『ヘタリア大帝国』




                   TURN92  パルプナ=カラード

 エイリスの動きは迅速だった。
 モンゴメリーはマリー、そしてイギリス兄妹と共に南アフリカに入った、南アフリカもまたエイリスの植民地戦略の重要拠点だ。
 その南アフリカの港でイギリスはモンゴメリーに言った。
「ここもな」
「はい、危ういですね」
「今や最前線だしな」
「しかもここでも独立運動が活発化しています」
「枢軸の連中は仕掛けてないけれどな」
 彼等はずっと中南米に戦力を集中させていた、工作員の数でも最早連合を圧倒しているがそもそも枢軸の中心である日本がそうした工作を好まないのでそれはなかった。
 だがそれでもなのだ。
「ソビエトの奴等がな」
「あのゾルゲは来ていませんが」
「あいつは来ていないけれどな」
「共有主義を吹き込み盛んに独立を煽っています」
「貴族も資産家も打倒しろってな」
「彼等は全世界の共有主義化を目指しています」
 このことはカテーリンが堂々と公言している。
「その彼等から見れば我々の植民地は」
「エイリス自体がな」
 王制であるこの国自体がだというのだ。
「目障りな存在だからな」
「ですから今からです」
 戦争中だが既にだというのだ。
「残されているアフリカの植民地に盛んに工作を仕掛けています」
「同盟国ではないですね、最早」
 横からイギリス妹が言って来た。
「ソビエトは」
「ドクツもね、スエズからの攻勢を要請したけれどね」
 マリーが浮かない顔で話す。
「それでもね」
「絶対嘘だな、再編成が整っていないとかな」
「はい、時間は充分にありましたから」
 妹が兄の不平に答える。
「間違いなく」
「ここは戦力を温存するつもりだな」
「ドクツの港を密かに見ました」
 イギリス妹はそこからチェックしていた、ど靴に赴いた際に。そのこともまた兄達に対して話したのである。
「新型の艦艇fが揃い精兵達が訓練に励んでいました」
「やっぱりそうか」
「何時でも攻勢に出られます」
 それがドクツの現状だった。
「どうやらまだ公にされていない新型艦もありましたし」
「それも気になるな」
「それまでは確かめられませんでしたが」
 潜入はしたが、というのだ。
「しかしドクツが既に戦力を再編成し終えていることは確かです」
「つまり俺達に戦わせてか」
「消耗させて漁夫の利を狙っています」
「今度の総統は煮ても焼いてもみたいね」
 マリーが顔を曇らせて言う、今は四人で港を進み南アフリカの惑星の中に入ろうとしていた、その中でだった。
「あの人は」
「ああ、全くだな」
 イギリスはそのマリーの言葉に答える、
「随分とな」
「ドクツも明らかに我々を敵視していますな」 
 モンゴメリーが言った。
「ソビエトと同じく」
「連合はお互いに敵同士だな」
 イギリスはこの現実を今言葉に出した。
「完全にな」
「そうですね、我々の敵は枢軸だけではありません」
「ソビエトにドクツにな」
「植民地の独立運動に」
 まだあった、今度は。
「貴族達に」
「あの連中も何とかならねえのかな」
「エイリスはどうなるのでしょうか」
 イギリス妹も不安を感じずにはいられなかった、長年エイリスの軍師としてこの国を支えてきた彼女であるが。
「正常で機能しているのは軍と市民の方々だけです」
「そうだな」
「はい、本当に」
 内外に敵を抱えている、それが今のエイリスだった。
「エイリスはじまって以来の危機です」
「だから今度こそはな」
「勝たなければなりません」 
 こう兄に返す。
「どうしても」
「だからです」
 モンゴメリーが二人に言う。
「ここは正規軍だけではなくです」
「あの娘の力を借りるか」
「そうしましょう、ただ」
 モンゴメリーは決意に加えて後ろめたいものもその顔に見せた、そのうえでイギリス達にこうも言ったのだった。
「あの娘を利用するのは」
