『ヘタリア大帝国』




                 TURN94  ソビエト参戦

 ヒムラーはホットラインの向こうの相手にまずはこう言った。
「ああ、俺だけれど」
「ヒムラー総統ですね」
「うん、そうだよ」 
 こう軽い調子で相手に返す。
「元気かな」
「はい、私もお嬢様も」
「そう、それは何よりだよ」
「有り難うございます、それで今回の御用は」
「うん、君達を傭兵として雇いたいんだ」
 単刀直入に言う。
「俺達の為にね」
「私達レッドファランクスをですね」
「そうだよ、報酬は前払いでね」
「どれだけのものを」
「君達が望むだけの額でいいよ」 
 それだけのものを前払いするというのだ。
「それでね」
「気前がいいですね」
「それだけのことがあるからね」
 少なくとも直接戦うよりもずっと安く済むというのだ。戦争というものは直接すると非常に金がかかるものなのだ。
 それに比べれば、ヒムラーの今の気前よさの根拠はそれだった。
「だからいいよ」
「左様ですか」
「うん、それでどうかな」
「それならです」
 相手は笑って応えて来た。
「この額で」
「いいよ」
 ヒムラーは言われた額で快諾した。
「それでね」
「わかりました、それでは」
「じゃあ早速頼めるかな」
「お任せ下さい、あの東郷長官を攻めてですね」
「枢軸軍自体をね」
「特にあの長官をですね」
 相手は何故か東郷にこだわる。
「それで宜しいですね」
「確かにあの長官が枢軸軍の実質的な司令官だけれど」
 ヒムラーは相手の言葉にいぶかしむものを見て言った。
「何かね」
「何かありますか?」
「君ひょっとしてあの長官が嫌いなのかな」
「はい、大嫌いです」
 相手もきっぱりと言い切ってきた。
「この世で最も」
「おやおや、あの長官は女性に好かれるらしいけれど」
「私は嫌いです」
 相手は自分の性別も肯定しながら答える。
「あの長官は」
「それがどうしてか気になるけれど」 
 だがそれでもだった、ヒムラーはそれをよしとして相手にさらに言う。
「まあそれは聞かないよ」
「そうですか」
「俺には関係のない話みたいだからね」
「お言葉ですがそれは実際に」
「そうだね、だから聞かないよ」
 実際にそうしたヒムラーだった。
「それでだけれど」
「はい」
「君達には期待しているから。整備や補給のフォローもするよ」
 これも直接戦争に加わることよりもリスクが低いからだ。
「そのことも任せてね」
「わかりました、それでは」
「頼んだよ」
 こうしてヒムラーはそのレッドファランクスを雇った、これで彼は手を打った。
 ソビエトはシベリアに戦力を集結させていた、見ればかなりの大軍だ。
 それを指揮するジューコフは会議室で副司令官を務めるリディアとロシア達に対して強い声でこう言った。
「数では我等が勝っているが」
「それでもですね」
「そうだ、枢軸軍は常にその数での劣勢を覆してきた」
 こうリディアに話す。
「油断の出来ない相手だ」
「しかも彼等は兵器をどんどん新しくしていきていますね」
「第八世代の艦艇まで備えてきているという」
 ジューコフはこのことにも言及する。
「余計に強くなっている」
「その枢軸軍との戦争は油断出来ませんね」
「ドクツ以上の相手かも知れない」
 こうまで言う。
「今回の満州への侵攻もだ」
「しかも満州はソビエトよりも暖かいからね」
 ロシアが言う、あくまで程度の問題で満州も寒いがそれでもなのだ。
「凍土とまではいかないから」
「我が軍得意の凍土戦術も使えません」
 ジューコフはロシアにも話した。
「それが問題です」
「そうなんだよね」
「我々はどちらかというと防衛戦を得意としています」
 ソビエトの国土においてのそれをだというのだ。
「ですから侵攻作戦は慎重に行います」
「今から攻めるにしてもですね」
 ロシア妹も言う。
「そうですね」
「その通りです、ではカテーリン書記長の放送を受けて」」
 それからだった。
「満州に攻め込みましょう」
「それじゃあね」
 ロシアが応えてだった。ソビエト軍はシベリアに集結したうえでカテーリンの枢軸への宣戦布告の時を待った。
 カテーリンはこの時モスクワにいた、傍にはミーリャ達がいる。
 その場で原稿文をチェックしながらそのうえで言った。
