『ヘタリア大帝国』




               TURN68  連合軍の反撃

「で、こっちは何とかなるかも知れないからな」
「安心してね」 
 連合国の会合でイギリスとロシアがそれぞれ確かな笑顔でアメリカと中国に言い切る。五つの椅子は今は四つだ。
 その席で二人はこう言うのである。
「俺は北アフリカを奪回して頃合を見てオフランスに攻め入るからな」
「僕はこのまま反撃を続けるよ」
「だから御前等もやれよ」
「期待してるよ」
 最後の言葉は二人共棒読みだった。そしてアメリカもその二人にこう返す。
「君達は何か調子がいいね」
「全くある」
 中国は憮然とした顔で二人に返した。
「こっちは苦戦しているあるが」
「ドクツを破ったのか」
「うん、ちょっと工夫してみたんだ」
 ロシアはニガヨモギのことは隠してこう話した。
「それで何とかなったよ」
「モスクワで何をしたんだ?」
 アメリカは天然でロシアに尋ねた。
「君はモスクワまで負けっぱなしだったじゃないか」
「それが気になるある」
 中国もそのことが気になり言った。
「それが急にだからな」
「モスクワに何があるあるか」
「うん、そのうち君達にも教えてあげるからね」
 ここでロシアに何かが宿った。
 そしてその何かを漂わせてこう二人に言うのだった。
「その時が来たらね」
「おい、味方だぞ」
 イギリスが横からそのロシアに告げる。
「威嚇するなよ」
「僕威嚇なんてしないよ」
 ロシアはイギリスには素朴な笑みで答えた。
「今はね」
「今は、かよ」
「まあ今は皆お友達だからね」
 ロシアの言葉は今度はアメリカと中国だけでなくイギリスにも向けていた。
「仲良くしようね」
「ああ、とにかく東は任せるからな」
 イギリスは内心ロシアに危険なものを感じながらもとりあえずは同盟国としt接した。
「ドクツ軍の主力を頼むな」
「うん。それでベルリンだけれど」
「そっちで頼む」
 攻略してくれというのだ。
「俺は西をやるからな」
「それでドクツは東西に分割だね」
「今度は二度と戦争なんて起こせない様にしないとな」
 イギリスも今回の戦争の痛手はかなりのものでこう言うのだった。
「植民地もかなり失ったからな」
「皆独立して楽しくやってるぞ」
「喜ぶべきことある」
 アメリカと中国はイギリスへの感情を隠そうともしない。
「日本はまあ何とかなるぞ」
「近いうちに反撃開始ある」
「そっちは本当に大丈夫なのかよ」
 イギリスは日本に押されっぱなしの彼等には猜疑の目で返した。
「このまま日本の軍門に降るとかはなしだからな」
「よく考えたら君達負けてもデメリット少ないよね」
 ロシアは既にこのことも見抜いていた。
「負けても太平洋経済圏に入るし日本君は占領した星域を返還するって言ってるから」
「気のせいある」
 中国は強引にそういうことにしてしまう。
「こっちもプライドがかかっているある、大変あるよ」
「けれど国家は保てるし経済圏には入られるからね」
 しかし既に真相を見抜いているロシアはさらに言った。
「負けても失うのは太平洋経済圏の盟主の座とそのプライドだけじゃない」
「こっちは相当なもの失ってんだがな」
 イギリスもイギリスで日本が勧める植民地の独立を積極的に認める彼等への感情を何一つ隠そうとしない。
「もう残ってるのはアフリカだけになったよ」
「じゃあアフリカの皆も独立だな」
「そうなってくれると有り難いある」 
 二人も日本に対してはともかくイギリスには負けていない。
「まあ今はそうならないけれど」
「そのうちある」
「ああ、それだけは防ぐからな」
 イギリスは剣呑な顔で二人と対する。
「アフリカまで失ったらエイリスは終わりだからな」
「けれど本国は残るじゃない」
 ロシアはイギリスにも言った。
「それだったらいいんじゃないかな」
「よかねえよ。ここまでなるのにどれだけ苦労したか」
 エイリスも何もせずに世界帝国になった訳ではない。その苦労を思い出してそのうえでこうロシアに返す。
「御前も知ってるだろ」
「知ってるけれど僕共有主義だから」
 ロシアはにこりとさえしてそのイギリスに返した。
「植民地についてはね」
「そうだよな。ったくどいつもこいつも」
 イギリスは自分が連合国の中でもどういった状況かあらためて理解しながら応えた。
「この戦争は本当に嫌な戦争だぜ」
「とりあえず太平洋はそっちでやってね」
 ロシアはアメリカと中国には今は淡々としている。
「僕はドクツを何とかするから」
「ああ、任せてくれ」
「こっちはどうにかするある」
 アメリカと中国も応える。
「こっちは大丈夫だぞ」
