『ヘタリア大帝国』




                   TURN138  貴族達の終焉

 スペインはエイリスに残っている貴族達の宣言を聞いて呆れたこう言った。
「伊勢志摩との中立条約破棄しとるやないか」
「うむ、そうだな」
 イスパーニャが彼に応える、場にはローザもいる。
「これまで我々はエイリスとの戦いには参加してこなかったが」
「中立条約を守ってな」
「しかしそれでもだ」
「俺等にもあらためて宣戦布告してきてな」
「戦うつもりだ」
「何考えてるんやろな」
 スペインは首を大きく傾げさせて言った。
「あの連中」
「もうまともに考えていられなくなっているのよ」
 ローザはいささかシニカルに自身の祖国に話す。
「自分達のことしか考えていないから」
「末期症状やな」
 ローザの話を聞いてだ、スペインはあらためて言った。
「ほんまな」
「うむ、自分達のこともわかっていないしな」
「もうエイリスはどうということはない相手よ」
 夫婦でスペインに言う。
「ロンドンに兵を進めれば」
「後は勝つだけよ」
「戦争もそれで終わりやねんな」
 しみじみとして言うスペインだった。
「世界中を巻き込んだな」
「そうだな、長い戦いだった」
「色々なことがあったわね」
 イスパーニャ達も過去を思い出して語る。
「では戦争が終わればだ」
「私達も欧州共同体に入るわよ」
「それでその中で生きていくことになる」
「夫婦喧嘩付きでね」
「結局それは欠かせへんねんな」
 この二人にとってはだ、それこそ必須だ。
 だが、だそれでもである。
「少なくとも政治も真面目にしないといけないな」
「さもないと伊勢志摩は生き残れないわ」
「だからだ、いいな」
「祖国さんも頑張ってね」
「そうせなな、俺結構不況になりやすいし」
 このことは欧州のどの国もだ、各国は本当に不況しかも深刻なものになりやすいのだ。
「気をつけなな」
「うむ、不況は気をつけてもなるがな」
「それでも頑張っていきましょう」
 不況覚悟でやっていこうというのだ、伊勢志摩も。
 そしてそこにだ、ケツアルハニーが来て言うのだった。
「何だ、そこにいたのかホーーー」
「ああ、ケツアルかいな」
「そうだホーーー、何を話してるのかホーーー」
「伊勢志摩のこれからのことや」
 まさにそのことをだとだ、スペインはケツアルハニーに答えた。
「どうするかな」
「それを話していたの」
「皆でね」
「ああ、そうだホーーー」
 ケツアルハニーも彼等の話を聞いて納得した、そのうえで自分のことも話した。
「中南米は太平洋経済圏に入るホーーー」
「それでそこで生きてくんやな」
「そうだホーーー、産業は色々あるホーーー」
 中南米は資源が豊富で人口も多い、既に幾つかの産業がある。そしてその中でも特にこれが、である。
「エロゲも大々的に輸出するんだホーーー」
「まずはそれやねんな」
「アステカの文化だホーーー」
「日本よりも上かいな」
「日本にも負けないホーーー」
 そこまで凄くなるというのだ。
「いいゲームをどんどん作って大々的に売るんだホーーー」
「そうか、じゃあ頑張るんやな」
 スペインは意気込みを見せるケツアルハニーの背中を心で押した。
「ライバルは日本ってことで」
「そうするホーーー、アステカも大きく変わるホーーー」
「アステカとは古い突き合いやしな」
 伊勢志摩と中南米の関係は深い、だから各国の口調もスペインに似ているのだ。国民も伊勢志摩にルーツのある者が多い。
「戦争終わってからも仲良くしよな」
「勿論だホーーー、スペインさんとは友達だホーーー」
 ケツアルハニーも快く認めることだった。
「これからも仲良くやっていくホーーー」
「マタドールとかしてな」
「あれも楽しいホーーー」 
 中南米でも闘牛はしている、ラテン文化も定着しているのだ。
「楽しく生きるホーーー」
「そういうこっちゃな」
「さて、もうそろそろ出陣だな」
 イスパーニャは戦局から言った。
「最後の戦いだ」
「派手に終わらせましょう」
 ローザも微笑んで言う。
「勝ってね」
「それではな」
 こう話してそしてだった、彼等は。
 最後の戦いに向かい勝つつもりだった、そうして。
