今日も食堂で下ごしらえをしている。しかし、今日は予想以上に学園全体が賑わっている。

生徒、教師を問わずにざわついている。はて? いったい。どういう事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十七話 王女との出会い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ、破滅が活発になるのはもう少し先のはずだし、何か悪いことでもあったのか?

いや、それにしては雰囲気が明るい。祭りの前というかそんな感じの雰囲気だ。

 うーん。謎だ。まっ、取り敢えず自分の仕事が優先ですたい。

 

「蛍火君!! 聞いた? 聞いた!? もちろん知ってるよね?」

 

 メリッサが興奮した様子で詰め寄ってくる。

そのはしゃぎ様はアイドルが地方巡業したのを噂で聞いて盛り上がる女子校生のようだ。いや、近いって。

 メリッサとは以前の買い物以来よく仕事の時間以外でも話すようになった。

そのため調理科男子内でのブラックリストNo.1入りを果たしてしまった。不名誉だ。

 

「そんなに慌てなくても話は聞きます。で、何をそんなに喜んでいるんですか?」

 

 俺の様子にメリッサは首をかしげている。あれっ? なんでそんな反応するんだろ。

 

「蛍火君。知らないの? 今日は新しい人が召喚されるっていうの」

 

 何? そうなのか、まったく知らなかったぞ。学園長め、事前に教えてくれてもいいだろうに。

あー。でもカエデが近いうちに来るって教えたから日時も知っているものと勘違いされたかもしれない。まいったな。

 それで、今日は朝の呼び出しがなかったのか。

書類手続きとかいろいろあるだろうし、それにクレアが視察に来る日だもんな。俺と鉢合わせるわけにはいかないって事か。

 

「それは知りませんでしたね。ありがとうございます」

 

 休みを貰わないといけないな。今日は忙しくなる。

まずは本当にカエデが来るかどうかの確認と、大河達の力量とチームワークの観察、カエデと大河の試合の行方、クレアと接触するかどうかも考えなくては。

 

「蛍火君。エプロン外してどうするの?」

「急用が出来ましたからね。今日はお休みです」

 

 料理長にはすぐに許可を貰えた。もともと学園長から話がいっていたのだろう。たまにはいいことをしてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 講義棟を歩くのは実は初めてだ。ここには気になる本も置いてないし、来る必要がなかったからだ。

何故か講義のあるはずのメリッサが俺についてきた。

 

「お休みなんて貰って何するの?」

「ちょっと、当真達に新しい人がどんな人かを聞きに」

「えっ!? それだけ?」

「それだけじゃないんですけど。あっ、当真!」

 

 運良く、大河達を見つけることができた。

たしか今日の講義は全て休みになっているからばらばらになっているかもと思ったが、まだ全員いた。しかもリコまで、

 

「どうしたんだ、蛍火? 仕事があるはずだろ」

 

 みんなもどうして俺がここにいるか分かっていないようだ。一人、リコにだけ誰だコイツみたいな目で見られた。

何度かあったことあるのになぁ。記憶にするに値しないということか。

 

「新しい救世主候補が見つかったようですから気になりましてね」

「それでわざわざ仕事サボってきたわけ? 仕事しなさいよ」

 

 呆れてものも言えないといった風にため息をついているがしっかり発言しているぞ。

 

「それで、どんな風な人なんですか?」

 

 これだけは聞いておかないと歴史が大きく揺らぐ可能性が出てきてしまう。

最近、針が進みすぎているし、かなり予想外の出来事が起こっているからな。

ここらへんで正常な時の流れに戻って欲しい。もし、そうでないとしても根本から作戦を練らないといけなくなってくるからな。

 

「午後になったら帯剣の義がありますから、今聞く必要はないですよ」

 

 ベリオ、たしかに普通の人にはそうかもしれないが俺にはそうもいかないんだよ。

 

「リコ・リスさん。教えていただきませんか?」

 

 他のメンバーでは教えてくれないだろう。リコなら事務的に話してくれるだろう。

あっ、でも口すら聞いてもらえない可能性も有る。後半のリコのイメージが強いからなぁ。

 

「先日、第4象限世界に探査に出していた赤の書から、救世主候補が見つかったとの報告がありました。

その候補者の名前は、ヒイラギ・カエデ。古流武術の流れを組む独特の体術と刀術を使う前衛系です」

 

 答えてくれた。いや、まさか本当に答えてくれるとは、だけど、やっぱり事務的で人と話してる気がしないな。まぁ、精霊だけど。

大河ならその事実を知ってもそんな事ないと言うだろうな。あいつは可愛ければすべて良しだからな。

 

「前衛系ですか。当真、ライバルが増えてよかったですね」

「せいぜい、足引っ張らないように頑張りなさい」

 

 リリィが皮肉る。その事で朝も一騒動しただろうに、ベリオを見るとまたかと言った様子になっている。やっぱりあったんだ。

 だが、嫌味ではなく激励の言葉とも受けとれなくも無い。はたして大河はそのことに気付くかな?

