『ヘタリア大帝国』




                    TURN43  インドカレーへ

 東郷は日本達と昼食を摂っていた。その昼食のメニューは金曜ということもあり海軍お決まりのあの料理だった。
 そのカレーを食べながら東郷は日本に尋ねた。
「祖国さんもカレー好きだよな」
「はい、非常に素晴らしい食べ物だと思います」
 日本は銀色のスプーンでそのカレーを食べながら頭語うん答える。
「美味しいですしそれに」
「栄養もあるからな」
「お野菜もお肉もたっぷりとあります」
「元々栄養のことを考えて取り入れた料理だからな」
「そうですね。栄養のことも考えて」 
 まさにそれで、だった。
「海軍が取り入れたものです」
「エイリスからな」
「そこが少し気になっています」 
 秋山がここで東郷と日本に怪訝な顔になって述べた。
「あのエイリスですから」
「料理のことか」
「私もエイリスに行ったことはありますが」
「こと料理についてはか」
「お世辞にもよいとは言えません」 
 かなりオブラートに包んだ言葉だ。
「そのエイリスから取り入れたということが」
「ですが本当のことです」
 日本がいぶかしむ秋山に答える。
「私はこうしたお料理をイギリスさんから教えてもらいました」
「イギリス殿から。あの」
「そうです」
「信じられません」
 まだ言う秋山だった。
「あの御仁の料理はとても」
「食べられたものじゃないんだな」
「素材を全く生かせていかせん」
 東郷にだ。イギリスは例えどれだけ素晴らしい料理の素材があってもそれを駄目にしてしまうと話したのだ。
「何一つとして」
「あの、それは幾ら何でも」
「ですが事実です」
 日本にもだ。秋山は言う。
「どうしようもありません」
「しかしだ。このカレーにしてもだ」
「多くの料理がですか」
「イギリスから入ってきているからな」
「ビーフシチューもです」
 日本はこの料理のことも言った。
「あれもイギリスさんが教えてくれたものですから」
「それはその通りですが」
「ですから」
 だからだというのだった。
「そこまで邪険にされることもないと思いますが」
「失礼、とかくエイリスの料理には嫌な思い出がありますので」
「お口に合いませんでしたか」
「どうにも」
「まあ個人の好き嫌いはあるな」
 東郷は曇った顔で述べる秋山にこんなことも言った。
「このカレーも日本のカレーだからな」
「エイリスのカレーとはまた違いますね」
「向こうはパンだ」
 米は基本的に主食ではない。
「カレーをパンにつけて食べる」
「シチューやスープの様にして」
「ああ、そうして食べるからな」
 だからだというのだ。
「そこが大きく違う」
「インドからエイリスに入った時にそう変わったのですね」
「そういうことだ。それでだが」」
 東郷はここで話を変えた。その話は。
「インドのカレーはどうだ」
「エイリスに向かう途中にインドに入ったこともあります」 
 秋山はそのことも話した。
「その時にインドのカレーも食べましたが」
「日本のものとは全く違うな」
「そしてエイリスのものとも」
「とにかく全く違うからな」
「別の料理と言っていい位です」
 日本、エイリス、インド、それぞれでだというのだ。
「インドのものがはじまりにしても」
「インドのカレーは基本的に鶏肉だ」
「牛肉は入れません」
「宗教的な問題からな」
「はい、それはほぼ確実です」
「しかしエイリスと日本のカレーは牛肉を入れる」
 特にエイリスのカレーは確実に、である。
「そこが違うな」
「インドのカレーは野菜のみということが多いです」
「やはり宗教的な話からベジタリアンが多い」
「そういうものになっていますね」
「ああ。インドのカレーは違う」
 そこからこうも言う東郷だった。
「他のことでもな」
「インドはかなり独特な国ですね」
「文化も風習もな」
「インドはそのまま文明です」 
