『ヘタリア大帝国』




                          TURN33  マニラ攻撃

 日本は一旦だ。東郷と秋山に対してモニターから話した。
「では今から言ってきます」
「ああ、頼む」
「宜しくお願いします」
 二人がこう応えてだ。そのうえで日本を見送った。
 日本はガメリカへの宣戦布告に向かった。それを見届けてからだ。
 東郷は少し捻る顔になってこう秋山に言った。
「祖国さんが戻ってくればいよいよだが」
「何かあるのですか?」
「いや、何かおかしい感じがする」
 こう言うのだった、
「出撃の時から感じていたが」
「?といいますと」
「長門の通信士の娘だが」
「あの娘にも手を出されていましたね」 
 東郷の艶福はここでもだった。
「そういえば」
「出撃からあの娘の部屋には行ってないが」
「そういう問題ではありません。ですが」
「そうだ。あの娘は少食だった」
 東郷はこのことを言うのだった。
「しかし最近自分の部屋に食べ物を持っていく」
「少食である筈なのに」
「食堂でも残す位だったのに何故だ」
「急に食欲が出て来たということは」
「それなら食堂で話す筈だ」
 東郷はこう指摘する。
「違うか、それは」
「言われてみればそれは」
「そうだな。ではだ」
「通信士の部屋に誰かいるのでしょうか」
「少し調べてみるか」
 日本が宣戦布告に向かっている僅かな間にだった。東郷は司令官であるが故に指揮にあたらねばならず艦橋を離れることができない。秋山もだ。
 それで士官の一人がそっと通信士の部屋に行きすぐに戻って来た。するとだった。
 真希が連れて来られていた。流石にこれにはだった。
 東郷も言葉を失う。そして秋山はというと。
「何故こうなるんですか!?」
「やはりそう言ったか」
 秋山のその言葉に東郷も引く。
「予想通りだな」
「あの、私に言うんですか」
「そうだ。まあ流石に俺も驚いているがな」
 とはいっても物腰は変わっていない東郷だった。
「しかし真希、どうしてなんだ?」
「御免なさい、どうしてもお父さんが気になって」
 真希は小さくなって父に答える。
「それでつい」
「通信士はこのことを知ってたのか?」
「最初は知らなかったの。真希はただ長門に潜り込んで」
 いてもたってもいられずだ。計画性もなくそうしたというのだ。
「それでなの」
「そうか。それで通信士に見つかってか」
「真希が悪いの。あの人は悪くないの」
 真希はこのことを必死に父に訴える。
「御免なさい、本当に」
「全く。普段はいい娘なのにな」
 東郷は怒らなかった。やれやれといった顔だった。
 そしてその顔でだ。こう言ったのだった。
「我儘というかこれは」
「長官のことが本当に心配だったのですね」
「そうだな。怒っても仕方ない」
 怒らないことをだ。東郷はここで言った。
「できればこうしたことは勘弁して欲しいがな」
「子供を戦場に立たせることはですね」
「そういうことは好きじゃない」
 これは東郷の考えだ。
「だからだが。こうなってはな」
「どうされますか、それで」
「今更退艦させる訳にもいかない」
 現実だった。それが。
「それなら今はな」
「このまま戦闘に入りますか」
「祖国さんが戻ればすぐにだ」
「はい、即座に」
「戦闘に入る。真希はだ」
 また娘を見てだ。東郷は言う。
「安全な場所に避難してくれ。いや」
「いや?」
「気が変わった。本来は駄目だが今回は特別だ」
 こう言ってだった。東郷は娘にあらためてこう言ったのだった。
「艦橋でお父さんの仕事を見ておくんだ」
「そうしていいの?」
「今回だけだぞ」
 娘にも優しい父だった。
「真希はいい娘だから特別だ」
「有り難う、お父さん」
「さて。ではだ」
 東郷は仕事をする顔になって秋山に告げた。
「これからのことだがな」
「祖国殿が戻ればすぐにですね」
「その頃には攻撃範囲に入っている」
 計算通りだった。ここまでも。
「予定通りいこう」
「ではこのまま」
 こうした話もした。真希が来ていたことがわかったというアクシデントもあったがそれでもそのことは置いておいてだ。そうしてであった。
 その日本が戻って来た。彼はモニターから東郷と秋山に言う。
「宣戦布告、終えました」
「よし、わかった」
「では」
「いよいよですね」
 日本も真剣な顔で二人に述べる。
「ガメリカ共和国との開戦ですね」
「そうだ。そしてエイリスとな」
「運命のはじまりですね。ですが」
 日本もだ。ここで気付いたのだった。
「真希さんがおられるのですか」
「祖国さんも気付かなかったみたいだな」
「流石に。これは」
 想定もしていなかったとだ。日本はモニターの向こうから東郷に答える。
「ですが今となっては仕方ないですね」
「御免なさい、祖国さん」
「いえ、もうお話は済んでいますね」 
 東郷は落ち着いた声で真希に返した。
「なら私から言うことはありません」
「本来なら怒るところだがな」
 だが、だとだ。東郷もここで言う。
「俺のことを思ってそれにだ」
「それにですね」
「こうなっては仕方がない」
 東郷の今の判断には真希の普段のことも念頭にあった。
「ここは是非な」
「そうですね。ここはですね」
「このまま攻撃開始だ。攻撃目標はガメリカ太平洋艦隊及びフィリピン軍だ」
 ガメリカ軍だけではなかった。主な相手は。
「一気に決めよう」
