃した枢軸軍はすぐに元軍を見た、彼等の状況はというと。
「騎馬艦ですな」
「うむ、そうじゃな」
 山本が宇垣の言葉に応える。
「元軍伝統のな」
「となりますと機動力はありますが」
「武器は鉄鋼弾しかないな」
 それが騎馬艦だ、足は速く索敵能力も高いがその装備は偏っているのだ。
 このことは山本達も知っている、それで山本はこう言った。
「ではまずは艦載機とミサイルでじゃな」
「それで攻めて、ですな」
「あらかた片付けるとしよう。見たところ新型じゃが装甲は脆い」
 しかも大きさも大したことはない、巡洋艦より少し小さい位だ。
「あれ位なら艦載機やビームで一撃じゃ」
「そして鉄鋼弾で攻めれば」
「勝てるわ」
「では」
 こう話してそして、であった。
 枢軸軍は元軍に照準を合わせた、その時に。
 ネクスンが己の乗艦の艦橋で陽気にこう言った。
「ははは、今日も運よくいこうか!」
「ですね、訳のわからない相手ですけれど」
「それでも」
 部下達もそのネクスンに応える。
「神のご加護を信じて」
「それでやりますか」
「うん、足取りも軽いぞ」
 ネクスンはこう言ってステップを踏もうとした、だがここで。
 その右の靴紐が切れた、しかし彼は笑ってこう言うだけだった。
「よくあることさ」
「あの、ですが今のは」
「やはり」
 だが部下達は違った、ネクスンの靴紐が切れたらどうなるのかを知っているからだ、それでこう言ったのである。
「不吉な前兆です」
「司令、気をつけましょう」
「ははは、何を言ってるんだい」
 ネクスンだけが陽気なままだ、相変わらず案山子の様である。
「僕は運がいいんだ、今回も何もないよ」
「確かに提督は何があっても大丈夫ですか」
「怪我一つされませんが」
 彼の不思議なところである。
「しかしそれでも」
「靴紐は」
「ノープロブレムだよ」
 やはりこう言うのだった、そのうえで。
 照準を合わせた敵艦隊を見ながらく言ったのだった。
「全艦一斉射撃」
「はい、まあいざとなったら総員退艦ってことで」
「それでいきましょう」
 こう話してそのうえでだった。
 ネクスンの艦隊も攻撃用意に入る、まずは柴神と山本の艦隊から艦載機が放たれる。
 これでいきなり二個艦隊を壊滅させた、ランスはそれを見て言った。
「何だ?あれがこの世界での兵器か」
「うん、そうだよ」 
 モンゴルがそのランスに答える。
「艦載機っていうんだ」
「そうか、ビームや鉄鋼弾だけではないんだな」
「新兵器だよ、こっちにはないよ」
「あれはかなり厄介だな」
 ランスにもわかることだった。
「どうにかしないとな」
「どうにかっていうと?」
「攻撃を受ける訳にはいかない」
 具体的にはこういうことだった。
「絶対にな」
「うん、けれどこっちには防空システムもないかな」
 このことも言うモンゴルだった。
「気をつけてね」
「仕方ないな、やるだけやるか」
 こう言ってそのうえでだった。
 元軍は枢軸軍の攻撃を受けた、ビームに鉄鋼弾も受けた、それで生き残っている艦隊は僅かであった。
 コアイはその艦隊を見て言った。
「四個だよ」
「残ったのは僕達だけだね」
「後の皆は戦闘不能になって帰ったよ」
「うん、わかっているよ」
 モンゴルもこのことは把握していた。
「充分ね」
「それでどうするの?」
「やられてるけれどね」
 それでもだというのだ。
「やられっぱなしっていうのも癪だし」
「一糸報いるの?」
「勿論だよ」
 こうコアイに言うのだ。
「それで帰ろう」
「よし、じゃああいつだな」
 ランスがネクスンの艦隊を見て言う。彼にしたのはたまたま目に入ったからでそもそもネクスンのことなぞ知らない。
「あいつに攻撃してから帰るか」