「ああ、それはな」
「よくないことです」
「戦場に立つのは軍人だけでいいからな」
「彼女は軍人ではありません」
「凄く優しい娘だよな」
「その娘を戦場に送り出すというのは」
 それはとてもだった。
「やはりどうしても」
「仕方ないか」
「そうなりますな」
 こうした話をしてだった、一行は南アフリカに降り立ちそうしてだった。
 総督の官邸に行く、すぐに太って天辺が聖職者の様に禿げた総督が彼等を出迎えた、だがその総督はだった。
 イギリスは恭しい出迎えをその右手で制してこう言った。
「あの娘はいるか?」
「パルプナですか」
「ああ、あんたの秘書だったよな」
「はい、そうです」
 その通りだと答える総督だった。
「ですがその、誓って言いますが」
「酷いことしてないでしょうね」
 マリーがむっとした目で総督を見て問うた。
「隠してもばれるわよ」
「その様なことは全く、祖国殿達に誓って」
「だといいけれどね」
「そのパルプナですね」
 総督は必死の顔で汗をしきりに拭きながら答える。
「ご用があるのは」
「ああ、ちょっと会いたいんだけれどな」
「わかりました、それでは」
 こうしてその少女パルプナ=カラードがイギリス達の前に出て来た。薄紫の波がかった長い髪の毛に褐色の肌をした整っているが弱々しい表情の少女だ。赤紫の優しい光の垂れ目が印象的だ。
 よく見れは長い髪をおさげにして左右に分けている、頭には褐色のカチューシャの様なリボンもある。リボンと同じ色と白のドレスを着ている。服は見事だがやはりおどおどとした態度である。
 そのパルプナを連れて来て総督は言うのだった。
「ちゃんと提督待遇ですし、食事も部屋もちゃんとしていますし」
「とにかく虐待はしていないのね」
「それはもう、前任者の様には」 
 前任者はマリーが来たと同時にその統治の実態を知った彼女によって更迭された、それで来た総督なのだ。 
 その総督がこう言ったのである。
「私は全くです」
「わかったから、もういいわよ」
「はい、私は別に虐待なぞはしていませんので」
 前任者と違い、というのだ。
「そのことはもうご安心下さい」
「とにかくね、この娘がね」
「はい、怪獣を操ることが出来ます」
 総督はパルプナを指し示して話す。
「それはもうかなりのものでして」
「わかったわ。じゃあパルプナだったわね」
「は、はい」
「いや、別にいじめないから」 
 びくっとしたパルプナにすぐに返す。
「怯えないでいいわよ」
「怯えないでいい・・・・・・」
「この総督にもさせないし。僕が来るまではね」
 それまでは違ったが、というのだ。
「とんでもなかったからね」
「俺もな、至らなかったよ」
 イギリスも顔を顰めさせて話す。
「本当にな」
「祖国・・・・・・さん?」
「そう呼んでくれていいからな」
 イギリスはパルプナを落ち着かせる様に告げた。
「あんたもな」
「そうなの」
「俺は別にあんたに何もしないさ」
 暴力やそうしたことはというのだ。
「確かに植民地は持ってるさ」
「それでも?」
「けれど俺の中にいる国民だろ?国家が国民いじめてどうするんだよ」
「私・・・・・・いじめないの?」
「ああ、しないさ」
 そうだというのだ。
「全くな」
「そうなの」
「ああ、そうだよ」
 パルプナにあえて穏やか口調で話す、言葉遣いはいつも通りだが。
「だから安心してくれ」
「本当に?」
「ああ、本当にだよ」
「信じていいの」
「どういった目に遭ってきたんだよ、一体」
 イギリスはパルプナの用心深いおどおどした仕草にいい加減異様なものを感じてそのうえでマリーに対しいて問うた。
「王女さん、南アフリカってな」
「うん、特に酷い統治だったからね」
「それでか」
「だから僕も怒ったの、嫌なものも見たしね」
 どういったものかはあえて言わない。
「総督も交代してもらったし、姉様に直接言ってね」
