『ヘタリア大帝国』




                   TURN89  エアザウナ

 枢軸軍はアルゼンチン戦でのダメージを癒してからそのうえでだった。
 ブラジルへの侵攻に取り掛かった、いよいよアステカ帝国への中枢に向かっていた。
 その中で彼等は曇った顔でキューバの話を聞いていた。
「ブラジルにあるからな」
「おい、何で今言うんだよ」
 フランスがうんざりとした顔でキューバに突っ込みを入れる。
「このタイミングで」
「いや、言おう言おうって思ってたけどな」
 それでもだったというのだ。
「言いそびれてたんや」
「俺もな、すまんすまん」
 スペインもあっけらかんとした調子で言う。
「言い忘れてたわ」
「あんなのいたら洒落なんねえだろうが」
 フランスはスペインに対しても言う。
「エアザウナなんてな」
「エアザウナはブラジルに巣があるんや」
 スペインはこのことをここで言った。
「あそこにな」
「今度はあいつかよ」 
 フランスはあらためてうんざりとした顔になった。
「台風だのうぽぽ菌の次はな」
「けどここでエアザウナ倒したら大きいで」
 アルゼンチンも言う、彼も言い忘れていた。
「後あいつに苦しめられることもな」
「ないんだな」
「ほなええよな」
「ええとか言う相手かよ」
 フランスもエアザウナの脅威は知っている、彼にしてもエアザウナに星域を何度も荒らされているからだ。
「あいつは滅茶苦茶強いぞ」
「第六世代の艦艇でもです」
 今度はフランス妹が難しい顔で言う。
「まともに戦っては勝てません」
「これまでの災害とは全然違うからな」
「大怪獣はまた別格です」
「あんなのどうやって倒せばいいんだよ」
 フランスは苦い顔で妹に応える。
「洒落にならないからな」
「攻める方法はあるでしょうか」
「ある、安心してくれ」
 フランス達に東郷が言ってきた。
「もっともブラジルに巣があるとは思わなかったがな」
「いやあ、ほんまにすまんな」
 キューバは東郷にも屈託なく返す。
「言い忘れてたさかい」
「それはいいとしてな」
 流石に東郷はこれ位のことでは動じない、それで言う言葉だ。
「この世に無敵のものはいない」
「大怪獣でもやな」
「攻めるやり方はある」
 こう言うのだった。
「それはもう考えている」
「どんなやり方なんだよ」
 フランスは真剣にいぶかしむ顔で東郷に問うた。
「あんな正真正銘の化け物倒すやり方はな」
「まずはエアザウナと対峙してからだ」
 その時に見せるというのだ。
「それじゃあそれでいいな」
「それはいいのですが」
 シャルロットが東郷におずおずと問う。
「エアザウナだけではありませんので」
「そうですよ、アステカ軍もいるんですよ」
 セーシェルもここで言う。
「そちらは」
「今回は主力を回せる」
 東郷の今の言葉は驚くべき発言だった、誰にとっても。
 それでフランス達だけでなく殆どの国家や提督達が驚きの顔で東郷に問い返したのだった。
「エアザウナ相手に主力を向けない!?」
「アステカに向けるの!?」
「馬鹿な、全軍を向けても勝てない相手なのに」
「主力をアステカ軍に向けるなんて」
「むしろ主力を向けない方がいい」
 東郷は驚愕する彼等に冷静なまま返した。
「大怪獣に対してはな」
「あの、だからかな」
 ここで総督が殆どの面々と同じ面持ちで東郷に返した。
「僕は今回バリア艦やバリア戦艦だけの配備なのかな」
「総督さんとだ」
 東郷は彼が直々に編成させた艦隊を率いる総督に述べた。
「そして田中、デーニッツ、〆羅、ベートーベンの各提督の艦隊だ」
「五つだね」
「その五個艦隊で倒してもらう」
 こう言うのだった。
「それで十分だ」
「全て潜水艦の艦隊ね」
 話を聞いたグレシアが言う、彼女にしても驚きを隠せていない。
「どういうことなの?」
「これで勝てるのか?大怪獣に」
 ユーリも疑問を隠せていない。
「無理ではないのか」
「潜水艦艦隊は全て回しているけれどよ」
 今度はロマーノが言う。