「これでいいわね」
「演説の文章のチェック終わったのね」
「うん、終わったよ」
 こうミーリャに答える。
「これでいいよ」
「カテーリンちゃんいつも演説の文章自分で書くよね」
「自分でしないと駄目じゃない」
 真面目な顔でミーリャに返す。
「自分が読むんだから」
「そうだよね」
「自分のことは自分で、よ」
 学級会の様なことをここでも言う。
「だからよ」
「そうだね、自分のことは自分でしないとね」
「他人任せにしてると貴族みたいになっちゃうから」
 カテーリンの持論の一つだ。
「自分のことは自分で」
「そしてお互いに助け合ってね」
「そうしたら何でもよくなるのよ」
 こう言うのである。
「世の中もね」
「それが共有主義だしね」
「だから私も自分のことは自分でするの」
 こう毅然として言う。
「演説もね」
「では同志書記長、今より」
 ゲーペがここでカテーリンに声をかける、
「演説をお願いします」
「うん、そうするから」
「頑張って下さい」
 ベラルーシも言って来た。
「演説の後でおやつの時間です」
「今日のおやつうは何だったかな」
「紅茶にケーキです」
 この組みわせだった。
「そのケーキですが」
「ロシアのケーキだよね」
「はい、それです」
「じゃあ演説が終わったら皆で食べよう」
 この場合の皆とはここにいる面々だけではない、ソビエト人民全員がそれに当てはまるのである。
「人民の皆が同じものを食べないとね」
「同じ時間にですね」
「そう、一人だけ違うものを食べても」
 それもだった。
「よくないことだから」
「その通りですね」
「だからベラルーシさんもね」
 その彼女もだった。
「一緒に食べようね」
「わかっています、では」
「枢軸なんて何処も資産主義だから」
 しかもである。
「帝とか王様までいるなんて絶対に許せないから」
「自分だけいい暮らししてるからだよね」
「あのロマノフ朝と一緒よ」
 ミーリャに語る、カテーリンから見れば皆同じなのだ。
「一人だけいいもの食べていいもの着て楽するから駄目になるの」
「お金もあってね」
「人は皆同じなのよ」
 カテーリンの考えの源泉である、彼女の場合はまずそこからだった。
「そんな一人だけ持っていたりとか偉いとか絶対に駄目だから」
「その通りだね」
「その資産主義の枢軸を懲らしめる為に」
 そして共有主義にする為にだった。
「今から枢軸に宣戦を布告するから」
「枢軸を倒した後はどうされますか」
 ゲーペは戦後の政策のことも問うた。
「そのことは」
「太平洋の人民はまず両手にお水を一杯入れたバケツを一つずつ持って三時間立ってもらうわ」
 まずはお仕置きからだった。
「資産主義なんか信じて好き勝手やってきた罰よ」
「それからですね」
「そう、皆一緒にするから」
 ソビエトとォなじ様にするというのだ。
「そうするわ」
「ではその様に」
「それからエイリスとドクツもそうするから」
「そしてその時には」
「どの国も共有主義にするから」
 身分も貧富の差も何もかもなくした社会にするというのだ、カテーリンにとってはこのことが絶対のことだった。
 そのことをゲーペに言ってからだった、放送演説の場所に赴くのだった。
 カテーリンの演説が世界の全ての者が聞いた、それは当然枢軸側もだ。
 太平洋軍の主力は既に満州にいる、そこにいてだった。
 東郷は港でカテーリンの演説をテレビで観ていた、傍には秋山と日本達がいる。
「資産主義は一部の人だけが楽をしているとんでもない主義です!共有主義はそんなことを絶対に許さないのです!」
「おい、エイリスも資産主義だぞ」
 フランスがこう突っ込みを入れる、立体テレビのカテーリンに。
「そこでそう言うかよ」
「その資産主義の巣窟である枢軸諸国に対して我がソビエトは宣戦を布告し皆を共有主義にしてあげます!」
 カテーリンは壇上で言い切った、演説文は全て頭の中に入れている。
「今より人類統合組織ソビエトは枢軸諸国に対して宣戦を布告します!」
「よし、遂にはじまったな」
 東郷はその言葉を聞いて言った。
「それではだ」
「はい、それではですね」
「今から」
「全軍出撃だ、ソビエト軍も動いている筈だ」
 秋山と日本に答える。
「シベリアから出撃してな」
