『ヘタリア大帝国』




                          TURN34  開戦と共に

 マニラ、そしてマイクロネシア占領の報告はすぐにワシントンまで届いた。それを聞いてだ。
 四姉妹はすぐにだ。会議の場でこう話していた。
 四人はアメリカ兄妹と共に三次元テレビを観ている。その中での話だった。
 テレビではルースが演説をしていた。その演説は。
「日本が我が国を攻撃しマイクロネシアとマニラを奪われました」
「ここまではまともね」
「そうね」
 キャロルとハンナはそのルースの演説を聞きながら述べる。
「ただね。ミッちゃんじゃなかったミスターって演説はね」
「基本的にテレビ映えはしないわ」
「かといっても国家元首が出ないとここはね」
「話がはじまらないわ」
 こう二人で話すのだった。テレビにいるルースを観ながら。
「まあそれじゃあね」
「この演説は聞かせてもらうわ」
「それに対して我が国は高らかに宣言します」
 ルースは言っていく。
「日本帝国に対して反撃を加えその過ちを正します」
「そしてよね」
「そう。ガメリカが反撃の用意に入るわ」
「もう軍艦大量に作って」
「東南アジアとオセアニアを手に入れて日本本土も攻めて降伏させるわ」 
 二人で言う。そして。
 クーもだ。テレビを観ながらこう言った。
「プレジデントの演説は無事に終わるから」
「後は私達の仕事になるわ」
 ドロシーも言ってくる。
「じゃあ祖国さん、ここは」
「私達に任せて」
「よし、では僕達はハワイで力を蓄えるぞ」
「そうさせてもらうね」
 アメリカ妹はクーとドロシーの言葉に笑顔で応える。
「マイクロネシアとマニラは残念だったがな」
「規定路線だからね」
「そうよ。気落ちすることはないわ」
 ハンナは余裕を以てアメリカ兄妹に返した。
「祖国さん達は今はハワイで守りを固めておいて」
「よし、じゃあフィリピンと共にな」
「守らせてもらうね」
「ただね。守るだけじゃかえって敵を調子に乗らせるから」
 キャロルは明るく二人に言う。
「隙を見て攻めたりしてね」
「よし、じゃあイザベラ達と一緒にだな」
「日本への攻撃もするね」
「あたしも頃合い見てハワイに向かうから」
「ちょっと待ちなさい」
 キャロルの今の言葉にはだ。ハンナはすぐに突っ込みを入れた。
 呆れた顔でだ。こうキャロルに言ったのである。
「国防長官が自ら前線に出るつもりなの?」
「あれっ、何かまずい?」
「まずいも何もそんなことをしたらどうなるのよ」
「どうなるって。あたしだって艦隊指揮できるし」
「そういう問題じゃないわよ。国防長官としてね」
「前線には出るなっていうのね」
「そうよ。ワシントンで全体の指揮にあたりなさい」
 こう言うのだった。
「いいわね。私達と一緒にね」
「だってね。あたしだってね」
「私だって?」
 ハンナは目を顰めさせてキャロルに問うた。
「何だっていうのかしら」
「意地があるのよ。あの日本軍の長官は」
「東郷ね」
「そうよ。姉さんのことがあるから」
「私怨は忘れなさい」
 ぴしゃりとだ、ハンナはキャロルに言い捨てた。
「そんなものはね」
「だからだっていうのね」
「それとよ。国防長官は基本的に文民よ」
 ガメリカのシビリアンコントロールの概念からだ。そうなっているのだ。
「貴女もそうだからね」
「けれどね。あたしと祖国ちゃんのタッグなんて最高でしょ」
「全然そうは思わないわ」
 ハンナの方が上だった。ここでも。
「むしろ祖国さんと妹さんのタッグの方がいいわ」
「じゃあ妹ちゃん入れて三人」
「却下よ」
 あくまでだ。ハンナは認めようとしない。
「大人しくしなさい」
「うう、ハンナは厳しいわね」
「常識から言ってるのよ」
「そうよ。キャロルはワシントンにいて」
「そうあるべきよ」
 クーは心配する顔で、ドロシーは無表情でそのキャロルに言う。
「僕・・・・・・いえ私達もここで戦争にあたってるから」
「私は時々カナダに行くけれど」
「うう、何か嫌な展開ね」
 よくも悪くも行動派のキャロルにしてみればだった。
「どうしろっていうのよ」
「だから大人しくしていなさい」
 また言うハンナだった。
「わかったわね」
「理解するしかないっていうのね」
「理解しなくても納得はしなさい」
 ハンナはまた言う。
「そうしなさい」
「ふん、とにかくね」
 キャロルはこう返した。ここで。
「あたしは絶対にあの髭をぎゃふんと言わせてやるんだから」
「まあそうだな」
 アメリカは何気なくフォローに入った。キャロルとハンナの間に。
「僕としてはキャロルはそれでいいと思うぞ」
「あっ、祖国ちゃんはそう言ってくれるの」
「ああ。キャロルは元気でないとな」
 こう言うのだった。
「四姉妹はそれぞれ持ち味があるからな」
「そうそう。祖国ちゃんはあたしのこといつもわかってくれてるから好きなのよ」
「当たり前だぞ。僕は君達の祖国だぞ」
 アメリカはキャロルの笑顔に笑顔で返した。
「わかっていなくてどうするんだ」
「そうよね。それじゃあね」
「まあキャロルのハワイ行きは状況に応じて考えよう」
 ハンナにも配慮してだ。アメリカはこう提案した。
「ハンナもそれでいいかな」
「全く。祖国さんはキャロルに甘いから」
 ハンナは苦い顔になるがそれ程強い苦さは見せなかった。
 そのうえでだ。自分の祖国でもある彼にこう言った。
「まあいいわ」
「そう言ってくれるか」
「祖国さんが言うのならね」
「そうか、有り難う」
「全く。祖国さんは反則よ」 
 さしものハンナも苦笑いを見せていた。
「言われたらそうよって言わざるを得ないわ」
「ははは、僕の人徳じゃなくて国徳だな」
「そうなるわね。まあとにかくね」
「暫くはハワイで戦力を整えるんだな」
「その方針でいきましょう」
 ハンナはアメリカに答えながらテレビを観ていた。丁度演説が終わり市民達が喝采を叫ぶ。演説は成功に終わった。それも無事に。
 ここまで観てだ。アメリカ妹はこういった。
「まあ。プレジデントも頑張ってくれてるわね」