「折角の秘密兵器全滅させるつもりかよ、長官さんは」
「ははは、勝つもりさ」
 東郷はロマーノにも余裕のある態度で返した。
「安心してくれ」
「一体どういうお考えなのか」
 エアザウナ攻略には参加しないがそれでもイザベラも言うのだった。
「わかりませんが」
「まあ見ていてくれ、何度もシュミレーションした結果だ」
 そのうえでのことだというのだ。
「では主力はアステカ軍に向かおう」
「おい、本当にいいんだよな」
 潜水艦艦隊司令長官、連合艦隊副司令長官でもある田中もいぶかしむものを隠さないで東郷に対して問う。
「俺達は攻めるだけでいいんだな」
「ああ、頼む」
「攻めろって言われたら攻めるけれどな」
 だがそれでもだと、攻撃的な田中も言うことだった。
「エアザウナはそう簡単な相手じゃねえぞ」
「大将、ご安心下さい」
 今数少ない冷静なままの秋山が田中に告げる。
「確実に勝てますので」
「参謀総長も作戦に加わってるんだよな」
「はい」
 その通りだというのだ。
「長官と私、そして祖国殿で考えた作戦です」
「祖国さんもかよ」
「そうなのです」
 日本も答えてきた。
「とはいっても私はそれ程は、ですが」
「参謀総長だけでなく祖国さんも加わってのことならな」
 どうかと、田中もやっと納得した。
 そのうえでこう言ったのだった。
「わかった、それじゃあな」
「お願いします」
「正直長官だけじゃ不安だけれどな」
 秋山だけでなく日本もなら、というのだ。
「わかったぜ。それじゃあな」
「それでは」
 こうして田中も納得してだった、そのうえで。
 枢軸軍はアステカ軍及びエアザウナ攻略にかかった。エルミーは潜水艦用の極秘通信から田中に対して言った。
「第六世代の潜水艦なので」
「魚雷の威力は凄いよな」
「ミサイルも撃てます」
 魚雷発射口の発達からだ。
「私のファルケナーゼも改造されていますし」
「性能あがったよな」
「第八世代程に」
 そこまで能力が上がったというのだ。
「ですからエアザウナにも一撃でかなりのダメージを与えられますが」
「あいつのビームは凄いぜ」
 田中はこのことを言った。
「それこそ一撃でどんな艦隊もまとめてお陀仏だぜ」
「そうなりますよね」
 エルミーも難しい顔で田中に返す。
「エアザウナ、大怪獣のビームの前には」
「バリアでもな」
 総督の艦隊も見る。
「破られてるからな」
「ビームの攻撃力が強過ぎて」
 そうなってしまうのだった、その威力はエルミーが言う。
「コロニーレーザー以上の威力ですから」
「だからですね」
「ああ、ちょっとな」
 田中も言う。
「攻略出来ない相手だろ」
「大怪獣のビームは艦載機の航続距離よりも長いですから」
 これも大怪獣の脅威の理由の一つだった。
「これまでどの国のどの兵器も効果がありませんでした」
「エイリス軍が五十個艦隊でもだったよな」
「全滅しています」
 かつて世界最強の艦隊と言われた彼等ですらだったのだ。
「無残に」
「だよな、それでたった五個艦隊かよ」
「しかも僕の艦隊攻撃力は殆どないよ」
 総督も言ってくる。
「実質君達が攻撃力だから」
「やはりわかりません」
 いぶかしむ〆羅だった、彼女にしては珍しく。
「今回の長官のお考えは」
「実質四個艦隊で勝てるのか」
 ベートーベンも疑念を言う。
「それはです」
「無理ですよね」
「普通に考えれば」
 ベートーベンはエルミーにも述べた。
「不可能だ」
「しかし長官は」
「私の計算ではだ」
 ここでこうも言うベートーベンだった。
「潜水艦四個艦隊で三度集中攻撃を浴びせればだ」
「エアザウアを倒せますね」
「さしもの大怪獣でもな」
 それが可能だというのだ。
「だがそれはだ」
「エアザウナの攻撃を考えますと」
「無理だ、最初のビーム攻撃でだ」
 総督の艦隊がだというのだ。
「全滅しそしてだ」
「次に隠れられなくなった我々が」
「攻められて終わりだ、相手が悪過ぎる」
「しかし参謀総長とこっちの祖国さんが言うんだぜ」
