なのは's Monologue

邪神の力を解放したルオゾール。
その禍々しい魔力によって、私たちは恐怖に飲み込まれそうになっていました。
だけど、恭也君が命を賭けた最終手段――精霊憑依(ポゼッション)――を敢行。
それにより、恭也君の身体にサイフィスが宿ると同時に、凄まじい魔力でルオゾールの魔力を相殺していきます。
残り時間、約10分……
その僅かな時間で、世界と恭也君の命運が決まろうとしています。
そして、邪神と精霊王の戦いの火蓋は切って落とされました。

魔法少女リリカルなのは
−White Angel & Black Swordmaster−

Act:12「邪神終焉」



フェイト's View

恭也さんの姿が変わり果てるのを私は呆然と見ていました。
いえ、私だけではなくクロノもはやても呆然として恭也さんの姿を見ています。
ただ、なのはだけが悲痛な表情で恭也さんを見ていました。
恭也さんは、呆然と見ている私たちを無視しルオゾールに攻撃を仕掛けています。
恭也さんが召還した5匹のフェニックスが、ルオゾールの召還した黒い邪竜を食らいつくしルオゾール自身をも飲み込んでいきます。
対するルオゾールもまた、今まで出していなかった力を解放し恭也さんに襲い掛かっています。
その戦いは、もはや私たちの入る余地は無いのかもしれません。
それほどまでに激しい戦いを恭也さんとルオゾールは行なっています。

「……恭也君」

「なのは?」

なのはは、恭也さんとルオゾールの戦いを心配そうに見ています。
否、なのはの様子を見ていると恭也さんの身に何が起きているのかがわかっているようです。
だから、私はなのはに問い詰めました。

「恭也さんの身に何が起きているのか、わかってるんだね?」

「うん……」

なのはは、力なく肯定します。
その様子に疑問に思った私……
いえ、私だけじゃなくクロノもはやても、なのはの態度に疑問を持ったようです。

「なのは、恭也君の身に何が起こってるのか説明してくれるか?」

「そや、なのはちゃん!
 隠し事はあかんで!!」

リーダーとして質問するクロノと、なのはが恭也さんの事を隠していた事に怒っているはやて。
二人に責められてるなのはは、力なく話し始めました。

「恭也君のデバイスは、便宜上融合デバイスと言っているんだけど……
 本当は全然仕組みが違うの」

「確かに、融合率を指定できるみたいだから違っているのはわかるけど?」

なのはの説明に、私はさもわかったように答えました。
だけど、なのはは首を振り話を続けます。

「そもそも融合って言葉自体が誤り。
 便宜上融合率って言っているけど、あれはサイフィスの侵食率……」

「えっ!?」

なのはの言葉に、私は驚きました。
いえ、私だけではなくクロノもはやても驚いています。
そんな私たちに構う事無く、なのはは話を続けます。

「50%を境にして、恭也君とサイフィスの主導権は入れ替わるの。
 そして、80%までは恭也君の自我は存在できてるんだけど……」

「……100%になったら、恭也君の自我は存在しなくなるんだな?」

「なっ?」

「そっ、そんな!?」

なのはの説明に、クロノは恭也さんの身に何が起きているのかがわかったみたい。
そして、クロノの言葉を聞いた私とはやては驚愕しています。
だけど、なのははクロノの言葉に力なく肯いて肯定しました。

「それで、恭也君はその事を知った上で敢行しんたんだな?」

「うん。
 恭也君……
 護るものの為になら命も惜しまないから」

なのははそう言って、再び視線を恭也さんの方に向けます。
何も出来ない自分を歯がゆそうに、なのはは身体を震わせています。
なのはが恭也さんに対する想いは知っていましたが、これほどまでに想っていたとは……
こうしている間でも、恭也さんとルオゾールの戦いは激しさを増しています。
私たちの存在は、まるで無かったかのように……
そしてはやては、なのはに食って掛かります。

「なのはちゃん!?
 なんで止めんかったんや!?
 そんな危険な行為とわかっていながら……」

「……私だって止めれるなら止めたかったよ!
 だけど……」

「あの状況で、恭也君が実行していなかったら打つ手は無かったな。
 僕たちだけじゃ身動き取れなかったし……」

はやての言葉に、なのはは涙を流しながら反論します。
なのはがあんな姿を見せたのは、初めてかも知れません。
多分、なのはの事だから自分と置き換えたのでしょう。
なのはもまた、同じ状態なら実行しているでしょうからね……
だから私は、はやてみたいになのはを責める事はできません。
そして、クロノも客観的事実を述べています。
そう、あの時……
恭也さんが行動を起こさなかったら、私たちはルオゾールの禍々しい魔力に取り込まれ一方的にやられているはずです。
でも、はやては納得できないみたいです。

「だけど……
 だけどや!
 恭也さんの状態が精霊憑依なら、二度と戦えない身体になるんやで!?」

「えっ!?」

「……名も無き炎の英雄の身に起きたのと同じ状態になるんだな?」

はやての言葉に驚く私。
クロノは、はやての言葉に納得するように50年前に現れた英雄の身に起きたことと重ね合わせています。
なのはは、はやてとクロノの言葉を肯定も否定もするわけじゃなく話を進めます。

「二度と戦えない身体になるかどうかは、恭也君がサイフィスの力に耐えられるかどうかで変わるけど……
 精霊憑依がこのまま続くと、恭也君の精神がサイフィスに完全に飲み込まれてしまう」

「なっ!?」

なのはの言葉に、私たちは言葉を失います。
なのはの言っている事は、ルオゾールを倒した所で最悪恭也さんが死ぬって言う事。
そんな危険な行為を恭也さんは行なった。
はやては現実を知って、打ちひしがれています。

「何や……
 結局あたしらは、ここで見ているだけしか出来ないんか?
 恭也さん一人に押し付けて……」

はやての言葉に、誰も返す事は出来ません。
私も、恭也さんとルオゾールの戦いにどう割り込めばいいのか思いつきません。
クロノも、恭也さんとルオゾールの戦いを歯を食いしばりながら見ています。
誰もが自分の不甲斐なさを感じながら、恭也さんとルオゾールの戦いを見守っていました。
だけど、意外な方向から意外な言葉が聞こえてきました。

「不屈のエース様がこんな所で諦めるんか?」

「テスタロッサよ、あの時私に見せた覚悟はどこへ行った?」

「えっ……
 ヴぃっ、ヴィータちゃん?」

「しっ、シグナム!?
 何故、ここに……」

ヴィータの声を聞いて驚くなのはと、シグナムの声を聞いて驚く私。
声が聞こえた方へ顔を向けると、ヴィータとシグナムだけではなくシャマルとザフィーラまでいました。
そう、出撃禁止が言い渡されていた守護騎士たちがこの場にやってきました。
はやては、守護騎士たちの姿に驚いて怒り出します。

