『リング』




              ラグナロクの光輝  第六章


「ここか」
 既に七人とワルキューレ達の他は殆ど残ってはいない。部下達の多くは倒れるか、重要拠点を守っている。従ってここまで来れたのは僅かな者達だけだったのだ。そのことがこの星での戦いの激しさを何よりも雄弁に物語っていたのであった。見れば七人も、そしてワルキューレ達も大なり小なり傷を負っていた。ワルキューレ達の白い、全身を覆う戦闘服もダメージを受けており、その手に持つ槍に似たビームライフルにも損傷があった。だが彼等はそれでもここで止まるわけにはいかなかったのである。
「遂にここまで来ましたね」
 ブリュンヒルテが言った。見れば七人とワルキューレ達の周りは既に多くの戦士達の屍が転がっている。帝国軍のものもあれば連合軍のものもある。赤い黄金で飾られた祭壇の門はさらに血で塗られ、戦いの後の焦付く様な匂いが充満していた。このことだけでもこれまでの戦いがどの様なものであったかがわかる。
「ですが。これで終わりではありません」
「それどころかこっからが本番ってわけだな」
「はい」
 彼女はジークムントの言葉に頷いた。
「その通りです。
「では宜しいですね」
「ああ」
 ローエングリンが頷く。他の戦士達も同じであった。
「では行くか」
 ジークフリートが進み出た。
「この固く閉ざされている門を開いてな」
 トリスタンがそれに続く。
「中にいるニーベルングを」
 そしてタンホイザーが。
「今度こそ捕らえる。そしてこの戦いを」
「ですが御注意を」
 ワルキューレ達がヴァルターまでもが言ったところでそう言って彼等をまずは制止した。
「この奥にこそ。帝国軍の切り札がいます」
「帝国軍の」
「はい、ニーベルングの親衛隊です」
「親衛隊!?そんなものまでいるのか」
 六人はそれを聞いて思わず声をあげた。
「そうです、その名はベルセルク」
「ベルセルク」
 ブリュンヒルテの発した名に不吉なものを感じた。それはかって狂える戦士と言われた戦士達のことである。その名を聞いて不吉なものを感じずにはいられなかったのも無理はなかった。
「彼等がこの奥にいます。ですから」
「これまでとは。比較にならない戦いになるということか」
「はい。御気をつけ下さい」
「ですが。行かなければならないことには変わりありません」
 パルジファルがここで述べた。
「総帥」
「我々の目的はニーベルングを討つことですね」
「うむ」
「確かに」
 六人はその言葉に頷いた。
「それでは。行かなければその首は得られません。違いますか」
「ですが総帥」
 ブリュンヒルテが彼に言う。
「ベルセルクの力はあまりにも」
「無論それは覚悟のうえです」
 パルジファルもそれは把握していた。
「ですが。それでも」
「左様ですか」
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、ですね」
「ではもう答えは出ているな」
「門を開けよう」
「わかった」
 六人が門を開く。ゆっくりと、鈍い金属音を発して門が左右に開く。そして今地獄の門が開いた。その上にはこう書かれていた。古い、かって神々が使っていたという文字だ。
「ルーン文字ですね」
 ブリュンヒルテがそれを見て言った。他の者達にもそれはわかった。
「あの魔力を持っていたという文字ですか」
「はい。これは」
「この門をくぐる者、アルベリヒの加護なくして進むことは出来ない」
 突如としてパルジファルが呟いた。
「!?総帥」
「どうやらまた記憶が蘇ったようです」
 パルジファルは驚きの顔を見せるワルキューレ達に対して顔を向けて述べた。
「この文字のことを。思い出した」
「そうだったのですか」
「はい、どうやら貴女達の言ったことは正しかったようですね」
 そのうえでまた言った。
「この向こうには。帝国軍の親衛隊、ベルセルクがいます」
「はい」
「だからこそこう書かれている。そうですね」
「おそらくは」
「ですが我々の決意は変わりません」
 彼はそう言うと一歩前に踏み出した。
「行きましょう」
「よし」
「それでは我々も」
 七人だけでなくワルキューレ達もそれに続く。
「アースの戦士達よ、共に」
「ニーベルングの下へ」
 残る部下達に門を守らせ祭壇の中へと入った。祭壇は赤と金、そして黒で飾られた異様な内装であった。所々に何かわからない神の像がある。それは醜い小人であった。
