『子供と魔法』




 ノルマンディーの田舎の家。昼下がりに男の子は自分のお部屋の中で遊んでいます。
 昼下がりのけだるい雰囲気の中に包まれたお家は木でとても頑丈に造られていて男の子の部屋もとても厚い壁に覆われています。あちこちにおもちゃや家具があって籠の中にはリスがいて丸くなって寝ています。ソファーには白猫がいますが猫も丸くなって寝ています。男の子はベッドの上に座ってそのうえで絵本を読んでいます。 
 ふと顔をあげてそれから机の方を見ます。机は樫の木でできたとても頑丈そうなものです。その机の上には教科書やノート、それに鉛筆といったものが置かれています。
「お勉強しようかな」
 男の子はふと呟きました。
「そろそろ。けれど」
 それでもです。何かのんびりとしていてお勉強をする気になれないのでした。それで絵本を読み続けるのでした。
「いるの?」
「あっ、ママン」
 ここで扉をノックする音が聞こえてきました。男の子は扉の方に顔を向けて応えました。
「おやつよ」
「えっ、おやつ!?」
 男の子はおやつと聞いて顔を明るくさせました。するとお母さんが部屋の中に入ってきました。スカートとエプロンが見えますがとても大きいので顔が見えないです。
 お母さんの声は上から聞こえてきます。ベッドから前に来た男の子にその声をかけるようです。
「おやつは何なの、ママン」
「お勉強はどうなったの?」
 お母さんはまずそのことを尋ねるのでした。
「お勉強は。進んでるの?」
「おやつは?」 
 男の子はおやつのことには答えないのでした。
「それでおやつは何なの?」
「お勉強のことを聞いているのだけれど」
 お母さんの声が少し怒ったものになってきました。
「若しかして全然していないの?」
「だからおやつは?」
 男の子はそれでも全く答えないのでした。尋ねるのはおやつのことばかりです。
「おやつは何なの?ねえ」
「お勉強をしていない子にはあげません」
 お母さんは遂に怒ってしまいました。
「そんな子にあげるのはこれです」
「えっ、これ!?」
「そうです。これだけです」
 お母さんがこう言って出してきたのは砂糖が入っていない紅茶とジャムを塗っていないパンだけでした。これでは朝御飯と同じでおやつとは言えないものでした。
「反省しなさい。罰ですよ」
「そんな、お勉強はすぐにするのに」
「今しなければ駄目だったのよ」
 お母さんの声はやっぱり怒ったものでした。
「わかったわね。いいわね」
「ちぇっ」
 男の子はふてくされましたがもう遅かったです。お母さんはその紅茶とパンを部屋に置くとそのまま行ってしまいました。男の子は仕方なくその紅茶とパンを机の上に置きました。
 けれどどうしても面白くありません。ふてくされたまま机の上に置いてあったぬいぐるみを壁に投げつけました。
「こんなの食べても全然嬉しくないよ」
 こう言って次はポットや茶碗を投げます。どちらも木製だったので割れることはありませんでしたがかなり痛んでしまったようです。
 男の子は続いて立ち上がり教科書やノートも投げます。絵本も破ってそして箪笥を蹴飛ばして椅子を転がします。そして鉛筆を取って籠の中のリスを出して突きだしました。
「キイ、キイ」
 リスは鳴いて抗議しますが男の子は聞きません。ずっと鉛筆で体のあちこちをつつきます。リスがたまりかねて逃げると次はソファーに寝ている猫でした。
「起きるんだよ」
「ニャッ!?」
 いきなり寝ているそのソファーを蹴られて驚きの声をあげる猫でした。男の子はその猫の尻尾を掴むのでした。
 それで引きずり回しだしますがやっぱり猫も逃げてしまいます。リスは箪笥の上に、猫はベッドの下に入ってしまってそこから出ようとしません。八つ当たりの相手がいなくなったと思われましたが男の子の気はまだ済んでいませんでした。それで。
 今度は暖炉に向かってその火かき棒で暖炉の中を引っ掻き回します。それで暖炉の中は灰だらけになってしまいその灰が煙の様に巻き上がります。
 今度は紅茶をそのまま自分の口につけて乱暴に飲んでパンをお口の中に入れます。紅茶が入っていたやかんはひっくり返してまた火かき棒を握って今度はそれで壁を叩きます。