「うん、じゃあね」
 モンゴルはそのネクスンの艦隊に接近し鉄鋼弾を放った。鉄鋼弾は唸り声を挙げてネクスンの艦隊に襲い掛かり。
 そのうえで撃った、すると。
 艦隊全てが大爆発に包まれた、まさに消し飛んでしまった。これにはランスも唖然となってモンゴルに問うた。
「おい祖国さん、元の鉄鋼弾ってこんなに強かったか!?」
「いや、確かに威力はあるけれど」
 モンゴルも目が点になっている、そのうえでの言葉だ。
「流石にこれだけは」
「ないか」
「うん、予想ダメージの十倍だよ」
 そこまでの威力だったというのだ。
「あれはないよ」
「そうか」
「あの艦隊何なのかな」
「総員退艦出来たみたいですが」
 シィルも唖然となっている。
「あの、それでも」
「凄いの見たよ」
 攻撃をした本人の言葉である。
「これはね」
「とにかく一糸報いた」
 ランスはまだ驚きを収めきれていない、だがそれでも言った。
「帰るか」
「うん、じゃあね」
「暫く元の可愛い娘ちゃん達の相手をしようか」
 それはそれで満足するランスだった、何はともあれ元軍は撤退した。
 ネクスンは無事港に戻った、そこで部下達に明るく言った。
「いやあ、危なかったね」
「だから何で普通の攻撃があんなのになるんですか?」
「有り得ないですよ」
 部下達は何とか死地を脱した顔で応えた。
「あの、提督って本当に」
「どういう運勢ですか?」
「どうしたも何も助かってるじゃないか」  
 ネクスンは相変わらずの調子である、無闇に明るい。
「元軍の侵攻も防いだしいいじゃないか」
「靴紐が切れたら絶対に攻撃受けますよね」
「しかも洒落にならない大ダメージですし」
 それこそ先程の様に艦隊が消し飛ぶ。
「しかも絶対に誰も死なないですから」
「提督ってどういう方ですか?」
「僕は僕だよ」
 やはり明るい、無闇に。
「それ以外の誰だっていうんだい?」
「まあとにかく敵は退けた」
 伊藤がここで言う。
「誰も死ななかった、よしとしよう」
「ネクスン殿は日本に向かわれて下さい」
 宇垣がその彼に言う。
「艦隊の修理をお願いします」
「うん、わかったよ」
「全滅扱いなので二月かかりますが」
 それでもだというのだ。
「宜しくお願いします」
「了解だよ」
 ネクスンは右目をウィンクさせて応えた、何はともあれ枢軸軍は新たな敵を退けた。その頃日本では日本が浮かない顔で東郷に話していた。
「夕霧さんですが」
「相変わらずか」
「はい、むしろ機能が低下していっておられます」
 そうだというのだ。
「このままでは」
「機能を停止してしまうか」
「それにお姿も」
 コンピューターグラフィックで出るそれもだというのだ。
「調子がよくありません」
「コンピューターグラフィックスの調子?」
「はい、それがです」
 よくないというのだ。
「あまりよくない事態です」
「まずいな、一番艦の夕霧が機能を停止するとな」
「同型艦全てに影響しますね」
「あの娘が艦隊の柱だからな」
 夕霧の艦隊は四隻からなる、四隻の戦艦からだ。
「司令塔が動かなくなると」
「艦隊が動かなくなります」
「そうだ、すぐに修理にあたるか」
「ソビエト軍の攻撃は予想以上でした」
 夕霧の艦隊はあの一斉射撃、カテーリンのパイプオルガンの中で全滅したのだ、修理はしているがそれでもなのだ。
「ダメージが大き過ぎました」
「管制システムも破壊されたからな」
「そのせいです、何とかしたいですが」
「どうしたものか」
 東郷も打つ手が考えられなかった、だが夕霧は心配で。
 その日本と共に夕霧のところに赴いた、そしてその彼女を見ると。