「ちょっ、シグナムにヴィータ!
 それに、シャマルにザフィーラも……
 主の命令に逆らうんか!?」

はやての剣幕に、私となのはを驚かせた時にあった威厳は何処に言ったのかタジタジになっています。
ザフィーラは元から無口なんですが、はやてにどこか脅えているように見えました。
だけど、シャマルだけは苦笑しています。
そして、シャマルがはやてを諭すように話し始めました。

「落ち着いてください、はやてちゃん。
 ここに来たのも御神提督の指示なの」

「えっ、でも……
 再び洗脳される危険は……」

はやての懸念……
というより、私たち全員の懸念であるルオゾールによる守護騎士の洗脳。
その事もあり、守護騎士たちには出撃禁止命令が出されてたはずなんですけど……
シャマルは、はやての言葉に肯いて話を続けます。

「ええ、その件も既に解決積みです。
 え〜と、恭也さんの猫さんたちによってですけどね」

「えっ、シロちゃんとクロちゃんが?」

シャマルの意外な一言に、なのはは驚きます。
そういえば、恭也さんは白猫と黒猫を引き連れていましたね。
人語も喋れるし使い魔だとは思いましたけど……

「ああ、あの猫たちがアタシたちに奴からの干渉を防御するプログラムを組んでくれていたんだ」

「だが、馴染むまでに時間がかかってな……
 今になってようやく出撃できたわけだ」

「そんなことが……」

ヴィータとシグナムがシャマルの説明に付け足します。
話を聞く限りだと、どうやら恭也さんの猫たちが守護騎士たちに防御プログラムを組んでいたそうです。
はやては、守護騎士たちの話を聞き終えると脱力するように答えました。

「なんや、あん時……
 素直にあたしの命令聞いたんって、実は対策を行なっていたからか?」

「……申し訳ございません、主はやて。
 結果的に隠すような事になってしまいました」

「別にええよ。
 再び操られる心配が無いんなら、それこそ歓迎や」

シグナムの謝罪に、はやては苦笑して答えます。
でも、その表情は嬉しそうに見えました。
だけど、なのはは困惑顔です。

「……でも、私たちだけでルオゾールを倒せるかはわからない」

「何か勘違いしてないか、高町なのは?」

「えっ!?」

思いがけないシグナムの一言に、なのはは驚いています。
なのはの姿を確認したシグナムは苦笑して、話を続けます。

「別に我々が止めを刺す必要はないわけだ。
 彼、恭也に大技を使わせる隙を与えるだけで、奴は倒せる」

「あっ!?」

シグナムの一言で私たちは気づかされました。
そう、ルオゾールを倒す事だけ考えて自分の力は及ばないと諦めていた……
でも、ルオゾールに止めを刺すのは私たちじゃなくてもいい。

「それに、まだ彼の人格は消滅しているわけじゃないでしょ、なのはちゃん?
 なら、まだ時間はあります!」

「えっ、それはどうゆうことや?」

シャマルの一言にはやては驚きます。
いえ、はやてだけじゃなく私も驚きましたけど。
当のなのはは、先程まで輝きを失っていた瞳が再び輝きを取り戻しています。
そして、なのははシャマルの話に答えました。

「恭也君とサイフィスの境界を守護するのが、シロちゃんとクロちゃんの存在理由なの。
 だから、精霊憑依を行なっても直ぐに恭也君の人格が消滅する事は無い。
 ただし……」

あの猫たちが、そんな重要な存在だとは思っていなかった。
確かにいろいろ知っていたりするし、親しみやすい存在だったのは事実なんだけど。
でも、なのはの話には続きがあります。

「ただし、どんなマスターでも持って10分……
 それ以上、精霊憑依を行なっていたら……」

「……人格崩壊は確定なんだね」

私の言葉に、なのはは無言で肯きます。
つまり、時間は残されていない。

「時間はあまり無いな……
 だが、あの時とやる事は一緒だ」

「うん、そうだね。
 闇の書の暴走プログラムを相手にした時みたいに」

「ユーノ君とアルフが居ないのと、アルカンシェルの代わりが恭也さんって事だけ」

「ああ、そういうことだ」

「兎に角、助けられた借りは返さなきゃ気がすまねぇ」

「それに、私たちもアレには因縁がありますからね」

そう、あの時と一緒。
そして、別にダメージを与える必要はない。
ルオゾールの動きさえ止めてしまえば、後はどうにかなる。
守護騎士たちも、ルオゾールには因縁があるみたいだし……
それに……

「……そうだよね。
 諦めるなんて私には、似合わないよね」

先程までのなのはとは違い、私たちが知っているなのはに戻っていました。
落ち込んでいるなのはよりも、私は目的に向かって一直線に進むなのはを見ている方が好き。

「うん、なのははなりふり構わず無茶をしてみんなに心配させなきゃね」

「毎度毎度、心配させられたら困るけどな」

「……何か、酷い事言われてる気がするけど」

私とヴィータの言葉に、なのはは不貞腐れます。
だけど、なのはの目は笑っていました。
しかし、無駄に話している時間も無い。

「行くぞ、みんな!」

クロノの号令の下、私たちは恭也さんとルオゾールが争っている戦場に向かいました。
全ての事件を終わらせるため……
そして、母さんの身体を弄んで私を追い詰めた事に対する決着をつけるために……



なのは's View

私たちが恭也君とルオゾールが戦っている現場についた時、恭也君とルオゾールの戦いは激しさを増していました。
魔力と魔力のぶつかり合い。
その一つ一つの魔力のぶつかりが衝撃波を精製し、私たちを襲ってきます。
まるで、その戦いは誰にも干渉させるつもりは無いという意思表示と、私は感じていました。
だけど、このまま行けば恭也君の人格が消滅するのは時間の問題……
そんな事だけはさせたくありません。
だから、あの時……
闇の書の暴走プログラムと同じように、ルオゾールの動きを止める為に私たちは行動を起こしました。

「盾の守護獣、ザフィーラ!
 推して参る!」

「湖畔の騎士、シャマル!
 参ります!」

シャマルさんとザフィーラの結界魔法がルオゾールを絡みつくように襲います。
だけど、ルオゾールは絡みついた結界を気にする素振りを見せません。
いえ、シャマルさんとザフィーラの行動によってこちらに気づいてしまったようです。

『雑魚が、小ざかしい!!』

ルオゾールの怒声と共に、衝撃波が私たちを襲います。
しかし、サイフィスと融合した恭也君と争っている為か、先程受けた衝撃波に比べたら威力は落ちていました。
私たちはサークルプロテクションを展開し、その衝撃波をかわします。
だけど、それはルオゾールに隙を与えてしまう行為でした。