「そうですね、では今から我々も出撃しましょう」
 秋山が応える。
「そしてそのうえで」
「暫く満州が最前線になる」
 そのソビエトとのだというのだ。
「相手の戦力が落ちて第八世代の艦艇が揃ってからだな」
「それからですね」
「ああ、ソビエトを攻める」
 そうするというのだ。
「それからな」
「わかりました、それでは」
 秋山も応える、こうしてだった。
 枢軸軍は港から出て布陣した、その布陣を終えた彼等の前に。
 ソビエト軍が来た、その数はというと。
「二百個艦隊です」
「やっぱり数は多いね」
 南雲が小澤に応える。
「ソビエトだけはあってね」
「はい、本当に」
 小澤も言う。
「ソビエト得意の物量作戦で来ています」
「しかも何かあるね」
 南雲は迫るソビエト軍の大軍を見ながら言った。
「これはね」
「潜水艦ですね」
「いるね、多分だけれど」
「はい、敵の布陣を見ますと」
 艦隊と艦隊の間に間隔が見られた、それ見てだった。
「ありますね」
「そうだね」
「ソナーですが」
 その対潜装備はというと。
「駆逐艦に応急的にですが」
「搭載を間に合わせてくれたね」
「何とか」
 それが出来たというのだ。
「大丈夫です」
「じゃあ潜水艦がいてもね」
「察知出来ます」
「それは何よりだね。味方にいると心強いけれど」
「しかし敵なら」
 それならだった。
「厄介です」
「本当にね、ソナーは有り難いね」
「今その潜水艦艦隊の場所と規模、艦種を識別しました」
 そのソナーを使ってだ。
「そうしました」
「あっ、早いね」
「南雲さんの艦隊でも出来ますよ」
「そうだね、じゃあやっておくか」
 南雲も小澤に続いてソナーのスイッチを入れさせた、そのうえでソビエト軍潜水艦艦隊の場所や規模を把握した。
 潜水艦はこれで問題なくなった、だが。
 レーティアはソビエト軍の赤く塗装された艦艇達の中に黒い艦艇達を見た、そのうえでその碧眼を鋭くさせて言った。
「ヒムラーめ、援軍は送ったか」
「ええ、そうね」
 何故か金髪のウィッグを着けて顔が透けて見える上半分だけの仮面を被っているグレシアが彼女の艦隊から応えた。
「ドクツ軍もいるわね」
「かつて率いた軍、部下達と戦うか」
「因果なことね」
「覚悟はしていた」
 日本に亡命したその時からだ。
「同胞達と戦うことはな」
「私もよ、ただ妹さん達は来ていないわね」
 グレシアはそのドクツ軍の艦隊を見て言った。
「あの娘達は本国かしら」
「そうかも知れないな」
「では指揮官はどなたでしょうか」
 エルミーも言って来た。
「ここに来ている彼等の中で」
「あれはトリエステの艦だな」
 レーティアは彼女の乗艦の姿を認めた。
「間違いない」
「そうね、あの艦はそうね」
 グレシアもその戦艦を見て応える。
「あの娘ね」
「まさか遠い北アジアで会うとはな」
「運命は皮肉なものね」
「全くだ・・・・・・むっ!?」
 レーティアはもう一隻の戦艦を見た、そこには。
 他ならぬ彼女の姿が描かれていた、戦艦にだ。
 その戦艦に乗っているのは誰か、レーティア達はすぐに理解した。
「マンシュタイン!マンシュタインか!」
「生きていたのね」
 グレシアはこのことにほっとしたものを感じた、だが。
「けれど敵なのね」
「マンシュタインは強い」
 レーティアが最もよくわかっていることだった。
「それもかなりだ」
「ええ、本当にね」
「尋常な相手ではない」
 こうグレシアに言うのだった。
「あの砲撃戦術はな」
「あのマンシュタイン元帥が来ているのですか」
 秋山が大和のモニターから血相を変えて出て来た。
「ドクツの熊と言われた」
「そうだ、間違いない」
「ソビエト軍にはジューコフ元帥がいます」
 見れば彼の乗艦ソビエト級戦艦もある、ソビエトが誇る大戦艦だ。
「そして副司令官は。潜水艦に乗っている様ですが」
「リディア=ロコソフスキー提督だな」
「ロシア兄妹も来ています」
 ロシアとしげも相当な顔触れを出して来たのだ。
「それに加えてですか」
「ドクツからはその二人だ」
 そうなっていた。
「この戦い、かなり厳しいか」
「そうなりそうですね」
「マンシュタイン達は私に任せてくれ」
 レーティアは自分から申し出た。
「あの二人はここで何とかしたい」
「総統、それでは」