 東郷は遂に全軍にこう言った。
「今夜は酒はなしでたらふく食ってくれ」
「いよいよですか」
「酒は明日の夜だ」
 日本に微笑んで答える。
「そうしよう」
「わかりました、それでは」
「では明日の朝だ」
 多くは言わなかった、言う必要がないまでのことだからこそ。
「ではな、俺も今晩はカレーだ」
「何カレーにされますか?」
「カツカレーがいいな」
 そのカレーだというのだ。
「それとステーキだ」
「テキにカツですか」
「それだ、それではな」
「はい、では」
 こう話してそしてだった。
 枢軸軍はその夜は酒抜きでたらふく食べた、そうして。
 彼等は早く寝た、その時シャルロットがフランス妹にこう言った。見ればシャルロットは既に寝巻きに着替えている。フランス妹は軍服から着替えるところだった。
 そのフランス妹にだ、こう言うのだ。
「あの、少しお話が」
「何かあったのですか?」
「はい、明日遂にですね」
 シャルロットは寝巻き姿も上品だ、あまり露出のない白いネグリジェだが生地は厚めで透けておらずスカートもくるぶしまである。
 そのネグリジェ姿のシャルロットが言うのだ。
「最後の戦いですね」
「はい、これで長い戦争も終わりです」
「これまで多くのことがありました」
 シャルロットもだ、これまでのことを思い浮かべながらフランス妹に話した。
「マダガスカルにいた時の私は何も知らない娘でしたが」
「成長されましたね」
「多くのことを教えて頂きました」
 フランス兄妹、それにビルメ達からだ。シャルロットは本当に多くのことを学び知り成長した。
「世界のことも知りました」
「そうですね、戦後のオフランスですが」
 この国にも戦後がある、その戦後はどうなるかというと。
「私とお兄様がシャルロット様を首相に推挙しますので」
「私が首相にですか」
「国王陛下はこのままです」
 ルイ八十一世だ、しかし彼は最早君臨すれとも統治せずだ。ただいるだけの存在になってしまっているのだ。
 それでだ、フランス妹はシャルロットに言うのだ。
「戦後のオフランスは立憲君主制、首相が実質的に行政を担う国家にしたいので」
「私が首相になりですか」
「オフランスをお導き下さい」
「私に出来るでしょうか」
「シャルロット様だからこそです」
 今の彼女だからだというのだ。
「お願いするのです」
「だからですか」
「ではお願いします」
 フランス妹はシャルロットにあらためて言った。
「戦後のオフランスを」
「それでは」
 シャルロットもフランス妹の申し出を受けることにした、そのうえでオフランスを背負っていくことを決意した。それが今の彼女だった。
 その翌朝全艦出撃した、目指す場所は決まっていた。
 ロンドンだ、レーティアはロンドンに向かう途中で言った。
「何もないな」
「ああ、機雷も何もな」
「トラップも障害物も全然置いてないな」
 ドイツとプロイセンがそのレーティアに応える。
「前のアシカ作戦の時はこれでもかという程に置いていたが」
「今は本当に何もねえな」
「やはり正規軍がいないからだな」
「基本的な防衛すら出来てないか」
「所詮は腐敗しているだけの貴族共だ」
 レーティアは今エイリスを仕切る者達をこう看破した。
「だからだ」
「勝てるな、今度は」
「それも確実にな」
「圧勝だ」
 ただ勝つのではない、それもだというのだ。
「では敵を見つけたならだ」
「すぐに攻撃に入る」 
 東郷が答えてきた。
「ではな」
「うむ、おそらく連中はロンドンのすぐ前にいる」
 レーティアが言う、エイリスの首都ロンドンを守っているというのだ。
「では間も無く発見される」
「そうだな、そろそろ敵の姿が見える」
 東郷も言う、そしてだった。
 実際にロンドンの手前でだ、彼等は貴族達の軍勢を見た。その数は相変わらず多かったがそれでもだった。
 艦艇は旧式でしかもだ、それに加えて。
 陣形も酷いものだった、今も各種艦艇を適当に置いているだけだ。尚且つ動きも。
「素人の動きですね」
「間違いなくな」
 大和の艦橋においてだ、東郷は秋山の言葉に応えた。
「何の訓練も受けてきていない私兵に完全な素人のならず者達だけだ」
「それではですね」
「全くどうということはない」