 

「んだと!?」

 

 怒り心頭で気付いていないか。リリィ、もう少し分かりやすいように発言してくれ。

 

「当真、頑張れってシアフィールドさんは負けるなって応援してくれてるんですよ?」

「たしかに」

 

 ベリオを筆頭にみんな頷いている。って、リコまで!?

 

「って、そうなのか。なんだ。リリィ、そんな照れ隠しみたいに言わなくても別にいいんだぞ?

そうか、リリィにも俺の良さがやっと分かるようになったか」

 

 大河の鼻の下は伸び、変な妄想をしている。やれやれ、少しはマシになったと思っていたんだが。

その言葉でリリィは暴れだしてしまった。かなりの魔力の奔流を感じられる。ここら一帯を焼け野原にするきか!? 

まぁ、ベリオが止めるだろう。

リコのほうに行き、しゃがんでリコの目線にあわせる。

 

「わざわざ、しゃべって貰ってすみませんね。これはささやかですがお礼です」

 

 綺麗にラッピングされた包装紙を渡す。中身はクッキーだ。下ごしらえが一通り終わっていたから余興で作っていたものだ。

リコは力の消費を抑えるために話すことも控えている。そのため大量の食事で補っているぐらいだ。

これで少しでも魔力の回復に当ててもらおう。

 おずおずと俺の手から包装紙を受け取る。危険なものは入れてないぞ。

そして目であけていいのかと問うてくる。俺は苦笑を浮かべながら答える。

 

「中身はクッキーですから暖かいうちに食べてください」

 

 普通は冷めたものを食べるが、やはりできたての暖かいものには劣る。甘みなどの感じ方が変わってくるからな。

 後ろのほうで何か羨ましげな視線を感じる。メリッサ、いいなぁなんて素直に口にしない。リリィが悔しくなんて無いといいながら暴れている。そんなに甘いものが好きなのか?

小さな手でラッピングを綺麗にはがし、クッキーを口に放り込む。もう少し上品に食べて欲しいな。

 

おいしい

 

 他のみんなもリコが感想を言ったのに驚いてる。しかし俺の驚きは他の者と比ではない。

彼女は食べることを栄養補給にしか思っていないからこの時点では味に関しては無頓着だと思っていた。

 だから、感想も期待していなかったのに、驚いてばかりもいられないな。感謝はしないと。

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 俺はリコの頭を撫でる。触ってみるとかなりさらさらだ。触り心地がいい。

ん? 俺は人に接触することが出来ないはずだって? たしかに普通は出来ないんだが子供だと何故か出来る。

理由は知らん。言っておくが俺は決してロの字ではないぞ。それだけは断言できる。

 背筋に寒気を感じたので手を離す。後ろは振り向かない。恐ろしすぎる。

 

「あっ」

 

 リコが手が離れたことを惜しんでいるように見えた。

そうだったな。誰よりも寂しさに耐えられないはずなのに、人一倍人に触れることの怖さを知っていて触れようとしないリコだからな。

久々に与えられた温もりをもっと触れていたいのか。

 だが、これ以上触れてはいけない。リコには大河を選んでもらわなければ困るからな。

 

「何か言いましたか?」

「何でもありません」

 

 リコは何もなかったように学食のほうに歩き出した。

今日も鉄人ランチγ(γはリコ専用、αは初心者用、βは中級者用に分けられている)か。

料理長がまた白く燃え尽きる姿が目に浮かぶぜ。

 

「おい」

 

ん? 誰かの声が聞こえた気もするが気のせいかな? 

