『ヘタリア大帝国』




                          TURN21  富嶽

 エルミー達ドクツ軍の将兵達には官舎が提供された。当然デーニッツは提督用の場所が用意された。そのマンションを思わせる部屋に入りシャワーを浴びてだ。
 白いブラウスと、下はストライブのショーツだけのラフな姿になってからだ。彼女は白いベッドの上に上がってそこでノートパソコンを開いた。
 その画面にレーティアが出て来るとだ。エルミーはすぐにこう言った。
「ジークハイル!」
「いや、堅苦しい挨拶はいい」
 軍服に制帽姿のレーティアがだ。エルミーにすぐに返した。
「それよりもだ。日本帝国のことだが」
「はい、この国ですね」
「どうだ?やはりガメリカには負けるか」
「勝てないと思います」
 冷静に戦力だけを見てだ。エルミーはモニターの中のレーティアに答えた。
「戦力が違い過ぎます」
「そうか、やはりな」
「国力差も感じました」
 日本帝国の内情を見てだ。そうだというのだ。
「ガメリカとの差は歴然としています」
「そうだろうな。仕方ないなそれは」
「エイリスの植民地艦隊は一蹴できてもです」
 それは可能だとしてもだというのだ。
「ガメリカの正規軍には手も足も出ないでしょう」
「正面かぶつかればか」
「間違いなく敗れます」
 エルミーはその冷静な分析をレーティアに話した。
「何しろ今も魚を艦艇として使っている程ですから」
「それには私も驚いている」
 レーティアもだ。日本帝国の魚艦隊については知っていた。そのうえでの言葉だった。
「あれは古代のものだと思ったがな」
「しかし日本帝国軍は艦艇の数と質の不足の為です」
「あえて使ってか」
「そのうえで戦っています」
「魚は強いのだな」
「癖はありますがそれなりの性能があります」
 だから日本帝国軍もそれを使っている。これは確かだった。
「ですがそれでもです」
「普通はそんなものに頼らずに戦うものだ」
「それだけ日本帝国軍が窮地にある証拠でもありますね」
「そうだな。その国が近代装備のガメリカ軍と戦うか」
「ましてや数も違います」
「やはり勝つのは無理か」
「東南アジアやオセアニアを席巻できてもです」
 だがそれでもだと。エルミーは述べていく。
「おそらくインド辺りで止まります」
「そしてガメリカの反撃を受けてか」
「敗れるかと」
「流石にエイリスもインドでは本気で戦う」
 レーティアはエイリスにおけるインドの重要性を踏まえて話した。
「正規軍を送ってな」
「そうですね。おそらくインドに入る頃、いえベトナム辺りでエイリスの正規軍が来ます」
「ベトナム辺りでもう敗れるか?」
「その可能性は高いですね」
「どう考えてもインドで止まるな」
 レーティアはその黄金に輝く眉を顰めさせながら日本帝国軍についての分析を続ける。
「そこで終わりだ」
「そうですね。しかしベトナム位はです」
「攻め取って時間を稼いでもらわないとな」
「ではその為にも」
「エルミー、頼むぞ」
 レーティアはモニターからレーティアの顔を見て話す。
「日本帝国軍を助けてくれ」
「わかっています、そのことは」
「くれぐれもな。ところでだ」
 戦争の話からだ。レーティアは話題を変えてきた。その話題は。
「日本帝国はどうだ?」
「この国のことですか」
「そうだ。やはりかなり風変わりな国か」
「そうですね。食事も二本の棒で食べますし」
「ああ、箸だな」
「それを使って色々なものを食べます」
「それは聞いている。アジア文化圏の特徴だな」
 レーティアが業績を挙げているのは文化論についてもだ。欧州中心だがそれでもかなり高度で緻密な文化論を書いていることで知られている。
 その己の文化論からだ。レーティアは話した。
「そして主食は米だったな」
「ドクツでは野菜ですが」
「しかし日本帝国では主食だな」
「それを食べています」
「面白い文化ではあるな。中帝国では米以外にも麦やコーリャンも食べるが」
 日本帝国の文化の源流の一つであるこの国の話題も出た。
「あの国は米だけだな」
「そうです。パンも食べますが」