 壁も灰だらけになってついでに壁にかけてあった時計も叩き落してしまいました。時計のガラスが割れて時計の針が止まってしまいまいました。気付くと部屋の中はもう滅茶苦茶になってしまっていました。壁にかけてあった羊飼いの男の子と女の子の絵もそれで破いてしまいました。
 男の子はここで疲れてしまってソファーに歩み寄りました。そうして腰掛けて休もうとしたのですが。
「駄目だよ」
「えっ、駄目って!?」
 ここで何処からか声が聞こえてきたのでした。
「悪い子に座らせる席はないよ」
 何とソファーが動いて男の子を座らせようとしません。男の子もこれにはびっくりです。
「えっ、ソファーが」
「何てことをしてくれたんだ」
 今度は今さっき男の子が火かき棒で壊した時計から声があがってきました。
「振り子も取れたし針も止まったし」
「時計が喋ってる!?」
「喋って悪いのかい?」
 時計は怒った声で男の子に言い返します。
「僕だって喋れるんだよ」
「嘘だ、そんな」
「嘘じゃないよ」
「そうだそうだ」 
 また声が聞こえてきました。
「さっきはよくも壁に投げてくれたな」
「許さないぞ」
 あの木の茶碗とポットです。
「殴ってやるからな」
「何度でも殴ってやるぞ」
「どうしてものが喋るの?」
 男の子にはそれがどうしてもわかりません。困り果ててしまいました。しかもそろそろ日が暮れて寂しくなってきました。
 おまけに寒くなってきたので暖炉に近付いて火を点けようとします。ところが。
 今度は暖炉でした。まだ何もしていないのに火が怒ってバチバチと音を出すのでした。
「暖炉まで」
「そうさ。いい子は暖めてあげるけれど」
 その暖炉の火もまた怒った声でした。
「僕をこんなに灰で汚くした君は絶対に駄目だからね」
「うわ、近寄れないよ」
 火が出て来てとても近寄れません。男の子は壁の方に逃げました。
 けれどそこも駄目でした。壁にいたのは。
「折角いつも一緒だったのに」
「それなのに」
 その羊飼いの男の子と女の子が泣いていました。
「それがこんなに引き裂かれてしまったよ」
「もう一緒になれないのね」
「男の子と女の子が」
「君のせいだ」
「貴方が私達を引き裂いたのよ」
 二人で男の子に対して抗議してきます。
「どうしてこんなことをしてくれたんだ」
「何でこんな酷いことを」
「そんな、酷いことって」
「そうよ」
 男の子が困った顔になっているとここでまた声が聞こえてきたのでした。男の子が破った絵本から出て来たのはお姫様でした。
「お姫様?」
「今まで楽しく読んでくれていたのに」
 お姫様は男の子をとても悲しい目で見ていました。
「それなのにどうしてなの?」
「どうしてって?」
「貴方が絵本を破ってしまったから私は」
 お姫様の目から涙が零れ落ちます。そのうえでまた言うのでした。
「絵本の中の悪い魔法使いに魔法をかけられて」
「あいつに!?」
 男の子もよく知っている魔法使いです。お姫様をいじめるとても悪い奴です。
 その悪い魔法使いのことを言われて男の子が目を瞠っているとお姫様はまた言うのでした。
「ずっと眠ってしまったままになってしまったのよ」
「僕のせいで?」
「そうよ、貴方のせいで」
 またお姫様は男の子に言うのでした。
「ずっと眠ったままになってしまったのよ」
「そんな、そんな大変なことに」
 男の子はそれを聞いて戸惑ってしまいました。
 それで慌ててお姫様のところに来て助けようとしますがお姫様は姿を消してしまいました。
 男の子はそれでもお姫様を助けようとその絵本を探します。けれど散らばっている本からその絵本は出て来ません。出て来るのは教科書やノートばかりです。
「何だよ、全然出て来ないじゃないか」 
 絵本が出て来ないのを見ていい加減いらいらしてきました。
 それでさらに探してみても出て来ません。教科書やノートばかり出て来るのでそういったものを投げてしまおうとしましたがここで。何とその教科書から小人達が次々と出て来たのでした。
「今度は子供!?」
「そうだ、わし等だ」
「今度はわし等を痛めつけるのか?」
