さて、夜もふけた頃、俺はガルガンチュアに来ていた。様々な拘束具を壊さないように試行錯誤する事二日。漸く俺はベットから抜け出せた。向こうには内緒だけどね。

 はぁ、漸く料理が出来る。自分で淹れた珈琲が飲むことができる。これ以上の感動があるだろうか?いや、無い!!

 

「やっほー。お久しぶりです」

 

 いつの間にか食堂に集まるのが癖になっていたのか、そこにいる全員に声をかける。瞬間、まるで幽霊でも見たかのような表情で見られた。なんでさ。

 すぐに正気を取り戻したのかリコとロベリアがこっちに向かって走ってくる。ははっ、そんなに寂しかったのかい?けれどなんでそんな険しい表情で突進してくるのかなぁ?

 そして、距離がゼロになり、俺は押し倒された。この世界の女性は本当に強いな。と思っていられない!?何故に脱がそうとする? いや、俺はまだ清い体でいたいんですよ!?

 もはや、抵抗も出来ずに上着を奪われる。女の子なんだからさ、もう少し羞恥心とか持とうよ。

 

「やっぱり、この前よりも進行してるじゃない!!」

 

 イムが声を荒げてみている先には俺の痣。俺を絞め殺すかのように描かれている蛇の痣。その痣が顔を除き、全ての部位に描かれている。その上に、蛇の姿は以前よりも随分と太くなっている。この呪いが俺という存在を犯している証だ。

 怒るのも当然なのかもしれない。イムは俺にそういう感情を抱いているのだから。ちなみにこの前とは学園祭終了翌日のことである。その時にイムとロベリアにかなり泣かれた。何とか言い聞かせることが出来たのだが、今度はそう簡単にはいかないよな。

 

「何で、何で私達を頼ってくれないの?このままじゃマスターは死んじゃうのよ?」

 

 イムがぽろぽろと涙を流しながら訴えてくる。う〜ん、女の子の涙はやっぱり見ていて気持ちいいものじゃないな。何時からフェミニストになったんだろう?

 

「お前に比べたら私達は弱いかもしれない。けれど頼ってくれてもいいだろ?」

 

 ロベリアの懇願としか思えないほどに弱い声。俺にどうしろというんだ。ふむ、この場を乗り切るにはどうしたらいいか。

 

「蛍火君。貴方は白の主なのです。もう少し自重してください」

 

 ダウニーの言葉が引っかかった。んー、白の主…………神…………世界……………………母体?おぉ、ごまかせる格好の言葉が合ったじゃんか。すっかり忘れてたよ。

 

「大丈夫ですよ。この戦争が終わるまで持たせればいいだけの話ですから」

「嫌!!マスターがいない新しい世界になんて意味はないわ!」

 

 イムが俺に泣きついてくる。そこまで俺を思っているとはな。とゆーかお前実はリコじゃないのか? 白の精らしからぬぐらいに感情に走っているぞ。

 

「うーん。勘違いしてませんか。私が真の救世主になったときには新しい世界を作ることが出来るんですから。その時ついでに私に掛かっている呪いを消して私の体を全部創りなおせばいいだけでしょ?」

 

 ふむ、男の救世主には新しい世界を作れないと言う事を知っているのですっかり忘れていた。というか、イムニティ、お前は真の救世主が新世界の母体だという事を忘れていたのか?

 全員がぽかんと口を開けて何も言えないでいる。というか本当に忘れていたようだ。

 

「忘れていたんですか?」

 

 全員が俺から眼を逸らした。欠片でさえ浮かばなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

第七十八話 イレギュラー

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、彼らはどうでしたか?」

 

 今回の主目的である彼我の戦力差を測ってもらいたい。俺の計画に関わってくることだから。大河達は原作よりも確実に強くなってきているが、その反作用かこちらの戦力も大河達に比例して上がっている。というか俺が戦闘訓練の相手を頼んでしまったからだけどね?HAHAHAHA…………orz

 

「けっ、まだまだケツの青い餓鬼共だぜ」

 

 ムドウよ。モンゴロイドである俺にはその意味は通じるが恐らく白色人種であるほかの奴には通じないぞ?イムは通じるかもしれないが。

 

