『ヘタリア大帝国』




                  TURN101  偽帝

 ゾルゲは日本に入るとすぐにだった、そこで取り込んだ大学の教授なり新聞記者なりテレビのコメンテーターなりを集めていた。
 場所はアジトの会議室だ、そこで同じ卓につきこう言ったのである。
「同志諸君、時は来た」
「というと遂にですね」
「革命ですね」
「その時が来た、今ソビエトは帝国主義者達と干戈を交えている」
「まさかラーゲリまで侵攻するとは」
「そして同志カテーリン書記長の政策を誹謗中傷するとは」
 居並ぶ知識人達は忌々しげな顔で口々に言う。
「許せないことです」
「今の枢軸、帝国主義者達は」
「同志カテーリン書記長の政策を批判することは共有主義を否定することだ」
 ゾルゲもこう言い切る。
「だからこそだ」
「はい、それ故にですね」
「遂に我々は立つのですね」
「武器は持って来た、それに援軍も来た」
 人造人間達の存在もここで言う。
「枢軸諸国の盟主である日本で革命を起こしだ」
「そして各国もですね」
「一気に共有主義に染め上げるのですね」
「その通りだ、その時が来たのだ」
 ゾルゲは仮面の様な表情で言っていく。
「ではいいな」
「はい、それでは」
「他の同志達にも連絡します」
「日本全土で革命を起こす」
 所謂シンパに声をかけてだというのだ。
「では革命の成功の前祝いとしてだ」
「はい、今はここで」
「乾杯といきましょう」
 彼等のコップにウォッカが入れられる、ソビエトの酒だ。
 その酒を掲げ彼等は口々に叫んだ。
「革命万歳!」
「共有主義万歳!」
「今から人類は生まれ変わる!」
「偉大なるカテーリン書記長によって!」
 こう口々に言いそうしてだった。
 彼等は蜂起の用意をした、その時前線ではソビエト軍がチェルノブを拠点として再び攻勢に出ていた。
 ラーゲリを果敢に攻める、だがそこには。
「祖国さんが抜けましたね」
「そうだな」
 ジューコフがコンドラチェンコに応える。
「今はな」
「何か特別任務らしいですけれど」
「その様だな、それではだ」
「今は俺達だけでやりますか」
「そしてだ」
 ジューコフはモニターにもう一人映し出した、そこには気弱そうな青い目の少女がいた。ピンクの長いややふわりとした髪にエプロンである。ソビエトの軍服がその下にあるがよく見れば耳や後ろに鰻のそれがある。
 その彼女にだ、ジューコフはこう言ったのだ。
「シベリアのウナギ民族だな」
「そんな民族いました?」
 前線に駆り出されているラトビアがここで言う。他のバルト三国の面々も一緒だ。
「僕はじめて聞きましたけれど」
「実は俺もですよ」
 コンドラチェンコはラトビアの言葉に応えた。
「そんな民族いるんですね」
「本当に初耳ですよね」
「ソビエトは物凄い数の民族がいますけれどね」
 それこそ星の数だけいるのだ。
「その中には人間族以外も沢山いますけれど」
「ウナギ民族ですか」
「そんな民族もいるんですね」
「はい、そうなんです」
 少女は何故か言い繕う感じで答えてきた。
「ウナギ=バウラーといいます」
「名前も鰻ですか」
 エストニアはそこに妙に知識欲を感じて彼女に問うた。
「中々面白いですね」
「博士、いえお父さんに名付けてもらいまして」
「それでなんですか」
「そうなんです。それとですけれど」
 ウナギはさらに言う。
「あの、私は艦隊指揮が出来ますので」
「うむ、練習やテストの結果は見せてもらった」
 ジューコフもその彼女に応える。
「中々のものだな」
「有り難うございます」
「君には期待している」
 こうウナギに対して言うのだ。
「それでは戦ってくれ」
「はい、私頑張ります」
「さて、それでは君に先陣を務めてもらう」
 今回の侵攻のだというのだ。
「祖国殿がいない分まで働いてもらう」
「わかりました」
「そしてバルト三国の方々もです」
 ジューコフは彼等にも声をかける。
「第二陣としてお願いします」
