『リング』




             ラグナロクの光輝  第九章


 程無くして九人のワルキューレ達がグラールに案内された。その会議室においてまた七人の戦士達と会うのであった。
「暫く振りです、フロイライン達」
 パルジファルは七人を代表して乙女達に述べた。
「約束通り来て頂けましたね」
「はい」
 ブリュンヒルテがそれに応えた。
「こちらも貴方達が来て頂き感謝しております」
「私達が」
「そうです。最後の戦いに来られたことを心より感謝します」
「それはまた」
「七人の戦士達よ」
 九人の乙女達は七人の戦士達を見据えて言った。高く硬質だが透き通る様な声であった。
「遂に最後の時が来ました」
「ラグナロクが」
「そうですね、遂に」
 パルジファルも六人の戦士達もそれに頷いた。
「これから私達はヴァルハラに向かいます」
「道案内は我々が行います。そして」
「ビブロストだな」
 六人の戦士達はここでワルキューレ達に対して言った。
「はい、それを使って」
「別働隊をヴァルハラに送り込みます」
「それ自体はいい」
 ヴァルターがまず言った。
「だが問題は」
「誰を行かせるか、だな」
 次にタンホイザーが述べた。
「これが一番重要だ」
「誰がその別働隊を率いるのか」
 ローエングリンも続いた。
「それにより勝敗が大きく変わる」
「俺が行こうか?」
 ジークムントが名乗り出てきた。
「思う存分暴れてやるぜ」
「いや、卿は空母を使った艦載機による戦術を得意としている」
 だがそれにトリスタンが一言述べた。
「今回は機動力と隠密性を考慮したものにした方がいい。卿は主力に参加すべきだ」
「では誰が行くかだ」
 ジークフリートが最後に述べた。
「我々七人のうち一人が絶対に行かなければならないが」
「それはもう決まっています」
 だが最後ではなかった。パルジファルがそこにいた。
「それは一体」
「誰なのだ?」
 六人はパルジファルに顔を向ける。そのうえで問うてきたのであった。
「私です」
「卿がか」
「はい。私が行かせてもらいます」
「ではムスッペルスヘイムから入る主力は」
「お任せします」
「我等六人がか」
 六人はワルキューレ達に問うた。
「そうです。貴方達ならお任せ出来ます」
「気持ちは有り難いのだが」
 ジークフリートがパルジファルに対して言った。
「卿自ら行くのは。どうなのだ」
「卿は我等の総帥だ。何かあれば」
 タンホイザーが述べる。
「それで指揮系統は終わる」
「それはすぐに敗北に直結することになる」
 トリスタンはそれを最も危惧していた。
「全ては終わることになる」
「ラグナロクは俺達の負けになっちまう」
 ジークムントも何時になく慎重な言葉であった。
「かなり危険な賭けだぜ」
「それでも卿は行くというのか」
 ヴァルターが問う。
「死を覚悟して」
「我等のうち一人が行けばいい」
 ローエングリンも忠告した。
「卿が行くのはあまりにも危険だ」
「いえ、私が行くのが最もいいのです」
 しかしパルジファルは六人の同志達に対してこう述べたのであった。
「私達の中で機動戦、そして隠密作戦に最も長けているのは私ですから」
「卿が」
「はい。まずシュトルツィング執政官は慎重に戦略と戦術をリンクさせておられます」
「うむ」
「オフターディンゲン公爵は宙形を利用した戦いを」
「確かにな」
「ブラバント司令はオーソドックスなバランスのとれた戦略と戦術を」
「よく見ているな」
「ヴェルズング提督は艦載機を使った戦術を」
「ああ、それが俺の専門だ」
「カレオール博士は智略を」
「私はどうもそちらの方が向いているな」
「ヴァンフリート首領は電撃戦を」
「隠密行動にも一応自信はあるのだがな」
「それぞれの特性を持っておられます。ですが今回の作戦は」
「その特性をとりわけ考慮して」
「考え出した結論だということだな」
「そうです、私は長い間影に隠れて戦ってきました」
 パルジファルは述べる。
「機動力と隠密行動を駆使して。そして帝国軍の艦隊を幾多も破ってきました」
「そういえばそうだったな」
 六人もそれに気付いた。
「卿はいつも突然姿を現わした」
「そして何処へともなく去って行った。私達の誰にも正体を知られることなく」
「それを考えると卿しかいないということか」
「ですからお任せ下さい」
 そのうえであらためて述べた。
「ここは私に」
「よいのだな」
「死地に向かうことで」
「ええ、最初から覚悟は出来ています」
 彼は述べる。
「戦いですから」
「ふむ」
 六人はパルジファルの言葉を聞いて考える顔になった。それから述べた。
「わかった」
「では頼むぞ」
「はい、お任せ下さい」
「では決まりですね」
 ブリュンヒルテが述べた。