「それでもだな」
「主食は米です。そして味噌スープに塩漬けの野菜もです」
 そうしたものもあるというのだ。
「それに魚、生のものも食べます」
「それと豆腐だな」
「豆腐は非常に美味しいです。大豆から作った食べ物も多いです」
「ソイソースや味噌もそこから作るな」
「それもまた日本帝国の食事の特徴ですね」
「そうだな。それと大豆といえば」
 レーティアはエルミーにこのことを問うた。
「納豆はどうだ」
「納豆ですか」
「大豆を醗酵させたものだったな」
「御存知だったのですか」
「話は聞いている。糸を引いた大豆か」
 その食べ物についてだ。レーティアは眉を曇らせながら話していく。
「恐ろしい食べ物だな」
「はい、私も見ましたが」
「どうしたものだった?」
「腐っていました」
 エルミーの目から見ればだ。そうだったというのだ。
「色も変色していて本当に糸を引いていまして」
「無気味だな。だが日本人達はその納豆を食べるのだな」
「朝によく出ます」
「朝から腐った豆を食べるのか!?」
 いよいよだ。レーティアはその可憐な顔を曇らせた。
「恐ろしい話だな、全く」
「ですが彼等はその納豆を御飯の上にかけてです」
 どうするかというのだ。そのうえで。
「とても美味しそうに食べます」
「そうなのか」
「私はとても。匂いも酷く」
 エルミーは匂いについてもだ。顔を曇らせて話す。
「とても箸をつけられませんでした」
「そうか。しかし味はわからないか」
「ドクツ軍の誰も食べられませんでした」
「わかった。では納豆のことはいい」 
 誰も食べられないのなら仕方がないとだ。レーティアも諦めた。だがそれでもだった。
 彼女は日本帝国についてさらに尋ねる。今度尋ねることとは。
「帝だが」
「日本帝国の国家元首ですね」
「帝とは会ったか」
「はい、一度謁見の形で」
 会ったというのだ。その帝と。
「可憐な少女の方でした」
「らしいな。あの国では国家元首は代々女性だ」
「それも少女です」
「かなり独特のシステムだな。エイリスとはまた違うか」
「柴神という犬の頭を持つ神が選ぶシステムです」
 つまり国家元首を神が選ぶシステムだというのだ。日本帝国は。
「世襲ではありません。しかも帝はです」
「帝は?」
「常に身寄りのない孤児から選ばれます」
「それにより親族や外戚の影響を排除しているな」
「その様です」
「ふむ。やはり非常に変わっている」 
 レーティアはその帝という存在のことを確めてだ。また言うのだった。
「日本帝国の政治についても学んだことがあったが」
「日本帝国史ですね」
 レーティアの著作の一つだ。彼女は各国の文化や政治についても研究しているのだ。
「その時から非常に変わっていると思っていたが」
「実際に聞かれるとですか」
「余計にそう思う」
 エルミーにも話す。
「そんな国家があるということ自体が信じられなかったがな」
「私もです。そしてこの目で見ますと」
「驚くばかりか」
「非常にです。そしてです」
「そして?」
「海軍長官は非常に不真面目な人物です」
 東郷のことはだ。エルミーは自分から話した。
「始終女性の出入りが耐えません」
「そんなに酷いのか?」
「言語を絶します」
 エルミーは嫌悪を露わにしてレーティアに話す。
「全く以てです」
「噂には聞いていたが」
「どれだけ忙しくとも日に何人との女性と関係を持っている様です」
「一日に何人もか」
「そうです」
「それはまた凄いな」
 唸るしかなかった。レーティアも。
「カサノヴァの様だな
「カサノヴァを越えているかと」
「ではドン=ジョヴァンニか」
 オペラの主人公の名前も出た。
「あの男の様なものか」
「そうですね。近いですね」
 実際にそこまでだというのだ。
「あの人は」
「そうか。だがエルミーなら大丈夫だな」
 レーティアはエルミーの生真面目さを知っていた。それ故の今の言葉だった。
「男の誘惑には乗らないからな」
「はい、そのことは御安心下さい」
「信じている。ではだ」
「はい、それではですね」
「今から仕事だ。それではな」