 文化ではなくそれだとだ。秋山は言った。
「多くの人口がいてしかも」
「独自の文明がある」
「あの国を植民地にしているエイリスは確かに恐るべき国です」
「そうだな。しかしだ」
「そのインドを完全に独立させれば」
「もうエイリスは世界帝国ではいられなくなる」
 それだけの力がなくなるからだ。
「欧州の一国になってしまう」
「エイリスにとっては負けられない戦いですね」
「これから行われるインドカレーでの戦いだが」
 東郷は戦いの話もした。
「我々が勝てばエイリスはインドを完全に失う」
「これまでの東南アジア、オセアニア諸国だけでなく」
 既にこれだけでもエイリスにとってはかなりのダメージになている。
「インドもですね」
「インドの人口は東南アジア、オセアニアを合わせたよりも多い」
「そしてその国力も」
「女王陛下の宝石箱という仇名は伊達ではない」
 まさにエイリスを世界帝国たらしめているというのだ。インドの存在は。
「そのインドを失えばだ」
「後はアフリカだけですね」
「アフリカだけではエイリスは世界帝国の立場を維持できない」
「まさにインドがなれば」
「今度の戦いは世界帝国としてのエイリスに引導を渡す戦いでもある」
「そして太平洋軍は大きな味方を手に入れますね」
「大きな戦いだ」
 まさにだ。戦局に大きく影響するまでの。
「我々が勝てばな」
「そうなりますね」
「その通りだ。そしてだ」
「エイリスが勝てばですね」
「これまで我々が解放してきたインドの諸星域もその手に戻る」
「インド自体が」
「エイリスは世界帝国としての立場を守ることができる」
 そしてだった。
「我々の戦いもこれで終わりだ」
「すぐにガメリカと中帝国も来ますね」
 敗戦のダメージに付け込む形で彼等が攻め込んで来るというのだ。
「そして我々は」
「太平洋経済圏はあの二国に牛耳られる」
 ガメリカと中帝国、その二国にだというのだ。
「そして後はだ」
「ソビエトにけしかけられますか」
「絶対にそうなる」
「今ソビエトと全面衝突の状態になれば危険です」
 今行っている戦争以上にだというのだ。
「我々は外で彼等と戦い」
「中では工作に苦しむな」
「ソビエトは工作を得意としています」
 既にそのことは知っていることだった。日本側も。
「内外に泥沼の戦いとなります」
「国力を大きく消耗する」
「今行っている戦争以上に」
「その事態だけは避けたい」
「ですから」
 それが為にもだった。今の日本帝国は。
「勝たなければなりません」
「そういうことだ。また決戦だ」
「ですがインドカレーにはエイリス東洋艦隊が集結しています」
 エイリスの植民地を守ってきた彼等がだというのだ。
「その戦力は我々よりも春かに上です」
「何倍だった」
「五倍です」
 そこまでの差があるというのだ。
「よりあるかも知れません」
「流石に向こうも正念場だからな」
「集められるだけの戦力を集めてきています」
「普通に戦ってはまず勝てない」
 東郷はこの現実を指摘した。
「それをどうするかだが」
「あの、そのことですが」
 秋山は鋭い目になり東郷に述べる。
「情報が手に入りました」
「明石大佐からか」
「はい、インドカレーにいるエイリス軍の布陣です」
 星域の宙図とその布陣の立体映像が出される。
「こうなっています」
「成程な。エイリス軍は上下の砂嵐を利用して布陣しているな」
 そのうえで縦に狭く横に広い陣を敷いていた。
「正面から来るしかない我々をか」
「迎え撃つつもりの様です」
「砂嵐はそう簡単には乗り越えられない」
 東郷はこのことも指摘した。
「そう簡単にはな」
「はい、その通りです」
「防塵艦でもなけれがな」
 東郷は微笑んで言った。
「それでもなければな」
「?それでは」
「これだけの砂嵐ならば視界もレーダーも効かない」
 東郷は秋山にこのことも話した。
「そして通過も」
「アルデンヌだな」
 東郷はオフランスのあの場所を話に出した。
