『リング』




          ニーベルングの血脈  第四章


「ここからだ」
 彼は集結する自軍を見て言った。
「ナイティングに向かう。いいな」
「了解」
 部下達はそれに頷いた。
「メーロトの軍と会ったら・・・・・・。わかっているな」
「倒す」
「そうだ。おそらく奴等にはナイティングの手前で出会うことになるだろう」
 丁度彼等は補給の為に帰るところである。これはジークムント自身が狙っており、予想されていることであった。
「そしてそこで決戦を挑む、いいな」
「はい」
「ナイティング近辺の地形も調べておけ」
「わかりました」
「大体戦う場所はわかってるがな」
 彼にはこれからのことがおおよそ予想がついていた。
「まずは調べておいてくれ。いいな」
「はっ」
 参謀達がそれに応えた。
「そしてメーロトの軍だがな」
 ようやく敵に関して言及してきた。
「奴等の疲弊はかなりのものだろう。だが決して侮るな」
 再度こう念を押した。
「敵は強いってことは念頭に置いておけよ」
 油断の危険性はわかっていた。だからこそ部下達に対して念を押す。
「では全軍進撃だ」
 そのうえでまた進撃命令を出した。
「ナイティングまで向かうぞ、いいな」
 彼は艦橋に立ち指示を下していた。その軍は一直線にナイティングを目指していた。
 まずはその進撃は順調であった。敵の姿もなく進路の帝国軍は次々と降伏し、伏兵もいなかった。
「敵がいませんね」
「補給を妨害してきた結果だ」
 ジークムントは部下の言葉にこう返した。
「物がなければ戦争はできねえ」
「はい」
「だからだ。連中は戦うことが出来ずにナイティングまで退いていやがるんだ。もっともこれも狙っていたがな」
「そうだったのですか」
「メーロトの軍はただでさえ多い。その余裕はかなりのものだな」
「ええ」
「普通にやったんじゃ絶対に何かしてくる、そう読んでいた」
 この進撃に関しても考えていたのであった。これはジークムントの軍事センスによるところが大きかった。
「だからな。色々とやってたんだ」
「最初からナイティングでの決戦に敵の戦力を集中させることも考えておられていたのですね」
「まあな」
 彼もそれを認めた。
「やるんなら一回で決めたいしな」
「一回でですか」
「そうだ。何回もチマチマやるのは俺の流儀じゃねえ」
「流儀って」
「誰であろうとな、それに無理にでも引き摺り込んでやり合ってやるのさ、そして勝つ」
「勝つのですか」
「そうさ、戦争ってのは勝たなきゃ意味がねえだろ」
「確かに」
 それ意外に言うことはなかった。
「いいか、ここが本当に正念場だ」
 ジークムント自身の言葉からそれがよくわかった。
「全軍このままナイティングに向かう、そして敵を殲滅するぞ」
「了解」
 ジークムントは全軍を率いナイティングに向かう。その間やはり敵の攻撃はなく、彼等は順調に兵を進めていった。遂にナイティングまで僅かの距離にまで迫った。ここで報告が入った。
「前方に敵艦隊」
「数は?」
「十個艦隊を優に越えます」
 報告は続いた。
「そして全艦こちらに艦首を向けております」
「やる気だってことだな」
「間違いないかと」
「よし、そっちも最初からそのつもりだ」
 ジークムントは意を決した顔でこう述べた。
「全軍いいな」
「はい」
 部下達はそれに頷く。
「攻撃態勢に入れ。一気に行くぞ」
「一気にですか」
「敵軍はおそらく鶴翼の陣を敷いている筈だ」
 彼はこう読んでいた。
「違うか」
「少しお待ち下さい」
 部下達はそれに応えてすぐに調べる。ローゲを使ってそれをモニターに出した。見れば確かにその通りであった。ジークムントの読みはあたっていた。
「その通りです」
「何と」
「簡単な話だ」
 部下達は驚いていたがジークムントは至って冷静であった。
「敵の方が数は多いな」
「はい」
「そして向こうは物資不足に悩んでいる。ならば一気に勝負をつけたくなるのが感情ってもんだ。しかも本拠地までもうすぐだしな」
「それで鶴翼陣なのですか」
「敵は俺達を包囲して一気に押し潰すつもりだ」
 彼はまた予想を立てた。
