なのは's Monologue

ヴォルクルスとの戦いが終わった私は、戦闘後疲労で気絶した恭也君を抱えて高町家に戻りました。
そして、恭也君を寝かせ終えると私も疲労に襲われ気絶。
これが翌朝大騒ぎになるとは思っても見ませんでした。
……ホント、この家の住人は色恋沙汰に興味津々です。

魔法少女リリカルなのは
−White Angel & Black Swordmaster−

Act:05「束の間の休息、なの」

恭也' View

気づいた俺が起きた場所は自分の部屋だった。
確か、ヴォルクルスの戦いの後に意識を失って……
だが、今は布団の中にいる。
状況を把握しようと起きようとした俺だが、左腕に妙な違和感を感じそこを見る。

「!!」

俺の左腕をしっかりつかみ、気持ちよさそうに熟睡しているなのは。
いや、家に居る時は菜乃葉か。
とたんに俺の心拍数が急激に上がる。

「ふぅ。
 妹の方のなのはなら、こんな気分にはならないんだが」

明らかに俺は焦っていた。
こんな所を家族……
特に、かーさんと美由希に見つかったらとんでもない事になるのは確実だ。
俺は、自分の部屋に置いてある時計を見る。

「5時前……
 まずい、非常にますいぞ」

普通は朝の鍛錬の為にも起き出す時間だ。
確かに、昨日の夜は戦闘行為を行なっているため、休んでも良いんだが……
美由希がやってくる可能性はかなり高い。
かといって、熟睡している菜乃葉を起こすのにも躊躇いがある。

「……まったく、可愛い寝顔を見せてくれて。
 反則だ……」

菜乃葉の寝顔から視線を外す。
ぼやかずにはいられない俺だった。
まぁ、菜乃葉が服を着ていてくれたおかげで最悪な事態にはならないと思うが……

「……なんで、菜乃葉の事が気になるんだろうな、俺は」

そう呟きながら、昨日出会ってからの事を思い出していた。
最初は並行世界の妹だと認識していた。
だが、一緒に行動する度に時々見せる愁いを帯びた表情。
俺は、そんな表情をしてる菜乃葉の事が凄く気になった。

「神咲さんと再開した時にも、こんな感じは抱かなかったんだが……」

そんな俺の思いとは裏腹に、心地よいリズムの呼吸をしながら熟睡している菜乃葉。
不意に菜乃葉の腕に力が入り、俺の左腕は菜乃葉の胸の谷間に入る。
俺の左腕に走る、心地よい感触。
俺は、身体が熱くなるのを実感していた。

「……頼むから目を覚ましてくれ。
 こんな所をあいつらに見られたら、どうなることやら」

そう呟いても菜乃葉は一向に起きる気配はない。
これが美由希なら鉄拳制裁するし、他の女性でも腕を外すぐらいはするのだが……
不思議なことに俺は、菜乃葉にその行為をするのを躊躇っている。
八方塞な俺の目の前に白猫と黒猫がやってきた。

《やっと起きたにょか》

《えらくぐっすり眠っていたにゃ》

目の前の猫たちの声が直接頭に響く。
この感じ、サイフィスと会話しているのと同じだ。

《初めましてにゃんだにゃ。
 おいらたち、サイフィスのサポート人格にゃんだにゃ》

《本来は普通に喋れるけど、にゃにも知らない人があたしたちが喋れると知ったら驚く可能性が高いから、念話で喋るにゃ》

《もっとも、そこに眠っているにゃのははおいらたちの事は知ってるにゃ〜》

ふむ、どうやらこの猫たちは実体化しているだけのようだ。
サイフィスはと言うと、紋章を模ったペンダントの様な物になって俺の首にかかっている。

《それで、非戦闘の場合はおいらたちが担当でサイフィスは眠っているんだにゃ》

《魔力の回復に注力しているからしかたにゃいの》

つまり、日常だと回復に集中してダンマリだと言う事か。
だが、それだと情報が手に入らないのではと思ったのだが。

《なら、昨日の話は聞けないと言う事か?》

《心配にゃいんだにゃ》

《あたしたち、サイフィスとデータを共有しているからにゃ。
 恭也に必要にゃ情報は提供できるにゃ》

なる程、そういう事か。
ふと、俺は思った。

《お前たち、名前は無いのか》

区別を付ける為にも必要な事なのだが……

《おいらたちのにゃまえは、今までサイフィスが選んだマスターが好き勝手に付けてきたにゃ》

《にゃので、あたしたちのにゃまえは恭也が決めるにゃ》

そう言う事か。
俺は考える。
むぅ、あまりいい名前が浮かばない。
まぁ、シンプルが一番なので思いついた名前をつけてやった。

《白猫だからシロ、黒猫だからクロ……
 で問題ないな?》

《あっ、安直すぎにゃんんだにゃ〜》

《声を聞いてにゃんとにゃく確信してたけどにゃ〜。
 やっぱりだったにゃ〜》

《むっ、不満か?》

なんか非常に馬鹿にされているような気がするのは気のせいか?

《まぁ、それでいいにゃ》

《恭也の声でそのにゃまえを言われると、前のマスターを思い出すにゃ》

《むっ!!》

気配を感じる。
俺の部屋に向かってくる気配が……。
この気配は美由希か……。

《っ!
 人が来るにゃ》

《あたしたちどうしたほうがいいにゃ》

《普通に猫になっていてくれ》

《わかったにゃ》

そう言い終ると同時に、俺の部屋の扉は開いた。

「美由希か?」

「恭ちゃん、おはよう。
 朝練……」

美由希は言い終る前に、俺の光景を見て絶句。
数秒のタイムラグの後に家が揺れるぐらいの絶叫を放った。

「恭ちゃんが菜乃葉さんと一緒に寝てるぅぅぅぅぅぅう!!」

「うるさいぞ、美由希」

そういって俺は動かせる右腕で訓練用の飛針を拾い、美由希に投げつけた。
混乱してる美由希の頭に直撃。

「恭ちゃん、痛い!!」

涙を浮かべて訴えてくる美由希に呆れながら答える。

「やかましい!
 お前が思っているやましい事は一つたりともしてないぞ」

「だっ、だって〜」

「だってもへったくれもない。
 さらに、かーさんに知られたら……」

俺は言いかけた所で、別の気配を感じた。
この気配は間違いないなくかーさんの気配。
俺は最悪の事態に頭を抱えた。

「恭也?
 さっき美由希が大声出したけど……」

俺の気持ちも知らずにかーさんは俺の部屋を見て言いかけた事に納得する。

「ふ〜ん、恭也。
 ずいぶん菜乃葉ちゃんと関係が進んでいるみたいで」

明らかに獲物を獲たような表情を浮かべるかーさん。
俺は、頭を抱えながらかーさんに言った。

「これのどこが、関係が進んでいると判断できるのだ、高町母よ?」

俺も菜乃葉も服を脱いでいない。
というより、俺は駅前からの記憶が無い。
俺の言葉を無視しかーさんは一人暴走する。

「菜乃葉ちゃんも大胆ね。
 というか、気配に気づかなかったの、恭也?」

「ああ、我ながら情けないことにな」

明らかに熟睡していた俺は全然気づかなかった。
起きて初めて気づいたぐらいだ。
相当疲弊してたんだろう。
不意に左腕の拘束が解かれる。
どうやら菜乃葉が目覚めたようだ。
といっても、眠たそうな顔をして目をこすっているが……

