『リング』




           ニーベルングの血脈  第七章


「手前、まさか」
「そう、そのまさかだ」
 司祭は二つの声で答えた。
「私はクリングゾル=フォン=ニーベルング」
「親玉御登場ってわけだな」
「残念だが少し違う」
「どういうことだ」
「私は。今ここにはいない。別の場所にいながら卿と話をしているのだ」
「そのからくりはもう聞いてるぜ」
 ジークムントは司祭の向こうにいりクリングゾルに対して言った。
「御前の血族の心に入り込めるんだったな」
「メーロトから聞いているか」
「そうさ。そして死んださ」
「優秀な男だったが」
 その声にいささかの惜別が込められていた。
「自ら死を選ぶとはな」
「愚かだとか言うと思ったがな」
「メーロトは我が血族だ。血族を失って悲しまない者はいない」
 クリングゾルはこう述べた。
「私であってもな」
「そうかい。メーロトもそう言ってもらえると喜ぶぜ」
 ジークムントはその言葉には素直に感謝の意を述べた。
「立派な最後だったぜ」
「そうか」
 クリングゾルはその言葉に頷いた。そしてまた言った。
「だが寂しくはならないな」
「それはどういう意味だ?」
「卿は。今ここで死ぬからだ」
「何!?」
「周りを見てみるがいい」
 クリングゾルは静かに語った。
「卿は最早死に取り囲まれている」
「どういうことだ、それは」
「提督、大変です!」
 部下の一人が声をあげた。
「どうした!?」
「周りに熱反応が。無数にあります」
「そうか、そういうことかよ」
 ジークムントはそれを聞いて事情をすぐに察した。
「あの基地にやけに兵隊が少なかったのは。こういうことだったのかよ」
「気付いてはいたか」
「まあな。まさか今ここで出て来るとは思わなかったがな」
「兵法とは相手の思わぬところを衝くものだ」
 クリングゾルは静かに言った。
「それに気付かぬとは。天才も抜かることはあるのだな」
「チッ」
「確かにメーロトは死んだ。だが一人であの世に行かせたりはしない」
「俺も一緒にってわけか」
「そうだ。覚悟するがいい。ではな」
 そう言い残して司祭、いや彼の身体を借りたクリングゾルは姿を消した。後にはジークムント達を包囲する帝国軍の姿があるだけであった。
「最後の最後で洒落にならねえ事態に陥っちまったな」
 彼は歯噛みしながらこう言った。
「囲まれちまうとはな。盆地でな」
「まさか。囮を使うとは」
「奴は戦争も上手かった」
 ジークムントは彼と同じく口惜しがる部下達に対して言った。
「特に敵を罠にかけるのがな。俺達がこうなるとは思いもしなかったが」
「どうされますか?」
 部下の一人が尋ねてきた。
「敵は上を完全に押さえています。このままでは」
「包囲殲滅されるかと」
「怖気付くんじゃねえぞ」
 だが彼はここで部下達を叱咤した。
「ここはな、覚悟を決めろ」
「は、はい」
「一点突破しかねえ。一気に仕掛けるしかな」
「ですがどのポイントに」
「待ってな」
 彼はまずは辺りを探った。上を見回す。
「必ず隙がある筈だからな。そこを突くぞ」
「わかりました」
「そこはな」
 そしてここでその敵がいる上の方から突如として光が見えた。
「!?」
「あれは一体」
 部下達もそれに気付いた。
「提督、まさかヴァルター執政官の軍では」
「シュトルツィング執政官のか」
「はい、確か執政官の軍も帝国軍と戦っていましたね」
「そしてこのナイティングに向かっていると」
「そういえばそうだったな」
 ジークムントもそれを聞いて思い出した。
「これは天の助けってやつかもな」
「どうされますか?」
「決まってるだろ」
 ジークムントの顔には会心の笑みが浮かんでいた。
「反撃に転じるぞ。いいな」
「わかりました、それでは」
「おい、派手に暴れるぞ」
 今度は周りの部下達に対しても言う。
「助かるからな、絶対にだ」
「はい!」
 部下達もそれに応えた。そしてそれぞれ銃を手に持つ。
「シュトルツィング軍の居場所はわかるか!?」
「あそこですね」
 闇夜の中に火花が見える。それだけでわかった。
「よし、そこは攻撃から外せ!」
「了解!」