 東郷はあっさりと言い切った。
「ただ攻めれば勝てる相手だ」
「まさに雑軍ですね」
「しかし損害を出すつもりはない」
 勝つにしてもだ、それでもだというのだ。
「戦うからにはな」
「最低限の損害で、ですね」
「最大限の勝利を手に入れる」
「そうしますか」
「是非な、ではだ」
 こう話してだった、東郷は自身が率いる軍を貴族軍の前に布陣させた。両翼に戦艦を主軸とした艦隊を置き中央には空母が主戦力の機動部隊を置く。
 そのうえで貴族達と対峙する、貴族達はその彼等を見て。
「ではな」
「今から攻めてだな」
「そして倒すか」
「数さえあればだ」
 勝てる、それが彼等の論理だった。
 そのうえでだ、彼等は一気にだった。
 全軍で兵を進める、そうして。
 枢軸軍を押し潰そうとする、その彼等の動きを見て。
 東郷は中央、機動部隊を退かせた。そうさせながら言うのだった。
「これはわかりやすいがな」
「ああ、一目瞭然だな」
「あからさま過ぎるあるぞ」
 アメリカと中国が東郷にモニターから言う。
「戦術の教科書にもあるぞ」
「古来より存在している戦術ある」
「ちょっと戦争を知っていれば誰も引っ掛からないと思うぞ」
「それこそ素人でない限りは、ある」
「そうだ、しかしその相手はだ」
 その彼はというと。
「貴族だ、完全な素人だ」
「だからか」
「あえてこの戦術あるか」
「まともな艦隊運営も出来ていない、それならな」
 それこそだというのだ。
「このあからさまな戦術もな」
「効果があるか」
「引っかかってくるあるな」
「ああ、間違いなくな」
 確実にだ、そうなるというのだ。
 実際に貴族達は吸い込まれる様に自軍を動かしてきた、そのうえで中央の退いた軍勢を追撃していた。
「追え!逃がすな!」
「この戦い、勝つぞ!」
「全軍で攻めるぞ!」
「数で押せ!」
「中央突破だ!」
 貴族達は口々に叫んで突進する、そして。 
 枢軸軍の布陣の中に入った、その彼等を見てだった。
 右翼にいるイギリスは呆れてこうロレンスに言った。
「おい、連中本当に知らねえみたいだな」
「はい、この戦術はあまりにも有名ですが」
「カンネーだからな」
 ローマとカルタゴの間で行われたポエニ戦争での会戦の一つだ、カルタゴの名将ハンニバルがローマ軍を殲滅した戦いだ。
「敵軍を引き込んで包囲殲滅したな」
「その戦術をそのまましているだけですが」
「あの戦いは有名だろ」
「あまりにも」
 それこそ軍人なら誰でも知っているものだ、当然ロレンスも。
「包囲殲滅の代表です」
「そうだよ、両翼の高速機動部隊での衝突はないけれどな」
 カンネーではそれがあった、それでカルタゴ軍の両翼がローマ軍の後方を囲んだのだ。
 だだ、だ。それでもだった。
「包囲されるのはわかるだろ、下手に前に出れば」
「はい、私もそう思いますが」
「本当に何も知らねえんだな、連中は」
「代々権益を貪るだけでしたから」
 知らないことも当然だった、それでだというのだ。
「知らないのも道理でしょう」
「よくそれで艦隊を率いるな、いや乗っているだけか」
「はい、ですから」
「造作もなく勝てるな」
「間違いなく」
「じゃあ後は東郷さんの采配に従うか」
 イギリスは勝利を確信しながらも自国の貴族達の腐敗をここでも見て苦い顔になっていた、そのうえでだった。
 東郷の采配に従うのだった、東郷はあくまで敵軍を引き込んでいく。
 陣形も変えていく、中央だけが退き。
 遂にだ、貴族軍が枢軸軍の半月型になった陣形の中に完全に入るとだった。
 ここでだ、東郷が全軍に命じた。
「ではだ」
「それではですね」
「敵の後方を遮断する」
 こうして完全包囲するというのだ。
「潜水艦艦隊はもうそこにいるな」
「はい、既に」
 秋山が答える。
「ではですね」
「まずは潜水艦艦隊の一斉雷撃だ」
 それを攻撃のはじまりとするというのだ。
「これを仕掛けてだ」
「それで、ですね」
「そうだ、一斉攻撃だ」
 完全包囲してそのうえでだというのだ。
「敵を殲滅するぞ」
「それでは」
 秋山は東郷の言葉に頷いた、そしてだった。
 最初に田中に指示を出した、田中はモニターにいる東郷に対して確かな声で返した。
