『ヘタリア大帝国』




                               TURN22  各国の会議

 シュウ皇帝は今は重慶の離宮、しかし実質的には宮廷になってしまっているそこの玉座で不機嫌な顔になっていた。その理由は明らかだった。
「敗戦続いてるからねえ」
「香港さんとマカオさんも兄妹それぞれ日本帝国に入ったし」
「しかもリンファ提督もランファ提督も日本帝国に下ったら」
「不機嫌になるのも当然よね」
 女官達が皇帝のその不機嫌極まる顔を見てひそひそと話し合っている。
「万歳爺の気持ちもわかるけれど」
「今はね」
「そこ、聞こえておるぞ」
 その女官達にだ。皇帝は言った。
「黙っておれ」
「あっ、すいません」
「つい」
「全く。どういうことなのだ」
 皇帝は玉座で腕を組みまた言った。
「このままでは何時北京に戻れるかわからないではないか」
「もうすぐ日本とガメリカが戦闘に入ります」
「その時までの我慢です」
「ですからここは気持ちを落ち着かせて」
「機嫌をなおして下さい」
「では酒か馳走を持って来るのだ」
 それで気持ちを和らげることにした。皇帝もだ。
「そうするぞ。祖国子も呼べ」
「祖国さんですか?」
「あの方もですか」
「そうだ。共に飲み食いして気分を晴らすことにする」
 こう言うのだった。しかしだ。
 その皇帝にだ。女官達はこう答えた。
「祖国さんは今我が国にはおられませんよ」
「ガメリカに行っていますよ」
「むっ、そういえば会議だったな」
 皇帝もだ。女官に言われて思いだしたことがあった。
「ガメリカ以外の国とも同盟を結ぶことになったのだったな」
「はい、エイリス、オフランスとです」
「そしてソビエトとも」
「五ヶ国か。しかしな」
 その顔触れを聞いてだ。皇帝は微妙な顔になった。不機嫌な顔ではなくなったがそれでもだ。今度もあまりいい顔ではなかった。その顔で言うのだった。
「ソビエトか」
「やはりあの国はですか」
「お好きではないですか」
「日本より危険であろう」
 真剣に危惧する顔での言葉だった。
「共有主義は皇帝を否定しているではないか」
「はい、階級自体を否定しています」
「そして私有財産も」
「それでは朕はどうなるのだ」 
 その皇帝としてだ。彼は言った。
「革命が起こればどうなるのだ」
「やはり。その時はです」
「ロマノフ朝と同じく」
「冗談ではないぞ。自分を殺すつもりの相手と同盟なぞ結べるものか」
「ですが日本帝国もドクツ、イタリンと同盟を結びました」
「三国による枢軸が完成しています」
「それに対する為にはです」
「やはり」
「ガメリカだけで充分ではないのか」
 皇帝は今度は太平洋の国としての立場から言った。
「欧州ならエイリス、オフランスとだけでだ」
「それが。万全を期す為に」
「そうしたことになりました」
「ドクツの勢いを止める為にです」
「ソビエトも引き込むことになりました」
「国益か」 
 憮然とした顔で。皇帝は言った。
「それ故にだな」
「日本を我が国から追い出しガメリカと太平洋経済圏を築いた後はです」
「ソビエトに日本をぶつける」
「それで宜しいかと」
「ふむ。双方を戦わせる」
 皇帝は幾分か冷静な顔になって述べた。
「いいやり方だがな」
「はい、では一時的にということで」
「ソビエトとも同盟を結びましょう」
「ではそうしよう。朕もわかった」
 納得した、そうだというのだ。
「それでいこう」
「はい、それではその様に」
「祖国さんにもお伝えしておきますね」
「祖国子もロシアとは仲が悪いがな」
 皇帝もよく知っていた。伊達に彼の上司ではない。
「それも昔からだったな」
「原始の八国でロシアと仲がいいとなると」
「フランス位ですよ」
「イタリアは怖がってまるし」
「アメリカや日本とも仲が悪かったな」
「はい、特に日本とは」
「まさに犬猿の仲です」 
 女官達もよく知っていた。とにかくロシアは色々な国と仲が悪い。しかもそこに共有主義だ。シュウ皇帝でなくとも警戒せずにはいられなかった。
 その皇帝がだ。あらためて女官達に述べた。
「では妹を呼べ」
「はい、妹さんですね」
「あの方をですね」
「祖国子がいないのなら仕方がない」
 それならばだった。妹と共にだというのだ。
「酒に馳走だ。妹の作ったものを食べたい」
「そして一緒にですね」
「召し上がられるのですね」
「そうする」
 こう言ってだった。そのうえでだ。
 皇帝は中国妹を呼びだ。こう彼女に言った。
「今から馳走を作ってくれるか」
「どの料理にするあるか?」
「そうだな。重慶にいるのだしな」
 それならばだと答えてだった。皇帝が選んだ料理は。
「四川がいい」
「それあるか」
「そうだ。あの辛い料理を食べるとしよう」
「では麻婆豆腐はどうあるか?」
 中国妹はまずはこの料理を話に出してきた。
「その他にも色々と作るあるよ」
「頼む。今は美味いものを食べることで気を晴らすとしよう」
「それはいいあるがあまり食べ過ぎると身体に悪いあるよ」
 中国妹は国として自分の皇帝を嗜めもした。
「だから運動もするよろし」
「わかっている。これでも自由の身ではない」
 皇帝は憮然とした顔になって中国妹に対して答えた。
「何しろだ。朕は皇帝なのだからな」
「わかってくれてたらいいある。それじゃあ」
「今は酒を控えるか。食事の後はだな」
「はい、お身体を動かして下さい」
「ガメリカ風にテニスでもされますか?」
「それはその時に考えるとしよう」
 女官達の問いにはこう返した。
「では今からだ」
「早速作るあるよ」
 こうした話をしてだ。そのうえでだった。
