『ヘタリア大帝国』




                 TURN64  バルバロッサ作戦

 話は遡る。
 ドクツ軍はまさに破竹の快進撃だった。確かにアシカ作戦は失敗に終わった。
 だがそれでも北アフリカではエイリス軍を押していた。北アフリカ方面のエイリス軍を率いるモンゴメリーも浮かない顔で共にいるイギリス妹に述べていた。
「戦局は相変わらずですね」
「そうですね。劣勢のままです」
「かろうじてスエズは守っていますが」
 だがそれでもだった。
「戦力が枯渇してきています」
「これ以上戦闘が続けば」
「はい、このスエズもまた」
「何とか太平洋から撤退してきた戦力も加わりました」 
 それでだった。
「守ってはいます」
「今の時点では」
「これからはわかりません」
 これがスエズの実情だった。
「イタリン軍は敵ではありませんが」
「問題はドクツ軍ですね」
「ロンメル元帥、それにプロイセン兄妹です」 
 アフリカ方面に来ているドクツ軍は彼等だった。
「彼等は確かな強さです」
「本当に強いですね」
「彼等の猛攻をこれ以上受ければ」
「このスエズも危ういですね」
「スエズを失う訳にはいきません」
 アフリカとアジアを結ぶエイリス帝国を支える最大拠点である。まさにエイリスが植民地によって成り立つ大帝国であるうえでは心臓とも言える星域だ。
 つまりそこを失えばだった。
「エイリスはアジア、そしてアフリカも植民地を失ってしまいます」
「はい、その通りです」
 イギリス妹はモンゴメリーのその言葉に頷いて答えた。
「ですからここは耐えて」
「機を待ちましょう」
「ただ。ドクツ軍のこれからの動きですが」
 イギリス妹は眼鏡の奥の目を光らせて言った。
「どうやらかなり大規模な作戦に出る様です」
「というとまさか」  
 モンゴメリーはここでこう言った。
「遂にソビエトに攻め込みますか」
「第二次アシカ作戦とはお考えにはならないのですね」
 大抵の者はこう言う、だからイギリス妹もあえてそれではないかと問うた。だがモンゴメリーはこう答えたのだ。
「それよりもまず、です」
「何故ソビエトだと思われますか」
「レーティア=アドルフは既にその著書の中で東方殖民に言及しています」
 彼も既にこの書の内容は知っていたのだ。
「生存圏です」
「民族の生存圏」
「まさにそれです」
「そしてその生存圏確保の為に」
「そうです。その生存圏はドクツからウラルに至ります」
 つまり東欧全体である。
「その為遂にソビエトとの戦いに至ります」
「若しその戦いにドクツが勝てば」
 イギリス妹はそのケースについて言及した。
「その時は」
「はい。ドクツはその生存圏を手に入れます」
「そこにある資源と人口もまた」
「ドクツは我がエイリスを脅かすだけの国になります」
 モンゴメリーはこうイギリス妹に述べたのだった。
「間違いなく」
「その通りですね。だからこそ」
「ここは我々も手を打ちたいですが」
 つまりドクツを今のうちに倒しておきたいというのだ。だがそれは。
「それは今の我が国では難しいかと」
「アジア方面の戦力はなくなってしまいました」
 全て独立してしまった、それではだった。
「ガメリカからの援助も」
「遂に日本との本格的な戦闘に入りましたね」
「援助は打ち切られました」
 かなり一方的にだ。もっともガメリカは最初からエイリスを積極的に助けはしていなかった。
「我が国だけで闘うしかありませんので」
「このスエズでも劣勢です」
 これが現実だった。イギリス妹は沈痛な顔で述べた。
「この有様では」
「防衛だけで手が一杯です」
「本国でもそれは同じです」
「これではどうにもなりません」
「両国の戦いへの介入もできませんね」
 要するにドクツを攻撃することが出来ないというのだ。これが現実だった。
 イギリス妹は顔を曇らせて言ったのである。
「何も出来ません」
「残念なことです」
「ソビエトは勝てるでしょうか」