「あれで王国最強を名乗るとは片腹痛い」

 

 シェザルもムドウとほぼ同じ意見らしい。まぁ、そうかもしれないな。成長しているとはいえ、個人としての能力はまだムドウ達に及んではいない。残念な事に実戦経験が少なすぎる。ついでにいうとあいつらは現時点では人が本来持つ強さが鰻上りな状態だからな。その内、追いつくのだが、今はまだ。というか、周囲を巻き込んでまで戦闘ができるこの二人相手に、カエデとベリオはどれ程強くならねばならんのか、謎な所だ。かなり、強くならないといけないだろうな〜。

 

「ダウニー先生の評価は?」

「私は、成長率は目覚しいとは思います。ですが、現時点では敵ではないですね。当てるべき相手を当てれば困りはしません」

 

 なるほど、総合で見ても赤側は未熟ということか。さすがにリコを相手にする気はないだろう。あれは別格過ぎる。後、大河当たり?

 

「なるほど、では。気になった相手とかはいましたか?」

 

 これは一応聞いておきたい。この戦争で対となす者が俺が知っているものと変化していると直前になって知りたくはないからな。

 

「んあ? 俺はあのカエデとかいう小娘だな。なんかどっかで会った気がするんだよ」

「私はベリオとか言う少女ですね。あの肢体はなんともバラしがいがある」

「私はあのナナシとかいうふざけた奴だ。なんていうか存在を許せない」

「私は当然、オルタラね」

 

 ふむ、俺の知っているものと変わりないか。それにしてもロベリアは歪だな。姿形、精神まで変化しているルビナスを察知するとは。魂か、体がルビナスを求めているのかもしれない。

 

「となると残るのはシアフィールドさんと当真さんですか」

 

 元々、未亜は大河と対を成す存在だったからな。俺という大河と対を成す存在が新たに生まれたからあぶれてしまったか。

 

「片方をダウニー先生に押さえてもらうとして、もう、片方を押さえる人材が欲しいですね」

 

 まぁ、俺の中ではリリィがダウニーを抑えるのは決定しているのだが、それは口にしなくてもいいだろう。

 

「がはははっ、なんなら俺が抑えてやろうか?まだ未開通みたいだが、体は俺好みだ」

 

 ムドウがそういうが、恐らく最終決戦の時にはカエデで手一杯になっている可能性が高い。なら、未亜に宛がう手駒が欲しい。出来れば俺に忠実な奴がほしいな。………………ムリかもしれないorz

 

 まぁ、無いもの強請りしても仕方がないか。はぁ、どうするべきかね。あっ、そういえばセルとかイリーナとかマリーを抑える駒もねぇや。参ったな。まぁあの三人には雑魚の殲滅だけを任せたほうが無難だろうな。これ以上、イレギュラーは要らない。

 

「ねぇ、マスターは一体何時まで向こうにいるつもりなの?」

 

 ふむ、そういえば答えていなかったか。俺も明確に何日まで向こうにいるとかわからないからな。全部こっちの予定に合わせてるし。

 

「ガルガンチュアが浮上するときにはここにいないといけませんからね。まぁ、それまでは遊んでますよ」

「ならいいんだけど」

 

 全員が苦笑している。はて、おかしな事を言ったかな?

 

 

 

 

 

 

さて、今回こっちに来た本題に入ろうか。この前のマナの異常な流れについて聞いておかないとな。

 可能性としてはやはり、魔道兵器か。

 

「イム、現在稼動可能な古代魔道兵器はガルガンチュアとレベリオン、この前使われたトリーズを除いて、他にありますか?」

「?私が知る限り無いわよ。急にそんな事聞いてどうしたの?」

 

 イムが訝しげに俺のほうに向いてくるが、俺としてはそれどころではない。

イムが知らないという事は本当に無い可能性が高い。しかし、もしイムが知らないだけだとするなら? 最悪だな。どっちの手に渡ったとしてもいい事は無い。

それに魔道兵器で無かったとしてもあれだけのマナの異常を起こせるのだ。どちらの手にも渡すことは出来ない。

 

「いえ、文献を漁っていたらそういうものが過去に沢山有ったらしいですから。一度は見てみたいなと。」

「そんなものは無くても蛍火ならば十分に勝てるだろう?」

 