『貴様らの相手は、こいつらがお似合いだ!』

ルオゾールの言葉には余裕がありませんが、それでも死霊機兵を大量に召還するだけの力はありました。
そして、私たちはルオゾールの召還した死霊機兵に取り囲まれます。
でも、私たちには死霊機兵を相手にする時間はありません。
だから、一刻も早く切り抜ける算段をしていたのですが……

『敵味方識別完了……
 有効射程内、敵補足完了……
 サイフラッシュ発動』

恭也君……
いえ、恭也君の肉体を占領したサイフィスの声が聞こえ、私たちを含む広範囲がサイフィスの魔力で支配されました。
そして、ルオゾールが召還した死霊機兵は何もする事も無く、一斉に消滅していきます。
その行為に、呆然とするフェイトちゃんとクロノ君……
でも、フェイトちゃんもクロノ君もダメージを受けていません。
それに、シグナムさんやヴィータちゃんも無傷でした。

「話には聞いていたけど……」

「確かに便利な魔法だな。
 敵だけを識別して一掃するとは……」

フェイトちゃんとクロノ君は、何か言っているようです。
だけど、私は確信しました。
フェイトちゃんとクロノ君、そしてシグナムさんとヴィータちゃんも識別できたって事は、まだ恭也君の人格が残っている事。
だから、まだ希望はある!

『きっ、貴様ぁぁぁぁあ!!』

『お前の相手は、この我だ』

サイフィスが使用したサイフラッシュの一撃によって、怒り狂うルオゾール。
対するサイフィスは、淡々としています。
だけど、この隙を逃すヴィータちゃんではありませんでした。
ヴィータちゃんは、デバイス――グラーフアイゼン――の最強形態・ギガントフォルムに変形させています。
そう、ヴィータちゃんの身体には不釣合いな巨大な鉄槌が存在しています。

「豪腕一撃!」

《ギガントシュラーク》

ヴィータちゃんとグラーフアイゼンの掛け声と共に、巨大な鉄槌はルオゾールめがけて振り下ろされました。
単純にして豪快な一撃は、ザフィーラとシャマルさんの結界魔法によって身動きが取れなくなったルオゾールを直撃します。

『ぐぉぉぉぉ』

「これが、かつてアタシたちを操った分と、再び洗脳して仲間と争わせた分の一撃だ!!
 全て受け取れ!!」

ヴィータちゃんの恨みが篭った一撃は、ルオゾールの身体を吹き飛ばしました。
吹き飛ばされたルオゾールは、海に直撃して跳ね返ります。
体勢を立て直したルオゾールは、ヴィータちゃんを睨みつけ怒声を上げています。

『ちっ、かつてのマスターである私に逆らうとは……』

「かつてのマスターだろうが何だろうが関係ねぇ!
 今のアタシたちの主は、はやてだけだ!!」

『なら、サイフィスを滅ぼす前に貴様から存在を抹消してくれる!』

ヴィータちゃんも負けずに反論しますが、怒り狂ったルオゾールには油を注いでしまったようです。
だけど、恭也君もといサイフィスへの注意が外れているので当面の目的は達していますね。
それに、シグナムさんも準備が整ったようです。

「この世界から抹消されるのは、ルオゾール……
 貴様だ!!」

シグナムさんは、デバイス――レヴァンティン――の最強形態であるボーゲンフォルムに展開し、すでに射出体勢に入っています。
ルオゾールに狙いを定めたシグナムさんは、間髪いれず魔法の矢を解き放ちました。

「翔けろ、隼!!」

《シュツルムファルケン》

解き放たれた魔法の矢は、巨大な隼となりルオゾールめがけて飛翔します。
ヴィータちゃんに注意を取られていたルオゾールは、シグナムさんの一撃を直撃。

『ぬぉぉぉぉぉお!!
 雑魚の分際でよくも、よくもぉぉぉお!!』

直撃を受けたルオゾールは、もだえ苦しんでいます。
しかし、その苦しみとは裏腹に衝撃波を繰り出して来ました。
ルオゾールの衝撃波によって、私たちの魔力は削られていきますがこのチャンスを逃すわけには行きません。

「なのはちゃん、フェイトちゃん!」

「わかってる、はやて!」

「うん、一気に行くよ!!」

はやてちゃんの掛け声と共に、私はレイジングハート・エクセリオンのカートリッジ全弾を使用。
全ての魔力を私の最強魔法――スターライトブレイカー――につぎ込みます。
レイジングハートに収束される膨大な魔力。
そして、先端に収束された魔力が臨界点を迎えた時、私はレイジングハートを振りかぶり……
レイジングハートの先端をルオゾールに向け、魔力を解き放ちます。

「スターライトブレイカー!!」

私が集めた膨大な魔力が一筋の閃光となり、ルオゾールめがけて直進します。
ルオゾールは絶え間なく衝撃波を放ちますが、その衝撃波すら私が解き放った閃光は飲み込んで進んでいきます。
そのまま、一筋の閃光はルオゾールを飲み込みました。
だけど、私はスターライトブレイカーがルオゾールに直撃した時、妙な違和感を感じました。
しかし、その違和感の正体を知る間も無く、フェイトちゃんが間髪いれずルオゾールに攻撃します。

「プラズマザンバー!!」

フェイトちゃんの最強の一撃。
フェイトちゃんのデバイス――バルディッシュ――の最強形態・ザンバーフォーム。
そして、膨大な魔力によって精製された強大な剣はルオゾールめがけて振り下ろされました。

「ラグナロク!!」

フェイトちゃんの動きに合わせて、はやてちゃんの最強魔法――ラグナロク――も発動。
ルオゾールに向かって強大な魔力が降り注ぎます。
フェイトちゃんのプラズマザンバーとはやてちゃんのラグナロク、そして私のスターライトブレイカーの直撃で、ルオゾールは爆発に飲み込まれます。
――トリプルブレイカー――
私、フェイトちゃん、はやてちゃんの三人がそれぞれ自分が使える最強魔法の合成技。
闇の書の暴走プログラムの時も使用した合成技です
その衝撃によって出来た魔力の噴煙で視界が悪くなります。
だけど、その衝撃とは裏腹に、ルオゾールが自信を取り戻したように小馬鹿にした喋り方で話してきました。

『くっくっく……
 アストラルシフトの再構築が間に合わなければ、今の攻撃は流石にこの姿でも辛かったですよ。
 それにしても、残念でしたねぇ……
 はぁ〜っはっはっは……』

「そんな、間に合わなかった!?」

私はルオゾールの言葉を聞いて、悔しさのあまり呟いていました。
フェイトちゃんもはやてちゃんも驚愕しています。
しかし、クロノ君は気にする事も無くデュランダルを振りかぶっています。
その先端には、魔力が凝縮されて輝きを増していました。