 田中はこのことをまた言う。
「だからな」
「勝てると」
「そうだというのですか」
「あの長官だって嘘は言わないんだよ」
 東郷の美点の一つだ。
「しかも俺が超えるだけの相手だからな」
「優秀な方なのは事実ですね」
「だからだよ、あの人達の立てた作戦ならな」
「問題はありませんか」
「ああ、そうなるからな」
 それでだというのだ。
「安心していいだろ」
「そうですか」
「行こうぜ、攻撃に」
 田中は他の潜水艦艦隊の提督達に言った。
「そして攻撃だよ」
「じゃあ頼むよ」
 総督からも言う。
「僕はどうなるかわからないけれどね」
「バリア艦は多いですが」
 〆羅もその総督を見ている。
「果たしてどう出来るかですね」
「わからないね、その辺りは」
 総督も不安に感じていた、だが彼等はエアザウナとの対峙に入った。するとすぐにだった。
 エアザウナからの攻撃が来た、戦域全体に咆哮と共に人間のものでは造り出せない威力と射程のビームが放たれた。 
 それが総督の艦隊を襲う、総督は前から来る無数の光の矢、いや杭を見て将兵達に対して言った。
「撃沈されたらね」
「その時はですね」
「もう退艦の用意は出来ているから」
 既にだというのだ。
「だからね」
「即座にですね」
「死んだら駄目だよ」
 その為の処置だった。
「だからいいね」
「わかりました、それでは」
「うん、そうしてね」
 こうした話をしてであった。
 彼等は脱出する用意に入っていた、既に。
 その彼等にエアザウナのビームが来た、破滅の衝撃が走った。
 だがだった。艦隊は。
「あの、無傷です」
「ダメージはありません」
「バリアが全て弾きました」
「何ともありません」
「えっ、そうなんだ」
 総督は将兵達の報告に旗艦の艦橋で目を白黒させた。
「エアザウナの攻撃を受けても」
「はい、全くです」
「ダメージを受けていません」
 そうだというのだ。
「信じられませんが」
「そうなっています」
「ううん、まさかと思うけれど」
 総督は学者としての立場から分析して述べた。
「この艦隊のバリアがね」
「エアザウナのバリアを防ぐだけのものがある」
「それ故にですか」
「どんな矛でもその矛より硬い盾は貫けないよ」
 矛盾の語を少し変えたものだ。
「そう、つまりは」
「我々にはそれだけの盾がある」
「そういうことですか」
「この艦隊は確かに攻撃力はないけれど」
 精々バリア戦艦のビーム位だ。
「防御力はかなりだから」
「とにかくバリア艦を多く配備したせいですね」
「その結果です」
 エアザウナのビーム攻撃も無事防げているというのだ。
「ではこのままですね」
「ここにいて」
「ビーム攻撃はするよ」
 この艦隊でも攻撃はするというのだ。
「まあ主力じゃないけれど」
「この戦域での主力はあくまで潜水艦ですね」
「彼等の魚雷ですね」
「そう、それだよ」
 まさにこれだというのだ。
「だから僕達はメインでないけれどね」
「はい、それでは」
「攻撃をしましょう」
 こう話してそのうえでだった。
 総督の艦隊も攻撃を行う、だが。
 彼等の攻撃ではエアザウナは殆どダメージを受けない、しかし。
 田中は潜水艦を率いながら不敵な笑みで言った。
「総督さんも無事だしな」
「それではですね」
「今から」
「ああ、やるぜ今回もな」
 こう己の艦隊の部下達に告げる。
「接近してそしてな」
「魚雷攻撃ですね」
「今から」
「あの化け物でもな」
「何度も攻撃を加えれば」
「それで、ですね」
「やれるっていうからな。怪獣退治といくか」
 田中は潜望鏡から大怪獣、総督の艦隊に攻撃を浴びせた後のそれを見て言う。
「全艦魚雷は装填してるな」
「はい」
「既にです」
 エルミーと〆羅が答えてきた。
「では今からですね」
「大怪獣に」
「よし、やってやるか!」
 こう話してそしてだった。
 枢軸軍の潜水艦艦隊は大怪獣に魚雷攻撃を浴びせる、それを受けて巨体を大きく揺らすエアザウナを見て。
 東郷は安心した様に秋山に話した。
