『ヘタリア大帝国』




             TURN62  太平洋経済圏

 ガメリカは日本との講和の後すぐに大統領選挙の投票に入った、ルースが出る筈だったが彼は兵器の副作用で精神が崩壊していたので副大統領が立候補した。 
 野党からも候補者が出たがどちらも国民にとっては影が薄くダグラスの敵ではなかった。ダグラスは所属政党なしで徒手空拳の状態ながら国民の圧倒的な支持を集めガメリカ大統領となった。
 彼は就任早々正式に太平洋経済圏への参加と閣僚の発表をした。その顔触れはというと。
「基本的に同じよね」
「ええ」
 財務長官のクーが国防長官のキャロルに答える。
「ただ。ドロシーがいないだけで」
「あとドワイトが太平洋艦隊司令官になったわ」
 これもダグラスが直々に任命した。
「ハンナは」
「国務長官よ」
 そのハンナもいた。
「提督の顔触れも変わらないわ」
「そうよね。殆ど同じよね」
「ただ。参加陣営は変わったわ」 
 ハンナはこのことを言った。
「もうガメリカは連合ではないわ」
「かといっても枢軸でもないぞ」
 アメリカもそのままいて言う。
「枢軸はもうないも同然だ」
「そうよね。イタリンは降伏したし」 
 キャロルがこのことを指摘する。
「ドクツも今にも滅びそうだし」
「枢軸と言っても日本だけだ」
 実質そうなっているのが現状だ。
「何か僕達は枢軸に寝返りになったみたいだがな」
「実際違うわよね」
「どうなるんだ、一体」
「そうね。太平洋ね」
 今度の陣営はそれになるというのだ。
「太平洋経済圏ね」
「それに入った形だな」
「ええ。とりあえずの相手はソビエトかしらね」
「そうなるか?」
「まあ。ドクツが倒れたらこっちに来るだろうから」
 これは当然の流れとしてガメリカ上層部も覚悟はしている。
「だからね」
「覚悟はしてだな」
「ええ、そうしてあたりましょう」
「ソビエトとの衝突は当分先になるわ」 
 ハンナが国務長官として言う。
「まずはね」
「中南米ね」
 クーがハンナに答える。
「メキシコやブラジルを領土にしている」
「ええ、あの訳のわからない国が騒がしくなってきたみたいよ」
「アステカだったわよね」 
 キャロルがその国の名前を言った。
「確か」
「そうよ。あの国を今のうちに何とかしないとね」
「何とかっていってもあの連中何なのかしら」
 キャロルはどうにも難しい顔になって述べた。
「騒ぎたいだけ?それとも何かしら」
「私に言われても」
 ハンナも彼女にしては珍しく困惑している顔になっている。
「あの国のことはわからないわ」
「あの国ね。昔からあるのよ」
 ここでアメリカ妹が言う。
「けれどあたしもあの連中のことはわからないから」
「妹ちゃんもなの」
「北米から下、中南米は本当に不明の地域なのよ」
 アメリカ妹も微妙な顔になっている。
「全てがね」
「けれど資源は豊かなのね」
「そうらしいけれどね」
 アメリカ妹はキャロルの今の問いにも微妙な感じで返す。
「だから一度も入ったことがないから」
「わからないのね」
「まあ。連中が攻めてくるならね」
「対するしかないな」
 アメリカは即座に妹に答えた。
「その時はな」
「兄貴の言う通りだよ。とにかくね」
「そうだ、戦うしかないぞ」
「太平洋経済圏に組み込めたらいいね、あの国も」
「その辺りはわからないわね」
 ハンナはアメリカ妹に即答できなかった。
「正直なところね」
「何もわかってないからよね」
「そうよ。本当に何もわかってないから」
「とりあえずこれから調べるのね」
「一応表面的なデータはあるけれど」
 クーが言ってきた。
「それでも」
「大したことは、なのね」
「そう。わかっていないから」
「とりあえずは様子見ってことかしら」
 キャロルは腕を組み難しい顔で述べた。
「現状は」
「そうなると思うわ」
「あまり好きなやり方じゃないけれどね」
 キャロルは太平洋側に入っても基本的な性格は変わっていない、それで不本意といった顔でこう周囲に述べたのである。
「けれどそれもね」
「仕方ないわよ」
「そうなのよね。じゃあね」
「プレジデントの命令には従うのよ」
「わかってるわよ。それにドロシーも探して」