「他の場所は銘々派手に撃ちまくれ!挟み撃ちだ!」
 こうしてジークムントの軍も反撃に転じた。戦い自体は瞬く間に決し、彼は救われた。そして盆地に青い髪と目の知的な風貌の男が姿を現わしたのであった。
「卿がジークムント=フォン=ヴェルズング提督か?」
「ああ」
 ジークムントはその青い男の問いに答えた。
「その通りさ」
「そうか。噂は聞いている。そちらは大変だったようだな」
「俺もあんたの話は聞いているぜ」
 ジークムントはニヤリと笑って彼にそう返した。
「ヴァルター=フォン=シュトルツィング執政官だったな」
「知っているのか」
「あんたのことも有名だからな。話は色々と聞いてるぜ」
「そうか。お互い名前を知らないというわけではないようだな」
「ああ。ファフナーを潰したそうだな」
「何とかな」
 ヴァルターはそれに答えた。
「卿の方も。メーロトの軍を滅ぼしたか」
「まあな。あいつは死んだぜ」
 ジークムントはここで顔を微かに俯かせた。
「立派な最後だった」
「そうか」
 ヴァルターはそれを聞くだけであった。彼とメーロトの関係は知っていた。だからそれ以上は踏み込もうとはしなかったのである。これは彼の気配りであった。
「何はともあれここには帝国軍はいなくなったな」
「そうだな」
「俺はこれから帝国の奴等を探し出していくつもりだが。あんたはどうするんだい?」
「ヴァルハラに向かおうと思っている」
「ヴァルハラに?」
「そうだ。あそこには双惑星がある」
「ああ」
 これはジークムントも知っていた。
「そのうちの一つ。ラインにニーベルングがいるらしいのだ」
「奴が」
「そう。そしてここもまたアルベリヒ教の勢力だった」
「ニーベルングの奴等が信仰しているあれか」
「そうだ。そしてここで儀式も行なわれていたらしい」
「だからか」
 ジークムントはそれを聞いて二つ納得したことがあった。
「ここに帝国軍の拠点があったのもか」
「もう一つあるのだな」
「ああ。ここに司祭が一人いやがった。アルベリヒ教団のな」
 彼は言った。
「何でこんなところに連中の司祭がいるのか。今わかったぜ」
「ここで儀式をする為だな」
「そうだろうな。そしてその司祭にはあいつが乗り移っていやがった」
「あいつ!?まさか」
「そう、そのまさかさ」
 ジークムントは言った。
「ニーベルングの野郎が。出てきやがった」
「その司祭の身体を借りてか」
「そうさ。そしてあいつは俺を罠に嵌めて殺そうとしやがった。あんたが来る直前の話だ」
「そうだったのか」
「あいつは。多分アルベリヒ教とも深い関係がある」
「おそらくな」
「それだけじゃねえ。あいつはこのままいくともっととんでもねえことをしやがる。どうやら俺達は大変な奴を相手にしようとしているらしい」
「そうか、ではわかっているな」
「ああ」
 ヴァルターノ言葉に頷いた。
「俺も。一緒にヴァルハラへ向かうぜ」
「うむ」
「そしてニーベルングを倒す。それでいいな」
「私に断る理由はない」
 ヴァルターはにこりと笑ってこう返した。
「じゃあ行くか」
「そちらの都合はいいのか?」
「都合なんてな。自分で作るもんなんんだよ」
 彼は不敵に笑ってみせた。
「それが俺の流儀さ」
「噂通りだな」
 ヴァルターもそれを聞いて笑みを変えた。不敵な笑みとなった。いささか彼には似合わない笑みであるとも言えたが。
 合流した二人は新たな戦場に向かった。向かう先はもう決まっていた。そして次の戦場も。ジークムントは新たな戦いに己を進めるのであった。


ニーベルングの血脈   完


                                       2006・4・17




ピンチ!
美姫 「かと思いきや、運良くね」
いやいや、本当に。
美姫 「第一部のファフナーの炎の最終章のもう片側なのね」
うんうん。互いの視点という二つの方向から見れるわけだ。
美姫 「さて、いよいよ七人の戦士が集まり出すのね」
一体、どうなる!?
美姫 「次回も待ってます」
ではでは。



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