『ヘタリア大帝国』




                      TURN41  雨と盾

 太平洋軍はベトナムに到着した。その目の前には既にエイリス軍の正規艦隊が植民地艦隊も交えて展開していた。
 その彼等を見てだ。日本が東郷に言った。
「見たところですが」
「ああ、多いな」
「数は我々の二倍以上です」
「そして前にいるのはな」
「ヴィクトリーです」
 その戦艦の姿は確かに確認された。
「あの戦艦がいます」
「ネルソン提督、。、エイリスの名将だな」
「話によると騎士道精神に溢れる人物だとか」
「騎士提督、いやエイリス軍自体がな」
「騎士ですか」
「騎士の国の騎士の艦隊だ」  
 それがエイリス軍だというのだ。
「エイリス軍は見事だ。毅然としている」
「植民地の貴族の様に腐敗はしていませんね」
「そうだ。全くな」
 それはないというのだ。エイリス軍は。
「そこがエイリスの特色だな」
「貴族の腐敗は我々にとっては付け入るところですが」
「エイリス軍は違う」
「強敵ですね」
「紛れもなくな。だからな」
「しかしですか」
「エイリス軍らしい布陣だな」
 東郷が今見ているのは彼等の布陣だった。
 見れば見事な鶴翼だ。その中央の先にネルソンとフェムの艦隊がいてイギリスの艦隊もその中央にいる。
 その彼等を見てだ。東郷は言うのだった。
「そう、数に劣る我々を包み込もうとしている」
「そうして倒すつもりですね」
「その通りだ。このまま来る」
 こう言う東郷だった。
「囲んで来る」
「それに対して我々はどうするかですね」
「敵の要は彼女だ」
 フェムを見ての言葉だ。彼女の艦隊を。
 そのうえでだ。こうも言うのだった。
「彼女をまずは倒そう」
「そうしてですか」
「そうだ。敵も味方も攻撃力する」
 彼女の降らす雨によって。このことは既に把握している。
「エイリス軍は彼女のその力でだ」
「我々の攻撃力を半減させて」
「無論彼等もその攻撃力は半減される」
「しかしですね」
「そうだ。彼等の数は我々の二倍だ」
 このことが大きかった。ここでも戦争は数だった。
「いや、二倍以上だな」
「それ故にですね」
「その数で押し潰すつもりだ」
「鶴翼の陣で」
「セオリー通りに正々堂々と攻める、エイリス軍の戦術だ」
 まさにそれがだというのだ。
「オーソドックスだ。しかしオーソドックスはな」
「決して侮りの言葉ではありませんね」
「何故オーソドックスでいけるかだ」
「それは効果的だからこそ」
「剣道でも柔道でも同じだ。オーソドックスな相手は手強い」
「型を知っているから」
「そしてこちらが失敗すれば」
 オーソドックスな戦術を執る相手に対してミスを犯せばどうなるかというのだ。東郷はこのこともよくわかっていた。
「そこに付け込まれてだ」
「大きくやられますね」
「だから厄介だ。オーソドックスもな」
「戦いは相手の虚を衝くものですが」
 中帝国の古代の兵家の言葉だ。
「それに対してオーソドックスもまた」
「いいやり方だ。だからな」
「こちらはミスを犯さない」
「そして彼等の柱を崩す」
 それが大事だというのだ。
「まずはあの娘の艦隊を狙おう」
「ネルソン提督の艦隊ではなく」
「彼には既に資格を用意してある」
「ですがその前にネルソン提督の攻撃が来ますが」
 ヴィクトリー号の攻撃だ。それがあるというのだ。
「それを受けますが」
「何、それもだ」
「備えはありますか」
「こちらも盾を持っている」
 これが東郷のこの場での言葉だった。
「それをやらせてもらう。そうだな」
「そうだなとは?」
「フェム=ペコ提督にはララー=マニィ提督を向けるのも悪くないか」
「あの方をですか」
「あの娘は運がいい」
 あのネクスンと正反対にだ。そうだというのだ。
「その運を見るのも悪くはない」
「ここはですか」
「そうだ。ではだ」
「はい、それでは」
「攻めよう。彼等が鶴翼ならこちらは魚鱗だ」
 その布陣でいくというのだ。太平洋軍は。
「突撃して敵陣を突破する」
「では」
 日本は東郷の言葉に頷きだ。そのうえでだった。
 太平洋軍は東郷の指揮の下その魚鱗陣で一直線に進む。それを見てだった。
 イギリスはすぐにモニターからネルソンとフェムに言ってきた。その言葉はというと。
「じゃあ頼んだな」
「はい、まずは我々がです」
「太平洋軍の攻撃を受け止めます」
「そのうえで反撃を加え」
「その動きを抑えたところで、ですよね」
「ああ、一気に囲んで押し潰す」
 イギリスは強い声で二人に告げた。
「打ち合わせ通りな」
「ではですね」
「今から」
「ああ、奴等が来る」
 イギリスは敵の動きを見ていた。それは一直線に進んできている。まさにネルソンとフェムの艦隊に対してである。
「攻めてくる相手は一旦その矛先を受けてな」
「それからです」
 ネルソンも言う。
「その動きを封じ込めてです」