 シュウ皇帝は今は中国妹が作る四川料理と運動でストレスを解消していた。彼がそうしているその時にガメリカの首都ワシントンに国々が集っていた。
 まずはアメリカに中国、そしてイギリスにだ。彼もいた。
「おいおい、随分時間がかかったな」
「ちょっと色々と教えてたんだよ」
「教えてたって新しい上司にか」
「ああ、今の上司、国王代理とも摂政とも言うんだがな」
 どちらにしてもだ。国政を代理する立場の人間だというのだ。
「その人にな。政治とか軍事とか一から教えててな」
「確か御前のところの王族のお姫様だったよな」
「そうだよ」
 フランスはこうイギリスに答える。彼等は円卓のある会議室に入っている。その会議室は機能的で簡素なものだ。その場で話をしているのだ。
 その中でだ。フランスは言うのだった。
「シャルロット=パルトネーさんっていってな」
「そっちのどういった王女さんなんだ?」
「前の王様、今は前の前か」
 そのシャルロットが一応国家元首だからだ。そうなるのだった。
「その人の四番目の娘さんだったんだよ」
「何か微妙な位置にいそうだな」
「正直お姫様でしかも四番目だとな」
「そっちじゃ王位は回らないよな」
「殆どな。だから軍事とか政治に無縁で育ててもらってな」
 それでだとだ。フランスはイギリスに話していく。
「で、いざ国家元首になるとな」
「そういうことは全然知らなかったのかよ」
「だから俺が今一から教えさせてもらってるんだよ」
 フランスはこの事情をイギリス達に話しながら空いている、とはいっても何故か仲の悪いイギリスの隣の席に座りながら話した。
「で、今回もだよ」
「マダガスカルから来たんだな」
「いい島だぜ。暑くてな」
 フランスはこの自嘲めかした皮肉を言葉に出してみせた。
「もう冬が来たっていうのもわからない具合だぜ」
「それはまた凄いな」
「おい、それは御前のとこでもだろ」
 フランスはイギリスにすぐに返した。
「ベトナムとか四国とかはそうだろ」
「ああ、マレーとかか」
「その辺りはかなり暑いだろ」
「まあな。特にベトナムなんて雨ばかりでな」
「あそこそんなに雨多いのかよ」
「多いなんてものじゃねえよ。特に現地の娘提督にしてるんだけれどな」
 ここでだ。イギリスはこんな話をはじめた。
「その娘がいるところは雨が降るんだよ、絶対にな」
「すげえ雨女なのか?」
「それがな。おかしいんだよ」
 急にだ。イギリスは腕を組んで深刻に考える顔になって言い出した。
「普通な。船の中とか雨降らねえよな」
「水漏りじゃねえよな」
「ああ、それじゃなくてな」
「本当に船の中で雨が降るのかよ」
「そうなんだよ。おかしいだろ」
「怪奇現象かよ、それ」
「ベトナムに聞いてもわからないって言うしな」
 エイリスの植民地の国の一つだ。エイリスには多くの植民地があり他にも多くの国が存在している。ベトナムは東南アジアのエイリスの植民地の一つだ。
「とにかくおかしいんだよ」
「またそりゃ訳のわからねえ話だな」
「ああ。あとベトナムの辺りも最近な」
「まだ何かあるのかよ」
「あれなんだよ。あっちに送ってる総督がな」
 エイリスは統治として植民地に総督を送って治めさせているのだ。この総督はかなりの権限を持っており実質的にその植民地の元首ともなっている。
 その上に女王がいて統治しているのだ。完全な間接統治だ。
「どうもなあ。おかしな奴でな」
「汚職とかしてるんだな」
「そうだよ。困ってるんだよ」
 イギリスの顔は頭を抱えんばかりになってきていた。
「マレーとかな。インドの辺りもな」
「まともな総督に交代したらどうだよ」
「それどころか統治の全面的な刷新な。今の陛下も考えておられたんだけれどな」
 だがそれでもだというのだった。
「今の戦争になってな」
「ああ、その戦争のお陰で俺なんかな」
「また随分あっさりと負けたな、手前はよ」
「あんなのありかよ。姿の見えない敵だぞ」
「あれの正体も今調べてるところだよ」
「早く解明してくれよ。このままだとドクツにやられっぱなしだろ」
 こう話すのだった。そしてだ。
 イギリスとフランスは彼等の話が終わったところで今部屋にいる太平洋の二人に顔を向けた。見れば彼等は空いている二つの席のうちの一つを見ていた。
 その二人にだ。イギリスが声をかけた。
「おい、その席はな」
「知っているさ、ロシアの席だな」
「あいつが座る席あるな」
「そうだよ。けれど今回はな」
 今回の席はどうかというのだ。
「普通の席だからな」
「何だ、あの呪いの席じゃないのか」
「少しがっかりしたあるぞ」
「いや、あいつにはあの椅子の呪いも効かないからな」
 イギリスは二人に残念そうに答えた。
「俺としちゃ効いて欲しかったんだけれどな」
「できればドクツに負けて欲しいぞ」
「同感ある」
「それが同盟国への言葉か?」
 フランスも二人の言葉には少し引いた。
「まあな。俺はいいとしてな」
「僕は共有主義も大嫌いだぞ」
「同じあるぞ」
「だよな。共有主義なあ」
「あれ一体何なんだ?」
 イギリスはフランスにその共有主義に対して尋ねた。
「急に出て来てしかもな」
「ああ、あれな」
「ドクツのあれだろ?そもそもは」
「あの経済学者から出て来たんだけれどな」
「俺のところにも来てたけれど妙な学者だったよ」
 その学者からだ。共有主義ははじまったというのだ。
 イギリスもそのことは知っていた。しかしだったのだ。
「けれどな。どうもな」
「ああ、あのカテーリンが言い出して急に広まったな」
「あのカテーリンって何だ?ただの子供じゃないのか?」
 イギリスは真剣にそのカテーリンについて言った。