「ロシアもイギリスも心配することはないある」 
 実は既にUSJは陥落しアメリカはハンナ、クーと話をして方針を決めていた。今の四国会議の後でルースに話す予定だ。
「そっちはそっちで頑張ってくれ」
「健闘を祈るある」
 イギリスもロシアも二人を今度会う時は敵同士だと確信していた。だがこのこともあえて言わずに今はだった。
「それじゃあまたな」
「お話をしようね」
 この言葉で連合国の今回の会合は終わった。欧州と太平洋の彼等は一見すると明暗がはっきりと分かれていた。
 ドクツ軍はモスクワで破れた後為す術もなく敗走していた。トリエステは無念の顔で北欧の面々に告げていた。
「最早戦える戦力ではない」
「だからですね」
「全軍このエストニアから撤退する」
 こうモニターのフィンランドに答えた。
「そうする」
「ではラトビアまで」
「そこで補給を受け緊急修理を行う」
 そしてだというのだ。
「反撃に移ろう」
「わかりました」
「それからだ」
 トリエステはドクツ軍は反撃出来ると確信していた、だがそれはレーティアの存在も確信してのことである。
 それで実際にフィンランド達にこう述べた。
「総統閣下がおられるからな」
「んだ。あの人がいれば戦える」 
 スウェーデンもこう答える。
「ドクツは大丈夫だ」
「そういうことだ。ドクツは勝つ」
 トリエステは右手を肩の高さで強く握り締めて断言した。
「今はただ下がっているだけだ」
「こういう時も戦争にはあるから」
 ノルウェーもぽつりと言う。
「気にすることはないから」
「そうだっぺな。戦いはこれからだっぺ」
 デンマークは敗走する中でも明るさを失ってはいない。
「ラトビアで反撃開始っぺよ」
「またレニングラードに向かう」
 トリエステも言う。
「そうするとしよう」
「わかったっぺよ。それなら」
 こう話してだった。彼等は希望は失ってはいなかった。
 だがそれでもだった。ドクツの敗走は止まらなかった。
 中央でもだ。マンシュタインはスモレンスクから下がりながらドイツ達に述べていた。
「このままではです」
「うむ、ベラルーシもな」
「失うで」
 ドイツとオランダが答える。
「そしてロシア平原もか」
「悪い流れになっている」
「その通りです。ベラルーシで補給を受けます」
 マンシュタインはこう彼等にまた述べた。
「そしてです」
「緊急修理ですね」
 ドイツ妹が述べた。
「それを受けますね」
「その通りです。ここはそうします」
 こうドイツ妹にも述べる。
「そうしますので」
「わかりました」
「ベラルーシで態勢を立て直すことができれば」
 マンシュタインもトリエステと同じことを見ていた。
「また反撃に移れます」
「若しもですが」 
 だがここでオーストリアが述べた。
「ベラルーシでそれが出来なければ」
「はい、我が軍は完全に劣勢になります」
 マンシュタインはオーストリアの今の言葉にも冷静に答える。
「そうなります」
「その通りですね」
「まさにベラルーシが正念場です」
 戦線を立て直せるかどうかの。
「ですから何があろうとも」
「総統がちゃんとしてくれてるやろ」
 ベルギーは明るく言った。
「大丈夫やで」
「あの大怪獣への対策も考えてくれるんちゃう?」
 ポーランドも言う。
「まあ大丈夫だしーーー」
「ドクツの全ては総統が導いておられます」
 マンシュタインは意識せずにドクツの最大の問題点を誇りとして言ってしまった、彼ですらそのことに気付かない。
「その総統がおられる限り」
「ドクツは大丈夫だな」
「今は一時撤退しているだけです」
 だからこうドイツにも言えた。
「無事に下がりましょう」
「わかった。それではな」
 ドイツも頷く。ドクツ軍は撤退しているがそれは今だけだと思っていた。
 だが実情は違っていた、グレシアはベルリンの総統官邸において血相を変えて後方担当の参謀達に叫んでいた。
「ちょっと、どうしてなの!?」
「すいません、気付きませんでした」
「我々のミスです」
 参謀達も申し訳ない顔でグレシアに頭を下げる。
「出来ていると思ったのですが」
「それが」
「この程度の物資と資金だけではどうにもならないわよ」
 グレシアは顔は怒っているがその顔色は真っ青になっていた。
「とても補給も緊急修理も」
「できませんね」
「到底」
「ラトビア、ベラルーシ、カテーリングラードのラインを守れないわ」
 その反撃ポイントでだというのだ。
「とても」
「はい、どうしましょうここは」
「この状況は」
「この物資と資金なら」
 グレシアはデータにある三つの星域の資金と物資の状況を見て述べた。