 その姿は明らかに違っていた、これまでは一流のイラストレーターの絵だったものが今では落書きである。その落書きの顔で困った感じで言ってきたのだ。
「あの、私は」
「このままだとだな」
「はい、機能を停止してしまいます」
 自分でもわかっていた、このことが。
「どうしたらいいでしょうか」
「そうだな、ここは平賀博士に頼むか」
 東郷はまずは彼女のことを思い出した。
「あの人なら修理出来るか」
「お願い出来ますか?」
「ああ、少しだけ頑張ってくれ」
 機能を停止させないでくれというのだ。
「呼んで来るからな」
「お願いします」 
 いつもの明るさがない、そうしてだった。
 東郷は日本と共に平賀の下を訪れた、そのうえで夕霧のことを話すと。
 その平賀も久重の口からこう言うだけだった。
「私も全力を尽くしているが」
「難しいか」
「ダメージが深刻過ぎる」
 それでだというのだ。
「あれでは無理だ」
「そうなのか」
「何とかしたいがな」
 設計、開発、建造を担った者としてはだというのだ。
「しかし」
「では夕霧さんはあのまま」
「機能を停止するしかない」
 平賀は日本にも告げた。
「あの艦隊は動けなくなる」
「そうですか」
「残念だがな」
「いや、待ってくれ」
 しかしここでだった、もう一人出て来た。見ればレーティアである。
 レーティアは東郷達のところに来てこう言った。
「私に協力させてくれるか」
「何とかしてくれるのか?」
「してみせよう」
 東郷に対しても答える。
「絶対にな」
「それではお願いします」
 日本が真剣な面持ちでレーティアに頼む。
「夕霧さんを助けて下さい」
「彼女も我々の大切な仲間だ」
 人間、それであるというのだ。
「必ず何とかする」
「私も手伝うわ」
 今度はドロシーが出て来て言う。
「そのうえで」
「私だけでは無理だが」
 平賀も再び言う。
「やらせてくれ」
「本当に頼む」
 東郷は三人の科学者達に言った。
「あの娘を助けてくれ」
「三人いれば文殊の智慧だったわね」
 ドロシーは日本の諺を出した。
「必ず何とか出来るわ」
「その言葉信じさせてもらう」
 東郷は実際にそうした、そうしてだった。
 三人は夕霧のところに向かう、レーティアがすぐに発見した。
「ここをこうすればいい」
「そうすればか」
「そうだ、これでこの娘は助かる」
 平賀にも話す。
「大丈夫だ」
「そこをそうすればいいのか」
「そうだ、しかもだ」
 レーティアはさらに言う。
「この部分をこうすればだ」
「性能が上がるわね」
 ドロシーはレーティアの言葉に頷く。
「それで」
「大和とはいかないが長門位にはなる」
 そこまでの性能になるというのだ。
「それも四隻共だ」
「それは大きいな、では」
 平賀は久重の口から応える。
「助けるだけでなくな」
「性能も上昇させていく」
 こう話してだった、三人で夕霧を助け性能を上げていった。
 三日後東郷が彼女と再会した時は。
 夕霧の顔は元に戻っているどころではなかった、何とさらに綺麗になっていた。東郷はその彼女を見て言った。
「復活したな」
「はい、総統さん達のお陰で」
 こうそのさらに綺麗になった顔で言ったのである。
「こうなりました」
「性能も上がったそうだな」
「四隻共長門級位の性能になりました」
「それも大きいな」
「ビームだけでなくミサイルもです」
 長門の主砲に匹敵するだけの威力になったというのだ。
「もう全く別のものになりました」
「ただ復活しただけじゃないか」
「しかもバリアーも備わりました」
 ビームに対するそれもだというのだ。
「まさかここまでして頂けるなんて」
「総統さん達のお陰だな」
「本当にです」
 夕霧は満面の笑顔で言った。
「これで今まで以上に戦えます」