 イギリス妹はモンゴメリーに問うた。
「果たして」
「敗れる可能性が高いです」
 モンゴメリーはそう見ていた。
「ドクツ軍は数では劣っていますが」
「その装備、戦略は」
「ソビエト軍を凌駕しています」 
 その質は彼等もよくわかっていた、何しろ今も戦いかなりの損害を出し続けているからである。
 だからだ。モンゴメリーはこう言ったのである。
「そうしたことを考慮しますと」
「敗れますか」
「その通りです」
「そうですか。そしてその力で」
「再びドクツはアシカ作戦を発動します」
 あのエイリスを追い詰めたその作戦をだというのだ。
「そうなれば」
「今度は生き残れませんね」
「ソビエトには勝ってもらいたいのですが」
 これがモンゴメリーの本音だった。しかしそれでもだった。
 彼等にはその戦いに介入する戦力がなかった、今のエイリスにはその力がなかったのである。
 そして今もだった。彼等の耳に警報の音が鳴った。
「来ましたぞ」
「はい」
 二人の顔が引き締まった。
「それではです」
「また迎撃ですね」
「イタリア君達ならいいのですが」
 モンゴメリーはイタリア達にはこれといって敵愾心はなくむしろ親しみを感じていたので君付けにしているのだ。
「ですがドクツ軍なら」
「手強いですね」
「はい、その通りです」
「気をつけて行きましょう」
 ドクツ軍ならというのだ。そうした話をして。
 彼等は出撃し戦う、幸い相手はイタリン軍でどうということはなかった。
 モンゴメリーが少し攻撃を加えると彼等は一目散に逃げだした。
「だ、駄目だブーーー!」
「モンゴメリーが来たブーーー!」
「あいつが来たら勝てないブよーーー!」
「強過ぎるブーーー!」
「な、何でまた出て来たんだよ!?」
 指揮官であるイタリアもこんな調子だ。
「モンゴメリーって今お茶の時間だったんじゃないの!?」
「ちょっと、何でそうなるのよ」 
 モニターからプロイセン妹が突っ込みを入れる。
「イタちゃん、今二時よ」
「あっ、そうだったんだ」
「お茶の時間は三時、覚えておいてね」
「ううん、俺いつもこの時間は寝てるから」
 シェスタである。今は無理をして起きてスエズを攻撃したのだ。
 イタリアは左手の人差し指を己の顎に当てて述べた。
「だからね」
「それでなのね」
「御免、イギリス達のお茶の時間間違えてたよ」
「そこんところしっかりとね」
 プロイセン妹は笑ってイタリアに告げた。
「それでだけれど」
「うん、ちょっと今俺達大変だから」
「今そっちに行くから」 
 プロイセン妹もイタリア達には優しい。実際に優しい笑みでこう言う。
「イタちゃん達は少しだけ頑張って」
「うん、じゃあ頼むよ」
 こうしてイタリア達はプロイセン妹の援護を受けながら戦場を離脱した。今回は武力偵察だったのでこれで済んだ。だがこの話を聞いたドイツは本国で呆れることしきりだった。
 それでうんざりとした感じの顔でこうグレシアに漏らした。
「困った奴だ」
「イタちゃんのことね」
「そうだ。相変わらず弱過ぎる」
「そう?イタちゃん達も結構頑張ってるじゃない」
 グレシアはにこにことしてドイツに答える。
「だからプロイセンさん達もいつもフォローしてるのよ」
「あれで頑張っているのか」
「イタちゃん達なりにね」
 あくまで彼等なりに、だった。
「何とかしようってしてるじゃない」
「すぐに逃げ出して泣き叫んで白旗を振るのにな」
「それでもよ」
 イタリア達も彼等なりに頑張っているというのだ。
「必死にね」
「そうなのだろうか」
「確かに見張りはいい加減で兵器も弱くてシェスタばかりして美味しい御飯とワインと女の子のことばかり考えてるけれどね」 
 つまり戦争のことはあまり考えていない。
「それでもよ」
「悪い奴ではないか」
「何処か悪いところがあるかしら」
 グレシアは微笑んでドイツに問い返した。
「祖国さんも嫌いじゃないから助けるのでしょ」
「確かに。それは」
 ドイツもこのことは否定出来ない。