「それぞれ一個艦隊程度よ」
「既にそれぞれ十個艦隊程度の資金と物資を送ったつもりでしたが」
「桁を一つ間違えていました」
 これが後方担当の参謀達のミスだった。
「それでこれだけです」
「各星域で一個艦隊をどうにか出来る程度です」
「それだけしか送っていませんでした」
「まことに申し訳ありません」
「いいわ。私もチェックを怠ったわ」
 グレシアも多忙を極める中でついついそうしてしまっていた。
「ミスはお互いね」
「そうですか」
「問題はこれからね」
 グレシアはあらためて参謀達に述べた。
「何処で踏み止まるべきかしらね」
「やはりリトアニア、ロシア平原、ウクライナのラインですね」
 参謀の一人が述べた。
「そのラインしかありません」
「そうね。そこに資金と物資を送りましょう」
「それで何とかです」
「踏み止まりましょう」
「我が軍は十八個艦隊」
 グレシアは三つの軍集団を合わせた艦隊数を述べた。
「国家艦隊も入れてね」
「対するソビエト軍は今や百個艦隊です」
「シベリアからも軍を持ってきました」
「それにどう対するか」
「五倍以上の戦力で」
「これまでは圧倒的な火力と機動力で一気に攻めてやってきたわ」
 ドクツ軍得意の電撃戦だ。
「戦いの主導権を握ってね」
「それで圧倒的な数の敵にも勝ってきました」
「そうしてきましたが」
「それが出来なくなったら」 
 グレシアは難しい顔で述べた。
「我が軍はもうね」
「脆いですか」
「短期決戦でなければ」
「その通りよ。波に乗れば圧倒的な数の相手にも勝てるわ」 
 これまでのドイツ軍がそうだった様に。
「けれどそれが失敗すれば」
「今ですか」
「今の様になりますか」
「ええ、そうよ」 
 グレシアは難しい顔でまた答えた。
「今は流れを取り戻すしかないわね」
「ではロシア平原等で」
「何とか持ち堪えましょう」
 参謀達もそれで守勢に立つことはわかっていた。だがそれでも最早こうするしかなかった、この失態はドクツにとって高くつくものになった。
 そのドクツに対してカテーリンはエストニア等を奪還したと聞いて間髪入れずにこう参謀達に指示を出した。
「資金と物資は後は考えずに送るのです」
「そして戦いの後で一気に緊急修理と補給を行いですか」
「そのうえで」
「そうです。ドクツ軍を押し潰すのです」
 まさにそうしろというのだ。
「ベルリンまでそうします」
「じゃあカテーリンちゃん、ドクツの後は暫く」
 カテーリンの横にいるミーシャが尋ねる。
「戦えなくなるけれどいいのね」
「それでもいいわ」
 カテーリンもそれでよしとした。
「この戦いの後は太平洋の悪い子達にお仕置きをするけれど」
「それでもなのね」
「まずはドクツを倒さないといけないから」
 例えどれだけの力を注ぎ込んでもだというのだ。
「だからね」
「じゃあ太平洋に行くのは結構後ね」
「ドクツをやっつけて暫くは力を蓄えるから」
 連戦は無理なのはカテーリンもわかっていた。
「まずはね」
「うん、じゃあドクツ戦に全力を注いで」
「それからにするから」
 カテーリンはまたミーシャに答えた。
「太平洋にはゾルゲ大佐に情報収集をしてもらうから、その間は」
「わかったよ、カテーリンちゃん」
「エイリスは最後よ」
 実はこの国もソビエト、カテーリンは敵とみなしていた。結局今の同盟相手である連合国全てがソビエトの敵であるのだ。
「資産主義で君主制だからね」
「世襲の女王が人民を搾取してるからね」
「それって悪いことじゃない」
 カテーリンはむっとした顔で言い切る。
「日本は世襲じゃないけれど君主だし」
「同じよね」
「皆平等なのに君主とか貴族とかいるのおかしいの」 
 これはカテーリンの絶対の考えである。
「そういうの許せないから」
「だから皆一旦懲らしめないとね」
「まずは日本とガメリカ、そして中国」
 太平洋の資産主義国家、というよりかはこれから出来る太平洋経済圏自体がソビエトの敵だ。
「何処もやっつけるから」
「ガメリカも中帝国も資産主義だからね」
「特にガメリカが酷いから」
「中帝国は中帝国で皇帝いるし」
「資産主義も君主制も間違ってるの」
 とにかくこの考えは変わらないカテーリンである。
「皆平等で財産なんてなかったら幸せになれるのに」
「どうして皆わからないんだろうね」
「ソビエトを見て?皆幸せじゃない」
 少なくともカテーリンはそう思っている。
「皆同じものを同じだけ食べて同じ服を着て」
「同じ様な場所で寝起きしてね」
「それで階級なんてないのよ。お金がないからお金持ちも貧乏人もいなくて」
「皆助け合って生きてるよね」