「わかりました」
 三人を代表してリトアニアが応えた、そうした話をしてだった。
 ソビエト軍はウナギを先陣としてラーゲリに展開する枢軸軍に向かう、ダグラスはその敵の先陣を見て言った。
「何かあからさまに怪しいな」
「あの先頭の艦隊ね」
 ドロシーがそのダグラスに応える。
「こちらに一直線で突き進んでくる」
「普通の戦艦と巡洋艦、それに駆逐艦の艦隊だけれどな」
 編成自体は普通だ、だがなのだ。
「怖いもの知らずって形で来やがるな」
「まるで攻撃を受けても平気みたいに」
「艦載機は無理か?」
 ダグラスはその艦隊の中の巡洋艦を見た、見ればだ。
「あれは防空巡洋艦だな」
「そうね」
「艦載機は無理っぽいな」
 ダグラスはまずこの攻撃を消去した。
「じゃあ次はな」
「ビームだけれど」
「バリアはないな」
 そうした戦艦ではなかった、普通のソビエトの戦艦だ。
 だがそれでもだったのだ、ダグラスはその突撃に恐れないものを感じてこうドロシーに言ったのである。
「バリアはなくてもな」
「ビームに対策がある」
「そんなこと出来るのかよ」
「私の知る限りではないわ」
 ガメリカの科学技術庁長官の言葉である。
「そうしたことは」
「そうだよな、けれどそれでもみたいだな」
「ビームっていうたら電気やろ」
 ここで言って来たのはブラジルだった。
「電気やったら心当たりあるで」
「デンキウナギだホーーーー」
 ハニーも言って来る。
「宇宙怪獣でも大型でいるホーーーー」
「つくづくアマゾンは凄い場所ですね」
 マカオがハニーの言葉に唖然となる、アステカとの戦いで入ってはいるがあらためてその恐ろしさを知ったのである。
「そんな無茶苦茶な怪獣までいるなんて」
「それがアマゾンだホーーーー」
「そのデンキウナギがなんだな」
 ダグラスはあらためてハニーに言った。
「電気、ビームを吸収するんだな」
「そうだホーーーー」
「じゃあそれか?ビームを吸収するのか?」
 ダグラスはそのソビエト軍を見ながら言う。
「まさかとは思うがな」
「いえ、それはあるわよ」
 リディアがいぶかしむダグラスに話してきた。
「ソビエト軍は色々新しいものを取り入れる軍隊だからね」
「潜水艦なりヘリ空母なりか」
「カテーリン書記長が新しいもの好きだし」
 この辺りは子供故の無邪気さから来るのだろうか。尚カテーリンは巨大なもの、沢山あることも好きである。
「革命的ってことで何でも新しいことをはじめることがいいことだって考えられてるからね」
「それでか」
「ええ、何かしらの新兵器でね」
 それでだというのだ。
「ビームを吸収する戦艦かもね」
「成程な、それを前に出してか」
「楯にしつつね」
「こっちを攻めるんだな」
「そうじゃないかしら」
「有り得るな、じゃあちょっと仕掛けてみるか」
 ダグラスはここまで聞いて一つ策を考えた。そのうえで東郷に対してこう言ったのである。
「長官さん、ちょっといいか?」
「ああ、話は聞いていた」
 東郷も大和のモニターに出たダグラスに述べた。
「それならまずはな」
「あの艦隊にビーム攻撃を仕掛けるぜ」
「そうしてくれ、敵を知ることも必要だ」
 それも絶対に、というのだ。
「だからな」
「あの艦隊には俺の艦隊が仕掛けるがな」
「他の敵艦隊に対してはいつも通りだ」
 そうして攻めるというのだ。
「艦載機、そしてビームを放つ」
「了解した」
 レーティアがモニターに出て来て応える。
「では今からな」
「ああ、頼むな」
 この話もあっさりと決まった、そうして。
 枢軸軍はいつもの攻撃にかかった、まずは艦載機を出し。
 ビームを放つ、その時だった。
 ダグラスは己が率いる艦隊の将兵達に告げた、仁王立ちになり腕を組みそのうえで敵の艦隊を見ながら。
「いいか、今からだ」
「はい、あの妙な敵艦隊をですね」
「攻撃しますね」
「遠慮はするな、ビームをお見舞いしてやれ」
 彼が率いる艦隊のそれをだというのだ。