「そうだな。これで三期目だがな」
「思えば長い大統領よね」
 アメリカ妹は兄に答えた。
「これまでは二期で終わりだったから」
「そうだな。四期もいけるんじゃないのか?」
「どうかしら。ただ四期ってなると」
 どうかとだ。アメリカ妹は微妙な顔になった。
 そのうえでだ。四姉妹達に顔を向けて彼女達にも尋ねた。
「あんた達はどう思うの?大統領って四期もしていいの?」
「どうかしらね」
 最初に答えたのはキャロルだった。しかしだ。
 微妙な顔になっていた。そのうえでの返答だった。
「これまでのプレジデントって二期で。今のミスターが異例だから」
「状況が状況だったから」
 クーは曇った顔であった。
「二期が終わった時点で経済は何とか持ち直したけれど日本帝国のことが出て来ていたから」
「共和党って伝統的に日本には穏健なのよね」
 キャロルがこのことを指摘した。
「あたし達財界としては日本をちょっとへこましたいのに」
「日本を何とかしないと太平洋経済圏を築けない」
 ドロシーはこのことを指摘した。
「そして共和党はエイリスにも穏健で植民地も認める方針だったから」
「それでは太平洋経済圏が築けないわ」
 ハンナの口調はぴしゃりとしたものだった。
「だから今回は異例で。財界は今のプレジデントの支持に回ったのよ」
「それが僕にとってもいいことなんだな」
「そうよ、私達はあくまでガメリカの財閥の人間よ」
 アメリカにだ。ハンナはこのことを強調して述べた。
「ガメリカの人間ならガメリカの利益を考えるのは当然のことよ」
「けれど共和党の人達も僕のことを考えてるぞ」
「見解の相違よ」
 またしてもだ。ハンナはぴしゃりと言った。
「そこはね」
「見解の相違なのか」
「共和党は今は穏健路線で現状維持派なのよ」
「だから日本帝国にもエイリスにもそう言うんだな」
「そういうことよ。けれどね」
「プレジデントや君達は違うんだな」
「ガメリカの為には日本を叩いてエイリスの植民地は解放よ」
 ただしガメリカが手を汚すのは前者についてのみだ。
「その為にはあの大統領であるべきなのよ」
「ううん、太平洋か」
「祖国さんにはその盟主の座が待っているわ」
「リーダーだな」
「そう。ひいては世界のリーダーよ」
 今はエイリスがいるだ。そこにアメリカが座るというのだ。
「その為にも。いいわね」
「よし、じゃあ僕も頑張るぞ!」
 アメリカはハンナと話した後で威勢よく言った。そうしたやり取りの後でだ。
 一同のところにルースが戻って来た。幾分疲れた顔だが満足している面持ちだ。
 その顔で部屋に入って来た彼にアメリカ妹が声をかけた。
「お疲れ様、中々よかったわよ」
「だといいがね。しかし私はどうもな」
「演説は苦手なのね」
「昔からスピーチの類はね。暗い性質なんでね」
 こうだ。彼は自嘲めかして言いながら空いている場所に座った。
 そのうえでだ。クーが差し出してきたコーヒーを一礼してから受け取ってからこうも言った。
「事務処理や政策立案には自信があるがね」
「政治家には演説も必要じゃないの?」
「国防長官、人には得手不得手があるのだよ」
 ルースはキャロルの問いにこう返した。
「私はそうしたことが不得手なんだよ」
「そういうことなの」
「野暮ったい外見だしね。学生の頃からね」
「ううん。ハーバードで優秀な成績だったんじゃないの?」
「スポーツも苦手でね。所謂ガリ勉だったのだよ」
「それはそれでいいんじゃないの?」
「お陰でもてない暗い学生生活だったよ」
 言いながらだ。ルースは自分のあまり楽しくない過去を話した。
「もてもしない。スポットライトは当たらなかったね」
「けど今はプレジデントじゃない」
「それはそうだがね。まあそんな私でも祖国氏は普通に接してくれるね」
「僕の上司なら当然だぞ」
 アメリカは公平だった。少なくとも人を外見で差別はしなかった。
 それでだ。彼は笑顔でルースにこう言ったのである。
「だからこれからも頼むぞ」
「そう言ってくれるのならね。とにかく私の今の仕事は終わりだ」
「後は僕達の仕事だ。ハワイに戻って色々とやるか」
 アメリカはまた威勢よく言った。彼等にとって今は緒戦でしかなく本格的な戦いの用意に入っていた。ガメリカのそうした状況に呼応する国もあった。
 シュウ皇帝は重慶においてだ。中国兄妹とガメリカから派遣されているキャヌホークに問うていた。彼は紅い部屋で玉座にいてそのうえで問うたのだ。
「さて。キャヌホーク提督よ」
「はい、ガメリカのことですね」
「ここまでは予定通りだな」
「後ラバウルの放棄ですね」
 これも想定しているとだ。キャヌホークはあっさりと答えた。
「日本軍が攻めてきたら」
「そしてだな」
「ハワイはガチガチに固めてます。御安心下さい」
「日本軍にはエイリスを攻めてもらうか」
「それであの一体を占領してもらってです」
「日本の本体を殴ってか」
「ええ。それであの一体は全部独立です」
 そして太平洋経済圏を築くというのだ。
「そう進めますので」
「ではその様にな」
「それでこちらの反撃がはじまれば」
「わかっている。我々も力を蓄えている」
 中帝国もただ座しているのではないというのだ。
「同時に反撃に出よう」
「そういうことでお願いします」
「その様にな。ところでだ」
「はい、何でしょうか」
「そなたにこの前紹介してもらった料理だが」
 皇帝は満足している顔で述べてきた。話題を変えてだ。
「ハンバーガーといったな」
「ああ、あれですね」
「あとホットドッグだが」
「どうですか。あれは」
「中々美味だ。悪くはない」
 こうキャヌホークに言うのである。
「今朝も食したがな」
「あとサラダもですね」
「生野菜か。これまで我が国では食べなかったが」
「それにドレッシングをかけると絶品です」
「あの油と酢、それに香辛料を混ぜたものだな」
「そうです。それも御気に召されたのですね」
「いいものだ。そしてこちらもそなたに食べてもらったが」
 中華料理だ。中帝国側もそれを出してきたのだ。