「人間はそうあるべきなの」
 カテーリンは意固地ささえ見える顔でミーシャに言い切った。
「これまでが間違ってたの」
「だからロシア帝国も倒して皇帝一家も労働者にしたのね」
「そうよ。皆平等よ」
 とにかくこれが第一だというのだ。
「そうしないとね」
「軍も階級は」
「そうよ。確かに提督はいるしジューコフさんには元帥をしてもらってるけれど」 
 だがソビエト軍でもだというのだ。
「皆平等よ」
「そうしてるよね」
「兵隊さんに向いてる人はどんどん偉くなるから」
 少なくともそうした抜擢はしているカテーリンである。
「だからソビエト軍は強いのよ」
「うん、じゃあ軍の皆にも頑張ってもらおう」
「それでまずはドクツ軍をやっつけるから」
 カテーリンはミーシャとそうした話をしたうえであらためて目の前に直立不動の姿勢で立っている軍人達に告げた。
「今から我が軍はドクツに対して全面攻撃に出ます」
「了解」
「わかりました」
「作戦名はバグラチオンとします」
 カテーリンは彼等に作戦名も告げた。
「攻撃目標はベルリン、ドクツを完全に倒します」
「わかりました。それでは」
「今から」
 ソビエト軍の将兵達は敬礼をして応えた。今ソビエト軍はその国力の全てを注ぎ込んで全面攻撃に移った。
 エイリス軍もだ。セーラはロレンスとイギリスにこう告げていた。
「まずは北アフリカですね」
「あの星域を奪還してですね」
「それからだよな」
「ナポリ、ローマを陥落させていきます」
 イタリンを攻めるというのだ。
「アフリカ戦線で敵はドクツ軍だけですが」
「そのドクツ軍をどうしますか」
「アフリカにいる軍の全てを今スエズに集結させています」
 セーラも思い切ってそうしたのだ。
「数で押し切ります」
「そうですね。如何に彼等が強かろうともです」
 ロレンスもここでセーラに話す。
「数で大きく勝っていれば」
「押し切れます」
「アフリカ方面のドクツ軍は三個艦隊です」
 ロレンスはその数についても述べた。
「ロンメル元帥とプロイセン兄妹のそれぞれの艦隊です」
「数は多くないんだよな」
 それはイギリスもわかっていた。
「スエズは普通に十個艦隊いるからな」
「それで押されてきたのなら二十個艦隊です」
 セーラもまた数の論理を出す。
「これで攻めれば」
「勝てますね。正直イタリン軍は弱いです」
 ロレンスも彼等は数に入れていない。
「我が軍の一個艦隊でイタリン軍の五個艦隊は相手にできます」
「はい、ですから彼等はまずは放っておきます」
 セーラも彼等はまずは放置することにしている。
「ドクツ軍を集中的に、数で攻めます」
「そして指揮官は」
「モンゴメリー提督と妹さんです」
 イギリス妹はスエズにいるので彼女もだった。
「お二人にお任せします」
「そして我々はですね」
「機会を見て、だよな」
「オフランスに上陸します」
 そうするというのだ。
「私も行きます」
「いや、姉様はここにいて」
 だがここでマリーが姉に言ってきた。見れば場には彼女と二人の母親であるエルザもいる。
「僕が行くから」
「マリー、貴女が」
「うん、姉様はここでエイリス軍全体の指揮にあたって」
 北アフリカのこともある、だからだというのだ。
「そうしてね」
「その方がいいだろうな」
 イギリスもここでこうセーラに言った。
「女王さんはこっちに残ってくれよ」
「それで全体の指揮にあたるのですね」
「オフランスには俺とロレンスさん、それに姫さんで行くからな」
 イギリスは自分の親指で自分自身を指し示しながらセーラに話す。
「女王さんはロンドンで全体を見てくれよ」
「確かに。その方がいいですね」
「オフランスから一気にドイツまでいくからな」
 ドクツ西方の星域ドイツにだというのだ。
「ベルリンは分割、プロイセンはソビエトのものだからな」
「連合国の会議で決まっていますので」
 尚連合国も枢軸国もお互いに国家元首同士が顔を合わせたことはない。国家同士が会っているのだ。
「そうします」
「はい、それでは」 
 ロレンスが応える。エイリスの方針も決まっていた。
 この中にはエルザもいる、彼女はふと娘に言った。
「セーラちゃんイタリンはどうするのかしら」
「あの国ですか」
「そう。ドクツは分割統治で話は決まってるけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「イタリンはどうなっているの?」
「実はソビエトもあの国には特に関心がない様なのです」
 セーラは表情は困った感じだがその緑の目に微妙なものを見せた。