 こう言って男の子に抗議してくるのでした。
「それならこっちにも考えがある」
「容赦はしないぞ」
「容赦はしないぞって」
 今度は何が起こるのかと思って。男の子は戸惑ってしまいました。小人達はその戸惑っている男の子に対してさらに言ってきました。
「えい、この問題を解け」
「この問題が解けるか?」
「わっ、何だよその問題」
 小人達が宙にチョークで描いて映し出してきた問題を見て泣きそうな顔になった男の子でした。
「そんな問題解けないよ」
「何だ、こんな問題も解けないのか」
「全く勉強していないんだな」
「お勉強なんて大嫌いだよ」
 男の子はたまりかねた声で言い返しました。
「そんな問題なんてとても」
「そんなことだからママンに怒られるんだろ」
「勉強しないからだ」
 何時の間にか教科書から数字達が出て来ています。そうして男の子を取り囲んでそのうえでぐるぐると回りだすのでした。
「勉強しろ、勉強」
「悪いことばかりせずに」
「そんな、何でこんな目に逢うの?」
 男の子は本当に泣きそうな顔になりました。
「もう嫌だよ。止めてよ」
 今にも泣きそうな顔になっているとです。今度はあの白猫がやって来ました。それも家に一緒に飼っている黒猫も一緒なのでした。
「あれっ、シロとクロが何時の間に?」
「ミャウン」
「ニャオン」
 けれど猫達の大きさが違いました。何と男の子と同じ位の大きさなのでした。男の子はその猫達を見ても肝を潰さんばかりに驚くのでした。
「う、うわあっ!」
 驚いて飛び上がるとその猫達が近寄ってきます。食べられると思ってすぐに逃げる男の子でした。
「こ、来ないでよ!」
「ニャウン」
「ウニャア」
 けれど猫達はわかっているのかいないのか男の子を追ってきます。男の子は部屋の中を必死に逃げ回ります。
「ほらほら、早く逃げないと」
「どうなるかわからないよ」
 白猫と黒猫は楽しそうに男の子に対して言ってきました。
「食べちゃおうかな」
「あっ、それいいね」
「そんな、食べられるなんて」
 猫達の言葉にさらに驚く男の子でした。逃げ回りながらその顔を真っ青にしています。
 けれど逃げ回っているうちに猫達は飽きたのか追いかけるのを止めたのです。そして不意に扉を開けてその外にと出るのでした。
「出るんだ・・・・・・そうなんだ」
 男の子はここでわかったのでした。
「外に出たらもう大丈夫だ」
 もうこんな目に遭わなくて済む、そう考えて男の子も外に出るのでした。そしてそこから出たのは。
 家の庭でした。満月に照らされて大きな木がある庭でした。男の子がそこに出るとまず出迎えたのは。
「あれ、あの子だ」
「あの子よ」
「何しに来たんだ?」
 お庭にいる蛙やみみずくや小鳥達が男の子を見て言うのでした。
「また悪いことをしにきたのかな」
「用心しないとね」
「そうね」
 そしてこんな話をするのでした。
「何かしたら今度こそ容赦しないぞ」
「見ていろよ、その時は」
「覚悟しろよ」
「お庭に出ても同じだなんて」
 また皆が自分のことを言っているので男の子はここでも途方にくれました。
「そんな、どうしよう」
 そして困り果てて庭の木によりかかると。今度は木が言うのでした。
「痛い、痛いよ」
「えっ!?」
 その声に思わず木から離れました。
「僕まだ何もしていないよ」
「前にしたじゃないか」
 木はこう男の子に対して抗議するのでした。
「この前ナイフで切ってくれたよね」
「そうだ、僕もやられた」
「私もよ」
 他の木も男の子に抗議してきました。
「葉っぱを取られたり」
「枝を折られたり」
「何でそんなことをするんだ」
「痛いじゃないの」
「木も痛いって感じるんだ」
 男の子はこのことに唖然としました。
「そんな、全然知らなかったよ」
「知らなかったで済まないよ」
「その通り」
 今度はトンボと蝙蝠が男の子の上を飛んで怒った声をかけてきました。
「私の恋人は何処なの?」
「僕の奥さんは?」
「それは」
「さあ、何処なのよ」
「君が捕まえたんじゃないか」
 こう言って怒りの声を男の子にかけるのでした。
「教えてよ」
「まだ生きているんだろ?」