「え〜と、桃子さん、美由希さん。
 おはようございます」

「おはよう、菜乃葉ちゃん」

「えっ、あっ。
 おっ、おはようございます、菜乃葉さん」

目をこすりながらかーさんたちに挨拶するなのは。
まだ、完全に起きてないので状況をつかめてないようだ。
かーさんは完全にからかいモードになっている。
美由希は突然話しかけられて困惑している。
そして、俺と目が合って……

「おっ、おはよう、菜乃葉」

「恭也君、おはよう……
 って、えっ!!
 きょっ、恭也君!?」

今度は菜乃葉の絶叫が俺の部屋で響いた。
見る見るうちに真っ赤に染まる菜乃葉。
俺もそれなりに照れているわけで……

「恭也、詳しい話は朝食の時にね。
 じゃ、私は店の準備に行って来るから」

そういって、かーさんは俺の部屋から出て行った。
明らかに企んだ表情を表して……
しかも嬉しそうに鼻歌までしている。
朝食は質問攻め確定だな。
そんな光景を想像した俺は、元凶である美由希を脅す。

「美由希、覚えておけよ?」

「ちょっ、ちょっとなんで私だけ!?」

「お前が叫ばなければかーさんに知られなった」

美由希が散々わめいているが、俺は無視する。
菜乃葉はというと、まだ完全に凍結中。
美由希がトボトボと俺の部屋から出て行ったのを確認して、菜乃葉を覚醒させた。

「きょっ、恭也君……
 ご、ごめんなさい」

「気にするな。
 俺を運んだのはお前なんだろ?」

「うん」

俺がここに居るということは、駅前で倒れた俺を菜乃葉がここまで運んで来てくれたからだ。
それに、菜乃葉もあの戦いで相当疲労しているはずだから、倒れても不思議じゃない。
だから、俺は菜乃葉に対して感謝することはあっても怒ることは出来ない。
それに、本当の所……
嫌な気分でも無い。
家族にからかわれるのが嫌なんだが……

「まぁ、なんて言うか……」

「うん」

俺は照れ隠しの為、菜乃葉から視線をずらす。
不思議そうに俺を見る菜乃葉。

「俺は気にしてないからな。
 ……というより、嫌な気分でもなかった」

「えっ?」

俺の呟きにキョトンとする菜乃葉。
そして菜乃葉は、俺の言葉の意図に気づいて慌てて俺から視線を外す。
明らかに照れていた。

「あっ、あはははは」

菜乃葉は照れ隠しに苦笑しだす。
だが、俺は朝食の時間に起きる出来事が予想できたので、苦々しく呟いた。

「まぁ、なんだ……。
 わかっているのは、朝食の時間は地獄確定だと言うことだ」

「……うん」

そういって俺たちは壮大なため息を吐いた。
そして俺の部屋では、妙な空気が流れていた。
かといって事態が好転する訳でもないので、俺は話題を変えた。
昨夜の戦闘による菜乃葉の疲労が気になったのもあるが。

「まぁ、ところで戦闘の疲労はどのくらいだ?」

「う〜ん、まだ大丈夫かな。
 まぁ、結構疲れたのは事実だけど」

「そうか。
 なんなら、俺の主治医にマッサージでも頼もうか?」

実際に俺はかなりの疲労を溜めていた。
まぁ、神咲さんのおまじないでも良いんだが、アレは彼女に負担をかける。
菜乃葉みたいに医療で治療出来ないものだったら頼むが、それ以外の事なら神咲さんよりも俺というより家族全員の主治医であるフィリス先生に頼んだ方が心苦しくない。
まぁ、俺は散々フィリス先生を困らせている為、お仕置きが怖いのも事実だが。
かといって、身体を無理させるわけにもいかないので諦めて頼む事にした。

「恭也君の方はどうなの?」

「主治医から戦闘後は呼ぶように言われてる。
 ……おろそかにしたら、俺の命の保障は無い」

俺の言葉に乾いた笑いを浮かべている菜乃葉。
俺がどうなるか想像したみたいだ。
かーさんと美由希が居なくなったのを確認したシロとクロは再び念話で話し出す。

《にゃのはも起きたにょか》

《まぁ、あの戦闘じゃ疲れるのはあたりまえにゃ》

《おはよう、え〜と》

《恭也のネーミングセンスがにゃいにょで、おいらはシロで、そっちがクロににゃったにゃ》

《まぁ、分かりやすいと言えば分かりやすいけどにゃ》

《なんか、非常に馬鹿にされているような気がするのは気のせいか?》

《あはははは、改めてよろしくね、シロちゃん、クロちゃん》

《よろしくにゃ》

シロとクロが菜乃葉と会話してる。
その会話の中で俺が馬鹿にされているのが非常に気になるが。
結局、疲れがたまっていた事もあるが、美由希のせいで大騒ぎになったおかげで朝練は出来なくなった。
なので、ヴォルクルス絡みの話は落ち着いてからと言うことにして、疲れを取る為に朝食まで身体を休ませていた。


なのは's View

私はというと、朝起きてから朝食までの間、風呂を借りて一息ついていました。
まぁ、朝からパニックを起こしてしまったのですが。
深夜、駅前から恭也君を部屋にまで運んで寝かせたのは覚えているんですが、その後の記憶がさっぱりで起きたら恭也君の隣でした。
その光景を桃子さんと美由希さんに目撃されてしまった訳で……
特に桃子さんに見られてしまったのが、現在私と恭也君が抱える現実の問題な訳です。
まぁ、考えても仕方ない事なんですが……
それに、本当の所は少し嬉しかったのも事実です。
恭也君の寝顔を拝む事が出来たし……
私の寝顔もしっかり見られているんですけど……

「菜乃葉さ〜ん、もうすぐ朝食が出来るのでなのちゃん、呼んで来てくれます?」

「はぁ〜い」

リビングで一息ついていた私は、晶ちゃんからの頼みでなのはちゃんを起こしになのはちゃんの部屋に向かいました。
部屋に入ってベッドを見たら、なのはちゃんはぐっすり眠っています。
そんななのはちゃんを見て苦笑しながらも、私はなのはちゃんを起こします。