「小学生位だろ、どう見ても」
「俺もそう思うけれどな」
「レーティア=アドルフみたいな天才タイプでもないよな」
「クラス委員か生徒会長か?」
 フランスはカテーリンをそう見ていた。そうした感じの子供だというのだ。
「学校にいるな。そうした娘って思うんだけれどな」
「俺もそう思う。何でロシアもあそこの国民も従ってるんだろうな」
 そのだ。子供にだというのだ。
「ソビエトは確かにとんでもない大国に。あのロシア帝国以上になったけれどな」
「ああ、考えれば考える程おかしな話だな」
「僕は全然嬉しくないぞ、ソビエトの成長は」
「北からの脅威が一番迷惑あるからな」
 アメリカはアラスカ方面で対峙しており中国は古来より北の勢力に脅かされ続けている。だから彼等はロシアそのものに対して好感を抱いていないのだ。
 そしてそこに共有主義が加わりだ。そのうえでだった。
「あの思想は絶対に入れたくないな」
「リンファもそれが問題だったあるからな」
「けれど仕方ないだろ。このままじゃドクツや日本にいいようにされるだろ」
 イギリスは二人にドクツや日本のことを話した。
「特にドクツな。もうすぐこっちにも来そうだしな」
「大丈夫なのかよ、御前も」
「何とかやってみせるさ」
 イギリスは覚悟している顔でフランスに述べた。
「俺にしてもな。何とかな」
「そうか。じゃあ気合入れて戦えよ」
 そんな話をしながらロシアを待った。そしてだ。
 そのロシアが来た。ソビエトの赤い軍服を着ている。するとフランス以外の面々の感じが一変した。だがその彼等をよそにだ。ロシアは至って穏やかな顔でこう言ったのだった。
「じゃあ皆お話する?」
「ああ、話の内容はわかるよ」
「枢軸の人達のことだよね」
 大柄だが何処かおどおどとした感じでだ。ロシアはイギリスに答えた。
「ドイツ君や日本君達の」
「もう一人いるんだけれどそいつはどうでもいいからな」
 イギリスはイタリアにはこう言った。
「あそこは上司も能天気だしな」
「イタリンな。そういえばいるんだよな」
 フランスもこの国についてはこんな感じだった。
「あそこはどうもな」
「まあ大して気にしなくていいだろ」
 イギリスもかなり気楽に考えていた。イタリン、そしてイギリスについては。
「とにかくだよ。今はな」
「ああ、ドクツや日本をどうするかだな」
「受け持ちはどうするかだ」
 イギリスは話を本題に進めた。まずはだった。
「ドクツは俺がメインになるか?もうすぐこっちに来るだろうからな」
「僕も行こうか?」
「いや、御前は日本があるだろ」
「物資位は送られるぞ」
「じゃあ頼む。こっちも植民地との航路は守らないとな」
「じゃあ物資は送るがこっちは太平洋だな」
「頼むな、俺も植民地防衛で向こうにも艦隊を送るだろうがな」
 イギリス、そして彼の上司であるセーラが判断するというのだ。
「まあメインは御前と」
「僕は何とか粘るある」
 中国はこうイギリスに答えた。
「正直。重慶だけでは厳しいあるがな」
「御前は日本の戦力をある程度引き付けておいてくれ」
 イギリスもイギリスで中国に言う。
「で、ガメリカの援助もな」
「それが頼りあるよ。なければもって一年あるな」
「もってくれよ、とりあえずな」
 中国はその役目だった。そしてだ。
 この話からだった。さらに。
 イギリスはロシアに顔を向けてだ。彼にも言った。
「俺が引き付けているけれどな」
「君が負けたらドイツ君僕のところに来るよね」
 ロシアはにこりと笑ってこうイギリスに言ってきた。
「そうだよね」
「おい、俺が負けるっていうのかよ」
「その可能性はゼロじゃないのかな」
「俺だって負ける訳にはいかないんだよ」
 イギリスはムキになった顔でロシアに言い返した。姿勢もそうなっている。
「ここで負けたら本当に終わりだからな」
「けれどドイツ君、そしてドクツ第三帝国自体かなり強いよ」
「ドクツが幾ら強くても国力では上だからな」 
 エイリスも伊達に世界帝国ではない。そしてその中心の国家であるイギリスもだ。
「だから絶対に勝つからな」
「じゃあ僕の出番はないのかな」
「御前はそこにいてドイツや日本の押さえだな」
 要するに動くなというのだ。
「まあ適当にやっておいてくれ」
「じゃあ日本君と戦争に入ろうかな」
 ロシアがにこやかにこう言うとだ。アメリカと中国の表情が一瞬凍った。 
 だがそれはほんの一瞬でだ。すぐにこう言ったのだった。二人で。
「ははは、まあ僕達がいるからな」
「出番はないあるぞ」
 二人はこの戦争の後でその日本をロシア、つまり人類統合組織ソビエトにぶつけるつもりなのだ。だから今はロシアに対してこう言うのだった。
「君は見守っていてくれ」
「何もすることはないあるぞ」
「そう。だったら静かにお茶でも飲んでいようかな」
 ロシアは二人に言われてとりあえずは大人しくなった。
 だがそれでも何処か油断のない気配の感じでそこにいた。その彼を見ながらだ。
 イギリスは最後にフランスにだ。こう言った。
「で、御前はな」
「ああ、俺な」
「どうする?」
 これまでとはうって変わってだ。イギリスはかなり手持ちぶたさな感じになってた。
「御前は」
「どうするってよ。いや、俺だってな」
「戦いたいか?」
「俺の本体を回復したいんだけれどな、ドクツからな」
 わりかし切実な顔でだ。フランスはイギリスに答えた。
「けれどな。上司の人がな」
「そのシャルロットさんかよ」
「あの人に色々教えててな」
 そしてだというのだ。
「それも忙しいし。しかもな」
「平和主義かよ」
「オフランスのな。今のビジー司令官もそっちだしな」
