『ヘタリア大帝国』




                          TURN25  アフリカ戦線

 プロイセンは妹、そしてロンメルと共にすぐにイタリンに入った。そしてだ。
 自分達を出迎えてきたイタリアにだ。親しい笑顔でこう言ったのだった。
「イタちゃん、助けに来たぜ」
「プロイセン、待ってたよ!来てくれたんだね!」
 イタリアは泣きながらそのプロイセンに返す。
「じゃあすぐに助けて!俺このままじゃ負けちゃうよ!」
「わかってるぜ。俺達が来たからにはもうエイリスの奴等の好きにはさせないからな」
「有り難う!本当に有り難う!」
「御礼なんていいからな。俺とイタちゃんの仲じゃねえか」
 プロイセンはとにかくだ。イタリアに対しては優しかった。
「だからすぐにな。北アフリカのエイリスの奴等叩き潰そうな」
「うん、じゃあすぐに北アフリカに行こう」
「反撃に掛かるよ」
 プロイセン妹も笑顔で言う。こうしてだ。
 ドクツ軍はイタリン軍と共に北アフリカに反撃に向かう準備に入った。その準備を進めながら。
 ロンメルはイタリア妹とロマーノ妹にだ。こんなことを言った。
「君達が何とか支えてくれていたみたいだな」
「まあね。兄貴達があんなのだからね」
「せめて女がしっかりしないとね」
 二人は明るい笑顔でロンメルに返す。
「負けたくはないからね」
「本土だけは守らないといけないって思ってたし」
「皆も何とか守れたしね」
「よかったって思ってるよ」
「うん、本当に君達あってだよ」
 ロンメルはその細い顔に笑みを浮べていた。
「ではこれからは」
「ああ、エイリスの奴等に反撃だね」
「宜しく頼むね」
「さて、どう戦うかな」
 ロンメルは今度は悪戯っぽく笑った。
「砂漠か。面白い場所だな」
「結構以上に大変だよ」
「鉄鋼弾の威力が落ちるからね」
「それならそれで戦い方があるさ」
 ロンメルは鉄鋼弾が使えないと聞いてもだ。さして困った顔は見せていなかった。
「砂漠には砂漠のな」
「じゃあそれを見せてもらうね」
「ロンメルさんの戦い方をね」
 二人は笑顔でロンメルに話す。しかしだ。
 ロマーノだけはだった。ふて腐れていた。
 そしてそのうえでだ。こうユリウスに言うのだった。
「ったくよ。ジャガイモの奴等が来るなんてよ」
「ロマーノ殿にとっては不本意か」
「当たり前だろ。俺はドイツもプロイセンも嫌いなんだよ」
「しかしだ。プロイセン殿はだ」
「俺のことが好きだってんだな」
「気に入ってる様だが。それにだ」
「こうして助けに来たってんだな」
 ロマーノは憮然とした顔で腕を組んでいる。そのうえでユリウスに応える。
「その好意は受け取れっていうのかよ」
「そづあ。確かに私もだ」
 ユリウスは難しい顔でロマーノに話す。
「同盟国とはいえ他国の手を借りるのは好きではない。しかしだ」
「このままではってんだな」
「我が国は北アフリカどころではない」
 ユリウスが言うのは現実のことだった。
「イタリン本土まで連合国に奪われる」
「あのいけ好かねえエイリスの奴等に占領されるってんだな」
「連合国にはロシアもいるのだ」
「そうだよ、あいつもいたんだよ」
 ロシアの名前を聞いただけでだ。ロマーノは震え上がった。
 そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「あいつ怖過ぎるだろ。一体何であんなに怖いんだよ」
「だが彼もまたロマーノ殿やヴェネチアーノ殿を気に入っているが」
「俺はあいつは怖くて仕方ないんだよ」
 嫌う以前の問題だった。ロシアに対しては。
「あんな怖い奴いるかよ、他に」
「ではだ」
「連合国の奴等には負けたくねえな」
「その結果選択肢は一つしかなくなる」
「ドクツに助けてもらうしかないんだな」
「そういうことになる。私にしても不本意だがな」 
 ユリウスはここで苦い顔もロマーニに見せた。
「他国の手を借りるのはな」
「だよな。ユリウスさんはそうした考えだよな」
「しかしだ」
 それでもだとだ。ユリウスはさらに言った。
「総帥は違うお考えだ」
「ムッチリーニさんはかよ」
「そうだ。あの方はドクツが好きだ」
「個人的な好みなんだな」
「多分にな。しかし国益も考えておられる」
 何だかんだでイタリンのことを真面目に考えているムッチリーニだった。
「それを考えれば。やはりな」
「ドクツを組むことも大事なんだな」
「その通りだ。ロマーノ殿には不本意だろうがな」
「わかった。それじゃあな」
「ドクツと共に戦う」
 ユリウスは確かな言葉でロマーニに告げた。
「そうして生き残るしかない」
「じゃあな。そうするか」
 渋々といった顔で応えるロマーノだった。かくしてドクツ軍はイタリン軍を助け北アフリカに再度侵攻にあたることになった。そしてドクツの首都ベルリンでは。
 海驢作戦の失敗と戦後処理を終えたレーティアが戻るとだ。オーストリアが彼女に言ってきた。
「ムッチリーニさんがです」
「何だ?通信でも来ているのか?」
「いえ、御本人が来られました」
 そうなっているというのだ。
「直接このベルリンに」
「何っ、総帥御自身がか」
「はい、御会いになられますか?」
「いや、会うも何もだ」
 驚きを隠せないといった顔でだ。レーティアはオーストリアに応えた。
「御本人が来られているのなら御会いしない訳にはいかない」
「その通りですね。それでは」