「どうだろうか」
「四川料理ですね」
「あれはどうだったか」
「いいですね。麻婆豆腐ですね」
「気に入ってくれたか」
「とても。ただ北京や広東の料理も懐かしいです」
「ではそうしたものを食べる為にだ」
 まさにだ。その為にだと言ってだった。皇帝はキャヌホークに言った。
「我々も反撃に入り日本帝国に占領されている星域を奪い返そう」
「是非共。そうしましょう」
 皇帝とキャヌホークは笑顔で話した。そしてだった。
 キャヌホークが退室した後でだ。皇帝は残っている中国兄妹にこう囁いた。
「祖国子と妹子はどう思う」
「キャヌホーク提督あるか?」
「あの金髪の提督あるな」
「そしてガメリカだがな」
 皇帝は考える顔で述べた。
「手を結びしかも太平洋経済圏を共に築くことになっているが」
「それ自体はいいことあるよ」
「私もそう思うある」
「朕も同じだ。だが我が国も今のままでという訳にはいかぬ」
「発展あるか」
「それを目指すあるか」
「その通りだ。金儲けは悪くはない」 
 むしろ奨励すべきことだった。中帝国にとっては。
 そう言ってだ。皇帝は中国兄妹にこうも述べた。
「そなた達にも頑張ってもらう」
「わかったある。大事なのは戦後あるな」
「国力のさらなる増強あるな」
「ガメリカとはそうしたことの為の同盟だ」
 心まで親密になっているという訳ではないというのだ。
「このことは踏まえておく様にな」
「皇帝も最近シビアあるな」
「当然だ。朕とて国の主だ」
 中帝国のだ。それならばだというのだ。
「そなた達を大きくすることも務めだ」
「それに越したことはないある。では」
「頼むぞ。では昼だ」
 昼になると。どうなるかというと。
「食事だ。共に食しよう」
「キャヌホーク提督も呼ぶあるか?」
 中国妹は皇帝に彼の名前を出して尋ねた。
「それで四人で食べるあるか?」
「そうだな。確かに同床異夢だが」
 だがそれでもだとだ。皇帝は言ってだ。
 あらためてだ。二人に述べたのだった。
「友人であることには変わりないからな」
「それではあるな」
「同席ある」
「して祖国子」
 皇帝はまた中国に声をかけた。
「軍の編成はどうか」
「順調ある。日本帝国とガメリカ共和国のハワイでの決戦の後は」
「一気に攻めるな」
「力を弱めた日本を攻めるある」
 中国はそのことを見ていた。ただ戦いはだというのだ。
 そしてだ。こうも言ったのである。
「艦艇も揃ってきているある」
「ガメリカの艦艇だな」
「その通りある。では順調に」
「進める様にな」
 皇帝は自身の祖国に話した。
「ではな。食事だ」
「その通りある。ではある」
 中国はキャヌホークも交えた皇帝主催の昼食の後で港に向かった。港にはガメリカ製の艦艇が揃っていた。しかも多くの将兵達がそこにはいた。
 そしてだった。ここでだった。
 その中帝国の将兵達がだ。こう中国に言ってきた。
「よく来られました」
「どうでしょうか。今の我が軍は」
「この状況は」
「そうあるな。かなり整ってきたある」
 黄色の、自分のものと同じ軍服姿の彼等にだ。こう返した。
「しかしある。まだまだある」
「不充分ですか」
「これでもまた」
「日本は侮れないある」
 中国はその艦隊を見ながらまた話す。
「北京でも南京でも破れているある。油断は禁物ある」
「ならですか」
「これまで以上の軍備が必要ですか」
「そういうことある。それとあるが」
「はい、ソビエトですね」
「あの国ですね」
「あの国は同じ連合国あるが敵ある」
 そう認識していたのだ。中国は。
「そのことは忘れてはならないある」
「そうですね。共有主義ですからね」
「リンファ提督も染まっていましたが」
「この戦争の後が大変あるよ」
 例え枢軸に勝ってもだ。敵は消えないというのだ。
 中国は顔を曇らせて自分の国の将兵達にまた述べた。
「ロシアとだけはずっと馬が合わないあるよ」
「それとイギリスですね」
「あの国とも」
「原始の八国あるがな」
 こう言ったところでだ。ふとだった。
 将官の一人がだ。中国にあることを尋ねた。そのこととは。
「あの、前から気になっていましたが」
「何あるか?」
「はい、祖国さんは原始の八国のうちの一国ですね」
「言った通りある」
「今の中国に人間が文明を築きそこからでしたね」
「僕は生まれたあるよ」
 他の七国もだ。そうだというのだ。
「そうなったある」
「原始の記憶はないのですか」
「生まれる前の記憶なぞなくて当然あるぞ」
「しかしあの日本の犬の頭の神はその前からいたそうですが」
「柴神あるな」
「あの神は日本誕生以前からいたらしいですが」
「人間が最初に出来た時からあるか」
「相当なことを知っていますね」
「それは間違いないあるな」
 中国もだ。柴神についてはそう見ていた。
「僕も何度か会っているあるがかなりの叡智を持っているある」
「神に相応しいまでの」
「そうある。ただどうもある」
「どうもといいますと」
「何か隠しているところがあるかも知れないあるな」
 何となくだが中国はそう感じていた。
「あの神は」
「隠していますか」
「そんな気がするある」
「人間のことについてですか」
「国家は人間が文明を築いて国家を築いた時に生まれるある」
 そうしてだ。彼等は出て来るのだ。
「だから柴神は僕達の誕生の時も見ているある」
「そうなりますか」
「人間は何処から出て来たのか」
 中国は深く考えながら述べていく。
「あの神は全て知っていると思うあるが」
「それについて知ることはですね」
「あの神は口が堅いある」
 だからその真実はわからないだろうというのだ。
 そうした話をしながら中国は港で直接軍の編成にあたっていた。謎を感じながら。
 エイリスにも日本帝国からの宣戦布告が来た。日本妹からの。
 それを受けてだ。セーラは毅然として居並ぶ祖国と騎士提督達に述べた。
「すぐに太平洋に艦隊を派遣します」
「植民地艦隊だけでの防衛は無理ですね」
「はい、到底できるとは思えません」
