深紅の堕天使

第二話〜また、来るよ〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《海鳴、海鳴です。お降りの方はお忘れ物がございませんよう、お気をつけください》

あたしは荷物をまとめて(といっても旅行鞄一つだけだが)電車を降りる。

そして改札を通り、駅を出ると、

「へ〜、いい所だね」

あたしの目の前に美しい町並みが広がっていた。

海と山に囲まれ、特に山の自然はほぼ手付かずのまま残されている。

しばらく街を見回したあと、あたしは目的地へ歩いていった。

向かう先は喫茶「翠屋」。

警防隊で得た情報ではこの喫茶店の店長さんは義父さんの再婚相手だったはずだ。

あたしは南商店街で「翠屋」の看板を見つけ、店内へ入る。

からんからん。

「いらっしゃいませー!」

元気のいい声と共に店員と思われる少女があたしに近づいてきた。

「お一人様でしょうか」

「あ、はい」

あたしは一度頷くと席を見回す。

「えっと、カウンター、いいですか」

「あ、はい、構いません」

あたしは店員の言葉に頷くとカウンター席の方に座る。

すぐに店員が水とおしぼりとメニューをあたしの前に置く。

「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」

そういって一礼すると、ホールの方へ戻っていった。

メニューを開いて少し考え込む。

正直言って、あたしは別に食べるつもりで来たわけじゃない。

ここの店長さんに話を聞きたかったからだ。

けどまぁ、おいしいもの食うのは悪くない。

甘い物は別腹だし。

あたしは店員を呼んで、特製シュークリームセット(コーヒー)を注文する。

「ご注文の方はよろしいでしょうか」

「はい」

「かしこまりました」

「あ、ちょっといいですか?」

「はい?」

「店長さん、いたら呼んでくれますか?」

「あ、はい…」

店員は怪訝な顔つきで厨房の方へ向かう。

そりゃそうだろう、初めて来た客がいきなり店長呼ぶんだから。

少しして、一人の女性が厨房から出てきた。

第一印象、この人ほんとに三十路一歩手前?

な、なんか若すぎる……。

「こんにちは、翠屋店長の高町桃子です」

「御破要です。始めまして」

互いに会釈を交わす。

「それで何か御用ですか」

「ええ、士郎さんのことで少し」

「主人の事で…?」

すこし顔を訝むようにする桃子さん。

ぐ、露骨過ぎたか…。

「あ、いえ、士郎さんのお墓参りに行こうかと思いまして」

「墓参り…ですか?」

「ええ」

少し驚いたような顔をする桃子さん。

「あの、主人とはどういう関係で…?」

うーん…。

どうしよう、言うべきか言わざるべきか…。

正直に言ってしまうと、後でどうなるか予測がつかない。

また「龍」が動くかもしれないし…。

「あ、あの…?」

「ああ、すみません」

考えすぎた。

いや、よく考えてみればすぐに気付くことだ。

狙われるかもしれないのに、養父さんは「不破」を名乗り続けた。

なら、その事のリスクもこの人はわかっているかもしれない。

よし…。

「あたしと士郎さんの関係は親子ですよ」

「親子…」

「正確には養子、ですけどね」

そう言うと途端に桃子さんの顔が笑顔になる。

「ああ! あなたがあの要ちゃんなのね!」

「どの要という人があたしなのかわかりませんけど、多分それですよ」

そう言うと、桃子さんはしきりに「うんうん」と頷く。

「士郎さんから色々聞いてましたよ♪何かと口うるさい娘だったって」

あのクソ親父……自分がその原因だって自覚ないんかい。

いや、あの人のことだ。自覚してても絶対自分の責任だって思ってないな…。

「そういう事なのね。それじゃあ、お参りの品も作らなきゃね♪」

そういって桃子さんはステップしてしまいそうなほどの舞い上がりようで厨房に戻っていった。

いや、確かに奥さんのお菓子は養父さんにとってこれ以上に無い土産だろうけど、お酒はどうすんのさ。

あの人、無類の酒好きだし。

「かなめおねーちゃん……?」

「ん?」

呼ばれた方をみると何処かで見た事のある、翠屋のエプロンをつけた小学生ぐらいの女の子があたしを見ていた。

「おねーちゃん、かなめおねーちゃんなの?」

「え?」

って、よく見てみればこの子、写真でみただけだけど、

顔つきが子供の頃の美沙斗さんによく似てる!