「また次の定期連絡の時に御会いしましょう」
「それではな」
 こう話してだった。二人は今は別れた。そうしてだ。
 エルミーはノートパソコンの電源を切ってそれをテーブルの上に置くとそのままベッドの中に入り休んだ。そうしてその日は終わったのだった。
 その次の日だ。エルミーが起きて海軍省に来るとだ。そこは。
 何かと騒がしかった。エルミーはすぐにこう察したのだった。
「まさかガメリカと」
「そうですね。何時開戦になってもおかしくないですし」
「それならですね」
「やはりこれは」
「開戦に至ったのでしょうか」
 ドクツの軍人達もだ。海軍省の慌しさからこう考えた。しかしだ。
 どうやら様子が違うことに気付いた。見れば東郷もだ。秋山と日本に話していた。
「ではだ」
「はい、帝は今着替えに入っておられます」
「柴神様も来られました」
「なら用意はいいな」
 東郷はこう二人に話していた。
「すぐに用意に入るか」
「はい、それではですね」
「今から祭壇の準備も」
「?祭壇?」
 祭壇と聞いてだ。エルミーは眼鏡の奥の目をしばたかせた。そのうえでだ。
 部下達とだ。こう話した。
「今祭壇と言っていましたしね」
「はい、確かに」
「そう言っていました」
「では開戦ではないのでしょうか」
 やや首を捻ってだ。そうして言ったのである。
「どうやら」
「確かに。開戦にしてはです」
「雰囲気が違いますね」
「この状況は」
「では何なのでしょうか」
 エルミーは首を捻りながら話していく。
「今起こっていることは」
「あっ、デーニッツ提督」
 日本がエルミーに気付き声をかけてきた。
「来られていたのですか」
「日本さん、この状況は一体」
「富嶽が来ます」
「富嶽?」
「御存知でしょうか」
「確か」
 エルミーも富嶽のことは聞いている。それは。
「日本とその周囲に現れる巨大生物ですね」
「はい、そうです」
 まさにそれだとだ。日本はエルミーに答えた。
「何時どうして出て来たのかはわかりませんが」
「四国にいるガワタスカル=ビゥもその様ですね」
「大怪獣です」
 日本は言った。
「他にはエアザウナもいますね」
「あの時折星域に出て来て荒れ狂う」
「そういったものと同じです。そして富嶽はです」
「星喰らいと言われていますね」
「そうです」
 まさにそれだというのだ。その富嶽というものは。
「我が国にとって最悪の災厄です」
「日本さんはこれまで富嶽に悩まされてきたそうですが」
「私が生まれた頃からです」
 それこそだ。国家として人格を持った頃からだというのだ。
「あの大怪獣には悩まされています」
「どうして防いでいるのですか?」
「儀式によってです」
「儀式?」
「はい、儀式によってです」
 そうしているとだ。日本はエルミーに答えた。
「防いでいます」
「あの、儀式とは一体」
「そうですか。このことは御存知ありませんでしたか」
「儀式といいますと」
 エルミーはその儀式については知らなかった。しかしだった。
 儀式と聞いてだ。彼女はこう考えてだ。その考えを日本に対して述べたのである。
「帝と関係があるのでしょうか」
「その通りです」
 返答はエルミーの考え通りだった。
「あの方が儀式を執り行われます」
「そうして富嶽をですか」
「防いでいるのです」
「帝はただの国家元首ではなかったのですか」
「帝は特別な力を持っておられます」
 日本はエルミーにとっては到底信じられないことを言った。
「大怪獣、そして宇宙怪獣を操られるのです」
「そうした力の持ち主がいることもいるのは聞いていますが」
 特殊能力である。人間としての。
「しかし。日本帝国の帝もまた」
「そうです。そうした力を持っておられます」
「信じられません」
 本当に驚きを隠せずにだ。エルミーは答えた。
「それで富嶽を防いでいるとは」
「宜しければ御覧になられますか」
 日本は表情にも驚きを表しているエルミーにこう述べてきた。
「特に秘密にしていることではありませんから」
「宜しいのですか?」
「はい、どうぞ」
 一も二もなくだ。日本は答えた。
「御覧になられて下さい」