「思う存分な」
「はい、わかりました」
「それでは今から」
 部下達も応える、そしてだった。
 ダグラスの艦隊はその敵艦隊にビームを放つ、無数の光の矢が銀河の闇を切り裂き敵を貫いた、かと思われた。
 しかしそのビームはどれも打ち消されてしまった、何と敵艦に命中したところで全て吸収されてしまったのだ。
 ドロシーはそれを見てすぐにこう言った。
「あれはバリアではないわ」
「違うんだな」
「ええ、違うわ」
 こうダグラスに言うのだ。
「全くね」
「じゃあ吸収か」
「あの戦艦は通常戦艦ね」
 ドロシーはこのことも見抜いた。
「ビーム吸収はないわ」
「じゃあ何で吸収出来るんだよ」
「ビーム吸収はまだ開発されていない技術」
 この戦争の中でもだ。
「開発出来ても高度過ぎてコストがかかって」
「そう簡単に実用化も出来ないか」
「幾らソビエトが軍事技術でも冒険的でも」
 それでもだというのだ。
「すぐに開発出来ないわ」
「しかも実用化はか」
「とても無理な筈、けれど」
 だがそれでもだと。ドロシーは言う。
「あの艦隊は何なのかしら」
「長官でもわからねえのかよ」
「私も知らないことは多いしわからないことはあるわ」
 ガメリカの科学を支える彼女でもだというのだ。
「あれは怪奇の域よ」
「個人の資質か?」
 もう一人の天才レーティアも言う。
「それのせいだろうか」
「個人の資質?」
「私も断言出来ないが」
 さしものレーティアも今はこう言うのだった、いつもの確信がない。
「どう見ても兵器にそうした技術は備わっていない」
「じゃああれかよ」
「そうだ、後は個人の資質だが」
「ビームを吸収する資質なんてあるのかよ」
「先程ハニー君が言ったな」
「言ったホーーーー」
 その通りだとだ、ハニー自身も認める。
「デンキウナギはビームを吸収するホーーーー」
「艦隊指揮官にその資質があればどうか」
 レーティアはハニーと話しながらその可能性を指摘する。
「艦隊自体がビームを吸収出来る」
「何か凄い話になってきたな」
 ダグラスはレーティア達の話を聞いて眉を顰めさせて述べた。
「ビームを吸収出来る艦隊司令かよ」
「世の中色々な人がいるだろ」
 シャルロットの横からビルメが言って来た。
「フェムちゃんだって雨降らせるよな」
「はい、出来ます」
 フェム自身もこう応える。
「雨蛙さんのお護りで」
「そうだね、この娘もそうだしロシアさんだって冬将軍使うしね」
「あれは迷惑なことこのうえないがな」
 ダグラスはロシアのその能力には忌々しげに述べた。
「とにかくそうしたこともあってか」
「そうだよ、ビーム吸収出来る奴もいるだろ」
「っていうとソビエトにアマゾン出身の奴がいるのか?」
 ダグラスはビルメと話していて今度はこの可能性を考えた。
「色々な奴がいる国だな」
「そんな人いなかったけれど」
 またここでリディアがソビエトの内情を話す。
「というかアマゾン暑いのにソビエトに来たら大変だよ」
「アマゾンの暑さに慣れてるとか」
「うん、とても生きていられないから」
 とてもだというのだ。
「それはないんじゃないかな」
「じゃあどういうことなんだ」
「そういえばアステカにもソビエトの人来てたわ」
 ここでキューバがこのことを言う。
「うちに観光で来たいって言うてたわ」
「ソビエトが寒いからだな」
 ダグラスはソビエトがアステカに申し出た理由をすぐに察した。
「特にあんたのところは海もビーチも綺麗だしな」
「観光は俺の主な産業の一つやしな」
 キューバの自慢の一つだ、語る顔も誇らしげだ。
「その時に来てたわ、それも何度も」
「首都アマゾンにも招待したホーーーー」
 ハニーがこのことも話した。
「喜んでくれたホーーーー」
「その時に宇宙怪獣を見ていなかった?」
 総督は直感的にその可能性を察してハニーに問うた。
「そうしたのかな」
「そういえば宇宙怪獣を見ているやけにスケベそうな博士がいたホーーーー」
