教会裏の森で一服吸う。やっと落ち着けたか。これから当分どうしよう?

人の噂も七十五日って言うけどそれまでいっそのこと隠れてるか?

 

「な〜にしとんねん。革命者」

「まったく、恥ずかしがる必要はないだろう。お前は立派なことを言ったのだぞ」

 

 追いつかれたか。

まぁ、観護を出していない俺ではこの二人を撒くことは出来ないとは分かっていたが。

 

「シアフィールドさんの考え方に腹が立ったから言っただけです。褒められる謂れはありません」

「それでもや。うちらにとっては救世主が特別で手の届かへん存在やって思い込んでた。

でもあんたの考え方のおかげで見てるだけやないって知ることが出来た」

「この考え方はきっと王国全土に廻るだろう。もしかしたら蛍火は政治家に向いているのかもしれないな」

 

 褒められることにはあまり慣れていない。それに褒められるということは俺にとっては苦痛だ。

他者に自分という存在を認められるということだから。俺はどの記録にも誰の記憶にも残らないように生きたい。

 

「その話はおいておきましょう。私はコックとしての仕事があるので失礼します」

 

 俺を見ないで欲しい。この腐りきった心とてまだ痛みは感じるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話 蛍火という闇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂に着き、着替える。料理をしている間は誰も触れてこないだろう。

 

「おぉ、革命者じゃないか。聞いたぞ。良い事言うじゃないか。大河って奴の言葉よりも痺れたぞ」

 

 ここに来てもか。料理長、下ごしらえを放り出して俺のところに来るのは料理人としてどうかと思うぞ。

それほどまでに嬉しいのか?

 

「蛍火が救世主になれば誰もが奮い立つだろうな。お前だって異世界から来たんだろ? 受けてみる気はねぇのか?」

 

 いや、すでに受けてますよ。しかも合格も貰ってますよ。

ただ隠してるだけだが。

 

「性格が戦闘むきじゃないっすから。それに料理人が一番っすよ」

「なら、存分に鍛えてやる。幸い今日は蛍火のおかげで忙しくなるからな。腕を精一杯磨け」

 

 あー、やっべぇ。俺は料理を覚えられるだけで良いのに、忙しいのは勘弁してくれ。

元来怠け癖があるというのに、

 

「あっ、夕方に調理場貸して貰っていいっすかね。料理の練習したいんで」

「おぉ、そこまでやる気になってるのか。いいぞ、存分に使え。

ただし、食材は自分で選んで買ってこい。食材選びもコックには大切だからな」

 

 喜んでいる。本当に単純な人だ。好感は持てるのだが、こっちは約束したからだけなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み寸前となり、調理科のみなさんが調理場に入ってきた。誰もがやる気に満ちているのだが、俺だけテンションが違うな。

 

「蛍火君。私もさっきの話聞いてたけど感動っていうのかな? 

そんな感じの想いが胸に響いてきたんだ。これから私がんばるから一緒にがんばろうね」

 

 何気に可愛いという分類の女の子にそう声をかけられた。この前、俺に声をかけてきた娘とは違った。

女の子が話しかけてきたことによって周りの男共が騒ぎ出し俺に詰め寄ってきた。

 

「羨ましいじゃないか、革命者。調理科のマドンナ、メリッサ・トンプソンに声掛けられるなんて。

彼女、自分から男に声かけるなんて滅多に無いんだぜ」

 

 ヘッドロックを俺にかましながら言ってきやがった。

痛い、それに気持ち悪い。俺に触れるなよ。

 少し強引に振り払ったがその男は気を悪くしていなかった。

短気な奴だとここでキレたりするのだがそんな事はないようだ。根はいい奴なのかもしれない。

 

「なんだ。嬉しくないのか?」

「最近、ここに入ってきたばかりですからね。調理科にどのような人がいるか知りませんから。

でも、可愛い女の子に声をかけられて気を悪くする男はいないですよ」

「やっぱそうだよな」

 

 納得してくれたようだ。

俺自身は気を悪くはしていない、気を良くもしていないが。

男というより半分人間を捨てているからな。何も感じはしない。

 

「おい!! 騒いでんじゃねぇ。俺たちには世界を救うための戦士に腹いっぱい旨い料理を用意するって言う大事な仕事があるんだ。

気合入れてけ!!」

「「「「「押忍っ!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 昼休みになっても熱気は続いていた。食堂はいつも以上に活気がありいつも以上に注文があった。

しかも鉄人ランチを頼んでいく輩もいた。まぁ、今日からは初代の鉄人ランチもメニューに増えたかることになったからな。

 

 

 注文を受けるとき俺のことを革命者と呼んで頼んでいく奴が多かった。

俺にわざわざ言う必要は無いというのに何故だ?