「なのはちゃん、起きて。
 もう朝だよ」

なのはちゃんの身体を揺すりながら、私は声をかけます。

「う〜ん、菜乃おね〜ちゃん?
 おはよ〜ございま〜す」

寝ぼけながらも起き出すなのはちゃん。
どうも寝起きは悪いようです。
昔は私も一緒だったなぁと懐かしく感じるわけで……
今の私は仕事柄どんな時間帯にでも起きなきゃならない事も多々あるので修正されているのですが。

「うん、おはよう、なのはちゃん。
 もう、朝食だから着替えて下りて来なさいって」

「なのは、りょ〜かいです」

まだ眠たそうにしながらも起き出すなのはちゃんを確認して、私は一足先に下に行きました。
数分の後に完全に目覚めたなのはちゃんも到着して朝食が始まります。
朝食が始まって数分は平和でしたが……

「そ〜いや、菜乃葉ちゃん?」

「なっ、なんでしょう、桃子さん?」

桃子さんの表情を見て明らかに危険を感じる私。
恭也君は普段よりもさらに無表情、美由希さんは何か恐れている表情をしています。
他のみんなはキョトンとして見守っています。

「恭也と一緒に寝ていたみたいだけど、どうだった?」

「え〜、恭也がぁ!」

「師匠にもとうとう春が」

「お師匠、手がはやいです」

「おにーちゃん、菜乃おね〜ちゃんとくっついたの?」

桃子さんの爆弾発言に、恭也君と美由希さん以外は驚愕。
いえ、晶ちゃん、レンちゃんは祝福モードに入っています。
なのはちゃんは、明らかに疑問顔ですが……
恭也君は明らかにどす黒いオーラをまとっていますし、美由希さんはそんな恭也君を恐れています。
実際に桃子さんにバレたのは、美由希さんの絶叫なのは事実ですが……

「って、師匠がただ事じゃない気を発している」

「……もしかしてウチら爆弾踏みました?」

「おっ、おにーちゃん、その……」

恭也君のどす黒いオーラを見た3人は自分の勘違いにあたふたしてます。
フィアッセさんは成り行きを見て苦笑。
なんだかんだいって一番冷静なのはフィアッセさんなのかな。

「あの、その……
 深夜帰宅して、気絶していた恭也君を部屋まで運んだのは事実なんですけど……」

「ふんふん」

桃子さんは興味津々で聞いています。
晶ちゃんとレンちゃんは恐怖心と戦いながらも興味津々。
なのはちゃんはあえて黙認して食事に集中。
フィアッセさんも一歩引いて傍観中です。
けど、私も恭也君もやましい事はしてないので事実だけを伝えます。

「そこで記憶がなく、目覚めたら恭也君の隣にいただけです」

「大体俺は、駅前から朝までの記憶が無いんだぞ」

恭也君も感情を押し殺しながらも私をフォローしてくれます。
桃子さんは不満顔。
他のみんなは苦笑しています。

「それにしても珍しいですね、師匠」

「ほんまにです。
 合宿の鍛錬から帰ってきた時ぐらいですかね、お師匠が人の気配に気づかないのは」

晶ちゃん、レンちゃんは恭也君が熟睡する事の方が気になったみたいです。
というか、熟睡するぐらの鍛錬って……

「まぁ、確かに……
 昨夜の戦闘は、一週間の合宿で行なった鍛錬よりきつかったのは事実だ」

恭也君は晶ちゃんやレンちゃんの話に反応して普通に答えます。
ええ、晶ちゃんやレンちゃんに答える時はどす黒いオーラが消えてます。
なのはちゃんは恭也君の身体を心配したのか、恭也君を気遣っています。

「おにーちゃん、フィリス先生の所に行くの?」

「いや、今日は病院が休日だからフィリス先生が都合が付く時間に来てもらおうかと思う」

「……珍しいね、おにーちゃん。
 病院嫌いなのに」

「いや、流石に……
 フィリス先生を困らせたら、命の保障が無いからな」

なのはちゃんの質問に苦虫を潰しながらも答える恭也君。
その様子だと恭也君がフィリス先生って方をを相当困らせてるみたいですが……

「まぁ、フィリスがせっかく完治するって言ってくれるんだから、素直に行きなさいよ」

「といってもなぁ、待ち時間が勿体無いというかなんと言うか……」

フィアッセさんの言葉に、ほとほと困ったように話す恭也君。
そういえば、恭也君って昔交通事故に遭ったって言っていた。
でも、まだ膝が完治していないのかな。
だけど、膝が完治してないでアレだけの動きをしているのは疑問な訳で……

「ついでに美由希の分も頼んどくからな」

「うん、恭ちゃん、お願いしとく」

美由希さんは、いまだに青ざめながらも素直にうなずいています。
ついでなので私も受けることにしました。
昨日は結構ハードな体験をしてるので、身体にもかなりの負担がかかっているのは確実。
取れる時に取っておかないと後々響きますから。
これは、大怪我した時に得た教訓ですけどね。
話が私たちの関係から外れてホッとしたときに、桃子さんは蒸し返します。

「本当に、疲れて眠っていた恭也を部屋まで運んで力尽きただけなの?」

「最初からそう言っていますが、桃子さん?」

桃子さんの質問にウンザリしながら答える私。

「まったく、恭也も恭也よ!
 こんな可愛い子が側に寝てて手も出さないなんて、あんたそれでも男なの!」

桃子さんは無駄だと判断したのか、私を無視して今度は恭也君に絡みました。
もっとも、これが恭也君の堪忍袋の尾を切ってしまったみたいですが……
案の定、恭也君の周囲にはどす黒いオーラが噴出。
周りのみんなは恭也君の表情を見て固まっています。
桃子さんも、危険を察知したみたいですけど……

「高町母よ」

「なっ、なにかな?」

明らかに怒気をはらんだ恭也君の声に、心底恐れを抱いた桃子さんは逃げる準備をしています。
そんなことは露知らず、恭也君は不気味に微笑みながら会話を続けます。

「なに、親の日頃の疲れを癒す為に息子がマッサージをしてあげようかと提案するのだが?」

「えっ、遠慮してもいいかしら」

桃子さんの肩にしっかりと右手でつかむ恭也君。
その手は逃げることを許さないとでも言いたそうに桃子さんの肩にしっかりと食い込んでいます。

「恭ちゃんの握力は90Kgだからね……」

「アレでマッサージされたら、死ぬのは確実だね」

「まぁ、今回は桃子ちゃんが全面的に悪いからなぁ〜」

「自業自得ですね」

「おか〜さんももう少し状況ってのを把握した方がいいと思います」

美由希さん、フィアッセさん、レンちゃん、晶ちゃん、なのはちゃんがそれぞれ今の状況に対する感想を述べています。
完全に孤立している桃子さん。
美由希さんはいまだに青ざめており、他のみんなは完全に呆れています。
不意に、桃子さんの携帯が鳴り、なにやら話をしています。
携帯を切った桃子さんは、してやったりの表情を浮かべます。