 そのものずばりといった感じの返答だった。
「あいつは絶対にロリコンだと思ったホーーーー」
「ロリコフとかいう博士がおったんや」
 今度はメキシコが話す。
「幼女を楽しそうに見る如何にも危ないおっさんやったわ」
「そのおっさん即刻逮捕すべきね」
 グレシアは即座にこう返した。
「何時かとんでもないことするわよ」
「で、そのおっさんが宇宙怪獣もよお見てたさかいな」
「そこからデンキウナギのデータを取ったのかな」 
 総督はこう分析した。
「それで誰かにその細胞を移植したとかね」
「そんな無茶出来るかよ」
「しようと思えば出来るわ」
 ドロシーはいぶかしんだダグラスにこう返した。
「人道的な問題があるかも知れないけれど」
「宗教的なモラルだよな」
「若しそれがないと」
 ダグラスもドロシーもクリスチャンだ、だが。
「共有主義者みたいに」
「共有主義は宗教を否定します」
 かつてその共有主義を信じていたリンファの言葉だ。
「あくまで共有主義を信じるものなので」
「言うならば擬似宗教か」
「はい、そうです」
 まさにそれだというのだ、戦いの最中に戦闘を続けながらダグラスに話す。
「そう考えていいです」
「そうした考えだからか」
「これまでのどの宗教のモラルにもとらわれません」
「斬新って言えばいいがな」
「かなり危険でもあるわよ」
 リンファと同じくかつて共有主義者あったリディアも言う。
「実際にどの宗教の考えでもないからね」
「そってどんな悪事しても平気ってことか?」
 ゴローンがこうリディアに怪訝な顔で問うてきた。
「どの宗教も信じてないんだよな」
「それで何でどんな悪事をしても平気ってなるの?」
「だってよ、どの宗教も信じてないってことはな」
 それはどういうことか、ゴローンが言うには。
「どのモラルも持ってねえってことだよな」
「確かゴローン君ムスリムよね」
「ああ、そうだよ」
「イスラムでは無神論者はそう考えられるのね」
「人は信仰がないと駄目だろ」
 それこそ絶対にというのだ。
「それでどの宗教も信じてないってな」
「モラルがないってなるのね」
「そうだよ、そうじゃねえのかよ」
「ううん、そういう考えなのね」
「だからソビエトはどんな悪事しても平気なんじゃないのか?」
「だから。共有主義は擬似宗教よ」
 リディアはそのごローンにこのことから話す。
「だから共有主義には共有主義のモラルがあるから」
「そうなんだな」
「ええ、あるから」
 そのことは安心していいというのだ。
「普通にものを盗んだり人を殺したり嘘を吐いたりするのは駄目だから」
「そうなんだな」
「そう、それはないから」
 このことは確かに言う。
「幾ら何でもね」
「だといいんだけれどな」
「良心とかモラルのない人は滅多にいないから」
 それこそ千人に一人の割合だ、サイコパスもいるにはいるがだ。
「共有主義者だってそうよ」
「そういえばあんた達はいい人だよな」
「少なくとも他の人に酷いことはしたくないわ」
「私もです」
 このことはリディアだけでなくリンファも言う。
「意地悪とかいじめとかね」
「そうした人として間違っていることは」
「そういえば宗教みたいだって言ってたよな」
「そうよ、共有主義もね」
 一種の宗教だというのだ。
「それになるのよ」
「それじゃあ共有主義にも教義があるんだな」
「あるわよ、本当にね」
 まさにそれがあるというのだ。
「赤本ね、書記長さんの書かれた」
「コーランみたいなものだな」
「まさにそれよ、あと資産論とか」
 この本も話に出た。
「そういうのがイスラムで言うコーランみたいなものよ」
「成程な、わかった」
「まあ共有主義についてのお話はそれ位にして」
 それでだというのだ。
「ロリコフ博士だけれどね」
「その変態ロリコン博士だな」
「確かにロリコンだけれどね」
 ペドと言わない辺りにリディアの情が出ている。
「紳士でもあるのよ。間違っても手を出したりはしないから」
「だといいんだがな」