「あの娘にも戻ってもらうわ」
 ハンナは強い声でキャロルに答えた。
「ガメリカにとって必要な娘だから」
「その通りだ。ドロシーには絶対に戻って来て欲しいぞ」
 アメリカもそのことを言う。
「カナダにいるらしいし彼にも協力してもらおう」
「えっ、カナダさんは確か」
 クーがここで目をしばたかせた。
「太平洋陣営に」
「いるぞ」
「そうだったんですか」
「えっ、いたかしら」
「そうだったの?」
 ハンナとキャロルもこんな調子だった。
「まあいるならいるで」
「協力してもらうけれどね」
「おいおい、君達もカナダのことを忘れてたのかい?」
「つい。影が薄くて」
「どうしても忘れるのよ」
 ハンナもキャロルもこうアメリカに返す。
「他の国のことは覚えてるけれど」
「カナダちゃんのことは忘れるのよね」
「あたしも実はね」
 そしてこれはアメリカ妹もだった。
「カナダさん達のことは忘れるのよ」
「何であんなに影が薄いのかしらね」
 キャロルはまた言った。
「ちょっと謎よね」
「すいません、本当にカナダさんのことを忘れていました」
 四姉妹の中で最も真面目なクーですらだった。アメリカに対して申し訳ない顔で釈明する。
「国家の名簿もチェックしていますが」
「僕と日本、中国は絶対に忘れないな」
「はい、それにフランスさんも」
 今は彼も太平世側にいるのだ。マダガスカルが入っているからだ。
「絶対に忘れません」
「他の国もだな」
「とにかく個性的な国が多いので」
「けれどなんだな」
「カナダさんはどうしても」
 つまりカナダにはこれといって個性がないというのだ。
「何と言っていいか」
「まあとにかく今度わっしい達と一緒に日本に行くけれど」
「そこでだな」
 アメリカはキャロルの今の言葉に顔を向けた。
「中国や他の国も参加してだな」
「正式に講和してね」
 それの調印式になるというのだ。
「後は。あそこの帝ちゃん?」
「今あの娘で何代目だったかしら」
「数百代じゃ利かないぞ」
 アメリカがキャロルと自分の妹に話す。
「それこそな」
「そうよね。歴史ある国だからね」
「日本に行くのは久し振りだな」
 アメリカは外交で何度か日本に行ったことはある。悪い印象は受けていない。
「何か楽しみだな」
「まああたしはね」
 キャロルはアメリカと正反対に微妙な顔になっている。
「あの国に行くのはどうもね」
「日本は嫌いか?」
「日本君は嫌いじゃないわよ」
 何故かここでは君付けのキャロルだった。
「それでもね」
「東郷長官のことだな」
「あいつが嫌いなのよ」
 この感情は否定できず眉を顰めて言う。
「理屈ではわかってるけれどね」
「感情ではだな」
「そうよ。姉さんのことはね」
「言っても仕方ないわよ」
 ハンナはあえて厳しい声でキャロルに告げた。
「だから言うのは止めなさい」
「ええ、そうした方がいいわね」
「とにかく日本に太平洋経済圏の全ての国が来るわ」
「そうね。凄い会合になるわね」
「確かに新しい時代がはじまるわ」 
 ハンナは少し遠い目になって話した。
「それがいい時代になるかどうかはこれから次第よ」
「あたし達の努力次第ってことね」
「そうよ。では今から出発の準備よ」
 日本へのだというのだ。
「ドレスの用意もいいわね」
「僕はタキシードだな」
「祖国さんの正装も新調しておいたわよ」
「あっ、悪いな」
「お礼はいいわ。この戦争では何かと助けて貰ってるから」
 ハンナは微笑んで己の祖国に述べた。
「だからね」
「そう言ってくれるんだな」
「是非ね。それじゃあ」
「よし、日本に行こう」
 アメリカが最後に威勢よく言った。そしてだった。
 太平洋諸国の全ての国と主だった面々が集まった。そこにはしっかりとカナダもいる。
 だが注目されることに期待している彼に誰も声をかけようとしなかった。それでも本人は期待している顔で相棒のクマ二郎にこう言っていた。
「誰が最初に僕に声をかけてくれるかな」
「ダレナンダアンタイッタイ」
「君の飼い主のカナダだよ、クマ一さん」
 お互いにこんな調子の二人だった。しかも。
 太平洋軍きっての真面目人間である平良もカナダを見てこう言う始末だった。
「貴殿は誰だ」
「えっ、誰って」