 まぁ、たしかに魔道兵器よりも効率よく破壊できるが。

 

「好奇心ですよ。漢に生まれたからにはメカに興味を持つのは当然でしょう?」

「ふっ、やはり蛍火は私と気が合いますね」

 

 シェザルと熱い握手を交わす。何を隠そうシェザルは武器フェチにしてメカフェチなのだ。少なからず共通するところがあるからな。

 

「男は分からんな」

 

 ロベリアの呆れたような発言。しかし、ロベリアよ男ではなく漢だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 さて、本来なら俺が寮に戻る時間。俺はバイクの整備をしていた。忘れている人がいるかもしれないが俺のバイクはこっちにあるんだよ。最近は逆召喚が使えるからあんまり使ってないし、この世界に無い物だから頻繁に乗り回すわけにも行かないし。何よりもオフロード使用じゃないから舗装されていないアヴァターでは滅多に使えない。

 ふむ、大丈夫そうだな。なら、出掛けるとしようか。ヘルメットは被らない。こっちにそんな法律は無いしね。それに視界が狭まって不便極まりない。

 バイクに跨ろうとしたその時、後ろから気配が近づいていた。

 

「今から何処に出かける気?」

 

 やっぱりイムとロベリアがいた。二人には誤魔化しきれなかったかな?

 

「散歩に行くだけですよ? ついでにこいつの機嫌を見るために」

「嘘だね。お前が意味も無く何かを聴いたりはしない。何か行動を起こすはずが無い。何があったんだ?そんなに私達は頼りないか?」

 

 ロベリアに悲しそうな表情。はぁ、やっぱり誤魔化しきれていなかったか。こいつらとの付き合いは深いしな。正直に話すか。

 

「イム、ロベリア。三日前からマナの異常な流れを関知していませんか?」

「いや」

 

 二人して首を振る。ふむ、やはり俺だけのようだ。不可解だが、それは仕方の無い事なのかもしれない。

 だが、俺の勘違いではない。今もはっきりと感じる。まるで俺を誘うかのような微弱ながらもマナの異常な流れが。なぜなら俺は世界の異常については誰よりも詳しく検知できてしまうのだから。

 

「私にはそれが感じられたんです。それが何か調査しに行くんですよ」

 

 調査だけでなく、場合によってはそれの破壊、殲滅が目的だが。決して捕獲などが目的ではない。

 

「じゃあ、私も付いていくわ」

「もちろん。私もな」

 

 二人が一人で行くことは許さないといわんばかりの態度を示す。困ったな、一人で行く気だったのに。

 

「いえ、唯の調査ですから。一人でも「マスター一人で行ったら無茶するに決まってるでしょ!!!」はい、お願いします」

 

 俺はイムの気迫に負けてお願いしてしまった。その時、脳裏に斧を構えたエルフのような長い耳をしたオヤジが見えて、

 

(辺境の女ってのは強いんだぜ?)

 

 と言った。あぁ、その通りだな。おやっさん。でも、レンにはエルンガーみたいに強くなって欲しくないな。末路がフォークで殺されるなんてギャグにしかならない!

 

「マスター。シェザルとムドウは呼ばなくていいの?」

 

 俺に負担をかけないために全員で行ったほうがいいと主張するイムだが、今回その二人は連れて行けない。

 

「いえ、呼ばないで下さい。流れから言って目的地は洞窟の中になりそうです。二人がいたのでは洞窟の中を満足に探索できないかもしれない」

 

 調べた限りでは結構狭い洞窟のようだ。ムドウのような巨漢で大きな武器を扱う存在には狭すぎる。室内ではシェザルのように銃器を使う存在は仲間に跳弾が及ぶ可能性がある。よって、二人を連れて行くのは最初から除外していた。

 

「さて、三人に増えるとなるとバイクではいけませんね。目的地が微妙に遠いですからね。どうしましょうか?」

 

 基本的にバイクは二人乗りが限界だ。無理をすれば出来ないこともないが出来れば無理をさせたくないしな。

 

「あら、三人でバイクに乗ればいいじゃない」

 

 ははっ、やっぱり?

