魔法少女リリカルなのはASIF

第一話〜いつも突然な始まり〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜12月2日夕刻 風ヶ丘図書館〜

 

海鳴図書館の前に一台のリムジンが止まる。

その後部座席から紫の髪を腰辺りまで伸ばした少女が降りてきた。

少女は自分が降りた後部座席の方に体を向ける。

「それじゃまたね、なのはちゃん、アリサちゃん」

「うん、またね。すずかちゃん」

「じゃね」

手を振りながら見送る友人二人を乗せた車が走り去っていった。

そして、すずかは図書館の中へと入っていった。

 

人が静かに読書をしている中、すずかは目当ての本を探して本棚を見ていた。

その時、本棚越しに車椅子に乗った栗色の髪の少女が本に手を伸ばしていた。

だが、車椅子に乗っている分、背が低くなってしまっているのか、あと少しのところで届かないでいる。

すずかはすぐに少女の元へ走った。

そして少女が取ろうとしている本を取る。

「あ…」

とられた本を追うように少女がすずかの方を向いた。

すずかは少女の目の高さに合わせるようにしゃがみ、本を差し出す。

「これで…いいですか?」

「はい。ありがとうございます」

二人は近くの机に行き、お互いがこの図書館に訪れていて、お互いの事を見掛けていたことを話した。

「私は月村すずかといいます」

「すずかちゃん。

八神はやていいます」

「はやてちゃん」

「平仮名で「はやて」。へんな名前やろ」

すずかは綺麗な名前だといい、はやては感謝の言葉を述べた。

そこへ2冊の辞書を抱えたやや薄い茶色の髪の少年が近づいてきた。

「はやて、お待たせ…て、すずか」

「あ、楓斗(かざと)君。こんばんは」

「ああ。こんばんは」

「知り合い?」

「同じ学校の生徒だよ」

はやては楓斗が抱えている本の題名が目に入り、思わず目を擦った。

そして改めて見てもやはり同じ物が見える。

見出しに書いてあるのは「西日辞典」と「葡日辞典」。

「なんでスペイン語とポルトガル語の辞典持っとんの」

「母の翻訳」

「なんや、今度はスペインとポルトガルの本か?」

「そうらしい。名前も売れてきているしな」

二人の会話で気付いたようにすずかが声を上げた。

「もしかして楓斗君のお母さんって伊吹優奈さん?」

すずかの問いに楓斗は頷く。

楓斗の母、伊吹優奈はフリーの翻訳家であるが、その手の編集社の間では知られており、手伝い程度の翻訳から一冊丸々の翻訳をすることがある。

「同じ姓だからもしかしたらって思って、翻訳された本を読んだことあるけど、やっぱりそうなんだ」

「ご愛読ありがとうございます」

まるで接客のように礼を言う楓斗に二人はくすくすと笑う。

楓斗もつられる様に笑みを浮かべた。

 

少しの間三人は玄関へ通じる廊下を進んでいく。

そこでコートを着た女性が誰かを待っているように壁際に立っていた。

その女性はシャマルだった。

シャマルは三人を見ると、すずかに会釈する。すずかも返す。

「すずかちゃん、ここでええよ」

「うん。それじゃね、はやてちゃん。楓斗君も、また月曜」

「ああ。学校で」

 