「こちらから一撃を加えればいいからな」
ではそれでいきましょう」
「ああ、じゃあな」
 こう話してだ。彼等も太平洋軍を迎え撃つ。彼等はフェムの雨とネルソンの盾を頼りにしていた。それで勝つ筈だった。
 しかし東郷は小魚の航続距離、それに入るとすぐにこう命じた。
「いいか。母魚はそのまま進む」
「そうしてですね」
「行く途中で小魚を拾う」
 そうするとだ。東郷は小澤に話した。
「だから今小魚を出してだ」
「そうしてですね」
「進みながら拾って航続距離を保つ」
「今の時点で送れば帰れませんからね」
 小魚、艦載機は出して終わりではないのだ。その帰る場合の燃料も考慮しなければならない。だが東郷はここでだというのだ。
「それを母魚を進ませてだ」
「その分の航続距離をよしとする」
「いいな、それでまずはフェム=ペコ提督の艦隊を叩く」
「ネルソン提督の艦隊ではなく」
「彼は後でいい」
 小澤に対してもだ。東郷はこう言うのだった。
「それでいいな」
「ではネルソン提督の艦隊は」
「盾で防ぐ」
 そうするというのだ。
「彼に対してはな」
「では」
「そうだ。それではだ」
「まずは小魚を出して」
「そして攻める」
 最初はフェムだった。何につけてもだ。
「雨を止めてからだ。全てはな」
「では。私がやらせてもらいます」
「ああ、頼むな」
 東郷はこう言ってだ。そのうえでまずは小魚を出させた。小魚達を見てだ。ネルソンもイギリスも命を下すのだった。
「では対空用意」
「小魚が来るぞ、いいな」
「わかりました」
 フェムも二人に続く。そのうえで対空戦の用意をしようとした。だが。
 小魚の数は多かった。エイリス軍のガメリカ軍や日本軍のそれと比べてかなり落ちる対空能力ではそれに対することはできなかった。それでだった。
 まずはフェムの艦隊が集中攻撃を受ける。フェムは乗艦の艦橋において驚きの声をあげた。
「ふえ!?敵の数が多い」
「くそっ、奴等まずはフェム提督の艦隊に攻撃を仕掛けるのかよ」
 それを見てだ。イギリスが忌々しげな声を挙げた。
「狙ってやがるな」
「そうですね。この状況は」
「ネルソンさん、頼めるか」
 イギリスはすぐに彼に言った。
「ここはな」
「はい、私がフェムさんをフォローして」
「レディーファーストだ。いいか?」
「女性を護るのも騎士の務めです」
 生真面目だがユーモアも交えてだ。ネルソンはイギリスに騎士の礼をしてからそのうえで応えた。
「そうさせてもらいます」
「頼むな。それじゃあな」
「では」
 こうしてだった。ネルソンは。
 己の艦隊を動かしフェムのフォローに回ろうとする。だが、だった。
 彼の前には海亀を配している南雲艦隊が来た。それでそのフォローを阻む。ネルソンはその海亀を見て苦い目になった。
「くっ、これは」
「海亀は確かそうですね」
「バリアになっていますね」
「ですからビーム攻撃を加えても」
「それでもですね」
「そうだ。あまり効果がない」
 ネルソンは己の部下達に対して答えた。
「我々の攻撃を受けても」
「持ち堪えますね」
「一撃を受けても確実に」
「考えたものだ。しかも」
 ネルソンはさらに言う。
「フェム提督にはさらに」
「はい、攻めらています」
「そうなっています」
「まずい。雨で双方の攻撃力が半減している」
 このことがネックになっていた。何故なら。
「この艦隊の攻撃も半減している」
「それであのバリア艦隊を撃つと」
「ダメージを受けませんね」
「そしてフェム提督はその間に」
 ネルソンの艦隊の攻撃が南雲艦隊に防がれている間にだというのだ。
「倒されてしまう」
「我々の主な攻撃であるビームはバリアと雨に防がれ」
「それが終わった時にフェム提督の艦隊は壊滅させられる」
「それによって雨が止められ」
「後は」
「彼等のターンだ」
 まさにだ。その時がだというのだ。
「エイリス軍はミサイル、特に鉄鋼弾の装備は弱い」
「それに対して太平洋軍は鉄鋼弾については定評がありますね」
「それもかなり」
「まともな攻撃を受ければ艦隊が消し飛ぶ」
 それ程までだ。太平洋軍、その主軸である日本軍の鉄鋼弾攻撃は強力なのだ。
「酸素魚雷というらしいが」
「恐ろしい射程に威力ですね」
「あれは」
「まずい。敵に裏をかかれた」
 まさにだ。虚を衝かれていた。
「既に他の艦隊も攻撃を受けている」
「そうですね。この状況は」
「まずはやられてしまいました」
「ここは何としてもフェム提督を護らなければ」
 戦術からだけでなくだ。ネルソンは騎士道精神からもこの決断を下した。
「フェム提督の艦隊に合流する。身を挺して護ろう」
「はい、それでは」
「今すぐに」
「一刻の猶予もない」
 だからだというのだ。
「すぐに向かおう」
「それでは」
 こうしてだった。ネルソンはフェムの艦隊との合流に向かった。そうして彼女の艦隊を護ろうとするのだった。
