『とらいあんぐるハート〜無想剣客浪漫譚』




CU]T 何方ですか?

 さて剣心達が学園祭で苦労している頃、北海道の神居古潭では秋口ということもあってすでに涼しい風が流れていた。
 五月のザカラ事件以降、神居古潭で調査を行っていた神咲北斗は、本日もまた戦闘が行われた場所で得意としている霊視をしていた。と、言っても時間と共に失われる妖力に、神咲一を誇る彼とはいえ、限界が近づいていた。
「参ったな……」
 おそらくこれ以上彼が頑張っても意味はないだろう。
 後はいづみ達に任せるしかないのか。
 それでも新しい那美の後輩になった夕凪の泣き顔を思い出すと、そう他人任せでいたい気分ではない。
 一度頭を振り、澱んできた気持ちを追い払うと再び山肌に手を当てて霊視に入ろうとした。
 その時!
「な、何だ?」
 急激に周辺の空気が変化したのに気付き、北斗は立ち上がった。
 だが特に悪意のある感覚はなく、どちらかといえば人間に好意的なものだ。
 北斗は周囲を見回して該当する原因がない事を確認すると、瞳を閉じて霊気を周囲へと広げる。水面を広がる波紋の如く流れていく霊気は、そのうち山頂へと到達して、北斗は瞳を開いた。そしてそのまま一心不乱に山頂へと足を動かし始めた。
 ここ数ヶ月いづみ達と行動を共にしたせいで得意になりかかっている山登りは数分と行かないうちに終わりを迎えた。

 そこに――美しい女性が居た。

 横髪を胸まで届くくらいに伸ばしているが、基本的に肩口でそろえた髪は日の光を反射し、切れ長の瞳が整った顔立ちと引き締まった唇によく似合う。
 七分袖の白のワンピースに不釣合いなデニム生地の薄いジャンパーを羽織っている。幾ら涼しい北海道とはいえ、まだこの時期は暑いのだが女性は汗一つかいていなかった。
 だが北斗は見とれる事はなく、警戒しながら女性に近づく。 
 彼女との距離が数メートルとなったところで、ようやく女性はたった今気付いた風に視線を降ろした。
「何か用?」
「それはこちらの台詞ですけどね。いくら近くにキャンプ場があるとはいえ、こんな山奥まで何用ですか?」
 女性は切れ長の瞳をすっと細めると、体を北斗の方向へ向けた。
「貴方……GS?」
「まぁGSといえば免許は持っているけど、一応馴染みがあるのは神咲の退魔士だ」
「神咲? ああ、十年前にザカラを封じた」
 それを知っているということはこちらの世界の関係者か?
 疑問を心で呟きながら、注意なく再度女性を見――。
「あまりジロジロ見られるのは趣味じゃないのよ」
 上げた視線は何も捕らえられず、女性は北斗の真後ろに立っていた。
 反射的に振り向こうとした瞬間、首筋に冷たい感触が触れ、動きを止められた。
「一応敵意があるわけではないわ。私は消えた妖気を辿ってきただけ」
「ザカラ……」
「そう。そしてかの大妖を封じていた雪様の妖気が消えた訳も」
「それにしても行動が遅いね。すでに四ヶ月だ」
「こちらにも色々と事情があるの。さて、ここで調査しているのであれば、貴方、関係者ね?」
 頭に嘘を付くべきか一瞬迷いが生まれるが、別に隠さなければならない事でもないため素直に答える事にした。
「ええ。とりあえずここでは何なので、もう少し関係者増やして話しにしないかな?」
「そう、ね。情報が増えるのはありがたいしそれでいいわ」
 ここで首筋から冷たいものが離れた。
 その部位をさすり振り返ると、女性の爪がナイフのように鋭く伸びているのが目に入った。その爪もみるみる縮み、あっという間に普通の長さと呼べる状態に戻った。
「さて、案内よろしく頼むわ」
「ああ。と、その前に名前聞いていいかな? 俺は神咲北斗」
「私は蓉子。城嶋蓉子よ」