「何処かで見かけたが」
「カナダですけれど」
「カナダ?」
 平良の返事は真剣にいぶかしむものだった。
「どなたですかな」
「あの、本気ですよね」
「私は何時でも本気ですが」
「あの、アメリカの北にある」
「アラスカですね」
「いえ、アラスカとゲイツランドの横にある」
 カナダは己の存在感のなさにげんなりとなりながら平良に説明する。
「その国ですけれど」
「そういえば」
 ここでやっと思い出した平良だった。
「おられましたね」
「はい、宜しくお願いします」
「申し訳ありません、失念していました」
 平良はあらためて敬礼してからカナダに謝罪する。
「何と言っていいか」
「いえ、お気遣いなく」
 いつものことですから、とは自分では言えないカナダだった。
「何はともあれですけれど」
「これから太平洋共同体の調印式です」
「そうですよね」
「・・・・・・カナダさんもおられますし」
 平良はまだカナダを覚えきれていない。
「では御所に」
「そうさせてもらいます」
「私は韓国殿のところにいますので」
 彼は今も韓国の軍事顧問を務めている。生真面目で的確な指導で評判がいい。
「何かあればお申し付け下さい」
「そうさせてもらいます」
 カナダは平良に告げてから御所に向かった。見れば妹は日本妹達と楽しく談笑している、彼だけが気付いてもらえない。
 御所の中は歴史を感じさせる檜の造りだ。その中に主だった面々が集まっている。
 ハンナはその畳と檜、そして見事な装飾の欄間や障子、丁寧に描かれた絵がある襖といったものを見てこう言うのだった。
「歴史ね」
「そうね。日本の」
「国力ではガメリカは日本には勝っていたけれど」
「これだけはどうしようもないわね」
 クーは女性としてハンナに答える。
「この歴史だけは」
「絶対に手出しはできないわ」
 例えガメリカの四大財閥でもだというのだ。
「この歴史にだけは」
「日本の最大の武器かしら」
「そうなるわね」
 ハンナはその歴史を見ながらクーに話す。
「けれど。この中にいると」
「何か。私達まで歴史の中にいるみたいで」
「不思議な感じになるわね」
「そうね。本当に」
「私達が逆立ちしても手に入らないものも世の中にはある」
「それが今かわかったわ」
 二人で言うのだった。そして。
 フランスはフランスで項垂れる顔でこうシャルロットとビルメに漏らしていた。
「お兄さん最近出番ないよ」
「祖国さん最近活躍してないからね」
 ビルメは何の容赦もなくフランスに対して言う。
「それにここ太平洋だよ」
「欧州じゃねえよな」
「祖国さんの故郷じゃないよ」
「俺は脇役に過ぎないからな」
「そうなるのですか」
 シャルロットは見事なドレスを着ている。彼女はこちらの方が似合っている感じだ。
「祖国さんは」
「ああ、ここでの主役はあの三人でな」
 日本とアメリカ、中国だ。
「俺は脇役なんだよ」
「原始の八人でもですか」
「オフランスだからな」
 欧州だ。やはり太平洋ではない。
「どうしてもそうなるんだよな」
「ですか」
「言っても仕方ないけれどな。けれど俺はこれからどうなるんだよ」
「いいところなしで終わるんじゃないかい?」
 ビルメはまたしても容赦なく言う。
「まあ仕方ないね」
「最初から最後までこんなのかよ」
「決める時に決めればいいさ」
「だったらいいけれどな」
 フランスはフランスでそんな話をしていた。彼もまた悩みがあった、見ればカナダと同じ様な事情であった。
 色々な面子が揃うがその中で国家の主役といえばだった。
 平賀がここでこう東郷に言う。
「祖国殿とだ」
「アメリカさんに中国さんだな」
「そうだ」
「と、申し上げております」
 当然平賀の言葉は久重が代弁する、彼は御所の中でも主の頭の上にいる。
「そういうことで」
「そうだな。それでだが」
「祖国殿達だな」
「それとそれぞれの代表だな」
「こちらからは首相が出る」
 伊藤のことである。
「宇垣外相もだ」
「式典は全てあの人が仕切ってくれたな」
「実によくやってくれた」
 平賀も感心する程だった。
「あの御仁はあれで外交に向いている」
「正直外見からは想像できないですけれどね」
 これは久重自身の言葉だ。