「あれだな」
「あれはアステロイドでしたが」
「今回は砂場だがな」
「どちらにしてもですか」
「ああ、通り抜けることはできない」
 このことを言うのだった。
「普通はな」
「普通は、ですか」
「防塵艦を使う」
 東郷は言った。
「ここはな」
「そうされますか」
「敵の意表を衝いて勝つ」
「孫子ですね」
「それでいこう。今回もな」
「そうですね。相手は五倍です」
 戦力としては圧倒的な開きがあった。
「その五倍の戦力があるからこそ」
「そして砂嵐もある」
 兵力に地の利、エイリス軍が持っているのはこの二つだった。
「圧倒的に有利だな」
「その有利な状況を以て決戦を挑んでくるならば」
「その状況を逆に利用しよう」
 これが東郷の考えだった。
「それでどうだ」
「砂嵐を越えることは用意ではありませんが」
「しかしその為に防塵艦がある」
 備えがあるというのだ。
「それを使えばな」
「勝てますか」
「勝つ、絶対にな」
 可能ではなく絶対だった。東郷が目座すのは。
「この戦いに勝てればインドが味方につき」
「そしてですね」
「エイリスの国力は覆せないまでに落ちる」
 最大の植民地を永遠に失うことによってだ。そうなることはエイリスが敗戦すれば確定することだった。「この戦争において非常に大きな意義がある」
「インドさんのお力を借りられれば」
 日本も言う。
「ガメリカ共和国とも」
「互角に戦えるようになる」
「そしてインド洋も掌握できますね」
「この戦いのターニングポイントにもなる」 
 東郷はそこまで言う。
「ならいいな」
「はい、それでは」
「全軍インドカレーに進撃する」
 東郷は全軍に告げた。
「勝つ。いいな」
「わかりました」
 日本は東郷の言葉に頷いた。太平洋軍は修理中の艦隊を緊急修理してまで戦闘可能にしそのうえでインドカレーに進撃した。そのインドカレーでは。
 布陣するエイリス軍の大艦隊の中でだ。イギリスがネルソンと向かい合って話をしていた。既に戦闘態勢は整っている。
 その中でだ。イギリスはこうネルソンに言った。
「インドはな」
「様子見ですか」
「ああ、自分は動かない」
「ですがそれでもですね」
「インド人の艦隊は実質的に向こうについたからな」
 太平洋側に加わったというのだ。
「俺達だけで戦うしかない」
「予想はしていましたが」
 それでもだとだ。ネルソンは紅茶を飲みながら言う。
「残念ですね」
「インドは絶対に独立を考えてるな」
「はい、それは確実ですね」
「実質的に日本についているだけじゃなくてな」
「まさかと思いますが」
「ガメリカや中帝国とも接触してるみたいだな」
 連合同士でありながら太平洋からエイリスの勢力を追放して太平洋経済圏を築こうとしている彼等ともだというのだ。
「この戦いで俺達が勝ってもな」
「独立を宣言して」
「ああ、連中に承認してもらうつもりらしい」
「インドも強かですね」
「あいつの考えは日本以上にわからねえところがある」
 植民地として付き合いがあってもそれでもだというのだ。
「俺もな」
「止められませんか」
「ガメリカや中帝国と接触するとは思わなかった」
 これはイギリスの失態だった。彼は自分でそのことを認める。
「やられたよ」
「そうですね。若し我々が勝ってもインドさんが独立を宣言されれば」
「ガメリカと中帝国がすぐに承認するからな」
 それこそ宣言してすぐにだというのだ。
「あとソビエトもな」
「同盟相手の承認は認めるしかありません」
「俺達はどっちにしてもインドを失うことになる」
「そしてインドを失えば」
 どうなるのか。それは彼等こそが最もわかっていることだった。
「エイリスは最大の植民地を失います」
「それでだ」
「エイリスはその勢力を大きく衰えさせ」
「世界帝国の座から降りることになっちまう」
「太平洋はガメリカや中帝国のものになり」
 それはもう決まっていた。今は彼等と日本の盟主争いになっていると言っていい戦況だ。