 エイリス軍も懸命に攻撃する。だが。
 フェムの雨がここでは仇になった。彼等の攻撃は思ったような効果が出ない。イギリスはこの状況に思わず舌打ちした。
「ちっ、こっちがやる筈だったのにな」
「はい、かえって向こうがですね」
「フェム提督の雨を使っていますね」
「そのうえで我々の攻撃を防いでいます」
「あの案山子みたいなのがいる艦隊だってな」
 イギリスは攻撃を受けるネクスンの艦隊を見ていた。その艦隊もだった。
「随分頑丈だな」
「本来はあそこまで頑丈ではないのですが」
「それがですね」
「ああしてもっています」
「妙です」
「くそっ、これじゃあこっちの攻撃が終わった時にな」
 まさにだ。その時にだというのだ。
「来るぞ。奴等の反撃が」
「敵のビームの残りにですね」
「それに」
「おい、気をつけろよ」
 イギリスはこれから予想される太平洋軍の攻撃に対して苦々しい顔で述べた。
「来るぞ、あれが」
「日本の酸素魚雷ですね」
「それが」
「あれを受けたら巡洋艦なんて消し飛ぶからな」
 まさにだ。魚雷一発でだ。
「戦艦だって危ないからな」
「それが牙を剥いてきますね」
「奴等の切り札が」
「その頃にはな」
 そのだ。酸素魚雷という彼等にとって最凶の鉄鋼弾攻撃がだ。どうかというのだ。
「来るぞ。雨が止んだ状態でな」
「そうですね。来ますね」
「マレーや四国でも猛威を振るったあれが」
「あれだけはどうしようもねえ」
 イギリスはここでも忌々しげに言った。
「受けたら終わりだ」
「はい、来ますね」
「その時に」
「やられた。雨があればな」
 その雨をどうするかというのだ。
「止めさせればいいんだよ」
「今彼等が考えている様に」
「その様に」
「そういうことだよ。わかっていたつもりだけれどな」 
 エイリス軍の攻撃は終わろうとしていた。既に太平洋軍は彼等に迫っている。小魚達も前に出て来ていた母魚達に無事収容されている。
 そしてエイリス軍の攻撃が終わりだ。それでだった。
 東郷がララーにだ。モニターからこう言った。
「じゃあ頼むな」
「うん、あのアオザイの娘をだね」
「頼んだ。君に任せた」
「任せて。確かに敵の艦隊に護られているけれど」
 ネルソンの艦隊にだ。フェムの乗艦はガードされていた。
 しかしそのフェムの戦艦を見てだ。ララーは明るく言うのだった。
「もう場所はわかったから。後はね」
「君の運だな」
「私今日は運がいいよ」
 ララーは明るく言う。
「さっき自動販売機の当たりが来たからね」
「だからか」
「うん、当たるから」 
 それでだというのだ。
「安心していいよ。任せてね」
「よし、ではな」
 東郷は微笑んでララーに命じた。そうしてだった。
 ララーは己の艦隊からミサイルを放たたせた。そのミサイル達を見てネルソンはすぐにフェムの戦艦を護ろうとする。
「まだ耐えられる艦は前に出るぞ!」
「はい!」
「そしてですね!」
「あの娘を護る。いいな」
「了解!」
 誰もがネルソンの言葉に頷きだ。そうしてだった。
 フェムの盾になる。殆どのミサイルは彼等の身を挺したそれによって防がれた。だが一発、一発だけがだった。
 彼等を通り抜けてフェムの旗艦を撃った。そうしてだった。
 その動きを完全に止めてしまった。ネルソンはそれを見て言った。
「あのままではだ」
「もうあの艦はもちません」
「艦内に留まっていては」
「そうだ。退艦しかない」
 そうだとだ。ネルソンは部下達にこう応えてだ。
 まだ艦内にいるフェムにだ。こう告げた。
「ペコ提督、今は」
「た、退艦ですか!?」
「そうだ、さもないと君の命が危うい」
 沈みゆく船と運命を共にしてしまうというのだ。
「だからだ。今はだ」
「けれどここで船から出たら」
 周りは太平洋軍が多い。それならばだというのだ。
「あの。私は」
「それでもだ。死んではならない」
 ネルソンはフェムに強い声で告げた。
「君はまだ若い、それではだ」
「そうなんですか」
「そうだ。今すぐその艦艇から降りるのだ」
 こう言うのだった。
「わかったな」
「はい、それじゃあ」
「君はよくやってくれた」
 労いの言葉も忘れない。
「感謝する。エイリスの人間ではないのにエイリスの為に戦ってくれて」
「いえ、私は」
「君は?」
「認めてもらいましたから」 
 だからだというのだ。
「それで。充分です」
「そうですか」
「これで太平洋軍の捕虜になりますけれど」
「はい、それでもですね」
「有り難うございました。本当に」
 微笑さえ浮かべてだ。頭を下げるフェムだった。
 フェムの乗艦は炎に包まれ彼女を含めた乗組員達は全員脱出した。ネルソンはその彼女達をエイリスの敬礼で見送った。
 そのうえでだ。彼は自身の部下達に対して告げた。
「では我々はだ」
「はい、ペコ提督の苦労を無駄にしない為にも」
「戦いましょう」