すずかと別れ、楓斗は辞書の借り出しの手続きをし、シャマルを入れた三人で外に出る。

そして、駐車場で待っていたシグナムと合流する。

「シグナムとシャマルは今日の晩御飯なにがいい?」

「そうですね…悩みます」

「スーパーで材料を見ながら考えましょうか」

はやてはシャマルの言葉に頷くと、何かを思い出したように二人に聞いた。

「そういえば、ヴィータは今日もどこかにお出かけ?」

「えーっと、そうですね…」

「遊び歩いているようですが、ザフィーラがついていますので、あまり心配なさる事はないかと」

言葉濁すシャマルに変わるように、シグナムが言葉を紡ぐ。

「そっか…」

その答えにわずかに俯くはやてを楓斗は励ますようにはやての頭に手を置いた。

「大丈夫さ。少し離れていても、側にいるよ」

「そう?」

「ええ」

「はい。私達はいつでも、あなたの側に」

「ありがとう」

はやてはそういう二人に素直に感謝の言葉を述べた。

シグナムが楓斗に声をかける。

「しかし、お前は本当に、主はやてもそうだが、しっかりしている」

「そうか?」

「ヴィータには少しでも見習ってほしいと思う」

「俺も…時々ヴィータを羨ましく思えるよ」

三人は「え?」という顔で楓斗を見る。

それに対して楓斗は笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

〜夜 海鳴市上空〜

その日の深夜、海鳴市の上空に二つの影があった。

一つはお下げを二本つけ、機械仕掛けの鉄鎚を持った少女。

もう一つは蒼い毛並みを生やした狼だった。

「どうだ、ヴィータ。見つかりそうか」

狼が口を開き、ヴィータと呼んだ少女に問う。

「いるような……いないような……」

ヴィータは呟くような声で答え、柄の長い鉄槌を肩に担ぐ。

二人が探しているのは時折夜中に感じる魔力反応の元だった。

その魔力はヴィータが感じるところによると、20ページ分は手に入るという。

だが今はその魔力は微妙に感じられる程度でしかなかった。

街の人に見られるのを恐れ、探知魔法を使っていないのもあるが。

「分かれて探そう。闇の書は預ける」

「おっけー、ザフィーラ。あんたもしっかり探しなさいよ」

「心得ている」

そう言って飛び去っていくザフィーラを見送り、ヴィータは鉄鎚を構える。

そして、魔法行使のために、頂点に円がついた三角形の赤い魔法陣を展開する。

「封鎖領域、展開」

Gefangnis der Magie

無機質な音声と共に暗い何かが鉄鎚を中心に広がっていく。

それは広がっていくたびに人や車を消し去っていく。魔導師や騎士しか入れない結界だった。

ヴィータはその中で目瞑り、感覚を研ぎ澄ます。

目標は弱いものじゃない。時折感じる強力なもの。

しばらくそのままにいて、ついにその目標を捕らえた。

「魔力反応! 大物見っけ!」

それは確かに、これまでの魔導師とは比べ物にならない程強い魔力だった。

「行くよ、グラーフアイゼン」

Jawohl

「鉄の伯爵」の名を持つ長年の相棒が応える。

前傾姿勢を取り、目標に向かって赤い尾を引きながら飛行していく。

しばらく飛行していると、グラーフアイゼンから報告が来た。

〈対象、接近中〉

その報告を受け、さらに加速する。

さらに飛行を続けていると、目標らしき人影をあるビルの屋上に見つけた。

その人物は自分と殆ど変わらない歳のようで、ヴィータを、正しくは結界を張った主を探しているようだった。

ヴィータはそのはるか上空でこぶし大の鉄球を取り出す。

Schwalbefliegen

「飛翔する燕」の名を持つ誘導弾をサーブのように上に投げ、グラーフアイゼンで打ち出す。

ヴィータはその間に相手の背後を取る様に動き、一気に急降下する。

相手がシュヴァルベフリーゲンを防いでいる内に後方から強襲する。

「あっ!」

「テートリヒ・シュラーク!」

グラーフアイゼンに魔力を込めて叩き込む。

ツインテールの少女がこちらにも盾型の防御魔法を展開する。

(防御魔法を二つ!? けどな!)

数瞬の拮抗の後爆発、少女を吹き飛ばす。

「痛烈な一撃」の名を持つこの攻撃には防御魔法は無意味。

付加効果の爆発よって防御回避問わずに敵を破壊する。

ヴィータはビルから落下していく少女を追う。

その少女が落下していく途中で桜色の光に包まれた。

少女はまるで踊るように防護服を装着していく。

そして装着を終えた少女――高町なのはの手には赤の宝玉のついた杖が握られた。

まだ結界内にいるなのはに向けて、ヴィータが鉄球を打ち込む。

鉄球は結界を貫けて爆発。

爆発で発生した煙幕に向けてヴィータが飛び込み、グラーフアイゼンを振り下ろす。

直後に足首の辺りに羽を生やしたなのはが煙幕から飛び出す。

「襲われる理由は無いんだけど、何処の子!? なんでこんなことするの!」

(んなこと言う必要はねえ)

即決したヴィータは指の間に二つの鉄球を出現する。

「言ってくれなきゃ、わからないってば!」

印を組むように腕を振るうなのは。

それに合わせてヴィータの後ろから二つの光球が向かってくる。

それに気付いたヴィータは一発目を避けるが、いつ飛ばしたのかわからず一瞬唖然とし、二発目を受けてしまう。

盾を作り出して受けたので、無傷ですんだが、餌といえる魔導師の攻撃を受けた事がヴィータの自尊心に傷をつけた。

半ば逆切れのようにデバイスを振るう。

なのははその一撃を回避し、レイジングハートを射撃形態に変形させ、ヴィータに向ける。

「話を…」

レイジングハートに四つの環状魔法陣が展開し、先端に魔力が集中する。

(なんだ、こいつ!?)