俺たちはカエデがどのような人物か想像して盛り上がっていた。そのため気付く事が出来なかった。

 

「おい、おまえたち」

 

再びかかる声に大河が気付いた。いや、俺もこの時気付いていたんだが、何だか嫌な予感がしていたから無視を決め込もうとしていた。

 

「ん? 俺たちのことか?」

 

振り向けば、そこに一人の少女がいた。外見だけで言えばリコと同じぐらいの年齢かもしれない。いや、外見だけならね。

あっちは数万年単位で生きてるからな。まさに、人は見かけによらない。あれ? 億単位だったけ?

 

「そうだ、お前たちだ。少し聞きたいことがあるのだが」

 

突然現れた少女を見て、大河は目を細める。幾ら見ても見たことは無いと思う。

というより物色しているようにも見えるから止めたほうが良い。

 

「人を訪ねて参った。ここに救世主クラスの学生が居ると聞いてきたのだが、それに相違ないか?」

 

 傲岸不遜で自らの道を行く、大河と同じトラブルメーカーだな。

 

「ああ、それならついさっき救世主クラスの授業が終わったところだぜ」

「ふむ、それにしてはそれらしい人物の姿が見えぬようだが」

 

 何処か探るような目線で大河を見つめるクレア。

 クレアのことだ大河も含め救世主クラスに関する情報などはとっくにダリアから全体像の写した幻影石付きの資料を手に入れてだろう。

本当ならばこのような質問をする必要すら必要もない。

 だが、あえてクレアはこの史上初の男性救世主候補者がどのような返答をするか見てみたかったのだろう。

資料だけでは判断しきれない何か、それを彼自身に会って確かめてみたいと彼女は思ったに違いない。

 

「俺も罪な男よ……。噂だけで女の子を惹き付けてしまうなんて…」

 

わざとらしく髪をかきあげ、名乗りをあげる。小娘相手に何をしている。

 

「はあ?」

 

 少女は吹きだしそうになるのを懸命に堪えている。いや、俺も笑いを堪えるのに必死なのだが。

未亜とベリオはまたかといった風で、リリィは呆れている。メリッサのみ分かっていなかった。

 

「俺たちがその救世主候補だ」

 

 堂々と宣言する。いや、若干二名ほど違うのが混じってるよ。

 

「おぬしらが救世主クラスの者たちであったか……、これはついておるな」

「ついてるって」

 

 誰もが呆れている。いや、ついてるって普通言わないよな。

 

「保護者とかはどうしたのよ?」

「ふむ。そういいえばどこに行ったのであろうな?」

 

クレアが考えるそぶりを見せ周りを一応見渡す。置いてきたんだろ。可愛そうに、

いや、ダリアだったら別に構わないか。

 

「まあよい。誰がおらんでも、こうしてお前たちを見つけられたのだからな」

「あんた、なんでそんな無意味に偉そうなのよ」

 

リリィはどこか呆れたような口調だった。

 

「お前がそれを言うかよ」

 

大河はリリィに聞かれないようになのか、壁に向けてそんなことを言い放つ。

幸いと言うべきか、彼女には聞こえなかったらしい。その気持ちよく分かる。

 

「私の言葉は変か?」

「いや、変ってわけじゃないんですが、その少し……」

「ふむ、そうなのか。……だが私はこの言葉しか知らぬのでな、許せよ」

 

 今まで王宮で上の者として会話してきた彼女にとって普通だと思っていた言葉使い。 

だが、やはり自分の喋り方は庶民から見ればやはり少し違うということ事を実感して直してみる……事はできないだろうなぁ。

 

「それじゃあ、今から正門まで一緒に行きましょうか」

「なぜだ?」

 

ベリオがクレアに手を差し出すが、彼女は至極普通に問い返す。

 

「なぜって、親が心配するよ?」

「まだ時間はあるけど、六時を過ぎたら門も閉まっちゃうし」

「それまで保護者を見つけないと、外に出られなくなってしまいますよ」

「帰れなくなるのはいかんな」

「そもそも、一人でうろついてるのも問題よ」

「てなわけで、帰った帰った」

 

次々と救世主クラス+一の者たちがクレアに言う。これで帰ってくれると嬉しいな。

俺は発言しない。話しかけたら泥沼に陥りそうだからな。

 

「いやだ」

 

だがクレアの返答はわずか三文字の言葉だった。ここまで言い切られると何だか清々しいね。日本には絶対にいないタイプだし。

 

「いやって…」

「わざわざ来たのだ。もう少し見て回ってから帰ると決めた」

 

 もうすでに決意は復さんと態度に出ている。大河、ご愁傷様。

 