「欧州においても」
「まだ。植民地の力があるから戦えてるんだ」
「ドクツとの戦いで消耗し」
「欧州の一国にまで落ちちまうな」
「インドは絶対に守らなければなりません」
 確かな声でだ。ネルソンは言った。
「何があろうとも」
「そうだな。けれどな」
「祖国殿、ここはです」
 どうするべきかとだ。ネルソンはイギリスに述べた。
「今のままでも戦力的には万全ですが」
「インドカレーで勝つにはか」
「勝利を収め即座に他のインド星域まで奪回しなければなりません」
 それが重要だというのだ。
「それには今以上の戦力が必要かと」
「そうだな。けれどん」
「はい、インド軍は太平洋につきました」
「じゃあここはどうするんだよ」
「東インド会社に頼みましょう」
「あそこにか?」
「はい、東インド会社は自身で軍を持っています」
 東インド会社とはインドのみならずアラビア、そしてこれまでは東南アジアやオセアニアの植民地を経営していたエイリスの国営企業である。
「その彼等の力を借りましょう」
「あそこか。ちょっとな」
 ネルソンの提案にイギリスは難しい顔を見せた。そのうえで言うのだった。
「あまりな」
「気が進みませんか」
「確かに戦力にはなるがな」
「しかしですか」
「あそこもインド人が多いだろ」
「ですがエイリス寄りのインド人ですが」
「ならいいか」
 イギリスはネルソンに言われ考えを少しあらためた。
「何か裏切りそうだからな」
「それはないと思いますが」
「大丈夫か」
「はい、それにです」 
 ネルソンは考えをあらためたイギリスにさらに言う。
「クリオネ氏は艦隊を指揮することもできます」
「それも下手な提督よりもな」
「ですから大丈夫だと思いますが」
「あの人の性格もな」
 イギリスが今度問題にするのはこのことだった。
「どうもな」
「確かに。一風変わった方ですね」
「俺が言うのも何だが一風どころじゃないな」
 イギリスはさらに言う。
「抜けてるところもあるだろ」
「確かに」
 ネルソンもそれは否定しない。
「そうしたところもある方ですね」
「だからな。どうだろうな」
「ですがインドを失わない為に」
 インドカレーでの戦いに勝ちインドが独立を宣言するまでにインドの全ての星域を奪還する為にだというのだ。
「その為には」
「東インド会社の助けが必要か」
「ですから」
「それしかないか」
 イギリスもネルソンに言われ遂に折れた。
「それじゃあな」
「ではすぐにクリオネ氏をお呼びしますね」
「頼むな」
「それでは」
 ネルソンは自身の執事が持って来てくれた金色の古風な電話を使って連絡を入れた。するとすぐにだった。
 青緑のやや長い髪をセットにしたルビーの瞳の女が来た。耳にはピアスをしており一見と知的な印象を受ける大人の女だ。顔立ちは年相応の美貌もある。
 紫の所々に金の装飾がある上着にズボン、そして白いブラウスという格好だ。背はわりかし高い。その美女が早速二人のいるネルソンの旗艦ヴィクトリーに来たのだ。
 この大人の女クリオネ=ロクラインはイギリスとネルソンに一礼してから述べた。
「お久し振りです、祖国さんにネルソン提督」
「ああ、久し振りだな」
「お元気そうで何よりです」
「今回私をお呼びした理由は」
「嫌ならいいけれどな」
 まずこう言うところがイギリスだった。
「この戦い東インド会社の協力を頼みたいんだがな」
「日本に勝つ為に」
「そうだよ。今の状況はわかってるよな」
「このインドカレーを失えば」
「エイリスはインドを失うんだよ」
「既にですね」
 クリオネは自分の祖国の言葉に顔を曇らせて返した。
「東南アジアとオセアニアの植民地を全て失っているのですが」
「そっちの経営的にもだよな」
「その分火の車なんですが」
 焦った顔で言うクリオネだった。
「これでインドを失えば」
「アラブだけでやっていけるか?」
「破産決定です」 
