これは、昨日の夜、二条家での会話・・・・・・

 

 

 

『え?菫子さん旅行行くの?』

 

『うん。リリアン時代の友人と温泉旅行へね』

 

金曜日の夜、菫子が服をかばんに詰めていたので乃梨子が問いかけたところ、

そのような返答が帰ってきた。

 

『ってわけだからリコ。あんた志摩子さんのところに泊めてもらいなさい』

 

『えっ!?いいよ別に。一人で家にいるから・・・・・・』

 

『ダーメ。ただでさえ最近物騒だし、リコの両親から言われてるのよ』

 

そう言われては仕方が無い。一人の時間を満喫したかったのだが、志摩子の家に行くのも

それはそれで幸せであろう。乃梨子は電話を取り、すでに暗記した番号をプッシュした。

 

5回ほどコール音が鳴ったあと、電話がつながる。

 

『もしもし、私はリリアン女学園一年の二条と申しますが・・・・・・』

 

『乃梨子?』

 

『あ、志摩子さん?ごめんね、遅くに電話して』

 

『いいのよ、電話してくれて嬉しいわ。それでどうしたの?』

 

電話をかける前まで少し難しい顔をしていたのに、志摩子に繋がった途端笑顔になった乃梨子に

菫子はくっく、と笑った。

 

『あのね、実は菫子さんが旅行へ行くの。それで、明日よかったら

志摩子さんの家に泊めてほしいんだけれど・・・・・・』

 

『そうなの・・・・・・でもごめんなさい。明日は檀家の方々が見えるから・・・・・・』

 

志摩子は、本当に申し訳無さそうな声で答える。

 

『そうなんだ・・・・・・。あ、気にしないで志摩子さん。こっちは大丈夫だから』

 

『でも・・・・・・あ、乃梨子。一度電話を切るわね。少し待っててちょうだい』

 

そのまま電話が切れてしまった。

 

菫子は、断られたらしいことは理解できたが、何故か複雑そうな顔をする乃梨子に首をかしげた。

 

『駄目だったかい?それにしちゃ変な顔してるけど』

 

『うーん、断られたんだけど、ちょっと待っててって言われた』

 

それからしばらくして、二条家の電話が鳴る。

 

『もしもし、二条ですが志摩子さん?』

 

『ええ。乃梨子、やっぱり家は駄目だけれど、紅薔薇さまは大丈夫だそうよ』

 

『へっ!?』

 

『明日、紅薔薇さまの家の車が、学校まで迎えに来てくださるそうだから』

 

代替案だとは分かるのだが・・・・・・何故紅薔薇さま?

 

だが、志摩子さんがわざわざお願いしてくれたのだ。

 

『ありがとう、志摩子さん。菫子さんにそれでいいか聞いてみるね』

 

乃梨子は深く考えず、単純に喜ぶことにしたのだ。

 

 

 

 

で、現在乃梨子は祥子の家に行くため、校門の前で祥子といるのだが・・・・・・

 

「ところで、何で恭也くんもここにいるの?」

 

志摩子は、乃梨子をよろしくお願いします、と祥子に告げて帰ってしまった。

 

祐巳は瞳子を連れて先に学校を後にしているので、このことを知らない。

 

それで、今日は乃梨子だけが祥子の家に行くはずなのだが、何故か恭也も一緒にいるのだ。

 

「いいのよ、乃梨子ちゃん」

 

祥子は微笑んで乃梨子に答えた。

 

きっと、途中に恭也の家があり、ついでに乗っていくのだろうか。

 

しばらくして、迎えの車が来たのだが・・・・・・

 

 

人間とは、不公平だと思う。

 

世の中には、本当にこんな人がいるんだな。

 

というか、私がここにいていい存在なのか怪しくなってきた。

 

なんといっても、私は庶民中の庶民だ。

 

私は、迎えに来た車を見て、つくづくそう思った。

 

