深紅の堕天使

第3話〜かわった名前ですね〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何なんだよ、これは!」

真雪さんが大声を上げてリビングのテーブルを叩く。

そこに置かれているのはいくつもの武器。

普通より半分ほどの長さの刀(小太刀というやつかな?)が二本、

投擲武器のようなものが数十本と非常に硬い糸が巻きつけられたリールが二つ置かれていた。

これら全て、今朝方送られてきた今日入寮予定の女の子の荷物から出てきたものだ。

「そ、そんな事を言われましてもね…」

俺、槙原耕介は困ったように頭を掻いた。

「愛!お前何かしらねぇのか!?」

「さ、さぁ。私はただ啓吾さんの紹介で受け入れただけですから」

「ああ、そりゃああたしだってわかってるさ。けどな、こんなもん送ってくる奴ぁ常識人とは思えねぇ」

「うちにして見れば真雪さんも、十分常識人から離れてると思いますが」

「おい神咲、そりゃどういう意味だ」

「真雪さんの普段の生活からして明白です!

それで最近リスティにまで悪影響を及ぼしているのはお分かりでしょう!」

「あんだと!?」

「もう、お姉ちゃんやめてよ! 薫さんも落ち着いて!

今はそんな事言い合っている場合じゃないでしょ!」

口論になり始めた二人を知佳がなだめる。

「ああ、すまんね、知佳ちゃん」

薫は知佳ちゃんに謝るが、真雪さんは明後日の方を向いて押し黙るだけだった。

「でも…やっぱりこういうのを使ってる子っていうのはちょうおっかないやね」

「そうですね〜ちょっと怖いですね」

「いくらおとーさんでも信用できないのだ〜」

ゆうひとみなみちゃん、美緒もおおむね真雪さんと同意見のようだ。

「十六夜、御架月、どないしたんね」

薫が眼を閉じて何かを探る十六夜さんと御架月に尋ねる。

「実はこの刀から、霊力を感じるのです」

十六夜さんはそう言って二本の刀に手を添える。

「ええ、巧妙に隠蔽されていて、おそらく和音様ほど出なければ気づけないでしょう。

僕も姉様も霊剣として存在していなければ、気付く事はなかったと思います」

「そして、この小太刀に込められている力はそれだけでは有りません」

「妖気…じゃね」

薫の言葉に頷く二人。

「ああ、それなら俺も気付いてるよ」

俺は刀から眼を離し、他の武器に向ける。

刀だけじゃない。他の武器にも妖気が込められているからだ。

「ってことは何か? これを使ってるやつは妖怪の類だって事か?」

「それはどうでしょう」

真雪さんの問いに十六夜さんは首を振る。

「妖魔はそれ単体で人を凌駕する力を持っています。

それを補うためにこのような武器を使うとはとても思えません」

「そうじゃね、武器を使う妖魔の事は聞いたことはあるが、霊剣の類を使う事は聞いた事がない」

十六夜さんの言葉に薫は頷く。

「まあ、それは本人が来たときにでも聞けばいいと思うよ。

みんな、それでいいかい?」

俺の言葉に皆は頷いた。

 

 

 

 

 

「はあ、もう少しやな」

うち…神咲楓は桜並木が見えたところで一息ついて後ろを見る。

「そうね」

「は、はい〜…」

「くぅーん」

そこにはうちの従姉妹の葉弓さんと薫の妹(言うても拾われっ子やけど)の那美ちゃんと

その腕に抱かれた妖狐の久遠がおる。

「那美ちゃん、疲れてるみたいだけど、大丈夫? 何処かで休む?」

葉弓さんが那美ちゃんを気遣うが、那美ちゃんは「大丈夫です」と答える。

けど、ちょう心配やな…。

うちは近くにベンチがあることに気づいた

「あともうちょいやし、すこし休もうや」

「え、で、でも…」

「ええからええから♪」

うちが那美ちゃんをベンチに座らせると、少しして那美ちゃんはうとうとし始める。

それを見た葉弓さんは那美ちゃんの隣に座って膝枕をしてあげる。

そして久遠はベンチの下で丸くなっとる。

うちも葉弓さんの隣に座ってまだ咲き始めたばかりの桜を見上げる。

「はぁ〜、この桜…今はまだこんなんやけど、もう少ししたら凄く見栄えが良くなるんやな…」

「そうね…。薫ちゃん、凄く綺麗だって言ってたもんね…」

しばらく二人で桜を見上げてると、うちは不意に今来た道の方から『何か』の気配を感じた。

葉弓さんも気付いとる。

なんや…この霊気と妖気が混じりあったような気配は…

「葉弓さん…」

「ええ…」

気配が徐々に近づいてくる。

…? なんやどっかで感じた事の有る気配やな…。

うちは立ち上がると、昔友人から貰った小太刀、「七夜」を手にかける。

気配の動きが止まった…。うちらに気付いたみたいやな…。

うちは広域探査をかける。するとすぐに場所がわかった。

10mちゅうところか…。

うちは抜刀の体制をとる。次の瞬間!