てかそっくし!?

「も、もしかして……美由希…?」

「うん♪」

「あたしの事、覚えてるの?」

「うん!覚えてるよ♪」

「そっか〜♪」

くしゃくしゃと美由希の頭を撫でる。

美由希は嬉しそうに、あたしにされるままになっている。

「ねぇ、おねーちゃん……」

「ん?」

「みゆきのおかーさん……しってる……?」

「……え?」

美由希、いきなり何を…?

「あのね……」

からんからん

「いらっしゃいませー!」

ドアベルが鳴り、女のような顔立ちをした男の子と小柄な女の子、頭から尻尾を生やした背の高い女の子の三人が入ってきた。

美由希は一度あたしに頭を下げてから、三人の所へ行った。

すぐに桃子さんが注文した品を持ってきた。

「お待たせしました♪」

「あ、ありがとうございます」

さっそく食べてみる。

さっくりとした衣とまぶされた粉砂糖、

そして、中に詰まったクリーム。

これらが上手く調和して、今まで味わった事の無い美味しさを感じた。

「……すご……?」

なんか変…。

たぶん隠し味だろう。あたしの舌がそう感じた。

「いかがでしょう」

桃子さんが聞いてきた。

「はい、美味しいです。こんなに美味しいシュークリーム、初めてですよ」

「ありがとうございます♪」

その後、桃子さんから墓参りの品を貰って、養父さんの墓と近くの酒屋の場所を聞いて翠屋を出た。

次にあたしは酒屋で安物のお酒を買って(嫌がらせ? その通りよ(にやり))、高台の墓地へ向かう。

 

〜墓地〜

「ここね……」

あたしは養父さんの墓の前に立ち、眼下に広がる街を見下ろしている。

街を見下ろせるなんて、いい場所に葬ってもらったね。

あたしも、ここに埋めてもらおうかな…。

頬を優しく撫でるような風を感じながらそんなことを思う。

あたしは酒瓶の蓋を開けて墓にかけ、墓参りの品を取り出し墓の前に置き、手を合わせ、眼を閉じる。

少しそのままにして、あたしは口を開いた。

「久しぶりだね、養父さん。死んだって聞いて驚いたよ。

しかも桃子さんや恭也たちを置いてさ…。

あたし、あのテロの後、香港に行ってたんだ。知ってるよね、啓吾さんと会ったんだから」

答えはない。

「それから少しして、美沙斗さんに会ったんだ。その時に一度斬り合ったんだけど、完膚無きにまでやられちゃったよ」

おどけるように笑う。何かから逃げるように。

何から? 何からだろう。

「その後あたし、「花菱」の強化版を作ったんだ。「散華」って言うんだけど…」

ぽつん…。

知らずに早口になっていく。本当に…どうして…。

「今、剣がないから見せられないんだけど、いつか見せるよ」

ぽつん…ぽつん…。

眼がかすんできた…。雨? こんなにも晴れてるのに?

「そ、そのときには……か、感想……っ…聞かせ…てよね…?」

ああ……あたしの涙か…。

「なんで…!」

自覚したらもう止まらなかった。

「なんで、死んだのよ…! まだ、話したい事とか…教わりたい事とか…っ…いっぱい、有ったのに…!」

あたしは少しの間泣いた。

泣いて何かが戻る事はないけれど、それでも何かの踏ん切りのようなものになればいいなと

心のどこかで思いながら、あたしは泣いていた。

 

 

 

 

しばらくして、涙は止まった。

「あ〜〜〜、なんかスッキリした」

いや、マジで。

あたしは目を拭い、手荷物を持って立ち上がる。

「んじゃ、いくよ。」

墓に背を向けて歩き始める。

「おい」

養父さんに呼ばれた気がした。

振り返るけど、誰もいない。

「大丈夫。また、来るよ」

そう言って、また歩き始める。

その時のあたしの顔は笑顔だったに違いない。

 

 

 

 

 

 





う、うぅ、ええ話や。
美姫 「うんうん。士郎へと語り掛けるシーンはしみじみするわね」
しかし、美由希は母親の存在を知っているみたいだったな。
美姫 「確かにね。これが今後、どう影響するのかしら」
うーん、どうなるんだろう。



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