「しかし無理はしないでくれ」
「はい」
「また新しい敵が出て来たからな」
「連合軍以外にですか?」
「そうだ、今度は元だ」
 その国だというのだ。
「あの国も攻めて来た」
「あの国は中立だったのでは?」
「これまではそうだったがな」
 それが変わったというのだ。
「急に変わった、これがな」
「それもまた元らしいですが」
「とにかく敵ならどうかするしかない」
「ではソビエト軍と共に元軍もまた」
「まずは彼等を倒す」
 優先順位は既に決めていた、まずは元だというのだ。
「あの国をな」
「わかりました、それなら」
「どうも急に攻撃的な上司を戴いたらしくな」
「その為ですか」
「攻めて来た、何かこの世界の美女も全て自分のものにするとかな」
「その上司の人が仰っているんですね」
「元のな」
 ランスのことも話される。
「どうも相当な女好きらしい」
「長官の様にですか」
「ははは、それはそうだな」
 東郷は夕霧の今の言葉に笑って応えた。
「俺に似ているかも知れないな」
「そう思えます」
「まずは満州に戻る」
 その前線にだというのだ。
「それからだ、元領に侵攻しよう」
「敵は減りませんね」
「連合以外にもだからな」
「また何か出て来そうですね」
 夕霧はふとこう予感した。
「そんな気もします」
「出て来て欲しくはないがその可能性は否定できないな」
「そうですよね、こうしたことは続きますから」
「ソビエト軍に専念したいがな」
 今の枢軸軍は、というのだ。
「共有主義を入れる訳にはいかない」
「あのイデオロギーを入れますと日本帝国は崩壊します」
「帝制が終わる」
 日本帝国を日本帝国たらしめているそれがだというのだ。
「だからそれだけはな」
「なりませんね」
「資産主義も否定される」
「確かに資産主義にも問題はありますが」
 極論すれば弱肉強食だ、貧富の差が出来ることは紛れもない事実だ。
 だがそれでもだと、夕霧はこう言うのである。
「共有主義は非常に息苦しい社会です」
「言論の自由もないしな」
「何もかもが管理、統制された社会ですから」
「生きにくい」
 まさにだというjのだ。
「だから共有主義は入れられない」
「既に工作員が潜入しているのでは?」
「ゾルゲ大佐だな」
 東郷も既に察していた、彼の潜入のことは。
「ソビエトが誇る超人だな」
「恐ろしいまでの戦闘能力も持っていると聞いていますが」
「ああ、明石大佐に匹敵する」
「あの方と同じだけですか」
「そこまで強いらしい」 
 こう夕霧に話す。
「他にもソビエトは色々開発しているらしいからな」
「殆ど特撮ですね」
「似ているな、確かに」
 特撮ものの悪役にだというのだ。
「あの国はな」
「そうですよね、どうも」
「不思議な国だ」
 こう言ったのである。
「実にな」
「傍から見ている分には面白いのですが」
「敵に回すとな」
「どうにも厄介ですね」
「全くだな」
 夕霧とこうした話もした、そしてだった。
 東郷はダメージを受けていた艦隊が全て完全に修理fが為されてから彼等と共に日本に戻った、そのうえで。
 満州の港で全軍にこう告げた。
「ソビエト軍は後回しだ」
「まずは、ですね」
「そうだ、元軍を叩く」
 こうマカオに答える。
「側面の敵を放置してはならないからな」
「それにソビエト軍も暫く動けない的な?」
 香港がこのことを指摘する。
「向こうもかなりダメージを受けた的な」
「実はシベリア辺りっていい修理工場がないのよ」
 リディアがソビエトのその内部事情を話した。
「チェリノブ位まで行かないとね」
「じゃあ今はあそこで修理していますね」
 マカオ妹が言う。
「そうですね」
「そうよ、暫く動けないことは間違いないわ」