ヒュン! ガキィーン!

「か、カエちゃん…?」

「か、かなめっち…」

『なんで(や)?』

振るわれた剣を防いでお互いの顔を見て驚き、うちらはハモる。

てか、マジで何でや?

躍り出てきたのは五年振りに見た顔。ほんの数日間しか一緒に居られへんかった友人、御破要…。

「う、うちらはその…この先にあるさざなみ女子寮ちゅう所に従姉妹が居るんで、それで…」

「そ、そうなんだ…。あたし、そこで暮らすようお世話になってる人に言われてて…」

「そ、そうなんか…」

うん、と頷くかなめっち。

「え、えっと…久しぶり…だね」

そう言って剣をおさめるかなめっち。

うちも剣をおさめる。

「そ、そやね、久しぶり…やね。久しぶり、なんやけど…」

「カエちゃん…?」

うちは眼に浮かぶ涙を隠すようかなめっちに抱きついた。

「この五年間何しとったんや!! 一切音沙汰無しで!! 手紙出しても全然返事返さへんし!! 

なんかあったやないかと心配、しとったんやで!?」

「ご、ごめんね、カエちゃん!? ほんとはあたしだって手紙出したかったんだけど…

って何を言ってもただの言い訳か…!と、とにかくごめんね!?」

かなめっちがうちを抱き返してくれる。

うちを囲む懐かしい匂い。けどその中に別の匂いがしとる…。これって…。

「血の…匂い…?」

びくりっとかなめっちが震えたのがわかった。

うちはかなめっちから離れて顔を見ると辛そうな、苦しそうな顔で眼を逸らしていた。

この顔、何処かで見たような……。

あ……そうや……。

あれは確か…まだ、かなめっちがうちにおうた時…。

 

〈強いなぁーかなめっちは〉

〈そんな事ないよ。カエちゃんだって飲み込みが早いじゃん〉

〈せやけど、うちのお父ちゃんと互角やんか〉

〈それは剣の求める先が違うだけだよ〉

〈求める先?〉

〈カエちゃんたち神咲の剣は霊や妖魔、人に仇なすものを狩る為。

だけど、御神の剣は人に仇なす剣。人を斬る為の、命を奪う為の剣なんだ〉

 

そんな事を言うときの顔がこんなんやったな…。

「カエちゃん…あたし…っ!」

「大丈夫や」

泣きそうになったかなめっちの頭をぽんぽんと叩く。

「どれ位の人を傷つけたかしらへんけど、殺したわけじゃあらへんやろ。

それに、殺したってかなめっちが殺そう思った人や。うちも好きになれへんやろうからな」

かなめっちは一度驚いたような顔をすると、くすっと笑うといたずらっ子な顔をする。

「変わったね、カエちゃんは。初めて会ったとき、出会い頭にいきなり「妖魔退散!」とか言って刀を振り回して」

うっ。

「その後、負けたら負けたで同じ小太刀だとわかると、今度は剣を教えてってあたしを付け回していたカエちゃんとは思えないなぁ」

ううっ。

「しょ、しょうがないやんか! うち、半妖が来るなんて思わへんかったし!」

「あたしに勝ったら教えてあげるなんて言ったら、寝込み闇討ち霊気技乱発と」

「か、かなめっち! そこまでいう事あらへんやろ!?」

うわー! 今思い出すとめっちゃ恥かしいわ!

「ぷっ…」

後ろから笑い声が聞こえた。振り向くと葉弓さんが口に手を添えて笑っていた。

「は、葉弓さ〜ん!」

「ご、ごめんなさい。だって楓ちゃん、そんな風に楽しそうに話す所、あまりないから…」

「ん〜?」

那美ちゃんがゆっくりと起き上がった。

那美ちゃん…、わりと騒いだような気がしたんやけど、そんな中でも寝とったんかい…。

「えっと、かなめっちさん?かわった名前ですね」

かなめっちが「は?」と間抜けた声を出す。

は、葉弓さん、ちゃいます! それちょうちゃいます!