「いるよ」
 そのことは泣きそうになりながらも答える男の子でした。
「どちらもちゃんといるよ」
「じゃあ早く会わせてよ」
「子供達が泣いているんだからな」
 彼等の抗議も続きます。
「さもないと許さないから」
「どうしてくれようか」
「そんな、どうしてくれようかって」
 彼等の只ならぬ剣幕にさらに困ってしまう男の子でした。
「トンボは籠の中にいるし蝙蝠もちゃんと檻の中にいるし」
「じゃあ早く出してよ」
「早くな」
「そうよそうよ」
 今度はリスが出て来ました。さっき男の子がペンでいじめていたあのリスです。
「何かあったらすぐにあたしをいじめて」
「今度はリス!?」
「そうよ。籠の中にいつも入れてるわよね」
 男の子を睨んで言うのでした。
「あんな狭い中に」
「けれどそれは」
「あんたも籠の中に入ったら?」
 そしてこんなことも男の子に対して言います。
「どれだけ自由がなくて辛いかわかるわよ」
「自由が・・・・・・」
「この暴君!」
「悪いことばかりする!」
 ありとあらゆる家具や木々や動物達の声が聞こえてきました。
「もう許さないからな!」
「この悪党を倒せ!」
「容赦するな!」
 こう口々に言うのでした。
「いじめてばかりいて!」
「悪戯小僧!」
 男の子を取り囲み逃がそうとしません。男の子はこのまま皆からやっつけられるものと思い頭を抱えて小さくなって震えていました。そして気付いたのでした。
「僕だけなんだ」
 皆は一つになっています。けれど男の子は皆から責められて一人だけです。その一人だけということに気付いてしまったのです。
 それで寂しくなって傍に誰かいて欲しくて仕方なくなりました。そうして呼ぶのは。
「ママン!」
「ママン!?」
「今ママンって言ったよね」
「うん、言ったね」
 皆も今の言葉は確かに聞きました。
「どううやら寂しいみたいだね」
「そうか。一人なんだ」
「こいつは一人なんだ」
 このことに気付いたのです。
「一人なら怖くない」
「皆いるんだからな」
「それだったら」
 いよいよ男の子に迫ります。そうしてそのうえで遂に。こう言い合うのでした。
「この悪ガキをやっつけよう」
「懲らしめよう」
「容赦しちゃいけない」
 遂に皆で男の子を本当にやっつけようというのです。それで完全に取り囲んでそのうえで。その輪をじりじりと狭めていくのでした。
 ところがここでリスが言うのでした。
「僕がやるよ」
「えっ、君が?」
「君がやるの?」
「そうだよ。駄目かな」
「その通り、僕がやるよ」
「僕もね」
 今度名乗りを挙げたのは茶碗とポットでした。
「さっき投げ付けられたんだから」
「だから御仕置きは僕達がやるよ。いいね」
「ああ、駄目駄目」
 今度は時計が出て来ました。
「僕だってこの子には酷い目に逢ったんだからね」
「何だよ。それは僕も同じだよ」
「私もよ」
「僕も」
「私だって」
 やかんに絵本のお姫様に壁の絵の羊飼いの男の子と女の子も出て来ました。
「この子にやられたんだよ」
「だから絶対に」
「僕達がやらないと」
「そうよ」
「じゃあ私はどうなるの?」
「僕は?」
 今度はトンボと蝙蝠でした。
「恋人を捕まえられているのに」
「それで何もするなっていうの?」
「いや、僕達だって」
「そうよそうよ」
 お庭の木々も男の子に対して怒っています。
「やり返したいよ」
「それをするなってどうなの?」
「私だって尻尾を引っ張られたのよ」
 最後に猫が言います。
「それで忘れろなんてできないわよ」
「じゃあ僕はどうなるんだよ」
「私は?」
 皆誰が男の子をやっつけるのかで喧嘩をはじめました。その間男の子はがたがたと震えているばかりです。けれどここで。
 リスが言い争いの中でソファーに跳びかかろうとしてこけてしまいました。そうして石にすりむいて足を怪我してしまいました。
「痛いなあ。参ったよ」
「あっ・・・・・・」
 男の子はそれを見て咄嗟にリスのところに来てそうして。首に巻いてあった自分のリボンでその傷に包帯をしてあげたのでした。