「そう仰るのなら」
 こうしてだ。エルミーは日本に案内されてその儀式を見ることになった。彼女は日本に長門の艦橋に案内された。そこには東郷と秋山、そして国家達が集まっていた。
 韓国は腕を組みだ。こう台湾に言っていた。
「またこの時が来たんだぜ」
「最近来てなかったけれどね」
「あいつはどうにかできないんだぜ?」
「艦隊で倒せるかっていうのよね」
「そうなんだぜ。それはできないんだぜ?」
「あんなの普通の艦隊で倒せると思う?」
 台湾はその顔を思いきり曇らせて韓国に返した。
「ガメリカ軍より強いでしょ」
「確かに。大怪獣はどうしようもないんだぜ」
「宇宙台風とかイナゴとかうぽぽ菌もそうだけれど」
 宇宙の災害は多いのだ。そうしたものもあるのだ。
「下手な艦隊じゃね」
「勝てないんだぜ」
「これまで何度か。色々な国が試みたけれど」
 ワープ航法が発見され人類が星域間を行き来する能力を発見してからのことだ。
「それでもね。まだ一度もね」
「無理だったんだぜ」
「大怪獣も災害もね」
 そうしたもの全てがだというのだ。
「手も足も出なかったから」
「じゃあやっぱり無理なんだぜ?」
「そう。だから帝もね」
 今の彼等の国家元首もだというのだ。
「ああして御苦労をされることになるのよ」
「ううん、本当に何とかならないんだぜ」
 韓国は腕を組み彼にしては珍しく深刻な顔になって述べていた。彼にとっても大怪獣や災害は頭が痛いことだったのだ。これは人類の昔からの悩みである。
「俺の国民達も迷惑してるんだぜ」
「それ私のところもだから」 
 台湾にしろ同じなのだ。大怪獣や災害に対しては。
「だからこそ余計にね」
「帝の存在は有り難いんだぜ」
「日本帝国は昔からあの富嶽に悩まされていたらしいね」
「そうらしいニダな」
 今度は台湾兄と韓国妹が話す。
「それで建国の頃から帝が置かれて防いできた」
「それも戦争ニダな」
「そうだね。それにしても」
 今度は台湾兄が考える顔になって述べる。
「あれだよね。柴神様もよく帝なんて存在を考えつかれたね」
「確かに。言われてみればニダ」
「そんなこと滅多にできないよ」
 台湾兄はこう指摘する。
「まるで大怪獣の存在とその対処法を最初から知っていたみたいだね」
「そう思うニダか?」
「うん、ちらってそう思ったけれどどうかな」
「考え過ぎではないニダか?」
 台湾兄は首を捻ってこう言った。
「流石にそれはないニダよ」
「そうかな。じゃあたまたまかな」
「そうニダ。何でもやってみてわかるものニダ」
 韓国妹は柴神の対処は経験論からくるものだと思っていた。人間は何でも経験から学ぶものだからである。そしてそれは国家とて同じなのだ。
 無論神もだ。それで韓国妹は言うのだった。
「だからではないニダか?」
「そうだね。幾ら何でも最初から知ってるなんてね」
「有り得ないニダよ」
「伊達に神様として長い間おられる訳じゃないってことだね」
「そうニダよ。人生は経験ニダよ」
 韓国妹は国家、人間としての考えから述べていた。尚ここには香港とマカオ達もいる。
 香港は自分の妹にだ。こう話した。
「大怪獣は中帝国には出ない的な?」
「だからこそ興味あるわよね」
「また機会があれば先生にも教えたい的な」
「先生可愛くないものには興味ないから駄目なんじゃないかしら」
 香港の兄妹は中国の話をしていた。そしてだ。 
 マカオとその妹はだ。こんなことを話していた。
「じゃあ。日本帝国の儀式を見せてもらいますか」
「そうよね。一体どんなものか」
「富嶽をどうして防ぐのか」
「見せてもらいましょう」
 国家達もそれぞれ話していた。そしてだ。
 日本妹が東郷のところに来てだ。敬礼の後で言ってきた。
「帝の準備ができました」
「そうか。それじゃあだな」
「今からですね」
「ああ、柴神様はどうされている?」
 東郷は日本妹に対して問うた。彼の傍には秋山が控えている。
「あの方の準備もできているかな」
「今ここに来られます」
 柴神についてもだ。日本妹は答えた。
「では」
「待たせた」