「これならな」
「大丈夫ですね」
「ああ、計算してのことだったが」
 エアザウナの攻撃力や総督の艦隊の防御力をだ。
「安心して見ていられるな」
「はい、そうですね」
「では我々はアステカ軍を攻める」
 彼等をだというのだ。
「丁度向こうの皇帝さんもいるしな」
「ケツアル=ハニーですね」
「あの皇帝さんもな」
 どうかというのだ。
「嫌いになれないな」
「むしろそうした方面が好きという面では」
 秋山は東郷の横顔を見て述べた。
「長官と似ている様な」
「ははは、俺は皇帝と一緒か」
「一緒といいますか」
「違うか?」
「同じといいますか」
 言葉は似ている様で微妙に違っていた。
「そうした感じですね」
「そうなるか」
「はい、とにかくです」
 そのブラジル軍を見ての言葉だ。
「いつも通りですね」
「まずは艦載機を出してだ」
 そしてだというのだ。
「ビーム、ミサイルはあまりないがな」
「引き続いて鉄鋼弾ですね」
「それでいく」 
 まさにいつも通りの攻撃だ、それでだというのだ。
「敵を倒していこう」
「それでは」
「第一にあちらの皇帝さんの艦隊とだ」
 今度は攻撃優先順位の話だ。
「ブラジルさんを攻めるか」
「司令官ですか」
「そうしようか」
「わかりました」
 秋山は東郷の言葉に頷いた、こうしてだった。
 大型空母から艦載機が放たれる、それから。
 ネルソンは敵の怪獣達に射程を合わせながら言った。
「大怪獣の影響がないのは大きいな」
「ああ、本当にな」
 ゴローンが応える。
「ここはな」
「全くだ、しかし君は」
「俺?俺がどうしたんだよ」
「あのイミテーションの艦隊はもう出さないのか」
「あれな」
「ここでは」
「使えるけれどな」
 使えることは使えるというのだ。
「それはな」
「しかし使わない理由は」
「これに使ってるんだよ」
 今乗っているロボットにだというのだ。
「それでなんだよ」
「成程、それでか」
「魔術っていっても無限じゃなくてな」
「その場で使える魔術には限りがあるか」
「マジックポイントっていうのがあるんだよ」
 RPG的な話になる。
「それでなんだよ」
「ではそのマジックポイントを君が今乗るマシンの操縦に使っているのか」
「そういうことさ。あの艦隊も出そうと思えば出せるさ」
 それでもだというのだ。
「けれど今はな」
「わかった、それではな」
「今はこれでやらせてもらうな」
 ゴローンは言いながら攻めようとする。そこにハニワ達のビームが来る。
 そのビームをかわす、右に左に。
 そのうえでハニワ達に反撃を浴びせる、それは何とかいっていた。
 そうした攻撃をしてそしてだった。
 ネルソンも砲撃に入る、その際だった。
「宇宙怪獣を狙おう」
「通常艦隊ではなくですか」
「彼等ですか」
「通常艦隊は後で鉄鋼弾攻撃を加える」
 彼等にはそうしてだというのだ。
「今はだ」
「はい、ビームですね」
「それを仕掛けますね」
「そうする」
 こう言ってそしてだった。
 ネルソンのヴィクトリーから光の帯が放たれそしてだった。
 怪獣達が光に貫かれ爆発する、宇宙怪獣達の反撃も来て激しい応酬となっていった。
 ハニーはその応酬の中で威勢よく叫ぶ、艦載機の攻撃は受けたがそれでも彼の艦隊は戦場に残っている。
「楽しいホーーーー!」
「満足してくれてるんやな」
「戦いも面白いホーーーー!」
 こうブラジルに応える。
「だからどんどんやるホーーーー!」
「そやな、ただな」
「ただ?何だホ?」
「若しもここで負けてや」
 ブラジルはあえて彼等にとって最悪のケースを話した。
「アマゾンまで逃げるとするで」
「それでホ?」
「そんでそこで負けたらハニーさんどうするんや?」
「まだ戦うホーーーー」
 ハニーの考えはもう決まっていた。
「そうするホーーーーー」
「そうするんかいな」
「飽きるまで、満足するまで続けるホーーーー」
「何かそういうところ相変わらずやな」
「人生は楽しんでホーーーーー!」
 実にハニーらしい言葉だ。ひいてはハニワ族の。