 

「蛍火君。注文お願いしたいんだけどいいかしらん」

 

 ダリアがカウンターにいた。

しかも俺のことを指名してきやがった。これ以上目立ちたくない。

という訳で、無視決定。

 

「ちょっと〜、蛍火君。少しくらいこっち向きなさいよ〜」

 

 無視ったら無視だ。

何だか無視しているほうが視線を集めている気がするがそれでも無視だ。

 

「デートまでした仲だっていうのにつれないんじゃない?」

 

 あぁ、終わった。これ以上ないまでに終わってしまった。

グッバイ、俺の静かな学園ライフ。こんにちは、騒動の毎日。

 仕方なく、本当に仕方なくカウンターの方へ行くことにした。

 

「唯の買い物ですよ。注文は何にいたしましょう」

「世間一般では男女が出かけることをデートって言うわよ。蛍火君のお勧めでお願い?」

 

 会話を進めながら仕事をする。一応否定しておかないと後が怖い。神様、俺何か悪いことしましたか?

あぁ、これからするんだったな。

それに過去の周りにはバレてない悪事がごろごろ頭に思い浮かんだ。助かるはずねぇ。

 

「今日のキッチンはいつも以上に気合入れて作ってましたから全部です」

「その中でもよ〜」

 

 例え言ったとしたらその後、その注文が殺到するだろう。ここは誰もが簡単に注文することが出来ないのにするべきだな。

 

「鉄人ランチ」

「あはは、それはちょっとね」

 

 困りましたと全面に出てくる。さすがのダリアも鉄人ランチには挑戦しないか。

心の隅でもしかしたら完食するかもしれないとも思ったのだが。

 

「とりあえず、Bランチにしておくわ」

 

 後ろのほうに注文を言い、自分の持ち場に戻った。

 なんだか甲高い音が頭の内側から聞こえ、ステータス更新されました。

などと視覚の角のほうに表示されていた気がする。電波でも受信したか?

内容はスキルにカリスマB+と女難Cと記されていた。嬉しくはない。というかこんなネタ出して良いのか?

 

 

 

 

 キッチンにいた調理科全員にダリアとの関係について聞かれたが、買い物に付き合ってもらっただけだと話すと納得してもらえた。

モテそうな顔してないもんな、俺。

 

 

いつもより気合の入っていた料理長は今日もリコに敗北し、白くなっていた。

気合を入れてた分だけ敗北感も大きかったのだろう。もう少しで砂になるところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 皿洗いをしていると学園長から呼び出しがあった。また茶坊主の真似事ですか。

勘弁してくれよ。

 

 周りの人も俺が学園長に呼び出しが会っても平然としている。すでにこの時間帯に呼び出されるのが日常になっているからな。

トンプソンよ、そんな戦場に行く人を見送るような目で俺を見ないでくれ。情けなってくる。

 本日二度目の学園長室への訪問。いつも通りに挨拶をして中に入る。中にはイリーナとマリーもいた。

そういえば気分が悪かったせいで時間について何も言えていなかったな。ここにいるのは当然か。

 

「今日はストレートでお願いします。革命者さん」

 

 ごく自然に話しかけてくれたが、その中で聞き逃せない言葉があった。

学園長まで俺をからかってくるのか。俺にはこの学園の中で休める場所はすでにないのだろうか?