「きょっ、恭也。
 私、今日は急ぐから、まっ、またこんどね」

恐怖から開放されるのか、どこと無くあせっているのがみえみえな桃子さん。
ですが、恭也君の一言で完全に凍りつきました。

「なに、店が終了してからもマッサージは出来るから問題ない。
 楽しみにしてほしいぞ、高町母よ」

完全に恭也君の勝利宣言でした。
魂を抜かれた桃子さんは、トボトボと店に向かうのでした。
桃子さんがいなくなった後、平穏な空気に包まれていたのですが……

「おか〜さんがアレなので、黙っていたのですが……
 本当のところ、なのはもおにーちゃんと菜乃おね〜ちゃんの関係は気になります」

「うぐっ」

なのはちゃんの発言に食事を詰まらせる恭也君。
私も一瞬噴出しそうになりました。
それに体温が上昇するのも感じます。

「う〜ん、私も気になるかな?
 側から見てると、なんかお似合いだし……」

「俺もそれは感じてました。
 師匠が妙に気にしているというか……」

「そうですな〜。
 ウチも気になっておりました。
 なんてゆうか、那美さんと同格の扱いというか……」

なのはちゃんの発言に便乗して、フィアッセさん、晶ちゃん、レンちゃんものってきます。
桃子さんよりはマシですが、彼女たちも他人の色恋沙汰に興味津々。
観念したのか恭也君はボソボソと喋りだしました。

「……まぁ、気になる、気にならないと言われれば、気になっているのは事実だ」

恭也君が視線を外しながら答えます。
何か照れているようですが……
でも、恭也君の言葉に私も反応して顔が赤くなるのを感じました。

「ただ、昨日再会したばかりで今日だぞ?
 お前らが望む関係に進む方が無理だと思うが?」

恭也君のもっともな一言に、美由希さん以外は苦笑。
というか、美由希さんはさっきから顔を青ざめて会話にあまり入ってきません。
そんな美由希さんが気になったのか、なのはちゃんは恭也君に聞きます。

「ところでおにーちゃん。
 おねーちゃん、どうしたの?」

「何、朝食前に大騒ぎしてくれたのと昨日の制裁分がまだ残っているので楽しみにしているようにって言ってやっただけだ」

なのはちゃんの質問に、実に楽しそうに答える恭也君。
恭也君の答えに乾いた笑いを浮かべるなのはちゃん。
いや、他のみんなも乾いた笑いを浮かべています。
桃子さんから受けたストレスも返すつもりなのかなと私は思ってしまいます。
まぁ、少しだけ哀れみもあるんですけど、自業自得なんで助けるつもりはありません。
しかし私たち、みんなにそんな風に見られていたんだ。
でも、そう見られても嫌な気分じゃない。
ユーノ君やクロノ君だとこんな気分になったことすらない……
だけど、私は恭也君のどこに惹かれているのだろうか?
並行世界の兄だけじゃ無いのは確かなんだけど……
自分の思いに、まだ自信が持てなくて……
それに恭也君はどんな気持ちなんだろう?

「ところで師匠、昨日の件で話があるんですが」

「うん、なんだ?」

ふと、晶ちゃんは思い出したように恭也君に話してきました。
恭也君は興味を示したのか、晶ちゃんに聞き返しています。

「実は、ここに三体ほどゴーレムがやってきたんですよ」

「えっ!?」

私は驚きました。
まぁ、あれほど大量に周辺で発生すれば何体かはやってくる可能性はあるんですが……
それにしても私が帰宅した時に見た限りでは、この家は被害を受けていなかったものですから。
もっとも恭也君はというと、家族が全員無事だったこともあり平然としていますが。

「ふむ、それで?」

「俺と亀でそいつらをぶっ倒したんですが……」

「!!」

嘘!?
あのゴーレムを晶ちゃんとレンちゃんだけで倒したの!?
アレって確かAAクラスの魔法生物だったんですけど……
というか、恭也君は全然驚いていないし!?

「何か問題でも?」

「まぁ、話聞くより庭に出て見てください」

「ふむ」

晶ちゃんとレンちゃんに連れて行かれて庭を覗いてみたんですけど。
砂の山が三つ出来ています。
その内の一つが黄金色に輝いていました。

「うっ、うそ!?
 あれ黄金!?」

美由希さんは驚いてます。
驚いているのは美由希さんだけではないのですが。
私も絶句しましたし……
恭也君はその黄金色に輝く山を調べます。

「ふむ、砂金か」

「ええ、砂の方は臨海公園などに捨ててくれば問題ないんですけど……」

「その砂金の山はどうしたらよいかと思いまして……」

「専門家に任せるしかないだろ。
 まぁ、窃盗物じゃないのは確かだろうが、かといって勝手に処分するわけにもいかんな」

そういって恭也君はこのことに関して打ち切りました。
晶ちゃんもレンちゃんも恭也君の提案に従います。

「それにしても結構な量だな」

恭也君は感心するように呟いたのでした。
夜の争いが嘘のように空は快晴です。



恭也' View

朝食が終了後、俺はフィリス先生に電話をかけた。
フィリス先生はというと、リスティさんに聞いたのか今すぐ行きますと宣言して電話を切り、30分もたたないうちに高町家にやって来た。
フィリス先生の表情に恐れをなした俺だったが、挨拶をしておく。

「……フィリス先生、ご無沙汰しております」

「ええ、恭也君。
 ホントにご無沙汰してますよねぇ。
 大体貴方は、限界ギリギリにならないとこないんですから!」

明らかに怒気をはらんだフィリス先生の声。
前にサボった記憶はないんだがなぁと思いながらも覚悟を決める俺。

「……お手柔らかにお願いいたします」

「ええ、出来るだけ善処します。
 ……って、珍しいですね、恭也君が自ら呼び出すなんて」

さっきの怒気はどこへやら、ニコニコしながら話だすフィリス先生。
まぁ、玄関先で会話しているのもあれなので部屋に上がってもらう事にする。

「え〜と、本日は俺以外に美由希と、昨日家に来た親戚もお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、いいですよ」

これで、美由希と菜乃葉にもマッサージをしてもらう事が可能。
まぁ、嫌なことは早い方がいいので俺からマッサージをしてもらう事にした。
それで、俺の部屋で布団の上に横になった俺だったんだが……