「これは」
「アルベリヒです」
 ワルキューレ達が七人に答える。
「アルベリヒ」
「はい、ニーベルング族の始祖とされる男です」
「この男が」
「彼は神話の時代にいたと言われます」
 ワルキューレ達は七人に対して語る。
「彼は」
「子孫を残せない身体だったのですね」
 そこでまたパルジファルが言った。
「え、ええ」
「そうです」
 その言葉にワルキューレ達は戸惑いながら答えた。
「総帥、また記憶が」
「はい、次々に戻ってきます」
 彼は答えた。
「そしてまた一つ、戻ってきました」
「そうだったのですか」
「アルベリヒは愛を捨てました。その結果子孫を残せなくなったのです」
「愛を、か」
「はい」
 六人にも答える。
「具体的には。生殖能力を自らの手で取り去ったのです」
「何の為にだ?」
「何故その様なことを」
 六人はそれを聞いて首を傾げさせた。あまりにも意味不明な行動に思えたからである。種を残すというのは言うならば生物としての生存本能である。それを自ら取り除いたというのは。あまりにも理解不能なことに思えたのである。
「野心の為です」
「野心の」
「そうです、この世の全てをその手に入れる為に。彼は愛を捨てたのです」
「それがわからないのだ」
「何の為に」
「そんなことをしなくとも。何かを出来たのではないのか?」
「宦官です」
 それに対するパルジファルの返答はこれであった。
「宦官」
「かって存在していたという」
「はい、彼はそれになり権力を握ろうとしたのです、皇帝の側に仕えて」
 第四帝国にも、それ以前の帝国にも宦官という存在はなかった。遥か昔の存在であり、彼等にしてみればそれは遠い神話の時代の話であった。
「それは過去の時代の話でした。それにより権力を握った者も確かにいました」
「だが。彼はそれを果たせなかったのだな」
「はい、皇帝に見抜かれ。彼は追放されたのです」
「その時代の皇帝は暗君ではなかったということだな」
「これもまた。よくある話か」
 七人は今真実を知っていた。遥かな過去の真実を。
「そうですね。ですが彼はまだ権力の座を諦めてはいませんでした。優れた科学者でもある彼は錬金術により無限の富を築き上げ、そのうえで」
「アルベリヒ教を設立したのか」
「そして自らの一族も造り出しました。それがニーベルング族だったのです」
「それがだったのか」
「はい、彼等はヴァルハラ双惑の一つラインに移り」
「そこに勢力を築いたのです。そしてノルンに住み、銀河の安定を守る我々アース族と戦ってきました」
 乙女達はそう述べた。
「それがニーベルング族」
「造り出された一族か」
「全ては。アリベリヒ=フォン=ニーベルングという男により」
「だがそのアルベリヒは最早生きてはいないのだろう?」
「はい」
 それは言うまでもないことであった。神話の時代の話である。それで生きているならば最早人間ではない。まさしく神、若しくは魔神であろう。
「しかしその心は残っています」
「ニーベルングに」
「この祭壇の奥にいる男こそ。ニーベルングの象徴」
「では」
「はい、全ての謎がそこにあります」
「そうだな。しかし」
 六人の戦士達はここで身構えた。それぞれの手にビームサーベルやビームライフルを取り出す。
「来たぞ」
「ベルセルクが」
 前から、左右から、そして後ろから。黒と銀の軍服に身を包んだ者達が姿を現わした。そこには男も女もいた。だが一様に異様な気を放っているのは同じであった。
「確かにな、この連中は他の者達とは違う」
 七人もそれを感じていた。
「ニーベルング族、しかもかなり強いコントロールを受けている」
「これは。本当に厄介な相手になりそうだな」
「御安心下さい」
 だがここでワルキューレ達が前に出て来た。
「!?」
「まさか」
「はい、ここは」
「私達が引き受けます」
「貴方達は。今のうちのニーベルングのところへ」
「馬鹿な、そんなことは」
 だが七人はそれを受け入れようとはしない。
「ここまで来たら最後まで」
「いえ」
 だがそんな六人をパルジファルが制止した。そのうえでワルキューレ達に対して言う。
「では。お任せして宜しいですか」
「はい」
 九人の戦乙女達はそれに応えた。満足そうに頷く。
「お任せ下さい」
「後で行きますので」
「わかりました。それでは」
「いいのか、総帥」
「数が違い過ぎる、彼女達だけでは」