 毅然としてだ。セーラはイギリス妹に答えた。
「とても」
「だからこそですね」
「本国の正規艦隊の五分の一を送ります」
「それだけをですね」
「はい。そして司令官は」
 騎士提督、今はネルソンとロレンスの二人だ。その二人を見ての言葉だった。
「ネルソン、お願いできるでしょうか」
「私ですね」
「貴方は太平洋にいたことがあります。ですから」
 あの一体のことも知っているからこそだというのだ。
「お願いします」
「わかりました。それでは」
「すぐに向かって下さい」
「畏まりました」
 ネルソンは即座にセーラの命に答えて一礼した。
「では必ずや東洋の憂いを晴らしてきます」
「お願いします。そして」
 セーラはネルソン以外にもだ。イギリスも見た。それで彼にも言ったのである。
「祖国殿、貴方にもお願いできるでしょうか」
「わかったぜ。俺も行くぜ」
「是非共。貴方とネルソンがいれば」
「ああ、日本を止めてみせるぜ」
 強い声でだ。イギリスはセーラに答えた。
「絶対にな」
「東洋は貴方達に任せました。そしてアフリカですが」
 ロンメル率いるドクツ軍及びイタリン軍と対峙しているだ。そこにもだというのだ。
「援軍を送りましょう」
「では私が」
 イギリス妹が応えてきた。
「モンゴメリー提督のところに向かいます」
「貴女が言ってくれますか」
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「スエズを失えばエイリスはその大動脈を失います」
 東洋、そしてアフリカの植民地の中心だ。まさにスエズはエイリスの第二の心臓なのだ。
 その心臓を失う訳にはいかない。それでだった。
「ですから。お願いしますね」
「ではその様に」
「日本とドクツの両方との戦闘になったらね」
 マリーがだ。溜息と共に言った。
「戦力が分散しちゃうのよね」
「それはわかっているんだけれどな」
 イギリスがぼやきながらマリーのその言葉に応える。
「仕方ないんだよ」
「植民地を守らないといけないから」
「そういうことさ。エイリスの植民地は広いからな」
「全部守らないとね」
「それだけエイリスの国力が落ちるんだよ」
「そうなるからだね」
「ああ、だから俺とネルソンさんで行って来るさ」
 イギリスは右の親指で自分自身を指差して言った。
「マリーさんは女王さんのところにいてくれよ」
「僕もね。ちょっとね」
「ちょっと。何だよ」
「東洋には祖国さんとネルソンさんが行ってね」
 まずは東洋から話す。
「それで北アフリカは妹さんとモンゴメリーさんよね」
「ああ、そうだよ」
「南アフリカ方面には誰もいないわね」
「今は戦場にはなっていないからな」
「あの辺りのことも考えていかないといけないよね」
「そうだが今は特に誰も行かなくていいさ」
 イギリスはこうマリーに告げた。
「あくまで今のところは、だけれどな」
「そうなのね」
「ああ。とにかく今は東洋と北アフリカだ」
 その二つの星域での戦いが大事だというのだ。
「ドクツの主力は確かに大人しくなったけれどな」
「あの連中またすぐに来ると思ったけれどね」
 エイリス、当然マリーもそう見ていた。だが、だったのだ。
 ドクツ軍はロンドンに攻めて来なかった。このことはエイリスには少し妙なことだった。
 だがここでだ。エルザがこう一同に言ってきた。
「ああ、多分ドクツはね」
「お母様、何か知ってるの?」
「ええ。レーティア=アドルフの著書に書いてあったけれど」
 それを読んでの話だというのだ。
「あの娘は東方にゲルマンの生存圏を確保するって言ってるわね」
「ドクツから見て東方っていうと」
「ええ、今はソビエトよ」
 かつてのロシア帝国、今はその国だというのだ。
「あの国への侵攻を考えているのでしょうね」
「えっ、ソビエトへの侵攻って」
 それを聞いてだ。マリーは思わず声をあげた。
「相当凄いことだけれど」
「そうね。ドクツにとってはね」
「だからなの。今ロンドンに来ないの」
「多分ドクツは今東方侵攻作戦の準備にかかっているわ」
 エルザはこう次娘に話す。
「それでそのうえで」
「ソビエト侵攻なのね」
「そう考えていると思うわ」
「ううん、何か凄いことになりそうね」 
 東方もだとだ。マリーは言った。
「けれどソビエトまで併合したらドクツ凄いことになるね」
「そうですね。ただ」
 ここでだ。イギリス妹がマリーにこう言った。
「ドクツとソビエト、両大国の正面からの全力での衝突です」
「両方共、なのね」
「唯では済みません」 
 両国共かなりのダメージを受けるというのだ。
「同じ連合国ですがやはり」
「そうよね。ソビエトはね」
「敵です」
 イギリス妹の言葉は今は極めて冷徹なものだった。
「共有主義は。私達にとって」
「僕達って資産主義だからね」
 そうなるのだった。エイリスもまた。
「私有財産もあれば資本家もいてね」
「むしろ資産主義が我が国からはじまりました」
「それに貴族制度もあるし」
「ソビエトにとって敵であることは間違いありません」
「僕達にとっても」
「だからこそ。ソビエトとドクツが争うならば」
「僕達にとって好都合ってことだね」
 マリーはイギリス妹の考えを完全に読み取っていた。そのうえでの言葉だった。
「そういうことだね」
「いささか以上に冷たい言葉でしょうが」
「けれどその通りだね」
「そうです。やはりソビエトは我々にとってドクツと同じく脅威です」
 イギリス妹はまた述べた。
「彼等が争うならばまさに二匹の獣が争うもの」
「争ってもらってそうして」
「生き残った方を倒すべきです」
「そうだね。それがいいよね」
 マリーもまた王族だ。それ故に政治というものに関わらなくてはならない。彼女はここでは政治的に考えそのうえで政治的に述べたのだった。
「じゃあ両国との戦いは見ているだけで」
「無論ソビエトにも援助はしない方がいいです」
 イギリス妹はこのことも進言した。
「その余裕があれば我々の力を回復させるべきです」
「うん。姉様、いえ陛下はどうお考えですか」