「だからやるホーーーーー!」
「まあ僕は多分な」
 ブラジルはハニーの言葉を聞いてから自分の事情も話した。
「ここで負けたららな」
「祖国さんは降伏するホ?」
「そうするしかないけどな」
「では暫しのお別れホーーーーー」
 そう言われても別に驚くことのないハニーだった。
「またすぐに会うホーーーーー」
「僕としては一緒に降伏してな」
 そしてだというのだ。
「そのまま楽しくしたいけどな」
「あくまで暫しホーーーー」
 ハニーにしても永遠に戦うつもりはなくそれで暫しと言ったのだ。彼にしても自分の祖国は好きなのである。
「戦いに飽きるか別の楽しいことを見つけたらホーーーー」
「戦い止めるんやな」
「そうするんだホーーーー」
 こう話しながら戦いも楽しむハニーだった。
 戦いは枢軸側から見て順調に進み多少の損害が出たがそれでもだった。
 アステカ軍を追い詰めていっていた、そして。
 エアザウナもだった、潜水艦艦隊の激しい攻撃を受け続けて遂に。
 動きが鈍くなり弱まってきた、それを見て。
 田中は勝利を確信した、そのうえで部下達に告げた。
「おい、これでだ!」
「最後ですね!」
「いよいよ!」
「次であの化け物を倒せるぞ!」
 もう一撃でだというのだ。
「だからいいな!」
「はい、それでは!」
「今から!」
「全艦魚雷発射用意だ!」
 田中は今も潜望鏡からエアザウナを見ながら言った。
「いいな野朗共!」
「了解!」
 部下達は田中の言葉に応える、田中は部下達に慕われている。確かに暴走族そのままの性格だがその飾らず竹を割ったところが好かれているのだ。
 その田中の命令のまま彼の艦隊が魚雷を放ち。
 エアザウナの腹を撃った、そして。
 大怪獣は遂に動きを止め激しい咆哮を銀河に響かせた、それを断末魔にしてであった。
 大怪獣は爆発四散した、長きに渡って銀河を荒らしていた大怪獣は遂に滅んだのである。
 それを見てアステカ軍の間にも動揺が走った、まさかと思ってだ。
「おい、奴等大怪獣をやっつけたで」
「まさかと思ったけどな」
「あれを倒すか」
「何ちゅう奴等や」
「俺等と戦いながらそれが出来るなんてな」
「半端やないで」
 こう言ってだ、そのうえ。
 戦局が決まったと見た山下がここで全軍に告げたのである。
「よし、今だ!」
「はい、星域の制圧ですね」
「それにかかりますね」
「今が好機です」
 既に陸軍の軍服を着ている日本兄妹にも告げる。
「エアザウナが倒されたのを見て敵は動揺しています」
「その隙にですね」
「今から」
「即座に制圧します」
 こう言って即座にだった。
 山下は日本兄妹と共に星域に降下し完全に制圧した、これでブラジルでの戦いは完全に決まった。
 それを見てブラジルはハニーに言った。
「残念やけどな」
「ううむ、アマゾンまで撤退だホーーーー」
 ハニーもこうブラジルに答える。
「そうするホーーーー」
「そこで最後の決戦やな」
「それからも戦うホーーーーー」
 ハニーのこの考えは変わらない。
「けれど今はホーーーーー」
「全軍アマゾンに撤退っちゅうことで」
「そうするんだホーーーー」
 さしものハニーもそうするしかなかった、残ったアステカ軍はアマゾンまで撤退した。ブラジルも共に撤退した。
 こうしてブラジルもまた枢軸軍の手に落ちた、ブラジルに降り立ったクリオネは目の前で行われているカーニバルを見て苦い顔で呟いた。
「全く以て忌々しいわね」
「ああ、肌の張りだな」
「そうよ」
 その通りだとだ、クリオネはゴローンに返した。
「私ももうね」
「三十か」
「女も三十になるとあれなのよ」
 難しい顔での言葉だ。
「お肌も曲がり角をとっくに過ぎてね」
「しかも垂れてくるか」
「胸もお尻もね」
「腹はどうだよ」
「心配になってくるわ」
 出るかどうかというのだ。
「あんな風にはいかないわよ」
「凄いスタイルだな、皆」
 ゴローンもカーニバルの中ほぼ裸で踊り狂う美女達を見て言う。
「あんな風にはもうか」