「それでイタリンのことはエイリスに任せると言ってきました」
「確かオフランスにベルギー、オランダもよね」
「西欧はそう決められています」
「じゃあイタリンもエイリスがどうするかよね」
「ベニス統領は軟禁とします」
 それで終わりだというのだ。
「それでいいです」
「そうね。あの統領は無害だから」
「悪いものは見受けられません」
 人間としてそうだというのだ。
「ですから軟禁で終わらせます」
「イタリン自体はどうするのかしら」
「エイリスが統治します」
 そうするというのだ、イタリンについては。
「ですが特に処罰とかは」
「考えていないのね」
「ドクツは敵ですが」
 セーラもイタリンに対しては今一つ歯切れが悪い。
「しかしそれでも」
「イタリンには特に思わないのね」
「苦戦した記憶もありませんしポルコ族も無害ですから」
 弱いが害はないのが彼等だ。
「放っておいていいと思います」
「ええ、私もイタリンについてはそう思うわ」
 これはエルザもだった。やはりイタリンには彼女も厳しいことをしようとは全く思えなかった。それで言うのだ。
「寛大にいきましょう」
「そうします」
「はい、そして落ち着いたらですが」
 話はそこからもだった。
「日本、いえおそらくガメリカも中帝国に敗れます」
「USJで負けたわね」
「勝負はありました。彼等の敗北は決定的です」
「あの二国は日本の軍門に降るわ」
 エルザもこのことを確実視している。
「間違いなくね」
「そうです。ですから今度の敵は」
「太平洋全体が相手になるけれど」
「ソビエトも太平洋に向かいます」
「つまり連合国の残る二国で太平洋と戦うことになるわね」
「はい、そうなります」
 これが今度のエイリスの戦争になるというのだ。エイリスとソビエトの二国でドクツを倒した後太平洋だった。
 このことを話してだった。セーラはあらためて一同にこう告げた。
「それではですが」
「あっ、もう時間だな」
 セーラの言葉が出た瞬間に部屋の時計、エイリスらしい木造の古風な壁時計の音が鳴った、それでイギリスも声を出した。
「そうだな」
「それではです」
「お茶にするか」
「何時でもお茶は飲みたいものです」
 エイリス人だからである。
「ですから今から飲みましょう」
「じゃあ早速ね」
 マリーも微笑んで何処からともなくティーセットを出してきた。そしてだった。
 一同は紅茶を楽しみだした。そしてそれはモンゴメリーとイギリス妹も同じだった。
 オークの司令室でモンゴメリーは優しい微笑みでイギリス妹の白いカップに紅茶を注ぎ込みながらこう彼女に告げた。
「間も無くです」
「はい、反撃ですね」
「北アフリカに全軍で攻め込みます」
「そして北アフリカを奪還しますね」
「それからナポリです」
 そこを攻め取るというのだ。
「そしてローマです」
「イタリンを攻め取りそのうえで」
「ドクツ本土を目指しましょう」
「まさかそれが出来る様になるとは思いませんでした」
 イギリス妹はスコーンを手に取り口の中に入れた。
「ずっと辛い戦いでしたが」
「そうですね。このスエズも危うかったです」
「ですがそれがですね」
「はい、ドクツ軍はモスクワで破れました」
 これが大きなターニングポイントだった。
「それで北アフリカ方面でも動揺が起こっています」
「ドクツ軍に動揺はないですが」
 精鋭である彼等がこの程度で動揺する筈がない、しかし北アフリカにいるのは彼等だけではないのである。
「イタリン軍ですね」
「彼等が戸惑い動きが鈍い間にです」
「それより前にですね」
「そうです。ドクツ軍を全力で叩きます」
 脅威である彼等をだというのだ。
「今スエズにいる二十個艦隊で」
「数で押し切りますか」
「修理と補給の態勢も全て整っています」
 スエズにはただ艦隊を集めているだけではない、修理の予算や補給物資も全て、アフリカ中からかき集めてきたのだ。
 言うならばエイリスのアフリカ方面の総力を挙げて北アフリカのドクツ軍三個艦隊を叩くというのである。それがモンゴメリーが今言うことだ。
「女王陛下が決断されました」
「決断出来る状況になりましたね」
「そうです。では明日出撃します」
 そしてだった。
「北アフリカを奪還します」
「やはり数ですね」
「はい、戦争は数です」
 モンゴメリーもイギリス妹に話す。
「数と補給さえあれば勝てるものです」
「戦術以上にですね」
「だからこそエイリスはナポレオンにも先の世界大戦にも勝ってきました」
 国力、それがあったからだというのだ。
「国力があったからこそ」
「そしてこの戦いでも」
「最後にものをいうのは国力です」