「ああ、じゃあ今からな」
「やってくれるな」
「あんたはそこで見ていてくれよ」
 東郷には今もライバル意識を持っていた、そのうえでの言葉だ。
「俺がどう戦うのかをな」
「ああ、見せてもらおう」
 東郷も田中のその己へのライバル意識をあえて受けてみせた。
「御前の戦い方をな」
「じゃあな」
 田中も応える、そしてだった。
 隠れていた潜水艦艦隊が一斉に攻撃を浴びせた、無数の魚雷が突如として姿を表わし。
 そのうえで貴族軍の艦艇達を撃つ、艦艇が次々に爆発四散し派手な死の花火を戦場に飾る。
 突如として来た後方からの猛攻にだ、貴族達は狼狽し声をあげた。
「な、何だ!」
「また謎の攻撃か!」
 彼等は潜水艦すら知らない者も多い、それで言うのだった。
「後ろから魚雷だと!」
「一体誰だ!」
 その攻撃に狼狽する、しかも。
 前から艦載機、左右からビーム攻撃だ。この嵐の如き攻撃に彼等はさらに戸惑った。
 一秒ごとに破壊される艦艇は増えていく、三十分位すると。
 貴族軍の戦力は九割以上なくなっていた、それはまさに。
「消滅、ね」
「はい、そうですね」
 セーラが母に応える、二人は右翼にいる。
「もう彼等に戦力はないわ」
「では後は」
 もう勝敗は決した、それならだった。
「降伏勧告でしょうか」
「そうね、いい頃だと思うわ」
 こうしてだった、東郷はこのタイミングで降伏勧告を出した。するとここでだった。
 貴族達もそれを受けた、こうしてだった。
 ロンドンでの戦いは終わった、枢軸軍は損害を出すこともなく文字通り完全勝利でロンドンに入城した。この事態に。
 ロンドンに残っていた貴族達は狼狽した、それで言うのだった。
「ど、どうればいい?」
「まさか敗れるとは」
「枢軸軍はロンドンに入城したぞ」
「要所は押さえられていっている」
「これではだ」
「もう我々も」
「仕方がない」
 ここでだ、クロムウェルが言った。護国卿である彼が。
「ここは女王陛下に頭を下げるとしよう」
「そして、ですな」
「我々の身の安全を」
「そうだ、お願いしよう」
 つまり命乞いをするというのだ。
「その為には何もかもを出そう」
「権益をか」
「それも」
「全ては生きる為だ」
 その為だというのだ。
「だからだ」
「ではすぐに」
「何もかもを差し出して」
「何なら人質も差し出す」
 恥も外聞もなくだ、そうするというのだ。
「妻でも子でもな」
「とにかく手段を選ばずに」
「そうしますか」
「命あっての物種だ」
 この考えからだった。
「では宜しいな」
「はい、それでは」
 彼等はセーラの前に出て全員平伏した、そのうえで言うのだった。
「申し訳ありませんでした!」
「どうかお許し下さい!」
「せめて命だけは」
「どうか」
 こう言って必死に命乞いをするのだ、その彼等を見て。
 セーラの横にいるイギリスがだ、こう彼女に言うのだった。
「行くか」
「はい」
 セーラも彼の言葉に無表情で頷いて答えた。
「それでは」
「こんな連中の相手をすることはないからな」
 そうするまでもない相手だというのだ。
「行こうぜ」
「わかりました」
 セーラ達は平伏する彼等を無視して前に進んだ、そのうえで彼等を待っていた国民や軍人達の熱狂的な出迎えの言葉を受けるのだった。
 セーラはすぐに講和の席に着き講和条約にサインした、エイリスは全ての植民地を手放し世界帝国の座から降りることとなった。
 だが賠償金はなく今のエイリスにとっては軽いものだった、セーラは玉座に戻るとすぐに貴族の不正蓄財の差押とその権限の大幅縮小、それに大型の相続税の付与や様々な法的特権の剥奪といった改革案を議会に出した。
 法案は即座に通りエイリス貴族達の権限も縮小された、エイリスは貴族達の利権を抑止することにも成功した。
 このことについてだ、ロレンスは難しい顔でイギリスに言った。
「あれだけ何とかしたくても出来なかったことが」
「今は簡単に出来たな」
「はい、何でもないといった様に」
「もっと早いうちに出来てればな」
 イギリスは苦りきった顔でロレンスに述べた。
「エイリスもこんなことにはならなかったな」
「そうですね」
「まあ植民地も世界帝国もな」