「そういえば言ってたな」
「うん、とにかく植民地全体が酷い場所が多いからね」
「東南アジアとかインドはましだったんだな」
「だって祖国さん達よく行ってたから」 
 東南アジア等にはというのだ。
「あそこには国家もいるじゃない」
「ベトナムとかマレーシアか」
「そう、それでなの」
 こう話すのだった。
「東南アジアとかはましだったのよ、ずっとね」
「アフリカは違うか」
「国家はこの辺りはカメルーンさんだけよね」
「ああ、確かにな」
「国家の人がいると目があるからね」
 だから問題ないというのだ。
「貴族も大人しいけれど」
「けれどか」
「南アフリカは国家もいてくれてないから」
 それでだというのだ。
「ここは特に酷かったのよ」
「成程な」
「うん、僕もここに来るまで気づかなかったから」
 マリーも普段とは違い暗い顔である、彼女にしては珍しい顔である。
「不覚だったよ」
「やはり戦争の後で植民地政策を改革する必要がありますな」
 モンゴメリーが難しい顔で言う。
「この娘の様な娘を増やさない為にも」
「そうですね、戦争がなければ実際にそうしていましたが」
 イギリス妹が無念の顔で言う。
「戦争が起こってしまいそれどころではなくなりました」
「全く、どうしたものだよ」
 イギリスも苦々しい顔だ。
「植民地をどうにかしねえとエイリス自体が危ういな」
「うん、植民地がないとエイリスは没落するけれど」 
 マリーもこのことはわかっていた。
「植民地をちゃんとしないとね」
「同じだからな、しかし本当に不覚だった」
 イギリスはこの上なく苦々しい顔で言った。
「こんな娘がいてほったらかしにされてるなんてな」
「けれど本当に大丈夫だよ」
 マリーもパルプナを気遣う顔で言った。
「安心してね」
「そうなの」
「提督として戦ってもらうけれどね」
 このことは申し訳なさそうに言うマリーだった。
「それでも大丈夫だからね」
「私が戦う」
「枢軸軍が来るからね」
 だからだというのだ。
「戦ってね」
「無論私達も一緒です」
 イギリス妹も言う。
「共に戦いましょう」
「一人じゃないし、嫌だったらいいから」
 マリーのこの言葉は独断である、しかしあえて言ったのである。
「無理もしなくていいから」
「レディ、どうされますか?」 
 モンゴメリーは騎士らしく毅然とした礼節を以てパルプナに優しく言った。
「貴女の望むままに」
「私が戦ったら何が」
「南アフリカ臣民の権利を保障します」
 モンゴメリーは確かな声で答えた。
「女王陛下の命により」
「女王?」
「はい、そうです」
「まず俺が今保障するからな」
 国家であるイギリスの言葉だ。
「だから安心してくれよ」
「私だけじゃなくて」
「ああ、ここの皆もだからな」
 まずイギリスが保障したのだった。
「安心していいぜ」
「私が戦えばさらに」
「ああ、さらにだよ」
 今度はセーラも保障するというのだ。
「だから安心してくれよ」
「皆を大事にしてくれるのなら」 
 パルプなのその言葉が動いた、感情がそこにあった。
「私、皆の為に」
「戦ってくれるのですね」
「はい・・・・・・」
 イギリス妹の問いに小さくこくりと頷いて返す。
「私が役に立てるのなら」
「よし、じゃあ頼んだぜ」
 イギリスは微笑んでパルプナに話した。
「じゃあ今から一緒にティータイムにするか」
「お茶?」
「ああ、紅茶にお菓子な」
 そういったものを一緒に飲んで食べようというのだ。
「一緒にどうだよ」
「祖国さんと一緒に」
「当たり前だろ、これからは一緒に戦うんだからな」
 イギリスは今度は気さくな笑みだった。
「だったら当然のことだよ」
「私達は戦友になるのだよ」
 モンゴメリーの笑みは優しい、彼も貴族、しかも門閥貴族の出だがそれでもその権門はかなりのものだ。
 だがやはり彼は騎士だ、しかも心正しい。それ故にパルプナを公平に見てそのうえで彼女に言ったのである。