「では」
 日本は東郷に敬礼で応えた。そうしてだった。
 彼等は静かに攻撃態勢に入った。だがその時まだだった。
 ガメリカ軍もフィリピン軍もバカンス中だった。しかしだった。
 ダグラスは艦隊に結構な割合の士官を置いていた。無論下士官や兵士もだ。
 そのうえで連絡態勢を整えていた。その彼にだ。
 フィリピンと紫の長い、波がかった髪にガメリカ人のそれとは明らかに違った顔立ち、目が大きくはっきりとしていて睫毛が長い紫の目だ。
 それに褐色の肌をしている。ガメリカ軍の軍服に身を包んでいる彼女もいた。その彼女も見てダグラスはエンタープライズの艦橋から言った。
「ララー=マニィ少将、君もか」
「うん、私も今日は当直だからね」
「それでこうして一緒にね」
 フィリピンも言ってくる。二人はそれぞれの乗艦からモニターでダグラスに話す。
「ダグラスさんと話をしに来たんだ」
「それでアメリカさんは?」
「祖国さんはホワイトハウスさ」
 ダグラスは司令官の席にで脚を投げ出して座っている。その姿勢で二人に話す。
「丁度今日本の爺さんから宣戦布告を聞いている頃だな」
「日本の爺さんって」
「あの人実はかなりの高齢だろ。だから爺さんさ」
 ダグラスは笑って日本が実は高齢であることを話した。
「まあそれを言えば祖国さんも爺さんと同じ原始の八国だから同じになるがな」
「それを言ったらちょっとね」
「ははは、まあ国家の年齢なんて言ったらきりがないな」
 ダグラスは笑ったままフィリピンに返す。その背の壁にはガメリカの国旗がかけられている。その国旗を背にしての言葉だった。
「とりあえず日本から宣戦布告を受け取ったさ。後は」
「うん、アメリカさんが戻ってね」
「そのうえでよね」
「さて、絶対にな」
 ダグラスの目がここで光った。
「バカンスは中止になる。臨戦態勢に突入だ」
「うん、アメリカさんはそれを伝えてくるね」
「そうなるよね」
「今のうちに出しておくか」
 直感的にだ。ダグラスは何かを感じ取っていた。
 そのうえでだ。こう言ったのである。
「スクランブルをな。キャシーも呼び戻そう」
「それはちょっと早いんじゃないかな」
「いや、やるとわかっていることは先にやっておいた方がいい」
「脚本を覚えるのと同じで?」
「まあそんなところだな」  
 彼の過去の経歴を入れて言ってきたフィリピンにだ。ダグラスはこう返した。
「それはな」
「先に先にだね」
「中帝国の言葉だったな」 
 ダグラスはカレッジで学んだ言葉をここで出した。
「先んずれば人を制す、だな」
「ああ、中帝国の昔の人が言った」
「項羽だったな」
 中帝国の歴史にその名を残す英雄の一人だ。圧倒的な武勇で知られている。
「やるべきことは先に先にやってな」
「空いた時間でさらにだね」
「何かをする。そうしてこそだからな」
「映画スターイーグル=ダグラスは努力家なんだね」
「何かをしないとガメリカは成功しない社会だからな」
 ガメリカンドリームは才能と努力、それに運で掴み取るものだからだ。
「それでだ。俺はいつもそうしてきた」
「そして太平洋艦隊司令長官にもなったというのかな」
「その通りだ。じゃあフィリピンさんの方はな」
「うん、備えておくよ」 
 こうダグラスに答える。
「今のうちにね」
「頼むな。じゃあキャシーも呼び戻してな」
 こうした話をして備えに入ろうとしていた。しかしだった。
 ダグラスはマニラ全体をエンタープライズのモニターに映してだ。艦橋にいる部下達に言った。
「ガメリカの国家戦略はわかっていてもな」
「わざと負けることはですね」
「そのことはですか」
「ああ、好きになれないな」
 彼の性格的にだった。それは無理だった。
「一気に勝ちたいところだな」
「しかしこのままではエイリスの植民地はそのままです」
「彼等の解放はありません」
「日本がエイリスの植民地を手に入れればな」
「そこで我々が反撃に出てその植民地を『解放』し」
「そしてその国々の独立を承認します」
 つまり先に手を出させてそれからだというのだ。
「そのうえで日本自体も叩く」
「それから中帝国と共に太平洋経済圏の構築ですね」
「戦略としてはいい」
 ダグラスが見てもだった。それは。
「むしろそれしかない位だ」
「しかしですか」
「やはり一旦負けるというのは」
「それは」
「フィリピンさんもハワイに入ってもらうがな」
 こうした意味でガメリカとフィリピンは一心同体だった。兄弟国と言っていい。
「とりあえず負けるのは癪に触る」
「ですか。計画通りとはいえ」
「そのことは」
「しかし精々ここじゃ戦ってやるさ」
 敗れるにしてもだ。そうするというのだ。
「撤退の準備もしておこう」
「はい、では惑星の基地の人員や物資もですね」
「今のうちに」
「人員は絶対に連れて行く」
 撤退するならだ。それは当然だというのだ。
「物資もできるだけだ」
「ハワイに持って行きますか」
「可能な限り」
「そうする。日本帝国に渡す義理はないからな」
 こう話してだ。ダグラスはアメリカの帰還の直前にバカンスの中止を宣告して戦闘態勢と撤収準備の同時に取り掛かりだした。その指示を出してからだ。
 一時間程度してアメリカが戻ってきた。彼は既に物々しい感じになっているエンタープライズの艦橋をモニターから見ながらこう言った。
「ああ、もうなんだ」
「先にはじめさせてもらっている」