「ロンメル、御前の力も借りたい」
 こうそのロンメルに告げる。
「いいな」
「わかりました」
「そしてグレシア、エルミー」
 二人に対しても声をかける。
「頼む、先生もだ」
「ええ、わかってるわ」
「そしてお二人を何としてもですね」
「止めましょう」
「出来ればここで捕虜にしてもう一度共に戦いたい」
 マンシュタイン、そしてトリエステとだというのだ。
「二人の実力は本物だ、だからな」
「そうね、二人が入れば鬼に金棒よ」
 人材豊富な枢軸軍にさらにだというのだ。
「それじゃあね」
「戦術は組み立てた、行くぞ」
「それではだ」
「俺達も参加させてもらうぜ」
「及ばずながら私も」
 ドイツにプロイセン、オーストリアも続く。
「マンシュタイン元帥には東部戦線での恩がある」
「後詰になり私達を撤退させてくれました」
 ドイツとオーストリアがこのことを言う。
「今度は俺達があの人を助ける番だな」
「それならば」
「じゃあ総統さん、指示を出してくれ」
 プロイセンはレーティアに対して言った。
「はじまるのと一緒にな」
「わかっている」
「ではドクツ軍は総統さん達に任せる」
 東郷はここで決断を下した。
「ソビエト軍は他の艦隊で相手をしよう」
「独蘇にそれぞれ兵を分けますか」
「ああ、そうする」
 日本にも答える。
「ここはな」
「はい、それでは」
「さて、そのソビエト軍だが」
 あらためて彼等の布陣を見る、見ると。
 主力艦隊は枢軸軍と対峙していた、そして。
 潜水艦艦隊は側面に移動してきていた、ソナーがそのことを知らせていた。
 東郷はそれを見て言った。
「まずは潜水艦だ」
「彼等を叩きますか」
「敵は主力で攻撃を仕掛けている隙にだ」
「我々の後方に潜水艦艦隊を回してですね」
「そして攻めるつもりだ」
 つまり挟み撃ちにするというのだ。
「姿が見えない艦隊でな」
「そうですね、ここは」
「俺達もよくやってきた」
 エルミーや田中の潜水艦艦隊を使ってだ、枢軸軍がここまで勝ち抜けた理由の一つである。
「それをして来るな」
「流石はジューコフ元帥です」
 リンファが言う。
「ソビエトの宿将だけはあります」
「そうだな、名将だ」
 東郷もこのことを素直に認める。
「若しソナーがなければな」
「私達は敗れています」
 潜水艦艦隊を見つけられない、それでだ。
「今の時点で」
「ソナーあってこそだ、しかしだ」
「はい、それではですね」
「全軍まずは正面のソビエト軍に向かう」
 ドクツ軍に勝るとも劣らぬ凄まじい火力、そして防御力を誇る彼等にだというのだ。見ればソビエト軍の艦艇は火力、防御力重視だ。
「そのうえでだ」
「そこで、ですね」
「仕掛ける」
 こう秋山に言う。
「彼等の動きに合わせてな」
「わかりました、それでは」
「では全軍前進だ」
 遂に指示が出された、今満州攻防戦の幕が開けた。
 枢軸軍はソビエト軍に向かう、そしてだった。
 ソナーを見る、見ればそこには。
 ソビエト軍の潜水艦艦隊がいる、彼等はというと。
 丁度枢軸軍の側面を移動していた、秋山はそれを見て東郷に言った。
「長官、我々に動きを合わせていますね」
「完全にな」
「そして我々の後ろに来てですね」
「暫くは大人しくしているだろうな」 
 あくまで暫くは、である。
「そして我々がソビエト軍主力と干戈を交えた時にだ」
「まさにその時に」
「来る」
 そうしてくるというのだ。
「間違いなくな」
「ではどうされますか」
「後ろに回らせるつもりはない」
 全くだというのだ。
「それはな」
「それでは今から」
「全軍側面攻撃に入れ」
 艦首を移動させてだというのだ、この場合は。
「右にな」
「そして敵の潜水艦艦隊にですね」
「攻撃を仕掛ける、いるのがわかっていればだ」
「そうであれば何ともありませんね」
「姿が見えている潜水艦程脆い兵器はない」
 運用しているからわかることだ、このことは。
「それではだ」
「はい、それでは」
 こうしてだった、枢軸軍はソビエト軍主力艦隊と向かう中で。
 一瞬で艦首を右にやった、そして。
「全軍攻撃だ」
「了解!」
 秋山が応えそうしてだった。
 艦載機やビームを放つ、それでだった。
 姿が見えない筈の潜水艦艦隊に攻撃を浴びせた、すると。