「エターナルコフィン」

クロノ君の静かな言葉と共に、ルオゾールの身体は氷付けにされていきます。
凍結魔法専用として作成されたデバイス――デュランダル――
クロノ君の魔法資質・温度変化により、その効果は跳ね上がります。
そして、ルオゾールの身体全体がクロノ君が精製した氷によって覆われました。
しかし、ルオゾールは氷付けになっても、余裕な態度を崩してはいません。

「無駄な事をしますね。
 アストラルシフトを展開した私には、攻撃は通らないと言うのに……」

「……だが、貴様の動きは止められる」

「ふむ、確かに……
 流石に身動きは取れませんね。
 ですが、どうって事はないですよ」

ルオゾールの宣言と共に、今までに無い膨大な魔力の衝撃波が私たちを襲ってきました。
だけど、全力で使用した魔法の影響で私たちは身動き取れません。
私は、ルオゾールが放った衝撃波を何も抵抗できないまま見ているだけしかありませんでした。

「くっ、間に合わない!?」

だけど、私の呟きとは裏腹に私はその衝撃波の直撃を受ける事はありませんでした。
いえ、私だけではありません。
フェイトちゃんやはやてちゃん、クロノ君に守護騎士たちのみんなも青白い魔力のフィールドで、ルオゾールからの攻撃から護られていました。
疑問に思ったと同時に、私の頭の中に声が響きます。

『そなた等の覚悟と意思は、我がしかと受け取った……
 だから、あとは任せておれ』

「えっ、きょっ、恭也君?」

そう、喋り方はサイフィスだったけど頭に響いた声は恭也君そのもの……
私は驚いて恭也君の方向へ向きました。
そして、振り向いた先には……
膨大な魔力の塊を4つ精製していた、恭也君――サイフィス――の姿がありました。
その一つ一つの魔力の塊が、私とフェイトちゃんとはやてちゃんの合成技・トリプルブレイカと同じ量です。
ルオゾールもまた恭也君の姿を見て、先ほどの自信は何処へいったのか完全に我を忘れていました。

『くっ、まっ、まさか……
 おっ、おのれ!
 先ほど、この私を氷付けにしたのはこれを狙っていたのか!!』

ルオゾールは、クロノ君の意図に気づいて狼狽しています。
クロノ君は狼狽するルオゾールに冷笑で返しています。
……今までの怨みつらみを返す事が出来たみたいで、満足そうですけどね。
でも、クロノ君が何故恭也君の動きが分かったのか、私は気になってしまいました。

《クロノ君?
 どうして、恭也君というかサイフィスの動きが分かったの?》

《ああ、別に分かったわけじゃない。
 ただ、膨大な魔力が集まってるのを感じたからね。
 だけど、僕らの動きに合わせてくれるということは……》

《まだ、可能性はある!》

私は、スターライトブレイカーを使用するために集中していたので、恭也君……
いえ、サイフィスが魔力を集めていた事に気づいていなかったわけです。
それは、フェイトちゃんとはやてちゃんも同じみたいでしたけど……
しかし、そんな私たちを無視しサイフィスはルオゾールに向かって宣告していました。

『全ての決着をつけるぞ、ルオゾール!!』

『おっ、おのれぇぇぇ!!
 サイフィス、貴様ぁぁぁぁぁあああ!!』

ルオゾールの叫びは、もはや悲鳴に近い状態です。
だけどサイフィスは、その声を無視しサイフィスの目の前に集められた膨大な魔力を解放させました。

『コスモノヴァ』

サイフィスの言葉と共に、四つの膨大な魔力球はルオゾールにめがけて突き進みます。
そして、四つの魔力球のうち二つがルオゾールの身体をかすり、ルオゾールをその衝撃で遥か上空に打ち上げました。
ルオゾールをかすめた二つの魔力球は打ち上げられたルオゾールよりも遥か上空まで飛び、巨大な魔法陣を展開します。
展開された魔法陣の中から、強大な魔力の閃光がルオゾールに向かって放たれました。
さらに、残る二つの魔力球がルオゾールの遥か下で同じように魔法陣を展開し、強大な魔力の閃光がルオゾールに放たれます。
私が使うスターライトブレイカーよりも極太の魔力の閃光がルオゾールを挟み込むようにぶつかります。

『ぐぉぉぉぉ、そっ、そんな馬鹿な……!!』

ルオゾールの叫びすら飲み込んで、その閃光はルオゾールを包み込んでいます。
膨大な魔力の塊がぶつかる事によって発生する衝撃波。
だけど、その衝撃波は私には……
いえ、私たちには心地よい風として流れていきます。

「……これが、精霊王の力?」

「あんだけの衝撃波を起こしておいて、こちらには一切ダメージ無しか……
 一体、どういう原理なんや?」

フェイトちゃんもはやてちゃんも、ルオゾールの断末魔を聞きながら呆然と呟いています。

「例えアルカンシェルを使用しても、周りには被害出るのだが……」

クロノ君も、サイフィスが使用した魔法――コスモノヴァ――の威力を目の当たりしながらも、周りに被害が出ていない事に呆然としてます。
私もまたフェイトちゃんたちと同じように呆然としながら、その光景を見つめていました。
ルオゾールを包み込んだ魔力の輝きは、激しさを増しています。
その輝きの中に存在する、黒き影……
ルオゾールの肉体は、包み込んだ魔力によって徐々に削られているのがはっきりと分かりました。

『こっ、こんな馬鹿な!?
 私が、こんな所で滅びるだと!?』

ルオゾールもまた呆然と叫び、自らが訪れる運命に絶望していました。

「ふん、自業自得だな」

「他の物は勝手に滅ぼすくせに、自分だけは特別だと思ってんじゃねえよ!」

シグナムさんとヴィータちゃんの冷めた一言に、納得する私。
――形あるものはいつか必ず滅びが訪れる――
昔、読んだ本に書かれていた一文。
ルオゾールにとっては、今がその時なんでしょうね。

『私は神だぞ……
 神が、滅びる訳が……』

既に、喋る余裕もなくなっているのか、ルオゾールの言葉には力がありません。
そして、巨大な魔力の輝きの中に存在する黒い影は、先ほどに比べてかなり少なくなっています。
ルオゾールが滅びるのも時間の問題……

『止めだ、ルオゾール』

サイフィスの言葉と共に、上下に展開された魔法陣から新たに魔力が注ぎこまれます。
先に照射された極太の閃光が、追加された魔力によって輝きを増します。
それと共に、ルオゾールの崩壊が加速していくのが分かりました。
ルオゾールは、最後の力を使って何か話していましたけど……

『後は……、貴方に……、任せましたよ……
 クリ……、ス……、トフ……、さ……、ま……』

ルオゾールの叫びは、輝きが増した魔力によって相殺されました。
そして、魔力の輝きが失われた時、その空間はものの見事に何も残っていませんでした。
クロノ君とはやてちゃんは、確認するように呟いています。