 そうしたものはというと。
「どうでもよかったんだがな」
「それでもですね」
「無駄なダメージを受けることもなかった」
 この長い戦争で、というのだ。
「ことをすんなりと済ませられた」
「残念なことです」
「ああ、けれど貴族連中はどうにかなった」
 無事だ、そうなったというのだ。
「それじゃあな」
「それではですね」
「これからは欧州のエイリスだ」
「エイリス本来の姿にですね」
「戻ってやっていくか」
「はい、相手は手強いですが」
 何と言ってもドクツだ、レーティアとその忠臣達の存在は圧倒的だ。
「生きていきましょう」
「そうだな」
 こう話してだった、エイリスは新たな一歩を踏み出そうとしていた。
 戦争は終わった、このことに誰もが安堵すると共にはじまりの時を迎えようとしていた。東郷も日本に戻りそこで戦後処理に入ろうとしていた。
 しかしその彼を呼び止める者がいた、それはマウマウだった。
 マウマウは東郷に対してだ、こう言って来た。
「東郷、イイカ?」
「?デートのお誘いか?」
「ソンナトコロダ」
 それで来たというのだ。
「御前ニ案内シタイ場所ガアル」
「そうか、ではその誘いに乗らせてもらうか」
「ココカラカナリ離レタ場所ダガ」
 ベホンマもいる、彼も東郷に言って来る。
「イイカ」
「離れた場所?」
「暗黒宙域ダ」 
 マウマウはそこだと話した。
「私達ノ故郷ダ」
「暗黒宙域か」
「戦イハ終ワッタ、旅行トシテナライイダロウ」
「そうだな、それではな」
「日本モ来イ」
 マウマウは彼も誘った、そして彼と共にいた柴神にも声をかけた。
「犬神、御前モダ」
「その呼び方は止めてくれるか」
 犬神という呼び名にはだ、柴神は困った顔で返した。
「あれは祟るものだ、おぞましい呪術の産物だからな」
「ダカラ駄目カ」
「そうしてもらいたい」
「ワカッタ、ソレデハナ」
「しかし暗黒宙域か」
 柴神は暗黒宙域と聞いて首を傾げさせながら言った。
「あの場所のことはな」
「ご存知ありませんか」
「残念だが私もこの宇宙の全てを知っている訳ではない」
 こう日本に答える。
「だからだ」
「暗黒宙域のことはですか」
「そうだ、知らない」
 残念だがだ、そうだというのだ。
「だからこそ気になるが」
「では柴神様も同行されますか」
「折角の誘いだしな」
 それならというのだ。
「同行させてもらおう」
「それでは」
 こう話してそしてだった、東郷達はマウマウとべホンマに案内されその暗黒宙域に赴くことになった。だが。
 その暗黒宙域についてだ、日本にモンゴメリーが話した。
「あの宙域のことは」
「よくわからないのですか」
「我々も入ったことがありません」
 エイリス人もだというのだ。
「ケニアは勢力圏に置いていましたが」
「その中まではですか」
「少し入ると全くの暗闇になり」
「前に進めないからですか」
「探検隊を送ることはしましたが」
 エイリス人は世界各地を探検してそこがどういった場所かを調べてきた、これは彼等の冒険心によるところも大きい。
 しかしだ、暗黒宙域はというと。
「何度送っても原住民達、マウマウ嬢の部族に追い返されてきました」
「マズハ断ッテ入レ」
 これがマウマウの言葉だ。
「アノ場所ハ聖地ダ」
「マウマウさん達にとってはですか」
「ソウダ」
 だから追い返していたとだ、マウマウは日本に話す。
「マウマウ達ガ招クノナライイ」
「今回の様に」
「ソウイウコトダ」
「こうした事情がありまして」
 それでだとだ、モンゴメリーは日本にあらためて話す。
「あの宙域のことは我々も知らないのです」
「そうですか」
「あの宙域から原住民達が出入りしてきてゲリラ戦を挑んでくるので何とかしたいと思っていました」
 エイリスがケニアを植民地にしていた頃のことだ。
「まあ今お話しても仕方のないことですが」
「左様ですか」
「そうです、とにかくです」
「あの宙域のことがですか」
「遂にわかるのなら」
 有り難いことだとだ、モンゴメリーは微笑んで日本に話した。
「戻られたなら是非ご報告を」
「わかりました、航宙日誌の他に探検記も書かせてもらいます」
 こう話してだった、一行はマウマウ達に案内されて暗黒宙域に入ることになった、入るといきなり真っ暗闇になった。