「はい、貴女の言う通りです」
 セーラはイギリス妹を見て述べた。
「どちらもエイリス、そして世界に対する脅威。それならば」
「共に戦わせますね」
「そうします。枢軸といってもです」 
 セーラは枢軸全体の話もした。
「イタリンは正直なところ」
「気にしなくていいかと」
「私もそう思います」
 イギリス妹だけでなくロレンスも答える。
「どうも憎めない相手ですが」
「敵としては気にしなくてもいいです」
「そうです。私もどうもイタリンは嫌いではありません」
 セーラもだ。敵とはいえイタリンには嫌悪も憎しみもなかった。
「ですから戦いの後でも」
「特に罰則を加えることもないでしょう」
「野心もありません」
「彼等にあるのは。おそらくは」 
 セーラは首を捻ってそのうえで述べた。
「楽しく過ごしたいというところでしょうか」
「ああ、イタリア自体弱いしな」
 イギリスも言う。
「愛嬌があって憎めないからな」
「はい、害はありません」
「味方ならば脅威ですが」
 ロレンスはここで身も蓋もないことを言ってしまった。
「むしろ敵で安心しています」
「おいロレンス、それは言い過ぎだろ」
「しかし実際に」
「だけれどな。連中はな」
「はい、味方にすると不安ですが」
「敵でもだよな」
「かえって心配になります」
 大丈夫かというのだ。彼等はここでポルコ族やイタリア達の能天気な顔を思い出した。
「妹さん達は強いですが」
「肝心のあの兄弟があれだからな」
「とりあえず気にしなくていいです」
「だよな。北アフリカでも敵はドクツ軍だからな」
 実質彼等が相手だった。
「イタリン軍はな」
「敵ではありませんね」
「正直いるだけだよ」
 イギリスから見てもそうだった。
「まあイタリンはいいさ」
「はい。問題はやはり」
「ドクツと日本だな」
「日本。極東の古い大国」
 今言ったのはネルソンだった。端整な声で言う。
「そして武士の国ですね」
「そうです。ではネルソン」
「我々も騎士としてですね」
「彼等と正々堂々と戦い勝利を収めて下さい」
 セーラも騎士だった。女王であるが彼女も騎士なのだ。
 だから騎士としてだ。こうネルソンに言うのだった。
「宜しいですね」
「騎士提督として恥じぬ戦いをしてみせます」
「エイリスが何故世界の盟主なのか」
 そのこともだ。セーラは強く意識していた。
 そしてその意識をあえて口にしてみせただ。周りにいる者達に告げたのである。
「それは誇りがあるからです」
「騎士の誇りね」
「ガメリカや中帝国には最初からありません」
 セーラは内心彼等のそのあまりにも実利的な面を嫌っているのだ。
「そしてソビエトにもです」
「ないな、確かに」
 イギリスもソビエトには騎士道はないと見ていた。
「あそこにもな」
「オフランスはありましたが」
 セーラの今の言葉は過去形だった。
「ですが今は」
「あるとすればですね」
「我が国だけです」
 セーラはネルソン達に言い切ってみせた。
「まさにです」
「そしてその騎士道で以て」
「武士を倒してくるのです」
「では」
 ネルソンはロレンスに一礼して出陣した。無論イギリスも一緒だ。
 そのネルソンとイギリスを見送ったのはロレンスだった。彼は親友と祖国に対して言った。
「では武運を」
「ロレンス、君は本国を頼む」
「そしてだな」
「女王陛下もお願いする」
「任せてくれ。私がいる限りは」
 ロレンスもだ。微笑んでネルソンに返す。
「ロンドンには指一本触れさせはしない」
「そして女王陛下にもだな」
「そうだ。何があろうともな」
「じゃあ頼んだぜ」
 イギリスは真剣な顔でロレンスに告げた。
「女王さんもな」
「わかっています。では祖国殿も」
「多分な。ベトナム辺りだな」
 イギリスはこの国を話に出した。
「あそこで戦うことになるな」
「そうですね。マレーはおそらくは」
 どうなるかとだ。ネルソンが話す。
「陥落するでしょう」
「そして四国とかもな」
「正直ある程度の侵攻は仕方がありません」
「後で取り返すしかないな」
「はい、そうです」
 まさにその通りだというのだ。
「ですがベトナムで勝ちそのうえで」
「一気に解放していくか」
「そうしましょう。エイリスの栄光を守りましょう」
「そうしないとな。正直戦争がなくてもな」
 イギリスは難しい顔になってこの国の名前を出した。
「ガメリカが大きくなってきてたからな」
「このままではガメリカに世界の盟主の座を奪われます」
「それがかかってるからな」
「はい、この戦争は勝ちましょう」
 ネルソンは強い声でイギリスに述べた。
「例え何があろうとも」
「ああ。けれどな」
「そうです。騎士としてです」
 勝敗以上にだった。ネルソンはそれを見ていた。
「正々堂々と戦いましょう」
「そうするか。日本とな」
「実は私は楽しみにしています」
「楽しみかよ」
「そうです。日本は武士の国です」
 紛れもなくだ。日本は武士の国だった。
「その武士と戦えること。何という誉れなのか」
「そうだな。私も羨ましい」
 ロレンスもだった。ネルソンの今の言葉に微笑んで言った。
「武士と正々堂々戦うことができるのだからな」
「悪いがこの誉れはだ」
「君が独占することになるな」
「そうだ。楽しませてもらってくる」
「では戦勝報告を待っている」
「俺も行くからな。日本は確かによくわからない奴だがな」
 イギリスから見てもだった。日本は掴みどころがなかった。
 だがそれでもだとだ。彼も言う。
「戦いじゃ正面から来る奴だからな」
「こちらもその正面からですね」
「ああ、迎え撃つぜ」
 こうした話をしてだった。彼等は艦に乗り込む。その時にだ。
 見送りのロレンスに敬礼した。そしてなのだった。
 それぞれの艦に乗り出陣した。その時にだ。
 イギリスはネルソンにだ。こう言ったのである。
「さて、少し時間がかかるな」
「そうですね。喜望峰経由ですが」
「スエズが使えたらすぐだったんだがな」
「ですが今は北アフリカを抑えられ」