 その柴神も来た。普段の服とは違い日本帝国の神主の服になっている。
 その服で来てだ。東郷達に話すのだった。
「では帝も来る」
「祭壇の用意はできています」
 秋山が柴神に答える。
「後は帝が来られるだけです」
「そうか。それではだ」
「何時でもはじめられます」
「富嶽を防がなければ何もできない」
 柴神は真剣な面持ちで述べた。
「だからだ。今回もだ」
「はい、何としても防ぎましょう」
 東郷もだ。戦いの場と同じく真剣な面持ちになっている。
「戦いの前に」
「よし、はじめよう」
「お待たせしました」
 その帝も来た。服はあの紫の和服ではなかった。
 白く丈の長い絹のドレスだった。質素だが所々にそっとした感じの装飾がある。そのドレスに金色の仏具を持っている。それは。
「サンコショですね」
「はい」
 日本はたどたどしく言葉を出したエルミーに答えた。
「あれを両手に持たれてです」
「儀式を行われるのですか」
「その通りです。それではです」
 帝は祭壇に入る。そうしてだった。
 音楽隊、和楽器の伴奏と共に舞をはじめる。そうしてだ。
 静かに詠唱をはじめる。長門のモニターには恐ろしい、古代魚に似た巨大な怪獣が銀河にいた。その大怪獣を見てだ。エルミーは日本に問うた。
「あれがですね」
「はい、富嶽です」
「確かに巨大ですね」
「惑星程の大きさがあります」
 日本の言葉は誇張ではなかった。確かにモニターを見る限りそれだけの大きさがある。
 その富嶽を見ながらだ。エルミーは息を飲んだ。
「あれが星を襲えば」
「ひとたまりもありません」
「そうですね。だからですか」
「帝がおられます」
 そしてだとだ。日本はエルミーに話す。
「そのうえで防がれているのです」
「そうですね。それでは」
「今ああして舞われ」
 それ自体が儀式だった。
「そのうえで」
「そうです。それでは」
「富嶽を」
 富嶽は星に近付いていた。長門はその富嶽の前にいる。そうしてだ。
 富嶽にもその舞と音楽が入ってきたのか。それを受けて。
 次第にその動きを緩めゆっくりと反転して。それからだ。
 何処かに泳ぎ去ってしまった。そこまで見てだった。 
 エルミーは唾を飲み込んでから。こう言った。
「去りましたね」
「はい、今回も助かりました」
「日本帝国はいつもあの大怪獣と対峙しているのですか」
「その通りです」
 日本もモニターから消えていく富嶽を見て言う。
「今その研究を開始していますが」
「富嶽に対しての研究ですか」
「調べてみたところ富嶽は銀河に一匹しかいません」
「一匹だけ!?」
「そうです。大怪獣自体もです」
 銀河に何匹かいるその大怪獣達もだ。どうかというのだ。
「その数は非常に少ないです」
「わかっているのは四国のあの大怪獣と」
「そしてエアザウナですね」
「三匹だけですか」
「いえ、確か北欧にサラマンダーというものがいましたが」
「あれは伝説です」
 エルミーはサラマンダーについてはこう答えた。
「もう存在していないでしょう」
「そうですか」
「はい、死んだ筈です」
 伝説だからだ。そうだというのだ。
「いるとは思えません。後は」
「ニガヨモギというものがいたでしょうか」
「ニガヨモギ?」
「ソビエトにいると聞いていますが」
 日本は少し怪訝な顔になってエルミーに答えた。
「噂でしょうか」
「ソビエトの冬は非常に厳しいですが」
 その寒さがそのまま国土を守っている。ソビエトはそうした国だ。
 だがそこに大怪獣がいるのではとだ。日本は言うのだった。
「それに加えてですね」
「ニガヨモギというものもいるのでは」
「それもまた大怪獣だと」
「そうです。ではです」
 それではだというのだ。
 ここでエルミーは日本の話と踏まえてだ。そして述べたのだった。
「大怪獣は存在が確認されていないものも含めて五匹ですか」
「そうなります」
「五匹がそれぞれ種類が違うのですか」
「繁殖もわかっていません」
 それもだというのだ。
「富嶽は日本からシベリアにかけて遊泳していますが」
「存在が確認されるのは一匹だけですか」
「しかも私達が知らない独自の航路を使っている可能性があります」