 暗黒の中に次々と炎が起こった、それこそまさにだった。
「何っ、姿が見えているのか!?」
「馬鹿な、潜水艦だぞ!」
「それで見えている!?」
「何故だ!」
 ソビエト軍潜水艦艦隊は驚愕の声を挙げた。彼等は姿が見えていないからこそ安心出来ていたのである。
 しかし見えている、それではだった。
「まずいぞ、姿が見えている潜水艦なぞ」
「ただの棺桶だ」
「おい、このままでは一方的にやられるぞ」
「俺達は只の動く的だ」
「水雷攻撃どころではないぞ」
「副司令、どうされますか?」
 館長の一人が潜水艦艦隊を指揮するリディアに問うた。
「ここは」
「そうね、ここはね」
 リディアは流石に冷静なままだ、だがだった。
 自身が率いる艦隊の惨状に危機感を覚えていた、だからだった。
「一旦退くしかないわね」
「はい、それでは」
「ここは」
「司令、そうしていいですか?」
 リディアはジューコフに指示を仰いだ。
「ここは」
「止むを得ないか」
 ジューコフはその隻眼の顔を難しくさせて答えた。
「ここは」
「最早これでは敵軍の後方を攻めるどころではありません」
「どうやら敵は既にソナーを開発しているな」
 ジューコフにはすぐにわかった、流石ソビエトの名将である。
「だから潜水艦の場所がわかっている」
「だからですね」
「潜水艦を使った作戦は放棄する」
 諦めるというのだ。
「ここはな」
「はい、それでは」
「しかし潜水艦は使う」
 作戦は放棄してもだというのだ。
「鉄鋼弾攻撃の時にな」
「わかりました、それでは」
「ソビエト軍の伝統戦術を行う」 
 その伝統戦術はというと。
「圧倒的な火力で押し切る」
「では同志ジューコフ」
「ビーム及びミサイルの広範囲攻撃だ」
「パイプオルガンですね」
 参謀の一人が言う。
「同志カテーリンの」
「そうだ、ここはだ」
「では今から」
 ソビエト軍はその得意とするビームとミサイルの広範囲攻撃に移ることにした、実際に。
 凄まじい火力での攻撃が行われた、それが枢軸軍を撃つ。
 ダグラスの乗艦エンタープライズにも次々と攻撃が来た、それには。
「おい、凄いなこれは」
「ええ、噂には聞いていましたが」
「予想以上ですね」
「第六世代の船でもまずいな」
 実際に攻撃を受けての言葉だ。エンタープライズのバリアも破られダメージを受けていく。
「持ち堪えられるか?」
「何とか」
「大丈夫だと思いますが」
 エンタープライズの艦橋にいる参謀達が答える。
「しかしもう一撃受けては」
「そうなっては」
「ああ、沈むな」
 ダグラスもそれはわかった、よく。
「これだけの攻撃をまた受けたらな」
「今のところ全滅している艦隊はありません」
 それはなかった、だが。
「全艦隊かなりのダメージを受けています」
「多くの艦隊の損傷が五十パーセントを受けています」
 無論ダグラスの艦隊もだ。
「これではです」
「次の攻撃を受ければ」
「負けるな、俺達が」
 ダグラスは警報が鳴る艦橋の中で言った、エンタープライズは大きく揺れているが彼はそこにしかと立っている。
「鉄鋼弾も来るしな」
「それを何とか凌いで」
「それからですね」 
 枢軸軍の艦載機とビームは潜水艦艦隊への攻撃に向けていた、それでソビエト軍主力への攻撃は弱かったのだ。
 これはわかっていた、だがだった。
「本当にこれは」
「尋常な攻撃ではありませんね」
「ソビエト軍は数だ」
 ダグラスも知っていることだった。
「圧倒的な火力で来るからな」
「まさにパイプオルガンですね」
「あのカテーリン書記長の」
「あいやーーーーー、戦艦旅順大破あるよ!」
 中国が己の艦隊の戦艦の一隻を見て声をあげていた。
「何という攻撃あるか!」
「中国さん無事か?」
 ダグラスは冷静な目でその中国に問うた。
「そっちは」
「大破でも何とか動いているある」
「あんたの戦艦もか?」
「何とかある」
 もっているというのだ、見れば彼の乗艦もかなりのダメージを受けている。
「首の皮一枚ある」
「もうすぐ敵の攻撃も終わるからな」
 そのパイプオルガンの如きものもというのだ。
「だからな」
「その時にあるな」
「まずは鉄鋼弾攻撃だ」
 最早枢軸軍の十八番になっている。
「それからだ」
「それで、あるな」
「次の攻撃で終わらせる」