「嫌いではない」
「そうね。だからよね」
「あの連中がいないと寂しい」
 イタリアもロマーノも妹達もだ。
「あちらの統領もな」
「そうそう、ムッチリーニさんもいい人なのよ」
 グレシアは彼女も好きだった。
「あの人なりに頑張ってくれてるしね」
「何故かイタリンは皆嫌いではないな」
「連合国側もね」
「イタリア達は何があっても大丈夫か」
「あれで結構危うい状況は避けてるからね」
 イタリン流の処世術である。
「だからね」
「そういうことか」
「そうよ。それでだけれど」
 グレシアは話が一段落したところでドイツに話を切り出した。
「今からね」
「あの作戦のことか」
「そろそろはじまるわよ」
 微笑んではいるがそこに真剣なもののある顔だった。
「我が国の命運をかけた戦いがね」
「これまで以上に」
「ポッポーランド戦も北欧戦もオフランス戦もね」
「これから起こる作戦に比べればだな」
「そうよ。小規模の作戦よ」
 それに過ぎないというのだ。
「東方の生存圏を手に入れる為の戦いだから」
「ドクツの生存圏を決める戦いか」
「そうよ。それがはじまるのよ」
「壮大な作戦だな」
 ドイツもこのことを強く感じていた。
「そして必ず勝つ」
「その作戦会議に今から行きましょう」
「わかった。それではだ」
 ドイツはグレシアの言葉に頷き宣伝省から総統官邸に赴いた。二人が会議室に入ると続いて他の面々が入って来た。見れば北アフリカに行っている面子以外のドクツの提督、国家の全てだった。
 オーストリアがドイツに対して言う。
「遂にはじまりますね」
「そうだ。バルバロッサ作戦だ」
「そろそろだとは思っていましたが」
「準備はもう出来ている」
 ドイツは確かな声でオーストリアに答える。
「そして作戦計画もだ」
「全て整っていますね」
「相手の数と装備、配置も全て把握している」 
 そういったことの情報収集もしていたのだ。
「後はだ」
「作戦を発動するだけですか」
「そうだ。全てはな」
「何か緊張するずらな」 
 ルーマニアも今は表情に余裕がない。
「ソビエトに一気に攻め込むなんて」
「そうだっぺ。こんな大作戦はじめて聞いたっぺ」 
 デンマークも驚きを隠せない。
「凄い作戦になるっぺよ」
「この作戦に勝てばあれなんよな」
 ポーランドだけはいつもの調子だった。
「ドクツ最強になるんよな」
「ええ、その通りよ」
 グレシアがそのポーランドに答える。
「ソビエト全土を手に入れるのよ」
「欧州の東とそしてソビエト全土ですね」
 ドイツ妹はバルバロッサ作戦成功の暁に手に入れられる領土と資源、人口のことを考えている。それは途方もないものだった。
「エイリスも凌駕できますね」
「その後で実際にまたアシカ作戦を発動するわよ」
 そうするというのだ。
「いいわね、それで」
「はい、わかりました」
 ドイツ妹は確かな声で宣伝相に答えた。
「では後は」
「もうすぐグレシアが来るわ」
 この作戦の全てを計画立案し発動する彼女がだというのだ。
「ヒムラーが呼んでいるわ」
「ヒムラー」
「あの男だか」
 ノルウェーとスウェーデンは彼の名前に微妙な反応を見せた。
「北欧にいたべ」
「それでもバルバロッサには参加するだな」
「人材は少しでも必要よ」
 グレシアはドクツの今の事情も話した。
「親衛隊はそれだけの戦力なのよ」
「それはその通りですね」
 ハンガリーも思うところはあるがグレシアの言葉に応えた。
 それはグレシアも同じだったがあえて言ったのである。
「いいわね。それで」
「はい」
 ハンガリーは思うものを隠してグレシアの言葉に頷いた。
「では親衛隊も参加ですね」
「そうよ。それじゃあね」
 グレシアは提督達と国家達を見回して告げた。会議室は機能的かつ機械的であり贅沢とは無縁の場所だった。
 そこにいてこう言ったのだった。
「レーティアが来たらね」
「はい、それでは」
「その時に」
 皆背筋を正した、そしてだった。