「独自のですか」
「これはエアザウナも同じですが彼等は急に出てきます」
 いつもだ。そうだというのだ。
「人間では行き来できないルートを使ってです」
「そうしてですか」
「シベリア、日本を行き来している様です」
「一匹だけで」
「尚且つ大怪獣はそれぞれの種類が違う可能性が高いです」
 日本はエルミーにこのことも話した。
「少なくとも存在が確実な三匹の種類はそれぞれ違いますね」
「はい、確かに」
「寿命が桁違いに長いのか繁殖する必要がないのか」
「謎に満ちた生物ではありますね」
「帝の御意志には反応しますし」
「帝のお考えに反応するとなると」
 ここでだ。エルミーはふと思った。そしてその思ったことを日本に話した。
「若しかしてですけれど」
「若しかしてとは?」
「あの富嶽は操ることが可能なのでしょうか」
 日本に対してだ。エルミーはこの閃きを話した。
「それは」
「いえ、それは幾ら何でも」
「無理でしょうか」
「宇宙怪獣を操る話は聞いたことがあります」
 それはだとだ。日本も話す。しかしだった。
 彼は深刻な顔になりだ。エルミーに対して答えた。
「富嶽にしろ他の大怪獣にしろ力は絶大です」
「それこそ惑星を破壊するまでの」
「そこまで恐ろしい力となるとです」
「人の手にはあまりますか」
「はい、扱いきれるものではないでしょう」
 こうエルミーに話すのだった。
「ですからそれはです」
「止めるべきですか」
「私はそう思います」
 その深刻な顔でだ。エルミーに話すのだった。
「できるものではありません」
「そうですか」
「そうだ。それは無理だ」
 二人のところにだ。柴神が来てだ。強張った顔で言ってきた。
「考えるべきでもない。無理だ」
「そうですか。やはり」
「大怪獣のこともだ。倒せるならともかくだ」
「ともかく?」
「扱いきれるものではない」
 柴神は言葉を選びながら日本とエルミーに話す。
「だからとてもだ」
「富嶽を。大怪獣を扱うことはですか」
「できない」  
 柴神はその強張った顔で述べた。
「そう思ってくれ」
「わかりました。では」
「富嶽については私も考えている」
 柴神は強張った顔で述べていく。表情もそうなっていた。
「倒せるならばな」
「それならばですか」
「その時は」
「倒すべきだが。人はそこまでの力を手に入れれば」
 どうなるかというのだ。
「その時はまさか」
「?どうされたのですか?」
 日本は柴神の言葉に只ならぬものを感じて問い返した。
「一体」
「いや、何でもない」
 柴神は咄嗟に言い繕った。誰にも気付かれない様にして。
「ではだ。何はともあれ儀式は終わった」
「はい、それでは」
「帝は疲れている。休ませよう」
「御食事の用意はできています」
 秋山は既にその手配もしていた。
「そしてベッドの用意も」
「すいません、秋山さん」
「いえ、当然のことをしたまでです」
 秋山は謙遜してその帝に答える。祭壇から下りた帝には確かに疲労の色があった。その持っている力を使いそのうえでの疲労の様だった。
 その帝にだ。秋山は言うのだった。
「では後はゆっくりとお休み下さい」
「はい、では言葉に甘えまして」
 こうしてだ。帝は休息に入った。儀式はこれで終わった。
 日本帝国にとってのもう一つの戦いが終わった。しかしだった。
 ここでだ。エルミーは長門の艦橋を降りてからだ。東郷と日本にこう話した。彼等は今は食堂にいる。そこにいながら食事を摂りながら話していた。
「帝は凄い方ですね」
「富嶽を追い払ったことか」
「はい、あの様な力を持たれているとは」
「それがあの方にとって幸せかどうかはな」 
 東郷はふとだ。遠い目になってエルミーのその言葉に返した。
 彼等は今はコーヒーを飲んでいる。そのうえでの言葉だった。
「それはな」
「別だというのですか」
「ああ、もう見たからわかると思うがな」
 東郷はエルミーに対して話していく。
「富嶽を追い払うにはかなりの力を使う」
「そうですね。それは私にもわかります」
「その力の消耗が続くとな」
「帝御自身にもですか」