「しかし。まさか御本人が来られるとは」
「ううん、あの方もあれで申し訳ないと思ってるのよ」
 グレシアが首を捻るレーティアに話す。
「今回の失態のことはね」
「確かにイタリン軍は弱過ぎるが」
「あの方にしても予想以上にね」
「イタちゃんは元々喧嘩はからっきしですけれどね」
 ハンガリーが二人にこのことを話す。
「ですがそれでも今回は」
「あまりにも弱過ぎてか」
「はい、我が国の足を引っ張ったと申し訳なく思われていると思います」
「悪い方ではないからな」
 このことはレーティアもよくわかっていた。ムッチリーニは少なくとも悪人ではない。
 そして決して無能ではない。そうした人物なのだ。レーティアはそうしたこともわかっているのだ。
 それでだ。グレシアとハンガリーの言葉を聞いてから言うのだった。
「来られているのならな」
「ええ、それじゃあね」
「御会いしましょう」
「ではです」 
 グレシアとハンガリーが言いだ。そのうえでだった。
 オーストリアがレーティアをムッチリーニのいる部屋に案内した。するとだ。
 ムッチリーニはいきなりレーティアに抱きついてだ。泣きながら言ってきた。
「レーティアちゃ〜〜〜ん、御免なさーーーーい!」
「御免、本当に御免!」
 イタリアまでいた。彼も自分の上司と一緒に謝る。流石にレーティアには抱きついてはいない。
「エイリスとの戦い邪魔しちゃったわよね!」
「折角あと一歩のところだったのに!」
「いえ、いいですから」 
 いきなり抱きつかれてだ。レーティアも戸惑いを隠せない。
 その豊かな胸に顔を埋もれさせられながらだ。ムッチリーニとイタリアに言うのだった。
「それよりもそちらは」
「うん、ロンメルさん達が来てくれてエイリスは侵攻の動きを止めたわ」
「有り難うね、お陰で助かったよ」
「それならいいです」
 レーティアもだ。二人に穏やかに返す。
「ではです」
「ではって?」
「あの、息が苦しいので」
 胸に埋もれているせいだ。ムッチリーニのその豊かな胸に。
「できれば」
「えっ、苦しいって」
「とにかくです」
 レーティアは言う。苦しいその中で。
「あの、今はですね」
「どうしたの?本当に」
「息が苦しいですから」
 また言うレーティアだった。
「少し離れて下さい」
「あっ、それじゃあ」
「とにかくです。ここに来られたのなら」
 レーティアは素早く政治の話に移った。ムッチリーニが来ているその機会を見逃さなかったのだ。
 それですぐにその話に入る。レーティアはこうムッチリーニに話した。
「両国の経済関係ですが」
「通商条約を結んでるわよね」
「そちらさえよければです」
 こう前置きしてから話すレーティアだった。
「通貨同盟を結びませんか」
「そうね。それじゃあね」
「はい、それに両国の交流をより活発化させましょう」
「観光旅行もよね」
「今は戦争中ですが戦後はです」 
 何気にイタリンにも行きたいレーティアだった。
「お互いの国境も緩やかにしていきましょう」
「そうしましょう。それじゃあね」
「はい、では」
 二人は和気藹々として経済や交流の話をした。そのレーティアを見てだ。
 グレシアは何故から。にんまりとしてこうイタリアに言うのだった。
「ねえイタちゃん」
「あっグレシアさんどうしたの?」
「今のレーティアもいいよね」
「そうだね。何かね」
 イタリアもグレシアのその言葉に頷く。
「いい感じだよね」
「姉と妹って感じでね」
 まさにそのままだった。
「いい感じね」
「ううん、総帥が最初にファンシズムを出したけれどね」
「ムッチリーニさんがお姉さんでね」
「それでレーティアさんがだよね」
「そう、妹なのよ」
「何かレーティアさん総帥に抱き締められて困ってたけれど」
「それがまたいいのよ」 
 そのにんまりとした顔での言葉だ。
「困ってる感じのレーティアもまたね」
「ひょっとしてグレシアさんって」
「何かしら」
「あっちの気があるとか?」
「百合?」
「それかエスとか」
「うふふ、どうかしらね」
 今度は目を輝かせて言うグレシアだった。
「けれどああした困ってるレーティアを見るのもいいわね」
「それってやっぱり」
「あの娘を見出したのは私だから」
 このことはまさにその通りだった。レーティアの政治家として、そしてアイドルとしての天才的な資質を見出したのは他ならぬグレシアだったのだ。 
 そしてそれ故にだ。グレシアはレーティアをこう言うのだった。
「人類史上最大の天才でしかもよ」
「宇宙一の美少女なんだね」
「こんなチートな娘いないでしょ」
「何か凄いね。確かに俺もレーティアさん嫌いじゃないけれど」
 むしろ好きな方だ。やはりイタリアは女の子が好きだ。
 だがその彼をもってしてもだ。グレシアはというと。
「ちょっと好き過ぎるよ」
「それ位で丁度いいと思うけれど」
「もう宣伝相じゃなくてね」
「百合結構よ。薄い本にでも何にでも書いていいからね」
 まさに余裕だった。最早グレシアにはいい意味でも悪い意味でも迷いはなかった。 
 何はともあれレーティアとムッチリーニの会談はつつがなく終わった。それを受けてだ。
 イタリアはムッチリーニと共にイタリンへの帰路につく。だがその時だ。
 彼はドイツに捕まりだ。こう言われたのだった。
「全く。また負けたそうだな」
「えっ、ドイツもいるんだ」
「当たり前だ。ここはドクツだ」