 東郷達は大和の中にいる、彼はその艦橋において言うのだった。
「レーダーは大丈夫か」
「いえ、これが」
 士官の一人が東郷に難しい顔で答える。
「レーダーもソナーも」
「そうか」
「しかもです」
 それにだというのだ。
「勿論宙図もありませんし」
「これでは前に進みにくいな」
「全くです、これでは」
「マウマウ嬢の案内がなければな」
「はい、とてもです」
 進むことが出来ないというのだ。
「まさに秘境です」
「全くだな」
「マウマウノ後ニツイテコイ」
 そのマウマウからの言葉だ、あの木造の船から言って来る。
「ハグレルナ」
「本当にここは何処かわからないですね」
 日本も大和の艦橋にいる、そこで難しい顔になりそのうえでこう言うのだった。
「マウマウさんがおられないと本当にどう進んでいいかすらわかりません」
「後ろに退くことすら出来ませんね」
 方角も一切わからない、それでだった。
 秋山、彼も同行しているがその彼も言うのだった。
「方角が一切わからないですから」
「そうですね、恐ろしい場所です」
「あの別世界とはまた違った恐ろしさがあります」
 こう日本に話す。
「この宙域は」
「しかしマウマウさんはよく行き先がわかりますね」
 日本はこのことに疑問を感じて述べた。
「何も見えず何も聞こえないというのに」
「マウマウ達ハココニ住ンデイル」
 そのマウマウからまた返事が来た。
「マウマウ達ニハ見エルシ聞コエル」
「この道がですか」
「ソウダ、マウマウ達ノ目ト耳ハ他ノ人間トハ違ウ」
 こう言うのだ。
「ダカラワカルノダ」
「そうなのですね」
「安心シテツイテコイ」
 またこう言うマウマウたった、そのうえで大和に乗っている一行を暗黒宙域の奥へと案内していく、その中で。
 柴神は次第に険しい顔になった、そして言うのだった、
「嫌な予感がする」
「?何か感じられましたか」
「うむ、この予感は」
 東郷に対して険しい顔で言うのだった。
「まさか
「まさかとは」
「あの世界の」
 その顔はさらに険しくなっていく、そのうえで言っていき。
 そしてだ、東郷達にこう言うのだった。
「下がった方がいいだろうか」
「戻るべきですか」
「そう思う、このまま進むと」
 どうなるかというのだ。
「恐ろしい、知ってはならないことを知ることになるかも知れない」
「?それは一体」
 東郷はここでふと気付いた、柴神のこれまでの言葉を。
 それを言おうとした、だが彼もだ。
 彼自身の考えに不吉なものを感じた、それは戦争や政治にあるものではない世界の裏にある知ってはならないものだった、それで。
 そのことを感じ取ってだ、こう言うのだった。
「いえ」
「そうだ、今はだ」
「はい、忘れることにします」
「そうしてくれると有り難い」
 柴神はほっとした顔で告げた、そして。
 一行はさらに奥へと進んだ、そのうえで。 
 マウマウは遂にだ、こう言ったのだった。
「着イタゾ」
「?ここは」
「一体」
 日本と秋山が言う、そこは惑星だった。
「星ですか」
「まさかここが」
「聖地ノ中デモ最モ尊イ場所ダ」
 こここそがだというのだ。
「ココニ神様ガ出テ来ル」
「デハ来ルノダ」
 ベホンマも言って来た、こうしてだった。
 東郷達は惑星に降り立った、そこは岩ばかりの星で生命体は何もいない様だった。その星のある洞窟の前で。
 マウマウは立ち止まった、そのうえで東郷達に言う。
「コノ中ダ」
「神様がいる場所か」
「ソウダ、入ルゾ」
 こう話してだった、一行は今度は洞窟の中に入った、その中に入ると。
 洞窟の中も長かった、暗く細く長い道が続く。その曲がりくねった道を進み。
 広い、まるで大聖堂の中心の様に広く高い天井がアーチになっている天井の場所に出た、前は巨大な岩の壁だ。 
 その岩の壁の前でだ、ベホンマが言った。
「時間的ニハ間モナクダ」
「神様が出て来るのですね」
「ソウ、我々ノ神ダ」
「神ハ二ツアル」
 マウマウも話す。
「犬ノ神ト蟲ノ神ダ」
「蟲!?」
 蟲と聞いてだ、柴神の顔がいよいよ強張った、そして。
 東郷達にだ、蒼白になり言うのだった。
「いかん、すぐにこの場を去るぞ」