「戦闘と撤退の用意だな」
「撤退の方針はもう決まっているからな」
 だからだとだ。ダグラスはアメリカに話す。
「今のうちにはじめさせてもらった」
「わかった。それならな」
「祖国さんも取り掛かってくれ」
「了解だ。ところでだ」
 ここでだ。アメリカは彼の本題を述べた。
「ホワイトハウスで受け取ったぞ」
「日本からだな」
「日本自身が来て宣戦布告をしてきた」
 そうしてきたというのだ。
「我が国と日本帝国は戦争状態に突入したぞ」
「予想通りだな。先に進めておいて正解だった」
 戦闘、そして撤退の準備をだというのだ。
「日本軍は今にも横須賀、呉の港から出撃する」
「その日本軍との戦いだな」
「さて、じっくりと用意を整えて迎え撃つか」
 そしてきりのいいところで撤退する、ダグラスはこう考えていた。
 しかしだった。こうした話をする彼等のところにだ。一つの報告が入った。
「長官、祖国さん宜しいでしょうか」
「ああ、何だ?」
「何かあったのかい?」
「日本軍がです」 
 報告をしてきたのはガメリカ軍の提督の一人だった。マニラの外縁を哨戒している艦隊だ。
 その艦隊を指揮する提督がだ。こう言ってきたのだ。
「来ました」
「そうか、横須賀や呉から出撃してきたか」
「遂にだな」
「いえ、違います」
 提督はダグラスもアメリカも予想しない返答で応えた。
「今目の前に来ています」
「何っ!?」
「まさか」
 ダグラスは驚いた。咥えていた煙草を思わず落としそうになった。
「このマニラにか」
「もう来ているのか?」
「そうです」
 提督の顔が蒼白になっていた。見れば。
「そして今我が艦隊は攻撃を受けています」
「くっ、やられたな!」
 ここまで聞いてだ。ダグラスはすぐにだった。
 状況を悟った。そしてこう言ったのだった。
「日本軍は宣戦布告の直後に攻撃を仕掛けるつもりだった!」
「そうか。だから日本が宣戦布告をしてきたのか」
「ああ、国家は領内、艦艇や大使館の中も含めて自分の国の中なら瞬時に何処でも行けるからな」 
 これが国家の特殊能力の一つだ。
「考えたものだな、日本もな」
「はい、それでなのですが」
「わかっている。キャシーは乗艦に入ったか?」
「今こちらに急行されています」
 キャシーの艦隊の副司令官がモニターに出て来て答える。
「先程司令の携帯から連絡がありました」
「クリスはソロモン、いやラバウルと言っていいか」
 その星域の名前は一つではなかった。
「そこにいてか」
「イザベラはハワイだぞ」
 アメリカはイザベラの率いる艦隊の駐留場所を話した。
「そうなっているぞ」
「そうだな。それぞれの艦隊を分散配置させている」
 ダグラスはガメリカのその状況も言った。
「あまりいい配置じゃないがな」
「しかしハワイから反撃するにはいいな」
「ああ、それぞれの星域に然るべき提督を置き撤退戦の指揮にあたらせる」
 ダグラスは強い、鋭い目になりアメリカに答える形で述べた。
「そうして撤退戦を出来る限り無傷で行わせ」
「ハワイに入るんだな」
「ハワイさえあれば反撃は容易だ」
 ガメリカにとってまさにハワイが重要拠点だった。太平洋最大の軍事拠点なのだ。
「そこまで退く」
「よし、それじゃあそうしよう」
「撤退を急がせろ!」
 ダグラスはあらためて指示を出した。
「出撃できる艦隊は出撃しろ!敵の動きを食い止めて撤退の援護をしろ!」
「よし、今から!」
「行くね!」
 フィリピンとララーが出た。彼等の艦隊が出撃する。
 しかしここでだ。二人はこう言うのだった。
「ただ。急な出撃で奸智絵の整備も不充分だからね」
「艦載機とビームは使えないわよ」
「何っ、駐留艦隊全体がか!?」
 これにはさしものダグラスも驚きを見せる。
「ちっ、何でそうなったんだ」
「ううん、何しろ敵の先制攻撃が宣戦布告直後と思ってなかったから」
「コンピューターのコントロールにもかけてないのよ」
「勿論攻撃要員や整備要員の配備も不充分だよ」
「ミサイルとか鉄鋼弾は何とかなるけれど」
「参ったな。まずは殴られ放題か」
 ダグラスはフィリピンとララーの話を聞いて苦い顔になる。
「洒落にならないな」
「しかしやるしかないぞ」
 そのダグラスにアメリカが言う。
「皆を撤退させようと思うんならな」
「ああ、数だけはこっちが勝ってる筈だ」
 ガメリカ軍とフィリピン軍を合わせて五十個艦隊だ。それだけの艦隊が駐留している。
「だが艦載機だけ、ビームだけの艦隊はな」
「そうした艦隊はだな」
「的になるだけだ。早くハワイに逃げろ」 
 撤退しろ、そう言うのだった。
「とりあえず戦える艦隊だけが出る」
「わかった、じゃあそうしよう」
「さて、キャシーが戻ればな」
 その時にだ。どうするかというのだ。
「反撃だ。ああ、あんたはな」
「はい」
 その哨戒に出ていて日本軍を発見した提督にも言う。提督もそれに答える。
「ビームだけか?艦隊の兵器は」
「いえ、駆逐艦で主に編成されているので」
「鉄鋼弾での攻撃もできるか」
「とりあえずは」
「しかし駆逐艦だとな」
 どうかというのだ。それだとだ。
「耐久力が低い。今攻めてもやられるだけだ」
「では」
「一旦退け。艦隊を集結させる」
 戦える艦隊をだ。そうするというのだ。
「わかったな。それじゃあな」
「了解しました。それでは」
 こう話してだ。そのうえでだった。
