『リング』




        エリザベートの記憶  第五幕


「ワルキューレの戦力は」
「五個艦隊程です」
 ビテロルフがそれに答えた。
「そうか。敵は」
「思ったより多いです。彼等と同程度の五個艦隊です」
「援軍が来ているのでしょうか」
「おそらくな」
 タンホイザーはハインリヒの言葉に応えた。
「そうでなければ説明ができない」
「今ワルキューレと帝国軍は一進一退の戦いを繰り広げています」
 新たに報告が入った。
「どうされますか」
「決まっている、帝国軍を叩く」
 彼は即座に決断を下した。
「帝国軍をですか」
「そうだ。ワルキューレに伝えよ」
 彼は言葉を続ける。
「今から貴殿達を援護するとな。共に帝国にあたろうと」
「了解」
 それを受けてタンホイザーの軍は動きをはじめた。そして帝国軍の後方に姿を現わしたのであった。
「すぐ攻撃に移れ」
 彼は前方に展開する帝国軍の大軍を見据えて言った。
「そして敵を打ち破る。よいな」
「はい」
「あの中におそらくクリングゾル=フォン=ニーベルングがいる」
「ニーベルングが」
「そうだ。ここで彼を討てば我等の第一の目標は達成される。逃さぬ様にな」
「わかりました。では」
「まずは旗艦を識別せよ」
「旗艦を」
「そうだ。話によるとニーベルングの旗艦は鈍い金色の光を放っているという」
 タンホイザーは言った。
「かなり目立つ筈だ、その艦をまず探せ」
「了解」
「それと同時に敵艦隊を攻撃する。敵は今どうなっているか」
「我々の出現に混乱をきたしているようです」
「混乱を」
 ヴァルターの言葉に目を動かした。
「一部をワルキューレに向け、一部を我々に向けております。ニーベルングの統制を離れようとしている様です」
「そうか。好機だな」
 彼はそれを見逃さなかった。
「ではすぐに攻撃を仕掛けよう。全艦前へ」
 指示を下す。
「一気に叩くぞ、よいな」
「ハッ」
「その向かって来た敵艦隊の一点を集中的に叩く」
 彼はモニターに映る敵艦隊を見ながら言う。
「そしてそこに穴が開く。その穴に)
「一気に艦隊を雪崩れ込ませるのですね」
「その通りだ。では行くぞ」
はい」
 部下達は頷いた。そして敵艦隊の動きを見据えた。
「そこだ!」
 タンホイザーが一点を指した。そこは敵艦隊の先端部分であった。今そこが突出していたのだ。
「火力を集中させよ!」
 すぐさま指示を出す。そこにビームとミサイルの一斉射撃が加えられた。
 動きを抑えられた帝国軍の艦隊は為す術もなかった。先端部を潰されそのままなし崩し的に損害を出す。艦隊の先が大きく失われる形となった。
「穴が開いたな」
 タンホイザーはそれを見て言った。
「では次だ」
「はっ」
 艦隊はそのまま大きく前に出る。そして怯んでいる敵艦隊に向けて突撃した。
「もう一度一斉射撃を加えるぞ!」
「はい!」
 それに従いまた攻撃が浴びせられる。怯んでいた帝国軍はこれでさらにダメージを受けた。後ろではワルキューレの軍が鶴翼の陣を組み攻撃を加えていた。前後から圧迫を受けている為か帝国軍はタンホイザーの軍にもワルキューレにもまともに対処が出来ないようであった。
 タンホイザーの軍はそのまま突っ込んだ。そして周りにいる敵に対して次々と攻撃を浴びせる。そしてその中でクリングゾルの旗艦を探していた。
「公爵」
「見つかったか」
 タンホイザーはラインマルに顔を向けて問うた。
「はい、敵艦隊の右翼におります」
「そこか」
「今ワルキューレもそちらに主力を向けております。どうやら彼等もニーベルングの旗艦を確認した様です」
「そうか、遅れるな」
 彼はそれを聞くとすぐにローマを動かせた。
「右だ、捕捉するぞ」
「了解」
「必要とあらば乗り付ける。艦内に斬り込む」
「艦内に」
「何としてもニーベルングを撃つ」
 タンホイザーの声が強いものとなった。
「いいな」
「わかりました。では」
 部下達も頷く。