「じゃあ動けないってのかよ」
「だからマダガスカルにいるんだよ」
 そこからだ。軍を全く動かさないというのだ。
「そうしてるんだよ」
「そうか。じゃあ御前はな」
「ああ、それで何をするんだ?」
「今はとりあえずインド洋の防衛を頼むな」
 戦場にすらなっていないだ。そこのだというのだ。
「そこに俺の艦隊もいるからな」
「ああ、じゃあセーシェルと一緒にいるな」
「頼むな。で、それぞれの担当が決まったな」
「よかったね。これなら上手くいきそうだね」
 ロシアがフランスに応えて言う。
「楽しみにしてるよ」
「いや、楽しみじぇねえだろ」
 イギリスはそのにこにことしているロシアを見据えながら言い返した。
「しかもな。御前の隣の席な」
「あっ、この席だよね」
「何で空いてるんだ?」
 イギリスはその空席を見ながら言う。
「ここにいるのは連合の主立ったメンバーでな」
「うん、僕達五人だけだよね」
「で、何でもう一つ椅子があるんだよ」
 メンバーは五人だが椅子は六つあった。
「誰の席だよ、それ」
「君が間違えて置いたじゃないのか?」
「そう思っていたあるが」 
 開催国のアメリカも知らなかった。当然中国もだ。
「僕は置いてないぞ」
「気付いたらそこにあったあるが」
「いや、俺も置いてねえぞ」
 イギリスも知らなかった。当然ながら。
 フランスは首を捻りながらだ。イギリスに尋ねた。
「オーストラリアとかニュージーランドとかじゃねえのか?」
「あいつ等は植民地会議の方だよ」
「じゃあ違うんだな」
「だから言ってんだよ。この席は何なんだよ」
 本気でわからないといった顔だった。今のイギリスは。
「ロシアの冬将軍とかか?」
「スノーさんなら今はロシア平原だよ」
「じゃあ誰の席なんだよ」
「言っておくが俺でもないからな」
 フランスも言う。
「ジャンヌ=ダルクじゃねえからな」
「ってジャンヌ死んだだろうが」
「生きてるんだよ。俺の守護聖人になってんだよ」
 驚くべきことにだ。そうなっているというのだ。
 だがあれこれ話してもだ。それでもだった。
 この席の主がわからずだ。五人は遂に言い出した。
「だから誰なんだよおい、この席の主はよ」
「君の勘違いだろう」
「そうに決まってるある」
 アメリカと中国は素っ気無くイギリスに返す。
「ははは、君も遂にぼけたかな」
「アルツハイマーにはこのお茶がいいあるぞ」
「国がぼけるのかよ」
 忌々しい顔でだ。イギリスは二人に返した。
 そしてロシアもだ。こうイギリスに言う。
「イギリス君も歳だから仕方ないよ」
「おい、俺達と枢軸の三人は原始の八国で大体同じ頃に生まれただろうが」
 だから彼等の年齢は変わらないというのだ。
「俺がぼけるんなら御前等はどうなるんだよ」
「けれど本当に誰の席なんだよ」
 フランスはここでは冷静なままだった。
「ロシアの前の上司の亡霊とかじゃねえのかよ」
「だったらスノーさんが来てくれるよ」
「だよな。謎が謎を呼ぶな」
「本当に誰の席なんだろうな」
 イギリスが最後に言う。しかしだった。
 結局彼等はその席の主が誰かわからなかった。だがそれでもだ。
 その席には実はカナダがいた。彼は期待している顔で一緒にいるクマ二郎さんに尋ねた。
「ねえクマ九郎さん」
「誰?」
「君の飼い主のカナダだよ」
 まずはこのやり取りからだった。お互いの名前を知らないのだった。今も尚。
「それで僕の喋る番は何時かな」
「そのうち来るんじゃないのか?」
 クマ二郎さんはどうでもいいといった口調でカナダに答えた。
「待っていればいいと思う」
「そうだね。それじゃあね」
 だが五人の誰もカナダには気付かなかった。誰一人としてだ。
 五人の会議は何はともあれ終わりに近付こうとしていた。ここでだ。
 イギリスがだ。こう他の四人に言った。
「じゃあ何か食うか?作るぜ」
「いや、御前は何も作るな」
 すぐにだ。フランスがイギリスを止めてきた。
「お茶だけ淹れろ、いいな」
「おい、俺の料理がまずいってのかよ」
「そうだよ、御前の料理は最悪だからな」
 極めつけにまずいというのだ。彼の料理は。
「だから作るな。いいな」
「何だよその言い方」
「御前北欧連合との戦いでデンマークとかに駄目出し食らったよな」
「あれはあいつ等が味わからねえだけだ」
「とにかくいいからな。御前はお茶だけでいいからな」
「くそっ、何で俺の料理は誰も食おうとしねえんだよ」
「だから自覚しろってんだよ」
 フランスは呆れた顔でイギリスにまた言った。
「そもそも御前何作ろうと思ってたんだよ」
「んっ?スコーンとか焼いてカレーでもな」
「カレーかよ」
「ああ、ビーフシチューかな」
「御前のビーフシチューより日本の肉じゃがの方がずっと美味いからな」
 そのだ。日本がビーフシチューを作ろうと思って何故かそうなってしまったその肉じゃがの方が美味かったというのだ。フランスは真顔でイギリスに言う。
「食い物にかけたら御前はイタリアの足元にも及ばないからな」
「あいつそういうのは凄いからな」
 それはイギリスも認めた。確かにイタリアは料理はよかった。
「料理とか芸術はな」
「そもそも御前の料理のセンスはないにも程があるんだよ」
「何度も言わなくてもわかるからな。じゃあ今は何もしないからな」
「スコーンもいいからな。まあとにかく今はな」
「ハンバーガー食べるかい?」 
 アメリカは言いながらハンバーガーにファーストフードの山を出してきた。
「サンドイッチやホットドッグもあるぞ」
「また身体に悪そうなものばかりあるな」
 中国はそのファーストフード達を見て述べる。
「医食同源という言葉を知っているあるか?」