 ガメリカ軍は大急ぎで出撃して戦えない者達を何とか撤退させる。即座にだ。
 ガメリカ軍の動きは急に慌しくなった。その中でだ。
 キャシーは自分の旗艦の艦橋に入った。しかしその服装はというと。
 軍服ではなかった。あの上に羽織っただけのものですらだ。今の格好はというと。
 黒のワンピース、胸と腰のところがかろうじて一枚でつながっているだけのビキニよりも露出が多いのではないかという水着姿だった。身体のラインも露わだ。
 しかもその足にはサンダルだ。完全に今までビーチにいた格好だった。その格好の彼女を見てだ。 
 艦橋のスタッフ達も驚きながらだ。こう彼女に言った。
「あの司令、せめて」
「ああ、軍服位っていうんだろ」
「はい、そうですここは」
 こう言うのだった。
「せめて上だけでも」
「わかってるさ。じゃあな」
 キャシーは早速司令の椅子にかけてあった軍服の上着を羽織った。そうして。
 持っていた半ズボンもはいてだ。何とか普段に近い格好になってから言うのだった。
「バトルだな。楽しむぜ」
「しかしそれでもです」
「今の我が軍は艦載機とビームが使えません」
「そして敵はおそらくその両方を使えます」
「魚からのものにしても」
「ちっ、整備やコントロールが間に合わないんだね」
 このことはキャシーもすぐに察した。伊達に提督ではない。
「それじゃあね」
「はい、それではですね」
「ミサイルや鉄鋼弾で戦いますか」
「そうするしかないね。じゃあやるよ!」
 キャシーは不利な状況でも威勢がよかった。その威勢でだ。
 彼女も出撃した。そのうえで日本軍と対峙した。しかしだ。
 数は少なかった。その数は。
「四十個艦隊というところですね」
「そうだな」
 東郷が秋山の言葉に応える。彼等は出撃してマニラ星域の前面に展開しているガメリカ、フィリピン連合軍を見て言った。その日本軍はというと。
「それに対して我々は十八個艦隊」
「敵の二倍以下ですね」
「しかしだ。敵は艦載機もビームも使えない」
 このことが大きかった。彼等にとっても。
「まずはミサイルと鉄鋼弾を主に使う敵艦を攻撃する」
「はい、そうしましょう」
「さて。敵は撤退を急いでいるな」
 見れば日本軍の前面に展開しているガメリカ、フィリピン連合軍の後方からはだ。どうかというと。
 艦隊での戦闘ができない部隊や艦載機、ビームのみの艦艇が戦場を離脱していっていた。マニラからハワイに向けて退いていた。
 それも見てだ。東郷は言うのだった。
「かなりの物資が逃げている」
「あの物資がハワイに向かえば」
「ハワイからの反撃が激しくなる」
 その物資を使ってだ。このことは容易に想像できたし言えた。
「少し叩いておくか」
「ですが司令、今は」
「要は前にいるガメリカ軍とフィリピン軍を叩くことだ」
「そのうえで、ですか」
「あの撤退する部隊も叩いておく」 
 これがここでの東郷の狙いだった。
「わかったな。それではな」
「わかりました。それでは」
 こうしてだった。日本軍は二倍以上だが慌しく動きしかも攻撃に制限がある連合軍に突撃を仕掛けた。そうしてだった。
 ガメリカ軍、フィリピン軍のミサイル巡洋艦や駆逐艦を集中的に攻撃を浴びせた。それにより。
 まずはそうした艦艇から炎に包まれる。艦艇が次々と破壊されていく。
 それを見てだ。ダグラスは忌々しげに呟いた。
「予想通りだがな」
「そうだな。これはな」
 アメリカが彼のその話に応える。ダグラスは旗艦エンタープライズにいる。
 アメリカは己の乗艦であるアメリカにいる。国家はそのままの名前の艦艇に乗っている。
「仕方がない。けれどだ」
「ミサイル攻撃用意!」
 残っている艦隊でだ。そうしろというのだ。
「いいな、やられっぱなしでいるな!」
「了解!」
「わかってます!」
 ガメリカ軍の将兵達は強い言葉で返す。そうしてだった。
 ミサイル、鉄鋼弾の攻撃にかかろうとそうした艦艇を前に出す。とりわけだった。
 駆逐艦で一撃を浴びせようとしていた。ダグラスは敵のビーム攻撃が終わったところで鋭い目になり日本軍の艦隊、魚の多いそれを見て呟いた。
「じゃあやってやるか」
「今から行くね」
「仕返しをしてやるさ」
 ララーとキャシーがモニターからダグラスに言う。
「数じゃまだまだこっちの方が多いし」
「ここは思いきりぶん殴ってやるか」
「ああ、特にな」
 ダグラスは今度はミサイル攻撃に入る日本軍を見ていた。その中でもだ。
 彼ははっきりと識別していた。軍の先頭に立って戦う敵の旗艦長門をだ。その目に見ていた。
 それでだ。こうララーとキャシーに言ったのである。
「ミサイルであの戦艦を沈める」
「あれは・・・・・・長門ね」
 ララーもその艦は知っていた。既に太平洋で最も有名な艦のうちの一隻になっていた。
 その艦を見てだ。それでだった。
 ララーは己の艦艇を動かす。そのうえでミサイルの照準を合わせた。キャシーもそれに続く。
 ダグラスもだ。ミサイル攻撃はだった。
「敵の司令官の直率する艦隊に攻撃を集中させろ!」
「それでまずは頭を潰してだね」
「そうなれば敵の指揮系統に混乱が生じる」
 そうなればだとだ。ダグラスは今度はフィリピンに話した。
「そしてそのうえでだ」
「そうだね。今度は鉄鋼弾で敵艦隊に攻撃を仕掛けて」
「敵にできる限りのダメージを与えてな」