「……終わった、……のか?」

「ルオゾールの魔力反応は、感じられんよ。
 終わったと思って間違いないやろ」

「!!
 恭也さんは!?」

フェイトちゃんの叫びと共に、私たちは一斉に恭也君の方向へ振り向きました。
そこには、煌々と輝いている恭也君……
いえ、サイフィスが存在しています。

『オリジナルヴォルクルス02――ルオゾール――、消失を確認……
 任務……、完……、了……』

誰に向かって話しているのかは分かりませんが、サイフィスはそう宣言しました。
そして、その宣言が言い終わると同時に輝きを失っていきます。
それと共に、元の恭也君の姿に変わっていきました。
だけど、元の姿に戻った恭也君は意識を失っているのか、ゆっくりと海へ真っ逆さまに落ちていきます。

「きょっ、恭也君!?」

私は、慌てて恭也君の側に飛びました。
スターライトブレイカーのフルパワーで、私の身体はあちこち痛みます。
でも私は、力を振り絞って恭也君の所に向かいました。
何とか間に合い、恭也君を抱える事が出来た私は、恭也君の状況を確認します。

「あっ、シロちゃんにクロちゃん?」

恭也君の肩には、シロちゃんとクロちゃんが実体化していました。
私に気づいたシロちゃんは、話してきます。

「にゃのはか、無事だったんだにゃ」

「あっ、うん。
 私は……、というより私たちは全員平気だよ。
 でも……」

私が言葉を濁した時、クロちゃんが続けて話しました。

「恭也なら、それほど心配いらないにゃ」

「えっ?」

クロちゃんの言葉に、驚く私です。
シロちゃんは、そんな私に苦笑しながらも話しを続けました。

「かなりギリギリだったけどにゃ」

「まぁ、あたしらが仕掛けて置いたにょが功を奏したにゃ」

シロちゃんとクロちゃんの言葉を聞いて、私は守護騎士たちを思い浮かべます。
そういえば、シグナムさんは何故、恭也君もといサイフィスが大技持っていたのか知っていたのでしょう?
周りが落ち着いた影響か、その疑問が浮かび上がってきます。

「え〜と、守護騎士たちの?」

「そうだにゃ、サイフィスにょ最強魔法を発動させるには時間が必要だったにゃ」

私の質問に、あっさりと肯定するシロちゃん。
だけど、その言葉からだと、最初から私たちを利用するつもりだったようです。

「じゃっ、じゃあ……
 最初から、私たちに時間稼ぎをさせるつもりだったの?」

「敵を欺くには味方からって言うにゃ。
 あのままいったら、間違いなく恭也にゃ人格は崩壊してたにゃ。
 おいらたちも恭也にょ事は気に入ってるからにゃ、それだけは避けたかったにゃ」

「それに、守護騎士たちもルオゾールに一泡吹かせたがってたしにゃ。
 ギブ・アンド・テイクって奴にゃんだにゃ」

クロちゃんの言葉に、納得する私。
それでも、黙って利用されたのには腹が立ってますけど……
それに、守護騎士たちはシロちゃんとクロちゃんから説明を受けていたみたいです。

「まぁ、おかげでこちらも借りを返す事が出来た。
 礼を言うぞ」

「気にする必要はにゃいにゃ」

どうやら、みんなも追いついたみたいです。
シグナムさんは、シロちゃんとクロちゃんに礼を言ってます。
シロちゃんは、利害が一致したから気にするなって風に返していますけどね。

「でっ、恭也さんはどうなんや?」

「魔力切れとかは起きてないの?
 先ほどの大魔法だとかなり消費していると思うけど……」

フェイトちゃんは恭也君の事を心底心配しているのが分かりましたが、はやてちゃんはその表情から下心丸見えです。
恭也君が魔力切れ起こしているなら、今度は自分がやるつもりなんでしょうね……
だけど、恭也君に触れている私が言うのもなんですが、恭也君の魔力はほぼ満タンに近い状態でした。
それに、シロちゃんとクロちゃんはやんわりと否定します。

「完全に精霊憑依を行なった場合はにゃ、魔力は世界と一体化するんだにゃ」

「早い話、無限な魔力が恭也にょ身体に流れ込むわけなんだにゃ」

つまり、あの膨大な魔力の源は恭也君の力ではなく、世界から借りたものな訳です。
それなら、辻褄が合うわけですけど……

「……つまり、永久に大魔法を連発できるわけか?」

「まぁ、魔力って限定したらクロノにょ質問は肯定にゃんだにゃ」

クロノ君の質問に、クロちゃんは限定条件で肯定します。
でも、その説明だと続きがあるみたい……

「前に精霊憑依したら、身体が持たないって言った事があるにゃ」

「うん、それは聞いた」

精霊憑依を行なったマスターは身体が持たない。
これは、私がシロちゃんとクロちゃんの説明で聞いたこと。
その時は、人格崩壊によってだと思っていたのですが……

「その理由はだにゃ、例えば主を風船と想像するにゃ。
 風船に空気を入れていくと、膨らんでいくのは分かるにゃ」

「うん、空気を入れていったら、その分膨らんでいく……」

フェイトちゃんは、シロちゃんの説明を反復しています。
でも、私はフェイトちゃんが反復し終わると同時に気づいてしまいました。

「って、まさか!?」

「そう、そのまさかにゃ。
 許容量を超えた風船が破裂するように、膨大な魔力が絶え間なく流れていると許容量がオーバーしてしまうんだにゃ」

クロちゃんの説明を聞いて、私を含めてみんな絶句しました。
だけど、納得できる理由でもありました。
限界値を超えた量はあふれ出す。
それは、極当たり前な事。

「つまり、恭也君は憑依による人格崩壊と魔力のオーバーフロー……
 ルオゾール以外に、二つと戦っていたわけだな」

「そうなるにゃ。
 だけど、思った以上に恭也の許容量が膨大だったんだにゃ」

「それに、精神力でも……
 今までのマスターよりも強かったんだにゃ」

シロちゃんとクロちゃんの説明だと、恭也君はルオゾール以外にも戦っていた事になるわけです。
だけど、その戦いにも打ち勝ったのですから、本当に凄いです。
そんな事を思っていたら、クロちゃんが念話で話してきました。
それも、私以外には聞こえないようにプロテクトをかけて……

《にゃのはの存在が、恭也を留まらせた事は間違いにゃいにゃいにゃ》

《えっ、私が?》

《そうにゃんだにゃ。
 まっ、詳しい事は本人に聞いてみたらいいにゃ》

クロちゃんの言葉を聞いた私は、恭也君の顔を眺めます。
恭也君の表情は、全てが終わった事が分かるのか満足そうにしていました。
それに、息も整っています。

「お疲れ様、恭也君……」

私は恭也君の頭をなでて、ねぎらいの言葉をかけました。
不意に風がふいて、私の髪を揺らします。
私と恭也君に流れる、心地よい雰囲気……
それをはやてちゃんはぶち壊しました。