 

「ほら、乗った乗った」

 

 いや、ロベリア。これは一応俺のだから。お前が指図するなよ。

 と言うわけで俺はいつものように跨ったのだが、二人が何時までたっても跨ろうとしない。どうしたのかと見てみると盛大な火花を散らしていた。

 そして、大きく腕を振りかぶったかと思うと、ロベリアはパーをイムはチョキを出していた。大人気ない。

 

「それじゃ失礼するわね」

 

 イムが燃料タンクの上に、進行方向に対し後ろ向きに座っている。頭は俺の視界を確保するために、俺の肩に顎を乗せている形をとった。

 ちょっと待てい!

 そして、ロベリアは後部座席に座り、俺を抱きしめるかのように腕を回した。え!?ねぇ、この前正しい後部座席の座り方教えたよね?片手は車体を掴むように言ったよね!?なんで抱きついてんの?

 

「マスター、ぼ〜としてないで行きましょう?」

 

 イムが俺の耳元で囁く。その声の甘さとかが色々とヤバイ。不幸中の幸いは俺の胸元で寄り添うような慎ましげな胸だろう。

 もし前に居たのがロベリアだったのならかなりやばかったともう。

 

「ほら、いくよ」

 

 ロベリアが胸を押し付けるようにしながらイムとは逆の耳に囁いてくる。ちくしょう、『僕』を取り戻したから性というか女性に対してかなり純情少年になっちゃってるYO!

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の誘惑を何とか耐え切りながら漸く目的の洞窟の前まで来た。時間にして三十分も掛かっていないのだが、その倍以上は掛かった気がした。

 

 二人の表情は愕然としている。ここに来てさすがにマナの流れの異常さが理解できたようだ。俺からしたらこのマナの流量は少ないものだが、一般の魔術師がこれを関知したなら恐れおののくだろう。それほどなのだ。

 

「いったい、何があるって言うんだ?」

 

 ロベリアの不安げな質問。しかし、それは俺にも分からない。俺が来たせいで本当にこの世界はイレギュラーが増えた。まったく知らないと言うことがこれほどの怖いとは。

 

「何が起こるか分からないから、用意だけはしておいて」

 

 イムも遺失兵装の厄介さを知っているからこその言葉。何が出てくるか分からないからな。俺もある程度は知っているが、実際に全てを見たり体験した訳ではない。ドラゴンとか与えられた知識で知っているが、所詮その程度だ。

 

 

「イム、スライムを出しておいてください。いざという時にはそれを盾にしますから」

「あっ、それもそうね」

 

 イムのスライムなら幾ら減ったところでも痛くないし、何よりこっちが傷つかずに済む。洞窟探索ではかなり役に立つな。尚、リコに出来る事は当然のようにイムも出来る。その逆も然りなのだが。

 

「明かりはどうする?」

「私が照らしましょう。ついでに罠に対しても知識はありますから、私が先頭、イムが真ん中、ロベリアが挟撃に備えて殿。それでいいですね?」

 

 まぁ、実際は俺とロベリアには明かりなんて不要かもしれないがイムが慣れていないだろうからな。慣れてないと実力がまったく出せない。

 

「それでいいけど、道具とか必要ないの?」

 

 イムよ。それは誰に聞いているんだ?愚問だな。

 

「ちゃんと一式そろえてあります。大丈夫ですよ」

 

 俺は安心させるように内ポケットを上から叩いた。もはや、この服さえあれば宇宙空間でも過ごせるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 明かりを照らしながら先に進む。罠は思ったよりもかなり有った。それも明らかに人を狙った罠ばかり。だが、意図的な部分が見えてくる。例えば、罠がある部分には目印がある。まるで、その存在を知っている者が見ればそこに罠があると分かるかのような目印が。

 

 幸い、俺が師匠からその類を全て叩き込まれていたので危ないことはあまり無かった。終着点はマナの流れが教えてくれる。だから、一直線に進めるのだが。

 

「それにしても罠が多いですね」

「あぁ、なんだい、この数は。やってられないよ」

「マスター、大丈夫?」

 