 見ればベルセルク達は優に五十人以上いる。九人では分が悪いどころではない。只でさせ劣勢だというのに。彼等が眉を顰めるのも当然であった。冷静なヴァルターやトリスタンでさえもそうであった。
「いえ、ここは彼女達を信じましょう」
 それでもあえてパルジファルはこう言った。
「それが。彼女達の戦いなのですから」
「戦いか」
「そうです、そして私達の戦いも」
「祭壇に」
「そうです、そこにニーベルングがいるならば」
「よし」
 七人はここはワルキューレに任せて前に進んだ。その前にもベルセルク達が現われるがそれは僅かな数であり、しかもまばらに出るだけだったので退けることが出来た。そして遂にはクリングゾルのいる祭壇にまで迫ったのであった。
 祭壇には何か得体の知れないピラミッド型の階段があった。その上に石のベッドが置かれている。何処か七人の信じるものとは違った神を思わせるものであった。彼等はそれを見上げていた。
「あれが祭壇だな」
「多分な」
 彼等は互いに言い合う。
「そしてここにニーベルングがいる筈だ」
「だが何処にだ」
「あの男は一体」
「よくぞ来た、アースの戦士達よ」
 ここで祭壇の上から男の声がした。
「むっ」
「遂にここまで来るとはな。見上げたものだ」
 裁断の上に一人の男が姿を現わした。紫の服に赤いマントを身に纏い、緑の金属で飾られた赤い兜を被っている。その顔は細面であり赤く長い髪と鋭い黒の目を持っている。彼こそ七人が今まで捜し求めていたあの男であった。
「クリングゾル=フォン=ニーベルング」
「如何にも」
 男はトリスタンの言葉に答えた。
「私がそのクリングゾルだ。中には私の顔を知っている者もいるとは思う」
「それは私のことか」 
 ローエングリンが彼を見上げてその顔を見据えた。
「ブラバント司令か。元気そうで何よりだ」
「言うな、陛下と叔父上の仇、討たせてもらう」
「ふふふ」
「貴様の為にメーロトが死んだんだ」
 ジークムントも彼を見上げた。
「そのこと、知らないとは言わせねえぞ」
「あの男は。よく動いてくれた」
 クリングゾルはその言葉に冷酷な笑みを以って返した。
「だが。甘い男だった。卿の手で討たれることを望み、そして死んだのだからな。所詮はその程度か」
「手前っ」
 ジークムントはその人を駒の様に扱う言葉に激昂した。だがそこにいるのは彼だけではなかったのだ。
「ではクンドリーも同じなのか」
「ほう、シュトルツィング執政官か」
「そうだ、卿に婚約者を殺されたヴァルターだ」
 ヴァルターはそれを認めたうえで言った。
「卿にとっては。彼女も駒だったのか」
「そうだと言えば?」
 それに対するクリングゾルの返答は予想通りのものであった。
「ニーベルング族は全て私の思うがままにある」
 彼は言う。
「それでどうして駒ではないと言えるのか。聞かせてもらいたいな」
「くっ」
「それが卿の考えなのだな」
 今度はジークフリートが問う。
「自らの血族ですら。駒に過ぎないというのが」
「その通りだ。それ以外の何というのか」
 クリングゾルに悪びれたところはない。平然としていた。
「聞かせてもらいたいものだな」
「その為にヴェーヌスを作ったというのか」
「そうだ、私は子を為すことは出来ぬ」
 クリングゾルはタンホイザーにも答えた。
「だが。造り出すことは出来るのだ。私はな」
「おのれ・・・・・・」
 六人とクリングゾルは今対峙していた。これまでの長い戦いの集約が今ここにあった。六人は怒りに燃える目で彼を見上げている。だが彼は平然としたものであった。そこに大きな差があった。
 だがここでパルジファルが出て来た。彼はじっとクリングゾルを見据えていた。そのうえで述べた。
「私のことは御承知ですね」
「パルジファル=モンサルヴァート」
 クリングゾルはそれに応える形で彼の名を呼んだ。
「確かその名だったな」
「はい」
「今の名は」
「今の名!?」
「どういうことだ、それは」
「これは私の人としての名なのです」
 パルジファルは仲間達にそう答えた。
「人としての」
「はい、それも思い出しました」
 彼の記憶がまた蘇ってきたのである。
「私の人としての名はパルジファルですが本来の名はバルドルです」
「バルドル」
「はい、光の神。それが私の名なのです」
「そうだ、卿はアース族の頭領であるのだ」
 クリングゾルは彼に対して言った。
「光の神バルドル、それが卿だ」
「神だと」
