何故、志摩子さんが紅薔薇さまに、お願いしたか分かった。

 

外から確かに想像はついたが・・・・・・広い。広すぎるくらい広い。

 

普通の家には、『空いていて綺麗な部屋』は存在しないだろう。

 

まず空き部屋なんぞない。私の実家も妹と部屋を共用していたくらいだ。

 

仮に空き部屋があるとしても、物置部屋となるか、いいところ書斎になるだろう。

 

だから、来客用の部屋があるというのはすごいと思った。

 

私だけでなく、恭也くんも滞在してるのだし。

 

 

乃梨子は、祥子に案内された部屋に荷物を置いて窓を開けた。

 

同じ町の空気のはずなのだが、おいしく思えてしまう。

 

ふと下を見ると、恭也が庭に出ていた。

 

そして、突然逆立ちを始めたかと思うと・・・・・・

 

「えっ!?」

 

なんと、逆立ちしたまま腕立て伏せを始めた。

 

全くバランスが崩れることもなく、それも軽々と。

 

(そういえば、あの時も・・・・・・)

 

乃梨子は2週間前、初めて恭也と出逢ったのは、不良に絡まれていたときだった。

 

あのとき、彼はいとも簡単に不良を撃退していた。

 

空手か何かの格闘技の心得があるのかもしれない。

 

劇の練習中、竹刀を振るシーンで妙に迫力があった。

 

それから恭也は、懐に手を入れようとして・・・・・・

 

「乃梨子か?どうした?」

 

その手をすっと降ろして、恭也を眺めていた乃梨子に向き直った。

 

「あ、何だかすごいなって思って」

 

「ああ、ちょっとしたトレーニングだ。毎日やっておかないと、身体の調子が悪くてな」

 

あれがちょっとしたもの!?いつもはそれ以上何をしてるのか、と乃梨子は思った。

 

 

 

夕食の時間になり、リビングへ移動した。

 

・・・・・・リビングといっても、もちろん普通の広さではないのだが。

 

「うふふ、乃梨子ちゃん、たくさん食べてね」

 

祥子の母、清子が言った。

 

しかし、本当に祥子そっくりだな、と乃梨子は思う。

 

祥子のような凛とした印象こそ無いものの、穏やかさが上品に表れている。

 

そして、手を頬に当てながら恭也を見て

 

「恭也さんは、本当に理想的な男性ですわ。よく食べて、優しくて逞しくて・・・・・・」

 

「そんなことはありませんよ、清子さん」

 

恭也は少し照れた表情で、目線をそらして答えた。

 

「そうですわね。お母さまの言うとおり、とても立派なお方ですわね」

 

祥子の言葉に、恭也の顔は真っ赤になっている。

 

「祥子さんまで・・・・・・。買いかぶりすぎだ」

 

「そんなこと無いわよね、乃梨子ちゃん」

 

ああ、またこのお方は、絶妙なタイミングで話を振ってくださる。

 

この、なんて答えるか待ちわびているお顔が、とても素敵だと思う。

 

・・・・・・その当事者でさえなければ。

 

そして、本当に自覚の足りない恭也。

 

何故そう見えるのか、本気で考えているようだ。

 

「確かに・・・・・・いい人ですね。鈍感なところと意地悪なところが無ければですけど」

 

「あら、それが無ければ恭也さんでは無いんじゃなくて?」

 

「鈍感って・・・・・・俺は結構、洞察力はあると思うのだが・・・・・・」

 

それが鈍いと言われる所以なのだが、当の恭也は無論気がついていない。

 

乃梨子のついたため息にも。

 

「それに、俺が意地悪するのは、乃梨子が可愛いからだ」

 

「へっ!?」

 

(な、何言い出すのこの人は!?)

 

自分が可愛い、だなんて夢にも思わない乃梨子。

 

しかも、それが恭也に言われたものだから、乃梨子はとても間抜けな声を上げた。

 

もちろん、それを楽しそうに見る人間は二人。

 

「乃梨子は、突っつくと色んな反応を返してくれるから、楽しくてつい・・・・・・な」

 

(ああ、そういうことか・・・・・・)

 

決して自分自身のことが可愛いって言ってるわけじゃなく、ただ人をオモチャにしてるだけなのか。

 

少し安心したような・・・・・・でも、少し・・・・・・ではなく、結構さびしい。

 

「あら?乃梨子ちゃんは、いつから祐巳になったのかしら?」

 

祥子が乃梨子を見て可笑しそうに言った。

 

乃梨子は、祥子の言葉の意味を理解して、頭を抱えた。

 

 

祐巳さまといえば、百面相。

 

つまり私は、思いっきり今の考えが顔に出ていたと言う事なのか・・・・・・

 

 

 

 

それから清子は自室に戻り、現在三人は恭也の部屋にいた。

 

「恭也くん、結構長く滞在してるのに、何でそんなに荷物が少ないの?」

 

乃梨子は、恭也の部屋にあったかばんを見て言う。

 

おおよそ彼の荷物は、そのバッグですべて収まっていた。

 

もちろん予備の武器類は、見つからないように隠してあるのだが・・・・・・

 

「俺は2〜3日の予定だったのだが・・・・・・何故か長期滞在になったんだ」

 

「仕方ありませんわ。本当のことお話したら、来てくださらないと思いましたから」

 

そうだろう。仮に祥子が、学園祭の主役をやるためにこっちに来てくれ、と言ったとしよう。

 

間違いなく恭也は来なかっただろう。容易に想像がついた。

 

「でも、恭也くんが来なかったら・・・・・・私、どうなっていたか」

 

そのことが偶然、乃梨子の危機を救ったのだった。

 

「そうだな・・・・・・。でもあの三人で最後のはずだ。他の連中は・・・・・・」

 

「もしかして恭也さん、乃梨子ちゃんを襲った人って・・・・・・」

 

祥子の顔が真剣な顔になり、恭也を見た。

 

「ああ。あのときの残党だ。だが、警察に捕まっているはずだし、もう安全だろう」

 

その言葉に祥子は、胸をなでおろした。

 

「恭也くん、前に何かあったんで・・・・・・」

 

 

乃梨子がそう尋ねた瞬間だった。

 

 

「!?」

 

恭也が突然立ち上がり、窓を開け放って外を睨みつけた。

 

その移動速度は、祥子や乃梨子には認識できないような早さだった。

 

恭也はそのまま外を睨みつけるが、やがて硬い表情のまま窓を閉めた。

 

「恭也くん、どうしたの?」

 

「いや・・・・・・。すまない祥子さん、ちょっといいか?」

 

それを受けた祥子も、真剣な顔で頷いて、二人は部屋を出た。

 

 

 

どうしたの?

 

何が起こってるの?

 

前に何があったの?

 

恭也くん・・・・・・あなたは一体・・・・・・?

 

 

 

部屋に一人残された乃梨子は、二人が出て行ったドアを、複雑な表情で見ていた。

 

 

 




何やら不穏な空気が…。
美姫 「今までのほのぼのした感じから一変してしまうのかしら」
一体、何が起こっているのか!?
美姫 「非常に気になる終り方」
うーん、次回は一体どうなるのか。
美姫 「これまた続きが非常に気になるわね」
うんうん。次回も楽しみにしてますね。
美姫 「それじゃ〜」



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