「残ったエネルギーや弾薬を使ってな。それか継戦不能にして追い返す」
「それからナイティングに戻ると」
「そういうところだな。だがここまでわかっていたら話は簡単だ」
 大軍を目の前にしてもやはりその自信に満ちた様子は変わらなかった。
「この星系の地形を出してくれ」
「わかりました」
 それに従いまたローゲが操作される。そして今ジークムント達がいる場所とメーロトの軍勢がいる場所の間と周辺の地形が三次元で映し出された。ジークムントはそれを見てすぐに言った。
「一点集中攻撃だ」
「そのポイントは」
「ここだ」
 手に持つレーザーで示す。そこは敵艦隊の中心地であった。それまでの間には一切障害物はない。
「ここを一気に攻めるぞ」
「上下左右から来る帝国軍は」
「構うことはねえ。まずは一点を集中的に叩く」
 彼は言った。
「扇は持ってるか」
「扇!?」
「そうだ。持ってるかどうか聞いてるんだ」
 彼はヴィントガッセンにそう問うてきた。
「どうなんだ」
「妻が好きでして」
 何故ここで扇を出したのかわからなかったが彼はそれに答えた。
「持っております」
「そうか、だったらすぐにわかるぜ」
 ジークムントはそこまで聞いてこう言った。
「すぐにな」
「その攻撃にこそ秘密があると」
「それもすぐにわかるさ」
 ジークムントはまた言った。
「いいな、まずはあのポイントを集中的に叩け」
「はい」 
「そしてそこから次の行動に移る。それにはまず」
「攻撃ですか」
「そうだ。わかったら行くぞ」
 彼は指示を下した。
「中央への攻撃だ。一隻たりとも遅れるんじゃねえぞ!」
「了解!」
 ジークムントの軍は一気に動いた。そしてそのまま突っ込む。そこにはもう何の迷いもなかった。ただ攻める、単純であるがそれだけに勇敢な動きがそこにあった。
 帝国軍はそのジークムントの軍を覆わんとする。一気に包み込むつもりなのだ。
「敵の攻撃が来ます!」
「構うんじゃねえ!」
 だがジークムントはそれに躊躇しなかった。
「どうせ補給不足で大した攻撃はねえ!安心しろ!」
 彼はそう言って部下を叱咤し突撃を続ける。敵は大艦隊である為か動きが鈍い。ジークムントはそれも読んでいたのであろうか自軍の艦隊を全速力で突っ込ませていた。
「とにかく突っ走れ!」
 彼は言う。
「射程内に入ったら一気にやるからな!いいな!」
「はい!」
 部下達はそれに頷く。覆わんとする敵軍を潜り抜け、その目標とする中央に迫った。
「よし!」
 ジークムントはその中央に迫って眦を決した。
「全艦砲門開け!」
 突撃させながら攻撃態勢に入らせる。
「攻撃目標を一点に集中させろ!」
「そのポイントは!」
「真正面だ!」
 彼は言い切った。
「そこに思い切りぶち込むんだ!いいな!」
「わかりました!」
 戦術もその指揮も単純であった。だがだからこそ分かり易かった。すぐに全軍の将兵に伝わり動いた。ジークムントはそれを見て次の動きに入った。
「撃て!」
 攻撃命令であった。そこに至るまで躊躇した時間はなかった。
「撃て!」
 攻撃命令が復唱された。そしてジークムントが示した中央部に攻撃がぶつけられたのであった。
 三個艦隊分の攻撃が帝国軍を直撃した。全体的な数では勝っていても一つのポイントではそうではなかった。ましてや帝国軍はジークムントの言う通り補給不足でありバリアーにもそれ程エネルギーを裂くことが出来なかった。彼等は瞬く間にその光の帯の前に薙ぎ倒されてしまった。
「提督、穴が開きました!」
「よし!」
 ジークムントは前方に大きな穴が開いたのを見て頷いた。
「そこに突っ込め!それから反転攻撃だ!」
「はい!」
 ジークムントの言葉通りその穴を突き抜けた。今度は戸惑う敵の後方に対して総攻撃を浴びせた。
 後ろからの攻撃はかなりの脅威であった。帝国軍は次々に炎に包まれ、光となって消える。これで帝国軍は混乱状態に陥った。
「逃げる奴は追うな」
 ジークムントは混乱する帝国軍を見て言った。その中には逃亡する艦艇もあった。彼はその者達をさしてこう指示を下したのであった。
「今はな」
 彼は言った。
「今はですか」