 彼等の艦載機、ビームでの攻撃でだというのだ。
「それを仕掛けるからな」
「それまでの辛抱あるな」
「もうすぐだ」
 鉄鋼弾攻撃のそのはじまりはというのだ。
「待とうな、今は」
「わかったあるよ」
「まあこれは想定してるさ」
 ソビエト軍の火力を使った攻撃はというのだ。
「ソビエト軍相手だからな」
「そうあるな、流石はソビエトある」
「けれどな、やられっぱなしじゃないんだよ」
 ダグラスの目がまた光った、そのサングラスの奥の。
「やられたらな」
「やり返すあるな」
「それも二倍三倍にな」
「それならあるな」
「こっちの水雷攻撃の後だ」
 それからだった。
「敵の動きを止めて艦載機を放ってな」
「次にビームあるな」
「それでカタをつける」
 完全に、というのだ。
「そうするからな」
「わかったある、あと少しの辛抱ある」
「ああ、もう少しだよ」
 枢軸軍は今は待っていた、そして。
 敵のミサイル攻撃が終わったその時にだった。 
 東郷は手負いの猛獣達を放った、全軍に命じる。
「よし、今からだ」
「はい、水雷攻撃ですね」
「全艦隊、潜水艦艦隊も入れてだ」 
 そのうえでだというのだ。
「鉄鋼弾を放て、いいな」
「その鉄鋼弾の種類は」
「酸素魚雷だ」
 それだというのだ。
「ホーミング式のな」
「あれを使いますか」
「今が使う時だ」 
 まさにだというのだ。
「だからだ、いいな」
「わかりました、それでは」
 こうして全艦、水雷攻撃が可能な艦艇全てにホーミング式の酸素魚雷が装填された、そのうえでだった。
 その酸素魚雷が一斉に放たれる、猛獣達が牙を放ったのだ。
 牙達は唸り声を挙げ蛇の様にしてソビエト軍に迫る、そうして。
 ソビエト軍の艦艇に炸裂し炎に変えていった。
「戦艦クルスク撃沈!」
「巡洋艦コズイレフ轟沈です!」
 悲報が次々と挙がる。
「同志達は何とか退艦出来ています」
「ですが艦艇は」
「今度は艦載機です!」
 まさに間髪入れずだった、枢軸も隙を見せない。
「こちらの鉄鋼弾攻撃は間に合いません」
「とてもですが」
「怯むな」
 ジューコフはこう言うだけだった、今は。
「では再びですか」
「ここは」
「再度パイプオルガンを行う」
 その広範囲攻撃をだというのだ。
「そうする」
「軍の損害が大きい場合は」
「ドクツ軍がいる」
 今は同盟軍である彼等がだというのだ。
「その彼等の力を使う」
「今はですね」
「そうだ、彼等が敗れればだ」
 その時はというのだ。
「シベリアまで退き戦力を整えるがだ」
「今は、ですね」
「まだ撤退の時ではない」
 こう言うのだ。
「わかったな」
「わかりました、同志」
 ソビエト軍はまだ戦うことになった、友軍であるドクツ軍に枢軸軍の側面を衝かせるつもりだったのだ、だがそのドクツ軍は。
 レーティアはモニターのドイツとプロイセンにこう話していた。
「やがてはだった」
「ドクツもか」
「航空母艦をって考えてたんだな」
「試作型は考えていた」 
 それはだというのだ。
「名前も決めていた」
「グラーフ=ツェペリンね」
 ここでグレシアが言う。
「あれだったわね」
「独ソ戦が終わってからだった」
「それでエイリスも何とかして」
「欧州を統一してから本格的に開発するつもりだった」
 その航空母艦をだというのだ。
「機動部隊もな」
「パイロットも育成してか」
 ドイツも言う。
「そのうえでか」
「そう考えていた、やはり空母は強力な兵器だ」
 レーティアもこのことはよく認識していた、やはり人類史上最高の天才だけはある。
 そしてそれ故に今もだというのだ。
「この戦いではだ」
「こっちには空母があるわよ」
 丁度グレシアが率いている。
「それを使うのね」
「グレシア、艦載機でマンシュタインの艦隊を狙ってくれ」
「元帥の乗艦をよね」
 そのレーティアを描いた戦艦をだというのだ。
「狙って攻撃をして」
「今のドクツ軍の艦艇には防空態勢がない」
「つまりそれを使って」
「そうだ、まずはマンシュタインだ」 
 他ならぬ彼を攻めろというのだ。
「あの男を何とかすれば砲撃はなくなる、あの的確な長距離攻撃がな」
「それは助かります」
 ロンメルが言って来た。
「正直なところあの人の砲撃は驚異ですからね」
「ロンメルから見てもだな」