 そのレーティアがヒムラーの案内で部屋に入った。皆その瞬間に起立してドクツのあの右手を斜め上に挙げた敬礼で言った。
「ジークハイル!」
「ハイルアドルフ!」
「お早う、諸君」
 レーティアも応える。だがその顔には疲れがあった。
 その疲れを抑えたまま己の席に向かう。椅子はヒムラーが引いた。
 レーティアはその席に座ってからこう列席者に告げた。
「では皆座ってくれ。ヒムラーもだ」
「わかりました」
 ヒムラーもドクツの敬礼で応える。今もその手には手袋がある。
 彼はレーティアの左側の席に着いた。右側にはグレシアがいる。
 レーティアを上座に置いた長方形のテーブルの傍に皆立っている、その彼等がレーティアの言葉に応え着席した。
 レーティアはそれを見届けてから全員に告げた。
「では明日からだ」
「ええ、明日からね」
「全軍でこのベルリンからポッポーランドを経由してソビエト領に攻め込む」 
 これが今回のドクツの作戦だった。
「バルバロッサ作戦だ。最終攻撃目標はモスクワだ」
 言わずと知れたソビエトの首都だ。
「あの星域を攻め取る。それで決着がつかなければだ」
「さらに攻めるのね」
「ウラルもカフカスもだ」
 そうしたソビエトのあらゆる星域をだというのだ。
「攻め取っていく。シベリアまで行くこともだ」
「それもね」
「既に計画を立てている」
 こう聞き役に回っているグレシアに答える形で列席者達にも話す。
「補給も整えている」
「そしてソビエトの寒さも考えて」
「防寒艦も用意してある」
 それも既に考えていた、レーティアはソビエトの極寒のことも忘れてはいなかった。
「ナポレオンの愚は犯さない」
「そしてまずはモスクワを攻め取って」
「それで降伏しなければソビエト全土だ」
 至る星域を占領していくというのだ。
「そうしていく。いいな」
「了解。それでは」
「軍は三方に分ける」
 このことも既に計画として立てている。
「北はトリエステ提督が指揮する」
「はい」
 そのトリエステが応える。
「バルト三国を攻め取っていく」
「畏まりました」
「南はベートーベン提督だ」
「はい」
 今度はベートーベンが応える。
「ウクライナにカリーニングラード、それに」
「カフカスまで」
「そこのルートだ。そしてだ」
 レーティアはここで万シュタインを見た、そしてだった。
「中央はマンシュタイン元帥だ」
「はっ」
 ドクツ軍の双璧の一方が声をあげた。
「ロシア平原からスモレンスク、そして」
「モスクワを」
「中央には主力を置く」
 三方の中でもだというのだ。
「そうしていく。ではだ」
「作戦発動は明日よ」
 まさにその時だと、グレシアが全員に告げる。
「この会議が終わり次第皆配置についてね」
「了解」
「それでは」
 皆グレシアの言葉にも応える。その中にはヒムラーもいる。
 そして今レーティアが言った。
「今よりバルバロッサ作戦を発動する」
 遂に作戦も発動された。
「諸君の健闘を祈る」
「ジークハイル!」
「ハイルアドルフ!」
 全員が一斉に立ち右手を掲げた、そうしてだった。
 各提督、国家達がそれぞれの艦隊の旗艦に入った。そのうえでドクツの艦隊が次々と出港していく。
 レーティアはグレシアと共にその黒い艦隊が銀河に出て行くのを見届けながらこうグレシアに対して言った。
「いよいよだな」
「そうね。貴女の目指した生存圏がこれでね」
「確立される」
 レーティアは確信していた。
「今な」
「そうね。ドクツは勝つわ」
「私がいる限りドクツは敗れはしない」
 断言もした。
「例え相手が誰であろうとだ」
「ソビエトであろうとも」
「ソビエトは確かに強い」 
 レーティアもこの国、次の敵を決して侮ってはいなかった。
「だがだ」
「全てはわかっているわ」
「何もかもが判明している敵を破ることは造作がない」
 例えどれだけ国力差があってもだ。レーティアにとってはそうした相手なぞ最早敵にはならないのである。
「だからだ。ただ」
「ただ?」