 ドイツはこの国の中心国家だ。それならだった。
「それでどうして俺がいない」
「うう、そういえばそうだけれど」
「しかし。御前はしっかりしろ」
 ドイツは厳しい顔でイタリアを叱る。
「見ているこっちの方が心配になる」
「御免、次はしっかりするから」
「よし、じゃあ次は頑張れ」
 ドイツもだ。何だかんだでイタリアにこう言う。
「いいな。何かあったらすぐに俺に言え」
「うん、じゃあそうするよ」
「まあこれ位でよかね?」
 二人の間にポーランドがフリカッセを食べながら間に入って来た。
「イタちゃんもしょげかえってるしーー。それ位でええんちゃう?」
「それもそうだがな」
 ドイツもだ。ポーランドの言葉に頷きはした。
 だがそれでもだ。こう言うのだった。
「俺にしてもだ。こいつは目が離せない」
「貴方はもう少しイタリアに厳しくすべきです」
 オーストリアも出て来て言うのだった。
「全く。今回は白旗あげなかっただけましですが」
「そう言うオーストリアもイタリアが心配だと言っていなかったか」
 ドイツはそのオーストリアにも言う。
「海驢作戦の時それを聞いてどう思った」
「イタリアはあまりに弱過ぎます。しかしです」
「しかしだな」
「嫌いではありません」
 オーストリアにしてもそうだった。イタリアのことは嫌いではないのだ。
「だからこそ言うのです」
「俺もだ。御前のことは嫌わないから安心しろ」
 ドイツはとりわけだった。何だかんだでイタリアに優しかった。
 そしてそのうえでだ。こうも言うのだった。
「では北アフリカでは頑張る様に」
「うん、俺頑張って逃げるからね」
「逃げずに戦え。本当にわかっているのか」
 こうしたやり取りを経て帰るイタリアだった。ムッチリーニと共に。
 その彼を見送ってからだ。ベルギーが兄に尋ねた。
「なあお兄ちゃん、イタちゃん確か戦争準備してたよな」
「してなきゃおかしい」
「そやな。けど何でベルリンに来たんやろ」
「向こうの上司の御供やな。そんで」
「そんで?」
「国家は自分の領土内やったら何処でも移動できる。あいつはローマからベルリンにあるイタリン大使館から一気に移動しただ」
「ああ、それで時間的な余裕もあったんやな」
「移動にも時間がかかるわ」
 オランダもこのことはよくわかっていた。
「そんでも国家やったらや」
「移動に時間かからんからか」
「来られた。まあイタリアの顔見れてよかったわ」
 オランダは無表情ながらもこう言った。
「元気そうで何よりや」
「お兄ちゃんもイタちゃん好きなんかいな」
「ロマーノの方が好きやがあいつも嫌いやない」
 そうなのだった。彼にしても。
「どうにも憎めんわ」
「それがイタちゃんやな」
「あいつの魅力やな」
「そういうこっちゃな」
 こう言ってだ。そのうえでだった。
 彼等は今はイタリア達を見送った。そしてだった。
 祖国に帰ったイタリアをだ。早速プロイセンが出迎えてこう言った。
「お帰り、それじゃあ行くか」
「うん、北アフリカにだね」
「もう準備は整ったからな」
 それはもう早速だった。そしてだ。
 イタリアはプロイセンと共に港に向かう。そこではもうだった。
 全ての艦艇が整備も補給も終えていた。後はだった。
「出撃だからな」
「準備早いね」
「いや、普通だろ」
「イタリンだったらまだ三割もできてないよ」
 それもまたイタリンだった。
「全然だよ」
「おいおい、それはちょっとねえだろ」
 プロイセンなイタリアの話を聞いてもだ。親しげに返すだけだった。
「ったくイタちゃんは仕方ねえなあ」
「御免ね、何かと」
「だから謝る必要ねえんだよ」
 プロイセンは笑って返す。ここでも。
「それがイタちゃんのよさだからな」
「俺の?」
「そうだよ。イタちゃんはイタちゃんだよ。相棒だってな」
 ここでプロイセンはドイツのことも話した。
「イタちゃんのことは大事に思ってるからな」
「ううん、俺ドイツにも迷惑かけてばかりだけれど」
「友達だからな」
 理由はこれに尽きた。ドイツにしてもイタリアを大事にする理由は。
「いいんだよ。じゃあ行くか」
「うん、じゃあ」
「よし、では出撃だ」
 ロンメルもいた。彼等もイタリア達に言う。
「エイリス軍を北アフリカから排除しよう」
「奪還作戦って訳だね」
「既に情報は手に入れた」
 ロンメルは傍らにいるプロイセン妹にも述べた。
「敵の配置や艦艇の種類に数もな」
「えっ、もう調べたの!?」
「速いね、それはまた」
「情報部に調べてもらった」
 ロンメルはイタリア妹とロマーノ妹の言葉に対して返した。
「こちらが出撃準備をしている間にな」
「じゃあ。エイリスの奴等を殴り返しに行こうか」
「ああ、そうしてやろうね」
 イタリア妹とロマーノ妹は顔を見合わせて笑顔になっていた。こうしてだ。
 ドクツ、イタリンの両国軍は北アフリカに再び攻め込んだ。その中にはロマーノもいた。
 だが彼は己の乗艦で面白くなさそうな顔でいた。その彼にだ。
 小豚達がだ。こう尋ねるのだった。
「ロマーノさんどうしたブー?」
「機嫌よくないブー?」
「まあな」
 その憮然とした顔で答えるロマーノだった。
「ったくよ、プロイセンかよ」
「まあ仕方ないブー」
「というかプロイセンさんいい人ブー」
「妹さんもロンメルさんもいい人ブー」
「俺は好きじゃないんだよ」
 艦橋で腕を組んで立ちながらの言葉だ。
「ドクツ自体がな」