「見て愛でるだけの人よ」
 そうした人としてのモラルは守っている人間だというのだ。
「所謂変態紳士なのよ」
「変態でも紳士か」
「そう、そういう人なの」
「じゃあ悪人じゃないんだな」
「悪人ではないわ」
 リディアもこのことは保障する。
「ただ変態なだけでね。それにソビエトの科学を支えている人だから」
「うちの科学技術庁長官みたいな奴か」
 ダグラスは彼をドロシーの様な者と考えてリディアに問うた。
「そうなんだな」
「そうね、近いわね」
 実際にそうだというのだ。
「ソビエトの文部科学大臣でもあるのよ」
「文部!?」
 皆この部分にかなり疑問を持って即座に声をあげた。
「ロリコン趣味の変態なのに!?」
「教育担当?」
「あっ、教育は実質的には書記長さんが全て統括してるから」 
 他ならぬカテーリンがだというのだ。
「ロリコフ博士は科学に専念してるわ」
「それは何よりです」
 日本もその話を聞いてほっとした顔になる。
「ソビエトもその辺りは考えているのですね」
「まあ書記長さんは何でも統括してるけれどね」
 完全な独裁者だというのだ、こうした意味でもファンシズムと同じである。
「で、そのロリコフ博士だったら」
「デンキウナギの細胞を使っても普通やねんな」
 アルゼンチンが問う。
「そういうこっちゃな」
「そうなの、あの人ならね」
 そうしたことが出来るというのだ。
「だから今のあの敵艦隊もね」
「その技術を使ってかいな」
「ビームを吸収してるのかもね」
「厄介やな、それやったら」
 アルゼンチンも困った顔で言う。
「どないしたもんかいな、艦載機もあかんし」
「それなら鉄鋼弾やろ」
 ペルーがそのアルゼンチンに返す。
「それで攻めたらええやろ」
「それがあるか」
「そや、それでどうや」
「そやな、ほなそれやな」
 アルゼンチンも納得する、そして実際に東郷もモニターに出て来た平賀にこう言われたのである。
「とりあえず外相はまた復活した」
「そうか、それはよかったな」
「戦線に戻って来るその時を楽しみにしておいてくれ」
「是非な、それで今ここに出て来たのはあれだな」
「話は聞いた」
 久重の口から話す。
「面白そうだな、その提督は」
「じゃあ捕虜にしてか」
「会って話を聞きたい」
 こう東郷に言うのである。
「是非な、頼めるか」
「わかった、どちらにしろ人材は必要だ」
 東郷は人材面から考えていた。
「あの艦隊を壊滅させて提督を捕虜にしよう」
「頼む、とはいっても私は人体実験の類はしない」
「生物実験自体がだな」
「そんなものはもうコンピューターで出来る」
 その模擬実験でだというのだ。
「私もそうされましたので」
 久重は自分の口から言った。
「津波様はこれでも動物愛好家なんですよ」
「それはいいことだな、ではまずはだ」
「捕虜にしてくれ」
 平賀はまた久重の口から話す。
「頼むぞ」
「了解した」 
 こうして東郷はウナギが何者かまだわからないが彼女を捕虜にすることにした、そうしてなのだった。
 枢軸軍はまずはソビエト軍の突撃を受けた、それを避けつつだ。
 鉄鋼弾攻撃に移る、その時に。
 ウナギの艦隊に昇順を合わせる、ネルソンは部下に告げた。
「では我々がだ」
「はい、その謎の敵艦隊をですね」
「仕留めるのですね」
「そうする」
 こう告げるのだった。
「ビームが効かないからといって無敵という訳ではない」
「その通りですね、我々もそうでしたし」
「ビームは防げていましたが」
 それでもだったのだ、彼等にしても。
「潜水艦の魚雷にはしてやられました」
「しかし今度はですね」
「我々がそうする番だ」
 魚雷、即ち鉄鋼弾攻撃を仕掛けるというのだ。
「そうしよう」
「了解です、それでは」
「あの艦隊に接近して」
「取舵と同時に側面から鉄鋼弾を放つ、そしてそのまま反転離脱する」
「わかりました」
 部下達も応える、そしてだった。