「モスクワの南だが」
 不意にこんなことも言った。
「何かあるのか」
「モスクワの?」
「あの場所に艦艇が移動している様だが」
「モスクワの南に星域はないわよ」
「その通りだ」
 レーティアも世界のほぼ誰もがそう思っている。
「そして大怪獣がいるのか?」
「ソビエトに?」
「まさかとは思うがな」
「そんな話は聞いたことがないわよ」
「私もだ」
 これまた世界のほぼ誰もが思っていることだ。
「冬将軍スノーはいるがな」
「けれど彼女についても」
「ソビエトの寒さ自体にな」
 会議でレーティアが言った通りそれは既にだった。
「対策はしている」
「だから大丈夫よね」
「その為の防寒艦だ」
 レーティアがわざわざ開発、建造させた艦である。
「あれがあるからだ」
「大丈夫よね」
「寒ければ温めればいい」
 実に簡単な理屈だった。
「埃は払えばいいのだ」
「同じ理屈ね」
「打てる手は全て打つ」
 レーティアの持論でもある。
「そして私は全て打った」
「バルバロッサ作戦の為に」
「後はコントロールするだけだ」
 レーティアは言う。
「それだけだ」
「その通りね。それじゃあ後は」
「私はこのベルリンで全てを統括する」
 バルバロッサ作戦のそれをだというのだ。
「ソビエトとの戦い、勝つ」
「何としてもね」
 グレシアも勝利を確信していた。だが。
 レーティアの顔色が思わしくないのを見てこう彼女に尋ねた。
「ちょっといいかしら」
「何だ?」
「寝てる?最近」
 つまり休んでいるかどうかだというのだ。
「ちゃんと」
「寝ている暇なぞない」
 これがレーティアの返答だった。
「バルバロッサ作戦成功の為には睡眠なぞ」
「寝ていないのね、つまりは」
「この作戦にドクツの全てがかかっているのだ」
 このことはまさにその通りだ。ドクツの全てを賭けた空前絶後の作戦だ。
 だからだと。レーティアは言うのだ。
「寝てなぞいられない」
「いつも言ってるわよね。毎日少しの間でもね」
「寝るべきだというのだな」
「ええ、そうよ」
 グレシアはレーティアに対して告げる。
「一睡もしないのと少しでも寝るのとでは全く違うのよ」
「それはわかってはいるが」
 レーティアは総統になってから明け方まで仕事をして少しソファーでまどろみ遅くとも九時には起こされて熱い風呂に入って疲れを癒す生活をしている。
 普段からそうであり今は余計になのだ。
「しかしだ」
「本当に少しでも寝てね」
「栄養は摂っている」
 寝てはいないがそれでもだというのだ。
「だから安心してくれ」
「けれど貴女の食事は」
 完全な菜食主義だ。確かに太らないがそれでもだった。
 肉や魚でエネルギーを急激に摂取出来ない、野菜や穀物では肉や魚に比べてエネルギーは遅効的でありかつ穏やか。だからだった。
「ソーセージでも食べる?」
「いや、いい」
 レーティアの方もそれを断る。
「肉はな」
「そうよね、やっぱりね」
「もう口には出来ない」
 完全なベジタリアンになってしまっていた。
「ミルクやチーズがあるからそれを口にする」
「だといいけれど」
「トマトや大蒜もある」
 主としてレーティアの好物あるパスタに使われる。
「栄養は大丈夫だ」
「それはなのね」
「バルバロッサ作戦が終われば少し休む」
 そうするというのだ。
「それまではもたせる」
「頑張ってね。ただ」
「今度は何だ」
「いえ、ロンメル元帥もいてくれたら」
 グレシアが今度言ったのは戦力のことだった。
「違ったけれどね」
「そうだな、ロンメルとプロイセン君達の高速部隊もいればな」
「もっと一気に進めるわね」
「ロンメルはマンシュタインと同じく中央を進ませつもりだった」 
 つまり中央を任せる予定だったのだ。
「だがな」
「北アフリカに送ったからね」
「使えない。北アフリカ戦線もだ」
「優勢ではあるわ」
「だが攻め切れてはいない」
 これが実情だった。
「戦力が足りないな、やはり」
「イタリン軍もいるけれどね」
「イタリン軍か」