「けれど祖国さんはあの通りブー」
「ドクツ大好きブー」
「総師もだブー」
「だから余計に嫌なんだよ」
 こうポルコ族の面々に返すロマーノだった。
「ドクツの奴等の何処がいいんだよ」
「強くて頼りになるブー」
「しかも優しいし親切だブー」
「格好いいブー」
「御前等もドクツ好きなんだな」
 つまり国を挙げてイタリンはドクツが好きなのだった。尚ドクツもイタリンが好きだ。レーティアとムッチリーニの関係に見られる様にこの二国の仲は極めて親密なのだ。
 それ故にだ。ポルコ族の面々も言うのだった。
「その通りだブー」
「ドクツと一緒にいたいブー」
「俺はずっとスペインとかと一緒にいたからな」
 難しい顔でまた言うロマーノであった。
「ゲルマンは趣味じゃねえんだよ」
「ううん、それでもブー」
「僕達もドクツ好きブー」
「ロンメルさん格好いいブー」
「イタリアの奴もな」
 ロマーノは弟への不満も言う。
「ドイツドイツって何なんだよ」
「まあそれは置いておいてブー」
「お昼にするブー」
 呑気にだ。ポルコ族の面々は昼食も食べた。パスタに野菜に果物、トマトで味付けされた魚や肉、ワインにジェラートも当然ながらある。その豪華な昼食を食べる彼等だった。
 だがロンメルは艦橋でソーセージとザワークラフト、それにジャガイモを茹でて上にバターを乗せたものを食べるだけだった。その艦橋の司令の席に胡坐をかいて座りながらだ。
 艦隊全体を見ながらだ。こう言うのだった。
「ドクツ軍は順調に進んでいるな」
「はい、ですがイタリン軍がどうも」
「動きが鈍いですね」
「食事中なのかな」
 ロンメルはすぐにこう察した。
「イタリンの昼食には時間がかかる」
「そうですね。豪華ですし」
「量も多いですし」
「量は我々も同じ位だが」
 ロンメルはそのジャガイモ、潰したそれを食べながら言う。
「メニューが豊富だからな」
「はい、そして美味しいです」
「味も確かですね」
「イタリンはいい国だ」
 ロンメルも隻眼を綻ばせるまでにだった。
「愛嬌もある」
「ですね。では」
「そのイタリンと共に」
「俺も彼等は嫌いじゃない」
 むしろ好きだった。ロンメルにしても。
 だがそれと共にだ。彼はこうも言うのだった。
「それでもな」
「はい、戦力としてはどうも」
「困ったものがありますね」
「兵器もよくないな」
 イタリンの兵器もだ。ロンメルは見ていた。
「あれでは第一世代の兵器だな」
「おおむねそんなところですね」
「旧式、若しくは設計を大きく間違えている兵器が多いです」
「どうにも」
「数はそれなりにあるが」
 だがそれでもだというのだ。
「あれでは戦力としては心もとない」
「では、ですか」
「今回の侵攻では」
「我々は機動力を活かして敵軍に打撃を与える」
 これまで通りのロンメルの戦いをするというのだ。
「そしてイタリン軍はだ」
「はい、どうされますか」
「ここは」
「ユリウス提督に任せよう」
 共に攻め込んでいるだ。彼女にだというのだ。
「ここはな」
「そうですね。あの方なら何とか戦ってくれますね」
「持ち堪えてくれますね」
「少なくとも戦線は崩壊させない」
 そのユリウスがロンメルの乗艦のモニターに出て来てだ。そのうえで応えてきた。
「それは安心してくれ」
「そうしてくれますか」
「うむ、私にも意地がある」
 眼鏡の奥のその奇麗な目を毅然とさせての言葉だった。
「イタリン軍も戦うからな」
「はい、では共同作戦といきましょう」
「北アフリカに入る前に二人で会いたいが」
「ええ、では」
 作戦会議の為だった。そうした打ち合わせをしてだ。
 彼等は北アフリカに入った。その北アフリカに入ると。
 星域に熱砂が吹き荒れていた。これではだった。
「視界さえだな」
「そうですね。ままなりませんね」
「肉眼ではとても見えません」
 ドクツ軍の参謀達がロンメルに答える。
「これでは侵攻もおぼつきません」
「敵の居場所も肉眼では」
 わからないと話す。しかしだ。
 ロンメルはここでだ。こうドクツ軍全体に言った。
「目じゃない、レーダーもあまり使えそうにないがな」
「それでは何を」
「何を頼りにされますか?」
「偵察艦だ」
 それを使うというのだ。耳だった。
「今はこっちの方がまだ使えそうだ」
「確かに。そうですね」
「今はまだ肉眼よりはましですね」
「レーダーの妨害よりも」
「だからだ。ここは無人の偵察艦を使って敵を探す」
 そうするとだ。ロンメルは冷静そのものの顔で述べる。
「そして敵を捕捉すればだ」
「ああ、戦闘に入るんだな」
「そうするんだね」
「その通りだ。プロイセンさんと妹さんは俺と共に敵の横や後ろを動き回る」
 無論上下にもだ。ロンメル得意の機動戦略だ。
 そしてもう一方はというとだった。
「イタリン軍だが」
「情報を提供してくれればだ」
 モニターにはユリウスも出て来た。イタリアも一緒だ。
 その彼等がだ。ロンメルにモニターから言ってきたのだ。
「我々はエイリス軍に正面から向かう」
「俺達も頑張るからね」
「正面はお任せします」
 ロンメルはユリウスに対してこう返した。
「では。まずは敵を探しましょう」
「よし、それではな」
「敵を捕捉しようね」
 ユリウスもイタリアもロンメルの策通りまずは索敵にかかった。そうしてすぐにだ。
 北アフリカ星域の前方、彼等から見てそこにエイリス軍が展開しているのを発見した。彼等を見つけるとすぐにだ。