「私、楓ちゃんの再従姉妹で神咲真鳴流の当代、神咲葉弓です。よろしく」

葉弓さんはベンチから立つと自己紹介する。

は、葉弓さん…無視ですか…?

「ええっと、あたしは御破要といいます。よろしく」

苦笑しながら自己紹介するかなめっち。

こういう間違われ方って、結構きついんとちゃうか…?

「要? かなめっちではないのですか?」

「それは、カエちゃんがそう呼んでいるだけで、本当の名前じゃないんです」

「あらら、そうだったんだ。ごめんね」

一見すると悪びれた様子のない葉弓さんにかなめっちは乾いた笑い声を出す。

「ごめんな、かなめっち。葉弓さん、結構天然さんやから…」

「そ、そうなんだ…。なんとなくそんな気はしてたんだけど…」

かなめっちは困った顔でそう言いながら自分の頬を掻く。

「あ、それでね」

葉弓さんが那美ちゃんを自分の前に立たせる。

「この子は那美ちゃん。神咲一灯流の当代、神咲薫の妹さんね」

「は、はじめまして…、神咲那美です…。よろしく…」

そう言って、那美ちゃんは恥かしそうに葉弓さんの後ろに隠れてかなめっちを見る。

「御破要よ。よろしくね、那美ちゃん」

そう言ってかなめっちは那美ちゃんの目の高さまで屈んで頭を撫でる。

那美ちゃんは顔を赤くして俯く。

「あはは♪ 人見知りなのかな? それとも、ただの恥かしがりやさん?」

かなめっちの言葉に那美ちゃんはますます赤くなる。

「ははは♪ かなめっち、那美ちゃんをあんま苛めんといてな」

「ごめんごめん♪」

うーん、やっぱ那美ちゃんってからかいやすいんやろか。

「くぅーん…」

「あ、久遠…」

久遠が那美の頭の上に乗る。

「この子は久遠です」

「くぅーん」

挨拶するように一鳴きする久遠。

かなめっちは「可愛い♪」と言って久遠を撫でる。

「この子、祟りなんだね。可哀想て言うか、なんて言うか…」

「かなめっち、わかるんか?」

「まあね、妖狐みたいだし。それならあたしとそれほど変わらないよ」

そう言って久遠を抱き寄せるかなめっち。

久遠…相手は初対面やのに珍しく大人しいなぁ…

「ところで、そろそろ行かない? 話しているうちにもうお昼になりそうだし」

「そやね」

「ええ、那美ちゃん、歩ける?」

「はい〜、大丈夫です」

「辛かったら言ってね。背中ぐらいは貸せるから」

「あ、はい。ありがとうございます」

「大丈夫なんか?」

「半妖って、意外と体力あるんだよねぇ…」

苦笑するかなめっち。

そしてうちらはさざなみ寮へと続く桜並木を歩いていった。

 

 

 

 

 

 





あ、あははは。
美姫 「武器の類を普通に配達」
そりゃあ、驚くって。
美姫 「でも、勝手に荷物を開けるのは良くないと思うな」
それはほら、整理しておいてあげようとしたんだろう。
美姫 「それで出てきたのが武器だったからって、勝手に隠すのも良くないと思うな」
それはほら、その武器の使用される状況を想像したら、勝手に身体が動いたんだろう。
美姫 「だからって、荷物届いたって聞いたのに、知らないってのは酷いと思うな」
それはほら、その武器が主に自分に振るわれるのが分かっているからだろう。
美姫 「だからって、嘘は駄目だと思うな」
それはほら、正直に白状したら丁度いいって新品の武器の実験体にされるからだろう。
美姫 「でも、嘘でも正直に言っても結果は変わらないと思うな」
それはほら、今の状況を見ればしみじみと実感している所だろう。
って言うか、痛い(涙)
美姫 「って、アンタの所為で感想言えてないし!」
俺の所為かよ!
美姫 「コホン。えーっと、思わぬ再会があったみたいね」
だな。でも、楓や葉弓と一緒なら武器に件もうやむやになるんじゃないかな。
美姫 「うーん、これからどうなっていくのかしら」
いやいや、とても楽しみです。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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