「総帥、卿は」
「そう、人であり神なのだ」
 クリングゾルがパルジファルにかわって言った。
「人としての心と身体を持っているが同時に神でもある」
「それが私だと」
「そうだ。それは私とて同じこと」
「何っ、まさか」
「卿は」
「そうだ、私は確かにクリングゾル=フォン=ニーベルングだ」
 彼は彼自身の一つの名を名乗った。
「だが。同時にアルベリヒでもある」
「どういうことだ」
「私は今までニーベルング族であることを知らなかった。ヴァルハラドライブの実験において事故に遭う前まではな」
「ヴァルハラドライブ」
「まさかあの時の」
「知っているか、やはりな」
 クリングゾルはトリスタンとローエングリンの驚きを見て笑った。ニヤリとした、全てを見透かした様な笑いであった。
「あの事故で私は瀕死の重傷を負った。その時に人を愛せなくもなったのだ」
「そうか、そういう意味で卿は」
 タンホイザーもようやくわかった。何故クリングゾルが子をつくれないのかも。彼は事故により男でありながら男ではなくなったのだ。それはこういう意味だったのだ。
「そうだ、私は我等が始祖アルベリヒと同じになった」
 それをクリングゾル自身も語った。
「同時に。アルベリヒと同じになった」
「ということは」
「手前、まさか」
「そうだ、私はヘルの狭間を彷徨った。そこでアルベリヒと会ったのだ」
 ヴァルターとジークムントに答える。
「そして全てを知った。ニーベルング族のことを。そしてアルベリヒのことを。そこから目覚めた時私は」
「アルベリヒと同じになっていたのだな」
「そういうことだ。これでわかったな」
 最後にジークフリートに返した。今彼は人のものとは思えない邪な笑みになっていた。七人の戦士達を見下ろして悠然と祭壇に立っていた。
「私はクリングゾル=フォン=ニーベルングであり、またアルベリヒでもある。私は帝国に入り雌伏していた。全ては我がニーベルング族の帝国を築く為に」
「その為にバイロイトを」
「そうだ」
「クンドリーを」
「メーロトを」
「如何にも」
 彼等に答えてみせてきた。
「イドゥンを」
「ニュルンベルグを」
「ヴェーヌスを」
「全ては。我が帝国の為。そして今ヴェーヌスはラインにいる」
「ラインにだと」
 タンホイザーはそれを聞いてクリングゾルを問い詰める。
「貴様、今何と」
「エリザベートか。あの女は間も無く生まれる。我が妻としてな」
「馬鹿な、子を作れぬ貴様が妻なぞ持って」
「出来るのだ、私には」
 クリングゾルは不敵に笑って述べた。
「我がニーベルング族の科学は人すらも生み出せる。それを使えば」
「くっ」
「我が妻は間も無く再び我が手に入る。そして我が帝国も」
「待て、ニーベルング」
 今度はタンホイザーが問い詰める。
「それはヴァルハラにおいてか」
「それ以外の何処だというのだ」
 彼は不敵にジークフリートを見下ろしながら言った。
「ニーベルングの帝国はヴァルハラにおいてそこから全てを治める。かって神々がそうであったようにな」
「神々が」
「そう、不死の力と共に永遠にな」
「それがイドゥンか」
 今度はトリスタンが彼に問うた。
「その為にクンドリーを使ったか」
「そうだ、あの女はよくやってくれた。最後はホランダーに殺されたがな」
「そのホランダー達を殺していたのも貴様であろうに」
 ローエングリンも彼を睨み据えた。
「違うか、ミーメを使って」
「あの愚か者には確かにホランダーを使ってその叡智を探るように命じた」
「それがローゲか」
「だがあの愚か者はそれを己が野心に使おうとした。だから第四帝国共々始末したのだ」
「ファフナーを使ってか」
「そうだ」
 ヴァルターがファフナーのことを出す。
「またファフナーは蘇る。卿のミョッルニルで倒されたがな」
「クッ」
「そしてファゾルトもまた現われる。それにより我がニーベルングの覇業は成るのだ」
「ここで百個の艦隊を失ってもかい?」
 ジークムントは六人の中では最も勝気であった。その赤い目に闘志を満たしてニーベルングを見ていた。
「もうそんなに兵力もないと思うがね」
「兵力か」
「百個艦隊っていやあ相当なもんだろ。それまでにもかなり失ってるしな」
「如何にも」
 この返事は七人にとって意外なものであった。こうした場合は虚勢でもいいから強気でいくのが常道だからである。これは思いも寄らぬことであった。だが。
「だがまだ兵力はある」