 ロンメルはモニターからこうユリウスに言った。
「まずはドクツ軍が動きます」
「敵の横に回り込むか」
「そうします。敵はまだ我々に気付いていません」
「ドクツ軍には、だな」
 イタリン軍には既に気付いていた。敵にしても。
 それがわかるのは彼等がイタリン軍に向かって進んでいるからだ。敵も動きだしていた。
 その彼等を見てだ。ロンメルとユリウスは話すのだった。
「我々には気付いているが」
「申し訳ありませんが囮という形になります」
「それはいい」
 自軍が囮になることはよしとするユリウスだった。そのうえでこう言うのだった。
「勝つ為だ。それもな」
「すいません、それでは」
「勝とう」
 ユリウスは強い表情でロンメルに述べた。
「この戦い、必ずな」
「勝利を我等の手に」
 ロンメルはユリウスのその顔を余裕のある笑みで見ながらこうも言った。
「その後で祝いといきましょう」
「そうしよう。それではな」
「敵艦を見ますと騎士提督であるモンゴメリー提督はいません」
「敵の司令官がいないのか」
「おそらくスエズにいるのでしょう。向こうも何か事情があるみたいですね」
「前線指揮を執ると思っていたが」
 ユリウスだけでなくロンメルもそう見ていた。イタリン軍はこの北アフリカから追い出された時はモンゴメリーの熟練の指揮の前にも敗れたのだ。だからこそ彼が出て来ると見ていた。
 だが彼は今は戦場にいない。このことはまさに意外だった。しかしだ。
 ロンメルはそのことについてだ。こうも言ったのだった。
「我々には好都合です。それならです」
「そうだな。勝たせてもらおう」
 ユリウスも応えてだ。そのうえで遂に戦闘に入った。
 イタリン軍が迫るエイリス軍を迎え撃ちにかかる。だが。
 そのエイリス軍を見てイタリン軍は即座に浮き足立ったのだった。
「き、来たブーーーー!」
「エイリス軍が来たブーーー!」
「エイリス軍怖いブーーーー!」
 敵が来たのを見て即座に小豚達が泣きだす。
「逃げるブーーーー!」
「やっつけられるブーーー!」
「し、白旗用意して白旗!」
 イタリアもだ。乗艦の艦橋で泣きだしていた。
「エイリス怖いよ!早く降伏しよう!」
「おい!逃げろ!」
 ロマーノもだ。泣きながらこんな指示を出した。
「エイリスの奴等来たじゃねえかこの野郎!」
「わかってるブーーー!」
「降伏か撤退ブーーー!」
「命だけはお助けブーーー!」
 小豚達だけでなく大豚達もいるが彼等も同じだった。泣き叫びながら逃げようとする。
 しかしその彼等にだ。イタリア妹とロマーノ妹が言うのだった。
「だから大丈夫よ」
「この戦い勝てるから」
「お兄ちゃん達も豚ちゃん達も泣かなくていいからね」
「どっしりと構えてていいのよ」
「け、けれどエイリス軍滅茶苦茶強いよ!」
 イタリアは妹達に対しても泣き言を言う。
「それに怖いよ!幾らイギリスがいなくても!」
「モンゴメリーもイギリスもいないのに何が怖いのよ」
「ヴェネチアーノ兄貴怖がり過ぎよ」
 妹達はそんな兄をやれやれといった顔で見ながら述べるのだった。
「あたし達がいるから大丈夫だって」
「逃げる必要も白旗掲げる必要もないからね」
「そ、そうかなあ」
 妹達にまた言われてだ。イタリアもようやく落ち着いた。
「それじゃあ俺はここにいないと駄目なんだ」
「もういるだけでいいからね」
「戦場にいるだけでね」
「うん、わかったよ」 
 まだ泣きながら言うイタリアだった。頷きはしても。
「俺もここにいるからさ」
「そうそう。それじゃあね」
「エイリスの奴等に雪辱戦を挑むよ」
「方陣を組み敵を迎え撃つぞ」
 ユリウスがここで全軍に告げる。
「いいな、まずは逃げないことだ」
「うう、ユリウスさんもそう言うんだ」
「厳し過ぎるだろこの野郎」
「祖国殿とロマーノ殿も艦隊を方陣にして欲しい」
 ユリウスは自分の祖国達に少しやれやれといった顔で述べた。
「そうしてくれ」
「わかったよ。じゃあ」
「何とかここにいるからな」
 イタリアとロマーノはユリウスの指示に従いそれぞれの艦隊で方陣を組んだ。そのうえでエイリス軍を迎え撃つ。そのエイリス軍はというと。
 目の前のイタリン軍を見てだ。こう言い合うのだった。
「まあな。ちょっと攻撃してな」
「後は降伏勧めるか」
「イタリン軍だからなあ」
「あまり厳しく攻めたら可哀想だしな」
「捕虜にするか」
 彼等もイタリンにはこうした考えだった。そうしてだ。
 イタリン軍への攻撃にかかろうとする。しかし。
 攻撃を仕掛けようとしたその瞬間にだった。彼等の側面からだ。
 突如としてビーム攻撃を受けた。横っ面を叩かれた艦艇が次々に炎に変わっていく。
 その中でだ。彼等はすぐに察したのだった。
「ドクツ軍か!」
「来ているとは聞いていたが!」
「まさか忍んでいたのか!?」
「いや、回り込んでいたのか!」
 彼等は既に知っていた。ドクツ軍の機動力を。
 それでこう考えた。そしてその通りだった。
 ロンメル率いるドクツ軍は一撃を加えてから再びだ。敵の後ろに回り。
 また攻撃を浴びせる。その攻撃も受けてエイリス軍は混乱状態に陥った。
 その彼等を見てだ。ユリウスは自身が率いるイタリン軍に指示を出した。
「よし、今だ!」
「攻撃!?」
「攻撃だブーー?」
「そうだ、攻めるぞ!」
 この指示にだ。豚達はというと。
 小豚も大豚達もだ。こう口々に言った。