 罠の数の多さが問題だ。幾ら罠の解除の仕方、何処にあるかが予測できたとしてもこれでは時間を罠の解除だけで時間を食ってしまう。

 夜明けまでにはここから出ておきたいのだが。ふむ、今の時間は恐らく深夜一時半か。ギリギリだな。最悪、バイクをおいて学園に召還陣で戻ることも考えんとな。

 唐突に空気が変わった。僅かに温かかったはずの洞窟内の空気が感情を付け加えられた冷えた空気。若干ながらも足音が聞こえる。

 

「マスター。怖い」

 

 イムが怖がるとはそれほど危険なものかもしれないのか。気をつけんとな。

 

「大丈夫ですよ。すぐに片付ける気でいますから」

 

 どんな敵がこようとも全て消し去ればいいだけだしな。ふふっ、

 

「そうじゃなくて、怖いのはマスターよ。こんな暗がりで邪笑しないでよ。魔王とかそんな感じの笑いだったわよ」

 

 ふっ、まさかこの世界にまで来てそんな事を言われるとは思いもしなかったな。やはり俺の笑いというよりは俺自身がその類のようだ。実際、この物語の俺の役割は位置的には一応ラスボス扱いになっているし。

 

「さて、イム、テトラグラビトンとレイデット・アダマー、エヴェットフルバン、マジックソードは使わないで下さい。崩落するかもしれません」

「了解」

「私には無いな」

 

 当たり前だ。元々剣士の技量に死霊術を上乗せしているロベリアに注意すべき点はこの場においては無い。

 俺も派手な魔法の類は使えないか。まぁ、どうせ小太刀を使う気だったし大丈夫だろう。

 

 

目の前に現れたのはゴーレムとも呼べるような兵器。但し、ゴーレムよりも小さく人型に近い。だが、明らかに人の顔とは違い、人とは違う体重をしている。これも正しく遺失兵装だといえる。

 

 だが、明らかに弱い。そも人型とは凡庸性を求めた結果。そして、その人型を最も効率よく、可能性を引き出せ運用できるのは人間だけでしかない。そもそも、何かを護るのならそれに特化した形態をとってしまえばいい。

 

 人型を取った時点で俺達に敗北するのは確定しているとも言える。

 

 さぁ、狩りを始めようか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other’s view

 蛍火とロベリアが同時に偽ゴーレムに向かって走り出す。

 ロベリアが前に出て突進しながら刺突を放つ。突進のエネルギーが吐き出され先頭にいた偽ゴーレムの数体は後方に吹き飛ばされる。

 だが、その程度で敵はひいたりはしない。吹き飛ばされていく味方を縫うようにして蛍火たちに向かって進んでくる。ロベリアの硬直を見逃さない様はまさしく殺人人形に相応しい。

 しかし、蛍火の側には史上最高の殺戮人形(キリングドール)がいる。それはまさしく至高の一品。量産品如きにその隙を渡すはずが無い。

 ロベリアと入れ替わるように蛍火は前に出て、闇色の小太刀を引き抜く。

 

 

 無数の斬戟が、無数の蹴戟が繰り出される。それだけに留まらず、肘、膝、肩など攻撃に使える部位は全て繰り出される。

 攻撃は苛烈なれどその動きはまるで舞い散る木葉のように緩やか。単純な斬撃ではない。そこには幾種もの、別の攻撃特性を合わせて無限ともいえるバリエーションで相手を絡め取る。知性が低ければ低いほど、蛍火の剣技から逃れられない。

 

 

 その後ろから援護するようにロベリアが骨を打ち出す。一本一本が精密射撃を思わせるほどに正確に敵を打ち抜いている。

 蛍火が斬撃を繰り出している間にも敵は集まってくる。敵は生物ではない。その一片でも残っている限り進んでくる。故に完全に壊さなければ動きを止めることは無い。

 蛍火の迎撃が飽和状態になったと同時に、蛍火とロベリアがさっと後ろに下がる。至高の殺戮人形(キリングドール)が量産品如きに敗北した?否、量産品の頭上を見よ。そこには愚かにも至高品に手を出そうとした愚物に鉄槌を下すかのように輝く魔方陣が見えるではないか。

 頭上の魔方陣に気付くことなく殺人人形は前に進む。だが、それが何時までも許されるはずが無い。

 

「逃げられないわよ。 バラック!!」

 