「いかないのよ」
「三十か。大変だな」
「いや、三十でもだ」
 ここでブラックホークも出て来た、彼もじっとカーニバルを見ている。
「それなりにだろ」
「いいっていうのかしら」
「俺が見たところあんたはスタイルがいい」
 これは客観的に見てのことだ。
「いけると思うが」
「無理よ、だからね」
 クリオネはブラックホークにもむっとした顔で返す。
「三十になったらもうね」
「肌にスタイルがか」
「落ちるのよ、どんどん」
 これ以上はないまでに語られる現実だった。
「髪の毛だってそうでしょ」
「いや、俺はそれはわからない」
「俺もだ」
 ゴローンもブラックホークもだった。
「代々禿はいないからな」
「そうした体質ではない」
「そうなの、それはいいことね」
「ああ、それでだが」
「そこまでに気になるのか」
「何度も言うけれどあの格好は無理よ」
 カーニバルのそれはだというのだ。
「絶対にね」
「けれどあんた本当にスタイルがいい」
 ブラックホークは真面目に忌々しい顔のクリオネに述べた。
「いけると思うが」
「冗談抜きで肌もスタイルも崩れていないぞ」
 ゴローンもこう言う。
「全然な」
「そうだ、何処が悪い」
「これでも凄い神経使ってるの」
 そうだというのだ。
「エステなりスポーツなりでね」
「そういえばあんた毎日走ってるな」
「サーキットトレーニングもしているな」
「他には食事も制限している」
「そこまでしてか」
「そう、矯正下着も着けてね」
 この努力もあった。
「色々と努力してるのよ」
「それでそのスタイルか」
「顔もか」
「皺が出来ない様にしてるの」
 このことについても努力しているというのだ、それも必死に。
「エステだけじゃなくてお顔にパックもしてね」
「本当に大変だな」
「そうなの、あのカーニバルもね」
 まだ見ている、そのうえでの今の言葉だ。
「もう羨ましくて仕方ないわ」
「率直過ぎる言葉だな、おい」
「全く、歳は取りたくないわね」
「相手はいないのか?」
 ブラックホークが問う。
「そうした相手は」
「いないわよ。というかね」
 むしろだというのだ。
「祖国さんに紹介してもらうことになってるけれど」
「じゃあ紹介してもらえ」
「そして所帯を固めることだな」
 二人でクリオネに言う。
「インドさんがそう言ってくれてるんならな」
「悪い話ではない筈だ」
「ええ、本当に女も三十になると」
 どうなるかというその言葉は切実さを増している、クリオネにとってはどうしても言わずにはいられないことなのだ。
「大変だからね」
「そういえばあんたは元々はエイリス人だったな」
 ブラックホークはここで話題を変えた。
「それで植民地経営をしていたな」
「今じゃインドカレーの財務大臣よ」
「どうしてそうなった」
「そうなったって。親の会社を受け継いでなのよ」
 それで企業を経営する様になったというのだ。
「大学を卒業してすぐにお父さんが隠居しちゃってね」
「それでか」
「そう、インドに入って」
 そしてだというのだ
「ずっと経営してたけれど」
「戦争になってか」
「紆余曲折の末破産もしかけてね」
「今に至るか」
「そうなの」
 それでだというのだ。
「流転してるわね」
「自分で言うんだな」
「私の性分よ。とにかくカーニバルは放置しておいて」
 また言うクリオネだった。
「シェラスコ食べましょう」
「肉を食っていいのか?」
「羊ならいいのよ」
 羊肉のシェラスコを食べるというのだ。シェラスコといっても牛肉だけとは限らない。
「若しくは鶏肉ね」
「そういえば羊肉は脂肪を燃やすな」
「鶏肉はカロリーが低い」
 そして高タンパクである。
「だからそっちか」
「牛ではなくて」
「牛肉でも赤身ならいいけれどね」
「ならシェラスコでも大丈夫だな」
「そうじゃないのか?」
「それでもなのよ」
 牛肉を食べられない事情はまだあった、今度出る話はというと。
「私はもうインド人だから。宗教上の問題でね」
「ああ、ヒンズー教はだったな」