「信じられないブーー」
「僕達が攻めるなんてないブーーー」
「これまでなかったことブーー」
「そのなかったことをするのだ」
 ユリウスも言い切った。強い顔で。
「我々は今からだ。わかったな」
「わかったら行くよ!」
「勝ちに行くよ!」
 ここぞとばかりにだ。イタリア妹とロマーノ妹も彼等に告げた。
「焼き豚になんかなりたくないよね!」
「エイリス軍の不味い料理を食いたくないだろ!」
「あんな飯食えないブーーー!」
「あれはもう餌だブーーー!」
 彼等からか見てもだ。エイリスの料理は最悪だった。
「だからここは絶対にブーー!」
「捕虜にならないブーーー!」
「捕虜になりたくなければ攻めろ!」
 ユリウスは豚達の言葉を聞いてこうも言った。
「いいな、全軍攻撃だ!方陣から攻撃陣形に入れ!」
「わかったブーーー!」
「勝つブーーーー!」
 豚達もユリウスの言葉に頷いた。そのうえでだ。
 イタリン軍は逃走ではなく攻撃に入った。数だけはある。
 その彼等がエイリス軍に正面から攻撃を浴びせる。兵器は旧式でありその戦術もたどたどしい、いや殆どの提督の指揮は素人のものである。
 だがそれでも数はあった。その数でだ。
 イタリン軍はエイリス軍を攻めてだ。エイリス軍をドクツ軍と協同して攻めた。その前後からの攻撃を受けてだ。
 エイリス軍の指揮官は苦い顔で決断を下したのだった。
「仕方がないな」
「ここは撤退ですか」
「そうされますか」
「全軍スエズまで撤退する」
 こう将兵達に告げたのである。
「わかったな。ではだ」
「仕方ありませんね。まさかこうまでやられるとは」
「思いも寄りませんでした」
「ドクツ軍のあの動きから見ると」
 指揮官はドクツ軍のその動きを見ながら述べた。
「敵の指揮官はロンメル元帥だな」
「狐が来ましたか」
「報告通りですね」
「そうな。厄介なのが来た」
 指揮官は苦渋に満ちた顔で撤退の指揮を執りながら話した。
「北アフリカでも厳しい戦いになるな」
「下手をすればスエズも奪われますね」
「そうなりますね」
「そうなることも現実に有り得るだろうな」
 指揮官は決して楽観していなかった。今後の戦いに暗いものを見ながらだった。
 エイリス軍は撤退した。北アフリカでの戦いはドクツ、イタリン枢軸軍の勝利に終わった。
 北アフリカは無事にイタリンに奪還された。それを受けてだ。
 豚達は諸手を挙げてロンメル達ドクツ軍を宴の場に出迎えてだ。満面の笑顔で言うのだった。
「全部ドクツ軍のお陰だブーーー!」
「ロンメルさん有り難うブーーー!」
「プロイセンさん達も有り難うブーーーー!」
「ははは、いってことよ」
 プロイセンが彼等のワインを手にしながら笑って言う。
「俺達はイタリンの為なら一肌も二肌も脱ぐからな」
「そうそう。それにこの北アフリカが奪われるとね」
 どうなるかと。プロイセン妹もワイン片手に言う。
「イタリン本土も危ないからね」
「イタリン取られたら俺達だってやばいからな」
「当然のことをしただけだよ」
「その当然のことがあたし達を助けてくれるんだよ」
「そういうことなんだよ」
 イタリア妹とロマーノ妹がそのプロイセン兄妹に話す。
「だからね。ここはね」
「素直に感謝を受け取って欲しいね」
「そうか。じゃあ遠慮なくな」
「楽しくやらせてもらうね」
 二人は笑顔で言ってだ。そうしてだった。
 イタリンの面々と共に祝いの杯を楽しむ。しかしだ。
 ロンメルも豚達に囲まれて好意を受けるがだ。こう言うだけだった。
「気持ちだけ受け取っておくよ」
「えっ、ロンメルさんワイン嫌いブーー?」
「パスタも生ハムも駄目ブーー?」
「どっちも好きだよ。それでも」
 だが、だというのだ。
「祝うのはスエズを手に入れてからにしたいと思っている」
「えっ、スエズブーー?」
「あのエイリスの北アフリカ方面の最重要拠点ブーー?」
「そう、そこを手に入れてから」
 こう言うロンメルだった。
「祝おうか、皆で」
「禁欲的なのだな、ロンメル元帥は」
 その彼にだ。ユリウスが言ってきた。
「これだけの功績を挙げたのに」
「戦いはまだありますからね」
 それ故にだとだ。ロンメルはユリウスに答えた。
「ですから」
「それでか」
「はい、スエズを占領してです」
「そこまでは安心できないか」
「そう思いますが」
「確かにな。アフリカ戦線はまだはじまったばかりだ」
 難しい顔にだユリウスもなっていた。
「それで楽観はできないか」
「ええ、ですから今はです」
「逆に言えばスエズを手に入れれば」
「かなり大きいですね」
「それもその通りか」
 逆もまただというのだ。
「ではだ。我々はだ」
「はい、北アフリカでの地盤を固めて」
 そのうえでだというのだ。まずは。
「スエズに向かいましょう」
「そうだな。しかし問題は他のアフリカ方面だな」
「そこからエイリス軍が来るというのですね」
「アンドロメダ方面が気になる」
 ユリウスは難しい顔になってロンメルに述べた。
「あの星域にはかなりの艦隊がいるが」
「いえ、どうやらあそこは動かない様です」
「動かない?何故だ?」
「あの星域は。詳しい事情はわかりませんが」
 それでもだとだ。ロンメルはユリウスに話す。
「あの星域には特別な事情がある様で」
「駐留寒帯を動かせないか」
「海驢作戦の時もあの星域からは艦隊を動員していません」