「!?どうされたのですか」
「あの、ご様子がおかしいですが」
 東郷と日本は柴神の普段とは全く違う様子に戸惑いを感じながら問うた。
「一体何が出て来るというのですか?」
「神といいますが」
「話はいい、とにかく立ち去るぞ」
 柴神はあくまでそうしようとだ、東郷達に言う。
「いいな」
「出ルゾ」
 だがそれは間に合わなかった、マウマウが言って来た。
「神様ガダ」
「蟲ノ神様達ダ」
 ベホンマも言う、その言葉と共に。
 岩の壁に絵、いやある世界の存在が出ていた。そこに出て来たものは。
 イモムシ、ただのイモムシではなかった。
 人の、赤子の顔があるイモムシだった。赤子の顔は純粋なものではなく妙に禍々しいものが漂っていた。
 その蟲達を見てだ、東郷は本能的に察して呟いた。
「邪神か」
「鬼神ダ」
 それだとだ、マウマウは言う。
「何処ニイルカワカラナイガ生贄ヲ食ベテ力ヲツケテイルノダ」
「生贄!?まさか」
 今度は秋山だった、彼も強張った顔で言う。
「それは」
「安心シロ、マウマウ達ジャナイ」
 その生贄は、というのだ。
「アチラノ世界ノ人間達ダ」
「やはり・・・・・・」
「見ルノダ」
 実際にだ、彼等は見た。そのイモムシ達が。
 その身体から出す無数の触手で彼等の前にいる人間達を捕らえそのうえで貪る姿を、人間達は生きながらゆっくりと喰われ苦しみのうちに死んでいる。 
 それを見てだ、柴神が言った。
「やはりこの者達か」
「この者達!?」
「柴神様、まさか」
「いいか、今見たものはだ」
 どうかとだ、柴神は強張った顔で東郷達に告げる。
「忘れるのだ、絶対に」
「忘れろというのですか」
「そうだ、あのことを知ってはならない」
 だからだとだ、柴神は日本に言うのだった。
「だから忘れるのだ」
「犬ノ神様ハ出ナカッタナ」
 だがマウマウはこう言うだけだった、ベホンマに対して。
「アノ神様達ハ人間ヲ救イ導クノダガナ」
「ソウダナ、イナイカ」
「出ナイノナライイ」
 それでだと言うマウマウだった。
「前カラ思ッテイタガ柴神ハ犬神ニ似テイル」
「ソウダナ」
「帰るぞ」
 柴神は彼等の言葉を聞いていなかった、それでだった。
 東郷達にしきりに帰る様に促した、そしてだった。 
 大和は暗黒宙域を出た、やはりマウマウ達に案内されて。
 そして出て来たがだ、今度は。
 レーティアから通信が来た、モニターに現われた彼女の顔も普段と違っていた。
 見てはならないものを見てしまった様な顔でだ、こう東郷達に言って来たのだ。
「すぐに世界の主だった面々をベルリンに集めてくれるか」
「とんでもないことが起こったな」
「そうだ」
 その通りだとだ、レーティアっは東郷に答えた。
「すぐに来て欲しい」
「わかった、ではな」
「日本君達もだ」
 国家達もだというのだ。
「そうだな、原始の八国全てに来てもらいたい」
「世界に関わることですね」
「そんな気がする、少なくとも尋常なものではない」
「いいか、来てもだ」
 ドイツもモニターに出て来た、それで言うのだった。
「何を見ても驚くな」
「ドイツさん、一体」
「ベルリンで話す、ではな」
 とにかく来てくれというのだ、こうしてだった。
 ベルリンに世界の主だった要人達と国家達が集められた、レーティアはまずは彼等を総統官邸に迎えた、そうして。
 彼等にだ、その強張った顔でこう言った。
「これからある場所に行くが」
「?レーティアさん本当におかしいよ」
 イタリアはそのレーティアを見て彼女に問うた。
「お化けでも見たみたいな」
「そうよね、いつも冷静なレーティアちゃんがね」
 おかしいとだ、ムッチリーニも言う。
「どうかしたの?」
「戦争は終わりましたが」
「まだ見つかっていなかった大怪獣が出て来たとか?」
 リンファとランファもそのレーティアを見て首を捻る。
「コアも消滅していますし」
「今のところで大きな災厄とかない筈よ」
「おい、本当にどうしたんだよ」
 ダグラスもレーティアに奇妙なものを感じて彼女に問う。
「人類史上最高の天才さんらしくないな」
「そうだ、どうしたんだろうな」
「おかしいわよね」
 アメリカとキャロルは互いに顔を見合わせて話している。