「けれど意外とやってくれるんですよね」
「有り難いことにな」
「そうなんですよね」
 久重は自分の口で平賀の言葉も出す。
「マメですしよく気がついてくれますし」
「勤勉でもある」
 よく勉強してそしてことにあたるのが宇垣である。
「だから外交も出来るのだ」
「ですよね」
「優秀な御仁だ」
 このことも確かである。
「ただ。色々と抜けていたりもするがな」
「まあそれもご愛嬌ってことで」
「そうなるな」
 一つの口で会話をする彼等だった。コーギーはそれを見て猿とパンダ、それに猫にこう言ったのだった。
「久重も器用だよね」
「そうだね。長官の代弁もして自分もだから」
「本当に器用だよ」
「ちょっとわかりにくいところもあるけれど」
 動物達も式典に参加している。これは提督だからだがフェムはその彼等と柴神を見てベトナムにそっと尋ねた。
「普通なんですか?これが」
「日本では普通だ」
 フェムにこう答えるベトナムだった。
「この国はまた違う」
「違い過ぎます」
「しかしフェムも慣れてはいるな」
「はい、そうなってきてます」
 このことは事実だった。フェムにしてもだ。
「面白いですね」
「そうだな。しかしだ」
「しかしなんですか」
「こうした様々な種族、動物も含めて一緒にいられる世界もいいものだ」
 ベトナムはしみじみとした口調で語る。
「実にな」
「祖国さんはこうした感じが」
「そう、好きだ」
 無表情だがこう答えるベトナムだった。
「いい世界だと思う」
「そういえば本当に」
「フェムもいられる」
 言うまでもなくベトナムもだ。
「この世界は誰もがいられる世界だ」
「誰もがですか」
「そうだ。勿論私もだ」
「これまでは私達は植民地とその現地民でしかなかったですけれど」
「変わった、それがな」
「祖国さんは独立国で」
「フェムもベトナム人だ」
 紛れもなくそうだというのだ。
「植民地の人間ではなくだ」
「ずっと。植民地の現地民でした」
「それが変わった、本当にな」
「嘘みたいですね」
 フェムはベトナムと話をしながら微笑みになった。
「こうして国家の代表として会議にも出席できますし」
「しかし現実だ」
「夢じゃなくて」
「その通りだ」
「そうですか」
「わかったら行こう」
 ベトナムは前を見ながら愛実にまた告げた。
「国家とその代表としてな」
「はい、ただ」
「雨か」
「そういえばここにいても雨が降らないです」
 フェムは何処にいても雨が自然に降ってしまう、部屋の中でもそうでありそのことで人に迷惑をかけているというコンプレックスもある。
 だが今は降ってはいない、そのことを言うのだった。
「どうしてでしょうか」
「結界か」
「この御所の結界ですか」
「そのせいで雨が降らないのだ」
 ベトナムはこうフェムに話す。
「日本の御所はまた特別な場所だ」
「帝という方が結界を敷かれているのでしょうか」
「いや、御所自体に結界がある」
「この御所自体に」
「多くの陰陽師が長い間結界を張っていってきている」
「それで私の雨も」
「蛙は正門のところにいる」
 実はフェムの雨には原因がある。彼女の守護者である蛙の土地神が共にいるからそれで降るのだ。蛙は雨を欲するものだからだ。
「そこで御前を待っている」
「そうですか」
「その通りだ。あの蛙が入られないところを見ると」
「この御所の結界は相当なものですね」
「蛙は決して邪悪な存在ではないがな」
「雨を降らして水浸しにするからですね」
「御所に入ることは断られている」
 フェムと共にそうすることをだというのだ。
「蛙にとっては残念なことだがな」
「そうですか」
「今は待ってもらおう。とにかくだ」
「はい、今からですね」
「太平洋の、私達の新しい時代がはじまる」
 ベトナムは前を見ながらフェムに話す。
「いよいよな」
「そうですね。独立できて」
「太平洋経済圏、名前は確か」
 ベトナムはその組織の名前も言った。
「太平洋共同体だ」
「共同体ですか」
「アジアだけでなく北米も加わった巨大な経済圏だ」
 それが太平洋共同体だというのだ。
「これまで欧州に圧倒されていたが」
「独立も出来て」
「その中で生きられる、有り難いことにだ」
「その時代が今からはじまるんですね」