 ネルソン艦隊は彼の命令通りすぐに取舵を取りそのうえで鉄鋼弾を放った、無数の魚雷がウナギ艦隊に襲い掛かり瞬く間に全艦を行動不能にした。
 東郷はそれを見てすぐに命じた。
「よし、あの艦隊のクルーを全員捕虜にしろ」
「わかりました」
「他の艦隊は引き続いて攻撃だ」
 ソビエト軍全体をだというのだ。
「次のターンで決める、いいな」
「そうしましょう」
 秋山が応える、そうしてだった。
 枢軸軍は次の総攻撃でソビエト軍を退けた、この戦いでの切り札であるウナギ=バウラーが敗れてはどうしようもなかった。
 彼等は今回も撤退するしかなかった、かくして今回のラーゲリでの戦いも枢軸軍の勝利に終わったのだった。
 そしてウナギは東郷、平賀との面会の場を用意された。二人はウナギからの話を聞いてまずは驚いた。
「まさかクローンだったとはな」
「長官も予想していなかったか」
「ああ、全くな」
 平賀は表情はないがその言葉の意味は驚きのものだった、その言葉で東郷に対して久重の口から返したのである。
「予想していなかった」
「そうか」
「クローン技術のことは知っている」
 平賀にしてもそうだというのだ。
「しかしだ」
「それでもだな」
「実用化しているとはな」
「枢軸のどの国も実用化には至っていないな」
「人道的な問題がある」
 平賀が言うのはこのことだった。
「どうしてもな。だからガメリカにしてもだ」
「ドクツもだな」
 こうした科学が進んでいる国でもだというのだ。
「倫理的な問題から実用化はしていない」
「ドロシー長官やレーティア総統も見送ったか」
「カテーリン書記長は実行したがだ」
「あの書記長さんだから出来ることか」
「共有主義はではそうらしいな」
 彼女が掲げるソビエトの新しい『宗教』ではというのだ。
「そもそも人間自体を国家、共有主義の細胞だと割り切っているところもあるからな」
「細胞を補充するだけか」
「そう考えているからだ」
 それ故にだというのだ。
「共有主義ではクローン人間でも実用化したのだろう」
「つまりクローンはクローンだな」
「そういうことだ、人間ではない」
「あくまで兵器か」
「そこまではいかないだろうが軍人に相応しければ軍人として用いる」
 実に割り切った考えではある、普通の国家にはないまでに。
「それだけなのだろうな」
「本当に思い切った考えだな」
「君でもそうした考えにはなれないな」
「とてもな。クローンで戦うこと自体想像出来ない」 
 こうした意味で東郷は古いと言えるだろうか、戦争は生身の人間が行うものだと考えていることを古いとするならば。
「俺としてはな」
「そうか、私もだ」
「長官もか」
「ソビエトの考えは置いておいて私も賛成出来ない」
 そうだというのだ。
「とてもな」
「他の人もだな」
「そう思う。デンキウナギの技術を入れたクローン人間とはな」
「戦力としては大きいがな」
 それはその通りだ、極端に合理的に考えればそうなる。
 そうした話をしてそしてだったのだ、東郷はここでそのウナギに問うた。
「それでだが」
「はい、私はこれからどうなるんでしょうか」
「最初に言うが危害を加えるつもりはない」
 東郷はおどおどしているウナギにまずはこのことを保障した。
「それはない」
「あっ、そうなんですか」
「君を我が軍の提督に迎えたいが」
「えっ、けれど私は」
「ソビエト軍の提督か」
「しかもクローンですけれど」
 人造人間、そしてそれだというのだ。
「それでもいいんですか?」
「どんな姿形でも心が人間なら人間だからな」
 東郷は穏やかに笑って己の持論を述べた。
「君も心は人間だな。違うか」
「いえ、それは」
 そう言われるとだ、ウナギ自身もこう返すのだった。
「私も心は人間のつもりです」
「そうだな、それならな」
「人間ですか、私も」
「それを言ったら枢軸軍には人間じゃないのも一杯いるさ」
 ここで話に出すのは。
「フランスさんなんか変態極まりないしな」
「おい、何でそこで俺なんだよ」