「だから当然だよ」
「じゃあ」
「どうするのかな、それで」
「お願い・・・・・・します」
 パルプナは小さな声で答えた。
「それで」
「よし、じゃあ決まりだな」
「今からお茶を淹れますので」
 イギリス兄妹が笑顔で応える。
「お菓子は俺が作ってるからな」
「えっ、祖国さんのなの?」
 マリーはあえて嫌そうな笑みを作ってイギリスに返した。
「祖国さんのスコーンもサンドイッチもまずいからね」
「おい、マリーさんまでそう言うのかよ」
「だって本当にまずいんだもん」
「では私が作ったものを出します」
 イギリス妹がすかさず言う。
「兄さんは紅茶をお願いしますね」
「ああ、パルプナさんにまでまずいって言われたら堪えるからな」
「ははは、祖国殿のお料理の腕は相変わらずの様ですな」
 モンゴメリーも何気に容赦がない、笑ってきついことを言う。
「しかしあの味がかえって親しみを感じますが」
「そうなのかよ」
「はい、そうです」
「だといいけれどな」
「しかしパルプナ嬢のお口に合うとは思えないので」
 その理由は言うまでもない。
「ですから」
「わかったよ、それじゃあな」
 イギリスも笑みを浮かべて今回は下がることにした、それでイギリス妹が作った三段セットを出すことにした。
 一行はパルプナと共に最初の親睦の場を持った、そしてだった。
 ティータイムを楽しく過ごしてからだった、モンゴメリーはイギリスと二人になったところで彼にこう問うたのだった。
「先程ですが」
「マリーさんの言葉か」
「パルプナ嬢に戦わなくていいと仰いましたが」
「俺は止めなかったぜ」
「私もです」
「あの娘の力は必要だよ」
 イギリスはエイリスの今の辛い状況を思いこう言った。
「それはな」
「はい、そうです」
「しかしな、あの娘は提督になってもな」
「正式の軍人ではありませんでした」
「何も知らない、しかも関節的にでも俺達が酷い目に遭わせてきた娘だからな」
「その娘を利用するというのは」
「間違ってるからな」
 イギリスは難しい顔で言った。
「そういうことはな」
「はい、そうです」
「だからマリーさんもああ言ったんだよ」
 マリーにしてもそれがわかっているから言ったというのだ。
「俺も同感だしな」
「妹殿もですね」
 そしてモンゴメリー自身もだ、彼もそうなのだ。
「戦いは軍人だけが行えばいいのです」
「普通の娘を利用するのは間違ってるんだよ」
「ですからマリー様も仰いました」
「あの娘は戦いを選んだけれどな」
「それでよかったのでしょうか」
「戦略的には仕方ないんだよ」
 イギリス自身が最もよくわかっていることである、とにかくエイリスはそこまで追い詰められているのだ。
「だから有り難いけれどな」
「はい、ですが」
「せめてあの娘の負担にならない様にしないとな」
「そうですね、我々も健闘して」
「そうしような」
 イギリスもまたモンゴメリーに告げた。
「この戦いはな」
「はい、そうですね」
「マダガスカルか」
「オフランスの植民地でしたが枢軸が独立させました」
 そのうえで経済圏に入れているのだ。
「そのマダガスカルにまず攻め入りましょう」
「わかった、それならな」
 こう言ってそしてだった。
 エイリス軍はパルプナも入れてマダガスカルから攻め入ることにした、だがそれは既に枢軸側も察知していた。
 その彼等はというと。
 東郷が率いる主力艦隊はマダガスカルに集結していた、そのうえでエイリス軍を待ち受けていたのである。
 ただ一つ懸念材料があった、それはというと。
「スエズ方面からの侵攻ですが」
「そっちはどうなんですか?」
 アグニが日本に問う。
「来ますか?連動して」
「スエズを領有しているエイリス軍は南アフリカに集結しています」
 だからスエズからは来ないというのだ、彼等は。
「そしてドクツ軍もです」
「来ないんですね」