「普段のレーティアさんじゃないぞ」
「冗談抜きでお化けでも見た感じよ」
「あの、本当にどうしたんだよ」
 フランスも怪訝な顔で尋ねる。
「今のあんたどう見てもいつもと違うぜ」
「冷静さを失っているあるな」
 中国のそのレーティアに違和感を感じている。
「どうしたあるか」
「そうだろうな、私も自覚している」
 そのレーティアの言葉だ。
「まさかあの様なものがこの世にいるとは」
「それで何があったんだよ」
 イギリスもレーティアに問う。
「一体」
「そうですよね、それをお話して頂かないと」
 困るとだ、シャルロットもレーティアに言う。
「何もわかりません」
「だからちょっとお話してくれる?」
「そうしてくれるかな」
 カテーリンとロシアも言う。
「さもないと本当にわからないから」
「お願い出来るかな」
「ではだ」
 レーティアも彼等の言葉を受けて頷いた、そうしてだった。 
 一行はレーティアに案内されてベルリンのある場所に着いた、そこはというと。
「教会ですね」
「そうですね」 
 スカーレットはセーラのその言葉に応えて頷いた。
「ここは」
「それもカトリックの」
「外見だけだ」
 ドイツは一同にこう返した。
「あくまでな」
「カモフラージュか」
「そうだ」
 その通りだとだ、ドイツは山下に答える。
「一見そうだがな」
「ドーラ教の総本山だったのだ、ここがな」
「ドーラ教!?」
 その名前を聞いてだ、イタリアが言う。
「確かその教団ってドイツにある宗教団体の一つだよね」
「そうだった、だがその資金の出入りや信者の活動が不穏でだ」
 レーティアがそのドーラ教についての話をする。
「ドクツに戻ってから禁止したが」
「それで全ての教会を閉鎖し資金を抑え信者達を抑留して取り調べをした」
 ファンシズムならではの行動だ、このことはドイツも話す。
「資金は色々と詐欺行為や違法な物品の売買で手に入れていた、殆どの信者達はただ信仰しているだけで本尊のドーラの姿も知らなかったが」
「偶像崇拝じゃないんだね」
「表向きはな」
 そうだったとだ、ドイツはイタリアに話す。
「しかしだ」
「それでもなんだ」
「上層部、僅かな者達はだ」
 その彼等はというと。
「恐ろしいものを信仰していた」
「邪神!?」
「今から見てもらう」
 レーティアは真剣な面持ちのままだった、その顔で。
 自ら教会の扉を開き中に入る、教会の中もごく普通のカトリックの礼拝堂だ。 
 その礼拝堂の中に入るとだ、イタリアは本能的に察して言った。
「何か凄い嫌なのがいない?」
「はい、確かに」
 日本も無意識のうちに刀の柄に手をかけている。
「いますね」
「何だこの邪な気配は」
 山下もだ、刀の柄に手をかけている。
「魔物か?宇宙怪獣のものではないな」
「この礼拝堂に仕掛けがある」
 ドイツが彼等に言う、気配を察して剣呑なものになった一同に。
「中央の中を開けるとだ」
「何があるんだ?」
「地下への階段がある、今から開ける」
 ドイツは東郷に対して答えた。
「行くぞ」
「わかった、ではな」
 東郷はドイツのその言葉に頷いた、そして言うのだった。
「行くか」
「いや、待て」
 ここで呼び止める者がいた、それは。この銀河における最も忌々しい真実が今明らかになろうとしていた。


TURN138   完


                            2013・9・14



遂に貴族たちも降伏したか。
美姫 「ある程度の予想はしていたけれど……」
いや、本当にあっさり過ぎるな。
美姫 「本当よね。もう少しぐらい抵抗らしき物もあるかと思ったけれど」
まあ、枢軸にとっては幸運だったがな。
美姫 「それにしても、降伏する時まで何とも言えないわね」
保身第一だからな。それも自分だけの。
美姫 「まあ、これでエイリスも生まれ変わるでしょうね」
だな。そして、後半では。
美姫 「何やら厄介ごとの気配がプンプンするわね」
だな。一体、何が起ころうとしているのやら。
美姫 「気になる次回はこの後すぐ!」



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