「はい、味方ならばこの上なく頼もしいですが」
 それが敵に回ればというのだ。
「あの正確かつ圧倒的な火力での長距離攻撃はドクツ軍の武器の一つでした」
「御前の機動攻撃と同じくな」
「はい、トリエステ提督も名将ですが」
 マンシュタインはまた別格だった。
「あの人の攻撃があるとないのとで大違いです」
「ではだ」
「ええ、まずはね」
 こう言ってそしてであった。
 まずはマンシュタインを狙うことにした、そしてだった。
 レーティアはそのトリエステ達も見て言う。
「ロンメル、そしてプロイセン君」
「はい、俺達はですね」
「機動力を活かしてだな」
「そうだ、敵の側面に回ってくれ」
 そのうえで攻撃してくれというのだ。
「エルミーと先生は敵の後方だ」
「潜水艦はですね」
「今のうちに回れ」
「わかりました」
「私は祖国君、オーストリア君と共に主力部隊を率いて正面から攻める」
「それでは」
「はい、それでは」
 こう話してそのうえでだった。
 まずはグレシアの機動部隊から艦載機を放つ、日本から借りた艦載機達が次々と飛び立ちそうしてだった。
 防空システムのないマンシュタイン艦隊に向かう、そして。
 マンシュタインの戦艦を即座に大破させた、大破させたのは彼の戦艦だけで他の艦艇はこれといってダメージを受けていなかった。
 だがレーティアはこのことに満足してグレシアにこう言った。
「よくやってくれた」
「これでいいのね」
「どんな猛獣も頭を叩けば倒れる」
 だからだというのだ。
「これでいい、後はだ」
「ええ、後はね」
「トリエステだけだ、彼女も強いが」
 それでもだというのだ。
「これだけの顔触れなら勝てる」
「それではですね」
「三方向から同時に攻撃を仕掛ける」
 既に潜水艦艦隊は大きく迂回している、このことを把握してだった。
「ではいいな」
「ああ、じゃあやるか」
「マンシュタイン、トリエステ、二人共願わくば」
 これはレーティアの心の言葉だ、それを今出すのだった。
「また私のところに戻ってくれ、ドクツの為に」
「その為にもよね」
「ここは倒させてもらう」
 こうグレシアに返す。
「捕虜としてな」
「そういうことね。マンシュタイン元帥は何とかしたから」
 艦載機でその動きを止めた、そして次はだった。
「後はシュテティン提督ね」
「彼女もいれば大きい」
 戦力としてjかなりのものだというのだ。
「それではだ」
「総統、既に後方は抑えました」
 エルミーが極秘通信から連絡してきた。
「それではですね」
「こちらもです」
 ロンメルも言って来た。
「では今からですね」
「そうだ、同時攻撃を仕掛ける」
 レーティアも指示を出す、そのうえで。
 今いるドクツ軍で全員で攻めることにした、そのドクツ軍を見て。
 ドクツ軍副司令官であるトリエステは己の乗艦の艦橋から言った。
「この動きは」
「はい、ドクツ軍の動きですね」
「間違いなく」
 部下達も答える。
「後方には敵はいませんが」
「ですがおそらく」
「いるな」
 トリエステは確信していた、何故なら。
「潜水艦がだ」
「そして側面の艦隊の動き」
「あれは」
「ロンメル元帥か」
 トリエステがよく知っている動きだった。
「そうだな」
「しかもプロイセン殿もおられるのでは?」
 参謀の一人がもう一個の艦隊の動きを見て言う。
「あれは」
「そんな筈はないがな」
 トリエステもプロイセン、それにドイツとオーストリアは病気で公の場に出られないと思っている。無論レーティア達は自害したとだ。
「幾ら何でもな」
「はい、ですが」
「あの動きは」
「正面だ」
 彼等のことも話す。
「あの艦隊の動き、まさか」
「あの水際立った采配は」
「有り得ないです」
「ですがあれだけの動きを出来る方は」
「お一人しか」
「総統閣下か!?」
 トリエステはここで言った。
「有り得ない、生きておられる筈が」
「はい、総統閣下は自害されました」
「宣伝相と共に」
「その筈だ」
 ドクツ、いや連合の誰もが思っていることだ。だが。
 その動きは間違いなかった、レーティアの采配だった。
 そしてその動きで来た敵軍に完全に囲まれてだった。
 ドクツ軍は周囲から攻撃を受けその動きを完全に止めた、それを見てジューコフも苦い顔でこう指示を出した。