「はい、どういった事情か本国に戦力を温存させています」
「そうなんですか」
「私も彼等は来ると思っていましたが」
 日本はいぶかしむ感じになっていた。
「しかしそれが」
「おそらく連合国同士で足並みが揃っていないのでしょうね」 
 クーがこう言って来た。
「元々エイリスとソビエトは上手くいっていませんでした」
「最初からですか」
「はい、傍から見ていてもわかりました」
「っていうかね、エイリス連合の中で孤立してたのよ」
 キャロルもその辺りの事情を話す。
「ガメリカも全然援助しないでむしろ植民地の独立をすぐに承認して力を弱めてたしね」
「そっちの方が都合がよかったからね、太平洋経済圏を作る為にはね」
 中帝国のランファも言う。
「だからエイリスは一切助けないで日本に植民地を解放してもらってたのよ」
「こっちにしてもエイリスが強いと目障りだったってことなの」
 キャロルはあっけらかんとして語る。
「それで一切フォローしなかったのよ、こっちもね」
「それはソビエトも同じですので」  
 クーがまた話す。
「まずエイリスとソビエトが上手くいっていません」
「そしてドクツもなのよね」
 かつてそのドクツの宣伝相だったグレシアの説明である。
「今は同盟関係でも基本的に利害が衝突してるの」
「ドクツは今でも欧州の盟主になろうとしているのですね」
「ええ、ヒムラーもそう考えているわね」
 これはグレシアの読みだ、目にそれが出ている。
「じゃあエイリスを助けるかっていうと」
「ありませんか」
「どうせエイリスやソビエトを戦わせて漁夫の利を得るつもりよ」
 まさにその通りだったりする。
「そうするつもりよ」
「だからですね」
「ええ、ドクツは来ないわ」
 そしてソビエトもだというのだ。
「今はマダガスカルに専念出来るわよ」
「それは有り難いですね」
「あれっ、イタリンは?」
 ここでふと気付いたのはイタリアだった。
「俺も国はどうなの?」
「あっ、イタちゃんのお国もあったわね」
「そうだったわね」
 キャロルもランファもイタリアの登場にはっとした顔になる。
「御免御免、忘れてたわ」
「今連合国だったわね」
「そうなんだよ、何かすぐに忘れられるけれど」
「イタちゃん達ここにいるからね」
 グレシアはそのイタリアに親しげに話す。
「だからよ」
「そうなのかな」
「うん、そうよ」
 ここでまた言うのだった。
「まあ今の連合国のイタリンは戦力的にはあてにされてないみたいだけれどね」
「妹達がいるよ」
 実はイタリンは妹達の方がずっと強かったりする。
「それでもなんだ」
「まあねえ、イタちゃんの本骨頂は戦争じゃないから」
「けれどいない様に思えるのはね」
 どうかというのだ。
「それは嫌だなあ」
「まあまあ、とりあえず今の相手はエイリスだけよ」
 マダガスカルに来る彼等だけだというのだ。
「他は今は来ないからね」
「ここでエイリス軍を叩けばまた暫く動かないです」
 クーが話す。
「その間にソビエト方面に動くべきでしょうか」
「それがいいですね」
 日本はクーのその考えに賛同しえ頷いた。
「やはりソビエトは無視出来ません」
「今は動かなくともすぐに攻め込んで来ます」
 それを予想しての言葉だ。
「だからこそエイリスを退ければ」
「そのすぐ後で」
「満州に向かいましょう」
 この方針も決定された、やはりソビエトが今の枢軸の第一の相手だった。
 そのソビエトのことも考えてだった。
 今彼等は南アフリカから来るエイリス軍を待っていた、そこでだった。
 フランスは港で何時でも出撃出来る中でこう言ったのである。
「イギリスも懲りないな」
「懲りないっちゅうか向こうも必死なんや」
 キューバがこうフランスに返す。
「植民地を奪還せんともうな」
「あいつは植民地で成り立ってるからな」
「そやろ、エイリスは植民地がないとあかん」
「だからだな」
「そうや、向こうも必死や」