ってか、リムジンなんて初めて見るよ・・・・・・

 

 

乃梨子は、リムジンから出てきてドアを開けて促す運転手に戸惑う。

 

祥子と恭也は慣れた様子で乗り込み、ドアが閉まる。

 

祥子が本物のお嬢様であることを、深く実感したのだ。

 

車が発進して、乃梨子は気になっていることをたずねた。

 

「そういえば、恭也くんはどこに住んでいるんですか?」

 

「実家は海鳴っていうところにあるんだが・・・・・・知っているか?」

 

「あ、はい。海沿いにある桜の名所の街ですよね?」

 

「ああ。俺はそこに住んでいる。乃梨子の実家は?」

 

「私は千葉ですね。コレといって特徴の無い普通の町です」

 

(ふーん、恭也くんってそこの出身なんだ・・・・・・って、そうじゃなくて・・・・・・)

 

「今はどこに住んでいるんですか?」

 

「乃梨子ちゃん」

 

それまで二人の会話を聞いていた祥子が、会話に加わった。

 

「恭也さんはね、今私と一緒に暮らしているのよ」

 

「はい!?」

 

(ちょっと待てーーーーー!)

 

乃梨子は絶句した。

 

「祥子さん、誤解を招くような言い回しはやめてくれ」

 

祥子はあらかじめこうなることが分かっていたのか、やっぱり、という顔をしている。

 

「乃梨子ちゃん、心配しなくても大丈夫よ。学園祭の期間だけ、滞在してもらっているだけだから」

 

ものすごく楽しそうな顔をして、祥子は乃梨子に言う。

 

「はあ、そうだったんですか・・・・・・って、わ、私は別に心配なんかしていません!」

 

「乃梨子、心配しなくても大丈夫だ。迷惑かけるようなことはしていない・・・・・・と思う」

 

「大丈夫ですよ恭也さん。呼んだのは私なんですから、こちらこそご迷惑を・・・・・・」

 

祥子は、恭也を見て笑っている。

 

「しかし乃梨子は、祥子さんのことが好きなんだな」

 

「え?」

 

「今なんか随分と、祥子さんのこと心配してただろ?」

 

「・・・・・・」

 

 

(あー、やばい・・・・・・この人をグーで殴りたい)

 

 

「乃梨子ちゃん・・・・・・私のこと、もしかしてお嫌い?」

 

恭也の質問に答えない乃梨子を見て、祥子は少し悲しそうな顔をする。

 

「いえ、滅相もない!紅薔薇さまをお嫌いなはずが・・・・・・」

 

だが、乃梨子は途中で言葉をやめた。

 

乃梨子が慌てた途端、祥子の表情がぱっと変わったからだ。

 

そう、それこそ、世間一般の父が言う『風呂あがりの一杯』の直後の顔のような・・・・・・

 

優雅で・・・・・・そして爽やかなお顔をされていた。

 

(志摩子さん、助けて・・・・・・)

 

この二人と一日過ごすと思うと、乃梨子は頭痛がしてきたのだった。

 

 

 

そして、着いてみるとそこは別世界だった。

 

漫画の世界にしか出てこないような豪邸。

 

もうここまで差があると、もはや妬む気にすらならない。

 

「どうした乃梨子、置いてくぞ?」

 

絶対分かってて言ってるよね、恭也くん。

 

だって、明らかに顔が笑ってるもん。

 

だけど、置いていかれると本当に迷ってしまいそうなくらい広い。

 

だから私は、恭也くんの袖をしっかりと掴んで、置いていかれないようにした。




いやー、楽しくなりそうな予感。
美姫 「最後に袖を掴む乃梨子がいいわね」
うんうん。
さて、小笠原邸で恭也と祥子の二人に囲まれる乃梨子。
美姫 「一体、どうなるのかしらね」
次回も非常に楽しみです!
美姫 「次回もお待ちしてます〜」
ではでは。



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