「何時まで、そうやってるんや?
 なのはちゃん?」

「うん、何かよう?
 はやてちゃん」

はやてちゃんの表情に引きつつも、私は牽制します。
その表情から察するに、恭也君をよこせって言っているようなもの。
流石に、はやてちゃんには渡すわけにはいかないです。

「ちょっ、ちょっと、二人とも!?
 恭也さんを医務室に運ぶのが先決でしょ」

「主はやて……
 その行為は、明らかに問題があるとも思われますが?」

「うわっ、はやてが醜く感じる」

「あらら、はやてちゃん嫉妬丸出しですね」

「うう、はやてちゃんが怖いです」

フェイトちゃんは、私たちの冷戦を止めに入ります。
フェイトちゃんは恭也君の状態が分からないみたいで、慌てていましたけど……
それに比べて守護騎士たちは、はやてちゃんの行動に呆れていました。
クロノ君はというと、ザフィーラと共に我関せずって顔をしています。
でも、フェイトちゃんの言葉はごもっともなので恭也君をクラウディアに運ぶ事にします。

「フェイトちゃん、手伝ってくれる?」

「えっ、あっ、うん!」

本当は私一人で運びたかったんですけど、流石にフルパワーで使ったスターライトブレイカーの影響で恭也君を抱えながら飛ぶ事は難しそうです。
なので、フェイトちゃんに手伝ってもらう事にしました。
フェイトちゃんが恭也君の右側、私が恭也君の左側を支えるようにしてクラウディアに運びます。
はやてちゃんが、何かわめいているようですがあえて無視します。
色恋沙汰が絡まなければ、まだまともな人なんですけどね……
そんな事を考えてたら、フェイトちゃんが心配そうに私を眺めてました。

「どうかしたの、フェイトちゃん?」

「えっ、うん。
 恭也さんの事も心配だけど、なのはは大丈夫なの?」

「……流石に戦闘は無理だね。
 やれない事は無いけど、前と同じ事が起きる可能性が高いよ……」

昔の私なら、大丈夫だって言っていそうですけどね。
流石に、自分の身体は分かりますし二度と大怪我を負いたくは無いですからね。
それに、フェイトちゃんにはその大怪我のせいで負い目もありますから……
その言葉を聞いたフェイトちゃんは、何故か苦笑していました。

「なのはから、そういう言葉を聞けただけでもよかったかな。
 昔のなのはなら、そんな弱音は絶対にはかないもんね」

「弱音というよりは、自分の身体を把握出来ていなかっただけなんだけど……」

フェイトちゃんの言葉に、私は苦笑して返します。
まぁでも、ようやく事件が解決できたと実感してきました。
後は、今回の功労者である恭也君が目覚めるのを待つだけです。
先ほどまで争いの場であった海は静けさを取り戻し、もうすぐ夜明けが始まるように遥かかなたで光が溢れていました。
それは、邪神が消滅した事を喜ぶかのように……
そんな私たちを包むように、優しい風がふいています。



恭也's View

俺は暗闇の中にいた。
そう、周りにはなにも存在しない。
サイフィスと精霊憑依した俺の意識は、何処かへ吸い込まれる感じだった。

「俺は、死んだのか?」

何も無い空間で、俺は呟く。
だが、その空間は何も変化は起きない。
いや、俺の眼前の遥か遠くには青白い光が輝いていた。
気になった俺は、その光が輝く方向へ向かった。
近づくにつれ、その光は大きくなり人の形へと変わっていく。
そして、その光が俺に向かって語りかけてきた。

「お目覚めか、我が主よ?」

「サイフィス……、なのか?」

音声からサイフィスなのは分かったが、想像していた姿とかけ離れていた為に俺は一瞬混乱した。
話し方から老人のような姿だと思っていたのだが、目の前に存在する姿はどうみても青年のような姿である。

「この姿を見て驚いておるのか?
 もともと我、というより精霊に姿なんて存在しない。
 この姿もまた仮の姿でしかないぞ。」

「そうなのか」

サイフィスは俺が驚いてるのが可笑しいのか、笑っている。
もともと俺の常識に当てはめる方が可笑しいのかもしれない。

「だが、よくやったぞ、我が主」

「……ルオゾールは滅びたんだな?」

「ああ、その通りだ」

どうやら、ルオゾールは完全に滅びたようだ。
俺自身、サイフィスの最強魔法――コスモノヴァ――を使用した所までは記憶に残っている。
だが、その後の記憶は曖昧であった。
それでもサイフィスがそういうと言う事は、完全に滅びたと思って間違いないと思う。

「なら、俺との契約も終わりなんだな?」

「ふむ、確かに契約は終了した」

俺とサイフィスとの契約。
それはオリジナルヴォルクルスを倒す事……
その契約が満たされた今、サイフィスは俺の手から離れる。
俺この時、そう思っていたのだが……

「だが、オリジナルは後一体残っている。
 もっとも、主が生きている間に復活するかは疑問だがな」

「……可能性はあるということか」

「その通りだ」

ルオゾールが散り際に言った言葉。
――クリストフ――
おそらく、それが最後のオリジナルの名称なんだろう。
そして、その名前は俺の先代のマスターであるマサキが滅ぼしかけたオリジナルの名称と同じ。
だが、そのオリジナルが復活するまでサイフィスが休眠状態でも問題ない。
ルオゾールの時でさえ、休眠状態だったのだから。
しかし、サイフィスは笑っていた。

「まぁ、本来なら契約終了で眠っている所なんだが……
 主が何処まで上り詰めるか見てみたいから、しばらくは主に付き合ってやる」

「つまり、現状のままか?」

「そういうことだ」

サイフィスは休眠よりも俺と共にいることを選んだようだ。
だが、サイフィスの力は強大すぎるのも事実。
俺が制御すれば問題ないとは思うが……

「主の力が、正しき方向に使う事を信じているぞ。
 もっとも、誤った方向に使う事になれば主の身体は乗っ取るがな」

「ふっ、期待に沿えるよう努力しよう」

サイフィスは相変わらずな物言いだ。
だが、その言葉とは裏腹に俺を信頼してくれているのは分かった。
なら、俺はその信頼に応えるまでだ。

「ああ、それとな……
 主の愛しき者とその仲間が、主の目覚めを待っているぞ」

「……ちょっと待て?
 俺があいつの事を想っているのを知っている?」

サイフィスの言葉に俺は目を細める。
俺があいつの事を想っているのを自覚したのは、精霊憑依(ポゼッション)を行なうと決めた時。
何故、俺の想いをしっているか疑問に思ったが、その答えはサイフィスが話した。