「しかしそう言う君も食べてるじゃないか」
 見ればだ。中国はもうハンバーガーを食べはじめていた。アメリカの次に食べだしている。
「それで味はどうだい?」
「悪くはないあるな」
 実はハンバーガーも嫌いではない中国だった。だからこそ食べていた。
 そしてイギリスも食べてみてだ。こう言うのだった。
「俺の国こんな美味いものねえぞ」
「御前がどうかしてるだけだな、それはな」
 フランスはこうそのイギリスに突っ込みを入れた。
「だからどうしてそうまずいんだよ」
「女王陛下は美味いって言ってくれるんだけれどな、俺の料理をな」
「そりゃあの女王さんが優しいだけだよ」
 それでだとだ。フランスはイギリスに言った。
「それでなんだよ」
「おい、じゃあ女王陛下は我慢してるっていうのかよ」
「それか御前の料理がな」
「ああ、俺の料理が何だってんだ」
「エイリスの標準なんだよ」 
 そのだ。すこぶるまずい料理がだというのだ。フランスはうんざりとした顔でこう指摘したのだ。
「御前の国のな」
「じゃあ俺の妹のあれはどうなんだよ」
「あいつ朝飯しか作れねえだろ」
 ブレイクファストのメニューだけだ。イギリス妹が作られるのは。
「だったら大して変わらないだろうがよ」
「御前あいつの料理は美味いって言ってるじゃねえか」
「だからあの娘は標準以上なんだよ。けれどな」
「作れるのは朝飯だけだっていうんだな」
「毎食朝飯のメニュー食う気かよ」 
 フランスが言うのはこのことだった。
「どんだけ貧しい食生活なんだよ」
「そういう御前もかつては酷かったよな」
 イギリスはたまりかねてフランスのかつての料理のことを言った。
「イタリアのところから上司の奥さんが来るまでな」
「また随分大昔のこと言うな、おい」
「実際酷かっただろうが」
「その頃から手前は全然変わってねえだろうが」
「何っ!?胡椒の使い方は覚えたぞ」
「そんなの常識だろうが」
 二人で言い合う。やはりイギリスとフランスの関係はよくない。こうした言い合いの後でだ。
 会議は自然と流れた。イギリスはやれやれといった顔で帰路につく。その彼の横にだ。
 妹が来てだ。こう言ってきた。
「あの、お兄様の会議の方は」
「いつもの調子だよ」
 視線をやや逸らさせてだ。イギリスは妹に話した。場所は会議が行われていた建物の廊下だ。そのガメリカ調の廊下を進みながら話すのだった。
「あの顔触れだとな。結局な」
「昔からですね」
「言い合いになって大して何も決まらないままな」
「終わりますか」
「俺達八人ってどうなんだろうな」
 イギリスは少しうんざりとした顔にもなっていた。
「顔を見合せば言い合ってな。今だってな」
「二つに分かれて」
「戦争してるからな。国家ってのも因果なものだな」
「そうかも知れないですね。ですが」
「ああ、やるからにはな」
「勝たねばなりません。私達の方は」
「そっちはいい感じだっただろ」
 兄はこう妹に言った。実際に兄達の関係よりも妹達のそれは遥かにいい。少なくとも喧嘩はしないしわりかし和気藹々と話は進んでいたのだ。
 それでだ。妹はこう兄に答えたのだ。
「はい、それぞれの援助や受け持ちも話しまして」
「俺達もそうだったけれどな」
「後でお兄様にその会議の詳細を書いたファイルを届けます」
「頼むな。それじゃあな」
「その後ですが」
 また言う妹だった。
「本国に戻る前に」
「連中とも和すか」
「そうされますか?」
「ああ、植民地の国家ともな」
 話す、そうするというのだ。
「話さないとな」
「ドクツは強敵です」
 厳しい顔になってだ。妹は兄に話した。
「お兄様と私だけでは」
「エイリスの総力を結集しないと勝てないな」
「ドクツは間も無くエイリス本土の攻撃にかかります」
 イギリス妹は厳しい顔のまま兄に話す。
「それを凌ぐ為に。何とか」
「植民地からも戦力を集めてだな」
「そうしないといけないです」
「植民地防衛の戦力はどうしたらいい?」
「まずは本国ですが」 
 だがそれでもだとだ。イギリス妹は話す。
「最低限の守りを置いて」
「日本にも備えないとな」
「日本さんもです」
 日本、彼自身について話すイギリス妹だった。
「侮れません」
「強いな、ロシアにも勝ってるしな」
「貴族の方々は甘く見ておられますが」
「あの連中もどうにかならないか?」
 イギリスは困り果てた顔で妹に話す。
「本当にな」
「内憂ですね」
「ああ、傲慢なうえに自分達のことしか考えてねえ」
「腐敗しているのは確かですね」
「この戦争がなければな」
「陛下のお考え通りですね」
「改革しているところだったよ」
 貴族制度や貴族院、そういったものに対してのだというのだ。
「けれどそれがな」
「戦争のせいで」
「できなくなったからな」
「物事には優先順位があります」
 イギリス妹はこのことも兄に述べた。
「そして戦争はです」
「第一だからな」
「負けては元も子もありません」
「国家自体がなくなるからな」
「はい、だからこそです」
「まずは戦争に勝たないとな」
 この戦争、それにだというのだ。
「まあ太平洋の植民地はな」
「植民地軍だけでなく」
「陛下も軍を送られるらしいからな」
「何かと苦しいですがまずは」
「ああ、ドクツの侵攻に勝たないとな」
「本当に間も無くです」
 ドクツがだ。来るというのだ。
「今オフランス方面にドクツ軍が集結しています」
「やばいな、本当にな」
「それに対して我々はです」
「こっちも植民地軍から何でも集めてるしな」
「総力戦になります」
 まさにそうなるとだ。イギリス妹は述べる。
「では」