 

「学園長のお耳まで届いていますか。でしゃばり過ぎましたかね」

「そんな事はありません。今日はかつてないほどに学園が活気付いています。

それこそ教師でさえ、もともとこの学園は救世主とその補助となる人物の育成が目的だったようですからね」

 

 おいおい、救世主の発見と抹殺がこの学園の本来の役目だろ。そのためにあんたは千年前に建てたんだから。

まぁ、悲劇は終わらせられると分かった今では考えも変わったのかもしれないな。

 

「それにしても貴方が革命者ですか。本質を良くあらわせているのかもしれませんね」

「その通りだな。私たちにはない考え方をする蛍火には相応しいと思うぞ」

 

 残念ながら俺の本質は破壊であり、愚者だ。ただただ壊し続け、狂い死ぬまで踊り続けるのが俺だ。

断じて人のために生きられる存在ではない。

 よし、今日の出来もいいな。飲めないのが悔しいくらい良い出来だ。

 

「でも、リリィちゃんにも可愛そうなことしたな。あそこまで言い負かされて。あそこまでする必要なかったんとちゃうか?」

 

俺が出した紅茶を啜りながら言ってくる。

そうだろうか?すでに凝り固まっているものは一度粉々になるまで壊さない限り変えることはできない。

だから俺はそうしたまでだ。もっとも珍しく頭に血が上っていたせいもあって少しばかり手加減を間違えていたかもしれない。

 

「リリィは少し救世主という存在に固執しすぎていました。考えを変えるいい機会になったと思います」

 

 学園長は本当にこれでいいといった感じでリリィに評価を下した。

過保護な学園長のことだから腸が煮えくり返っているかもしれないと考えていたのに、……意外だ。

 

 

 

 

 

 さて、三人とも紅茶は飲み終わったか。訓練に関する話に切り替えますか。時間は少しでも惜しい。

特に俺にとってはタイムスケジュールがきっちりわかっていないから早め早めにするべき事を済ませておかなければならないからな。

 

「今日の訓練は午後の授業が終わってからお願いします」

 

 この学園では講義が三時までしかない。その後門限まで各自、自主練習に励む。教えられてもそれを実に付けるには人それぞれ方法が異なる。故にその時間を人は有効に活用しようとする。中には遊んだり、何もしない輩もいるが、

 

「グラキアスさんは森で待っていてください。すみませんが、学園長。当真とセルビウムに森にて訓練を行うと言伝を頼みます」

「あんたは何処でやるん?」

「今から郊外にでも行きましょうか。努力している所を他人に見られるのは恥ずかしいですからね」

「門限までには帰ってきてくださいね。特別視できる部分とできない部分がありますから」

 

 そんな事、百も承知だ。すでにダウニーに睨まれているんだ。これ以上怪しげなところを見せるわけにはいかない。

 さて、コートをとりに行かないとな。

 

 

 

 

 

Interlude マリーs  view

 王都を抜け、郊外まで来た。といっても平原ではなく森に近い場所に陣取っとる。

蛍火の服を見てみると微妙に膨らんでる。結構武器を隠し持ってるな。

 

 あいつはほんま異質や。うちらには無い感覚を持ってる。結局今日は、蛍火のこと何も分からんかった。

ミュリエルは口下手やから、話してくれんしな。

 

 なんでこんなものを選らんだんやろな。こんな誇りも持てんような技を得ようとして、何をしようとするんか、それが知りたいわ。

それにあいつ本心を押し殺すような喋り方しとる。これから師弟関係結んやからそんな喋り方では付きあえんわ。

 

「ここら辺でいいでしょう。内容は決まっていますか?」

 

 ちょっと考えすぎたか。そうやな、場所としてはいいしな。でもその前に、

 

「いつまでうちにそんな堅苦しい話し方しとるんや。これから長い間付き合うんや。もっと本音で話せるようにしぃや」

「これでも、普通に話してるんですけどね」

 

 苦笑を浮かべながらそう言ってきた。でも、そんなはずはない。何故なら、

 

「そんな喋り方する奴は生まれたときからそういう風に喋るように強いられた奴か、底抜けに甘い奴か、何か隠したい奴だけや。

あんたに前二つはない。なら、あんたは何か隠したいくてそんな喋り方しとるだけや。師弟関係に隠し事はなしやで」

 

 それを聞いて、やれやれといった感じの動作をした後、なんとなく纏っとる雰囲気が軽くなる。

 

「仕方ないね。これならいいかい?ヒルベルトさん」

 

 堅苦しい話し方は変りフランクになった。顔もなんかさっきまでより少し爽やかな笑顔をしとる。

それでもまだなんかしっくりこぉへん。

 

そう、眼や。眼が笑ってへん。

まだ本音では話した無いか。むかつく奴や、ホンマ。引きずり出したるで。あんたの本来の顔をな。

 