「そうなる」
 彼女達もこうした話をしていた。御所の帝の前の畳の部屋の前に各国とその代表達が集まっていた。そこにはアメリカと中国もいた。
 二人はそれぞれ妹達も代表達も連れて来ている。そのうえで今はお互いに向かい合って話をしていた。
 まずは中国が少し溜息を出しそうな顔でアメリカに言った。
「経済圏を作る目的は同じだったあるがな」
「その通りだ、僕達がリーダーになるつもりだった」
「それがある」
「僕達はリーダーじゃないんだな」
「リーダーは日本ある」
 戦いに勝ったからこのことは当然のことだ。
「僕達はナンバーツー、ナンバースリーある」
「そうなるな」
「残念なことにある」
「しかし領土も皆も返してもらったからな」
「賠償金も要求されなかったある」
「じゃあ満足すべきなのか」
「そういうことあるな」
 二人は微妙な感じでそうした話をしていた。そして。
 ダグラスも微妙な顔になりリンファ、ランファと話をしていた。帝はまだ来ておらずこうした話はまだできた。
「あんた達がこれからの中帝国を動かしていくんだな」
「はい、私が首相です」
「あたしが副首相よ」
 リンファが首座だというのだ。
「ただ。残念ですが共有主義の政党は」
「まあそれは仕方ないな」
 ソビエトは今や太平洋諸国にとって何時戦闘状態になってもおかしくない敵だ、こう認識されている相手なのだ。
「しかし君は共有主義は」
「まだ信じてはいます」
 リンファは辛そうな顔でダグラスに答えた。
「かなり薄れていると自分でも思いますが」
「そうか。信じてはいるんだな」
「どうでしょうか」
「俺は共有主義は嫌いだ」
 ダグラスはリンファに対してあえて言ってみせた。
「しかし君が信じることは否定しない」
「そうですか」
「それは君の問題だ」
 ダグラスはリンファの顔を見据えて言う。
「どうするかを決めることはな」
「私が」
「その通りだ。だが君は残虐な人間じゃない」
 このことは確かだ。少なくともリンファにはそうしたものはない。
「だから安心しているがな」
「そうですか」
「それにしても中帝国も変わるな」
「そうですね。それは確かに」
「議会もできるか」
「そのことも決まりました」
「面白いかもな、ガメリカも変わるからな」
 ダグラスが大統領になった、それ故にだった。
「だからな」
「ガメリカは一体どうなるのですか?」
「これまで以上に公平で強い国になる」
 ダグラスはこう断言した。
「そうなる」
「自信あるのね」
「なければ言いはしないさ」 
 ダグラスは笑ってランファに返す。
「まあ見ていてもらえるか。これからのガメリカをな」
「期待させてもらうわね」
 親米派のランファは右目をウィンクさせて言った。
「是非共ね」
「そうしてくれ」
 こうした話をしているとだった。やがて彼等の前に帝が姿を現した。
 その帝を見てまずはダグラスが驚きの声をあげた。
「これはまた凄いな」
「凄いといいますと」
「こんなキュートな美少女が帝だったのか」
「口を謹んで下さい」
 ハルがすぐにダグラスを注意する。彼女は帝の後ろに控えているのだ。
「帝は我が国の国家元首ですから」
「失礼、ただ本当に驚いてな」
「我が国の帝は代々女性です」
 それも少女である。
「ですからこのことは驚くには値しません」
「そうか、わかった」
「では帝」
「はい」
 帝はハルの言葉に頷く。そして言うのだった。
「では今より講和会議、そして太平洋経済圏の設立宣言を行いましょう」
「それでなのですが」
「いいでしょうか」 
 リンファとランファも応える。ランファも流石に帝に対しては丁寧な口調である。
「私達への講和の条件ですが」
「本当にあれでいいんですよね」
「その通りです」
「賠償金はなし」
「領土も捕虜も無条件で返還してくれる」
「そのうえで有効条約を締結し」
「太平洋経済圏への参加ですね」
「はい、そうです」
 帝は優しげな微笑みと共に二人に話す。
「ガメリカに対しても同じです」
「寛大に過ぎませんか?」
 中帝国と全く同じ条件を示されているダグラスも帝に問う。
「これじゃあどっちが勝ったかわからない位ですがね」
「そうでしょうか」