「何、主と同化した時にだ」

「……むっ、あの時か」

サイフィスは苦笑している。
俺は、自分自身に呆れて溜息をついた。
だが、サイフィスは話を続けた。

「だが、主にとって愛しき者が存在した事が、結果的に我に取り込まれずに済んだのは事実だ。
 精神力が無いマスターは、時間が経つにつれ我の力に屈服し取り込まれるのでな」

「……そうかもしれないな」

サイフィスの言うとおりなのかもしれない。
確かにあいつの存在が、サイフィスの意識に取り込まれそうな俺を踏み止まさせたのは事実。

「それにしても、何時の間にあいつの存在が俺の中で大きな存在になっていたんだろうな」

俺は苦笑して呟いた。
不意に俺の身体が軽くなる。
何処かへと引っ張られる感じだ。
そして、再び目を開けた時、眼前に入ってきたのは知らない天井だった。

「……ここは、何処だ?」

俺は呟きながら、身体を起こす。
胸の辺りがやけに重たいと感じ目を向けたら、そこにはなのはがうつぶせになって寝ていた。
そんななのはの姿を見て、俺は苦笑し優しく頭をなでた。
なのはが存在し、周りの状況を見ても何処かの医務室なのは分かった。
つまり、俺が意識を失ってから誰かが運んできたのだろう。
ということで、ここはクラウディアの医務室だと認識するのには時間はかからなかった。
不意に、なのはが動き出す。
そして、なのはが顔を上げた時に俺と目が合ってしまった。

「……おはよう」

何を言って良いのか分からなかった俺は、当たり障りの無い挨拶を行なった。
なのははと言うと、俺の言葉に一瞬驚いた表情を見せたものの直ぐに微笑んでいた。

「よかった……
 いくらシロちゃんとクロちゃんが大丈夫だっていっても、このまま目覚めないかって思っていたよ」

「……心配かけさせてしまったな」

結局、俺はなのはを護るどころか心配ばかりかけさせているような気がする。
だけど、なのはは俺の言葉に対し首を横にふった。

「気にしないで。
 恭也君がああいった行動に出るのは予想できたし、ああいった行動に出るって事はそれだけ追い詰められているって事だから」

確かに、ルオゾールとの戦いでは切り札を使用しなければ倒せなかったのは事実。
だが、その行動すら止めるかと思ったのだが……

「それに……
 私も同じ立場なら、同じ事してるからね。
 止める事なんて出来ないよ」

「……そうか」

なのはの言葉を聞いて、俺は苦笑するしかなかった。
確かに、なのはの行動パターンはどこか俺に似ている。
だからこそ、あの時強く止めなかったんだろう。

「それに、約束を守って帰ってきてくれたしね」

「そうだな」

嬉しそうに言うなのはにつられて、俺も微笑む。
僅かな時間、心地よい雰囲気が俺たちの間を支配する。
そして、なのはは思い出したように話してきた。

「そういえば、伝えたい事って何?」

「むっ、それはだな……」

なのはの言葉に、俺は言葉を濁した。
まぁ、ここで言っても問題は無いのだが、やっぱり情緒が無いのは流石にまずい。
それに、嫌な気配も感じた。

「あ〜、なのはちゃん!!
 抜け駆けして……!!」

俺は近くにあった包帯の塊一つをはやてに投げつけた。
まったく、はやての行動パターンは美由希とそっくりだ。
包帯の直撃を受けたはやてはその場でうずくまる。
そんなはやての姿を見て、俺は呆れながらも呟いた。

「医務室で叫ぶとは何事だ、はやて?」

「うう、恭也さん、酷い……
 お嫁にいけなくなったら、どう責任とってくれるんですか?」

額を押さえて涙を浮かべながらも文句を言うはやて。
俺は、そんなはやてに淡々と事実を述べた。

「心配するな、ただの包帯だ。
 美由希だったら、灰皿を投げつけてる」

「……鬼」

なのはが、俺の言葉に突っ込みを入れてくる。
俺は苦笑しながら、なのはに問い詰めた。

「その鬼って言うのは、はやてに対して行なった行為か?
 それとも、美由希に対してか?」

「灰皿を投げつける方だよ。
 流石に、たんこぶ作るだけじゃ済まないと思うけど?」

なのはは、物を投げる行為よりも物を投げる硬さの方が気になったみたいだ。
だが、美由希は灰皿よりも凶器になる物を散々投げ合っている。

「何、あいつなら訓練で飛針を投げ合ってるんだ。
 問題は無い」

「……それを言われたら、返す言葉ないんだけど」

俺の言葉に、心底呆れたように呟くなのは。
でも、目は笑っていた。
不意に、新たな気配を感じる。
その気配が医務室に入ってくるなり、話してきた。

「あっ、恭也さん……
 目が覚めたんですか?」

「フェイトか?
 ああ、先ほどな……」

地面にうずくまっているはやての存在を無視して、フェイトは俺の側にやってくる。
なのはの事も気にしていたのか、側によるなりフェイトはなのはにも声をかけた。

「なのはもお疲れ。
 ずっと看病してたんでしょ?」

「あはは……
 途中で寝ちゃっていたけどね」

フェイトの言葉に、なのはは苦笑する。
だが俺は、フェイトの言葉が気になったのでたずねた。

「……あれから何時間ぐらい経っているんだ?」

「う〜と、六時間ぐらいかな」

「無事な事は確認できたんですけど、何時ごろ意識が戻るのかは分からなかったものですから……
 特になのはなんか、自分の疲労を省みずに恭也さんの側にいたんですよ」

「あう……、フェイトちゃん」

つまり俺が気絶している間、なのははずっと側にいてくれたようだ。
フェイトに指摘されたなのはは顔を真っ赤にしている。
俺もまた、なのはの事が直視できなくなり視線を外す。
妙な雰囲気がその場を流れる。
しかし、その雰囲気をぶち壊したのは他ならぬはやてだった。

「こら〜、あたしの存在を無視するな〜」

「……はやて、いたの?」

フェイトははやての叫びに、目をパチクリさせている。
その様子だと、本当に気づいていなかったみたいだ。

「その様子だと、はやてちゃんがいるの気づいていなかったんだね」

俺の心を代弁するようになのはは乾いた笑みをして呟いてくれた。
フェイトの言葉に、はやては再びいじけだした。

「うう、フェイトちゃんがあたしをいぢめる」

「そっ、そんなつもりじゃなかったんだけど……」

はやての態度に、おろおろするフェイト。
俺ははやての態度に呆れて、呟いた。

「お前が馬鹿な真似さえしなければ、こんな事にはならなかったぞ」

「だって……」

「医務室で叫んだんだから、自業自得だよ」

心底呆れながら俺となのはは、はやてに突っ込みを入れる。
その行動が天然なのか計算してやっているのかがいまいちわからないのだが……
そんな事を考えていたら、静馬叔父さんがやってきた。