「エイリス軍の武人として恥じない戦いをする」
 ネルソンは毅然として言う。
「絶対にだ」
「そうですね。それでは」
「我々も」
「全将兵に告ぐ」
 早速だった。ロレンスは己の艦隊に命じた。
「太平洋軍と戦う」
「はい、そしてですね」
「そのうえで」
「彼等を退ける」
 今まさに剣を抜かんばかりだった。その気構えで。
 太平洋軍に向かう。彼は騎士として毅然と向かう。
 そのネルソンの艦隊を見てだ。東郷は言うのだった。
「見事だな」
「敵ながらですね」
「ああ、この状況でも来るか」
「そしてそれこそがですね」
「今のエイリス軍の執るべき行動だ」
 こう秋山に話すのである。
「そうした意味でも正解だ」
「はい、怯むことなく向かう」
「それがいいですね。では」
「我々もだ。仕掛けるぞ」
「エルミー提督ですね」
「彼女に任せよう」
 この星域に来る前の打ち合わせ通りにだ。そうするというのだ。
「わかったな。それではだ」
「お任せ下さい」
 エルミーがモニターから東郷に応えてきた。
「ネルソン提督の艦隊、必ずです」
「仕留めてくれ」
「そうさせてもらいます」
「この星域でのエイリス軍の要は二つだった」 
 東郷は攻撃を仕掛ける中で言った。
「まずはフェム=ペコ提督の雨」
「そしてネルソン提督の盾ですね」
「その二つで我々を防ぎ勝つつもりだったのですね」
「そうだ。しかしだ」
 だが、だ。それでもだというのだ。
「既に雨は封じた」
「これで我々の鉄鋼弾攻撃を普段通りに行えますね」
「酸素魚雷の威力見せてやる」
 日本軍の切り札の一つ、それを遺憾なく発揮できるというのだ。
「そうしよう」
「はい、それでは」
 こうエルミーと話してだ。そしてだった。
 日本軍はミサイル攻撃から鉄鋼弾攻撃に入る。そのはじまりにだった。 
 エルミーはネルソンの艦隊に密かに接近する。そのうえで。
 潜望鏡から彼の艦隊を見ながらだ。こう部下達に言った。
「今からです」
「今からですね」
「そうです。敵は私達に気付いていません」
 こう言ってだ。姿を隠したまま接近する。そのうえで。
 照準を定める。そのうえでの言葉だった。
「間も無く攻撃範囲に入ります」
「そうすればですね」
「酸素魚雷を発射します」
 魚雷はだ。日本軍のものだった。
「あの魚雷ならあの敵艦隊も」
「一撃ですね」
「消し飛ばせますね」
「いけます。エイリス軍を」
 彼女達にとっては憎き敵であるだ。彼等をだというのだ。
「ここで」
「まさか太平洋で彼等に復讐できうるとは」
「思いませんでした。しかしですね」
「この機会を逃さずにいきましょう」
「何があっても」
「そうです。彼等に対する復讐」
 それはだというのだ。
「それこそが総統への忠誠の実践ですから」
「では今こそ」
「このまま」
「射程に入りました」
 エルイーが自ら言った。
「では攻撃を放ちます」
「総統の為に」
「今こそ」
 太平洋に来ているドクツの将兵達は固唾を飲んだ。狭い潜水艦の中だがそれでもだった。彼等は緊張の極みにあった。そしてその緊張の中で。
「魚雷発射!」
「魚雷発射!」
 攻撃が復唱されその瞬間に。
 エルミーは潜望鏡の握り手にあるボタンを押した。そしてだった。
 旗艦から酸素魚雷、日本軍のそれを放つ。全ての潜水艦がそうした。 
 ネルソンは目に見える艦隊に対して警戒しておりその鉄鋼弾をかわしていた。だが。
 突如右面からだ。それを見たのだった。
「何っ、あれは」
「魚雷です!」
「日本軍の酸素魚雷です!」
「馬鹿な、レーダーに反応はなかった」
 その右手から来る魚雷を見ながらだ。ネルソンは言う。
「それで何故だ」
「わかりません。しかしです」
「魚雷は確かに来ています」
 普通の魚雷とは比較にならない速度で迫ってくる。しかも至近距離からだ。
 その魚雷達を見てだ。部下の一人が青ざめた声で言った。
「閣下、このままでは」
「避けられないか」
「どうされますか、ここは」
「止むを得ない」
 まずはこう答えたロレンスだった。
 そのうえでだ。こう部下達に命じた。
「総員衝撃に備えよ」
「はい、それでは」
「今から」
 こうしてだった。彼等は。
 酸素魚雷による衝撃に身構えた。最早避けられるものではなく寝るソンの判断は正しいものだった。そうして。
 魚雷は嫌になるまで、エイリス軍にとってはそれ程までに見事に命中した。そしてだった。
 エイリス軍の艦艇は撃破され航行不能になる。ネルソンは指揮官の席でその衝撃に耐えてからすぐに周りに問うた。
「被害状況は!?」
「はい、バリア艦が大破です!」
「巡洋艦アガメムノン中破航行不能です!」
「駆逐艦ホメロス撃沈です!」
「このヴィクトリーも主砲破損、攻撃不能です」
「くっ、セイレーンか」
 ここでだ。ネルソンは攻撃をしてきた者が誰なのか察した。
「噂に聞くあの魔女が。太平洋戦線に来ていたが」