「ああ、じゃあ植民地の連中の話も聞くか」
「メンバーですが」
 植民地会議のメンバーの顔触れをだ。妹は兄に話した。
「オーストラリアさんにニュージーランドさん」
「あの二人にだよな」
「トンガさんにインドさん、エジプトさんにカメルーンさん」
「東南アジアの連中も全員来てるか?」
「はい、ベトナムさんにマレーシアさんにインドネシアさんがです」
「そうか、本当に全員だな」
「では皆さんのところに今から行きましょう」
 妹は兄に言ってだ。そのうえでだ。
 兄をそのエイリス植民地の国々による会議が行われている部屋に案内した。そしてその円卓にだ。
 兄妹で着く。そのうえで面々と話そうとする。しかしだった。
 彼等は誰もがだ。どうにも様子がおかしかった。特に東南アジアの面々がだ。
 妙な気配だった。イギリスもそのことに気付いて彼等に問うた。
「どうしたんだよ、何があったんだよ」
「いや、別にな」
「何もないよ」
「特にね」
 ベトナムにインドネシア、マレーシアはこう返す。しかしだった。 
 イギリスに対する態度は素っ気無い。そしてこう言うのだった。
「日本が来る話はこちらにも来ている」
「だから。今は僕達の国土を守りたいけれど」
「そちらに戦力を送ることは」
「おい、できないとかは言うなよ」
 イギリスもだ。彼等にこう返した。
「わかってると思うがもうすぐドクツ軍が来るんだぞ」
「それはわかっているたい」
 植民地の中で飛び抜けて大きいインドが言ってきた。
「しかし。それでも」
「そっちの防衛かよ」
「日本が来たらどうするたい、今すぐにでも」
「いや、ドクツは今すぐに来るけれど日本はまだ時間があるからな」
 イギリスはこうインド達に返した。
「だからな。まずはな」
「ドイツを退けることが先決でごわすか」
「ああ、まずはそれだ」
 イギリスはオーストラリアにも話した。
「それからだ。エイリスの総力を結集させてドクツに対する。これでどうだ」
「確かに。数では我々はドクツを圧倒しています」
 カメルーンは腕を組み冷静な面持ちでイギリスに答えた。
「そして戦争は数です」
「だからだよ。いいな」
「しかしです。ドクツを破ります」
「ああ、それからのことか?」
「若しもドクツとの戦いで損害が多く出て」
 そしてだというのだ。
「その後で日本と戦うとなると」
「安心してくれ。その時は本国から騎士提督が率いる艦隊を送る」
「騎士提督!?」
「騎士提督の艦隊を」
「ああ、そうするからな」 
 エイリスの切り札とも言えるだ。彼等のうちの誰かが率いる精鋭艦隊が来ると聞いてだ。植民地の面々はそれぞれの顔色を一変させて問い返した。
「まさか。そこまで」
「女王陛下は」
「ああ、これでどうだ」
 イギリスは真剣な面持ちで植民地の国家達に問うた。
「戦火は及ぼさせない。絶対にな」
「わかった」
 ベトナムがだ。イギリスを見ながら彼に返した。
「それならだ。私達もだ」
「艦隊を送ってくれるな」
「そうする。すぐにな」
「頼むぜ。今は本当にやばい状況だからな」
「エイリスが倒れれば我々は主がいなくなる」
「ロンドンが占領されたら終わりだ」
 エイリスの首都ロンドン星域はオフランスのパリ、今ドクツ軍が集結しているその星域から目と鼻の先だ。エイリスはまさに喉元に刃を突き立てられているのだ。
 だからこそだ。イギリスも言うのだった。
「だからな。ロンドンじゃ総力戦だ」
「ドクツを凌ぐのね」
「そうなるね」
 マレーシアとインドネシアはお互いの顔を見て話す。
「エイリスの為に」
「僕達もまた」
「この戦いに勝ったらな」 
 戦いの後のこともだ。イギリスは彼等に話す。彼も必死だ。
「女王陛下は御前等にこれまで以上の自治権も与えることを言っておられるからな」
「自治権、ね」
 その言葉を聞いてだ。マレーシアの眉がぴくりと動いた。
 そのうえでだ。こうイギリスに言うのだった。
「エイリスの中で、なのね」
「ああ、エイリス連邦っていうかな」
 イギリスはこの国家の名前を出してきた。
「エイリス帝国を宗主国とした連邦国家だよ」
「言うなら独立ね」
「かなりの自由も認められるからな」
「総督はいるのよね」
「まあ。象徴みたいになるか?」
 イギリスはセーラが言っていた考えをそのままマレーシア、そして他の面々に話す。
「とにかく。かなりの改革が行われるからな」
「わかったわ」
 表情を消してだ。マレーシアはイギリスの言葉に答えた。
「それではね」
「とにかく今は頼むな」
「艦隊を送るわ」
 マレーシアも約束した。しかしその目の感じは変わらない。
「そうするわ」
「悪いな、じゃあ頼むな」
 こうしてだ。エイリス本土に植民地の国家達も艦隊を送ることを了承した。イギリスにとっては戦力を確保できた有意義な会議だった。しかしだ。
 その会議の後でだ。会議室、彼等がまだいるその部屋の中でインドはそっとマレーシア達東南アジアの面々のところに来てだ。こう囁いたのだった。
 既にイギリスも彼の妹もいない。彼等がいないのも見計らっての言葉だった。
「ああ言ってるたいが、イギリスさんは」
「そうだ。我々はな」
「本音はね」 
 ベトナムとマレーシアがインドのその言葉に応える。
「独立だ」
「それが望みよ」
「僕もだよ」
 このことをだ。インドネシアも言った。
「そしてそれはオーストラリア達もだからね」
「彼等も現地の人達がいるたい」
「そう。だから独立を考えているよ」
 エイリス帝国からの完全な独立、それをだというのだ。
「皆ね。今はね」
「正直。僕もです」
 カメルーンも話に加わってきた。彼も残っていたのだ。
「独立したいですね」