 エイリスとドクツを比べればまだエイリスの方がかなり高い、太平洋、インド洋の植民地を全て失ったがまだアフリカがあるからだ。
 そしてそのアフリカの総力を結集してだというのだ。
「勝ちましょう」
「では明日に」
「はい、ドクツ軍を攻めます」
 エイリスは北アフリカから反撃に移ることが決定していた。そしてそれは明日に迫っていた、ドクツ軍はこの方面でも危機に陥ろうとしていた。
 ロンメルもそれは察知していた。それで港においてプロイセン兄妹にこう言っていた。
「間も無くエイリス軍の大軍がここに来る」
「二十個艦隊だよな」
 プロイセンは鋭い目でロンメルの金色の目を見ていた。
「それで来るな」
「これまでは十個艦隊だった」
 ロンメルはスエズにいたエイリス軍の数も述べた。
「しかもその相手はイタリン軍にも向かっていた」
「だから俺達はその隙に機動力を使って戦えたがな」
「だがおそらく今度は違う」
「イタちゃん達はあんなだからね」
 プロイセン妹は自分の右をちらりと見た。そこにはイタリアとロマーノがいるが。
 彼等はがたがたと震えながらお互いに言ってきた。
「怖いよ、エイリスが全軍で来るよ」
「馬鹿野郎、御前戦えよ」
「そんなこと言う兄ちゃんが戦ってよ」
「そう言う御前が戦えってんだよ」
「嫌だよ、イギリス怖いよ」
「俺だって怖いよこの野郎」
「これじゃあどうしようもないからね」
 プロイセン妹はやれやれといった声である。そして周りのポルコ族達。
「に、二十個艦隊なんて勝てないブーーー!」
「エイリス容赦ないブーーー!」
「一個艦隊でも勝てないのにあんまりだブーーーー!」
「二十個艦隊なんてローマまで陥落させられるブーーー!」
「あたし達だけでエイリス軍の相手をしないとね」
「しかもエイリス軍は間違いなくイタリン軍は攻めない」
 ロンメルはこのことをここで指摘した。
「恐慌状態に陥って戦闘不能になっている軍はまずは置いていい」
「問題は俺達か」
「そういうことだね」
「そうだ、我々さえ倒せば北アフリカ、そしてイタリンも攻め取れる」
 そしてそれは妄想ではなかった。
「エイリス軍一個艦隊でイタリン軍五個艦隊に匹敵する戦力がある」
「イタちゃん達は戦争弱いからね」
 とはいってもプロイセン妹の顔に嫌悪等はなく親しみさえあるものだ。
「仕方ないね、そこは」
「我々でエイリス軍二十個艦隊tと戦う」
「負けるな、そりゃ」
 プロイセンは深刻な顔になって戦局を予想した。
「幾ら何でもな」
「六倍以上の相手には流石に負けるよ」
 プロイセン妹も言う。
「そんだけ戦力が開いてたらね」
「正直勝ち目はない」 
 ロンメルもこの見方だった。
「絶対にな」
「けれどどうするんだ、ここは」
「戦わない訳にはいかないよね」
「イタリア君達には撤退を勧めよう」
 ロンメルもまたドクツ人でありイタリア達には優しい。
「ここで戦っても全滅するだけだ」
「ナポリで防衛ラインを敷いてか」
「それで戦うんだね」
「グスタフ線もある」  
 ドクツ軍が念の為に設けた防衛ラインである。
「それを使って戦おう」
「まあ。戦局が好転したらな」
「反撃を加えればいいしね」
「あの娘ならやってくれる」
 ロンメルもまたここでレーティアに希望を見出していた。
「絶対にこの状況を好転してくれる」
「ああ、こっちには総統閣下がいるんだ」
「あの人ならやってくれるね」
 プロイセン兄妹もレーティアには絶対の神経、そして尊敬の念を抱いている。彼女がいればこれまで通り危機を好機に転換してくれるというのだ。
 そのことを確信しているが故に彼等も言うのだった。
「北アフリカにはまた上陸するか」
「そうしようね」
「後詰は我々が引き受ける」
 ロンメルはイタリン軍を撤退させ自分達が止まるというのだ。
「我々も無事に撤退する」
「そうしような、ここは」
「皆笑顔でイタリンに下がるよ」
 プロイセン兄妹も確かな顔で言う。そしてだった。
 彼等も北アフリカからの撤退を決意していた。ドクツ軍は北アフリカでも戦局の悪化をはっきりと感じていた。
 フランスはその状況を太平洋で見ていた。それでこう自分の妹とシャルロットに述べた。
「何か複雑な気分だよね」
「そうですね、ドクツは敵でしたが」
「今我々は枢軸にいますから」
 フランス妹とシャルロットも複雑な表情である。
「ドクツの敗北は望ましいことではありません」
「私もです」
「ドイツの奴もあっちの総統も星域返してくれるっていうしな」
 日本と宇垣が交渉でこのことを勝ち取っているのだ。
「だからな。今はドクツはな」
「はい、味方です」
「同じ枢軸となります」