 そしてだというのだ。
「今は撤退する。戦略通りな」
「わかったよ。じゃあね」
「いいか、撤退は急げ!」
 ダグラスはマニラからハワイに撤退する部隊も見ていた。
「鉄鋼弾の総攻撃を浴びせてから撤退するからな」
「撤退の状況は何とか順調だぞ」
 アメリカもその撤退する部隊を見て言う。
「間に合いそうだ」
「ああ、何とかな」
 ダグラスもそれを見続けている。
「しかし人員はともかくな。持ち出せない物資も多いな」
「それは仕方ないな」
 アメリカはここではダグラスの忌々しい感じの言葉に述べた。
「何しろ急な攻撃だからな」
「わかっている。残念だが日本帝国にくれてやる」
 かなりの量の物資を置いておかねばならないのも事実だ。だからこそだった。
 ダグラスは口惜しかった。しかしそれは仕方がなかった。
 そうした物資は置いていくことにしてだ。人員の撤退を最優先させたのだ。
「フィリピン軍も逃げろ!ハワイまでな!」
「悪いね、僕達もなんて」
「あんた達はガメリカの友人だからな」
 こうフィリピンにも話す。
「気にするな。とにかく逃げるんだ」
「じゃあまずはミサイルでね」
 またララーが言ってきた。
「敵の司令官の艦隊を旗艦ごと潰すね」
「ああ、やってくれ」
 ダグラスも応えた。そうしてだった。
 ガメリカ、フィリピン軍は東郷が直率するその艦隊、特に長門にミサイルの集中攻撃を浴びせた。これにはさしもの東郷もかわしきれなかった。
「司令、このままでは」
「ああ、全部は無理だな」
「長門にもかなりの被害が出ます」
「撃沈されることだけは避ける」
 最悪の事態、それだけは何とかという判断だった。
「致命傷になりそうなものだけを避ける」
「そうしますか」
「おそらくこのミサイルの後でだ」
「今度は鉄鋼弾ですね」
「それは軍全体に浴びせてくる」
 ミサイルは東郷が率いる艦隊に集中攻撃を浴びせてだ。鉄鋼弾はそうするというのだ。
「出来る限りダメージを与えてな」
「我々の動きを鈍らせてですね」
「その間にハワイまで撤退させるつもりだ」 
 東郷は読んでいた。そこまで。
「そうしてくるな」
「敵も馬鹿ではありませんからね」
「必死さ。それにな」
 ここでだ。東郷は敵軍の中にいる一隻の見事なシルエットの戦艦を見た。それは旗艦エンタープライズ、他ならぬダグラスの乗っている艦だ。
 その艦を見てだ。そのうえで言うのだった。
「敵の司令官イーグル=ダグラス大将だな」
「はい、この前着任したばかりの」
「元映画スターのな。凄いのはルックスや演技力だけじゃないな」
「そうですね。中々優れています」
「マニラで受けたダメージは一旦日本まで戻って修理させる」 
 艦隊のダメージ自体は重視していなかった。だが、だった。
 東郷はその日本に戻る時のロスを問題視していた。それがだった。
「だがその修理の間にだ」
「東南アジア、オセアニアのエイリス植民地への侵攻が遅れますね」
「このままできればマニラから一気に進むつもりだった」
 間髪入れずのエイリス植民地への侵攻、それが東郷が考えていることだった。
 だが実際は彼はそれが実現できる可能性は低いとも思っていた。ロスを危惧していてもだ。
 それでだ。こう言うのだった。
「日本に戻り大修理工場での修理なら一月で全ての艦隊が修復できるが」
「その一月が、ですね」
「かなりのロスになる」
 今の状況ではだ。殊更だった。
「エイリスも本国から正規軍を送ってくるからな」
「その一月の間に下手をすれば」
「マレーでぶつかるかも知れない。厄介だ」
「ではここは」
「何とかすぐにエイリス植民地に攻め込みたいがな」
 しかしそれが難しくなろうとしていることもだ。東郷は今理解せずを得なかった。ミサイルを全て回避することは不可能だからだ。ガメリカ、フィリピン連合軍全軍の攻撃をかわすことは。
 それで東郷は何とか長門の撃沈と艦隊の全滅は避けようと艦隊を動かしていた。具体的には上下左右にジグザグにだ。これで何とか撃沈と全滅は避けられると思われた。
 だが、だった。ここでだ。奇跡、いや神秘が起こった。
 艦橋にいる真希の身体が光った。鮮やかなエメラルドグリーンに。
 その無数のエメラルドを放ったかの様な光はすぐに艦隊全体に及び。それで。
 全ての、ガメリカ軍とフィリピン軍のミサイルを防いでしまった。ミサイルは全てその緑の光の壁に阻まれ爆発して消えた。それを見てだった。
 秋山は唖然としてだ。こう言った。
「なっ、これは」
「一体どういうことだ?」
 東郷もだ。飄々としている顔だがだ。
 それでも驚きを隠せない面持ちでこう言った。
「これは」
「わかりません。ですが真希ちゃんが」
「そうだな。この光は一体」
「お父さん、私一体」
 その真希もだ。わからないといった顔で東郷達に返す。
「どうしたの?」
「あの、どうしたのですか!?」
 日本も長門のモニターに出て来てだ。驚きを隠せない顔で東郷達に尋ねてきた。
「敵軍のミサイルが全て防がれましたが」
「わからない。だがな」
「長官の艦隊は御無事ですね」
「ああ。全艦無傷だ」
 このことは確かだというのだ。
「まさに奇跡だ」
「そうですね。これは」
「とにかく真希の身体が光ってな」
 このことはだ。東郷は話せた。
「それでバリアーが出てだ」
「艦隊が無事でしたね」
「原因はわからない。だが結果は出た」