 そのフランスがいきなり部屋に出て来た。
「お兄さんが人間じゃないのかよ」
「変態さんだからな、フランスさんは」
「それでも俺だって人間の心はあるぜ。ちょっとふざけるのが好きなだけだよ」
「フランスさんのおふざけは度が過ぎてますからね」
 久重が突っ込みを入れる。
「国家というか人間というかそこが怪しいところが」
「何だよ、それでかよ」
「はい、けれど確かにフランスさんが人間なら」
 それならというのだ。
「ウナギさんも人間ですね、私やアストロ猫もそうなります?」
「ああ、なる」
 東郷は久重にも言う。
「心が人間ならな」
「そういうことですね」
「それで君の答えを聞きたい」
 東郷はウナギに対してあらためて問うた。
「我が軍に来てくれるだろうか」
「私を人間として見てくれているのなら」
 それではとだ、ウナギも心が動いた。
 そしてだ、東郷にこう答えたのだった。
「喜んで」
「そうか、では所属は日本軍だ」
「枢軸軍の中のですか」
「軍服はそのままで構わない、ではこれからもな」
「はい、お願いします」
 ウナギは微笑んで東郷に応えた、かくしてだった。
 ウナギ=バウラーも枢軸軍に加わることになった、そして彼等はクローンという思わぬ存在のことも知ったのだった。
 その彼等に彼が戻って来た、宇垣はラーゲリに戻り大声で言った。
「わしはまた戻って来たぞ!」
「おっさん、本当にしぶといなおい」
 プロイセンがその彼に驚きの顔で言った。
「また復活するなんてな」
「わしは不死身だ、日本帝国がある限り倒れはせぬ」
 こうその機械の身体で言うのだ。
「この通り何度でも蘇るわ」
「今度は肌が完全に機械化してるね」
 ハンガリー兄は彼のその肌を見て言った。
「そうなったんだね」
「内蔵もだ」
 首だけになったから内蔵もそうなったというのだ。
「今では脳以外は全てそうなっている」
「心臓もですね」
 オーストリアは人体において脳と並ぶ最重要部分について問うた。
「それもまた」
「うむ、心臓も機械になった」
「やはりそうですか」
「今のわしはその殆どが機械、この身体で日本の為に戦おうぞ」
「喜んでくれていて何よりだ」
 平賀がその宇垣の横から言って来た、やはり頭には久重がいる。
「肉体の回復にはまだ時間がかかるからな」
「それまで待たせてもらおう」
「こうしたクローン技術なら使えるがな」
 やはりソビエトの様には、なのだ。
「それまでは機械の身体でいてくれ」
「充分だ、長官には感謝している」
「私も嬉しく思う、外相の愛国心と帝への忠誠もな」
 その二つもまた、というのだ。
「有り難い、これからも頑張ってくれ」
「そうさせてもらう、だが」
「だが?」
「どうもまた死にそうな気がするな」
 ここでこうも言うのだった。
「どうもな」
「わしは何度死んでも機械として戦場に、外務省に戻る」
 戦う外相としてそうするというのだ。
「だから安心してくれ」
「その心意気に惚れた」
 平賀は誰も気付かなかったが重要な言葉を出した。
「では共に進んでいこう」
「それではな」 
 こうして宇垣も前線に復帰した、東郷はその話を聞いて我がことの様に喜び秋山と日本にこう言っただった。
「やはりあの人がいてくれないとな」
「何か大きな穴が開いた感じがしますね」
「寂しく感じてしまいます」
 秋山と日本もこう東郷に返す。
「人間的魅力があるのでしょうね」
「そうだな、いい人だ」
 東郷もこう秋山に返す。
「あの人がいてくれると有り難い」
「我々を身を呈して守ってくれましたし」
「本当に助けられた、いい人だな」
「はい、ですがソビエトがクローンを実用化しているとは」
 秋山はここで話題を変えてきた、これまでの和やかな雰囲気から一転して深刻な顔になって言うのだった。
「これはかなり危険ですね」
「軍事的に有能な人間のクローンが前線に多く出て来るとな」
「数のうえでも」
「全くだ、それだけで終わればいいな」
「それだけでとは?」