「牛は駄目だったな」
「宗教が違っても財務大臣となると立場があるからね」
 それでだというのだ。
「無理なのよ」
「そういうことか、それならな」
「羊か鶏だな」
「そっちにするわ」
 こうしてクリオネは無駄に女好きな二人と共にカーニバルから離れてシェラスコを食べたのだった。ブラジルでも彼等は楽しみだしていた。
 イタリアもだ、シェラスコを食べながら笑顔で言う。
「いやあ、ブラジルもいいよね」
「イタちゃん南米も気に入ったみたいやな」
「うん、大好きだよ」
 実際にそうだとスペインに返す。
「美味しいし明るいからね」
「それはいいホーーーー!」
「嬉しいホーーーー!」
 二人と共にいるハニワ達もイタリアの言葉に喜ぶ。
「じゃあイタリアさんも一緒に楽しむホーーー!」
「仲良くするホーーー!」
「うん、宜しくね」
 イタリアは彼等とも楽しく応える。
「一緒に飲んで食べようね」
「そうするホーーーー」
「これからも宜しくホーーーー」
「ハニワの人達も楽しいね」 
 イタリアは彼等とも楽しく話していた。
「いい人達だよね」
「そやろ、俺もハニワの人達好きやで」
 スペインも楽しく言う。
「ほんまにな」
「うん、それとだけれど」
 イタリアはシェラスコをビンガと共に楽しいながら言う。
「ハニーさんもいい人なんだよね」
「あれで凄く優しいホーーーー」
「楽しい人だホーーーー」
 ハニワ達がこのことを保障する、
「女の子が大好きで戦いも好きホーーーーー」
「それだけの人だホーーーー」
「だったら仲良くできると思うけれど」
 イタリアはここで腕を組んで言った。
「戦争を続けないでね」
「とはいってもなあ」
 スペインはワインを飲みながらイタリアに返す。
「あの人は戦争続けたいからな」
「楽しいからだよね」
「国益ないで」
 彼の戦争にはというのだ。
「特にな」
「じゃあ何があるかっていうと」
「楽しみや」
 それだけだというのだ。
「それがメインやからな」
「というか全部みたいだけれど」
「まあな。とにかくや」
「うそれじゃあ中々戦争が終わらないね」
「ハニーさんも諦めの悪い人やさかいな」
「どうすればいいかな、それじゃあ」
「難しいで、ゲリラになられたら特にな」
「うん、連合軍との戦いがあるからね」
 こちらがメインなのは言うまでもない。
「早いうちに何とかしないとね」
「難しいで」
 こうした話もした、アステカとの戦いは順調に進んでいき遂に最後の決戦となっていっているがそれはあくまで正規戦の話だった。
 それからのことを考えてだ、彼等は悩むのだった。
 その中でムッチリーニがふと言った。
「それじゃあね」
「それじゃあって?」
「何かあるのかよ」
 イタリア兄弟が彼女の言葉に問うた。
「ハニーさんの関心を戦い以外に向ければね」
「戦争が終わるんだ」
「そう言うんだな」
「そうでしょ。ハニーさんは今戦いたいのよね」
「うん、俺達とね」
「とりあえず飽きるまでな」
「それじゃあね」
 それならというのだ。
「ハニーさんの関心をね」
「ハニーさんが戦い以外に好きなもんってな」
 スペインがムッチリーニにこのことを話す。
「あれや、やっぱりな」
「女の子よね」
「具体的に言うとえろげに成人漫画や」
 そういったものが大好きだというのだ。
「この国の主要産業で最大の娯楽やしな」
「正直見ていてどうだと思うけれど」
 ローザがここで言う。
「あまりよくないわね、女性から見て」
「まあ直接な行動には及ばんから」
 ハニワ達にはそれはないというのだ。
「ただ見て楽しんで興奮して割れるだけやで」
「それですぐに元に戻るのだよ」
 イスパーニャはイタリア達にこのことを話す。
「だから平和と言えば平和だな」
「いや、割れて破片が飛ぶから迷惑だろ」
 ロマーノはこのことを指摘する。
「爆弾みてえだな、それだと」
「ははは、割れると言っても破片が飛び散ることはない」
 そうだというのだ。
「だから安心してくれ」