「なら、誰かに助けを求めるなり、自分で保護者を捜すなり勝手にしろ。」

「なるほど、道理だ」

「ほら、本人もこう言ってるぜ」

 

クレアは大河だけでなく、救世主候補全員を見渡す。目が猛禽類のように鋭くなっていている。これが王族の力か。

 

「ではおぬしら、この学園を案内せよ」

「はあっ?」

 

救世主候補たちはわけがわからないとばかりに声を出す。まぁ、何も知らなければそうだろうな。

クレアは救世主候補の実力を見に着たんだから。

 

「その男が言うとおり、私はお前たちに案内を求めたのだ」

「バカ大河、アンタを指名らしいわよ」

「んなバカな!」

 

 リリィの言葉に反論する。このトラブルメーカーと一緒に行動するのはいかな大河とて嫌になるだろう。

 

「違う。私はおぬしらにと言ったであろう?」

「はあ? なんで私まで!」

「お前たちは救世主候補であろう? 困っている市民を助けるのは当然ではないか。」

 

まさに当然と言い張る。リリィを始め他の全員が言葉に詰まる。少しは言い返せよ。

クレアからしたらそうなのかもしれないが、俺は違うと思う。

局面で市民を見捨て、明日を採るのも救世主の役割だと思う。もっとも大河にそんな覚悟をさせてはいないが。

 

「では、行こうか」

 

 先頭に立ち救世主クラス+1を引きつれ学園を回ろうとする。案内される立場なのに何故に先頭に立つ? 

クレアが何か思い出したように後ろを振り向く。嫌な予感が最大警報を放っている。逃げるべきだ。

 

「おぉ、そうだ。救世主候補に会えたのだから、革命者という者にも会ってみたいぞ。そやつは何処におるのだ?」

 

 かくまで聞こえたところでダッシュで逃げる。

最近、その呼び名で嫌な思い出ばかりがある。

調理科の男子に追いかけられたり、非公式のリリィのファンクラブの人達に追いかけられたりしている。

すでに条件反射の域にまで達している。悲しいね。

 俺の行動に皆あっけに取られている。メリッサのみ少しだけ涙ぐんでいた。同情はいらんぞ。

あっ、よく考えたら逃げる必要なかったじゃん。失敗した。

 ちなみに監視魔法を逃げる前においておいた。遠距離対応型なのでたとえリリィでも気付く事はできないだろう。

 

「どうしたのだ。あやつは?」

 

 どうせ、俺のこともダリアから聞いてるくせに、本当に聡い子供だこと。

 

「蛍火君。最近辛いことが多かったから」

 

 悲しそうに俺を弁護してくれた。いや、別にわざわざハンカチまで出さなくて良いから。

 

「それで革命者とやらは?」

「さっき逃げ出したあいつよ」

 

 リリィが呆れというか情けなさ全開で俺が逃げていったほうに指をさした。仕方ないだろう。俺とて色々あるんだ。

 

「そうか、話を聞いてみたかったのだが。まぁ、よい。とりあえず学園を案内してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、一行は広場に行きクレアを返そうとするが一蹴され、教会に行ってはベリオが言い負かされ、召喚の塔に行った時は喜んでいたがすぐにつまらないと降りていってしまった。リコいなかったけどどうしたんだろ?

 食堂に行きセルの性癖が暴露され逃げ出すところは面白かった。さすがに、そこでメリッサは案内から降りていった。

実は今日、彼女の当番なんだよね。後、セルとの約束で後ろに控えていた女の子の中には大河を紹介してくれと言っていた調理科のもう一人のアイドルがいた。いと哀れなり。

 結局、闘技場まで案内させられていた。ここら辺の歴史は変わらんのかね?

 

「おおー、すごいのぅ」

 

 目を爛々と輝かせてクレアは闘技場へと飛び出して行く。ここら辺は年相応というか、それともこれも演技だというのか? 