「せっ、先生。
 もっ、もうすこし……」

「駄目ですよ、結構あちこちにガタが来てますから。
 まぁ、予想していたのより酷くなかったのは幸いですけどね」

俺の悲鳴を無視し楽しそうにマッサージをするフィリス先生。
絶対に日頃の恨みを込めている。
俺の部屋の扉の前で、菜乃葉となのは、美由希が俺を見ている。

「え〜と、なのはちゃん?
 フィリス先生って言ったっけ?
 あの人のマッサージってそんなに凄いの?」

「おにーちゃんのアレは普段サボっているお仕置きですので、自業自得です。
 普段はやさしい先生ですよ、菜乃おね〜ちゃん」

「わっ、私はフィリス先生の言いつけ守ってるからね。
 恭ちゃんみたいにはならないと思う」

菜乃葉は俺が受けているマッサージに恐怖を覚えたようだが、なのはと美由希は苦笑している。
というより、今回俺には味方がいない。
身体はフィリス先生のマッサージによって言葉にならない音を叩き出してくれる。
不意に、気配を感じた。

「うぐっ。
 みっ、美由希、リスティさんと神咲さんが来たようだから玄関に迎いに行ってくれ。
 ぐほっ。
 あ、後、なのは。
 久遠も来たようだぞ」

「了解、いってくるね」

「おにーちゃん、凄いです」

美由希となのはは俺の部屋を出て玄関に向かった。
菜乃葉は苦笑しながら俺を見守っている。
フィリス先生はリスティさんの事が気になるのか俺に聞いてくる。

「リスティ、来るんですか?」

「えぇ、昨日の件で話を聞きたいとの事でしたので……
 うぐっ」

「なら、比較的真面目モードなんですね今日の彼女は」

「っつ。
 そうだと良いんですが……」

フィリス先生の呟きに俺も苦笑しながら肯定する。
基本的にリスティさんもお祭り好きである。
ただ、仕事と遊びを完全に区別するのでまだマシであった。
もっとも遊び人モードに入ったリスティさんはかーさんと同類なのだが。

「ところで、そこの女の子……
 菜乃葉さんでしたっけ、恭也君とはどんな関係?」

フィリス先生も色恋沙汰に興味津々なようで……
なんで俺の周りにはこんな人ばっかなんだろう。
菜乃葉は菜乃葉でフィリス先生の言葉に反応して表情が赤く染まる。

「いっ、先程も申しましたが、生き別れた親戚ですよ」

「その割には、結構仲がよさそうですけど……
 はい、これでお終い」

「……ありがとうございました」

ようやく地獄のマッサージがやっと終わった。
まぁ、フィリス先生のマッサージは効果抜群なので昨夜の戦闘の疲労はほぼ無くなっていた。
俺は軽く身体を動かす。
ちょうどその時、美由希がリスティさんと神咲さんを連れて戻ってきた。

「ハイ、恭也……
 なんだ、フィリスも来てたのか」

「おはようリスティ。
 ええ、問題患者の診察で」

フィリス先生の一言に笑うリスティさん。
フィリス先生の一言に傷つきながらも、表情にはださずリスティさんと神咲さんに挨拶をする。

「おはようございます、リスティさん、神咲さん。
 美由希、ところでなのはは?」

「なのはなら、久遠と庭で遊んでるよ」

美由希の答えと同時に外からなのはの声が聞こえた。

「おチビと、久遠はホントなかがいいねぇ」

「ええ、そうですね」

リスティさんが呆れながらの一言に神咲さんは苦笑して相槌を打つ。

「リスティさん、神咲さん。
 ここで立ち話もなんですから、リビングにでも場所を移しましょう。
 美由希は俺と一緒に来い。
 菜乃葉はフィリス先生にマッサージをしてもらうがいい」

「ああ、わかった。
 それじゃ、いこうか」

「はい、分かりました」

「うん、恭ちゃん」

「うん、ありがとう恭也君。
 え〜と、フィリス先生……
 よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね。
 あっ、そこで横になってね」

フィリス先生が菜乃葉のマッサージの準備に取り掛かったのと同時に、俺たちは部屋を出てリビングに向かった。
リビングにつき、各自のお茶も用意した所で本題に入った。
リスティさんが持ってきたビデオをリビングにあるテレビで表示させる。

「海鳴臨海公園、海鳴大学病院、海鳴駅前、八束神社に現れた化け物……
 これで見間違いは無いな」

そういって、確認するリスティさん。

「ええ、間違っていません」

「はい」

「間違いありません」

俺と美由希、神咲さんは肯定する。
見間違うはずも無い。
だが、俺はこの化け物以外にも目撃している。
それを話すべきかどうか、俺は迷っていた。

「それと、海鳴駅前で起きた半球体現象なんだが……」

リスティさんは話しながらビデオをまわす。
そう最初のヴォルクルスが登場する所までは、ビルの防犯カメラなどで取られていた。

「これが現れたのと同時に発生している。
 そして、そこからの映像は残っていない」

そういってビデオを終了させるリスティさん。
つまり、俺たちが結界に閉じ込められた時になんらかの影響でカメラが壊れたようだ。
なら、俺が魔導師に覚醒したことは知られていないということだ。

「それで恭也、この出来事の後約3時間について聞きたいのだが?」

「えぇ、そうですね……」

まぁ、二体目が現れて合体したなんて言っても信じてくれるわけがないから適当に誤魔化す。
実際、一体目を破壊するのにも苦労はしているわけだし、問題あるまい。

「え〜と、その約3時間ずっとアレと戦闘してたわけで……
 なかなか弱点が見つからずてこずっていました」

「ふむ、嘘は言っていないね」

「嘘だと思うならどうぞ心を覗いてください」

俺は、嘘は言っていない。
真実を話していないだけ。
リスティさんが能力を使用してもバレないと宣言できる。

「その様子だと覗いた所で情報は入りそうもないね。
 済まん、恭也。」

「いえ、アレが非現実的なのは事実ですし」

そういって苦笑する俺。
それにしても、なんで俺の周りではこうも非現実的な出来事が起きるのだろうか?
まぁ、考えても仕方ない。
美由希も神咲さんも苦笑している。

「あぁ、ところで恭也?」

「なんでしょう?」

「実は、あの化け物の中に砂金で出来ていた奴がいたの知ってるか?」

どうやら、砂金で出来ていたゴーレムは一体だけではなかったようだ。

「ええ。
 その内の一体が家に来たらしくて、晶とレンが倒したんですが……」

「ほう、晶は明心館道場で習っているから分からなくともないが、レンも凄腕だったのか?」

「まぁ、レンは晶とタイマン張れますから」

レンの実力を知らなかったリスティさんは聞き返してきました。
もっとも、美由希の一言に苦笑して納得するんですが。

「じゃぁ、今回の報酬は砂金の山でいいか?」

「リスティさんがよろしいって言うのでしたら、こちらとしては問題ありません」

あの砂金の山を売ったらかなりの金額になるだろう。
まぁ、家と道場と店の改装資金にでもしとけば問題あるまい。

「じゃ、ボクは報告があるのでこれで帰らせてもらうよ。
 ホントはもっと遊びたかったんだけどね」

「それじゃ玄関まで送ります」

リスティさんは仕事の為、高町家を後にした。
そして俺は再びリビングに戻る。
神咲さんはまだ家に残っている。

「あの、恭也さん?」

「なんでしょう、神咲さん」

「あの、その……
 おまじないはしなくても大丈夫ですか?」

そういや、昨夜電話で美由希が言っていたな。
だが、俺は神咲さんにおまじないをしてもらうほど傷ついていない。
疲労に関しても先程フィリス先生にマッサージを受けた。

「ええ、俺は大丈夫です。
 ただ、俺の知り合いにはやって頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「恭也さんの知り合いですか?
 ええ、別に構いませんよぉ」