「そうかい」
「諸君等に対抗できるだけな。そのうえ」
 彼には切り札があったのだ。
「ファフナーとファゾルトが諸君等を待っている。楽しみにしておくのだな」
「それで貴方はこのノルン銀河を手に入れられるのですね」
「そうだ」
 彼は傲然として答えた。
「この銀河をニーベルング族の銀河とする。アース族の者達を抑えてな」
「アースを」
「その為に私は今この銀河にいる。そして」
 七人に対して告げた。
「そして!?」
「その私と戦う為に諸君等もいるのだ。アースの戦士達よ」
「私達のことも御存知なのですね」
「卿と同じ程にはな、バルドルよ」
 パルジファルに言い返す。
「そして私が今ここにいるのも。諸君等と会う為だった」
「ほざけ、ここで倒してくれる」
「そしてこの銀河を」
「アースのものとするつもりか?」
「くっ」
「我がニーベルングを倒して。アースのものとするつもりか、アースの戦士達よ」
「そうです」
 七人を代表する形でパルジファルがクリングゾルに返した。
「ニーベルング族はその心に邪なるものを持っています。貴方がそうであるように」
「フン」
 その言葉はクリングゾルにとっては冷笑すべきものであった。
「逆らう者には容赦なく、苛烈で無慈悲な政治を行っている。またニーベルング族の下では他の多くの者がその支配に苦しむことになるでしょう。それを許すわけにはいきません」
「言ってくれるな、アースよ」
 クリングゾルはあえてアースの名を出した。パルジファルをモンサルヴァートともバルドルとも呼ばなかった。あえてアースと呼んだ。そう、彼だけを指したわけではないのである。
「ニーベルングが酷薄だというのか」
「違うのですか?」
「愚かなことだ」
 彼はその言葉を嘲笑した。頭から否定してきた。
「卿等のしてきたこともまた。同じではないのか」
「同じとは!?」
「ホランダー族を迫害したのは。我等だけではない」
 彼はそう言った。
「第四帝国はアースの帝国だった。ホランダーの帝国であった第三帝国を滅ぼし、彼等から全てを奪ったのだ」
「全てを」
「命すらもな。今ホランダーは僅かしかいない」
「そうだったのか」
「それで」
「ローゲもまた」
 六人にもそれはわかった。彼等アースの者達もまたホランダーを迫害してきたのだ。何もローゲやクリングゾルだけではなかったのである。
「その他にもだ。アースに逆らう者達は次々に討たれた。それがアースの歴史だ」
「では貴方はニーベルングの行いを正当化すると」
「違うな。我々も諸君等と同じだと言いたいだけだ」
 クリングゾルは傲然と述べてみせた。
「同じだと」
「そうだ、諸君等がそうであるように我々もまた。統治の為に必要なことを為しているだけなのだ」
「統治の為に」
「そして覇権の為に。わかるか」
 そのうえで問うた。
「これは戦いなのだ。諸君等と我々の」
「アースとニーベルングの」
「そういうことだ。正義か悪かではない」
 遂にそれを言った。
「どちらがこの銀河を手中に収めるかだ。これはそうした戦いなのだよ」
「では貴方は私達に覇権を挑んでおられるのですね」
「やっよわかってくれたか。では私が次に何処に現われるかわかるな」
「ヴァルハラに」
「そうだ、ラインにいる」
 不敵な笑みを浮かべて答えた。
「そこまでの道は用意しておこう。来るがいい」
「敵地に」
「違うな。諸君等の場所は既にヴァルハラにもある」
「ノルンですか」
「そうだ、双惑星の一つノルンだ」
 クリングゾルの言葉が妖しく光ったように思われた。そこには反抗することを許さぬ絶対の響きがあった。
「そこに来るがいい。そして」
「雌雄を」
「待っているぞ」
 クリングゾルは姿を消そうとしていた。その身体が徐々に闇の中に消えていく。
「ムッ!」
「ヴァルハラで会おう」
 それが最後の言葉であった。クリングゾルは去った。後には気配も何もなかった。祭壇での戦いはとりあえずはこれで終わったのであった。
「終わりか」
「とりあえずここでの戦いはな」
 七人は互いに顔を見合わせた。最早クリングゾルの気配は何処にもなかった。





色々な事実が発覚。
美姫 「驚きよね」
いや、本当に。
しかし、グリングゾルは倒せていない。
美姫 「次なる地はヴァルハラね」
どうなる!?



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