 このことは確かだった。そしてだった。
 東郷はここでだ。こう言った。
「このまま攻撃だ。ミサイル、及び鉄鋼弾でだ」
「はい、攻めますね」
「そうして敵に出来る限りのダメージを与える」
 これは今後の戦局も見てのことだった。戦いはこのマニラで終わりではないのだ。
「そうしよう」
「では」
 こうしてだ。彼等はだ。
 ミサイル攻撃も浴びせた。それによってだ。
 ガメリカ軍、フィリピン軍はミサイルでもダメージを受けた。その中でだ。
 ダグラス達ガメリカ軍、フィリピン軍の指揮官達も国家達も我が目を疑っていた。東郷の艦隊は何のダメージも受けていない。しかもその緑の光もあった。
 その光を見てだ。最初に言ったのはダグラスだった。
「バリアか?まさか」
「そうじゃないのか?あれは」
「日本軍の新兵器じゃないかな」
 アメリカもフィリピンもだ。今はだった。
 唖然となっていた。あまりもの事態に。
 それでだ。こう言うのだった。
「ビームだけでなくミサイルまで防ぐ」
「かなり高性能のバリアじゃ」
「日本にそんな技術があったのか?」
 ダグラスは真剣にその可能性を考えていた。
 それでだ。こう言ったのである。
「まさか。しかしだ」
「ミサイルが駄目なら鉄鋼弾だよ!」
「うん、そうだね!」
 キャシーとララーは唖然となりながらもこうダグラスに言ってきた。
「だからね。ここはね」
「あたし達が仕掛けるよ!鉄鋼弾での攻撃!」
「よし、こうなればだ!」
 ダグラスも彼等の言葉を受けてだ。そうしてだった。
 今度は鉄鋼弾攻撃だった。だが。
 その鉄鋼弾攻撃はだ。日本軍全体に向けてのものではなかった。
「もう一度だ」
「敵の長官の旗艦?」
「それとその艦隊だね」
「そうだ。とにかく頭を潰す」
 例えミサイルが駄目でもだというのだ。
「そうしないと話にならないからな」
「それじゃあまた」
「敵のボスを攻めようかい」
 こう話してだ。まただった。
 東郷の艦隊に総攻撃が浴びせられる。今度は鉄鋼弾で。
 しかしそれもだった。緑の謎のバリアに防がれる。艦隊は相変わらず無傷だった。
 そして日本軍の鉄鋼弾での反撃でまたダメージを受ける。ガメリカ軍、フィリピン軍のダメージは尋常なものではなくなってしまっていた。
 見ればララーとキャシーの艦隊も壊滅していた。軍の先頭で戦っていた彼女達の艦隊も。
 軍全体のダメージと謎のバリアも前にしてだ。ダグラスは忌々しげに言った。
「タイムリミットだ」
「じゃあ撤退か」
「ああ、それしかない」
 ダグラスはこうアメリカに答えた。
「ララーとキャシーは・・・・・・無理か」
「命は無事みたいだぞ」
「だがその艦艇は捕獲された」
 今日本軍にだ。そうなっていた。
「どうしようもない。ここはな」
「僕が後詰になるぞ」
「いや、祖国さんはそのまま逃げてくれ」
 ダグラスはアメリカの申し出は断った。
「当然フィリピンさんもな」
「じゃあまさか」
「ああ、後詰は俺が引き受ける」
 司令官自らだ。それにあたるというのだ。
「祖国さんとフィリピンさんは主力と共にハワイまでそのまま撤退してくれ」
「わかった。それではな」
「ここは任せたよ」
「派手にやられたがな」
 これ以上はないまでにだ。そうなったと言ってからだった。
 ダグラスは自ら後詰になり軍を退かせた。進撃してくる日本軍の前に派手に機雷を撒布した。それからだった。
 今になってようやく攻撃可能になったビームの一斉射撃を行いそのうえでだった。ハワイに向けて撤退した。機雷とビームを受けてだった。
 日本軍も足を止めた。それでもだった。
 マニラの戦いも終わった。日本軍はほぼ無傷でマニラを掌握できた。そしてだ。
 東郷はマニラに入った。そこでこう言うのだった。
「さて、奇跡が起こってな」
「このまま順調にエイリスに攻め込めますね」
「ああ。ただな」
「真希ちゃんのことですか」
「そうだ」
 まさに彼女のことだとだ。共にいる日本に話す。
「本当にどういうことなんだ」
「わかりません。ですが」
「あの娘に何かあるのは確かだな」
「そのことは間違いありません」
 日本は今はこう言えるだけだった。
「あの娘に何故ああした力が」
「祖国さんはこうしたことは見たことがあるだろうか」
「あることはあります」
 こう答える日本だった。
「実際に」
「それはまさか」
「はい、歴代の帝の中にです」
 帝だった。日本が話に出したのは。
「全ての攻撃を弾き返す方もおられました」
「じゃあ真希もか」
「そうではないでしょうか」
 日本は首を捻りながら東郷に話す。
「真希ちゃんもまた」
「そうか。真希は孤児じゃないがな」
 帝になる条件の一つにそれがある。親戚や外戚の存在を考慮してのことだ。
「それでもか」
「孤児でなくとも力がある場合もあるのでしょう」
「それは祖国さんもか」
「はい、歴代の帝でだけ見ました」
 そうだったというのだ。
「ですが真希ちゃんも」
「そうか。その力でか」
「はい、今回東郷さんは助かったのでしょう」
「奇貨だな。しかしな」
「あてにしてはいけませんね」
「ああ、こうした力を頼りにしてもな」
 こう言ったのである。
「力が出なくなった時に攻撃を受ければだ」
「思わぬ事態になりますね」
「そうだ。こうした力はどうしたら完全に出るかどうかわからない限りな」
「頼りにしてはいけませんね」