「けれど植民地は独立したからな」
 もう既にだというのだ。
「無理だろ、奪還も」
「独立を認めへんって言うてるやろ」
「独立した国を無理に侵略してまた植民地にするつもりか」
「そうやろな」
「今更そうしてもどうにもならないだろ」
 かえって独立した国々の反感を買うだけだというのだ。
「というかもう植民地の奪還とかな」
「不可能やろな、例え奪還しても維持出来んで」
「それでもか」
「エイリスはそうするしかないんっや」
「若し植民地がなくなったらな」
「あそこは只の欧州の一国やろ」
「今の俺みたいにな」
 フランスはすぐに暗い顔になって自嘲を込めて笑った。
「そうなるよな」
「そこでそう言うんかい」
「俺なんて前の大戦からずっとそうだよ」
「あんた盛大にやられっぱなしやからな」
「マジノ線作ってもな」
 難攻不落の筈のそれも。
「駄目だったからな」
「ドクツの作戦勝ちやな」
「まさかあんな兵器があるなんてな」
 潜水艦のことだ。
「しかも司令官があんなキュートな女の子なんてな」
「二度びっくりやな」
「全くだぜ」
「ドクツもやるもんや」
「予想以上だぜ。そういえばな」
 ここでフランスはあることに気付いた、それは何かというと。
「潜水艦はドクツからだろ」
「ああ、そやな」
「それで今枢軸でも建造してるけれどな」
 それでもだというのだ。
「それ連合にも入らないか?」
「エイリスにかいな」
「エイリスはどうかわからないけれどな」
「ソビエトやな」
「あの国に技術が流れてるかもな」
 こう言ったのである。
「俺達とソビエトの戦いを激しくさせる為にも向こうに潜水艦の技術を渡すとかな」
「ああ、それありそうやな」
「今のドクツの総統は結構したたかみたいだからな」
 毅然としたレーティアとはまた違い、というのだ。
「それでな」
「その可能性は確かにあるわ」
「だろ?それでな」
 さらに言うフランスだった。
「ソビエトが潜水艦を使ってきたらどうする?」
「危ないな、その場合は」
「そうだろ、危ないだろ」
「その場合はどうしたものかいな」
「どうしたものだろうな」
「平賀博士かドロシーさんに聞いてみた方がええんちゃうか」
 こう言うキューバだった。
「ここは」
「そうだな、丁度ドロシーさんいるしな」
 二人の目の前をたまたま歩いていた。
「聞いてみるか、おいドロシーさん」
「何?」
「ちょっといいか?」
 こう話を切り出す。
「潜水艦のことで聞きたいんだけれどな」
「ドクツの潜水艦の技術が他の連合国に流れてるかというのね」
「ああ、わかるんだな」
「丁度対策を考えていたから」
 既にだというのだ。
「潜水艦対策をね」
「具体的にはどんな感じなんだよ」
「ソナーを備えるわ」
「ソナー!?」
「ええ、レーダーは電波を使うわね」
「ああ」
「ソナーは音波を使ってね」
 それでだというのだ。
「レーダーに反応しない潜水艦を発見するのよ」
「それで発見したらか」
「潜水艦を攻撃してね」
「沈めるんだな」
「それが出来るわ」
 こうフランス達に語る。
「例え連合国が潜水艦を出して来ても」
「そうか、それじゃあな」
「潜水艦は驚異よ」
「それもかなりのな」
「けれどそれでも」
 どうかというと。
「弱点のない兵器はないわ」
「例え潜水艦でもだよな」
「ええ、そうよ」
 これがドロシーの返答だった。
「無敵の兵器は存在し得ないわ」
「潜水艦も見つかったわ終わりやさかいな」
 キューバが言う。
「それでな」
「ええ、姿が見える潜水艦は」
 それはどういったものかというと。
「動きが鈍く紙の装甲の駆逐艦でしかないわ」
「つまり銀河の棺桶やな」
「その通りよ」
 最早見つかればその時点で終わりだというのだ。
「それでしかないわ」
「だからあの娘もいつも運用に細心の注意を払ってるんだな」
 フランスはエルミーの潜水艦運用の時を思い出して言った。
