休憩時間を終え、再び稽古が再開された。

 

手芸部が来ていることもあり、出来上がった衣装に袖を通して稽古をすることになった。

 

演技のとき、着ている人間、及び観客の目から見て違和感が無いかを確かめるためだ。

 

衣装は当然、その『元になったキャラクター』にあわせて作ってある。

 

なので当然・・・・・・

 

「恭也くん、なんだか着替える必要無いんじゃ・・・・・・」

 

乃梨子は、着替えても真っ黒な服に苦笑した。

 

「乃梨子、これには深い理由があるんだ」

 

恭也の目は、少し遠くを見るかのようだった。

 

「案外、このキャラクターって恭也くんがモデルだったりして」

 

乃梨子の言葉に、祥子以下事情を知るものが含みのある目で恭也を見た。

 

乃梨子はそんなみんなの反応に、少し目を丸くした。

 

恭也はそんな視線をごまかすように、乃梨子の頭をくしゃっとした。

 

「わっ」

 

恭也の行動に、乱れた髪の毛に手をやりながら非難の目を向ける。

 

「ふむ。よし、稽古を再開しようか」

 

「恭也くん!」

 

「乃梨子、はやくいらっしゃい」

 

恭也が舞台にあがり、先に壇上にいた志摩子が笑いながら乃梨子を呼ぶ。

 

「うー、志摩子さんまで・・・・・・」

 

乃梨子は拗ねた顔をして、恭也に続き壇上にあがった。

 

 

 

 

「よう、中町。遊びに来たぜ」

 

竹刀を背中に引っさげて、青山夕一は中町家にやってきた。

 

「その格好でここまで来るのはどうかと思うが。まあいい、ということは、やるんだろ?」

 

「ああ、そのつもりで来た」

 

楽しそうに、背中に下げた竹刀を手に取る。

 

純也もやれやれ、とは言いながらも満更でもないようだ。

 

二人は道場へ向かい、互いに竹刀を手にとって相対する。

 

「それじゃあ・・・・・・行くぜっ!」

 

夕一は、ダッシュ一番とばかりに突進する。

 

そして、力いっぱい竹刀を振るうが、純也はそれをしっかりと受け止めた。

 

 

『カット!』

 

 

舞台下から、令の声が響く。

 

「う〜ん、祐麒君。もうちょっと迫力出ないかな?もっとこう・・・・・・獲物を狙う鷹のような目っていうの?」

 

令は、モデルとなった赤星を知っているので、そこのところは容赦が無い。

 

何せ、令が結局一本も取れなかった相手であり・・・・・・そして想い人だ。

 

「そうだな・・・・・・祐麒、俺のことは気にしないでいいから本気で打ってきてくれ」

 

「いや、それは心配してないんですけど・・・・・・難しいですね」

 

祐麒は頭をかいた。赤星の境地にたどり着くのは容易ではない。

 

それがたとえ、演技の中だとしても。

 

舞台下から、令の手を打つ声が聞こえた。

 

「よし、どんどん行くよ!」

 

 

 

「いてて・・・・・・やっぱり勝てないか」

 

「俺もひとつの流派を担う人間だ。だが、青山もさすがだな」

 

「はは、お前にそういってもらえれば本望だ」

 

「あ、夕一さん。あまり動かないでください・・・・・・」

 

結局夕一は純也に敵わず、いくつかのアザを作ってしまった。

 

竹刀で打たれたとき、たいしたことは無いが、少し傷になってしまった。

 

それを見た亜紀は、救急箱を持って走ってきて現在治療中というわけである。

 

「師範も、もう少し気をつけて戦ってください。顔に傷なんて出来たら・・・・・・」

 

「すまないが、手を抜いて戦えるような相手じゃ無いからな」

 

「いいんだ、俺だってそのくらい覚悟して挑んでるから。心配してくれてありがとうな」

 

夕一は、亜紀の頭を撫でた。亜紀はそれに目を細めて照れている。

 

 

 

『ふふ、いい感じになってきてるわね』

 

『あー、祥子もそう思う?』

 

『ええ。少し前だったら、あの手を撥ね付けていたわね』

 

『台詞合わせの時点で、まるで心が篭ってなかったのに・・・・・・分からないもんだね』

 

舞台下で演技を見ていた紅・黄薔薇さまは、ほほえましいその光景を、暖かく見ていた。

 

 

 

「お嬢様、お茶の用意ができました」

 

月島邸のメイド、サクヤ・長瀬・ハインリッヒは主の月島詩子の名を呼んだ。

 

「あ、ごくろうさまサクヤ。源四郎、外のフウガとライガも呼んできて〜!」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

源四郎は、表のフウガとライガを呼びに行った。

 

彼らは普段、家の外を守る言うなら門番である。

 

月島家は、世界有数の名家なので、警備は欠かせないのだ。

 

「ご好意、ありがたく存じ上げます。お嬢様」

 

「いいのいいの。あなたたちがいるから、こうして私がいられるのよ。だからフウガ、遠慮しないで」

 

「お姉さま、そちらはライガです・・・・・・」

 

 

 

「あー、また間違えた・・・・・・」

 

由乃が、また二人を呼び間違えてしまったため、演技が中断した。

 

「月咲、教えてよ。何で見分けられるのよ〜」

 

由乃は間違いをしっかりと指摘した月咲に、前にも聞いたのだがもう一度聞いた。

 

「何でと言われましても・・・・・・。本当に、言葉では言えないようなことなので・・・・・・」

 

月咲は困り顔で由乃を見る。

 

高田も同じく困っていた。同じ校舎で学ぶ彼にさえ、二人の区別がつかないのだ。

 

「ねえ、フウガとライガっていう名前なんだし、二人の衣装を少し変えたらどうかな?」

 

困り果てる二人に、舞台下の令が助け舟を出した。

 

それを聞いた手芸部の1年生は、「新しく作るのは時間的に・・・・・・」と、少し困った顔をした。

 

「いや、新しく作り直す必要はないよ。風と雷をイメージしたワンポイントの刺繍ならどう?」

 

それなら、と手芸部は頷いた。

 

「よし、それじゃフウガは風の刺繍。ライガは雷の刺繍でお願いね」

 

「かしこまりました。ですが・・・・・・」

 

手芸部のメンバーは、壇上にいる薬師寺兄弟に目を向けて

 

「どちらが昌光さまで、どちらが朋光さまでしょうか・・・・・・」

 

それを受けて令

 

「えっと・・・・・・月咲ちゃん、どっち?」

 

「こちらが昌光さまで、そちらが朋光さまです」

 

 

 

学園祭まであと1週間ちょっと。

 

本当に大丈夫なのだろうか、祥子はため息をはいた。

 

 

 

 

 




薬師寺兄弟を見分ける事が出来るのは、月咲だけか〜。
美姫 「まあ、仕方がないといえば仕方がないけどね」
まあな。
それにしても、いよいよ学園祭に向けて動き始めたな〜。
美姫 「うんうん。一体、どうなるのかしらね」
次回も非常に楽しみにしてます。
美姫 「それでは、また次回を待ってます」
ではでは。



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