「こんな条件の講和はないです」
 ダグラス自身もこう言う程だった。
「戦いに勝ったら思いきふんだくるのが普通ですが」
「そうして欲しいのですか?」
「いや、それは勘弁して欲しいですけれどね」
 ダグラスはそれは断った。
「こっちとしましても」
「ではその条件でいいですね」
「ええ、それはそれで」
「戦争はまだ続いています」
 太平洋経済圏設立で終わりではなかった。世界ではまだ戦争が行われてきている。
「今度の相手はエイリス、そしてソビエトですが」
「俺達にも戦って欲しいんですね」
「単刀直入に言えばそうです」
 まさにその通りだというのだ。
「宜しくお願いします」
「だからですか」
「私達にあれだけの好条件で講和をしてくれるのですか」
「そのうえで」
「そうでもあります」
 帝はまた言った。
「しかし他の理由もあります」
「他の理由!?」
「といいますと」
「何ですか?」
 ダグラスもリンファ、ランファも帝の今の言葉にすぐに首を捻った。
「何か話が読めないですが」
「はい、我が国は他国への領土に興味はありません」
「だから返してくれるんですか」
「ですから韓国さんや台湾さんにも独立してもらいました」
 帝はここで韓国と台湾を見た。
「各国の自主と独立を保障したうえでの経済圏を築きたいので」
「自主と独立を」
「はい、そうです」
 実はガメリカにしろ中帝国にしろ他国の独立は保障するつもりだったが自主性は考えていなかった。従わせるつもりだったのだ。 
 だが日本はどう思っていたか、帝がその口から話す。
「皆で話し合いそのうえで決めていく共同体を目指したいのです」
「盟主になり従わせることは考えないのですか?」
 タイが帝に問うた。
「盟主なら当然の権利ですよ」
「それは貴方達の反感を買いますから」
 帝は微笑んでタイに話した。
「無闇な反感は買いたくありません。それに」
「それに?」
「日本だけの利益を考えるつもりもありません」
 尚この考えも他国から反感を受けることは言うまでもない。
「太平洋経済圏は各国それぞれの利益を考えたいのです」
「僕達全員の」
「その通りです」
「そうですか。実はですね」
 タイは微笑みながら帝に述べた。
「ある程度は日本帝国の話を聞くつもりでした」
「そうだったのですか」
「ある程度はですが」 
 ここにタイの強かがあった。
「引かないところは引かないつもりでした」
「そういう意見衝突のトラブルも避けたかったので」
 まさに日本の深謀遠慮だった。
「ですから合議制にしたいのです」
「ごねる国が出てもですね」 
 今度はインドネシアが帝に問うた。
「何度も会議をしてですか」
「そうして決めたいです」
「時間がかかりますが」
「それでもです」
 その合議制でいくというのだ。
「日本は議長ですが各国は平等です」
「共有主義に似てるでごわすな」
 オ−ストラリアも言う。
「平等となると」
「そうかも知れないですね」
「おいどんも共有主義は嫌いでごわす」
 オーストラリアも資産主義であるからこれは当然だ。
「けれど平等なのは嬉しいでごわす」
「そうだね。僕は賛成だよ」
 トンガは微笑んで帝に述べた。
「それじゃあこれからはね」
「僕達は皆平等ばい」
 ニュージーランドもトンガに続く。
「楽しくやるばい」
「そうだね。それじゃあ」
「僕達もね」
 マレーシアとフィリピンもだった。
「これからは皆でじっくりと話し合って」
「そのうえでやっていこう」
「確かにな。その方が組織は動くな」
 ダグラスも納得した顔で述べた。
「俺もそれでいい」
「勿論私達もよ」
 ハンナが四姉妹を代表して言う。
「利益を独占できないけれどね」
「その方が恨み買わないから結果として実入りはより大きいたいよ」
 インドはハンナ達が言えないことをあえて自分が言ってみせた。
「ガメリカや中帝国にとってもいいことたい」
「そうなのよね。だからそれでいいわよ」
 キャロルは寝そうなキャシーをつんつんと突きながら応えた。
「ガメリカとしてもね」
「中帝国もです」
 リンファも言う。
「会議に参加させてもらいます」
「では決まりですね」
「うん、僕達も文句はないぞ」
「それでいいある」