「その様ですね。それでなのですか」
「今我々を攻撃した」
「そういうことですか」
「そうだ。してやられた」
 ネルソンは苦々しい顔で述べた。
「伏兵か。しかし見事だ」
「おいネルソンさん大丈夫か!?」
 イギリスがヴィクトリーのモニターに出て来た。焦った顔をしている。
「生きてるか!?どうなんだ!?」
「はい、私は無事です」
 ネルソンはイギリスにすぐに答えた。
「しかしそれでもです」
「ヴィクトリーがか」
「はい、主砲をやられました」
 このことを打。イギリスに話すのだった。
「攻撃不能の状態です」
「他の船もやられてるな」
「申し訳ありません」
「謝る必要はないさ。とにかくその状況だとな」
 それならばだというのだ。
「退いてくれ。後は俺に任せてくれ」
「祖国殿がこの戦場を」
「引き受ける。あんたはインドカレーまで退いてくれ」
「あの星域までですか」
「あそこには修理工場もある。艦隊全体の修理がスムーズにできる」
「それ故に」
「今はダメージを回復させることを考えてくれ。じゃあな」
 イギリス矢次早という感じでネルソンに述べていく。
「ここは俺に任せてくれよ」
「わかりました。それでは」
「さて、こっちにも来たな」
 太平洋軍がその酸素魚雷を放ってきた。それはだった。
 無数の矢となってエイリス軍に襲い掛かってきていた。イギリスはそれを見てこう言ったのである、
「全艦回避運動だ」
「はい、そうしましょう」
「ここは」
「そしてな」
 イギリスは自国の将兵達にさらに言う。
「ダメージを受けた艦はな」
「はい、インドカレーにまでですか」
「撤退ですか」
「酸素魚雷の威力、舐めるじゃねえぞ」
 イギリスは覚悟をしている顔で彼等に告げる。
「生き残った奴は無理するな。いいな」
「わかりました。それでは」
「祖国殿のお言葉通りにさせてもらいます」
「それからだ。反撃だ」
 酸素魚雷を受けてもだ。それでも諦めないというのだ。
「いいな。やるぞ」
「はい、わかっています」
「エイリス軍の戦いを見せてやりましょう」
 エイリス軍の将兵もイギリスと同じだった。その目は死んでいなかった。 
 そのうえで太平洋軍の矢をかわす。そしてだった。
 ダメージを受けた面々は戦場を離脱していく。そのうえでだった。
 第二ラウンドだった。太平洋軍は既にエイリス軍の陣に深く入り込んでいた。その状態の中で東郷は命じた。
「よし、このままだ」
「小魚を放ちですね」
「そのうえで」
「そうだ。そうしてだ」
 日本と秋山に対して話す。
「この戦場での決着をつけよう」
「エイリス軍は既に雨と盾を失くしています」
 秋山は東郷にこのことを話した。
「それならばですね」
「ああ、正面からの全力での斬り合いだ」
 それが第二ラウンドだというのだ。こう秋山に言うのである。
「斬り勝つ、いいな」
「エイリスの騎士達に対して」
「武士と騎士の対決か。面白いな」
 東郷もこのことに面白みを見出して言う。
「それなら正面から受けて立つだけだ」
「そしてそのうえで」
「勝たせてもらう。日本刀の切れ味を見せてやろう」
「それでは」
「総員再び攻撃に入る」
 東郷は秋山に告げた。
「いいな」
「了解です。それでは」
 こうしてだった。両軍は鶴と魚のままで正面から斬り合った。日本とイギリスもそれぞれの艦隊を率いて直接ぶつかる。
 その中でだ。イギリスは楽しげな顔で日本に対して言うのだった。
「おい、随分と強いな!」
「イギリスさんですか」
「御前と剣を交えるのはこれではじめてだがな」
「はい、そうですね」
「しかしな。それでもな」
 イギリスは不適な笑みで日本に言う。
「勝つのは俺だ」
「イギリスさんですか」
「ああ、勝たせてもらうからな」
 こう言うのだった。
「そうさせてもらうからな」
「では私もです」
 日本もだ。毅然としてモニターにいるイギリスに告げる。
「勝たせてもらいます」
「じゃあ勝つのはどちらか」
「ここで決めましょう」
 こう話してだった。彼等も正面から戦うのだった。そして。
 太平洋軍とエイリス軍は正面から全力で斬り合った。両軍共。
 そのダメージは馬鹿にならなかった。東郷の下にも次々と報告が来る。
「シュモクザメが中破です!」
「マンタ大破!」
「駆逐艦の損害も増えています!」
「全軍の損害が二割に達しました!」
「そうか。しかしだ」
 損害は多い。だがそれでもだと言う東郷だった。
「まだだ」
「まだですね」
「戦いますか」
「ここで退いたら敗北だ」
 日本自体がだ。そうなるというのだ。
「だからな。今はな」
「はい、それでもですね」
「戦いますね」
「多少の損害は気にするな」
 長門の傍もビームが通る。だがそれでもだった。
 東郷は怯まずにだ。こう言うのだった。
「このまま攻めろ。いいな」
「はい、それでは」
「今は」
「全軍攻撃を続けろ」