「そうだ。それに子供をあまり軍艦に乗せることもな」
 そうしたこともだとだ。東郷は言う。
「軍属でもないとな」
「そうでもない限りはですね」
「俺は乗せない」
 こう言ったのである。
「そうしたい」
「わかりました。では今回のことは」
「あくまで奇貨として捉えて今回だけだ」
 使わないというのだ。具体的には。
「オーソドックスに戦っていこう」
「そうされますか」
「さて、何はともあれマニラは占領した」 
 このことは間違いないとだ。東郷は言った。そうしてだ。
 すぐに占領政策に入る。だが、だった。
 小澤はマニラの街に下りてだ。こう言うのだった。
「フィリピンさんはおられないですね」
「ああ、あの人はハワイに撤退したらしいね」
 そうしたとだ。ここで言ったのは南雲だった。
「アメリカさんと一緒にね」
「そうなのですか」
「フィリピンさんはアメリカさんと友達だからね」
 南雲は明るく笑って小澤に話す。
「ハワイであたし達に反撃しようというんだろうね」
「成程。折角お友達になろうと思いましたが」
「あんたはどういうお友達を考えてるんだい?」
「はい、日本さんが受けで」
 今回もそうした想像に耽る小澤だった。
「フィリピンさんが攻めですね」
「やれやれ、またそれかい?」
「腐女子の妄想に境はありまえん」
 無表情での含み笑いと共にだ。小澤は言った。
「そういうことです。うふふ」
「何か日本軍の提督は」
「そうよね」
 マニラの街を歩いているのは小澤と南雲だけではなかった。リンファとランファもだ。
 二人はその彼女を見ながらだ。こう言ったのである。
「個性派が揃っていて」
「ちょっと以上に戸惑うわね」
「私は百合もオッケーです」 
 小澤は二人の中華娘にはこう返した。
「そう。リンファさん攻めでランファさん受けとか」
「あの。それはちょっと」
「妄想してもらったら困るけれど」
「安心して下さい。実害はありません」
「実害とかじゃなくてちょっと」
「あたし達そうした趣味もないから」
「趣味は開拓するもの」
 小澤の方が上手だった。それも何枚も。
「そう。百合もまた」
「私はあくまで男の方だけですが」
「あたしは金髪オンリーだし」
「それに加えて百合もゲット」
 小澤の暴走は続く。
「いざ禁断の快楽へ」
「駄目だこりゃ」 
 南雲はそんな小澤の妄想に肩を竦めて駄目出しをした。
「この娘には勝てないね」
「勝てるというか何か」
「変態過ぎて困るけれど」
 リンファとランファは戸惑ったままだった。
「本当に日本軍の人は個性派過ぎて」
「少し以上に参るわね」
「参る。いざ百合の世界に参る」
 小澤はまだ言う。
「では今度はその同人誌を買い漁りましょう」
「百合ですか」
 エルミーもいた。彼女はというと。
 小澤のそんな言葉を聞いてだ。こう言うばかりだった。
「私も出来れば総統閣下と・・・・・・いえ何もありません」
「まあそこから先は言わない方がいいよ」
 南雲はエルミーに対しても言う。
「自爆になるからね」
「ただ。本当にマニラの無血入城はよかったですね」 
 エルミーは真面目にこのことは喜んでいた。
「お陰でマレー等に無事進めます」
「次はラバウル、いやソロモンと言おうか」
 南雲はソロモンと言うことにした。その星域のことは。
「それとインドネシアだね」
「インドネシアですか。そういえばでしたね」
 エルミーはインドネシアと聞いてこう言った。
「あの星域もエイリスの植民地でしたね」
「この辺り一体は殆どエイリスの植民地だからね」
 南雲が言う。
「だからインドネシアもマレーもなんだよ」
「あとトンガにも艦隊を送る予定になっています」
 小澤はここでは真面目に戦争の話をした。
「そしてそのうえで、です」
「三つの星域を一気に占領しますか」
「そうなります」
 小澤はエルミーにも真面目に戦争のことを話す。
「そしてやがてはマレー、四国も占領します」
「問題はマレーだね」
 南雲はその街について言及した。一行は何時しか港に戻りそこで作戦の話をしていた。
「四国はまだエイリスの戦力は大したことないけれどね」
「マレーはエイリスの東南アジアにおける最重要拠点です」
 小澤はここでも冷静に淡々として話す。
「その戦力もかなりのものです」
「だからあそこには主力を向けることになるだろうね」
「そうです。私達の中でも精鋭を」
「ではレッツゴー」
 小澤はこう言っても言葉に抑揚はない。
「マレー解放です」
「では今度はですね」
「東南アジアとオセアニア全域を占領していくことになるね」
 リンファとランファも言う。日本軍は既に次の作戦に考えを向けていた。マニラで終わりはなくむしろはじまりでしかなかった。本格的な戦いの。
 そのマレーではだ。日本軍が来たという話がもう届いていた。そしてだった。
 エイリスの貴族達がだ。紅茶を飲みながらひそひそと密室で話をしていた。
「マニラが占領されたとは」
「しかも日本軍はほぼ無傷だとか」
「いや、それは何かの誤報でしょう」
「日本軍がガメリカに勝てる筈がない」
「無傷などとか」
 こう言ってだ。日本軍の勝利を信じようとしなかった。だが、だった。
「マニラを占領されたのは事実らしいですぞ」
「ではこのままインドネシアに入るのですか」
「そしてやがてはこのマレーにも」
「来るのですか」
「いや、それでもです」