 レイデット・アダマーに比べれば明らかに威力は劣る。しかし、それでもその威力は素晴らしい。雷が偽ゴーレムに突き刺さっていく。

 蛍火とロベリアはその後すぐに突撃できるように構えていた。二人ともイムニティのバラックの威力が眼を見張るものだと理解しているがそれだけで敵を殲滅できるとは思っていなかった。

 二人の内部で力が凝縮していく。バラックが終わると同時に攻撃をかけ、硬直している間に終わらせるようとしていた。

 煙が納まる。それと同時に二人は駆ける。だが、その前に蛍火が異変に気付く。偽ゴーレムが体の各所から火花を散らしていたことに。

 

「下がれ、ロベリア!!くそっ、中より外は適わず、簡易・内殺結界!!」

 

 以前のように基点が無いためにあやふやで抑える力も弱い結界。今、そんなものを張る必要があるのだろうか?

 

その意味はすぐさま出た。殺人人形が雷に耐え切れなかったのか、スパークをさらに大きくし、爆発した。それに誘われるように次々と偽ゴーレムが爆発していく。

 火花を散らしていない殺人人形も他の殺人人形の爆発に巻き込まれる形でさらに爆発を大きくしていった。その爆発が結界の外で起きていたのならこの洞窟は崩落していただろう。それほどにその爆発の連鎖は大きかった。

 

 

 

 爆発が終わり後に残るは煙と、偽ゴーレムの残骸。そして蛍火、ロベリア、イムニティ。

 

「けほっ、けほっ、マスターありがとう。でも一体どういうこと?」

 

 イムニティはこの事態に一番混乱していた。自分の放った威力は自分が良く理解している。あの雷では偽ゴーレムを壊滅させるには遠い。なのに、終わってしまった。

 

「相手は機械なんだろ?なら、電撃に弱いのは当たり前じゃないのか?」

 

 蛍火の世界にある電化製品は確かにそうだろう。だが、曲がりなりにも古代アヴァターに作られた品。魔法に関しての耐性を考えていないはずが無い。

 実はイムニティのバラックは蛍火の金系魔術や、リリィのヴォルテカノンには劣るがそれでもリリィのヴォルテクス並みの力はあるのだが。比較する対象の力が大きすぎるだけで決してイムニティの魔法は弱くない。

 

「どう思う?マスター」

「いや、さすがに知りません。対抗策としては冷却系の魔法を使うことですか。そうすれば爆発する可能性は低くなりそうですから」

 

 ほぼ、存在がチートな蛍火でも知らないものはある。知らない範囲の事、見たことの無いモノについて知識がないのは当たり前だ。

 蛍火の言葉にイムニティは落胆を示す。そこまで制限されてはイムニティに出来ることなどほぼ無い。

 

 

「私の出来ることがまた減ったわね」

「そう拗ねないで下さい。イムの知識は当てにしているんですから」

 

 幾ら文献を読み漁ったとしても見た人物との理解の度合いは雲泥の差。蛍火も自分の知識だけで判断するほどにいい加減な性格ではない。無論、この先にあるでろう遺失兵器は問答無用で壊す気だったが。

 

「一人で来ようとしてたくせに」

 

 イムニティの拗ねたような顔で蛍火に向けて痛烈な一撃を放つ。実際蛍火は一人で来ようとしていたのだから反論の使用も無い。

 

「言わないで下さいよ。反省してますから」

「本当に?」

 

 イムニティが蛍火の顔を覗きこんでくる。その端正な顔立ちが、その少女特有の甘い香りが、その恋する乙女特有の甘い声が蛍火に襲い掛かる。人を捨てていても体は正直だった。ぶっちゃけ襲いたいという衝動に駆られていた。ここが危ない場所だと言うことをわかっているのに。いやだからこそ生存本能が刺激されたのかもしれない。

 それでいいのか蛍火? 中盤までのストイックさはどうした? レンがお前を狂わせたりとか、若い自分を取り戻したのだとしてもそこだけは超えるな。がんばれ。大河とかセルとキャラが被ってしまうぞ。

 

 蛍火はその無防備な誘惑に何とか耐え切った。傍目にはそんな事は何も分からないだろうが。

 

「えぇ、ちゃんと反省してます」

 