「そうたい。植民地はもう真っ平たい」
「しかしどうする?エイリスが勝って約束通りになろうとも」
 どうかとだ。ベトナムは仲間達にこのことを話した。
「私達はエイリスの中にいるままだぞ」
「そうたい。何とか独立したいものたい」
「アメリカは我々を独立させたい様だな」
 ここでだ。ベトナムが言った。このことをだ。
「日本を叩くのと一緒にな」
「それは僕達にとってはいいことだけれどね」
 インドネシアはアメリカ、ひいてはガメリカのその考えはよしとした。
「ただ。ガメリカはエイリスと一応同盟を結んでいるから」
「そう簡単にはいかない可能性があるな」
「どうすればいいかな、ここは」
「私に考えがある」 
 ベトナムは鋭い目になって一同に述べた。
「東南アジアで唯一植民地でないタイを通じてだ。私が日本に伝えたい」
「その日本にたい?」
 インドはベトナムの今の言葉を聞いてすぐに問い返した。
「何を伝えるたい?」
「独立を保障して経済圏を確立してくれるのなら喜んで協力する」
 これがだ。ベトナムの考えだった。
「そして日本が独立を認めるな」
「それと一緒にたいな」
「そうだ。ガメリカとそのガメリカと手を結んでいる中帝国にも我々の独立を承認させる」
「タイを通じて話すたいか」
「連合国の中に私達の独立を承認する国を作るんだ」
 それもだ。複数だというのだ。
「これでかなり違う筈だ」
「僕達が独立したらエイリスはかなり弱まるたい」 
 インドはこのだ。エイリスの弱点を把握していた。そしてそれはベトナム達もだった。
 エイリスの国力は植民地によって支えられている。ではその植民地がなくなってしまえばどうなるのか。それは最早自明の理であった。
 だからだ。彼等は今このことも話すのだった。
「そうなれば僕達の独立に反対できないたいな」
「いい考えだと思うが」
「うん、最高たい」
 そこまでだとだ。インドはベトナムに微笑んで答えた。
「ではまずはタイに話すたい」
「私からそうしておくな」
「頼めるたいか?」
「私とタイは確かに微妙な関係でもあるがな」
 実はライバル関係にあったのだ。かつての彼女とタイは。
 だがそれでもだとだ。ベトナムは言うのだった。
「しかしタイも植民地化されそうだったからな」
「その独立を確かなものにする為にたいか」
「周りが植民地だけでは何時どうなるかわからない」
 実際にだ。タイももう少しでエイリスの植民地になるところだったのだ。それを得意の外交と運で何とか乗り切ったのがタイなのである。
「しかし周りが全て独立すればだ」
「その独立も守れるたいな」
「その通りだ。だからタイにとっても悪い話ではない」
 ベトナムはこの読みもインドに、そして今共にいる他の国々にも話した。
「必ず乗る」
「正直ね、もうエイリスの植民地なんてね」
「沢山だからね」
 マレーシアとインドネシアも本音を言う。
「植民地の立場なんて」
「独立したいよ」
 こう言ってだ。彼等もだった。
 ベトナムの考えに賛成する。そしてカメルーンもだ。
 いるが一言も話さないエジプトにだ。こう尋ねた。
「貴方も同じですね」
「・・・・・・・・・」
 無言でこくりと頷いた。これがエジプトの返事だった。
 こうして意見がまとまった。しかしだ。
 インドがだ。ここでこう言った。
「オーストラリア達にも話した方がいいたいな」
「そうだな。オーストラリアとニュージーランドは比較的エイリスに好意的だがな」
「それでも植民地としては独立したがっているたい」
「それなら引き込める」
 自分達のところにだと。ベトナムは淡々として述べた。
「私達も私達の願いがあるからな」
「その為に動くたい」
 インドも応え。そうしてだった。
 彼等は会議の後でタイに話すことを決めたのだった。独立のことを。
 その代表はベトナムだった。彼女がタイのところに赴いて話した。
 そのことを話してからだ。ベトナムはタイに問うた。
「タイはどう思うか」
「独立国が増えることですか」
「そうだ。そのことについてどう思うか」
「いい考えだと思います。ただ」
「ただ。何だ」
「日本さんもガメリカさんも中さんも貴方達の独立は認めるでしょう」
「しかしか」
「はい、ですがそれぞれ枢軸と連合に分かれています」 
 ベトナム達の独立を認めるだ。その三国は敵同士であることをだ。タイはベトナムに話した。
 今彼等はタイの家、勿論タイの趣のその家の中で話している。テーブルに向かい合って座ってだ。
 彼はだ。ベトナムにこのことを話したのだった。
「そして彼等も彼等の都合があります」
「ガメリカは中帝国と結んで太平洋経済圏を作りたい様だな」
「そうです。私達も含んだ」
「それ自体は有り難いがな」
「しかし盟主はガメリカさんで二番手が中帝国さんです」
「そして三番手にだな」
「日本さんです」
 破る相手だがだ。戦争の後のことも考えているというのだ。
「おそらく日本さんをソビエトに差し向けるでしょう」
「北の抑えか」
「戦略としては正しい方法の一つですが」
「しかし。そうなるまでにか」
「三国の間で激しい戦いは行われます」
「私達は日本の侵攻を受ける形でそこから日本に独立を認めてもらう」
「私から今からそのことを日本さんとあちらの上司の方にお伝えして」 
 植民地やタイの戦略はそうなっていた。
「勿論日本さんも経済圏を作りたく植民地については好意的ではないので」
「独立は認めてくれるな」
「しかし私はともかく貴方達は日本さんが最初に認めてくれてその軍が駐留します」
「では日本につくしかない」
「そのうえで独立を認めてくれるガメリカさん、中帝国さんとどうするかです」