 ここでだ。でっぷりと太った貴族の一人がこう言った。
「このマレーは堅固でしかも」
「駐留艦隊も多いですな」
「日本軍が来ても勝てますな」
「それも充分に」
「所詮は極東の田舎者です」 
 彼等は日本帝国を侮っていた。彼等の祖国が世界帝国であるが故にだ。
「マレーで止まりますな」
「例えインドネシアまで占領できても」
「ではそこまで危惧する必要はない」
「そうですな」
 こう話してだ。彼等は日本を舐めたまま安心しきっていた。
 しかしその外の市街地ではだ。現地の者達がだった。
 物陰に隠れてだ。こうした話をしていた。
「それではだな」
「そづあ。時は近いかも知れない」
「日本軍が来たならだ」
「彼等に呼応して我等も蜂起しよう」
「独立しよう」
 こうした話をしていた。そしてだった。
 彼等のその中に一人の女がいた。
 赤紫のやや収まりの悪い髪を後ろの一条を残して短く切っている。藍色の瞳はサファイアの様であり気の強そうな感じだ。
 顔立ちは精悍で戦っている女の顔をしている。眉は細く口は小さい。顎が尖っている。
 緑の陸戦部隊の軍服にベレー帽、それに半ズボンという格好だ。その彼女がだ。
 仲間達にだ。こう言うのだった。
「待て、確かにエイリスからは独立すべきだが」
「何だ、ラスシャサ」
「どうかしたのか?」
「日本の意図だ」
 ここでこの女ラスシャサが言うのはこのことだった。見れば軍服の胸元は開き胸がかなり見えている。わりかし豊かと言える胸でである。
 だがその胸を意識せずにだ。こう言うのだった。
「あの国は何を考えている」
「何をとは?」
「我々のことか?」
「そうだ。エイリスは我々を植民地とその現地民としか見ていない」
 ラスシャサはまずはエイリスについて述べた。
「そしてそのエイリスからの独立こそがだ」
「我等の悲願だ」
「まさにな」
「その為に日本と呼応して蜂起する」
「その考えだが」
「ガメリカや中帝国は確かに連合国だ」
 エイリスと同じくだ。だが、だというのだ。
「しかし植民地には反対している」
「だからこそ我々の蜂起にも支持をする」
「そして独立もだな」
「祖国さんから聞いた」
 ラスシャサは自分の祖国、マレーシアのことを話した。同志達に。
「ガメリカと中帝国は太平洋経済圏を作ろうとしている」
「太平洋経済圏?」
「まさか太平洋全域を包括した経済圏か」
「それを築こうというのか」
「そうだ。祖国さんがアメリカさんと中国さんにこっそり言われたらしい」
 そのガメリカと中帝国の中心国家である彼等から直接だというのだ。
「エイリスの植民地には全て独立してもらったうえでな」
「何っ、ではあの二国は俺達の味方か」
「エイリスと同じ連合国でもか」
「太平洋経済圏を築く為に独立させてくれる」
「そして経済圏に入れてくれるのか」
「そう聞いている」
 ラスシャサはマレーシアからの話を同志達に話した。
「だからだ。日本が若し我々をエイリスと同じく我々を植民地として扱うのなら」
「その場合はか」
「俺達の取る立場は」
「ガメリカにつく」
 はっきりとだ。ラスシャサは断言した。
「その場合はな」
「では日本の対応はこれからか」
「様子見か」
「そうするのだな」
「フィリピンはハワイに去った」 
 マニラはそのままだがそれでもだった。
「しかし日本はすぐにインドネシア、トンガに攻め入るだろう」
「その時に奴等がどうしてくるか」
「それを見てからだな」
「俺達がどう動くのか決めるのは」
「それからだな」
「その通りだ。それからだ」
 ラスシャサは腕を組み確かな声で言った。
「日本につくガメリカ、中帝国につくかを決めるのはな」
「どちらにしてもエイリスからは独立できるな」
「いい展開ではあるな」
「そうだな」
「エイリスは衰退して当然だ」
 このことについてはだ。ラスシャサは規定として言い切った。
「何時まで植民地なぞにこだわっている」
「全くだ。俺達を何だと思っているんだ」
「貴族共だけが威張っている」
「そして俺達といえば二等扱いだ」
「二等国民でしかないなんてな」
「間違っている」
 これが彼等の意見だった。そしてそれは間違ってはいなかった。
 それが為にだ。ラスシャサはまた言った。
「では。今は様子を見よう」
「そうだな。ではな」
「今は様子見だ」
「そうするとしよう」
「さて、見るか」
 ラスシャサは腕を組んだまま冷静に述べた。
「日本の本性を」
 こう話してだった。彼等は今は様子を見るのだった。そうして。
 蜂起の時も見ていた。太平洋での本格的な戦いは枢軸、連合の対立軸を超えていた。それ以上に多くの国家や人間を巻き込み動きだしていた。


TURN33   完


                        2012・6・14



マニラへの進撃も成功したな。
美姫 「どうにかね。ピンチもあったけれど」
そこは真希のお蔭で助かったな。
美姫 「でも、この力には頼らない方が良いと判断したわね」
だな。東郷としては娘を戦場に連れて行きたくもないだろうしな。
美姫 「ともあれ、今の所は順調だな。
美姫 「次はどうなるかよね」
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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