 インドを失えばそうなるというのだ。
「東インド会社は終わりです」
「終わりたくないよな」
「私に首をくくれっていうんですか?」
「それか別の会社を立ち上げるかな」
「馬鹿言わないで下さい」
 クリオネも必死だった。彼女にとって自分がけいえいする東インド会社を失うことは即ち死を意味することだからだ。
「東インド会社を今の状況にするまでに私がどれだけ」
「心血を注いだかっていうんだよな」
「ここまでの流通システムをするにもですね」
「大変だったよな」
「折角東南アジアとオセアニアにも確立したのに!」
 クリオネの言うことは徐々にヒステリックな感じになってきた。
「日本のせいで!ガメリカと中帝国は独立を早速承認して!」
「お、おい」
 イギリスは騒ぎだすクリオネを止めようとする。
「ちょっと落ち着けよ」
「すいません、つい」
「気持ちはわかるがな。まあ飲んでくれ」
 イギリスはクリオネに自分が淹れた紅茶を差し出した。それをクリオネに飲ませる。
「とりあえずな」
「ミルクティーですね」
「コーヒーや烏龍茶は出さないから安心しろ」
「そんなものは出されても飲みませんから」
 無論緑茶もである。
「何があろうとも」
「安心しろ、俺もだ」
「ですね。流石は祖国さんです」
「それで紅茶飲むか?」
「有り難うございます、頂きます」 
 クリオネはイギリスの差し出す紅茶を受け取った。そのうえでだ。
 紅茶を飲む。それからこう言うのだった。
「とにかく。インドを失うことはエイリスにとって大変な損失です」
「東インド会社も破産確定だからな」
「そんなことは絶対に許してはなりません」
「だからか」
「ネルソン提督の申し出有り難く受けさせて頂きます」
 こうイギリスとネルソンに対して言う。
「祖国さんと東インド会社の為に」
「悪いな、それじゃあな」
「はい。ではすぐにこちらに艦隊を送ります」
「これでこの星域での戦いに勝利を収めた後で」
 どうなるかとだ。ネルソンが言う。
「インドの諸星域に進出できますね」
「ああ、インドは死守できるな」
 エイリスの世界帝国の座もだった。
「何とかな」
「はい、それではです」
「全軍このまま布陣だよな」
「この上下に砂嵐が吹き荒れている中で」
 エイリス軍はその砂嵐にサンドイッチになっている状況なのだ。
「太平洋軍と戦います」
「上下から来られないからな」
 これが大きかった。東郷の指摘通り。
「奇襲は仕掛けられない」
「正面から来るならば数と装備で優位に立つ我々が有利です」
「勝つか、今度こそ」
「はい、絶対に」
「とにかくですね」
 ここでまた言うクリオネだった。
「インドを失う訳にはいかないですから」
「何か必死だな」
「当然です。私はカレッジを卒業してすぐにこの会社に就職して」
 そしてだというのだ。
「ずっと仕事一筋でやってきたんですよ」
「だからか」
「東インド会社は私の子供みたいなものです」
 尚クリオネは三十歳だ。当然未婚で男女交際の経験もない。
「その東インド会社を失えば」
「だから頼むって言ってんだけれどな」
 いい加減イギリスも引いてきた。
「まあ落ち着いてくれよ」
「落ち着いていない様に見えますか?」
「かなりな」
 やはり引いた顔で言う。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫です。私が保障します」
「だといいがな」
「これでも現地民用の保険会社も経営していますので」
「色々やってんだな」
「他にはホテルも経営しています」
 そうしたものもだというのだ。
「カレーのチェーン店等も」
「俺のところの料理はどうなったんだ?」
「一号店で潰れました」
 そうなったというのだ。イギリスの場合は。
「祖国さんのお名前が出た時点で一瞬でした」
「おい、それはどうしてなんだよ」
「もうお名前を見ただけでまずいということで」