それはヴィータがここ最近戦ってきた魔導師よりも強力なものだった。

Divine

「聞いてってば!」

Buster

強力な砲撃魔法がヴィータに向かって放たれる。

辛うじてかわす事ができたが、帽子が壊れ、吹き飛ばされているのを見て、ついにヴィータが切れた。

赤の魔法陣を展開し、鉄槌を振るう。

その鉄槌の柄が僅かに伸びる。伸びた分には、弾丸らしきものが装填されていた。

「グラーフアイゼン、カートリッジロード!」

Explosion

伸びた部分がコッキング音を響かせながら再び収まる。

Raketenform

無機質な音声と共に、一方に突起、もう一方に噴射口が出てきた。

それを見たなのはの顔が驚愕に変わった。

それに一瞥をくれることなくヴィータが命ずる。

「ラケーテン!」

噴射口から魔力の炎が吹き上がる。

その勢いに乗って数度回転し、なのはに迫る。

なのはは盾を展開するが、グラーフアイゼンは易々と突き破り、さらにレイジングハートにダメージを入れる。

「ハンマー!」

そのままなのはを吹き飛ばす。

悲鳴を上げながらビルの壁を突き破るなのは。

ヴィータはそれを追うように空を翔る。

衝撃と埃で咳き込むなのはにヴィータが追い打ちをかける。

Protection

レイジングハートが防御魔法を展開、突起が障壁を突き破ろうとする。

しかし今度は盾のようにはいかなかった。

「ぶっ続けーー!!」

Jawohl

さらにカートリッジをロード。

ロケットの噴射口から強力な炎が吹き上がる。

その勢いに耐え切れず、ついにバリアが砕ける。

突起がなのはに迫るが、防護服が当たった瞬間衝撃を和らげるように四散した。

その衝撃に弾かれるように壁に当たって座り込み、痛みに体を震わすなのは。

着地したヴィータはそれを見たまま息を整える。

数度の呼吸で落ち着きを取り戻したヴィータはなのはに向かってグラーフアイゼンを振り上げる。

震える手でレイジングハートをヴィータにむけるなのは。

ぼやけたなのはの視界にグラーフアイゼンを振り上げたヴィータの姿が映る。

(こんな所で……終わり…? 嫌だ…!)

そう思ったなのはの脳裏に半年前に出会った友の姿が浮かんだ。

(ユーノ君…)

最初は喋るフェレットだと思っていた、なのはの師匠である少年。

(クロノ君…)

ジュエルシードを集める最中に出会った執務官の少年。

そして、戦いの中で心を通わせた、また会おうと約束した新しい友達。

(フェイトちゃん!)

友の名を心の中で叫び、来る痛みに耐えようと目を瞑った。

そのなのはに凶器が振るわれ――

 

 

室内に金属の打撃音が響きわたった。

 

 

(……?)

その音と予想していた痛みが全く訪れないことに目を開く。

その目に映ったのは、ずっと会いたいと思っていた友の後姿。

初めは幻かと思い、呆然と見ていた。

「ごめん、なのは。遅くなった」

自分のすぐ横から声をかけられ、目を向けるとそこにも懐かしい少年の顔があった。

「仲間か…!」

転移魔法で現れた新たな敵からヴィータは飛び退く。

少女は長柄の斧をヴィータに向ける。

Scythe Form

無機質な音声と共に、斧が鎌へと変わる。

「……友達だ」

なのはよりも長い金色のツインテールとマントを翻し、

少女――フェイト・テスタロッサはバルディッシュを構えた。

 

 

 

 

 

 





フェイトも登場して、いよいよ本格的に始まる〜。
美姫 「一体、どうなるのかしらね」
うんうん。騎士たちと共にいる楓斗は同じ学校みたいだし。
美姫 「その辺りも楽しみね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る