「パルジファル総帥は私達と共にビブロストでヴァルハラに入られ」
「そして我々はこのままこのムスッペルスヘイムからか」
「途中までは道は同じです」
「ヴァルハラの前で別れ」
「二手でヴァルハラへ」
 その言葉に。六人は頷いた。
「よし、それでいい」
「では我々はこのまま行く」
「それでは」
 作戦が決まった。連合軍はまずはムスッペルスヘイムからヴァルハラに向かった。そして途中で二手に分かれるのであった。
 パルジファルの軍勢はワルキューレと共にビブロストへ、主力はそのままのルートで。二手になった。パルジファルの軍勢は分かれる時姿を消し隠密行動に入った。
「これでいいですね」
「はい」
 ブリュンヒルテがそれに答える。
「それではこのままビブロストへ」
「お願いします」
 六人がその消えた軍勢を見送る。再会の場はヴァルハラである。そこでの再会を期してそれぞれの道へ向かうのであった。こうして戦いは次の段階へ進んだ。
 パルジファルはそのまま隠密行動をとりビブロストへ向かう。その途中でワルキューレ達に問うた。
「そのビブロストですが」
「はい」
 九人の戦乙女達はグラールに集まっていた。そこで先導にあたっていたのである。
「どの様な道ですか」
「本当に小さな道です」
 ワルキューレ達はまずはこう述べた。
「ヴァルハラを覆うアステロイド帯と磁気嵐の中の」
「そうなのですか」
「通過可能なのは本当に少数の艦隊でして」
「だからこそニーベルングも気付かなかったのです」
「そういう事情があったのですね」
「ええ」
 パルジファルの問いに答えるのだった。
「ですから我々も彼に気付かれることなくそのビブロストを利用してきました」
「成程」
「そして今それを使います」
「ですが総帥」
 ワルキューレ達はパルジファルに対して念を押す顔で言う。
「この作戦は敵に気付かれてはなりません」
「念を押しますがくれぐれも」
「わかっております」
 パルジファルの言葉には何の余念もないものであった。
「ビブロストに向かうことを申し出た時からそれは注意しております」
「左様ですか」
「ですから今回率いている艦艇にも特殊な塗料を使い身を隠しております」
「成程」
 その言葉に頷くのだった。
「くれぐれも。見つからないように」
「では安心して宜しいのですね」
「この作戦は一隻でも一瞬でも見つかれば終わりです」
 パルジファルはまた述べた。
「そのことはよくわかっているつもりです」
「それでは」
「ここは総帥に全てをお預けします」
「有り難うございます。それではビブロストは」
「はい」
 九人を代表してブリュンヒルテが応えた。
「こちらになります」
 会議室のモニターに宙図を映し出す。そこの一点をレーザーで指差した。
「ここにあるのです」
「そこですか」
「ええ」
 そこはムスッペルスヘイムから丁度直角に曲がった場所であった。そこに道があるというのだ。
「ここから入られるのです」
「そこから帝国軍の後方に回り込むのですか」
「おそらく帝国軍はここにいます」
 ムスッペルスヘイムからの入り口を指し示した。
「七匹の竜と共に」
「入り口で迎撃するのですね」
「どうやら。少なくとも一つに固まり、そこに竜達もいることは確実です」
「そこで決戦を挑むつもりなのですか」
「元よりそのつもりなのでしょう。指揮官はおそらく」
「クリングゾル=フォン=ニーベルング自身」
 やはりといった感じであった。彼の名が出たのは。
「ですね。最後の戦いですから」
「彼も後がないことはわかっています」
「それであえて私達をヴァルハラに引き込んだ」
「それには裏があるのがわかっています」
「ええ、それは」
 パルジファルはワルキューレ達の言葉に頷いた。
「切り札がありますから」
「それが七匹の竜」
「とりわけファゾルトです」
「ファゾルトへの備えは出来ていると思いますが」
「だからこそこちらへ参りました」
 その言葉には確かな裏付けがあった。
「それでは」
「ええ、持って来ています」
 そのうえで述べたのであった。
「槍を」
「竜を倒す槍をですか」
「はい、それはその時に御見せします」
「では安心して宜しいですね」
「是非共」
 パルジファルは言葉を返した。その言葉には何の迷いも見られなかった。
「では」
 ワルキューレ達もその自信を見て最後の決断を下した。普段は至って物静かなパルジファルがここまで言うのならば安心だと判断したからでもある。





作戦会議って感じかな。
美姫 「いよいよ決戦も近付いてきたわね」
ちょっとドキドキ。
美姫 「どんな戦いが繰り広げられるのかしらね」
次回も待っています。



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