「ダメやな。それもあんたの本来の喋り方とはきっと違う。あんたの眼と雰囲気がまったくあってへん」

「困ったな。これ以上は無いっていうのに」

 

 言葉では困ったって言っとるのに、まったく困ってるようには見えへん。

そんな所が隠してるって確信させてくれんねんで。

気付いとるやろ? あんたも。

 

「なら、あんたの指導の話もなしや。ミュリエルには最初から相手見てから決めるって言ってたしな。

それにうちの後釜は紹介させへんようにしとく」

 

 うちが脅しをかけたのに蛍火の奴は平然としとる。

あれっ?なんか平然としとる。なんでや絶対効くと思ってたのに、うちが頼めばミュリエルなら確実にそうしてくれるはずや。

それともあいつにはそんなん関係ないんか?なら別の方向で責めるだけやな。

 

「なら、今からミュリエルに蛍火に傷物にされたって言って、学園中に捨てられたって言いふらしてやる。

今日はダリアとのデートでも話が盛り上がってたみたいやからな。スケコマシってみんなに注目されるで」

 

 これでどうや。目立つのを極端に嫌うあんたのことや。これは堪えるはずや。

案の定、蛍火は困った顔しとる。さっきまでとは違うホンマに困った顔や。これでいける。

 

 別に蛍火の事が気になるんとはちゃう。ただ単に興味があるだけや。好きやとかそんなとはちゃう。ホンマやで?

うちの好みは包容力があって、大人な奴で、うちがわがまま言っても苦笑いした顔で許してくれる。

それでも怒ってくれる時はちゃんと怒ってくれるような奴や。でも、そんな奴滅多におらんしな。

 ん?よく考えてみたら蛍火はそれの条件きっちりと満たしとる。

 

ちゃっ、ちゃうで。ホンマにあいつの事なんか好きとちゃう。

 うちが思考の渦の中にいたけど蛍火は冷静に聞いてきた。もう少し慌てぇや。

 

「まいったな。でも、どうしてそこまで気にするんだ?教えるだけに徹するなら必要はないだろう」

「ただの好奇心や。それと信頼は必要やからな」

 

 それだけや。好奇心があるだけやで?それ以外何にもないんやからな。

 

「好奇心か。………知ってるかい?好奇心が猫を殺すって言葉を」

 

 そんなん知らん。猫は分かるけどなんで好奇心が猫を殺すことになるんや?

 

「知らないのか。意味は好奇心に駆られ行き過ぎることによって後戻りは出来ない状態になるって意味だよ。

知らないというのは罪だ。だがそれ以上に幸せでもある。だから、触れないって方向にはいかないかな?」

 

 たしかにその通りかもしれん。けど、あんた一人の本音知るだけで後悔するはずなんて無い。

なんにも知らへんのなら幸せでいられるけど、中途半端に知ってるのは辛いからな。その後苦しくなろうともスッキリしたいもんや。

 

「うちは色んな失敗してきたけど自分で選んだもんに後悔したことはない。一度もや。やから、はよぉ本来の喋り方で話し」

「強い人だ。自分もそんな風になりたいとは思っていたけど成れなかったからね。羨ましい限りだよ。これもこの世界だからこそかな?」

「話逸らそうとせんと、はよぉ見せ」

「やれやれ、無駄か。本音を出せるようになったとしても心は通じないというのに」

 

 そこまで出したないか。えぇ根性しとるやんか。徹底的に付きあったるで、それにあんたの言うことはほとんど屁理屈ばっかや。

そんなんにうちは負けんで。

 

「口にせぇへんかったら何もない。心の欠片もな。口にしたら少しは届くはずやで」

「はぁ、どうしてもかい?」

「どうしてもや。子供のころから一度いったことは撤回せぇへんかったからな」

 

 はぁっと息はいた。どうやら観念したみたいやな。てこずらせてくれたけど、頑固さではうちのほうが上やったようや。

 蛍火は手で顔を覆いつくした。まるでこれから仮面を外すような仕種や。

暗示みたいなもんでもかけてたんか?

 

 蛍火が顔から手をのけた時、全てが変わっていた。

 さっきまで笑ってた顔とはちゃう。顔に表情が無い。無表情とはちゃう。

 

無表情は表情を隠そうとして作るもんやけど、目の前のあれは違う。ホンマに表情がない。

欠落してるように、何も感じさせへん。それに印象的なんは眼や。光すら放ってるようには見えへん。

あれがホンマに人間の出来る眼か?