 エイリスの未曾有の危機であった先の戦いでもだというのだ。
「ですから」
「そうか。それでは問題は」
「あくまでスエズ方面ですね」 
 そこから来るエイリス軍が問題だというのだ。
「そしてあの星域を占領すれば」
「エイリスの宇宙戦略にかなりの楔を打てる」
「そうなります」
「総師閣下はスエズには興味があられない」
「おや、それではスエズは」
「ドクツに任せていいだろうか」
「ではエジプトはイタリンにということで」
 自然とだ。分割案にも話がいった。政治的な話にも。
「それで宜しいでしょうか」
「後は政治の話だな」
「それは総統閣下、総帥閣下同士のお話になりますが」
「おおむねそうなるな」
「はい、ではそういうことで」
 こちらの話も順調に整った。こうした話もしながら。
 ドクツ軍とイタリン軍は北アフリカを占領した。イタリン軍にとっては再占領だった。
 それを受けてレーティアはとりあえずは胸を撫で下ろした。だが、だった。彼女はグレシアに対してベルリンの総統官邸でこう言ったのだった。
「ロンメルは。残念だが」
「このままアフリカ戦線に置いておくのね」
「そうする。イタリン軍のままでは頼りない」
「そうね。イタリン軍は気はいいけれど」
「弱い」
 一言でだ。レーティアはイタリン軍をばっさりと切り捨てた。
「あまりにもな」
「そうね。あれだけ弱いとね」
「エイリス軍が反撃に出れば負ける」
「そうしたら同じことの繰り返しよね」
「仕方がない。ロンメルにプロイセン君の兄妹はあの場所に回る」
「そうしないと駄目ね」
「スエズに一気に侵攻したいがな」
 だが、だとだ。レーティアは顔を曇らせてこう言った。
「だがそれもな」
「できないのよね」
「バルバロッサ作戦に取り掛かる」
 レーティアの顔がまた変わった。今度は引き締まったものになって言ったのだ。
「ソビエトを倒すぞ」
「ドクツの生存圏確保の為の戦いね」
「それに入るからな。しかし」
「そう、ここでもしかしなのよね」
「ロンメルがいれば万全だったがな」
 溜息と共にだ。レーティアはまたしてもその顔を曇らせた。彼女の完璧な作戦計画も今は予定が狂っていた。彼女にしても困ったことだった。
「だが。アフリカ戦線ができたからな」
「一気にスエズを攻め落としたらどうかしら」
「そしてアフリカ戦線自体をなくすか」
「そうすればロンメル元帥を呼び戻せるわ」
「いや、残念だがそれもできない」
 グレシアのその提案をだ。レーティアは退けるしかなかった。
 そして残念そうな顔でだ。こう言ったのである。
「スエズを陥落させればそこからアラビア、インド方面に出るな」
「エイリスの植民地の中でも特に重要な部分にね」
「そうなればそこからエイリス軍が大挙して攻めて来る」
「今の時点でそれをやれば」
「そうだ。エイリスとの再度の全面戦争だ」
「バルバロッサ作戦どこではないわね」
「海驢作戦は再開する」
 このことはもう決めていた。だが、だったのだ。
「しかしそれはバルバロッサの後だ」
「ソビエトは今のうちに叩かないとね」
「さもなければ手がつけられなくなる」
「あれだけの国力があるからね、ソビエトは」
「しかも完全な独裁国家だ」
 それが共有主義の実態だった。正体はファンシズムに匹敵、いや下手をするとそれ以上の独裁国家なのだ。共有主義はそのまま独裁主義なのだ。
 そしてそれ故にだとだ。レーティアは言うのだった。
「カテーリンが軍事優先の政策を出せばだ」
「ソビエト全体がそれに従ってね」
「恐ろしい大軍が編成される」
「おまけに装備もいい、ね」
「だからだ。あの国は今のうちにだ」
「叩くのが一番ね」
「エイリスよりも先に叩く」
 その為にだというのだ。スエズ侵攻は。
「スエズはそれからでいい」
「ソビエトを倒してから。エイリス本土自体を占領して終わらせるのね」
「エイリスの心臓部を潰す」
 即ち首都であるロンドン星域を陥落させるというのだ。
「それで終わらせる」
「できたけれどね。あと一歩で」
「今言っても仕方がない」
 過ぎたことは、だった。レーティアは過去から学ぶが過去のことに囚われることは好まなかった。
「だからだ。今はだ」
「アフリカ戦線にはあれ以上戦力は送れないわね」
「しかし。ロンメルがいないとな」
 また溜息を出すレーティアだった。表情にも憂いがある。
「バルバロッサ作戦の成功もおぼつかないが」
「本当にね。どうしたものかしらね」
「とりあえず戦力が欲しい」 
 レーティアは切実な顔で述べた。
「バルバロッサ作戦成功の為にな」
「何処かにいないかしら。優秀な提督に将兵が」
「占領地を見てみるか。少し探そう」
「ええ、バルバロッサ作戦発動前にね」
 レーティアとグレシアは二人でロンメル達の穴埋めをする戦力を探しにかかった。そしてそのことはドクツ軍首脳部にも伝わっていった。それがまた一つの人物を世に出すことになったのである。だがその人物がどういった者かは神のみぞ知ることだった。
 このことは北アフリカにいるロンメルにも伝わった。彼はプロイセンからこの話を聞いたのだ。
「総統閣下が人材を探しておられるか」
「ああ、俺達がこっちに来たからな」
「ソビエトとの戦いの為のだな」
 そのことはロンメルも知っていた。元帥としてバルバロッサ作戦の会議に出席していたからだ。
「いよいよはじまるか。あの作戦が」
「俺達も本来はバルバロッサに参戦できたんだがな」
