『悪いが話せない』

 

 

恭也くんが、私に言った言葉。

 

私の周りで何かが起こっている。

 

恭也くんも紅薔薇さまも、何かを隠している。

 

思えば、恭也くんは只者ではない。

 

昼に見た腕立てもそうだったし、身のこなしもそうだ。

 

それに、初めて出逢ったときも・・・・・・

 

 

『殺さないで』

 

 

私を襲った人たちが、恭也くんを見てそう言っていた。

 

あれはどういうことなのだろうか・・・・・・。

 

過去に・・・・・・一体何が起こったの?

 

 

 

 

恭也くん・・・・・・

 

 

 

 

月曜日、放課後に館へやってきた乃梨子は、メンバーを見回す。

 

中にいた祐巳、令、志摩子が、乃梨子の行動に首をかしげると

 

「皆さんに、お聞きしたいことがあります」

 

同じく中にいた祥子は、次の乃梨子の言葉が予想できた。

 

そして案の定、そのとおりの言葉で・・・・・・

 

「半年前に何があったか・・・・・・教えてください」

 

乃梨子の質問に、4人は一瞬考えた。

 

だが前もって質問の内容を予想していた祥子が、口を開く。

 

「恭也さんは、半年前にリリアンに交換留学で来たのよ」

 

「それは存じ上げています。私がお聞きしたいのは、その期間に何があったかです」

 

「何があったかって・・・・・・そうだね、あれだけの容姿だし、話題になったよ」

 

乃梨子の言葉に、令が答えた。

 

「それではお聞きしますが、今黒薔薇さまの身に何が起きているのですか?」

 

その言葉に、志摩子と令の表情が微かに変わり・・・・・・

 

「乃梨子ちゃん!?今度は何が・・・・・・」

 

祐巳はそこまで言ったところで、慌てて口を閉じるがもう遅い。

 

「祐巳さま・・・・・・『今度は』ってどういうことですか!?やっぱり半年前に・・・・・・」

 

「乃梨子、やめなさい。祐巳さんが困ってるわ」

 

志摩子がフォローに入るが、それが乃梨子を余計に焚きつけた。

 

「志摩子さん、教えてよ!一体何があったの!?何で誰も教えてくれないの!?」

 

乃梨子は志摩子にすがって聞くが、志摩子は乃梨子の顔を見ることが出来ない。

 

「志摩子さんまで・・・・・・もういいよ!」

 

乃梨子はビスケット扉に向かって走り出し、勢いよくドアを開けて・・・・・・

 

 

 

気配を確認しながら、あくまで自然に・・・・・・

 

土曜日の夜以来、恭也を監視する視線は感じない。

 

恭也の前に現れた妙な気配は、合計2回。

 

しかも、察知したにも関わらず、恭也ですら足取りをまるで掴めなかった。

 

気配を殺すことは、偵察や暗殺を行う上で必須である。

 

だが、気配は完全に消すことは出来ない。せいぜい微弱にするくらいだ。

 

だから一度気づかれてしまえば、再び気配を悟られないようにすることはほぼ不可能だ。

 

しかし、現実に2回・・・・・・気配を悟った後に、文字通り気配が『消えた』。

 

つまり、相手は恭也の数段上のレベルか、特殊な力を持った者か・・・・・・

 

いずれにしても、素人レベルではないことが伺える。

 

下手な動きを見せてしまっては、それこそ全てを巻き込みかねない。

 

 

 

と、恭也はここまで考えたところで、それが表情や行動に出てしまう可能性を考えて、

 

いったんそのことは片隅へ置いておくことにした。

 

リリアンの門をくぐり、いつもの生徒の視線を受けながら、館を目指して歩く。

 

「あ、恭也さん。今来たんですか?」

 

声に振り向くと、由乃と月咲が二人で歩いてきた。

 

「ああ。由乃さんたちもこれから行くのか?」

 

「そうですよ。せっかくですから、一緒に行きましょう。いいよね、月咲」

 

「はい」

 

恭也たちは、3人で会話をしながら歩いた。

 

「恭也さん、一昨日乃梨子ちゃんが泊まりに来たんですよね」

 

「なんで知ってるんだ?」

 

「それがですね・・・・・・」

 

 

 

朝、由乃が登校すると、祐巳が席で百面相をしていたとのことだった。

 

聞いてみると、乃梨子が祥子の家に泊まっていたと。

 

もし知ってたら、自分も一緒に行ったのに・・・・・・と頭を抱えていたようだ。

 

もちろん、百面相していた理由は、恭也と乃梨子の心配もある。

 

乃梨子が恭也を好きなことは、もはや山百合会周知の事実である。

 

だから、何か進展していたら・・・・・・と思って悶々としていたのだ。

 

当然、恭也はそんな状況など知らないので、首を傾げてはいるが。

 

 

 

「まあ、そんな理由で祐巳さんから聞きました。で、どうでした?」

 

その言葉に、恭也の顔が一瞬曇る。

 

「ケンカされたのですか・・・・・・?」

 

月咲が恭也の表情を読み取って、質問した。

 

「あー、・・・・・・まあ、そんなところだ」

 

「乃梨子ちゃんをからかい過ぎたんでしょう」

 

由乃はほっぺを膨らませて言うが、恭也は曖昧に笑う。

 

そんな恭也に首を傾げながらも、3人は館へ到着した。

 

ギシギシと階段を昇っていると、中で大声が聞こえた。

 

「・・・・・・?あの声は乃梨子さん?」

 

月咲の言葉に、恭也たちは階段を早足で昇り、昇りきったところで・・・・・・

 

 

 

乃梨子は勢い良くドアを開けて、外へ出た。

 

すると、ちょうどドアの前にいた恭也の肩にぶつかり、バランスを崩す。

 

だが、乃梨子の勢いは止まらず、そのまま階段へ飛び出した。

 

 

(うそ・・・・・・!)

 

 

乃梨子の身体が、階段へ投げ出される。

 

宙を舞う感覚の中で乃梨子は、どうにもならないことを悟る。

 

せめて頭だけは守ろうと、両腕で頭を抱えた。

 

部屋の中にいたメンバーも、恭也と一緒にいた由乃も思わず目をつぶった。

 

 

 

突然ふわっとした感触が身体を包み、落下する感覚が止まった。

 

恐る恐る目を開けると、恭也くんのアップの顔が視界に飛び込んできた。

 

「乃梨子!」

 

声の方を見ると、志摩子さんが真っ青な顔で階段を駆け下りて来ていた。

 

そして、自分が恭也くんに抱きかかえられていることに気がついて・・・・・・

 

「恭也くん・・・・・・」

 

「大丈夫か?乃梨子・・・・・・」

 

やさしい顔をして、私を見た。

 

私は胸が熱くなって、思わず恭也くんの服を掴んだ。

 

 

 

恭也くん・・・・・・やっぱりすごいね。

 

階段の上にいたはずなのに、いつの間にかこうして、私を抱えている。

 

多分、人には言えないような秘密があるんだと思う。

 

でもね、もう無理に聞くのはやめるよ。

 

 

 

「ごめんね、恭也くん。それと・・・・・・ありがとう」

 

乃梨子は恭也の胸に顔をうずめて、赤い顔をして言った。

 

だから、乃梨子は気がつかなかった。

 

恭也の視線が、月咲に向いていたことを・・・・・・。

 




おお、新たな展開の予感…。
美姫 「一体、何が起こるのかな〜」
ドキドキ。
美姫 「ワクワク〜♪」
これはまた、次回も楽しみだな。
美姫 「そうよね〜。早く次回が見たいわね」
次回も楽しみに待ってます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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