「あまりよくはない」
 こう言うのだった。
「だからな。できればな」
「富嶽は追い払うだけではいけませんね」
 日本もここで言った。
「何とかしたいですが」
「祖国さんは富嶽をどうするべきだと思ってるんだ?」
「不可能でしょうが」
 それでもだとだ。日本は向かい側にエルミーと並んで座っている東郷に述べた。
「倒すべきかと」
「そうだな。あのまま放置しておいてもな」
「同じことの繰り返しですね」
「我が国はこれまで富嶽を追い払うだけだった」
 もっと言えばそれしかできなかったのだ。
「だからだ。そろそろな」
「富嶽を倒すべきですか」
「とはいってもあいつは強過ぎる」
 東郷もだ。富嶽の強さはよくわかっていた。
 それでだ。こう言うのだった。
「今の海軍ではとても相手にならない」
「どういった艦なら戦えるでしょうか」
「今開発中の第三世代でも無理だ」
 現時点での日本帝国の最新鋭になるものであってもだというのだ。
「とてもな」
「ではどうすれば」
「もっと世代を進めるべきだな」
 兵器のだ。それをだというのだ。
「あの強さに対することができるまでの兵器を開発してだ」
「そのうえで」
「そうだ。倒す」
 東郷は簡潔に述べた。
「それでどうだろうか」
「ううむ、一体どれだけの世代になるのか」
「第六世代になるか」
 東郷はこう日本に言う。
「そこまでになるかも知れない」
「第六世代。想像がつきませんね」
「しかし開発していけばやがてそこまでなる」
「では、ですか」
「ああ。今は退けるしかない」
 今の時点ではだ。だがそれでもだというのだ。
「しかしやがてはだ」
「富嶽を倒せるだけの力を備えるのですね」
「そうしないと本当に同じことの繰り返しだからな」
「そして他の災害にも対処できませんね」
 こちらの話も出された。
「今の兵器では」
「そうだ。そうした面からも兵器の開発を進めたい」
「問題は予算ですね」
 日本は現実的な面からも考えていた。
「開発費も大変です」
「開発費の合理化も進めていくがな」
 東郷も今は真剣な顔であった。
「だが。合理化は少しずつしか進まない」
「開発費も建造費も」
「そうだ。本当に少しずつだ」
「ですがそれでもです」
 秋山もだ。東郷に言ってきた。当然日本にも。
「それを進めていかないとです」
「開発費も建造費も高いままだな」
「ですから少しずつでもです」
 合理化を進めていかなければならないというのだ。
「これは平賀博士と共に進めていきましょう」
「そうするか。戦争は激しいものになるだろうからな」
 兵器は少しでも多く必要だ。それならば予算に負担がかからないに越したことはなかった。とにかく今の日本帝国は兵器でも課題が山積みだった。
 そのことについてだ。東郷はさらに話す。
「少しでも合理化を進めていこう」
「そしてやがてはですね」
「大怪獣を倒せる兵器を」
「開発していく。後は戦術だな」
 ただ、だ。強力な兵器の開発だけでいいというのではなかった。
「あの怪物を倒そうと思うとまともに戦っても勝てない」
「どれだけ強力な兵器でも」
「それはですね」
「そうだ。潜水艦や空母、それにバリア艦もだな」 
 バリア艦についてもだ。東郷は注目していた。
「あれは戦闘能力はないが使い方がある」
「ビームを防ぎますからね」
 秋山もそのビーム艦について話す。
「だからこそですね」
「そうだ。あの艦も配備していこう」
「了解しました。ただあの艦は敵も配備しています」
 秋山はこのことも指摘した。
「エイリスが特にそうですが」
「エイリスだな。あの国は守りが固いからな」
「はい、ですから対策も考えないとならないかと」
「そうだな。バリアにはどうするかだな」
「私の方でも戦術を考えておきます」
 秋山は落ち着き冷静な顔で述べた。
「それでは。それも」
「頼むな。俺の方でも考えておく」
 こう話しているとだ。ここでだ。
 エルミーがそっと右手を挙げてだ。それから言ってきたのだった。
「あの、バリア艦でしたら」
「んっ、何かあるのか?」
「デーニッツ提督に策が」