「スエズが最前線だからな」
「残念ですが使えません」
「だからな。仕方ないな」
 イギリスは少し首を捻ってだ。モニターの向こうのネルソンに述べた。
「時間がかかるのはな」
「そうですね。それは」
「南アフリカを回るけれどな」
「あそこが何か」
「あそこの総督だけれどな。秘書がいるだろ」
「?そういえば」
 イギリスの話からだ。ネルソンはあることを思い出した。
「現地の。かなり奇麗な少女を」
「ああ、パルプナっていうんだけれどな」
「その娘が何か」
「どうもかなり酷い扱いをしているらしいんだよ」
「それ程ですか」
「みたいだな。秘書だっていうけれどな」
 公にはそうなっている。だがだというのだ。
「その実はな」
「奴隷ですか」
「そうした扱いらしいな」
「現地民への虐待は厳罰と定められていますが」
「俺もそれは守らせてるけれどな」
 少なくともイギリス自身もそうしたことは好んでいなかった。
「けれどな。中々な」
「植民地までは目が届かないですからね」
「結構見てきただろ、ネルソンさんも」
「はい」
 沈痛な顔になってだ。ネルソンは祖国の問いに答えた。
「そのことは」
「そうだな。何度も見たよな」
「貴族達の多くの植民地での行動は目に余ります」
「現地民をな。こき使ってな」
「そしてそれがです」
「ガメリカや中帝国のいい批判材料になってるしな」
 連合国内であるがエイリスと彼等の衝突材料は多いのだ。
「それに特にな」
「ソビエトですね」
「あいつ等が一番攻撃してくるな」
 当然ながらだ。ソビエトは植民地主義に反対している。カテーリンは口を極めてエイリスの植民地主義を批判し打倒しようと呼びかけているのだ。
 だからだ。イギリス自身も言うのだ。
「そんなのを許さない為にもな」
「そうです。彼等の横暴は許してはなりません」
「そうなんだがな」
「植民地にはとても」
「目が届かないんだよ」
「嘆かわしいことです」
「正直マレーとかベトナムでもあれだろ」
 どうかとだ。イギリスは言うのだった。
「貴族の連中が好き勝手やってるだろ」
「おそらくは」
「インドとかアラビアでもだよな」
「あの辺りは現地の企業がありますが」
「東インド会社だな」
「はい、あの企業が経営にあたっていますが」
「何か今は女社長だったな」
 イギリスはここで微妙な顔になりだ。こんなことを述べた。
「クリオネとかいったな。何度か会ってるけれどな」
「変わった方ですね」
「三十歳か?微妙な年頃だよな」
「まだ結婚されていないとか」
「ああ、そうみたいだな」
 何時しかだ。話題はその女社長の話題になっていた。
「切れ者みたいでな」
「結構抜けているそうですね」
「何なんだろうな、その社長」
「私もわかりません。ですがベトナムで敗れれば」
「インドまで来られるな」
「万が一インドを失えば」
 あの辺りの星域を全て失えばだというのだ。
「我が国は窮地に陥ります」
「エイリスの国力のかなりの部分があそこにあるからな」
「ですから。日本の進撃を止める為にも」
「ベトナムで勝ってマレーとかを奪回しないとな」
「その為にも」
 二人でこうした話をしてだった。エイリス軍のかなりの数が太平洋に向かった。太平洋での戦いにエイリスも本格的に加わろうとしていた。
 ソビエトは動かなかった。今のところは。
 カテーリンはミーシャとロシアにこんなことを言っていた。
「今はあれでいいの」
「日本との中立条約の維持」
「それでなんだね」
「そう。何かドクツの動きがおかしいし」
 カテーリンは直感的にこのことを察していた。
「だからよ」
「そうだね。それがいいね」
 ミーシャが最初にカテーリンに賛成した。
「ドクツも何時か攻め込んでくるだろうしね」
「そう。モスクワの守りを固めるわ」
「ロシア平原とかバルト三国はどうするの?」
「勿論守るけれど」
 だがだとだ。カテーリンはここで言った。
「ドクツ軍は強いから」
「守りきれないかもっていうのね」
「そう。だからいざとなったら撤退するの」
 軍はだ。そうさせるというのだ。
「モスクワを陥とされなかったらいいから」
「そうだね。僕の心臓だからね」
 今度はロシアが言う。
「このモスクワはね」
「そう。とはいってもね」
 ここでだ。カテーリンはこんなことも呟いた。
「このモスクワが陥落してもまだ」
「あの星域ね」
「あそこがあるっていうんだね」
「そう。私達だけが知ってるね」
 そうした星域があるというのだ。
「あそこがね」
「あそこを知ってる人って少ないけれどね」
「僕と妹と」
 ロシアが言う。
「それにカテーリンさんとミーシャさんと」
「ゲーペ先生だけだからね」
「あとあの博士だね」
 ロシアはこうミーシャに話す。
「本当に少ないよね」
「モスクワが陥落してもあそこがあるから」
 だからだとだ。カテーリンは言うのだった。
「何とかなるけれど」
「けれどモスクワは死守ね」
「そう。絶対に守るの」
 カテーリンは強い声と顔になっていた。
「ソビエトは皆の国だからドクツなんかに渡さないの」
「ドクツ軍が幾らに強くてもね」
「負けないから。それでその為には」
「あの大怪獣?」
「ニガヨモギはどうなの?」
 カテーリンはあの怪獣のことをだ。ミーシャとロシアに尋ねた。
「あの大怪獣は」
「さっき四国の諜報員から連絡があったよ」
 ミーシャがすぐに答えてきた。
「その娘の毛を手に入れられたらしいよ」
「そう。じゃあすぐにここに送ってもらって」
「ロリコフ博士にお渡ししてよね」
「クローンを造って」
 そうしてだというのだ。
「ニガヨモギを操ろう」
「それでドクツ軍にぶつけるのね」
「ドクツ軍がどんなに強くても勝てるから」
 大怪獣ならばだというのだ。
「だからすぐにクローン作ろう」
「そうだね。そうしよう」
「勿論軍もこのまま増強するから」
 通常艦隊もだというのだ。
「数よ。数は必要だから」
「僕も戦うからね」
「祖国君も頑張ってね」
 カテーリンは強い声でロシアに告げた。
「ドクツとの戦いに勝ってこそだから」