 男の子は自然にリスの手当てをしてあげたのです。それをした後で皆から責められて怒られて追い立てられた疲れから倒れて寝てしまいました。
 動物達も家具達も木々もそうした男の子を見て。言うのでした。
「本当はいい子なのかな」
「そうじゃないの?」
「そうじゃないとあんなことしないよ」
 こう言い合うのでした。
「それに反省したみたいだし」
「そうだね。それじゃあ」
「お母さんのところに帰してあげようか」
 そして皆で男の子を抱えてこの子の部屋にまで連れて行きました。そうしてベッドの上に優しく寝かせてそのうえで皆去るのでした。
 もう完全に夜になっています。やがてすっかり暗くなってしまった部屋にお母さんが入って来ました。
「御飯よ」
「えっ、御飯!?」
 男の子はそれを聞いてすぐにベッドから飛び起きました。そうしてすぐにその暗くなってしまった部屋の中を見てみますと。
 何も起こってはいませんでした。壁にかけられている絵もそのままですし時計もです。暖炉も奇麗ですし本当に何もなかったみたいです。
「そんな。あれだけ暴れたのに」
「ひょっとしてずっと寝ていたの?」
 お母さんは怪訝な声で男の子に尋ねました。
「おやつ持って来た時も寝てたし」
「おやつって?」
「ほら、机の上に置いておいたのよ」
 お母さんは机の上を指差して男の子に告げました。
「あそこに」
「あっ、本当だ」
 見ればそこには紅茶とパンがあります。ちゃんとお砂糖とジャムもあります。
「おやつ。あるね」
「そんなに疲れてたの?」 
 お母さんはまた怪訝な声で男の子に尋ねました。
「学校で何かあったの?」
「学校では何もなかったけれど」
 それでもあったのです。今まで。けれどそのことはどうしてもお母さんに言えませんでした。
 その中で今までのことを考えて。こうも言うのでした。
「夢だったのかな」
「夢を見たの?」
「ひょっとしたら」
 男の子の声は少しぼんやりとしたものになっていました。
「そうかも」
「そうなの。夢を見たの」
「多分。それでママン」
 ここまで話してそのうえでお母さんに対して顔を向けて言いました。
「晩御飯だけれど」
「早く食べなさい」
 お母さんは男の子に優しく告げました。
「いいわね」
「うん。その前にね」
 男の子は言うのでした。
「リスを逃がしてトンボと蝙蝠も放してあげたいんだけれど」
 こう言いました。
「駄目かな」
「別にいいけれど」
 お母さんはそれはいいと答えたのでした。
「あんたがやっと捕まえたのにいいのね」
「いいよ。だって皆捕まってるの嫌だし」
 夢だったのか本当だったのかわからないことを思い出しながらの決意でした。
「あとものは大事にしてちゃんとお勉強しないとね」
「あらあら、どうしたの?」
 お母さんは男の子のそんな言葉を聞いて声を笑わせました。
「急にいい子になって」
「ちょっとね」
 ここでは少し笑うだけの男の子でした。
「わかったから。皆だって寂しいし痛い思いをするんだって」
「そうよ。誰だってね」
 お母さんもこのことはわかりました。何しろお母さんが男の子にいつも言っていることですから。わからない筈がないことでした。
「寂しいし痛い思いをするものよ」
「それがわかったから。それじゃあ」
「お父さんももう少ししたら帰って来るし」
 お母さんの声が少し笑いました。
「それで皆を放してあげたらちゃんと手を洗ってテーブルに来なさいね」
「はい、ママン」
 男の子は笑顔で応えました。そしてそれからベッドから出てリス達を放してあげて晩御飯を食べるのでした。男の子はこの時からとてもいい子になりました。


子供と魔法   完


                              2009・8・13



御伽噺というか絵本みたいな感じだったな。
美姫 「確かにね。ちょっとした騒動というか、子供が反省するには充分な事態だったわね」
ドタバタという感じかな。
美姫 「楽しいお話だったわね」
うんうん。投稿ありがとうございました。
美姫 「ありがとうございました」



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