 それはだというのだ。
「その間にね」
「元を倒した方がいい的なね」 
 香港妹が応える。
「そういうことになる的な」
「その通りよ、それにマンシュタイン元帥達もこちらに加わってくれたから」
 リディアはそのマンシュタインも見る、相変わらず見事な巨体だ。
「前の戦いよりは苦戦しないわ」
「ソビエト領に侵攻するのはまだ先でした」
 秋山もここで話す。
「まずは第八世代の艦艇の配備が整ってからと」
「そう決めていたニダな」
「はい、そうでした」
 韓国妹にもその予定を話す。
「そう決めていましたので」
「それではニダな」
「元軍と戦う余裕はあります」
 時間的にだというのだ。
「無論早期決戦にする必要がありますが」
「幸い元領は五つの星域からなるが」
 ここで東郷fが話す。
「今首都に当たるゲルが置かれているサマルカンド以外のモンゴル、サマルカンド、アフガン、カザフは全て満州と隣接している」
「それじゃあ一気に攻められるで」
 スペインは東郷の話を聞いてこう言った。
「それこそな」
「まずは軍を四つに分けてその四つの星域を制圧する」
 これが東郷の元への戦略である。
「そしてサマルカンドに全軍で攻め込む」
「二ヶ月で終わらせるんだね」
 フィリピンは話を聞いて述べた。
「そういうことだね」
「そうだ、二月だ」
 実際にそれでおわらせる、東郷は言い切った。
「元との戦いは二月で終わらせる」
「一応予定は三ヶ月とします」
 秋山は時間的な余裕をあえて設けて作戦を立てていた。
「ソビエト軍もそれ位でまた来るでしょうし」
「それまでの間によね」
 ララーも言う。
「元をやっつけちゃって」
「その頃には第八世代の艦艇も配備されます」
 主力の軍全てにだというのだ。
「それまでに終わらせましょう」
「了解しました」
 台湾兄が応えた。
「それでは」
「後だが」
 今度は山下が言う。
「サマルカンドからはソープ帝国に行けるな」
「あの国ですね」
「ソープ帝国は今どうなっている」
 秋山にこの国のことを問うたのだ。
「最近音沙汰がないが」
「情報が入って来ないですね、確かに」
 秋山は山下の問いにこう返した。
「海軍としましても」
「調べきれていないか」
「残念ですが」
「我々もだ」
 陸軍もまた然りだというのだ。
「あの国の現状はわからない」
「オスマン朝が倒れてからです」
 一次大戦後の革命で倒れた、そして今の国になったが。
「ソープ帝国が建国されて我が国とも交流がありましたが」
「今はだな」
「戦争がはじまってから通信が途絶えました」
「鎖国をしているのか」
「どうなのでしょうか」
「サマルカンドを攻略してからだ」
 それからだというのだ。
「少し調べたいな」
「そうですね」
「とりあえず元軍のことはもうわかっている」
 東郷はあらためて彼等のことを話した。
「その艦のことも国力もな」
「人口は少ない」
 山下も元のことは認識していた。
「そして軍の規模もだ」
「騎馬艦の装備は鉄鋼弾だけあるよ」
 中国はよく知っていた、伊達に長年彼等と戦ってきたわけではない。そもそも満州も本来は彼等の土地だったのだ。
「ビームやミサイルはないある」
「艦載機なんか特にある」
 中国妹もこのことを言う。
「だからビームとかでかなりやっつけられるある」
「そう考えると楽あるな」
「機動力と索敵能力はかなりのものあるが」
 こう分析されていく。
「特に、あるな」
「恐ろしい相手ではないあるよ」
 今の彼等にとってはだ、やはり兵器の近代化fが大きかった。
「第六世代の艦艇でも充分ある」
「やっていけるある」
「ネクスンはどうしてやられたんだ?」
 アメリカは元軍のことを聞いているうちにこう思ったのだった。