遠目だとわからんな。あっ、何度もきているうちに俺の魔法だけ干渉しないように細工しておいたから今見ることが出来ている。

 

「お、おい、うかつに変なところ触るなよ」

「平気である」

「怪我なんざされたら困るのはこっちなんだよ」

 

 たしかに一国の王女を怪我させたとなったら一大事である。下手したら学園が取り潰されるな。

 

「お兄ちゃん。こんなところに許可なしで連れて来てよかったの?」

「大丈夫、じゃないか? いや、まぁそんなことないだろうけど」

「多分、あんまり良くないと思うけど……」

 

不安げな未亜の言葉。実際として、この場に許可なく訪れることは出来ない。

救世主候補とかは、教師に頼めば特別に使えるのだが、残念なことにクレアは救世主候補ではない。あっ、俺は例外ね。

故に、本来ならクレアがこの場にいるのは非常に場違いなのだ。もっとも、クレア本人はそんなこと気にすることなどないだろうが。

とその時、クレアの元気な声が響いてくる

 

「大河〜、この壁の穴のようなものはなんなのだ?」

「ああ? それは俺がゴーレムとやった時の傷だ」

「おお。初めての戦いでゴーレムを倒したのか、すごいのう」

「やっぱそう思う? そう思う?」

 

自分自慢をはじめる大河。その大河を見ながら、リリィはやれやれとばかりにため息をつく。

同感だな。ゴーレム如きで胸を張られるようではこの先が不安だ。

お前にはそれ以上の相手に勝ってもらわなければならないのだから。

 

「そうか。なら、このレバーは何だ?」

 

 いつの間にか大河達の遠くにいて、檻の近くにいた。この魔法、結構欠陥が多いな。

 

「そりゃ訓練用のモンスターを放つためのレバーだな」

「という事は、動かしてはいかんのか?」

「ああ。危ないから、絶対に触るなよ」

 

大河が注意した時だった、

 

ガチャン!

 

果てしなく不吉な音が辺りに響き渡った。その響きに、その場にいた全員が一斉に音の方を見る。

 

「……すまぬ」

「おい、まさか」

 

大河が出来ればあたって欲しくないと願いを込めて言葉にする。だが、その願いは天に届くことはない。

 

「そのまさかだ。動かしてしもうた……」

「ばっ!」

 

それぞれに間の抜けた声が響き渡る。驚く救世主候補たち。

まぁ、檻が見えてるのに危険は感じるはずだよな。クレア、万が一を考えたほうがいいぞ。

とにかく、クレアが間抜けな声を洩らしつつ、ベリオが真っ先に我に返った。クレアに最も近い場所にいた大河へと大声を上げる。

 

「大河くん!」

「わかってる! クレア、こっちに来い、早く!」

 

 

大河がクレアを促がす。ここで素直に従わないのがクレアたる所以だ。

 

「お、おお。足が動かぬ。これは困った」

 

などと更に間抜けなことを言ってのけるクレア。ふざけ過ぎだな。

モンスターたちの殺意が膨れ上がる。やっと開放されたのだ、憂さ晴らしはしたいだろう。

 

「トレイター!」

 

 大河は愛用のトレイターを召喚し、トレイターを振り上げ、大河は檻から出てきてクレアに襲いかかろうとしたモンスターに、

 

「おっらぁぁ!!」

 

唐竹の一撃を叩き込んだ。さて、ここからは観察と行きますか。

 大河がクレアを抱え離脱したのを気に他の救世主候補が動き出す。

 

「ジャスティ」

 

 未亜もジャスティを呼び、幾つにも分かれた矢が敵の足止めをする。

 

「先手よ! ブレイズノン!!」

 

リリィから火球が飛ばされ、それがモンスターに当たった瞬間に火柱が立つ。

それを皮切りに、救世主候補たちとモンスターの全面衝突に突入した。

他の者達の援護を受け、大河はすぐにクレアを安全な場所に下ろした。

 

「すまなかったな、大河」

「気にするな。まぁ、俺の勇姿をきっちり見て置けよ」

 

大河の言葉にクレアは少しだけ驚いた表情を見せると、次いで微かに笑みを見せる。

ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべながら、大河はすぐに戦場へと戻っていた。

その背中を見遣りつつ、クレアは含みのある笑みを見せると、聞こえないような微かな声で呟く。

 

「さて、見せてもらうぞ、救世主候補たちの実力を」

 

 その言葉は観察している俺の耳にしか入らなかった。

 

 

 

 

 さてさて、魔法攻撃にはリリィが抜きん出ているな。この前戦ったときよりもさらに訓練を積んだのがよく分かる。

ベリオも支援に長けているがもう少し、中距離の直線的な技を覚えるほうが良いな。

 

大河は相変わらず突っ込んでいる。マシになったと思ったんだが。ん?

