『月は踊る、漆黒の闇の中で・・・』




第二幕 「幕開け」



月は雲に隠れ闇が支配する公園に二人の男女が見える。

   さぁーっと風が吹くと長い髪がさらさらと舞い踊る。

   夜の闇に輝く人の創った光に反射して輝いているようにすら見える。

   吸い込まれそうな黒い大きな瞳、恭也は少女を眺める。

「綺麗・・だな。」

   ボソリと自分の言葉では無いかのように呟いた。

「え?」

   少女は微かな声を聞き取り、青年の方に顔を向けるとその目がこちらに向いているのに気づく。

   一方、恭也は少女と目が合うと突然恥ずかしくなり、顔を赤くしてそっぽをむいた。

「いえ、なんでもないです。」

(何考えてるんだ、俺は・・さっきといい。修行が足りん!修行が足りん!)

    ぶっきらぼうにそう告げた青年は心の中でわけのわからない言い訳を繰り返していた。

    少女はそんな青年の姿をみながら赤くなりながらクスクスと笑った。

(この人、、かわいい。)

    漆黒の衣服に紅黒い染みをつけた双剣士。恐怖すら感じるその姿の青年をみて

    彼女はそんな事を思った。

 

    ベンチに座ろうとして青年はまた苦痛に顔を歪める。

「ク・・」

    青年のうめき声に少女は慌てたようにハンカチをポシェットから取り出す。

「ごめんなさい!すぐに手当てを。」

「いや、君が謝る事じゃない・・それに、、何も聞かないんだな・・」

    少女から目をそらし恭也はそう言った。    

「・・・」

    無言。。。そして口を開いた。

「・・・聞いたら答えてくんですか?」

    真面目な顔でそう問う。

「そうですね・・巻き込んでしまって申し訳ないと思いますが、

  あなたの聞きたい事で答えられる事は少ないでしょうね。。」

    自嘲するように笑いながらそう答えた。

「だけど、自己紹介くらいならできますよ?」

    真面目な顔で少女をみながらそう言った。この状況、雰囲気で自己紹介・・

    少女は一瞬呆気に取られた。

    そしてぷっっと吹き出すとクスクスと上品に笑い出した。

「???俺、おかしな事でも言いましたか?」

「ごめんなさい、、フフ、そうですね。初対面ですから自己紹介は当然ですよね?」

    笑いながら彼女はからかうように青年に答えた。

    ひとしきり笑い。気持ちが落ち着くと少女は笑顔で青年の顔を見た。

「では、そうですね。お名前を尋ねてもよろしいですか?」

    見つめられ赤くなる恭也、しどろもどろに答える。

「え、はい。もちろんです。俺は高町恭也といいます。」

「あら?先ほどは不破さんと名乗られていませんでしたか?」

    少女は疑問に思って恭也に聞いた。

(そうか、さっきの会話を聞いていたんだっけ、なら名前を聞かなくても・・)

    ふと疑問におもいながらも答える。

「ああ、それは仕事上の姓みたいな物ですよ。」

「そうなんですか。ええと、、それでは恭也様とお呼びしてよろしいですか?」

「ぶ、様って!?」

    驚きながら恭也は少女に言う

「そんな「様」で呼ばれるような立派な人間ではないので普通でいいですよ。」

「そうですか?これが私の普通なんですが、、気にいられないのでしたら「恭也さん」とお呼びしますね?」

「あ、ええ。それでお願いします。」

(丁寧な口調に雰囲気といい、どこかのお嬢様か?)

     そんな事を考えながら少女の顔をふと見つめてしまう。

     その視線にきづいた少女は恭也にまっすぐみつめられ、顔を真っ赤にする。

「そんなに見つめないで下さい。。」

     赤くなりながら呟く。

「あ、すみません!俺みたいのに見つめられてもいい気はしませんよね・・」

    少女は一瞬恭也が何を言ってるのかわからなかった。

    既に恭也に好感をいだきはじめている少女は慌てて言う。

「あ!いえ、そういう意味ではありません!つまらない顔ですから見たければ見てくださっても!、、」

    少女は慌てていてぽんぽんと言葉を紡ぎ、ふと恭也を見て更に真っ赤になった。

「やっぱりあまり見つめないで下さい。。恥ずかしいです、、」

    真っ赤なままそう言いながらうつむいてしまう。

「そうですか、すみません。」

    と言って恭也は少女から顔をそらし空を見上げる。

(そんな、素直に聞かなくても、、、もう少し見ていてくれても・・って私いったい何を。。)

    少女は自分の考えをごまかすように恭也に言った。

「私!近くのコンビニで何か治療できそうな物買って来ますね!」

「え?あ、すいません。俺みたいな奴のために。。。」

「いえ!どうあれ、私の命の恩人ですから。簡単な傷の手当てくらいさせてください。」

「そ、、そうですか?それではお願いします。」

    半ば少女の勢いに押される形で手当てを了承してしまう恭也。

「はい!では行ってきますね。ちゃんと待ってて下さいね?」

「ええ、ここで待っています。」

    そんなやりとりを交わし少女はタッっとかけていった。

 

    一人になった恭也は今夜の出来事についておもいかえしていた。

(今夜はケチのつきっぱなしだな・・護衛対象、、小笠原グループの会長、、裏ではいい噂は聞かない。

 それにホーンと名乗ったあの男。。御神に何らかの関係があるのか?