「誰がそんなこと言ったんだ?フランスか?アメリカか?それとも中国か?」
「同盟国ばかりでは?」
 今度はクリオネが引く番だった。
「あの、幾ら何でも」
「外交関係は聞かないでくれよ。困ってるからな」
「はい、わかりました」
「で、誰がそんなこと言ったんだよ」
「誰もが」
 言い触らすまでもなかったというのだ。
「祖国さんのお名前を見た時点で」
「まずいとか言い出したのかよ」
「それで開店しても誰も来ず」
 店は潰れたというのだ。
「三日でした」
「そうか、早いな」
「すぐにベトナム料理店に替えました」
「で、そっちはどうなったんだよ」
「今はベトナムさんに持って行かれましたが」
 ベトナムが太平洋について独立したからだ。このことを言ってまたこめかみをぴくぴくとさせるクリオネだった。
「残念ながら」
「好評でした」
「そうか。俺だと駄目だったんだな」
 イギリスはクリオネの話を聞いて心の底から落胆した顔になった。
 それからだ。こう言ったのだった。
「残念なことだな」
「御気になさらずにとしか」
 クリオネはそのイギリスを慰めるしかできなかった。
「あの、本当に」
「わかってるさ。どうせ俺の料理なんてな」
「多分オーストラリア君のあの携帯食よりはましですよ」
「あれよりはかよ」
「はい、ですから」
「だといいがな」
「とにかく。御気になさらずに」
 クリオネもイギリスを気遣う。自分の祖国を。
「戦争に勝って気を取り戻しましょう」
「そうだな。で、俺の紅茶だけれどな」
「美味しいですよ」
 クリオネは微笑んでイギリスの言葉に答える。
「流石は祖国さんですね」
「紅茶には自信があるからな」
「アフタヌーンティーはですね」
「ああ、絶対の自信がある」
「では今度は喫茶店にしましょう」
 クリオネは発想を変えた。
「祖国さんのティーセットを看板にした喫茶店のチェーン店をはじめます」
「それはいいな。それじゃあな」
「はい、それじゃあ」
 こう話すのだった。そしてだ。
 ネルソンがこうイギリスとクリオネに言った。
「もう少しすれば太平洋軍が来ます」
「その太平洋軍と決戦だな」
「いよいよね」
「戦いになる」
 そうなればどうなるかというのだ。
「インドを賭けた戦いだな」
「エイリスの命運も」
「ここで負ければ後はないです」 
 ネルソンは現実も語った。
「勝ちましょう、絶対に」
「ああ、じゃあな」
「こちらも秘蔵っ子を用意していますので」
 クリオネはこうも言った。
「二人出します」
「二人ですか」
「はい、二人です」
 クリオネはネルソンに話す。今度は自信に満ちた顔だ。
「二人いますので」
「ではその二人の方も戦って頂けますか」
「何ならアラブからも呼びましょうか」
「アラブから」
「何でしたらすぐにここに」
「どうされますか?」
 ネルソンはイギリスの話を聞いてイギリスに顔を向けた。そのうえで彼に相談した。
「ここは」
「そうだな。アラブからか」
「はい、クリオネさんが用意してくれるそうですが」
「今は少しでも戦力が必要だがな」
「アラブから今すぐにとなると」
「間に合うか?」
 それがどうなるかだというのだ。
「どうだろうな」
「問題はそのアラブから来てくれる人がアラブの何処にいるかですが」
「アラブの奥深くの館に」
 そこにその者がいるというのだ。
「いますが」
「今すぐここに俺と一緒に瞬間移動してだな」
「そうして会って話をつけてですが」
「間に合うか?」
 イギリスは腕を組んで真剣に考える顔になっていた。 
 そしてだ。こう言うのだった。
「今から」
「間に合わせますか?」
 クリオネも真面目な顔でイギリスに返す。
「何としても」
「どうだろうな。その二人の秘蔵っ子が来るまでにも時間がかかるよな」
「はい、それは」
「難しいだろ」
 僅かな時間だが熟考してからだ。イギリスは答えた。
「それはどうもな」
「では今回は」
「絶対にインドを死守するな」
 それは必ずだというのだ。