「おっ、ようやく目を覚ましたようだな、恭也」

「心配おかけして申し訳ありません」

「気にするな。
 君があの行動を起こさなかったら、この事件は最悪の結末を迎えていたはずだ」

俺の言葉に、静馬叔父さんは苦笑してやんわりと首を振った。
だが、静馬叔父さんは邪な笑みを浮かべて話を続ける。

「それにしても、両手に華とはやるもんだな」

「……俺は、そんなに器用じゃありませんよ」

「何、ただの冗談だ。
 冗談に真面目で返しても疲れるだけだぞ」

「……疲れさせているのは、何処の誰ですか?」

まったく、静馬叔父さんはこういうことに対しては性質が悪い。
まぁ、美沙斗さんも散々からかわれたって言っていた気がするから、それに比べたらマシかも知れないが。
そんな事を考えてたら、再び静馬叔父さんが真面目な表情になった。
ここら辺のメリハリは見事なものである。

「ところで……
 実際の所、恭也の容態はどうなんだ?」

「え〜と、シャマルさんが言うには意識が戻れば特に問題は無いそうです。
 しばらくは筋肉痛に悩まされるって言っていましたけど……」

「……どおりで、身体のあちこちが痛いわけだ」

俺の筋肉があちこちで悲鳴を上げている。
だが、精霊憑依(ポゼッション)を行なって、筋肉痛だけで済んだのが奇跡だ。
シロやクロから聞いていた話だと、二度と動けない状態になりかねんって言っていたからな。
しかし、フィリス先生のお世話になるかと思うと気が重くなる。

「……また、あのマッサージを受ける羽目になったか」

俺の呟きを聞いた、なのはとフェイトはから笑いを浮かべるだけだった。
二人とも、フィリス先生のマッサージがどんなものか知っているので想像でもしたのだろう。
そんな事を言っていても、無駄に時間を過ごす事になるだけなので話題を変えることにする。

「それで、今後の予定は?」

「その事なんだが……
 恭也、君は動けるようになったら一旦家に帰ってもらう。
 この前の答えは、しばらく考えてから出してくれ」

「了解です。」

確かに、管理局に所属していない俺は回復しだいとっとと家に変えるべきだろう。
それに、整理しなければならない事もある。

「それで、なのは君は私の一存で1ヶ月ほど休暇を取ってもらう。
 人事からも取らせるように言われているのでね」

「あっ、分かりました」

そう言えば、静馬叔父さんはなのはの直属の上司だったな。
それなら、上司命令で休暇を取らせたところで問題はないと思う。
それに、なのはの様子から見ても働きすぎなのが読み取れた。

「フェイト君、君はリンディさんから1ヶ月ほど休暇を取るようにと伝言を貰っている。
 君もまた、結構溜め込んでいると聞いたのでな」

「……それじゃ、お言葉に甘えさせていただきます。
 ここ最近は、エリオやキャロには会っていませんから」

フェイトも休暇をもらえたようだ。
はやては、何かに期待をすがるような表情をして静馬叔父さんに聞いてきた。

「あの〜、あたしは……」

「あ〜、はやて君……
 今の君の立場は、陸への出向だからな。
 申し訳ないが、陸の人事と掛け合ってくれ。
 一応、海の人事からも掛け合うようには伝えてあるがな……」

「そっ、そんなぁ〜」

静馬叔父さんの言葉に、はやてはうなだれる。
そんな姿を見たなのはとフェイトは、はやてから視線をずらしどこか遠くを見るように呟いていた。

「うわっ、陸と海の仲の悪さがこんな所にまで現れてる」

「海と空は、それ程仲が悪いわけじゃないんだけどね」

二人の言葉を聞いて、大体の事情は把握した。
組織内の縄張り争いの影響が響いているのだろう。
どの組織でも抱える問題ではある。

「ええなぁ、なのはちゃんにフェイトちゃん」

「いいなぁって言われても、かなり溜め込んでいるのは事実だし…」

「こういう時に使わないと、後で何を言われるか分からないしね」

ふてくされるはやてに、苦笑してかえるなのはとフェイト。
だが、助け舟を出したのは他ならぬ静馬叔父さんだった。

「まぁ、一日二日ぐらいなら私の権限でどうにかなる。
 この世界でくつろいでいくのも問題はあるまい。
 どうせ、二三日はクラウディアも動かせないしな」

「えっ、ほんまですか?
 おおきにで〜す」

静馬叔父さんの言葉を聞いて、はやては喜んでいた。
それにしても、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように立ち直りが早い。
そんなことを思い、俺は苦笑していた。
だが、俺としては一番気になる事があった。

「それで、静馬叔父さんはどうするつもりです?」

「むっ、私か?」

俺の言葉に、静馬さんは何故か冷や汗をかいている。
どうやら、未だに美沙斗さんと美由希に会う覚悟が出来ていないようだ。
……10年以上も離れていたら、どう会えば良いのかは分からないのも事実なんだが。
しかし、あの時の約束は守ってもらわなければならない、と思っていたら不意に新たな気配を感じる。
どうやら、クロノさんがやってきたようだ。

「ここにいましたか、御神提督」

「むっ、クロノ君か?
 何か用か?」

「えぇ、空の副指令と貴方の秘書から伝言を頼まれました」

「伝言だと……?」

「ええ、そうです。
 『せっかく家族と再会できたのですから、一ヶ月ほどゆっくりと家族団らんをしてください。
  緊急時は問答無用で呼び出しますから』
 だそうです」

「うぐっ」

「静馬叔父さん……
 諦めが肝心ですよ」

俺は、めったに見られない静馬叔父さんの表情を見て笑っていた。
なのはやフェイト、それにはやてにクロノさんも釣られて笑っている。
だが、こんな風に笑えると言う事は、全てが終わったんだと実感できた。
後は、俺自身の秘めた想いに対してどう決着つくかだけだ。
それがどんな結末になるかは予想できないが……
この和やかな雰囲気の中で、俺はそのことに対して想い耽っていた。

to be continued




ども、猫神TOMです。
ようやく、ルオゾールとの死闘を終え残るはエピローグだけです。

まぁ、この時を狙ってコスモノヴァを温存していたのですが……
OGsのアニメーションには驚きましたよ、本気で。

そんなこんなで長いようで短い間、付き合ってくださった皆さんどうもありがとうございます。

前回から投稿が空いた理由は、いろいろとありますが……
一番の理由はパソコン買い替えによる、データ移植に手間取ったのが1番であったり(爆)

ではまた。




死闘を終え、恭也も無事で何より。
美姫 「ほっと一安心ね」
うんうん。恭也となのはの間に流れる何とも言えない空気が。
美姫 「いよいよこのお話も次でエピローグなのね」
寂しいな〜。
美姫 「でも、早く続きが読みたいしね」
まあな。一体、どんな結末を迎えるのか。
美姫 「非常に楽しみにしてますね」
次回を待ってます。



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