 それに最後の言葉も気になる。つぎの舞台か、、また来るだろうな・・リスティも厄介な仕事をもってきてくれる・・)

   考えていてふと気づいた。

「そうだ、リスティに連絡をとらないと・・」

   このままじゃまともにホテルまで帰れない。。血まみれでタクシーに乗るわけにもいかない。

(治療の手配もしてもらわないと・・このままってわけにもいかないしな。)

   自分の肩、膝を見て自嘲気味に笑い。コートから携帯を取り出しボタンを押す。。

   しかし、ウンともスンとも言わない。

(バッテリー切れか?いや。。さっきリスティにかけた時は平気だったはず・・)

   そして思い出した。少女を抱え地面を転げまわった時の事を。

(あの時か・・クソ。。どうする・・って歩いて帰るしかないよな。。)

   携帯をポケットに入れてこの後の事について考えていた。

 

「はぁ、、はぁ・・お待たせして申し訳ありません。」

   濡れたハンカチを手に持ち息を切らせながら少女が戻ってきた。

「いえ、俺は平気ですからそんなに急がなくても・・」

   そう言った恭也にたいしていぶかしげに見つめて一言。

「そんな格好で言われても説得力ありませんよ?」

     ごもっとも・・

 

「それでは肩の傷を少し洗いますので上を脱いでいただけますか?」

   少女は恭也の方をみながら微笑む。

   それを聞いて 恭也は焦る。

「え!?あ、いや・・」

「脱がないと手当てできないんですけど。。」

   そして少女は何かに気づいた様ば顔をする。

「すいません。その傷では一人で脱げませんよね。。手伝いますね。」

   更に追い討ちをかけられ恭也さらに焦った。

「え!?あ、いえ確かにそれもそうなんですけど・・・」

   言い終えぬうちに少女は恭也の近くによりコートに手をかけた。

「脱がしますね。」

   なすがままだった。。

  

   コートを脱がしている途中少女が呟く。

「ん。。このコート、重い・・」

「色々入っていますからね、気をつけてください。。。大丈夫ですか?」

   不安になり少女に問い掛ける

「このくらい、、大丈夫。。です。」

   少し重そうにしながら恭也のコートをベンチにかけた。

   隠し武器をコートにも装備させているためコートの重さは10kgはあるかもしれない。

   続いてシャツを脱がしてもらい、後一枚というところで少女の手が止まった。

「Tシャツは、、どうしようかしら。腕、、あがりませんよね?」

   クっと腕を上げようとすると、肩に激痛がはしり腕は少ししか上がらなかった。

「う、、ぐぅ。。」

「あ、ごめんなさい!無理なさらないで。。」

   痛みに苦悶の表情をあげる恭也に少女は慌てて言った。

「でも、どうしましょう。。このままじゃ。。」

「そうですね、あ、大丈夫ですよ。」

   そう言って恭也はコートから小刀を取り出すとおもむろに自分のTシャツを切り裂いた。

   一瞬のできごとに少女は呆けていた。。

「どうせこんなに汚れていてはもう捨てるしかないですからね。。」

   血で汚れ、切り裂かれたTシャツを体からはがしていく。

   肩の部分は血ではりついていてはがす時に眩暈がするほど激痛がはしった。

   少女はが肩の傷を見るとその表情は凍りついた。肩の肉がえぐれ血は止まらず

   だらだらと青年の腕を紅で汚している。

「大丈夫ですか?」

   蒼白になった少女の表情をみながら恭也は心配そうな表情をしている。

(こんなひどい怪我だったなんて。。)

   それと共に少女は思う。自分がこんな怪我をしたら泣いてのたうちまわってるであろう。

   なのにこの青年、恭也は何度も大丈夫だと自分に微笑みかけ、今は心配すらしてくれている。

「恭也さんは!!なんで、こんな・・」

   言いかけてやめる、底無しに 優しいこの青年の強さを垣間見た少女は何も言えなくなってしまった。

(優しい人、、でも悲しい人・・)

   言いかけた少女の悲しげな表情に恭也は何故悲しそうな顔をしているのか、

   何と言葉をかけていいかわからないでいた。

   

   少女は無言で傷の手当てをするべくコンビニの袋に入ったミネラルウォーターと包帯、

     ガーゼ、消毒薬を取り出した。

   ミネラルウォーターのふたを開け恭也の肩にかけようとして、きづいた。

   体中の治ってはいるが痛々しい無数の傷に。少女はさらに表情を落とす。

「すいません、、汚い体で、こんなもの見て喜ぶ人間はいませ、、「な、、ぇ」」

   恭也がいい終わる前に少女が何かを呟いた。

「え?」

   恭也は聞き取れず疑問の声とともに少女を見る。真面目な顔で言う。

「自己紹介の続き、まだ終わってませんでしたね。」

「・・え?」

   二度目の疑問の声、理解していない様子。

「恭也さんのお名前はお聞きしました。でも、私の名前、聞いていただけないのですか?」

   飛んだ会話の内容を混乱しつつも理解し恭也は言った。

「俺みたいな人間に名前を聞かれて、」

   又も最後まで言い終わらないまま少女に遮られる、

「聞いてくれないんですか?」

   ムスッっとした顔で追い討ちをかける。

   雰囲気がやわらかくなったのを感じた恭也は苦笑しつつも質問した。

「あなたの名前も、、聞かせてくれませんか?」

   雲と雲の切れ目に月にが見え始める。

「はい!私の名前は志摩子。。藤堂志摩子です。」

   月の灯りに照らされた少女は柔らかに微笑んでいた。

   舞台の幕は上がり物語が始まる。漆黒の闇と月の光の出会いと共に。

    




ほうほう。照れる志摩子が可愛いな〜。
美姫 「うんうん。思わず、ぎゅってしたいわね」
異常な状況で出会った二人。果たして、この後どうなるのか。
美姫 「そして、気になるのはあの男が前回残していった言葉…」
一体、何が起ころうとしているのか!?
美姫 「次回も非常に気になってます!」
という訳で、次回を首を長くして待ってます。
美姫 「それでは、また次回〜」
ではでは。



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