 

 雰囲気も変わった。そこにいるのにひどく不自然に見えるのに、そこにいるのが当たり前のようにも思える。

空は明るいって言うのに蛍火の回りだけ暗くなっている。夜の気配がする。いや、あれはすでに闇に近い。

矛盾しすぎてる。まさに真性の異常。

 

「これが本来の俺だが納得してくれたか?」

「ひっ!!」

 

声を聞いて恐なった。優しさが微塵も感じられへん。それだけやない、何にも感じられへん。

喜びも楽しみも悲しみも怒りも困惑も呆れも何も、何一つ感じられへん。

声が冷たいを通り越して凍てついてる。何でもない言葉やのに酷く不自然。

 

今まで、色んな人間に会ってきたけど、こんなのとは会ったこと無い。

子供のときから戦闘人形に育てられても、マインドコントロールを使ってもそうならん。唯の人形になるだけや。

けどあれは人間としか言い様がない。表にまとっている全てを取り払ったむき出しの人間。

個別認識ができない人間というだけの存在。

それこそ、化け物。それこそ例えようの無いほどの異常。

 

あれは別人とかそういう領域やない。別の存在。存在そのものがまったく違う。

あれ相手にずっと教えなあかんのか?耐え切れるとは到底おもえへん。

 

「さすがにキツイみたいだな。一ランク上げるか」

 

 もう一度、手で顔を覆いつくしてる。今度はまるで仮面を被ってるみたいに見えた。

そして手を下ろしたとき、また変わってた。

 初めて会ったときに比べれば感情とかすべて希薄にしか思えへんけど、さっきと比べたら万倍ましや。

仕種とかが人間くさくなってる。

どんな構造しとんねん。それにどうしたらそんな風になれるんや?

 

「随分と変わった特技持っとんな。うちびっくりや」

「俺を正視した後で、軽口をたたけるとはたいしたものだ」

 

 やせ我慢の上、なんとか搾り出せた嫌味やっていうのに簡単にかわすんか。今のうちが冷静でないせいやな。

素顔晒しただけでうちをここまでさせるなんて化け物め。

 

「化け物か。たしかに人ではないとよく言われた。人から外れたものが総じて化け物と呼ばれるのなら、俺もそうなのだろう」

 

 なっ、何でうちが思ってたこと分かるんや。口には出してないはずや。

 

「何、口に出していなくとも考えていることを読み取ることは難しくない。表情、仕種、行動、全てが語ってくれる」

 

 それだけで分かるんかいな。これは蛍火の言う通り、知らへん方が幸せやったわ。

もしそれで罪人になるとしても今やったら確実にそっち選ぶわ。五分前のうちに言い聞かせてやりたいぐらいや。

 

 でも、まだ知らなあかん事がある。あいつが暗殺術を選んだ理由を教えて貰ろてない。

これだけは聞かなあかん。将来、敵対するかも知れん相手に教えるわけにはいかんからな。

 

「あんたが戦う理由は、この術を欲しようとする理由はいったいなんや。どうして護身術なんて嘘いったんや?

それ聞かな、あんたの指導はできん」

「ふむ、俺を指導する気になれるのか。その強さには尊敬するな。

では答えよう。まず後者から、殺されないためにはどうすればいい?奪われないためにはどうすればいい?

答えは簡単だ。奪われる前に奪えばいい。殺される前に殺せばいい。暗殺術とは穿った意味で護身術だ。まぁ、これは極論だがな」

 

 たしかに極論や。屁理屈でもあるが正しくもある。失ってからでは何もかも遅いからな。

でもうちはそれには賛同できん。

 

「そして前者、誰かを殺し、何かを壊すために力を欲するだけだ。暗殺術など求めるのだ、それしかなかろう?」

 

 こいつ、言い切りおった。うちとて人を殺すということを口にするのにどれだけ覚悟がいったことか。

やのに、こいつは本気で言えとる。町にいる不良やチンピラが言う殺してやるとは意味が違う。

 

意思と意志、殺意と殺気を纏った、殺そうとして殺す。殺す意思が無くても殺す。暗殺者としての覚悟を持ってる。

 でも、素顔を見た後やと憎くて殺すようには思えへん。こいつに殺したいほど憎い相手がおるんか?