 無論長門もだ。そうしろというのだ。
 彼等はビームを放つ。そのうえで。 
 敵艦を沈める。その後ろで巡洋艦が撃沈される。両軍はまさに斬り合いだった。そしてその斬り合いの結果。
 イギリスは自軍を見てだ。忌々しげな顔で言ったのだった。
「限界だな」
「はい、全軍の損害が五十パーセントを超えました」
「最早」
「日本軍もかなりのダメージを受けたがな」
 見れば日本軍も相当なダメージを受けている。だが、だった。
「奴等はまだ余力がある」
「それに対してですね」
「我々は」
「ああ、もう限界だ」
 継戦能力自体が残っていないというのだ。
「撤退するぞ。いいな」
「インドカレーまでですね」
「そうしますね」
「そこれで艦隊を修復する」
 ネルソンに言ったのと同じくだというのだ。
「それでいいな」
「はい、わかりました」
「無念ですが」
 将兵達もこう言ってだった。
 エイリス軍は撤退に入った。戦いはこれで終わった。だが、だった。
 秋山は東郷にだ。こう言ったのだった。
「残念ですが今回は」
「追撃はだな」
「はい、殆どの艦隊がダメージを受けています」
 それでだというのだ。
「追撃はとても」
「できないな」
「ベトナムは占領できます。しかし」
「艦艇の修復が急務だ」
 そうだというのだ。東郷も。
「いいな。、それではだ」
「はい、今からですね」
「ダメージを受けている艦隊はマレーに戻れ」
 その中には東郷の艦隊も入っている。彼が直接率いる第一艦隊も尋常ではないダメージを受けているのだ。
「そしてそのうえでだ」
「修復した艦隊からですね」
「インドの諸星域の占領にあたろう」
「それでは」
「まずはベトナムを占領する」 
 それからだというのだ。
「そしてだ」
「はい、修復ですね」
「やはりエイリス軍は強いな」
 これが東郷の感想だった。
「尋常なダメージではない」
「暫く戦局に影響するでしょうか」
「そうかもな。しかしだ」
「そうですね。これで太平洋は全て解放しました」
「ベトナムも太平洋に加わる」
 このことは確かだった。ベトナムでの戦いに勝ったからこそ。
「その目的は達した」
「では」
「ああ、まずは艦隊の修復だ」
 何につけてもだった。
「それからだ。いいな」
「わかりました」
 こうしてだった。東郷はベトナムを占領させた。しかしだった。
 太平洋軍のダメージは大きかった。その修復には時間がかかることが危惧される状況だった。だがここでだった。
 平良が東郷にだ。こう言ってきたのだった。
「私に考えがあるのですが」
「考え?」
「はい、我が同志達の協力を仰いではどうでしょうか」
「獅子団か」
「獅子団の中には技術者も多くいます」
「その彼等の助けを借りてか」
 東郷は平良に対して述べた。
「そのうえで」
「そうです。艦隊を修理してはどうでしょうか」
「そうだな。多少のダメージの艦隊ならな」
「今すぐにでもダメージを回復できます」
「正直今のままだとな」
 どうなるかとだ。東郷は言うのだった。
「インドの占領は予定通りにはいかない」
「ですから。ここはです」
「わかった。では頼む」
「すぐに同志達に招集をかけます」
 平良の動きは速かった。そうしてだった。
 ベトナムを占領したところで全艦隊に応急処置が施されていった。それで多少のダメージの艦隊達が回復して。 
 すぐにインドの諸星域へ向かった。そしてマレーに戻った艦隊も。
 修理工場と獅子団の者達の助けを借りて通常以上にダメージを回復していく。それを見てだ。
 日本がほっとした顔でだ。東郷に言うのだった。
「何とか予定通りにですね」
「ああ、いけるな」
 東郷も日本に応えて言う。
「本当にぎりぎりだがな」
「はい、それでもです」
「インドの諸星域の解放もいける」
「まさに獅子団の力あればこそですね」
「獅子団も変わったな」
 ここでこう言う東郷だった。
「それもかなりな」
「そうですね。以前のあの方々は」
「国粋主義だった」
 そうだったというのだ。
「しかしそれがだ」
「今では他国のメンバーもいますね」
「変わった。随分国際的になった」
「それはいいことですね」
「韓国や台湾に行かせたのがよかったな」
 これは伊藤の決定だ。平良や福原といった主なメンバーをそうした国々に行かせて学ばせそのうえで国粋主義的なものを払拭させたのだ。
「あれから視野が広くなった」
「そうですね。ですが」
「正義感が強過ぎるのはな」
「それは変わりませんでしたね」
「正義感が強いのはいいことだが」
 それでもだとだ。東郷は難しい顔も見せた。
「いや、平等主義も義侠心もだ」
「どれも美徳です」
「日本軍でも常に教えてきた」
 これは海軍だけではない。陸軍もだ。むしろ陸軍の方がそうしたkとへの教育を徹底させている程である。
「しかしだ」
「それでもですね」
「それだけでどうにかなるか」