「アラビアまで行ってたまるかよ」
「それじゃあすぐに」
「ああ、そいつのことは考えないでいく」
 インドで勝つ為にだ。イギリスは己の心に背水の陣を敷いた。それからだった。
 イギリスはあらためてネルソンとクリオネに言った。
「じゃあネルソンさんは全艦隊の指揮にあたってくれ」
「わかりました」
「それでクリオネさんは東インド会社の艦隊をこっちに集めてくれ」
「畏まりました」
「で、その秘蔵っ子だよな」
「二人います」
「そいつ等も呼んでくれ」
 こうクリオネに話す。
「そうしてくれな」
「そしてですね」
「勝つからな。絶対にな」
 またこう言うイギリスだった。彼は彼にしても打てる手を打っていた。そして戦いに勝つつもりだった。何があろうとも。
 太平洋軍とエイリス軍の戦いは風雲急を告げていた。その彼等を離れたところから見て。
 インドは確かな顔で回りにいる国民達に述べた。
「ここは日本君につきたいところたい」
「それでもですか」
「今は」
「それで負けたら後々厄介たい」
 だからだというのだ。
「様子見にするたい」
「若し日本さんが勝てばどうされますか?」
 国民の一人がその場合に対してインドに尋ねた。
「やはり」
「勿論たい。独立を宣言するたい」
「そして日本につく」
「太平洋軍に参加されますか」
「そうするたい。これは僕にとっても最高の状況たい」
 インドは日本が勝った場合をこう述べた。
「是非ともそうなって欲しいたいな」
「しかしイギリスさん、エイリスが勝った場合は」
「その場合はどうされますか?」
「今エイリス軍は東インド会社の戦力も集結させているたい」 
 このことは既に掴んでいるインドだった。
「そしてエイリス軍が勝てば」
「今太平洋軍が掌握しているインドの諸星域に攻め込んできますね」
「勝利を収めた直後に」
「僕が独立を宣言するよりも前に」
 インドの眉が警戒するものになりぴくりと動く。
「そうなるたい」
「そうなれば厄介ですが」
「どうされますか」
「その前に手を打つたい」
 そうするというのだった。
「アメリカ君と中国君のところにはもう人をやっているたい」
「では日本さんが負けてもですね」
「即座に」
「そうたい。日本君が敗れても太平洋軍がインドカレーから退いた直後に」
 まさにだ。そうなった場合でもすぐにだというのだ。
「二人のところで独立を宣言するたい」
「それが間に合えばいいですが」
「あくまでそうなれば」
「そうたい。いいことたい」
 まさにそうだというのだった。
「日本君が敗れてもそうなれば僕にとってはいいことたい」
「独立が認められればですね」
「その場合であっても」
「どちらでも手を打っておくたい」
 実際にそういているインドだった。
「ではいいたいな」
「はい、それではですね」
「我々は」
「どうなっても独立するたい」
 インドはあくまでそう見ていた。
「そうするたいよ」
「わかりました。それでは」
「今のうちに手を打てるだけ打ちましょう」
「そして独立を勝ち取りましょう」
「絶対に」 
 国民達も強い声で言い合う。インドはあくまで独立を考えていた。それは日本が勝とうが敗れようがどちらにしても手に入れんとすることだった。


TURN43   完


                            2012・8・6



東インド会社も参戦するか。
美姫 「それだけインドが重要な拠点って事よね」
まあ、当のインドの人たちは独立目指して動いているみたいだけれどな。
美姫 「逞しいとも言えるわね」
まあな。ともあれ、日本帝国としては勝つしかないわけだがな。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
次回も待っています。



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