「我々も御供致します」
「よいのか?」
「はい」
 彼等の決意もまた固いものであった。
「我々も騎士ですから」
「喜んで剣を取りましょう」
 彼等はタンホイザーもまたクリングゾルの艦に乗り込むつもりなのがわかっていた。だからこそこう言ったのである。
「公爵」
 また情報が入って来た。
「どうした」
「遂にニーベルングの艦艇を捕捉しました」
「よし」
 それを聞いて頷く。
「ではまずは周辺の艦艇を撃破していく」
「はい」
「それから乗り込むぞ。そしてこの手で戦いを終わらせる」
「了解しました。では」
「行くぞ」
 彼は左翼の敵軍を足止めさせ、それから主力で以ってクリングゾルのいる右翼に向かった。そして周辺の艦艇を次々に撃沈し、退け、その旗艦に向かっていた。
「あれです!」
 部下達がモニターに映る巨大な戦艦を指差した。
「あれがニーベルングの旗艦ハーゲンです」
「あれがか」
 見れば鈍い黄金色であった。あまり見ていて気持ちのよい色ではない。そしてそれこそがクリングゾルが乗艦しているということの何よりの証であった。
「逃げる気配はないですね」
「そうだな」
 タンホイザーはヴォルフラムの言葉に頷いた。
「周辺は既に抑えております」
「そしてワルキューレも来ております。ハーゲンは今孤立しようとしております」
「そうか、では最早迷うことはない」
 その声が強くなった。
「接舷する。よいな」
「了解」
「各自剣とライフルを持て。そして斬り込む」
「ハッ」
「目指すはクリングゾル=フォン=ニーベルングの首だ。それを得た者には恩賞は思いのままだ」
「わかりました。では」
「ローマを前に出せ!」
 タンホイザーは言った。
「いいな。遅れるな!」
 そう言うと艦橋を後にした。部下達がそれに続く。今彼は剣を手にクリングゾルの城そのものに乗り込むのであった。
 見ればワルキューレも来ていた。だが彼はそれには今は目もくれない。
「今はいい」
 彼は言った。
「まずはクリングゾルだ」
「はい」
 その周りを固める部下達が頷いた。
「彼等はその後でいい。それに今は協力関係にあるからな」
「ですね。それでは」
「うむ」
 ハーゲンに体当たりを敢行する。鈍い衝撃が艦全体を襲った。
「ハーゲンの装甲を打ち抜きました!」
 また報告が入る。
「突入可能になりました!」
「よし!」
 タンホイザーはそれを聞いて頷いた。
「では行くぞ!」
「了解!」
 それに従い部下達も動く。だがここでもう一つ衝撃が起こった。
「今度はどうした!?」
「ワルキューレも突進した様です!」
 艦橋から報告があがった。
「ワルキューレも」
「はい。その旗艦ノートゥングがハーゲンに体当たりを仕掛けました。そして彼等もハーゲンの中に突入を敢行する模様です」
「そうか、彼等もか。やはりな」
「我等も遅れるわけには」
「わかっている。では」
 最早迷うことはなかった。タンホイザーが先頭になりハーゲンの中へ踏み込む。すぐに敵がその剣で斬り掛かって来た。
「甘いっ」
 しかしそれは何なくかわした。かわすと同時にその右手に持つ剣で斬り捨てる。
「その程度で。私を倒せると思うか」
「司令、油断は禁物です」
 だがそんな彼の前にビテロルフが来た。彼を護りながら言う。
「ここは敵の大本営なのですから」
「そうだったな。では少しずつエリアを確保していくか」
「はい」
「それでは我等も」
 ヴォルフラム達も艦内に入って来た。そして兵士達も。彼等はまず突入したエリアの確保を行った。そしてそこから少しずつ先へと進むのであった。






いよいよ最終局面。
美姫 「敵艦に乗り込む〜」
艦内ではどんな戦闘が繰り広げられるのか!?
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。



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