「ああして」
「私の艦隊には潜水艦はないけれど」
 ドロシーは機動部隊だ、だからだ。
「それでも潜水艦のことはわかっているつもりだから」
「弱点もあるか」
「見つかれば終わりよ」
 全てはそれでだった。
「本当にね」
「つまり向こうが潜水艦で来てもか」
「見つければいいから」
「それでソナーを開発したんだな」
「私と平賀博士、それに」
「レーティアさんでか」
「同時に枢軸の潜水艦の隠密能力も上昇させたわ」
 こちらが耳を備えれば、というのだ。
「これまで以上にね」
「じゃあ向こうのソナーには察知されんのかいな」
「そうはいかないわ」
 ドロシーはキューバの希望的観測は否定した。
「ソナーの技術も上がるから」
「向こうもかいな」
「見つかりにくいだけだから」
「つまり鼬ごっこやな」
「そういうことよ、兵器はそういうものね」
「強い剣が出来たらそれに対抗する楯が出来る」
 キューバは銀河の時代以前の武器から言った。
「そういうことやな」
「そう。だからソナーが開発されて隠密能力を上げて」
「ソナーの技術が上昇する」
「それの繰り返しになるわ」
「因果な話やな、けど考えてみたらそれが人間やな」
 キューバは右手を己の頭の後ろにやって述べた。
「日進月歩とも言うけどな」
「競合ともね」
「兵器みたいなもんでもそうなるんやな」
「それで兵器は進歩してきたわ」
「そういうこっちゃな。まあとにかくソナーが開発されたんやな」
「第八世代の駆逐艦や巡洋艦に備えられるわ」 
 そうなるというのだ。
「そして艦載機にもね」
「で、こっちの潜水艦は余計に見つかりにくくなって」
「そういうことよ」
「わかったわ、まあとにかく向こうが潜水艦で来ても」
「戦えるわ」
「そのことがわかって結構や、ほな今度の戦いもな」
 今からはじまるマダガスカルでの戦いもだというのだ。
「気合入れていこか」
「そうだな。俺も最近やっと調子が出て来たしな」
 フランスは少し嬉しそうである。
「頑張っていくか」
「これまではどうやったんや」
「連合にいるあいだは散々だったんだよ」
 これがこの戦争でのフランスだった。
「ドクツに負けてマダガスカルで降伏してな」
「いいところがなかったわね」
 ドロシーはさらりと毒を吐いた。
「正直連合国のお荷物だったわ」
「おい、きついな」
「ありのままを言っただけよ」
「確かに負けっぱなしだったけれどな」
 ドクツ、そして日本にだ。
「それで枢軸に入ってからだよ」
「調子が出たのね」
「ガメリカ戦でも気分よく戦えたしな」
 無論アステカ戦もだ。
「枢軸にいる方が調子がいいんだよ」
「むしろそれまでがやったんやな」
「ドツボだったな」
 敗北続きではこう言う他ない。
「いや、こっちは居心地もいいし楽しくやってるぜ」
「それはいいことね」
 ドロシーはフランスに最後にこう言った、潜水艦への対策も進め連合軍との新たな戦いに入るのだった。


TURN92   完


                             2013・3・6



こうして改めて見ると、エイリスって完全に孤立状態だな。
美姫 「エイリスがというよりも、連合自体がそもそも各国の思惑の上で成り立っているだけだしね」
殆ど名ばかりで協力体制ではないしな。
美姫 「植民地にしてもね」
だよな。まあ、ソビエトも孤立しているような状況だしな。
美姫 「本当に連合って名なりよね」
そのお蔭で、枢軸側は戦力としてみれば一国ずつ相手にするような感じで良いかもな。
美姫 「逆に戦域は広がりそうだけれどね」
同時に相手しないといけない場面も出てくる可能性があるもんな。
美姫 「さて、どう攻めていくのかしらね」
気になる次回は……
美姫 「この後すぐ」



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