俺は俺自身にやってもらう事は丁重に断りつつも、菜乃葉の傷を治す為に神咲さんに頼んだ。
神咲さんは、快諾してくれた。
後は、菜乃葉に神咲さんを紹介するだけだ。
それに菜乃葉と神咲さんは仲良くなれそうな気もする。
そんな事を考えながらリビングでお茶を飲むのだった。



なのは's View

恭也君が自分の部屋を出た後、私は恭也君がマッサージを受けていた布団に寝てフィリス先生のマッサージを受けています。
恭也君のを見てたせいで、少しばかり恐怖心を抱いていたのですが……
実際にはそれ程、というより、恭也君が悲鳴を上げたのが不思議なぐらい気持ちいいマッサージを受けています。
それでも、結構肉体を酷使しているので痛い部分はあるんですが……

「っつ、少し痛いです」

「あ〜、ここ結構疲労が溜まってるからね。
 少し我慢してね」

「はぁ〜い」

少し涙目になる私。
それでも気持ちいいのは変わり無く……

「さっき散々恭也君がわめいていたんで少し怖かったんですけど……」

「あ〜、あれね。
 普段、通院をサボるからお仕置きですよ」

ニコニコと笑いながら答えるフィリス先生。
見た目は少女っぽいのに、中々素敵な性格をしています。
それにしても、不思議な感じのする女性です、フィリス先生は……

「ところで、菜乃葉ちゃん?」

「はい、なんでしょう?」

フィリス先生がたずねてきたので聞き返す私。
だけど、フィリス先生の一言に絶句するのでした。

「昔、大怪我したこと無い」

「えっ、どうしてわかったんですか?」

「こう見えても医者ですよ。
 身体の作りぐらい、手で触ればある程度は分かります」

伊達に医者をやっているわけじゃないんだ。
しょうがないので、ある程度誤魔化して答えました。

「だいぶ昔に交通事故に遭いまして……」

「なるほどね……
 恭也君と同じだね」

「そうですね。
 彼も交通事故に遭ったって言っていましたし」

フィリス先生は、恭也君の……
というより高町家の主治医だから、恭也君の過去を知っていても不思議じゃない。
だから、朝の食事で気になった事があったので、思い切って聞いて見ました。

「恭也君の右膝って何か問題抱えているんですか?」

私の質問に、フィリス先生はキョトンとし、そして苦笑して答えてくれました。

「正確には問題を抱えていたになるのかな。
 かれこれ10年ぐらい前の話になるんだけど……
 恭也君が事故に遭った当時は医療技術が今みたいになってなくてね、歩行までは回復出来たんだけど激しい運動は無理だったの」

私は黙って聞いてます。
つまり、それ程酷い怪我を受けていたってことなんだ。
私の怪我と同じだ。
私も飛べないどころか歩くことさえ出来ないって言われた……

「でもね、半年前に友人のコンサートを護るために無茶をして、怪我を負った右膝に負担をかけて悪化……
 それで、私が担当になって手術を行なったの」

「そうだったんですか」

恭也君ならありえる話だと思う。
私だったら……
同じ状況なら同じ事をするんだろうなと思う。

「でもね、昔と違って進化した医療技術なら恭也君を完全に回復する事が可能になったので、本来はとっくに回復しているはずなんだけど……」

「それで……」

「恭也君、自分の体調を完全に把握できるようになったんで限界ギリギリまで鍛錬を行なうから、膝の回復が遅れてるのよ」

そういってほとほと困ったそうに答えるフィリス先生。
恭也君らしいなと思う自分がいます。
私はそんなフィリス先生の言葉に苦笑するしかありませんでした。
私はというと、やっぱり恭也君と同じ事する可能性は高いかなと思う。

「まぁ、でも……
 さっきも確認したけど、今はほとんど完治しているといっても間違いじゃないから、それほど心配する必要はないよ」

「そうですか」

先の戦闘で感じた心配は杞憂だったようです。
フィリス先生が言うには、恭也君は自分の体調を完全に把握しているようで限界を知っているという事。
つまり、無駄に無茶をする事は無いと言う事。
逆に言えば、限界ギリギリまで無茶する事は確定なんですが……

「ところで、菜乃葉ちゃん。
 自分の身体……」

「ええ、わかっています。
 二度目が無いって事は……」

「そう」

ここまでバレていたら隠す必要も無いのであっさり答えてしまいました。
フィリス先生は一瞬考え事をして、苦笑して話してきました。

「まぁ、那美ちゃんに頼めば完治するね。
 ここまで回復しているなら」

「へっ!?」

フィリス先生の言葉に、間が抜けた答えを出してしまった私。
そういえば昨日も恭也君が言っていた。

「フィリス先生は、神咲さんの力知っているのですか?」

「うん、何回かお世話にもなっているしね。
 因みに、ここの住人も何度もお世話になっているよ。
 恭也君は昔の事もあり、出来るだけ遠慮しているみたいだけど……」

「恭也君が度合いによって神咲さんの体力が消耗するって言ってました」

「うん、そうだね」

フィリス先生は私の言葉を肯定します。

「恭也君が歩けるようになったのは、他でもない那美ちゃんの力のおかげなんだって」

「えぇ、そう聞いています」

少し嫌な気分になります。
なんだろうこの気持ち……
そんな私の事は関係なく、フィリス先生は話を続けます。

「もっとも当の本人たちは、一年前に再会した時まで当時の事を忘れていたそうだけど」

「……なんか、素敵な話というよりも間抜けな話に聞こえるのは気のせいですか?」

「当の本人たちが覚えていた上で再会なら、物語としては面白そうだけどね」

そういって苦笑するフィリス先生。
私も釣られて苦笑します。

「それに、恭也君って意外とそういった感情に無頓着だからね」

マッサージをしている手を緩めずに会話を続けるフィリス先生。
う〜む、こうも他の人の評価が一致していると言う事は、恭也君はかなりの朴念仁なんだろうな。
それはそれで、安心するというか、なんていうか……