「まあ。戦争してたら陣営変わるのってあるからな」
 フランスも言う。
「こういうこともあるにしても」
「負けていますから」
「それがどうも」
 しこりはあるのだ。マジノ線を破られたことは屈辱である、だがそれでもとなるのだった。
「しかし。ドクツ軍が負けますと」
「こちらにも連合軍が来ますね」
「そうなるな。昨日味方、まあ一応そうなるな」
 フランスは連合国の仲の悪さもふと思い出した。
「そいつ等と戦うのもな」
「いえ、お兄様は既にアメリカさん、中国さんの敵になっていますので」
 フランス妹は兄にこのことを話した。
「ですからそれは」
「ああ、そういえばそうか」
「はい、既にです」
「何か俺今回の戦争滅茶苦茶なことになってるな」
「まさに流転ですね」
 フランス妹はこうも言った。
「そうなっていますね」
「全くだな。マダガスカルまで逃げて今ここにいるからな」
 丁度USJを陥落させてアメリカも入ったところだ。今度はテキサス、シカゴに入ろうとしている状況である。
「流転だよな」
「はい、まさにそうですね」
「それでも生きてるからな」
 確かに流転はしているが生きている、このことは確かだった。
「じゃあ最後の最後まで生き抜いてやるか」
「それではですね」
 シャルロットは顔を上げて己の祖国に言った。
「これから私達も」
「シカゴに行ってな」
 彼等の受け持ちはそちらになっている。
「それで攻略するか」
「ガメリカもそろそろ終わりですね」
 シャルロットは冷静に述べた。
「最早これといった戦力も残っていませんし」
「ワシントンで最後の決戦だろうな」
 フランスもこうシャルロットに返す。
「それで終わりだよ」
「ですね」
「まあ。こっちはあと三ヶ月だな」
 それで終わるというのだ。
「思ったより早く済んだな」
「意外だったのはガメリカ側の内部分裂でした」
 フランス妹はここでは参謀的な立場から自身の兄とシャルロットに話す。
「大統領と国家の間で分かれるとは」
「あれな。あの大統領も切れたな」
「これまでは特に波風を立てないいささかリーダーシップに欠けるところがありましたが」
「それが強権的にさえなってるからな」
「そこがかなり変わりましたね」
「今じゃ向こうにいるアメリカの妹もハンナ=ロックもいるだけになってるしな」
 これまでは実質的にガメリカを動かしていた彼女達もそうなっていたのがこの時のガメリカだった。まさにルースの強権政治の時だったのだ。
「アメリカにクー=ロスチャがこっちに来てな」
「キャロル=キリングも来ました」
 フランス妹は彼女の名前も出した。
「ですからガメリカは完全に分裂状態です」
「どうなんだろうな、これってな」
「褒められる状況ではないですが我々にとってはいいことです」
 フランス妹はここでも参謀的である。
「一気にワシントンまで進みましょう」
「それで太平洋の戦いは終わりか」
「そうなります」
「じゃあやるか。戦争よい平和の方がいいからな」
 フランスも決して好戦的ではない。戦う必要がなければそれでいいという考えの持ち主だ、それで今は確かな顔で言うのだった。
「平和にするか、太平洋だけでも」
「そうする為にも今は進みましょう」
「ああ、まあ何時かは帰ることもできるしな」
 オフランス本国にだというのだ。
「その時までこっちで頑張るか」
「あの。叔父様ですが」
 シャルロットはここではそっとした感じで自分の祖国に言ってきた。
「どうもエイリスにおられて」
「あの人生きてたんだな、そういえば」
「国王に戻られたいそうです」
「じゃあいいんじゃないか?姫さんは国王になりたいか?」
「いえ、別に」 
 シャルロットにそうした野心はない。
「思わないです」
「だよな。だったらな」
「特に気にすることなくですね」
「俺がこっちにいるからあの人も処罰はできないさ」
 シャルロットが枢軸側にいることも問われないというのだ。
「成り行きでここにいるしな」
「そうですか」
「妙な成り行きではあるけれどな」
 このことには複雑な苦笑いになるフランスだった。
「それでも姫さんは処罰とかはされないさ」
「私達がいますので」
 フランス妹もシャルロットに言う。
「ご安心下さい」
「すいません、何かと」
「いいさ。それにしても本当に何がどうなるかわからないな」
 フランスはその成り行きについてはやはりこう言うのだった。
「ドクツに負けて連合に入って」
「マダガスカルまで逃げて」
「で、そこでも負けて今は太平洋にいるからな」
「枢軸として戦ってもいますし」
「人生色々なんだな」
 フランスは腕を組んでそれで妹に応える。