 言うのはこのことだった。
「そうはならないのが世の中だ」
「どうですね。どうしても」
「正義だけで左右できるものではない」
 東郷は少し遠い目になって言う。
「世の中はな」
「平良提督はそこがあまりわかっておられないですね」
「正義や義侠心で全て変わると思っているな」
「純粋なのですね」
「純粋もまたいいことなのだ」 
 このこともだ。東郷は認めた。
 しかしそれでもだった。彼は言葉を濁したまま言うのだった。
「しかしだ」
「それでもですね」
「悪もまた世界をいい方向に向けることもあるのだ」
「悪もまたですか」
「そういうこともある」
 東郷は人生経験からわかっていた。そうしたことが。
 それ故に遠い目になってだ。それで言うのだった。
「正義だけで世の中が正しくなればどれだけやり易いか」
「そしてその正義が時には」
「自分を不必要な災厄に巻き込むことになる」
「では獅子団については」
「過剰な行動を慎む様に伝えよう」
 即ちだ。彼等が現地の貴族達を糾弾し制裁に至ることをだというのだ。
「今のうちにな」
「はい、それではそれも」
「下手な行動はかえってトラブルの元だ」
 例えそれが正義感に基くものにしてもだというのだ。
「コントロールが必要だ」
「難しいことですね。本当に」
「海軍はそうしていく。だがな」
「陸軍さんですね」
「利古里ちゃんもな。正義感が強いからな」
「危ういところがありますね」
「少し話をするか」
 東郷は腕を組みながら考える顔になって述べた。
「祖国さんを交えてな」
「私のことはお気遣いなく」
 ここで日本が東郷に述べる。
「私としましても平良さんや山下さんが気になります」
「なまじ根がいいだけにな」
「そうです。ここは軽挙妄動を謹んでもらいます」
 日本にしても気になることだった。それでなのだ。
「正義感はかけがえのないものですが」
「じゃあ獅子団には俺から言っておく」
 そちらは東郷が引き受けるというのだ。
「そして利古里ちゃんは祖国さんにお願いする」
「ではそれで」
 こうして話を整えた。日本にとって問題は戦争のことだけではなかった。太平洋経済圏のことも気になるところだった。そして早速だった。
 ベトナムの首都ハノイの市街地において平良はエイリスから来た太った貴族を前にしてだ。怒りのオーラを纏って刀に手をかけていた。 
 そのうえでだ。腰が抜けてへたれ込んでいる貴族にこう告げたのだった。
「覚悟はいいな。安心しろ」
「あ、安心しろ!?どういうことだ」
「一太刀で。苦しませることはしない」 
 死刑宣告そのものだった。
「貴様が娼館を開いていたいけな少女達を売りものにしていたことは許せぬ」
「あ、あれは地元の者がしたことだ」
「元締めが貴様だったことはわかっている」
 証拠も既に突き止めている。平良はこうしたことでも優れているのだ。
「他にも高利貸しに荘園での搾取、人頭税の容赦ない取立て」
「それは女王陛下から許されたことだ」
「ならばエイリス女王自体が悪だ」
 平良は言い切った。
「悪は許してはならない。ここで斬る」
「あ、あわわわわわ・・・・・・」
 まさに早速だった。平良は不埒なエイリス貴族を成敗しようとしていた。しかしここでだ。
 話を聞いた秋山が飛んで来てだ。両者の間に慌てて入って止めた。
「お待ち下さい、提督」
「参謀総長、どうされたのですか」
「ここはご自重下さい。この者は司法に委ねます」
「ベトナム政府のですか」
「はい、後はベトナムさん達がやってくれます」
 だからだ。今は自重して欲しいというのだ。
「くれぐれもお願いします」
「しかしです。この者のやったことは許せないことです」
 平良は正義から話す。正論ではある。
「ここで成敗し悪が栄えることではないということを」
「それはベトナムさんが行いますので」
「日本軍のすることではないと」
「はい、そうです」
 まさにだ。それ故にだというのだ。
「ここはご自重下さい」
「日本軍の任務は国家を守ることと」
 もう一つあった。平良の中では。 
 そしてそのもう一つあることをだ。平良は口にしたのである。
「悪を滅ぼすことです」
「いえ、悪を滅ぼすことが任務であろうとも」
「しかしというのですか」
「法律は守らなければなりません」
 秋山も正論で返す。彼は法律を出した。
「我が国は法治国家です。そして法治国家であるが故に」
「法律は守らなくてはならない」
「そして今この星域はベトナムです」
 もう一つ事情があった。
「他国なのです」
「ベトナムの法律が適用されますか」
「その通りです。ですからご自重をお願いします。それに」
「それにとは」
「提督にとって軍規軍律は何でしょうか」
 秋山は今度はこのことを話に出した。
「それは何ですか」
「絶対のものです」
 東郷は軍人として言葉を返した。
「それ以外の何でもありません」