 レーティアはこの軍の名前を聞いて微妙な顔になった。そして声も微妙なものにさせてこう言うのだった。
「嫌いではないのだがな」
「戦力としてはね」
「あまり頼りにならない」
 実際はあまりどころではない。
「困ったことにな」
「アシカ作戦の時あっさりやられちゃったしね」
 そしてナポリ、ローマを伺われる始末だった。
「あの時は本当にまずかったわね」
「思えばイタリンを倒される前にロンドンを攻め落とせばよかったか」 
 今はこう思うレーティアだった。
「ロンメルを回さずに一気にな」
「今言っても仕方ないことだけれどね」
「そうすればエイリス自体が倒れイタリンを攻め落とされる心配もなかった」
「咄嗟にそうしちゃったけれどね」
「そして今に至る」
 イタリン軍と共に北イタリアにロンメル達が展開しているというのだ。
「そうするべきだったか」
「そうせざるを得ないべきだったか」
「そこはな」
「かなり難しいところね」
「結果としてイタリンは助けられた」
 このこと自体はよかった。実はレーティアはイタリンを好きである。イタリア達はおろかムッチリーニも嫌いではない。
「しかしエイリスは滅ぼせず」
「バルバロッサ作戦もね」
「ロンメルがいればより確実な作戦を立てられた」
 そうだったというのだ。
「だがな」
「仕方ないことね」
「全くだ。せめてスエズからカフカスに攻められれば」
 スエズ攻略も果たしたいところなのだ。
「イタリン軍だけでしてくれていたら」
「理想だったわね。それでイタリン軍にもバルバロッサ作戦に参加してもらって」
「だがそれはな」
「夢物語ね」
「イタリン軍は弱い」
 全てはそれに尽きた。
「あまりにも弱い」
「弱過ぎるからね、本当に」
「イタリン軍ではとてもエイリス軍の相手にはならない」
「だから私達が行かないとね」
「全く。難しいところだ」
 レーティアは疲れた顔で溜息をついた。
「これでも何とか計画通りにいっているがな」
「そうさせているのね」
「本当に何とかだ」
 人類史上最大最高の天才とさえ謡われるレーティアの総力を尽くしてもだ。
「今の状況はな」
「ソビエトさえ倒せば何とかなるけれどね」
「そのソビエトだ。必ず倒す」
「そして返す刀でエイリスも」
「後は。太平洋だな」
 レーティアの目は彼女達から見れば遠いその場所にも及んでいた
「日本はガメリカと本格的な戦闘に入ったな」
「びっくりしたわ。ハワイを占領したわ」
 丁度その頃にバルバロッサ作戦がはじまったのだ。
「あそこで勝てるなんてね」
「ひょtっとするとひょっとするな」
「勝てるかしら、日本は」
「まだ確かなことは言えないがな」
 それでも勝機は見えてきたというのだ。
「勝てる可能性が出て来た。その場合のケースも想定しているが」
「日本が太平洋を掌握した場合も」
「開戦も視野に入れている」
 今は同盟を結んでいるがそれは永遠のものではないというのだ。
「だが日本は思ったよりも強い様だな」
「エルミーを送ったせいもあるけれどね」
「中々やる、戦う時は用心しておくか」
「その方がいいわね」
 こうした話もしてだった。レーティアとグレシアはソビエトに向かうドクツ軍を見ていた。ドクツの命運を決する空前の作戦は遂にはじまった。


TURN64   完


                             2012・11・6



今回はドクツサイドの話だな。
美姫 「時間は少し遡ってって事ね」
今の所はドクツが優勢に見えなくもないけれど。
美姫 「レーティアが全てを動かしているだけに、彼女の負担がとんでもないわね」
だな。かなり疲れてきているようだし。
美姫 「果たして、ドクツは何処までいけるのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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