「何か一撃だったらしいな」
「あの人運がないからね」
 キャロルが困った笑みを浮かべてこう評した。
「だからね」
「仕方ないんだな」
「そう、靴紐が切れたのよ」
「そういえば彼はそういう時はいつも凄いことになるな」
「それでよ、何でもない一撃で全滅したのよ」
 まさにその通りだった。
「で、今日本に向かわせてるわ」
「暫く顔を見ないんだな」
「そう、暫くはね」 
 こう自分の祖国に話す。
「生きているからすぐに復帰するわよ」
「というか本人無傷なのね」
 ハンナの顔はいささか引いている。
「それも凄いわね」
「絶対に怪我一つしないからね」
 どれだけ壮絶な全滅をしてもだ。
「ある意味運がいいわね」
「彼は運がいいのかしら、悪いのかしら」
「いいんじゃないの?絶対に無傷で帰って来るのよ」
 キャロルはネクスンを幸運だと主張する。
「艦隊のメンバーも全員ね」
「けれど全滅させられてるわね」
 ハンナはこのことを指摘する。
「しかもいつも何でもない一撃を受けて」
「それで運が悪いっていうのね」
「全滅させられることは運が悪いってことよね」
「そうなるわね」
「ううん、じゃあ」
「彼は運が悪いんじゃないかしら」
 これがハンナの主張である。
「今回の元侵攻にも遅れることになったから」
「じゃあどっちなのかしら」
 キャロルも言われて判断に迷いだした。
「あの人って」
「とりあえず生きているから運がいいんじゃないか?」
 アメリカはそのキャロルとハンナにこう言った。
「普通は死ぬぞ」
「そうなるのかしら」
 ハンナはアメリカの言葉にも首を捻る。
「生きていたらなのね」
「運が悪かったらとっくに死んでるじゃないか」
 とかくネクスンの靴紐はよく切れる、そしてその都度大惨事を引き起こすがそれでもいつも生きているからだ。
「だから彼は運がいいんだ」
「そうなるのね」
「それじゃあ彼の幸運に期待しつつ行こう」
「復帰することをね」
「満州には私と首相、外相、酋長と山本提督が残る」
 柴神が言う。
「他の面々で攻めることになる」
「モンゴル方面は俺が率いる」
 東郷も具体的な作戦計画を話す。
「サマルカンドはダグラス提督だ」
「わかった」
 そのダグラスが応える。
「カザフはレーティア総統に頼みたい」
「うむ」
 今度はレーティアが応える、そして最後は。
「アフガンは田中提督だ」
「それは冒険ですね」
 小澤は田中が一方面の司令官を務めることにあえて言った。
「田中さんに任せられるとは」
「おい、そりゃどういう意味だ」
「常に独断専行をするので」
 だからだった、小澤が言うのも根拠のあることだった。
「心配です」
「ああ、アフガンの副司令は小澤中将だ」
 その彼女だった。
「田中大将のサポートを頼む」
「わかりました」
「そして制圧は陸軍に頼みたい」
「わかっている」
 山下が応える。
「ではこちらも軍を四つに分ける」
「そういうでいこう」
 東郷は山下の言葉にも頷いた、そしてだった。
 枢軸軍は元への反撃を開始した、四つの星域に同時に攻め込むという大掛かりな作戦を開始したのであった。


TURN96   完


                          2013・3・15



元との開戦はしない訳にはいかないしな。
美姫 「放っておくと背後からって可能性もあるものね」
ここに来て、軍を分けての侵攻だな。
美姫 「今までの経験から人も育っているだろうし、大丈夫よきっと」
さて、どうなる事か。
美姫 「気になる次回は……」
この後すぐ!



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