あの無機質な存在が怒りを発するほどに憎い相手がおるんか?

 

「殺したい相手がいる訳でもないのになんで殺す力を欲するんや?あんたが殺したいほど憎い相手なんておらんのやろ。」

「気付いたか。どうしても答えねばならんか?」

 

 かすかに困ったように見える。やっぱりさっきとは違うわ。

聞きたいのはそこなんやから。それにな、気付いたかやあらへん。あれ見た後で気付かへん奴なんておらんわ。

 

「師弟関係に隠し事は無しやっていったやろ。当然言ってもらうで」

「その前に一つ知っていて貰わなければならない事がある。まぁ、最初からヒルベルトには知ってもらう予定ではあったが」

 

 何でもないように言ってるけど、うちは驚きを隠せへんかった。

左手が輝き、現れた剣。いや、あれはたしか刀っていうもんやったか。

この世界で何処からとも無く取り出せる武器っていったら召喚器しかあらへん。

蛍火は救世主候補やったんか。もう何回も驚いて呆れることしかできひん。

 

「俺の召喚器、観護だ」

「あんたも救世主候補?なんで知られてへんのや?普通、帯剣の儀は大勢の前でやって誇るもんや。

そして士気を高めるためにやるのになんで」

「裏で動く必要性があった。だから学園長に秘密にしてもらうことにした。それに俺は目立つのは好きではない」

 

 本気で嫌やっていうのがありありと分かる。目立つのが嫌いって言うのは分かるけど、なんで裏で動く必要があるんや?

裏で動くとしてもなんで暗殺せんとならんのや?

 

「この世界に来る時に契約してな。そのため将来的に救世主候補の邪魔になる存在を狩る必要性が出てきた。

俺はイレギュラー中のイレギュラーだ、色々事情がある。詮索はするな」

 

 どういうことや?他の救世主候補もそんな物があるんか?でもミュリエルに聞いたことはないし蛍火が特別ってことになる。

契約はいったい誰と?内容は?

 でも聞くことは出来ひん。さっき好奇心は猫を殺すって意味を嫌っちゅうほど味合わされた。こいつに余計な詮索は危なすぎる。

 

「では、気配殺しと森での移動術、投げ物の指導を頼む」

「それの振り方はいいんか?」

 

 腰に刷いてるものを指差して聞く。イリーナより刀の扱いには慣れているから教えることくらいは出来る。

 

「基礎から教える必要があるんやろ?」

「暗殺に関する技術だけだ。これは自分で出来るからな。それに人を殺すのに必要なのは忍び込む際に悟られない技術だ。

殺すだけならナイフ一つで片が付く」

 

 たしかに人を殺すにはナイフ一つだけでええ。大河とかと同じ世界から来たっていうのにここまで違うもんなんか。

 

「了解や。しっかりついてきぃや」

 

 蛍火は無言でついて来た。ご丁寧にうちの歩き方まで真似てきて、化け物め。

 訓練中も少しずつではあったけど成長してた。どこが面白ないねん。面白すぎやあんた。

 

終わった後にはしっかりと召喚器を持っていることを口止めされた。誰かに喋れるわけ無いのに、

うちはもしかしたらこの時すでに暖かくて、誰よりも凍てついてるこいつに惹かれてたのかも知れん。

Interlude out

 

 

 

 


後書き

 さて、今回は蛍火の異常性を見ることになりました。蛍火の精神構造ってかなり歪ですよね。

 しかし、当初定めていた通りの蛍火になりました。当初は裏表のない大河とは正反対の裏表のありすぎるキャラと決めていましたから。

 でもちょっと激しすぎたかもしれません。

 

 今回、唐突にマリーが蛍火を意識してしまいましたがそれはつり橋効果だと思って貰えたら嬉しいです。

 人が人を好きなる所を描写するのってかなり難しいですね。

 

 

 では、次の話でお会いしましょう。





最後で未亜がした決意とは。
美姫 「うーん、その事で螢火の計画が狂うかもしれないわね」
まあ、計画とはそう簡単に進まないものだからな。
まだまだ先は長いんだ。そうそう思ったようには事は運ばないってことだろう。
美姫 「うーん、未亜の決意は次回で分かるのかしら」
気になるから、早速GO〜!



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