「何が起こるかわかったものじゃねえな」
「本当にそうですね」
「わからないな、それじゃあな」
「シカゴに行きましょう」
「インド洋の端から大西洋の端を目指すか」
 つまりガメリカ東海岸まで至るというのだ。フランスの戦いはまさに流転だった。そしてその流転の中で。
 フランス達のところに今度へビルメが来てこう言ってきた。
「ちょっと日本さんに言われたんだけれどね」
「ああ、どうしたんだよ」
「あんた伊勢志摩に詳しかったね」
「隣で付き合いも長いからな」
 フランスは伊勢志摩と聞くとすぐに返した。
「結構知ってるぜ」
「そうだね。あんたの上司とあそこの上司縁が深いね」
「あそこの上司は俺の上司の家から出てるんだよ」
「ブルボン家だね」
「そうさ、オーストリアのところの上司の家の別れたもう一つの筋だったんだよ、あそこの前の上司はな」
 オーストリアの上司はハプルブルク家である。フランスの上司の家はブルボン家でその仲はかなり悪かった。
「そこが断絶してなんだよ」
「あんたの家が入ったんだね」
「ああ、そうだよ」
「結構激しい戦争があったって聞いてるよ」
「伊勢志摩継承戦争な。あれも派手にやられたな」
「あんた結構弱いからね」
「それは余計だよ」
 フランスは眉を顰めさせてビルメの今の言葉に返した。
「これでも気にしてんだよ」
「そうなのかい」
「そうだよ。とにかくあの戦争でな」
「負けたね」
「負けたけれど王位は認められたんだよ」
 ブルボン家が王位に就いたというのだ。
「その目的は達したさ」
「負けたのにかい?」
「負けたけれどオーストリアの奴の伸張を警戒するエイリスが動いてな」
 尚この戦争ではオーストリアとエイリス、それにオランダがフランスの敵になってそれでフランスを叩きのめした。
「それでなんだよ」
「目的は達成したんだね」
「負けてしかもかなり色々なのを取られたけれどな」
 目的は達したが、だったというのだ。
「いや、いい戦争じゃないさ」
「そうなんだね」
「とにかくあの戦争であの国の上司はブルボン家になったんだよ」
 彼の上司の家の分家筋になったというのだ。
「目出度くな」
「そういうこともあったんだね」
「そういうことからも俺とあいつは縁があるんだよ」
「じゃあ詳しいんだね」
「それなりにな。で、その伊勢志摩のことか」
「日本さんは知りたいみたいだね」
「わかった、じゃあ色々と教えるな」
 フランスは確かな顔でビルメに答えた。
「あそこはまた独特だからな」
「独特っていうか内戦起こしてるね」
「夫婦喧嘩なんだよ、あれは」
「夫婦喧嘩が戦争になるのかい」
「まああそこはそれが普通だからな」
「普通ねえ」
 いささか呆れた調子で応えるビルメだった。
「何か違う気がするんだがね」
「まあそれでも日本があそこについて聞きたいんならな」
「話はするんだね」
「ああ、そうさせてもらうさ」
「じゃあ今から日本さんのところに行くかい?」
「出撃準備が終わってからな。そうさせてもらうさ」
「わかったよ。じゃああたしはリシュリューに入るからね」
 シャルロットの乗艦である。オフランス軍の最新鋭の戦艦だ。
「そこで姫さんと一緒に出撃準備に入るよ」
「ではご一緒に」
 シャルロットもこうビルメに言う。
「参りましょう」
「それじゃあこっちはこっちでやることがあるからね」
 ビルメは伝えただけだった。
「後はそっちで宜しくね」
「ああ、わざわざ教えてくれて有り難うな」
「お礼なんていいさ。あたしもついでだったからね」
 だからいいというのだ。
「そっちはそっちでね」
「ちょっと行って来るな」
 こうしてフランスは出撃準備を整えてから日本に伊勢志摩のことについて話すことになった。戦いはまさに人類の銀河世界全体に及んでいた。


TURN68   完


                          2012・11・15



各地で開戦だな。
美姫 「その相手は基本的にはドクツだけれどね」
やっぱりここに来てレーティア不在は大きいな。
美姫 「どこまで戦線の維持が出来るかが本当に問題よね」
レーティア一人が居ないだけで、それすら危ういというのがな。
美姫 「本当に頼りきりだったのね」
だよな。そして、エイリスもいよいよ反撃に出たしな。
美姫 「本当にあちこちで戦いが広がっているわね」
さてさて、どうなっていくのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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