 日本がここで東郷の言葉に問うた。
「何かありますか」
「あるかも知れない、ソビエトは工作も得意だ」
「その工作にクローン人間を使うとですね」
「厄介だ、そうならなければいいがな」
「確かに。言われてみますと」
 日本も東郷の話を聞き顔を曇らせる。
「ソビエトがそうしてくる可能性は高いですね」
「手を打っておくか」
 東郷も腕を組んで述べる。
「どうするべきかな」
「では山下長官もお呼びして」 
 そしてだというのだ。
「そのうえでお話しましょう」
「そうだな、そうしよう」
「それでは」
 こうした話をしてだった、彼等はソビエトへの工作への対策を進めようとしていた。しかしそれは僅かだが遅れてしまっていた。
 ゾルゲは既に日本に来ていた、そして今はソビエトから来た者達と集まり地下のアジトの密室で話していた。
 ロシアとロシア妹、それにベラルーシがいた。ロシアがゾルゲに対して言う。
「じゃあ今からね」
「はい、作戦を開始します」
「こちらの人達との連絡はいいかな」
「既にテレビ局を押さえています」
 そこをだというのだ。
「情報を伝達する部門を、それにです」
「宮廷はどうかな」
「今から突入します、流石に宮廷の者達は誰も取り込めませんでしたが」
「新聞記者の人達は出来たよね」
「はい」
 知識人であり宮廷に取材で出入り出来る彼等はそう出来たというのだ。
「無事に」
「じゃあ記者の人達と一緒に宮廷に入ってだね」
「この国の皇帝への取材という名目で」
 記者に化けそして入りというのだ。
「入りまずは宮廷を占拠し」
「宮廷からテレビで枢軸諸国に放送してだね」
「日本を共有主義にします、そして他の枢軸諸国もです」
 盟主である日本が共有主義になる、そこから一気にだというのだ。
「赤く染め上げましょう」
「お友達が一気に増えるね」
 ロシアはこう考え明るい笑顔になった。
「いや、僕も嬉しいよ」
「ご期待下さい」
 ゾルゲもそのロシアに微笑んで述べる。
「祖国殿に大勢の友人が出来ます」
「嬉しいよね。僕本当にお友達が欲しいんだ」
 ロシアのささやかな願いである、しかも切実な。
「だからね、いてくれたらね」
「はい、だからこそです」
「皆が一緒になればいいのにね」
 こんなことも言うロシアだった。
「その為にもね」
「はい、それでは」
 こう話して笑顔になる二人だった、そして。
 こんどはベラルーシがゾルゲにこう言って来た。
「それでなのですが」
「はい、今から出発します」
「戦闘員も来ていますので」
 ベラルーシが話すのはこのことだった。
「彼等もですね」
「活躍してもらいます、この星も占拠します」
「その為に彼等を呼び」
「もうクローン人間は来ているでしょうか」
「リョウコ=バイラーが」
 この名前が出た。
「来ています」
「リョウコ=バイラーですか」
「御存知でしょうか」
「どういった者か知りません」
 それは彼も知らないというのだ。
「ですが博士が造り上げてくれたクローンですね」
「はい、そうです」
「それなら大丈夫です」
 少なくとも博士のその才は認めているゾルゲだった。もっと言えば彼は博士の人格は全く考慮してはいない。
「では今からです」
「宮廷に潜入してですね」
「革命を起こしましょう」
 こう言ってすぐに変装に入る、ロシア達もそれに続く。
 枢軸諸国にとって思いも寄らぬ奇襲が迫っていた、彼等にとって最大の危機が迫ろうとしていた。


TURN101   完


                        2013・4・10



宇垣の復活と新たな仲間の加入と。
美姫 「枢軸は着々と戦力を増しているわね」
とは言え、前回から引き続き、後方での怪しい動きが。
美姫 「こちらがそろそろ動きそうね」
最早、回避はできそうもないけれど。
美姫 「一体どうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る