「ああ、そういえばあいつ等割れてもそんなに飛び散らないな」
「そうだ、彼等はただエロスが好きなだけだ」
 愛していると言ってもいい。
「それだけだからな」
「じゃあアマゾンでの戦いが終わったらね」
 とりあえずここまでの戦いはすることになる、ムッチリーニはこのことを読んでそのうえで言ったのである。
「すぐにハニーさんに講和条件を提示すればいいのよ」
「エロゲかいな」
「そういう手の漫画と」
「後はあれやな」
 スペインはムッチリーニに応えて言う。
「同人系やな」
「そういうのを貿易で輸出、輸入が出来ることを言えばね」
「講和か」
「そうなると思うから」
 ムッチリーニはこの見立てを話す。
「どうかしら」
「少し長官とお話してみる?」
 ローザはムッチリーニの話を聞き終えて真面目な顔で彼女に返した。
「それを講和の交渉に入れることを」
「うん、じゃあお話してみるね」
「それがいいわね。上手くいったらね」
「講和出来るわよ」
 ローザは今度は微笑んで言った。
「それじゃあ今からね」
「俺も行くよ」
「俺もだよ」
 イタリアとロマーノも同行すると名乗り出る。
「今から長官さんにお話してね」
「それでこんな戦争終わらせような」
「正直アステカ帝国は難儀な国や」
 スペインは少し困った顔になり腕を組んでこの言葉を漏らした。
「普通の国と考えが違うさかいな」
「違い過ぎます」
 ユーリが眼鏡の奥を曇らせて返した。
「普通は国益の為に戦います」
「ところがこの国はそうやないんや」
「国益ではなくですね」
「楽しみで戦うさかいな」
「軍の編成も違いますし」
 これも普通の軍とは違う。
「ハニワに宇宙怪獣に」
「本当に違うさかいな」
「気候も独特で災害も多かったですし」
 これも様々だった。
「中々辛い戦いでした」
「私達ってあれよね」
 今度はムッチリーニ、その講和条件を提案した彼女が言う。
「どうでもいいって感じだったわよね、欧州では」
「うん、いつもドクツに助けてもらっていたわとね」
「ドイツやプロイセンさんにね」
 助けてもらったというのだ。
「いつも助けてもらってだから」
「いえ、お気遣いなく」
 ひょっこりとロンメルが出て来て彼等に応える。
「こちらもイタリンの為なら一肌も二肌もですから」
「それでいいんだ」
「イタリンとは友邦ですので」
 だからいいというのだ。
「本当にお気遣いなく」
「前から不思議に思っていたのですが」
 ユーリがそのロンメルに問う。
「ドクツは何故イタリンに常に好意的なのですか?いつも助けてくれますが」
「気候も料理も景色も好きですし」
 そうしたものがだというのだ。
「寒く重い空であることが多いドクツと比べると」
「全く違うからですか」
「しかもかつては同じ国だったではないですか」
「神聖ローマですか」
「だからです」
 こうした理由からだった、ドクツがイタリンを好きなのは。
「ドクツはイタリンが好きなのです」
「成程、それで」
「そういうことです。欧州に戻ってからも」
 それからもだというのだ。
「宜しくお願いします」
「それでは」
 二人は敬礼をし合い挨拶とした、ドクツとイタリンの絆は今も健在だった。
 そのことを確かめてからムッチリーニはイタリア達と共に東郷の下に向かった、アステカとの最後の決戦の前に政治の話があった。


TURN89   完


                            2013・2・14



いやはや、本当にお疲れだな。
美姫 「今回の遠征での苦労は敵だけじゃないって事に尽きるわね」
大怪獣エアザウナまで登場だしな。
美姫 「まあ、こっちは事前に色々と作戦を練れたから良かったわね」
確かに。どうにかブラジルまで来たし、いよいよアマゾンか。
美姫 「どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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