「そうですね。軍規軍律は軍にとっては法ですね」
「そしてその法をですか」
「お守り下さい」
 秋山も引かない。物腰も口調も丁寧だがそこには強さがあった。
「そうして頂けるでしょうか」
「わかりました」
 平良とて愚かではない。秋山にそうした根拠まで出されて説得されてだ。
 納得してだ。刀から手を外し失禁寸前の貴族を見下ろして述べた。
「ではこの下郎はベトナム殿にお任せします」
「そうして頂ければ幸いです」
「その様に」
 平良もこれで納得した。秋山はとりあえずは胸を撫で下ろした。しかしそれからすぐにだった。今度は福原がだ。
 これまたベトナムの良民を虐げていたエイリス貴族ににこやかに笑って拳銃を突きつけていた。そしてやはりこう言うのだった。
「一撃で済みますから安心して下さい」
「お待ち下さい、福原提督」
 彼女の前に来ても言う秋山だった。東郷は獅子団全体に通達を出したが彼は動き回ることになった。ここでも彼は苦労人だった。
 そして陸軍もだ。あちことでこうした騒動を起こしだ。長官である山下が日本に言われていた。
「不埒者はくれぐれもです」
「許さず成敗せよと仰るのだな祖国殿も」
「いえ、ご自重下さい」
 予想していた返答なので。日本はこう返した。
「捕まえることはいいですがその後は」
「何っ、釈放しろとでも仰るのか」
「いえ、ベトナムさんにお渡し下さい」
「ではベトナム殿に任せよと仰るのか」
「その通りです。そうして下さい」
「悪党、しかもああした下種は成敗してこそだが」
 あくまでこう言う山下だった。
「しかしなのか」
「そうです。ご自重をお願いします」
「ううむ。では憲兵隊もか」
「韓国さんのところでは両班を成敗もされましたね」
「良民を虐げ無法の限りを尽くす」
 山下が最も忌み嫌うことである。そして陸軍軍人の殆どが。
「成敗して当然だ。しかしその成敗もだ」 
 どうかというのだ。それもだ。
「一太刀だ。あの者達の様に苦しめることはしない」
「それは韓国星域が当時は日本領でしたので」
「問題はなかったのか」
「そうです。しかし今各国は独立しています」
 そして各国の政府と法律が動きだしている。それではだというのだ。
「各国の政府に協力するのはいいですが」
「成敗まではか」
「憲兵は逮捕権はあります」
 そうした隊なのだ。それが仕事であるだけにだ。
「海軍でも法務将校の権限があればですが」
「平良提督や福原提督だな」
「逮捕権はあります。また現行犯ならばその場での処刑の権限もあります」
 だから平良や福原も不埒なエイリス貴族を成敗しようとしたのだ。彼等も軍人であり法により動く者達なのだ。
「しかしです」
「ここは日本ではない」
「くれぐれもお気をつけ下さい」
「逮捕権だけか」
「それは各国政府からも要請されていますので」
 協力をだというのだ。
「ご安心下さい」
「そういう事情ならな」
「おわかり頂けましたね」
「悪人を成敗することもまた武人の務めだが」
 平良と殆ど同じことを言った。無論行動もだ。
「しかしそれならばな」
「そういうことでお願いしますね」
「わかった」  
 確かな声でだ。山下は頷いた。
「ではその様にな」
「くれぐれも。後です」
「後。どうした?」
「これからお茶をどうでしょうか」
 日本は山下にそれを勧めてきた。
「茶道を。どうでしょうか」
「いいな。それではな」
「山下さんは茶道がお好きでしたね」
「華道もだ。あと和歌も好きだ」
 雅なところも見せる山下だった。普段とは違う気品のある笑みも見せる。
「漢籍や古典も昔からな」
「教育を受けてこられたのですね」
「武人としての当然の素養だ」
 山下にしてはだった。それもだ。
「武人は刀だけではないからな」
「素晴らしいことです。ではベトナムさん達もお呼びして」
「うむ、楽しもう」 
 その気品のある笑みで応える山下だった。そうしてだ。
 とりあえず一部の軍人達の正義感に基くとはいえ頻発しようとしていた軽挙妄動も止められた。正義だけでよくはならないのも世界の難しいところだった。


TURN41   完


                              2012・7・18



ベトナムもどうにか占領したか。
美姫 「被害もかなり大きく、すぐの進軍は無理っぽかったけれどね」
そこは何とかなりそうだな。
美姫 「とは言え、それでもすぐに出発とはいかないけれどね」
それは仕方ないさ。
とりあえずは、貴族たちの取り締まりだな。
美姫 「ここでも苦労人の秋山が苦労しているみたいだけれどね」
まあ、それでも平良たちも変わっているみたいで多少はやり易いかもな。
美姫 「確かにね。さて、次はどうなるかしらね」
次回も待っています。



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