「え〜と……」

「それに、恭也君と那美ちゃんが既にくっついているならとっくに大騒ぎになっているよ。
 だから菜乃葉ちゃん、まだチャンスはあるよ」

「いっ、いや……
 それはその……」

う〜、フィリス先生も色恋沙汰の話は好きそうで……
というより、私と恭也君はそんな関係じゃなくて……
あぅ、何故、私は焦っているのだろう……

「はい、お終い。
 菜乃葉ちゃん、もう起きてもいいよ」

「あっ、どうもありがとうございます」

そういってフィリス先生にお辞儀をして、私は身体を軽く動かしました。
朝に比べてだいぶ疲労が取れたようで、なんだか軽く感じます。
ちょうどその時、リスティさんって言った人との話が終わったのか、恭也君が美由希さんと神咲さんを連れて部屋に戻ってきました。

「フィリス先生、終わりましたか?」

「ええ、ちょうど今終わりました。
 それで、次の患者さんは美由希さんですね?」

「はい、よろしくお願いします」

そういって、フィリス先生は美由希さんを連れて美由希さんの部屋に向かいました。

「あっ、菜乃葉。
 こちらが、昨日言っていた神咲……
 神咲那美さん」

「初めまして、神咲那美です」

え〜と、凄く可愛い人だなと思う。
なんか毒気を抜かれそうなホンワカとした雰囲気を漂わせています。

「それで神咲さん。
 こっちが、先程言っていた親戚の菜乃葉……
 御神菜乃葉です」

「御神菜乃葉です。
 初めまして、神咲さん」

「えっと、那美でいいですよ。
 私も菜乃葉さんと言いますので」

「それじゃ、那美さんと言うことで……」

私も那美さんに挨拶をします。

「それじゃ、俺は席を外しますので」

「はい、分かりました」

そういって恭也君は席を外したのでした。

「あの、え〜と……」

「話は恭也さんから聞いていますよ。
 気にしないで下さい」

微笑みながら話してくる那美さんに逆らうわけにも行かず、その厚意をありがたく受け取ることにしました。
そして、神咲さんは私の両肩に手を置いてなにやら集中しています。
とたんに私の身体には魔力とは違う不思議な力が入ってくるのを感じました。
そして数分たった後、那美さんは私の両肩に乗せた手をどかしました。

「流石に、一日で回復できる怪我ではないみたいです」

「そうですか……」

那美さんの言葉に少し落胆。
でも善意で行なっていただいているので文句も言えるわけじゃない……

「でも、同じ事を約一週間ぐらいやれば完治しますよ」

「えっ、本当ですか!?」

「ええ」

意外でした。
魔法でも完治しないと言われた怪我が約一週間で完治するなんて……
驚いた私に微笑みながら那美さんは話を続けます。

「……本当の所、一日でも治せるんですけど。
 そうすると私の体力が持たないので、流石に心配されるのもアレですから……」

「……あはははは。
 そういうことでしたら」

那美さんの言葉に私は苦笑していました。
単純に那美さんの体力が持たないからなようです。
過去、恭也君の膝を癒した時に無理をして風邪を引いて寝込んだって、那美さんは私に話してくれました。
那美さんも私と一緒で結構無茶するみたいです。

「そういうことなので、ここしばらくは毎日ここに通わせて頂きますから」

「あっ、ありがとうございます」

私は那美さんにお礼を言いました。
那美さんは、そんな私に苦笑して答えます。

「いえいえ、おきになさら……
 って、あぁぁぁあ」

……何も無いところで盛大にこけた那美さん。
私は今起きた光景に固まっています。

「あっ、あたたたた……」

「だっ、大丈夫ですか?」

那美さんは、涙目になりながらも大丈夫ですと答えてくる。
何か凄く心配したんですけど、まぁ、大事にならなくてよかったと思います。

「私って、結構ドジなんですよね〜」

そういってくる那美さんに、私は黙って聞いてました。
ええ、聞いている内に呆れてきましたよ。
いや、なんかもう那美さんのドジは一生治らない気がします。
まぁ、でも……
那美さんは心が広い人だと思います。
そして、恭也君の周りには良い人ばかり集まっている気がします。
……お祭り好きな人も多いんですが。
不意に何を思ったのか、那美さんが私に質問をしてきました。

「菜乃葉さんって、恭也さんの事好きなんですか?」

「えっ?」

那美さんの一言に私は驚きました。
桃子さんたちは明らかにからかい半分で聞いてくる質問なのですが……
那美さんは微笑みながらも、真剣な目つきで私を直視しています。
彼女の真剣さに私は本心を言うことになりました。

「……恭也君に惹かれているのは事実です。
 それが、友情なのか愛情なのかまでは、自分自身確信が持てないのですが……」

「そうですか……
 私も似たような感じですね」

そういって苦笑する那美さん。
本当に他の人とは違います。

「先程、ここに来る前に桃子さんに出会ったんですよ。
 それで、挨拶した後の二言目になんて言ったと思います?」

「まさか、ライバル出現……
 ですか?」

「そうですよ〜。
 私、恭也さんとそんな関係じゃないんですけどね」

桃子さんならやりかねないです。
那美さんの困った表情に私は苦笑していました。
不意に、那美さんは先程の表情になりました。
そう、私に質問した表情に……

「菜乃葉さんと初めて挨拶した時に、恭也さんとお似合いだなって思ったんですよ」

「えっ、そういう那美さんこそ、恭也君とお似合いだと思いますよ」

「そんなこと、ないですよ〜」

実際、恭也君と那美さんが並んでいた時に感じていました。
恭也君とお似合いだと……
ですが、那美さんは自分の事を棚に上げて私を評価してくれています。
そして、相変わらず那美さんは苦笑しています。

「でも、今後はお互いに苦労しますね……」

「えぇ、特に桃子さんには……」

そういってお互いに苦笑しました。
でも、那美さんのおかげで自分の感情を認識できたのも事実です。
今は、友情なのか愛情なのかまでは判断できませんが……
まぁ、なんていいますか……
那美さんとならどんな事があっても関係は壊れないと確信が持てます。
那美さんは、本当に不思議な人です。
昨夜の戦闘は嘘のように、ゆっくりと時間が過ぎていきました。



恭也's View

リスティさんへの報告と、フィリス先生のマッサージが終わったのが昼前だった。
美由希は那美さんと約束があったのか、そのまま美由希の部屋に行っている。
なのはは道場の練習が終わった晶とレンと共にリビングでゲーム中。
フィアッセは翠屋の手伝いで家に居ない。
そして俺はと言うと、菜乃葉と共に縁側でお茶を飲んでいた。
俺の膝にはシロとクロが座っており、菜乃葉の膝には久遠が寝転んでいる。
まるで昨夜の戦闘が幻のように感じているが、俺の胸にはペンダント・デバイスが存在していた。
もっとも今はくつろいでいるので関係ないんだが。