 アメリカと中国も応える。こうしてだった。
 講和も太平洋会議も終わった、それから記念撮影が行われた。
 各国も代表達も一度に集まって撮影される、帝は最前列の中央にいて日本兄妹がその左右を固めていた。 
 東郷は山下と共にいる。その山下が彼に言ってきた。
「機嫌がよさそうだな」
「利古里ちゃんと一緒にいるからな」
「戯言はいい。実際に機嫌がいいな」
「ああ、何とか太平洋の戦いは一段落したからな」
「正直勝てるかどうかとなるとな」
「負けるものだった」
「その可能性は殆どなかった」
 山下もあえて言う。
「それでもだな」
「勝てた、やはりそれが嬉しい」
「そうか、それでか」
「だから機嫌がいい」
「それなら私もだ」
 山下自身も言う。
「機嫌がいい」
「勝てたからだな」
「まだエイリスとソビエトがいるがな」
「それにアステカ帝国もおかしな動きをしている」
 まだまだ油断は出来なかった。戦いはそうした状況だった。
「安心はできない」
「その通りだ。しかし太平洋での戦いは終わった」
「それが何よりだ」
 東郷は自然と微笑んでいた。
「俺も今は素直に嬉しいさ」
「そういうことだな。だが東郷」
 山下はすぐに毅然とした態度になり東郷にこんなことを言った。
「陸軍の要求は通させてもらう」
「あのことか」
「その通りだ、絶対に通させてもらう」
「意味はないと思うがね」
「意味はある。陸軍は海軍に遅れを取ることはない」
 山下は必死の顔も見せた。
「そのことも言っておく」
「やれやれ、利古里ちゃんは素直じゃないな」
「何故そうした話になる」
 今度はムキになった顔で東郷に言い返す。
「私はそもそも貴様のそうしたいい加減で女好きの性格がだ」
「あの、お二人共」
 秋山がここで二人に声をかけてきた。
「もうすぐ撮影ですから」
「むっ、そうか」
「はい、そうです」
 秋山は二人の間に物理的には入っていないがあえて言う。
「くれぐれもお願いします」
「わかった。それではだ」
 東郷は頷いた。そして山下もまた。
 二人共頷き静かになった。そのうえで撮影を受けた。
 記念撮影の後でダグラスはワシントンに戻った。その途中でアメリカに対してこんなことを言ったのだった。
「やられたな」
「やられた?どうしたんだ?」
「完敗だ。多分あの帝さんの考えじゃないだろうがな」
「あの白い髭の首相さんね」
 アメリカ妹も言ってくる。
「日本側の席の首座にいた」
「ああ、あの人の考えだろうがな」
「してやられたっていうのね」
「おの通りだ。やられた」
 ダグラスはアメリカ妹にもこう言った。
「領土に将兵も返されてそれで合議制だの平等だの全員の前で言われるとな」
「反論できないわね」
 ハンナも言う。
「将来私達が太平洋のリーダーになった時のころを考えてたけれど」
「それでリーダーになったら思いきり仕切るつもりだったけれどね」
 キャロルにしてもその案を気付かれぬ様に出すつもりだったのだ。だがそれは日本によって出来なかったのだ。
 それで彼女もこう言うのだった。
「手も足も出ないわね」
「そんな感じだな」
「それでいてこっちも恨みを買わないから」
「利益も大きい」
 ダグラスはキャロルにこう述べる。
「本当にしてやられたな」
「全くよ。完全に組み込まれた形ね」
「日本帝国か、思った以上にな」
 ダグラスはこうも言った。
「強かな国だな」
「実はそうなのよ、あそこはね」
 アメリカ妹もここで言う。
「柔らかいけれどね」
「柔らかいからこそか」
「そうねるね。強いんだよ」
「大体わかった。それなら乗ってやる」
「このままやっていくんだね」
「ああ、ガメリカは太平洋諸国だ」
 それに他ならないというのだ。
「それでやっていく」
「欧州はもういいのね」
「あそこはエイリスなりソビエトにやってもらう」
 ハンナにだからいいと返す。
「俺達は太平洋、そしてインド洋とだ」
「後は中南米ね」
「訳のわからない場所だからな」
 それはダグラスが見てもだった。
「あそこはな」
「というかあの埴輪軍団何よ」
 キャロルは彼等にこれ以上はないまでの怪しいものを感じていた。妖しいではなく怪しいというのである。
「確かバリア装備してるのよね」