いや、ちゃんとそこからの連激が続いているな。しかも空中に浮かせることや、隙を見出そうとしている。

コーチを付けた甲斐があるな。

 

未亜は大河の支援を上手にこなしている。大河の後ろにいる敵を排除したり、大河の前に敵を誘導したりこの部分の連携は安心か。

訓練で教えた内容が実戦でこなせている。大河に隠れていて気付けなかったが未亜も才能はあるようだ。

 

全体として見るなら、かなり悪い。チームワークが取れていない。

未亜とベリオはあわそうとしているが大河が出すぎて上手く運べていない。

リリィも同じか。いや、少しは大河に比べると気に掛けている。それでも、及第点には届かない。

 

 

 

敵の数が半数をきり始めた時、急にモンスターの動きが変わった。動きが速くなり、攻撃も牽制の要素が入り、連携が若干取れている。

こんな事をするのはダウニーだけか。歴史が動いたか? それとも、元々この流れだったのだろうか? もう少し、見ていよう。

敵の動きと連携に大河達は翻弄されている。というより、自分達のペースを掴めていない。

んー。ちょっと、大河達には速すぎるか? 

後、一月、いや、二週間あれば問題はないぐらいだが、ダウニーがどうやって細工したかは分からない。手助けする必要があるか。

魔力弓を取り出し、特別な術式を組み込んでいない矢を放ちモンスターに当てる。

威力は蚊に刺された程度だからモンスターの動きは変わらない。

続いて第二射、先ほどの魔力に引かれるような術式と貫通力を高めるように魔力を込め放つ。

第一射と寸分違わず同じところに刺さりモンスターを地面に縫い付ける。これで足は止めた。ここからはお前たちの力量しだいだ。

 

「なんだ!?」

 

 突然振ってきた。矢に驚きを隠せていない。動揺して動きが止まってしまっている。致命的だな。何があろうと止まることは死に繋がる。

 

「お兄ちゃん。気にせずモンスターを!」

 

 未亜の立ち直りが早いか。いや、毎日見てるし、俺が加勢したのに気付いているかもしれない。

あっ、笑ってる。しかも、リリィも!? 完璧に気付かれてるな。

 

「分かった。おらぁ!」

 

 

 

 

 

 

 形成は逆転し、大河達が優勢になる。そのまま戦況は覆されることなく大河達の勝利に終わった。

 

「あの矢は結局なんだったんでしょう?」

 

 ベリオが先ほどの加勢の矢を思い出し、他の三人に問いかける。今更思い出すなよな。

 

「どっかのお節介焼きがしたんじゃない?」

 

 あー、やっぱ加勢するんじゃなかったかな。今の状況で俺が加勢したと未亜、リリィ、学園長は確実に分かる。

この世界で魔力武具を取り扱うことが出来るのを確認されているのは俺だけだからな。

 

「心当たりでもあるの、リリィ?」

「さぁね」

 

 どうでも良いように知らないとベリオに答えた。良かった、話すのかと思ったが。

その前に思わぬ人物が遮った。もちろん、彼らにとってだが、

 

「救世主クラスの人たちが、どうして無断でモンスターの檻を開けて戦っているのかしら?」

「が、学園長?!」

 

ベリオの言葉通り、そこにはいつの間にか学園長が来ていて、大河たちを見ていた。

微妙に怒りと、呆れが出ている。どんまい。みんな。

 

「ダリア先生から集合時間になっても、リコ以外の学生が来ないと報告を受けて探してみれば……」

「お義母さま、これは……」

 

なんとか弁解しようとするリリィ。しかし、そんなことを聞く学園長なら俺が梃子摺ったりなんぞしない。

 

「いくら救世主候補生といえども、特権には限度というものがあります!」

「い、いえ、これには訳が………」

 

そんな未亜に視線を向けると、学園長はその訳を聞こうとする。

それに対し、未亜はクレアの居る場所へと目を向けるが、その目が驚きに変わる。

 

「あ、あれ? お兄ちゃん! クレアちゃんが居ないよ!」

「なに!?」

 

未亜の言葉に、大河だけでなくリリィたちも驚いてクレアの居た場所へと視線を移すが、そこには誰の姿もなかった。

そんな未亜たちを見渡すと、学園長はゆっくりと口を開く。

 

「で、どこに何がいるのですか?」

「そ、それは……」

「あなた方の処分は追って行います。今は、急いで召喚の塔へと行きなさい」

「はい」

「お義母さまに嫌われた。…お義母さまに嫌われた……。お義母さまに………」

 

言うだけ言ってその場を去る学園長の背中を見ながら、学園長の言葉に素直に頷くベリオ。

対照的にリリィはなにやら独り言を呟いている。学園長に怒られた事がよほど堪えている。

まぁ、あり方が学園長に依存しているからな。

リリィって重度のマザコンだったのか、なんて感想を持ちながら立ち去っていく大河。そのあとを追う未亜。

いや大河、君もリリィの事を言えないよ?