「そうだ、残敵の掃討は後でいい、まずは敵軍を破ることが先だ」
「敵を」
「特にメーロトの奴を探し出せ、そしてその首を挙げるんだ、いいな」
 ここで彼は戦術的判断を下した。まずは敵司令官を倒してその指揮系統を崩壊させるつもりだったのだ。そして敵の統制を完全に破壊する。戦術としてはオーソドックスなものであると言えた。
 そして部下達もそれに従い動いた。一気に帝国軍を攻め立てる。その際逃げる兵は置いていた。
「逃げる奴は追うな!」
「まずはメーロトの旗艦を探せ!」
 ジークムントの軍は逃げ惑う帝国軍の中を遮二無二駆け回り敵を探した。だがメーロトの影は何処にもなく、帝国軍はその逃げる数を増すだけであった。
 そして遂には戦場にいるのはジークムントとその軍だけになった。やはりメーロトの姿は何処にもなかった。
「あの野郎、何処に行った」
 捕虜の中にもいなかった。帝国軍はその半数程が破壊され、多くの捕虜を出していた。だがその中にもメーロトはいなかったのである。
「捕虜の中にもいません」
 部下から報告が入った。
「逃げたか」
「おそらくは。どうされますか」
「まずは逃げた艦艇の追撃部隊を出せ」
 ジークムントは指示を出した。
「その中にいるかも知れない」
「わかりました、それでは」
「そしてナイティングにも降下するぞ」
「ナイティングにもですか」
「ああ。どのみちあそこは占領しなくちゃいけねえからな」
 そう語るジークムントの赤い瞳が強い光を放っていた。
「どのみちな。やってやるさ」
「わかりました。ではナイティングに陸戦部隊を送りましょう」
「ああ」
 ジークムントは部下の言葉に応えた。
「俺も行くぞ」
「はい」
「ただ、一つ問題があります」
「問題?」
「ナイティングの帝国軍の防衛です」
「何かあるのか、あの惑星に」
「竜がいるようです」
「竜」
「ファフナーです。あれがこの惑星に配備されているとのことですが」
「そうなのか」
「はい。如何為されますか」
「そいつは今何処にいる?」
 問うジークムントの目が光った。
「こちらにシュトルツィング執政官の軍も向かっておりまして」
「シュトルツィング、ああ奴か」
 ジークムントはそれを聞いてすぐにそれが誰かわかった。
「ヴァルター=フォン=シュトルツィングだな」
「はい、そうです」
「確かあいつも帝国軍と対立していたな」
「何でも惑星を婚約者ごと破壊されたそうで」
「ニュルンベルグをだったな。そのファフナーに」
「ええ」
「それで帝国と対立することになったらしいな」
「シュトルツィング執政官の軍もまたナイティングに向かっております」
「帝国と戦う為にだな」
「そうです。そしてファフナーは今そちらに向かっております」
「そうか、なら好機だ」
 ジークムントはそこまで聞いて言った。
「ファフナーがいない今がチャンスだ」
「では降下ですか」
「そうだ。一個艦隊で援護しろ」
「はっ」
「残り二個艦隊は敵残存艦隊を追う。陸戦部隊は俺に続け」
 こうしてジークムントはナイティングに降下することとなった。まずは降下予定地点に集中攻撃が仕掛けられた。
「地ならしはしっかりとしておけよ」
「了解」
 それに従い帝国軍の軍事基地にも攻撃が仕掛けられる。反撃もあったがそれは大したことはなくジークムントの軍はナイティングの帝国軍の戦力をほぼ無効化させることに成功した。
「これでやっと降下に移れるな」
「提督、御気をつけて」
「ああ、留守は頼むぜ」
「はい」
 予定通りジークムントは兵を引き連れて降下した。そして重要地点を次々と占領していった。
「まずは拠点をもうけろ」
「はい」
 それに従い軍事基地及び補給基地の占領を優先させる。まずは足掛かりを築いたのであった。







着実に帝国へと楔が打ち込まれていく。
美姫 「次はどんな策を用いるのかしらね」
いやいや、どうなるのか。
美姫 「それに、徐々に一つ場所へと集いつつある者たち」
打倒帝国へと向けて、物語は加速する!
美姫 「次回も待ってますね〜」



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