「そうだね。東欧を全部掌握して」
「太平洋を解放するから」
 ソビエトが次に向かう先はそこだというのだ。
「日本もガメリカも中帝国も全部懲らしめてやるんだから」
「カテーリンちゃん三国共嫌いなのね」
「大嫌いよ。全部間違ってるよ」
 カテーリンは強い声で言った。
「帝とか資産主義とか財閥とか」
「そうよね。一人だけが偉いとかお金持ちだとか」
「そんなの間違ってるんだから」
 カテーリンの目から見ればそうだった。
「だから絶対にだよ」
「三国共やっつけて」
「太平洋にも共有主義を広めるの」
「エイリスはその後?」
「うん、植民地も解放よ」
 その時になってだというのだ。
「最後になるよ」
「それでセーラ=ブリテンもなのね」
「学校で再教育よ。立たせてあげるんだから」
 罰も与えるというのだ。
「植民地の皆苦しんでるのよ。一人だけ優雅にお茶飲んで遊んでるって酷いよ」
「そうだよね。だから共有主義がいいんだよね」
「共有主義は皆同じにするの」 
 カテーリンの中ではそうしたものだった。
「皆が幸せになる社会なんだよ」
「じゃあその実現の為にね」
「うん、戦うの」 
 そして勝つというのだ。
「この戦争に。最後に勝つのはソビエトなんだから」
「僕もね。皆がお家に入ってくれるとね」
 ロシアは素朴な笑みでカテーリンに話した。
「嬉しいからね」
「祖国はクラス委員よ」
「国家のクラスの?」
「そうだよ。頑張ってね」
「うん、僕頑張るよ」
 ここでもだ。ロシアの笑みは素朴だった。
「幸せになる為にね」
「そう。皆幸せにならないと駄目なの」
 カテーリンは自分の学校の生徒の机から言った。
「一人だけ幸せになるとかいけないの」
「うん、そうだよね」
「その通りだよ」
 ミーシャとロシアもカテーリンのその言葉に笑顔で頷く。二人はカテーリンの最高の理解者達だった。その彼等が自分の言葉に頷いたのを見てだ。
 カテーリンは再びだ。こう言ったのである。
「じゃあ今日もね」
「うん、赤本の朗読だね」
「その時間になったね」
「皆で読もう」
 カテーリン一人でなくだ。三人でだというのだ。
「そうしてお互いに勉強し合おう」
「そうだね。それじゃあね」
「三人でそうしようね」 
 三人は赤本を出して読み合う。共有主義の素晴しさを読書でも認識し合おうとしていた。三人にとっては今のこの時間こそが家族の時間だった。
 オフランスは平和だった。本土がなくなろうとも。
 マダガスカルでだ。フランスはビルメの話を聞いていた。
「あんたが今のあたし達の祖国だからね」
「ああ、それでだっていうんだな」
「ちょっと言いたいことがあるよ」
「あの人のことだよな」
「悪い娘じゃないね」
 ビルメもそのことはわかった。
「むしろかなりいい娘だね」
「そうなんだよな。性格は凄くいいんだよな」
「しかも祖国さんの教えることもちゃんと頭に入れてくれてるね」
「筋はいいぜ。政治も軍事もな」
「だよね。けれどね」
「言いたいことはわかってるさ。世間ずれしてるっていうんだな」
「ちょっと以上に過ぎないかい?」
 世間知らずだというのだ。彼女が。
「そこが気になるんだけれどね」
「まあな。あれで二十四だけれどな」
「二十四までずっとお嬢様、いやお姫様育ちだったんだね」
「四女さんだったしな。前の王様のな」
 王位継承権はないに等しい。まさに純粋なお姫様だったのだ。
「だから本当にのどかに育てられたからな」
「それでああした娘になったんだね」
「そうなんだよ。ちょっと国家元首としてはな」
「とりわけ今はだね」
「まずいっていうんだな」
「おっとりし過ぎだね」
 とにかくだ。そこがシャルロットの問題点だというのだ。
「とにかく殺伐としたご時世だからね」
「俺としちゃやっぱりな」
「あんたの本土を回復したいね」
「身体全部ドクツに占領されてるからな」
 それがフランスの実情だった。その結果連合の五人の中でも最も立場が悪くなっている。
「どうしたものだよ」
「マジノ線突破されたからね」
「あれもな。どうして突破されたのかまだわからないんだよ」
「あたしが見てもあれは突破できないだろ」
「だろ?けれど急に要塞が攻撃されてな」
 その結果だったのだ。
「あの様だからな」
「ドクツの新兵器かね」
「だろうけれど何をやったんだが」
「で、今ここにいるってことだね」
「洒落になってないんだよな。本当に」
 フランスの言葉はぼやきになっていた。共に外の席に座りコーヒーを飲んでいるがそのコーヒーも美味くは感じられなかった。舌とは別の味覚によって。
「どうしたものだよ」
「で、日本帝国からも宣戦布告されたよ」
「日本な」
「ここにも来ると思うかい?」
「流石に来ないだろ」
 フランスは遠い東洋のことだとだ。この時点では思っていた。
 それでだ。こうビルメに答えたのである。
「どうせガメリカかエイリスの反撃を受けて終わりさ」
「だろうね。けど万が一にだよ」
「ここまで来た時はだな」
「その時は軍の統制に注意するんだね」
「今軍も結構たるんでるしな」
 これが実情だった。オフランス軍の。
「逃げてきてそっから一度も戦ってないからな」
「訓練もあまりしてないだろ」
「シャルロットさんに艦隊指揮は教えてるさ」
「あの娘の直属艦隊とあんたや妹さんの艦隊以外はどうだい?」
「いや、碌にな」
 こうビルメに答える。コーヒーを手にして彼の話を聞く彼女に。
「セーシェルも遊んでばかりだしな」
「あの娘は前からああだよ」
「そうだよ。あんたも知ってるだろ」
「昔から俺とイギリスが可愛がってきてな。何でもしてやってな」
「甘やかしてたんだね」
「それもあってな」
 その結果だ。セーシェルも遊び人気質、ただし野性的なそれになったというのだ。
「まあ。ちょっとな」
「あんた結構甘いところがあるからね」
「随分率直に言ってくれるな」
「あたしの性分だよ」
 ビルメは悪びれずそのアライグマそっくりの顔で返す。
「気に障ったら悪いね」
「別にいいさ。連合国の他の奴等はもっと言ってくれるからな」