「こうなっては仕方がない」
「うん、撤退だね」
 ロシアがそのジューコフに応える。
「こうなったらね」
「はい、シベリアまで撤退し」
「また戦力を再編成してだね」
「攻めましょう」
 こうするしかなかった、頼みのドクツ軍が全滅しては。
 こうしてソビエト軍は撤退した、だがその後詰を務めているリディアの艦隊が田中が率いる潜水艦艦隊に見つかった。
 発見した敵を見逃す田中ではない、それでだった。
「おい、あの潜水艦を攻撃だ」
「はい、敵は一隻でも多くですね」
「倒しておくに限りますからね」
「そうだよ、じゃあいいな」
 田中は自らソナーを見ながらリディアの艦隊をチェックしていた。
 そのうえで彼女の艦隊に昇順を合わせ。
「魚雷発射だ!」
「魚雷発射!」
 命令が復唱されてだった。
 田中の艦隊から魚雷が一斉に放たれる、その魚雷で。
 リディアの乗艦は腹部に魚雷を受けた、まさに直撃だった。
 しかし幸い爆発はせず突き刺さった形になった。それでリディアは命拾いをした。
 だが戦闘不能になったことは確かだ、それで言うのだった。
「こうなったら仕方ないわね」
「降伏ですか、ここは」
「そうされますか」
「うん、もう皆シベリアまで撤退したからね」
 任務は果たした、それならというのだ。
「降伏しましょう」
「はい、わかりました」
「それでは」
「とりあえず降伏を打診してね」
 それだというのだ。
「この艦から脱出しましょう」
「ええ、何時爆発するかわかりませんから」
「それでは」
 こうしてだった、リディアは枢軸軍に降伏することになった。
 ソビエト軍の最初の大規模な攻勢は失敗に終わった、報告を聞いたカテーリンはモスクワでぷりぷりとして怒った。
「とりあえずシベリアに戻った皆は一時間立ってなさい」
「全員ですか」
「そう、全員よ」
 こうゲーペにも言う。
「ジューコフ元帥も祖国君もよ」
「敗北の責でしょうか」
「負けたのは事実だし降伏した人達を助けられなかったからよ」
 カテーリンはむしろ後者を問題視していた。
「だからよ」
「わかりました、それでは」
「皆一時間直立不動で起立」
 その罰を正確に言う。
「それから再編成にかかります」
「畏まりました」
 ゲーペはカテーリンに敬礼して返した。
「それではその様に伝えます」
「お願いします先生、いえ長官」
 咄嗟に言い換えもする、ミーリャがそのカテーリンにこの話を言って来た。
「あとカテーリンちゃん」
「どうしたの?」
「ドクツのヒムラーさんが海賊を雇ったらしいよ」
「海賊?」
「そう、レッドファランクスね」
「レッドファランクスって各地を荒らしているあの」
「そう、何でもヒムラーさん海賊の人達と知り合いだったらしくて」
 それでだというのだ。
「協力を取り付けたらしいのよ」
「傭兵に雇ったのですね」
 ベラルーシが言って来た。
「そうですね」
「そうなの、私達の援護に回るらしいよ」
「海賊は許せないけれど」
 潔癖症のカテーリンが許す筈もない存在だ、だがだった。
「それでもね」
「うん、傭兵ならいいよね」
「満州での戦いの援護に回ってくれたら」
「そうヒムラーさんに伝えておくね」
 こうした話をしてだった。
「こっちに回して欲しいって」
「うん、お願い」
「まずは満洲を陥とさないと駄目だから」
 ソビエトから攻めるにはまずは満洲を攻略しなければどうにもならない、これは地政学的な要因からである。
 枢軸軍は満州での戦いに勝ったがそれで終わりではなかった、連合軍はまた新たな手を打とうとしていた。


TURN94   完


                            2013・3・11



ソビエトとの対決がいよいよ始まったな。
美姫 「初戦は何とか勝利できたわね」
マンシュタインも捕虜にできたみたいだし。
美姫 「この調子でいければ良いけれど……」
不気味なのがレッドファランクスの動きだな。
美姫 「彼女たちがどう動いてくるのかよね」
そんな気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



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