 さっきまでの心の葛藤を微塵にも見せずにイムニティに優しく答えた。その言葉をやっぱりロベリアもイムニティもあまり信じていないのか胡乱な眼をして蛍火を見つめた。

 

「さて、先に進みましょう。何時までも同じ場所にいても目的は達成できませんからね」

 

 イムニティとロベリアの視線から逃げるように蛍火は前を向いた。否、逃げた。

 

 蛍火は時間を取られるわけには行かない。朝になって蛍火がベッドにいないことが知られれば3時間の説教は確実だろう。ちなみに誤魔化すために身代わり君2号を置いてある。レンに使っていた1号よりもかなり精密な出来である。もちろん手縫い。

 

 

 

 

 

 

 少し歩いているとイムニティが蛍火に話しかけてくる。する事がほぼないイムニティはかなり暇なのだろう。

 

「マスターはどうして召喚器を使わないの?そっちのほうが便利でしょ?」

 

 イムニティの質問は蛍火と観護の関係を知らないからの質問だった。蛍火は他の救世主候補と違い召喚器である観護とは魂の繋がりではなく契約による繋がりである。

 しかも半ば向こうが勝手に繋いできたものなのでいつの間にか破棄されている可能性もないわけではないのだ。

 最も観護はそんな事をするつもりはない。人格(ソフト)は相当に悪いが、それでも能力(スペック)は最高に近いものだ。しかも契約を遵守する相手である。これ以上に契約相手として相応しい人物はいない。だからこそ、蛍火の心配は杞憂なのだ。

 

「召喚器の声が唐突に聞こえなくなるかもしれませんからね。無くなったとき無力になりたくはないですから」

 

 イムニティが表情を歪ませる。その実例を知っているから。その実例が隣にいるから余計に。

 

「たしかに、召喚器をなくした時は焦ったね。それまでどれだけ召喚器に依存していたか理解したよ。まぁ、でもやっぱりあると安心するね」

 

 腰に佩いているダークプリズンを愛おしげに撫でていた。ロベリアにとってはやはりかけがえのない存在なのだろう。失くしたからこそ分かる大切さ。人は大抵、一度無くして初めて、それがある事の大切さを知る。そうでないと分からない悲しい種族だ。

 

「それに実を言うと打刀ってあんまり得意じゃないんですよ。どっちかというと小太刀のほうが扱いやすいですし」

 

 それは蛍火が鍛錬に使った時間の差だろう。蛍火が世界を渡っていた時、蛍火は観護の可能性を探していた。故に打刀での扱いの時間は小太刀を使った鍛錬の時間に比べれば少ない。下手をすれば魔力弓よりも短い。だが、それでも威力、切れ味、耐久度、全てにおいて観護の方が上だが。

 

「おかしな話ね。普通召喚器ってその人物に最適の武器が与えられるはずなのに」

 

 確かに普通はそうなのだ。だが、この場にいる蛍火と今は眠りについている大河は異端。故に既存の定義が当てはまるはずもない。

 

「まぁ、別に問題ないでしょう?」

「そうね。召喚器無しで救世主候補よりも強いって言う問題以外はないわね」

 

 黙認されているがそれが一番の問題点である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ付かないわね」

 イムニティの呆れたような声。それも仕方ないかもしれない。もう時刻は深夜三時に指しかかっている。洞窟に入って二時間は経過している。

「あぁ、もう少しなんだろうが。それにしても退屈だな」

 

 二人の仕事は基本的に戦闘をしていない限りはない。それが一番いいはずなのだろうが人は退屈というものを嫌う性質がある。二人の反応は当然ともいえる。

 

「そういわないで下さい。それが一番いいんですから。でも、退屈は解消されそうですね」

 

 蛍火たちの目の前に突如現れる殺人人形。それは先ほどのものよりも精巧に作られていた。見た限りでは人とまったく変わりない。

 先程よりもかなり上等なモノだといえる。何かに近づいた結果だとも思える。

 

「爆発の可能性も考えてロベリアは四肢を切断するだけで留めてください。イムはアル・アジフを召還して氷のページにしておいてください」

「マスターは?」

「私はこれを」

 

(蒼月・氷纏)

 