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 ところ変わってこちらは海鳴。
 雫の策謀により国内留学となった二人は、風ヶ丘へ転入していた。留学期間は二学期一杯であり、名目上は姉妹校協定を新しく結んだ三校からの生徒視点での視察となっている。が、雫をよく知っている二人には、他の思惑があるようで何処か釈然としないものを感じつつ生活していた。
 九月も二週間過ぎた頃、自分のクラスが展示というあまり手伝いも必要のないものなので、強制的にほのかと一緒に入部させられた剣道部の部室に足を運んだ。
 さすがに学園祭まで二週間を切ると、授業も半日でお昼過ぎからは準備に掛かりきりになる。風ヶ丘は部活動も参加する決まりがあるため、部活をしている生徒は部側の出し物に比重を置く。
 女子剣道はグラウンドで模擬店を行うらしく、ほのかは時間になるや否や教室を飛び出したらしい。あれでリリアン女学院に通っていたのだから、どこが淑女らしいのかとも思わなくはない。
 とりあえずそういう訳で一志は男子剣道の出し物である剣劇の準備に忙しい。
 玄武との戦闘のダメージがまだ完全に消えていないので、今回はお流れになったが一度の実戦経験と神谷活心流師範代の腕前は、剣道部でもあっさりと全員を倒してしまい、全員に剣劇の主役に抜擢されたが、断った経緯がある。そのため主役はやらないがそれなりに裏方を務めなければならないのであった。
 面倒くさそうに校庭を眺めながら昇降口に向かっていると、ふと校庭の隅で可笑しな集団が目についた。
 一人は間違いなく剣心である。そして別の二人は夏に道場に泊まっていった夕凪と忍か。そして後一人は遠目にでも瞳が真っ赤に燃えているのがわかる男子生徒だ。
 一体何をしているのだろう? と道場に向かう前に靴を履き替えてそちらに向かった。
「んあ?」
 そして彼に似合わない不細工な声を溢した。
 逆刃刀を奮い、巨大な斬馬刀と振り回す夕凪が炎を瞳に宿している安藤龍一の指示に従って技を繰り出している。
 繰り出しているのはいいのだが……剣心の技は間違いなく飛天御剣流で、夕凪もまた二重の極みを使っているのは何故なのだろうか?
「いいぞ! いいぞぉぉぉぉぉぉ! その真剣なアクション! あ! 相楽! そこで斬馬刀は振り下ろしだ!」
「くっ!」
 超重武器は大きく薙ぐか振り下ろすしか使えない。
 夕凪は顔を顰めながらも、残馬刀を振り下ろした。それに合わせて剣心は体を回転させて回避した。斬馬刀が地面に沈み、夕凪の脇が露わになる。
「そこだぁ! 回転しての一撃!」
 龍一の指示に、剣心が反射だけで動く。
 龍巻閃を変形させたような半回転で体を動かすと、遠心力を含めた一撃を夕凪にぶつけた。
「そこまでぇぇぇ! OK! グゥレイト! この流れで本番もいくぞ! 後は演技と併せてしっかりとアクションできるか! とりあえず今日はここまでぇ!」
 何で歌舞伎役者のように微妙なびぶら〜どが掛かっているとか、一体どんな材質を使えば、激しい一撃すらも緩和する模擬刀を作れるのか? とか龍一だけじゃなく隣で満足げに頷いている忍にも山のように聞きたい事はあるのだが、龍一ではないがとりあえず今日の指導が終わったという事実に二人はグラウンドにぐったりと横になった。
「……何やってんだ?」
「んあ?」
 そこに頭の上から声が掛かった。
 剣心は無意識に閉じた瞼を開けると、目の前にしゃがみ込んで呆れた表情の一志が居た。
「何って?」
「今のアクション? 指導」
「劇の練習」
「飛天御剣流でか?」
「うん」
 確か相伝だから、あまり他人の目には触れないようにするが普通じゃないのか? と心の中で思い、言葉にするべく口を開いたところで、剣心が微笑んだ。
「悪い。何かさ……これは俺と夕凪がやらなくちゃいけない気がするんだ」
「何かって?」
「それがわからないからやってるんだってば」
「誰かに強要されてんじゃねぇのか? 剣心は普通に流されるところあるし」
 と、ここで急に大人しく倒れていた夕凪が一志の後ろを指差した。
 疑問に思いつつ振り返ろうとして、唐突に首に何かが巻きついた。慌てて声を出そうとするも巻きついた何かは口もふさいでしまい、完全に動くのは混乱した視線だけだ。
「明神一志く〜ん、あたしが誰に何を強要したって〜?」
 思わず彼の顔に縦線が走ったような錯覚と皹が走ったような軽い破砕音の幻聴を聞いた気分を抱えつつ、剣心は一志の首を絞めている人物を見た。
「……美姫さん、あんま苛めないでくださいよ」
「失礼ね。これはスキンシップよ」
「美姫さん、一志君、泡吹いてるけど?」
「軟弱ね」
 感想違う! と常識人二人は思うが龍一と忍は楽しげにさも当然とばかりに頷いている。
「忍ちゃん」
「ん?」
「ちょ〜っと教育的指導したいんだけど、いいアイテムある?」
「もちろん」
 あるんかい! 今度は龍一もさすがに驚いたらしい。
「浩さんにも使える豪華七点セット」
「兄さんに使える?」
「あ、そっちの浩さんじゃなくて裏方の……ってメタ発言はいらないの。んじゃ美姫さんどこで使う?」
「ん〜普通に屋上か体育館裏は?」
「いいね! そのベタベタな場所が!」
「でしょ? さて、それじゃ三人ともちゃんと帰るのよ」
 最後だけ綺麗にまとめている様だが、引きずられていく一志の姿にドナドナを称えたくなった剣心と夕凪だった。

 合掌。




蓉子「ふ。いきなり狐火最高パワーだと夜上さんも炭になるのね」
夕凪「……突然ですねぇ」
蓉子「最初に少し出てきて、その後三話も出番なかったのよ? 扱いが酷いわ」
夕凪「いや、まぁ元々二週間後とか言ってた……いえ何でもないです」
蓉子「賢明ね」
夕凪「とりあえず、今後はこれで蓉子さん出番増えるのかな〜?」
蓉子「どうかしら? 夜上さんだし」
夕凪「そだね。あ、再生してる。真祖並生命力……」
蓉子「とにかく次回もよろしくお願いします」
夕凪「ではでは〜」




……七点セット?
美姫 「真っ先にそこに喰らいつくのね」
そりゃあ、我が身がかかっているしな。
美姫 「にしても、学園祭に向けて活気付いてきたわね〜」
祭りは準備期間も楽しいからな。
美姫 「ワイワイガヤガヤとね」
うんうん。さてさて、学園祭に向けてドンドンお話は進んでいくよ〜。
美姫 「その裏では、何かや動きがありそうね」
どっちも楽しみだ。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



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