「仕方がない、そのことは」
 ロンメルは残念そうな顔になったプロイセンに微笑んで述べた。
「我々は我々の戦場で戦うだけだ」
「それはそうだけれどな。けれどこのままじゃな」
「そうだ。バルバロッサ作戦成功の為の戦力がない」
「それどうすればいいだろうな」
「彼がいればな」
 ロンメルはふとだ。遠い目をして言った。
「推挙したのだが」
「んっ?誰をだい?」
「士官学校の同期だ。彼がいればな」
「士官学校っていうと軍人かよ」
「中々できた人物だった。しかし何故か途中で士官学校を自分から退学した」
 そしてだというのだ。
「それから行方不明だ。どうしたものか」
「そいつがいればかよ」
「総統閣下に推挙したのだがな」
「じゃあそいつ探してみるか?」
「そうするか。我々でもな」
 人材を探そうとだ。ロンメルとプロイセンは話していた。そしてそうした話をしてすぐにだった。
 ロンメルのところに連絡が来た。それは。
「プライベートのこと?」
「あんたのベルリンの私邸に連絡があったそうだよ」
「さて。何だ」
 プロイセン妹からの話を聞いてだ。ロンメルは考える顔になった。
「俺は独身だし両親からだろうか」
「親御さん宛に来た話らしいよ」
 プロイセン妹はロンメルにすぐにこう述べた。
「そのね」
「ファーターかムッターか」
「まあそこはあんた自身が確かめてくれよ」
「そうだな。そうしよう」
 ロンメルはプロイセン妹とこうした話をしたうえで電話に出た。ベルリンの私邸とつながっているその電話をだ。出て来たのは彼の父だった。
「ムッター、どうしたんだい?」
「エル、御前に会いたい人がいるそうだ」
「プライベートのことでか」
「そうだ。会うか?」
「俺が知っている人かい?」
「ヒムラー君だ」
「ヒムラーだって?」
 その名前を聞いてすぐにだ。ロンメルは彼にしては珍しくその声をうわずらせた。
 そしてそのうえでだ。こう言ったのだった。
「また急にだな。何処でどうしていたんだ」
「それはわからないがヒムラー君と話すかい?」
「そうしたい。会いたいと思っていたところだ」
 プライベートでもその他のことでもだ。ロンメルにとっては渡りに船だった。 
 それでだ。彼は自分の父に答えた。
「じゃあ今すぐ電話で話をするよ」
「うん、それじゃあ彼の電話番号を教えるよ」
 こうしてだった。ロンメルはその旧友と話をしたのだった。ドクツにとってある意味において独特の存在感を持つ人物が現れようとしていた。
 ロンメルは早速電話をかけた。すぐに明るい若い男の声が返ってきた。
「ロンメル、久し振りだな」
「ヒムラー、今までどうしていたんだ?」
「ああ、士官学校を辞めてからだね」
「そうだ。心配していたんだが」
「何、元気にしていたよ」
 電話の向こうからだ。その彼はロンメルに明るく言ってきた。
「それに経済的にも困っていないさ」
「それならよかったが」
「で、今の俺だけれどね」
「そうだ。どうしているんだ?」
「親衛隊は知っているかな」
 彼は明るく電話の向こうのロンメルに問うた。
「彼等のことは」
「親衛隊?確か総統閣下の熱狂的なファンによって構成されている」
「そう。俺はその親衛隊の隊長なんだよ」
「そうだったのか。君が親衛隊の隊長だったのか」
「そうさ。それでだけれど」
 彼はロンメルに本題を話しにかかってきた。ロンメルも旧友のその話に乗った。
「俺を総統閣下に紹介してくれないかな」
「親衛隊長としてか」
「ドクツの為、何よりも総統閣下の為に働きたくてね」
「丁度君を探そうと思っていたところだ」
「おや、それは奇遇だね」
「ドクツは少しでも人材が欲しいところだ。だからな」
 バルバロッサ作戦のことは隠して。ロンメルは友に話す。
「俺の方でも君を探して総統閣下に推挙しようと思っていたんだ」
「じゃあ丁度都合がいいね。それじゃあね」
「今君は何処にいる」
「ベルリンだけれど」
「すぐにベルリンに戻る。そして君と会おう」
「うん、そうしてくれるかな」
 こうしたやり取りを経てだ。そのうえでだ。
 ロンメルは電話を切るとすぐにだ。プロイセン兄妹に話した。
「済まない、ベルリンに一旦戻る」
「ああ、その人が見つかったんだな」
「ロンメルさんが言っていたその人が見つかったんだね」
「自分から電話をしてきた。まさに渡りに舟だ」
 ロンメルは明るい顔でプロイセン兄妹に話す。
「彼を総統閣下に推薦する」
「よし、じゃあここは俺達に任せてくれよ」
「ロンメルさんはベルリンでその人を頼むよ」
「済まないな。すぐに戻る」
 こう言ってだ。ロンメルは北アフリカからベルリンに戻った。その旅路は彼にとっては楽しいものだった。彼は旧友との再会に心を躍らせていたのだ。


TURN25   完


                           2012・5・15



イタリンの救援とエイリスとの戦闘は無事に済んだな。
美姫 「とは言え、一気に攻めれないというジレンマね」
ロンメルをイタリンと共にさせないとまた同じ事になりそうだしな。
美姫 「人手不足感が出てきた頃にタイミングを見計らったかのようにヒムラーの登場ね」
さて、彼は無事に登用されるのだろうか。
美姫 「どうなっていくのか、次回も待ってますね」
ではでは。



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