 小太刀には冷気を漂わせるほどの氷がまとわり付いていた。周りの小太刀の周囲にある空気が白くなっていくところから見てもかなり温度は低いと分かる。

 

 蛍火が先に駆け出す。前方の敵に向かって貫を混ぜつつも偽ゴーレムの核のある左胸に刺突を放つ。防衛機能が作動したのか蛍火の斬戟を受け止めようとその手に持つ武器を振るう。

 だが、その武器をまるで手品のようにするりと潜り抜けて偽ゴーレムの胸に小太刀が突き刺さる。

その傷口から小太刀にまとわり付いていた氷が偽ゴーレムを侵食していく。核を破壊されたのと中枢部が氷付けになったことにより偽ゴーレムはその活動を停止する。その偽ゴーレムごとに蛍火を潰そうと別の偽ゴーレムが剣を振り下ろす。蛍火はふっ、と笑った。軽く首を動かす。その後ろから赤い剣が突き出される。

 

ロベリアのダークプリズンが偽ゴーレムの剣を弾き飛ばす。剣を弾かれたことにより無防備となった偽ゴーレムの左胸に小太刀が突き刺さる。そして機能停止。

重なった二人に鉄槌を下ろそうと複数の偽ゴーレムが飛び掛ってくる。蛍火とロベリアはすぐにその場から飛びのき、空間を作る。

 

「終わりよ」

 

 イムニティのアル・アジフが飛び掛ってきた偽ゴーレムを迎撃にと氷を吐き出す。その氷によって偽ゴーレムの四肢は凍りつく。

 氷によって四肢を封じられた偽ゴーレム。懸命に氷を取り除こうとギギッというきしむ音を立てながら抵抗する。

 だが、その抵抗はすぐに止む。左右に散っていた蛍火とロベリアが舞い戻り、正確無比な剣術によってその使命を終わらせる。

 

 

 

 

 

 

 

 ダークプリズンが最後の偽ゴーレムの首を跳ね飛ばす。だが、首を跳ね飛ばされても終わらないのか歯車がきしむ音を立てながら己が武器を振り上げる。

 ロベリアの右下から突如現れた蛍火にその武器は切断され、左での刺突でその使命を終わらせた。

 

「ふぅ、やっと片付いたね」

「退屈は凌げたけど、時間を食っちゃったわ」

 

 三十体ぐらい出ていたのだ。制限がかかっている状態では時間がかかって当たり前だろう。特に蛍火はいつものように集団を一気に殲滅できないために余計に時間が掛かった。

 

「後どれ位かしらね」

「マナの集まっている様子と先ほどの完全体に近い偽ゴーレムから言ってもう少しでしょう」

 

 蛍火の言う通り周囲のマナはより密度を増していた。だが、守護するのに迎撃箇所が二つしかないとは信じられない。だが、蛍火の言う通り偽ゴーレムが現れる様子はない。

 五分ほど歩いたところで急に道が開ける。そこには…………

 

 

 

 


後書き

 

 今回は白側です。うん、かなり久々。

 ムドウ達の評価は過小評価気味ですが、的確でもあります。幾ら腕力が強くても、戦闘は経験がモノをいいますから当然といえば当然ですかね?

 

 そして、意外な反応を見せた蛍火w 前話で過去の己を取り戻したことによって微妙に純情BOYにw その内、感覚のズレが元に戻ってこんな反応は二度と見れません。かなりレアですw

 

 蛍火たちが見つけたものは一体何なのか。次回に続きますよ!

なお、七十話〜七十三話までのあの話はここへと繋げるためのフラグです。この為に、あの話を作りましたw




うーん、蛍火がレンにフォークで刺されてEND、か。
美姫 「シリアスで来て、最後でギャグ?」
いや、そこはペルソナさんだからシリアスに書ききってくれるだろう。
そう、細かな描写と共に。
美姫 「そうなると、ナイスボートって感じになるかもね」
いやいや、ちゃんとアップしますよ。って、勝手に人様のENDを決めない!
美姫 「いや、アンタが言い出したんだからね」
コホン、今回はマナの異常な流れを調査。
白サイドのお話みたいだな。
美姫 「洞窟のその先には何があるのかしら」
気になる次回は……。
美姫 「この後、すぐ!」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る