「彼等も彼等の都合で私達の独立は認めるがな」
 太平洋経済圏確立の為だ。それでエイリスの植民地のままでは話にならないのだ。
「だがそれでもか」
「はい、貴方達は日本さんにつきざるを得ません」
「なら日本の勝利の為に戦うだけだな」
 日本と共にだ。そのガメリカや中帝国とだというのだ。
「枢軸につくか」
「その形になり太平洋経済圏の確立を目指すことになります」
「どちらにしても太平洋経済圏は確立されるか」
 日本が勝とうてもガメリカ、中帝国連合軍が勝とうともだというのだ。それは間違いなかった。
 だがそれでもだった。ここで問題は。
「日本が勝った場合はどうなる」
「日本さんのご性格からしてガメリカさん達の様に明確に一番や二番を決められません」
「緩やかになるか」
「勝った日本さんが盟主になろうともです」
「ガメリカや中帝国は横暴な一面が強いな」
 ベトナムもこのことはよくわかっていた。
「彼等が勝てば我々は」
「独立してもその地位は低いです」
「そうなるな。間違いなく」
「ですが日本さんが勝たれるとです」
「平等か」
 各国の地位や立場、それはだというのだ。
「日本が盟主であろうとも」
「そうなるかと」
「なら日本だな」
 この国につくべきだとだ。ベトナムは決めたのだった。
「あの国だ」
「そうですね。日本さんが一番いいと思います」
「私達にとってはな」
「それにあの国には神様もおられます」
「柴神といったか?」
 ベトナムは日本にいるその神のことはあまり知らなかった。
「そういったな」
「はい、犬の頭と尻尾を持つ神様です」
「おかしな神だな、犬と人の合いの子か」
「御会いになられたことは」
「実はあまりない。日本は長い間鎖国をしていたからな」
 それも理由だというのだ。柴神を知らない。
「人間の言葉も使うがな」
「その神様にもお話しておきましょうか」
「頼めるか。では私達はだ」
「はい、その時が来ればですね」
「独立を宣言する」 
 ベトナムは強い顔になってタイに答えた。
「そして日本につきそのうえで」
「日本さんが主軸の太平洋経済圏に参加されますね」
「独立してからも問題だからな」 
 それでハッピーエンドではないというのだ。むしろ独立してからどうなっていくのか、国家にとってもそこにいる国民にとってもそれが重要だというのだ。
 それ故にだ。ベトナムは判断したのである。
「大国に従うというのは本意ではない」
「それでは植民地と変わらないですね」
「大してな。ガメリカの四姉妹は高圧的なところがある」
「そしてシュウ皇帝も」
「連中が太平洋の主導権争いをすることも考えられるが」
「ソビエトという共通の敵がいますから」
 ソビエトをロシアに変えてもだ。何の違いもなかった。
「そして日本さんもまた」
「両国の主導権争いよりもな。日本やソビエトを叩く方が可能性が高い」
 ガメリカ、中帝国にとっては日本もソビエトも目の上のタンコブだというのだ。
「それではな」
「両国の対立よりも」
「手を組んでの専横の方が可能性が高い」
「ですから。我々としましては」
「日本に主導権を握って欲しい」
 ベトナムは冷静な目で判断を述べた。
「そしてだ」
「そしてですね」
「おそらく太平洋での主導権争いの戦争の後はソビエトだな」
 この国との戦いもだ。避けられないというのだ。
「あの国は共有主義を世界に広めようとしている」
「それを旗印にしても人類世界支配ですね」
「共有主義は恐ろしい思想だ」
 ベトナムもだ。ここでは表情を凍らせた。そのうえでの言葉だった。
「あんな思想が人類を支配すればどうなる」
「何もかもが破壊されますね。彼等は家族も貨幣経済も否定していますし」
「そうだ。あの国だけは、共有主義だけは何とかしなければならない」
「ある意味においてエイリス以上に厄介ですね」
「そう思う。そのソビエトとの戦いだが」
「太平洋の全ての国で挑むべきですね」
 これがタイのソビエトへの戦略だった。その表情も目の光も穏やかだがそれでもだ。その言葉はしっかりとした、寸分も動かないものだった。
 そのしっかりとした言葉でだ。彼は言うのだった。
「そして全力で。共有主義も根絶しなければ」
「後々厄介なことになる」
「既に各国にシンパが出て来ています」
 タイはベトナムにこのことも話した。
「そして工作を開始しています」
「私達の民族主義と共有主義が重なるとな」
「おかしな大義名分も与えてしまいますね」
「だからだ。太平洋での戦いは日本に勝ってもらい」
「そのうえでソビエトと戦いましょう」
「では日本に私達の考えを伝えてくれ」
「はい、それでは」
 タイは微笑んでベトナムの言葉を快諾した。こうしてだった。
 タイは密かに日本に向かった。原始の八国以外の国々も動いていた。彼等にも彼等の思惑があるが故に。


TURN22   完


                        2012・5・8



今回は各国の今後をどうするかという会議の様子だったな。
美姫 「そうね。でも、こうしてみるとソビエトは結構、危険視されているわね」
みたいだな。それにしても、中帝国の皇帝は結構、性格に違いがあるな。
美姫 「ここが祖国がいるかどうかなのね」
いや、中々面白い。
美姫 「さて、各国の方針もあらかた決まったみたいだし」
そろそろ動き出すかな。
美姫 「どうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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