「はい、潜水艦は姿が見えません」
 エルミーは潜水艦の最大の特徴であるそのことから話していく。
「だからです。ここはです」
「そのバリア艦を配備している敵艦隊に密かに接近してか」
「鉄鋼弾で奇襲を仕掛けるというのはどうでしょうか」
「そうだな。そうしたやり方もあるな」
「若しも航空母艦がその時にまだ配備されていないのなら」
 日本帝国も空母の配備を急がせているがだ。それでもなのだ。
「そのやり方でいきましょう」
「そうするか」
 こうした話もしていた。富嶽のことも他のこと課題にすべきことだった。そしてだ。
 そうした話をしていたのだった。そしてだ。
 東郷は海軍長官の部屋に戻った。だがその部屋に入るとだ。すぐに後藤が来てこう言ってきた。
「間も無くです」
「ああ、そろそろ宇垣さんが帰って来るな」
「そうです。ようやくです」
「どうもいないといないとでな」
「寂しい方ですね」
「そう考えると不思議な人だな」 
 東郷は少し笑ってそのうえで報告する後藤に話した。
「女性将兵の間でも評判は悪くなかったな」
「お節介ですけれどね」
 微笑みだ。後藤は東郷の言葉に応えた。今東郷は自分の席に座っていて後藤はその前に立っている。そのうえで二人で話しているのだ。
 その中でだ。後藤は笑いながら話すのだった。
「それでも真面目で細かいところにも気付いてくれて」
「しかも女性に対して紳士だしな」
「はい、清潔な方なのは事実です」
 何だかんだでだ。宇垣は人柄はいいのだ。
「ただ。本当にお節介が過ぎまして」
「そこが困ったところか」
「私にもお見合いの話を持ってきていますよ」
「そして家庭を持て、か」
「男性将兵にもしきりにそう言っておられます」
 宇垣はそうした意味では公平だった。世話焼きなのは確かだ。
「そしてそれはですね」
「ああ、俺に対してもな」
 他ならぬ東郷自身に対してもだ。そうだというのだ。
「言ってきているさ」
「そうですよね。やっぱり」
「だが俺はな」
 そうした話はだ。どうかという東郷だった。
「そうした話はな」
「まだ、ですか」
「もう生きている筈がないがな」 
 その顔に珍しく寂しいものも含ませてだ。東郷は後藤に話した。
「それでもだ」
「ううん、長官も意外と純情なんですね」
「ははは、俺は純情だったのか?」
「そう思いますけれど」
「そう言われたのははじめてだな。けれどな」
 だがだ。それでもだというのだ。
「とにかく俺はそうした話はいい」
「そうですか」
「宇垣さんはまたそうした話を持って来るだろうがな」
「それでもですね。後間違いなくです」
 後藤は眼鏡の奥のその目を真剣なものにさせて述べた。
「ガメリカからの返答を持って来るでしょうが」
「そうだな、そしてその内容はな」
「開戦ですか」
「残念だがそうなる」
 間違いなくだとだ。東郷は答えた。
「しかしそれでもだ」
「その場合に対するしかないですか」
「既に作戦は立てている。ただしだ」
 だがそれでもだというのだ。東郷はこうも言った。
「賭けの連続になるがな」
「賭けですか」
「そうしないととてもやっていけそうにもないな」
 勝てないというのである。そうした話もしてだった。
 東郷達は宇垣の帰還を待っていた。それがどういった状況をもたらすこともわかっていた。だがそれでもだ。彼等は覚悟を決めて待っていたのだった。銀河の次の潮流を。


TURN21   完


                       2012・4・19



大怪獣、富嶽の登場。
美姫 「ここは帝による儀式でどうにかやり過ごせたわね」
とは言え、東郷が言うようにこのままでは帝への負担が大きいだろうしな。
美姫 「でも流石にすぐに倒せる訳でもないしね」
まあ、仕方ないけれどな。こつこつと技術力を上げていくしかな。
美姫 「今回は宇垣の帰還はなかったけれど」
うーん、帰って来た時は何かしらの動きが始まるって所かな。
美姫 「どうなっていくのかしらね」
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る