「普通にかなりの性能のバリアがあるみたいよ」
 クーはこうキャロルに答えた。
「キャロルも知ってる通りね」
「ええ、諜報部が密かに調べてくれたデータがあるわ」
「じゃあビームは効かないわね」
「相当なもの以外は」
「宇宙怪獣も相当生息してるみたいだけれど」
 そこにいるのは埴輪だけではないというのだ。
「普通の人間もいるわよね」
「いるわ。アステカ帝国は多民族国家だから」
「どうなんだろうな、あそこは」
 ダグラスもアステカについては微妙な感じだった。
「ケツアル=ハニーだったよな、あっちの皇帝」
「そうだぞ」
 アメリカがダグラスの疑問に答える。
「僕もよく知らないが変な奴だぞ」
「変な奴なのは間違いないな」
 それはダグラスも直感的にわかっていた。
「埴輪なうえに変態だな」
「その通りだ」
「こっちに来るなら倒すがな」
「クーちゃん、ちょっと中南米の星系とかわかる?」
 アメリカ妹はクーに顔を向けて尋ねた。
「色々とね」
「はい、今から調べますね」
「頼むよ。メキシコにキューバに」
「ブラジル、アルゼンチン、ペルーですね」
「あとアマゾンだね」
 アメリカ妹はこの星系の名前も出した。
「確かこれだけだったね」
「その六つの星系です」
「何処もよくわかってなかったんだよね」
「秘境です。特にアマゾンは」
 クーはアマゾンについてとりわけ言う。
「噂によると巨大な幻獣もいるとか」
「幻獣!?」
「はい、それがいるそうです」
「幻獣ねえ」
「巨大怪獣と同じだけの大きさと戦闘力だそうです」
「厄介な奴みたいだね」
「そして巨大怪獣、エアザウナはあの場所に巣があるそうです」
 時折星系に出て来て暴れ回る、人類にとって大きな災厄の一つだ。
「宇宙台風やイナゴ、うぽぽ菌と」
「おい、災厄のオンパレードかよ」
 ダグラスはここまで聞いて思わず突っ込みを入れた。
「埴輪に宇宙怪獣でも厄介そうだけれどな」
「何か攻め入りたくない場所ね」
 キャロルは本心から言っている。
「出来れば」
「攻めて来て欲しくないな」
 ダグラスの口調はしみじみとしたものになっている。
「本当にな」
「全くだ。しかし向こうがやる気だったら仕方ないな」
 ダグラスはアステカ帝国が攻め込んでくることを前提にして言う。
「戦争だ、奴等ともな」
「訳のわからない連中だけれどね」
 キャロルもアステカ帝国にはどうしてもそうした感情になるのだった。そうした話をしている中でまたアメリカが言う。
「じゃあドロシーも呼び戻すぞ」
「カナダだったな」
「そうだ、そこの何処かにいるぞ」
「俺が言って来てもらうか」
 ダグラスは大統領としてそうしようかと考えた。だがその彼にハンナが言う。
「駄目よ。貴方は大統領だから」
「そうそう行くのは駄目か」
「戦場に行く時以外は基本的にワシントンにいてもらわないと」
「駄目か」
「ええ、出来るだけいてね」
「わかった、じゃあここはどうする」
「僕が行こう」 
 アメリカが名乗り出た。
「それでドロシーを見つけだして探すぞ」
「祖国さんが行ってくれるか」
「カナダもいるしすぐに見付かる筈だ」
 カナダにいるのなら彼なら何処でもすぐに見つけられるからだ。
「何人か連れて行って来る」
「わかった。じゃあ頼むな」
「吉報を待っていてくれ」
 アメリカは陽気に笑ってダグラスに応える。そうしてだった。
 彼は仲間達と共にドロシーを見つけに行くことになった。彼女の運命もまた再び動き出そうとしていたのである。


TURN62   完


                            2012・10・16



とりあえず、ゴタゴタするかと思ったけれど、割とすんなりと協議も終わったな。
美姫 「ガメリカも新しい大統領が誕生したしね」
これで少しはエイリスとソビエトの対策が出来るか。
美姫 「でもドクツの方があまり芳しくないから、のんびりは出来ないわよね」
だな。さてさて、次はどう展開していくか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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