「恭也君が……
 ううん、この家が凄く羨ましいな」

不意に、菜乃葉が空を見上げながら呟いた。
いきなり何を言い出したのか分からなかった俺は、菜乃葉に聞き返す。

「この家が?」

「うん」

そういって肯く菜乃葉。
俺は疑問に思いながらも、菜乃葉が話すのを黙って聞いていた。

「私は、なのはちゃんと違ってお父さんは健在だった……」

菜乃葉は遠くを見つめるように空を見ながら話を続ける。

「だけど、私が小さいとき仕事上で事故が起きたの。
 それで小さい私を除いて、家族はお父さんにつきっきりで看病したり……
 当時創めたばかりの喫茶店を軌道に乗せる為に家に居ることが少なかったんだ……」

俺は気づいてしまった。
菜乃葉が抱えてた闇の正体に。
幼い頃、本当に必要な時に居てもらえない孤独感……
それがいまでも、菜乃葉の心に住み着いている。

「お前が何でも抱え込む性格になった要因なんだな?」

「うん……
 わかっちゃった?」

「ああ」

俺はそういいながら、俺の手を菜乃葉の肩に置き身体を引き寄せる。
一瞬、慌てた素振りを見せた菜乃葉だが、俺は意に返さなかった。

「ここはお前の知っている兄は存在しない。
 こんな俺でよければお前の感情を素直にぶつけくれ」

そういって俺は菜乃葉の肩に置いていた手を、菜乃葉の頭に移動させた。
我ながら、自分らしく無い事をしていると思う。
だが、俺は菜乃葉を放っては置けなかった。
そんな俺を、一瞬とまどった表情をした菜乃葉だったが、顔を俺の胸で隠すように泣き出した。
俺は、泣いている菜乃葉を黙って見守るしか出来なかった。
どれぐらい抱え込んでいたのだろうか。
抱え込んでいた物を全て流すように菜乃葉は泣いた。
数分の後に、菜乃葉は自分を取り戻した。
とてもすっきりした表情をして。

「恭也君……
 ありがと」

「気にするな。
 俺もあいつに孤独感を与えてしまった愚か者だからな」

「えっ?
 でも、なのはちゃんは……」

俺はなのはに孤独感を与えてしまっている。
いや、かーさんも美由希もなのはが生まれた頃はかまってやることが出来なかった……
菜乃葉となのはの違い、それは同じ孤独感を共有出来る存在がいたかいないかに過ぎない。

「あいつが、まっすぐに成長出来たのは、他でもない晶とレンのおかげなんだ。
 普段、ブーブー文句言っているが」

「えっ、そうなの?」

菜乃葉は信じられないとでも言いたそうな表情をしている。
俺は苦笑しながら昔話を話し出した。

「居候する事になった当時、晶の家庭は離婚の危機で晶はかなり荒んでいたんだ。
 今の晶を見ると信じられないぐらいにな……」

菜乃葉は俺の話を黙って聞いている。

「そしてレンは親が仕事で海外に行くことになったんだが……
 当時心臓に持病を抱えてて、海外に出ることが出来なかった」

「なのはちゃんは、自分が抱えている孤独感を共有できる存在がいたんだね」

「そういうことだ。
 それも物心がついた時にな」

菜乃葉も俺の話から気づいたようで答えを導きだした。
俺は、菜乃葉が導きだした答えを肯定する。
普段言い争いをしている三人組ではあるが、その絆は固い友情で結ばれている。

「それで当時の俺はと言うと……」

本当になっていないと自分でも思う。
だが、菜乃葉には自分の過去を知って欲しいと思ったのも事実だ。
だから、俺はそのまま話していた。

「とーさんを失ってから、家族を護るのは自分だと息巻いていたわけで……
 まだ小学生の身体能力しか無いのに無謀な鍛錬をしていんだ」

「強くなるために?」

「そうだ」

菜乃葉は俺の話を聞いている。
俺はお茶を一口飲み、空を見上げていた。

「それでな、自分の限界を超えた鍛錬を行なってたせいで、身体中が疲労困憊になっていた。
 そして、飛び出てきた車に反応できず、俺はその車に轢かれた」

菜乃葉は驚愕していた。
俺は、菜乃葉が驚愕した理由が分からなかったが、そのまま話を続ける。

「本来なら事故にならなかった事。
 結果的に俺は当時完治することはなかった。
 当然、剣士の道を閉ざされた俺は自暴自棄になったよ……」

「そうだったんだ……
 恭也君が事故で負った傷の概要はフィリス先生から聞いてたんだけど」

「……あの人は」

菜乃葉は俺の話の概要をフィリス先生から聞いていたみたいだった。
まぁ、他人に自分の過去をばらされるのは癪に障る。
……だけど、俺はあの人には逆らえない程の借りがあるのも事実だった。
俺の話を聞いていた菜乃葉は思い出したように話し出した。

「私が大怪我を負った理由も恭也君と似ているんだ」

「そうなのか?」

「うん」

俺は黙って菜乃葉の話を聞いていた。
特に似ていると菜乃葉自信が言っていたのに興味があったから。

「私ね、魔法と出会った時。
 何も知識が無くて身体に負担がかかる魔法とかをガンガン使っていたんだ」

「状況がそうさせたからじゃないのか?」

俺の言葉に菜乃葉は横に振る。
そして、そのまま話を続ける。

「確かに当時は必要だったから使っていたのもあったんだけど……
 時空管理局の仕事に携わるようになって、訓練でも使ってたの……
 事故が起こる直前まで自分の身体の状態がわからなかった……」

なんのことはない。
菜乃葉の事故も、本来は防げた事故。
だが、身体の限界を知らなかった当時、普通にやっていただけだった。
俺ががむしゃらに鍛錬して事故に遭ったのとまったく一緒だった。

「……本当に似ているな、俺たちは」

「うん、そうだね」

そういって俺たちは苦笑する。
しばらく俺たちの間で静寂が包む。
そして心地よい風が吹いた。
俺は今後の事を考えながら、束の間の休息を楽しんでいた。
そして、この時初めて自覚した。
俺は菜乃葉……
いや高町なのはを護りたいと……
それが、友情なのか愛情なのかまでは未だ判断できなかったが。

to be continued




後書き

猫神TOMです。

5話をお送りいたします。
なんか当初の予定と違って、恭也君にもフラグが立ってしまったようです。
う〜む、ほのぼの日常編になるはずが、激甘恋愛になってしまった。
まぁ、でも……
恭也もなのは(リリカル)もウブなものですから、これからどうなることやら……
フィリスさん、那美、リスティは登場させることが出来たのに、月村忍嬢が未だ登場できていないorz
シチュエーション的にギャグ担当になる可能性が大ですから……
う〜む、サイドストーリーでも考えてみようかなとおもう今日この頃の私。

まぁ、桃子さんが大暴れしてくれているお陰で、高町家を書くのは楽しいです。
戦闘パートよりも筆が進む。

では



戦闘が終わっての束の間の休息って感じ。
美姫 「ほのぼのとしてて良いわよね〜」
うんうん。恭也となのはも互いに意識しつつ…。
うあー、この微妙な感じがまた良い。
美姫 「次回も益々気になるわね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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