「あんたも結構大変だね」
「負けてるとこんなものさ。とにかく日本が来たらか」
「ドクツもスエズを占領したらここまで来るかもね」
「その時将兵が騒いだら俺が止めるさ」
 祖国である彼がだというのだ。
「暴動なんか起こさせないから安心してくれ」
「流石に祖国のあんたが出ると誰も何も言わないからね」
「で、いざとなったらな」
「どうするんだい?」
「正直今の俺達の軍じゃ日本にもドクツにも勝てない」
 実にありのままだった。フランスは自国の軍の戦力を分析していた。
「イタリンには勝てるがな」
「あの国に勝てないとなると冗談抜きでやばいね」
「降伏するしかない」
「で、降伏する時には誰が出るんだい?」
「ビジー司令官じゃ駄目だよな」
「あのおっさん逃げるよ」
 あっさりとだ。ビルメはビジーはそうした人間だとフランスに告げた。
「結構責任転嫁するタイプだよ、あれは」
「だろうな。となるとな」
「シャルロットさんしかいねえな」
「あの娘に出てもらうかい?」
「降伏文書にサインするだけだけれどな」
「嫌な役目だよ、自分の国の降伏文書に国家元首としてサインするのは」
 ビルメは何処かシャルロットに同情して述べた。
「あたしがやってくれって言われてもね」
「嫌だよな」
「あんた今まで負けまくってるからわかるね」
 またしてもだ。ビルメはフランスにずけずけと言いにくいことを言ってみせた。
「負けた側で講和のテーブルに着いてサインするのは」
「ああ。何度も何度もイギリスなりドイツなりオーストリアに負けてきたさ」
 フランスはここではうんざりとなった顔でビルメに答える。
「いちいち数えきれない位にな」
「スペインにも負けてるね」
「前の戦争じゃ勝ったにしろ殴られまくったさ」
 ドイツにだ。フランスはやられっぱなしだったのだ。
「だから知ってるさ。その屈辱はな」
「それをあの娘に背負わさせないといけないんだよ」
「辛いな。俺がサインするか、それなら」
「そうするかい?」
「まあ考えておくさ。俺はもう慣れてるからな」
 嫌でも慣れていた。それだけ過去に負けてきたということでもある。
「戦争やって負けた方がずっと多いのは伊達じゃねえぜ」
「それ自分で言って楽しいかい?」
「楽しい筈ないだろ」
 フランスはまたうんざりとした感じの顔になってビルメに答える。暗い顔で目が白くなっている。
「いつも自信満々で向かってボロ負けしてるんだぞ」
「ボナパルトの旦那も最後は負けたしね」
「あの時はいけると思ったんだがな」
「まあとにかく経験にはなってるね」
「ああ、降伏のサインならできるさ」
 フランスは確かな顔に戻ってビルメに答えた。
「じゃあその時はな」
「ないことを祈るけれどね」
 こうした話を二人でしていた。そこにだ。
 シャルロットが来てだ。こう二人に言ってきたのだ。
「あの、ビルメさん」
「何だい?」
「よければですか」
 やはり世間知らずで穏やかな感じでだ。シャルロットは言う。
「これから読書でもしませんか?」
「読書?」
「はい、詩の朗読なぞを」
 彼女をそれに誘ってきたのだ。
「祖国殿や他の方々と共に」
「詩ねえ」
 ビルメはシャルロットのその誘いにまずは首を傾げさせた。
 だが彼女の目を見て悪意なぞ全くないことを見てだ。こう言ったのだった。
「別にいいけれどね」
「いいんですね」
「ああ。けれど詩ね」
「はい、オフランスの詩です」
「あたしでいいならいいよ」
 詩なぞ読んだこともないがだ。誘いが来ればだった。
 特に断る理由もないのでだ。ビルメは受けることにした。しかしだ。
 何気にフランスを見てだ。目で尋ねた。フランスもだ。
 目でここはシャルロットさんと一緒に読んでくれと言われてだ。それで頷くのだった。
 それからシャルロットにあらためて言ったのである。
「で、どういった人の詩だい?」
「ランボーです」
「映画の主人公じゃないよね」
「そうした映画もあるのですか」
「ガメリカ映画だけれどね」
「ガメリカ映画は暴力的で野蛮とのことですので」
 シャルロットは少し困った顔になってビルメに話す。
「爺やに見せてもらってないのですが」
「そうなのかい」
「はい。それでそのランボーの詩ですが」
「何処で読むんだい?」
「今日はお天気がいいので外でどうでしょうか」
「わかったよ。じゃあ祖国さんやセーシェルさんも呼んでね」
「読みましょう」
 邪気のない笑顔で応えたシャルロットだった。そうして。
 ビルメはシャルロットの詩の朗読に同席して彼女も読むことになった。その朗読の場に向かう途中にだ。
 共にいるフランスにだ。そっと囁いたのだった。
「やっぱりね。どうもね」
「世間知らずだっていうんだな」
「天然っていうか。ちょっとね」
「まあやることはやってくれてるからな」
「あんたのフォローもあってだね」
「目を瞑るところは瞑ってくれよ」
「悪気も偏見もないからそうするけれどね」
 ビルメが言うとだ。フランスも言う。
「それで頼むな」
「ああ、そうするよ」
 二人はそんな話をした。オフランスは今は穏やかだがそれでも話すことは話していた。やはり彼等も今の大きな戦争の中に存在しているのだ。


TURN34   完


                         2012・6・17



穏やかな状況もあるみたいだけれど。
美姫 「やっぱり戦乱だものね。気は全く抜けないわね」
だな。にしても、日本の包囲網が。
美姫 「まあ、協力し合っているのが中帝国とガメリカだけなのが救いよね」
流石に連携取られたら完全に四面楚歌だものな。
美姫 「今もあまり変わらないけれどね」
あちこちから攻められる状況はかなり厳しいな。
美姫 「ここをどう乗り切るかね」
さてさて、どうするのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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