 

 

 

 

さて、まだここで高みの見物をしているお転婆娘に会いに行くとしますか。

 

 

 

 


後書き

救世主候補と接触したクレア。

実力を試そうとして彼らの一端を見た蛍火とクレア。

蛍火としては現時点での彼らの力を見れて満足はしています。

しかし、クレアはどうか?

それは次回に持ち越したいと思います。そして、クレアと蛍火の接触も

 

えー、今回から後書きの形式を変えたいと思います。

ちょっと他の作家さんの対談形式があまりにも面白いので真似してみようかなって思いました。

 という訳で相方のご登場です。

??「初めまして」(ぺこり)

これから宜しくね。さて、今回のお話ですが

??「蛍火が完全に裏方に周ってた。第十四話みたいに戦わないの?」

 戦わないよ。まだ蛍火は表で戦うべき存在じゃないからね

??「そう、でも美姫お姉ちゃん達も言ってたけどイレギュラーがかなり起こってる」

 まぁね。元々歴史を上手く操るのは難しいからね。蛍火も本編で書かれていないところで思い通りにするようにかなり奔走してるんだ。

そのお陰で原作と物語の順序が変わってない。

それに原作とまったく同じ展開だと面白くないでしょ?

??「そうかもしれない。でも早くかっこいい蛍火が見たい」

 あー、それは次の次の話で蛍火に戦ってもらう予定だから

??「楽しみ…、どうして私の名前の部分が??なの?」

 うん、君はまだ投稿させてもらってる方では出てない本編キャラだからね。しかもオリキャラだから何処で出てくるとかいえないし

??「蛍火とはここで会えない?」

 残念ながら、ここで会っちゃったら君と蛍火の関係が分かっちゃうからね。無理

??「残念、……じゃあどうして出したの?」

 自分が作ったキャラの中で一番好きなキャラだから。なんだけど君の出番遅いから、少しでも長くこの作品に出て欲しいなって思って。

それに相方にするのなら女性のほうがやっぱり嬉しいし。

??「本編に影響でない?」

 たぶん大丈夫。

??「そう、そろそろ長くなって来た」

 うん、じゃあ。次回は蛍火とクレアの接触です。

 あっ、それと??。後書きでは浩さんの事を呼び捨てにしないでね。私が尊敬して崇拝してる人だから。

??「ん、分かった。それじゃ美姫お姉ちゃん、浩お兄ちゃん。これからも蛍火と私、ついでにペルソナを宜しくお願いします。

それと黒くても蛍火が好きだって言ってくれて本当にありがとう」(ぺこり)

 つっ、ついで扱いですか。まぁ、分かってたけど。それでは次の話でお会いいたしましょう。





お、おおおぉぉぉ。初めて、初めて呼び捨てじゃない。
というか、まともな扱い!
美姫 「いや、そこ感動する所なんだ」
俺の今までの歴史を振り返ってみろ。ひっぱ叩かれ〜、ぶん殴られ〜、斬り捨てられて〜。
でも、私たち、やめてくれとはいえないの〜。
美姫 「いや、言えば良いじゃない。というか、たちって」
そこは突っ込むな。第一、言っても無駄だろう。
美姫 「うん♪」
いや、少しは考えようよ。そこは、ほんの少しでも良いから間を置いてだね。
美姫 「置いても結果は一緒よ」
受ける印象は変わると思うな。
美姫 「アンタに気を使うなんて、疲れるだけだし」
ひどっ!
美姫 「それはさておき、いよいよ忍者娘こと、カエデの登場ね」
ああ。クレアとも軽く接触をした蛍火。
何気にするどいダリアが良いね。
美姫 「またピンポイントな部分を。でも、隠密としての面目躍如かしら」
最初の頃、蛍火にあしらわれてたしな。
美姫 「後、注目というか今後の事で気になるのは…」
カエデの血液恐怖症をどう対策していくか。
美姫 「そうそう。その辺り、どうなるのかしらね」
気になる次回は、この後すぐ!



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